(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数の円すいころと、前記複数の円すいころを円周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、大径側円環部と、前記大径側円環部と同軸に配置される小径側円環部と、前記大径側円環部と前記小径側円環部とを軸方向に連結し、円周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部と、円周方向に互いに隣り合う前記柱部間に形成され、前記円すいころを転動可能に保持するポケットと、を有し、
前記内輪は、前記内輪の大径側端部に設けられる大鍔部と、前記内輪の小径側端部に設けられる小鍔部と、を有し、
前記小鍔部の外径が前記円すいころの内接円径より大きくなるように設定され、前記円すいころが前記ポケットに保持される円すいころ軸受の組立方法であって、
前記保持器の前記ポケットに前記円すいころが仮入れされた状態で、前記内輪が前記保持器に対して前記内輪の前記小鍔部側から組み付けられ、
前記組み付け時において、前記内輪に円環状の治具が装着され、
前記治具の外径面はテーパー形状を有し、
前記治具の小外径が、前記円すいころの内接円径より小さく設定され、
前記治具の大外径が、前記小鍔部の端面外径以上に設定され、
前記治具を前記小鍔部の軸方向端面に装着して前記組み付けを行う工程を含む円すいころ軸受の組立方法。
前記治具の外径面のテーパー形状の角度が、前記ポケットに保持された状態の前記円すいころの内径側の角度より小さく設定される請求項1に記載の円すいころ軸受の組立方法。
【背景技術】
【0002】
円すいころ軸受は、コンパクトで、大きなラジアル荷重及びアキシャル荷重を支持することができ、その上、高速回転から低速回転までのさまざまな条件下で使用することができるため、鉄道車両、鉄鋼機械、工作機械、建設機械、印刷機等の一般産業機械や、自動車のトランスミッション等の回転支持部として、幅広く使用される。
【0003】
円すいころ軸受は、内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数の円すいころと、円すいころを円周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備える。
【0004】
そして、従来、円すいころ軸受の保持器は、鋼製のものが用いられてきた。この鋼製保持器は、その軸方向端部を加締めて、内輪の小径側端部の小鍔部と鋼製保持器とにより円すいころを保持するように組み立てる。この鋼製保持器の組立方法は、まず、保持器のポケットのそれぞれに円すいころを仮入れし、この状態で内輪を組み付ける。そして、内輪、保持器、及び円すいころを一体(以下、「内輪ユニット」ともいう)として取り扱い、この内輪ユニットに対し保持器加締め治具を押し込む。この内輪ユニットにおいて、保持器加締め治具を、内輪、保持器及び円すいころが分離しないように任意のポケット隙間になるまで加締める。所謂、鋼製保持器では、加締め方式が採用され、保持器加締め治具の押し込む量で鋼製保持器の加締め量を調整している。
【0005】
しかしながら、鋼製保持器は、金属の平板を幾度も塑性変形させて製作され、また加締め時にも塑性変形されるので、寸法精度が落ちる可能性がある。また、組立工程では、内輪、保持器、及び円すいころの内輪ユニットが分離しないように取り扱う必要がある。このため、加工工程が多くなってしまい、更には保持器の重量があるため、作業性が悪かった。また、材料が金属であるため、材料費がかかり経済性が悪かった。
【0006】
そこで、樹脂製保持器を備える円すいころ軸受が多く採用されるようになってきた。この樹脂製保持器を備える円すいころ軸受は、自動車のトランスミッション装置やディファレンシャル装置、産業機械や鉄道車両に用いられ、金属製よりも軽量であり、また経済性にも優れている。特に、樹脂製保持器は、自動車向けの転がり軸受の保持器として多く採用されている。
【0007】
次に、
図18を参照しながら、樹脂製保持器を備える円すいころ軸受の内輪ユニットの組立方法について説明する。
この樹脂製保持器を用いる内輪ユニットの組立方法では、予め、樹脂製樹脂製は、組立時の弾性変形を考慮して任意のポケット隙間が残るように射出成型される。このため、一般的な鋼製保持器のように内輪ユニットが分離し易い状態での加締め方式とは異なり、樹脂製保持器を用いる円すいころ軸受の組立工程では、
図18に示すように、樹脂製保持器64の不図示のポケットに円すいころ63をそれぞれ仮入れした後、この状態で内輪62を内輪62の小鍔部62c側から軸方向に沿って圧入していき、円すいころ63がポケットを一時的に押し広げ、これにより円すいころ63がポケットに収納される。即ち、円すいころ63は、樹脂製保持器64の弾性変形によりポケットに収納される。所謂、樹脂製保持器64では、圧入方式が採用される。
【0008】
ここで、この圧入方式の課題としては、円すいころ軸受の内輪ユニットの組立後の搬送時や外輪との組み合わせ時、輸送時や軸に組み込む場合等において、外輪がまだ組み付けられてない、樹脂製保持器64及び円すいころ63が一体的に組み付けられた状態の内輪62である内輪ユニット60Aが分離しないように取り扱う必要がある。内輪ユニット60Aの小鍔部62c側を下方にして取り付ける際、円すいころ63及び樹脂製保持器64が内輪62から分離しないようにするため、内輪62の小鍔部62cの外径D1を円すいころ63の内接円径D2よりも大きく設定し、適切な締め代とする必要がある。なお、「締め代」とは、内輪62の小鍔部62cの外径D1と円すいころ63の内接円径D2との差のことである。
【0009】
適切な締め代とするためには、樹脂製保持器64の樹脂材の温度や湿度による寸法変化を充分に考慮する必要がある。その理由は、例えば、材料PA66,PA46,PPS等の樹脂材は鉄鋼より線膨張係数が大きいため、使用時の温度が高いと、内輪62の小鍔部62cの外径D1の膨張量より円すいころ63の内接円径D2の膨張量が大きくなってしまい、室温で設定した締め代は減少するからである。また、使用時の湿度が高い場合には、樹脂製保持器64が水分を吸収してしまい、樹脂製保持器64のみが膨張してしまい、締め代が減少してしまうこともある。
【0010】
そして、内輪62、円すいころ63、及び樹脂製保持器64を組み立てる際の締め代を、所定の大きさ以上にしないと、内輪ユニット60Aを軸に取り付ける場合等、内輪62から円すいころ63及び樹脂製保持器64が分離する可能性がある。一方、その締め代を過大にすると、円すいころ63が仮入れされた樹脂製保持器64に内輪62を圧入する際、内輪62の小鍔部62cが円すいころ63の転動面63aに接触して、転動面63aに傷がつき、軸受寿命が低下する可能性がある。
【0011】
また、本願発明者らの鋭意検討の結果、軸受の構成部品の各寸法は公差を持ち、且つ樹脂製保持器64の温度や湿度に対する膨張率が鉄鋼より大きいことから、内輪ユニット60Aを軸に組み付ける場合に内輪ユニット60Aが分離しないように締め代を設定すると、内輪ユニット60Aの組立時に円すいころ63の転動面63aに必ず傷がつくことがわかった。特に、円すいころ63の外径(最大外径と最小外径との平均径)が樹脂製保持器64の外径(最大外径と最小外径の平均径)に対して小さい場合に、傷の程度が大きくなることがわかった。
【0012】
また、内輪62、円すいころ63、及び樹脂製保持器64を組み立てるときの組立性を改善する技術として、小鍔部62cの外径面62dの角度α2を内輪軌道面62aの角度より大きく設定する円すいころ軸受が知られる(例えば、特許文献1参照)。そして、角度α2の設定により、組立時に円すいころ63が小鍔部62cを乗り越えて内輪軌道面62aに嵌る際に、円すいころ63の姿勢が変わり、樹脂製保持器64に作用する応力が低減される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る円すいころ軸受の組立方法及び円すいころ軸受の各実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
(第1実施形態)
まず、
図1〜
図11を参照して、本発明に係る円すいころ軸受の組立方法及び円すいころ軸受の第1実施形態について説明する。
【0021】
本実施形態の円すいころ軸受10は、
図1に示すように、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動可能に設けられる複数の円すいころ13と、複数の円すいころ13を円周方向に略等間隔に保持する合成樹脂製の保持器14と、を備える。
【0022】
内輪12は、内輪12の大径側端部に設けられる大鍔部12bと、内輪12の小径側端部に設けられる小鍔部12cと、を有する。本実施形態では、小鍔部12cの外径面12dは、ストレート形状に形成される。
【0023】
円すいころ13は、転動面13aと、転動面13aの軸方向両縁部に設けられる面取部13bと、を有する。
【0024】
保持器14は、合成樹脂の射出成形で形成されており、大径側円環部14aと、大径側円環部14aと同軸配置される小径側円環部14bと、大径側円環部14aと小径側円環部14bとを軸方向で連結し、円周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部14cと、円周方向に互いに隣り合う柱部14c間に形成され、円すいころ13を転動可能に保持するポケット14dと、を備える。
【0025】
また、円すいころ13は、
図2に示すように、内輪12の小鍔部12cの外径D1が円すいころ13の内接円径D2より大きくなるように、ポケット14dに保持されている。なお、小鍔部12cの外径D1とは、小鍔部12cの外径面12dの直径寸法を指し、円すいころ13の内接円径D2とは、組み付け状態の各円すいころ13のうち径方向で最も内側に位置するエッジポイントの群で描かれる円の直径寸法を指す。また、本実施形態では、内輪12の小鍔部12cがストレート形状であるので、小鍔部12cの端面外径D5は、小鍔部12cの外径D1と同一である。
【0026】
また、本実施形態では、円すいころ13の平均外径をA、保持器14の平均外径をBとして、B/Aが5以上に設定されている。なお、円すいころ13の平均外径Aとは、円すいころ13の最大外径と最小外径の平均径を指し、保持器14の平均外径とは、保持器14の最大外径と最小外径の平均径を指す。
【0027】
次に、
図2を参照して、内輪ユニット10Aの組立工程について説明する。なお、内輪ユニット10Aとは、外輪11がまだ組み付けられておらず、内輪12に複数の円すいころ13及び保持器14が組み付けられた状態のことである。
【0028】
本実施形態の組立工程では、治具20が使用されており、この治具20は、円環状に形成されており、治具20の軸方向端面に設けられる環状段部20bと、軸方向外方に行くに従い(環状段部20bから軸方向で離れるに従い)縮径するテーパー形状の外径面20aと、を有する。
【0029】
そして、本実施形態では、治具20の外径面20aの角度(軸受10の中心軸に対する角度)α1は、ポケット14dに保持された状態の円すいころ13の内径側の角度βより小さく設定されている。また、治具20の小外径D3は、円すいころ13の内接円径D2より小さく設定され、治具20の大外径D4は、小鍔部12cの端面外径D5(=D1)と同一に設定されている。なお、治具20の大外径D4は、小鍔部12cの端面外径D5以上に設定されていてもよい。
【0030】
内輪ユニット10Aの組立工程では、円すいころ13がポケット14dに仮入れされた状態の保持器14に内輪12を組み付ける前に、内輪12の小鍔部12cの軸方向端面に治具20の環状段部20bを嵌合させて装着する。そして、内輪12に治具20を装着した状態で、内輪12を、内輪12の小鍔部12c側から軸方向に沿って圧入していき、円すいころ13の面取部13bが内輪12の小鍔部12cを乗り越えるまで圧入し続ける。このとき、円すいころ13がポケット14dを一時的に押し広げて、円すいころ13がポケット14dに収納され、内輪ユニット10Aが組み立てられる。
【0031】
ここで、治具20が装着された内輪12を圧入していく過程において、円すいころ13の面取部13bは、
図3に示すように、治具20のテーパー形状の外径面20aに接触しながら治具20を乗り越え、その後、小鍔部12cのストレート形状の外径面12dに接触する。このため、円すいころ13が内輪12の小鍔部12cを乗り越えようとするとき、円すいころ13の転動面13aは小鍔部12cに接触することはない。
【0032】
なお、通常の組み立てでは、内輪12の中心軸を保持器14の中心軸に合わせた状態で、内輪12を保持器14の大径側円環部14a側から圧入するが、例えば、
図4に示すように、内輪12が保持器14に対して傾き角度Xで取り付けられる場合は、[治具20の外径面20aの角度α1<(円すいころ13の内径側の角度β−傾き角度X)]とすれば、円すいころ13の転動面13aを傷つけることなく、内輪ユニット10Aを組み立てることができる。
【0033】
また、
図5に示すように、保持器14の片側が完全に組み込まれた状態で組み立てる場合(内輪12が保持器14に対して傾き角度Yで取り付けられる場合)は、[治具20の外径面20aの角度α1<(円すいころ13の内径側の角度β+傾き角度Y)]とすれば、円すいころ13の転動面13aを傷つけることなく、内輪ユニット10Aを組み立てることができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の円すいころ軸受の組立方法によれば、内輪ユニット10Aの組み立て時において、内輪12の小鍔部12cの軸方向端面に円環状の治具20が装着され、治具20の外径面20aはテーパー形状であり、治具20の外径面20aの角度α1が、ポケット14dに保持された状態の円すいころ13の内径側の角度βより小さく設定され、治具20の小外径D3が、円すいころ13の内接円径D2より小さく設定され、治具20の大外径D4が、内輪12の小鍔部12cの端面外径D5以上に設定されるため、円すいころ13が内輪12の小鍔部12cを乗り越える際、円すいころ13の小径側端部の面取部13bが小鍔部12cの外径面12dに接触して、円すいころ13の転動面13aに小鍔部12cは接触しない。これにより、円すいころ13の転動面13aに傷がつくのを防止することができる。従って、小鍔部12cの外径面12dがストレート形状であっても、円すいころ13の転動面13aを傷つけることなく、内輪ユニット10Aを組み立てることができる。さらに、円すいころ13の転動面13aの傷つき防止のために、小鍔部12cの外径面12dの形状(例えば、傾斜角度など)や寸法の管理を厳密に行う必要がない。
【0035】
また、
図6に示すように、内輪12の小鍔部12cの形状を、治具形状と同様にすることにより上記実施形態と同様の効果を得ることが可能である。即ち、小鍔部12cの外径面12dを、内輪軌道面側に大きく、内輪端面側に小さくしたテーパー形状とし、小鍔部12cの内輪軌道面側の外径D1を円すいころ13の内接円径D2より大きく、小鍔部12cの内輪端面側の外径D5を円すいころ13の内接円径D2より小さく、且つ、小鍔部12cの外径面12dのテーパー角度α2を、ポケット14dに保持された状態の円すいころ13の内径側の角度βより小さく設定することで、内輪ユニット10Aの組立時における円すいころ13の転動面13aの傷つきを、治具を使用することなく防止することができる。但し、上記条件を満たすためには、小鍔部12cの軸方向幅Lが、(小鍔部12cの外径D1−円すいころ13の内接円径D2)×0.5/tan(小鍔部12cの外径面12dの角度α2)より大きく設定されている必要がある。上記小鍔部12cの軸方向幅Lの設定を満たした場合、内輪12の軸方向幅が大きくなる可能性があり、それに伴い、円すいころ軸受10の軸方向幅が増大する可能性がある。円すいころ軸受10の軸方向幅の増大を抑えるためには、例えば、
図7に示すように、小鍔部12cの軸方向幅Lの増大分、円すいころ13の軸方向長さを短くすることが考えられるが、その場合は、円すいころ軸受10の定格荷重が低下する可能性がある。従って、寸法増大又は定格荷重の低下を嫌う場合は、治具を用いた方が好ましい。
【0036】
次に、本実施形態でB(保持器の平均外径)/A(円すいころの平均外径)を5以上に設定することの技術的意義について説明する。
【0037】
図8及び
図10に示すように、外輪軌道面11aの内径がそれぞれ等しい、2つの円すいころ軸受10において、樹脂製の保持器14は、線形膨張率が鉄鋼よりも大きいため、使用上限温度(一般的には120℃とされる)では、保持器14は室温時に比べ外輪軌道面11a側に寄る傾向がある。ここで、保持器14が外輪軌道面11a側に寄ると軸受性能の低下を招く可能性があるため、
図9及び
図11に示すように、保持器14の外径D7は外輪軌道面11aの内径D6より所定値Sを引いた値に設定される。つまり、保持器14の外径D7は、円すいころ13の外径D8に関わらず(外輪11の内径D6−S)以下にする必要があるが、一般的には、保持器14の外径D7は、円すいころ13の個数をできるだけ増やしたいので、最大径である(外輪11の内径D6−S)に設定されることが多い。なぜなら、円すいころ13の個数を増やすと、円すいころ13間が接近して、柱部14cが細くなり、保持器14の剛性が低下するので、保持器14の外径D7を極力大きくして柱部14cを肉厚にしておきたいためである。
【0038】
そして、保持器14の外径D7に対して円すいころ13の外径D8が小さい場合(
図9参照)は、円すいころ13の外径D8が大きい場合(
図11参照)に比べて、保持器14のポケット14dの開口角度Zは小さくなるが、ポケット14dの周方向の移動量は一定に設定されるので、円すいころ13の径方向の移動量は大きくなる。即ち、円すいころ13の内接円径D2の公差が大きくなる。従って、円すいころ13が分離しないようにするためには、円すいころ13の内接円径D2が最大になる場合にも、小鍔部12cとの締め代を確保する必要がある。このため、保持器14の外径D7に対して円すいころ13の外径D8が小さい場合は、円すいころ13の外径D8が大きい場合に比べて、最大の締め代が大きくなる。即ち、内輪ユニット10Aを組み立てる際に、円すいころ13の転動面13aが傷つきやすくなる。
【0039】
さらに、円すいころ13の外径D8が小さい場合は、円すいころ13の外径D8が大きい場合に比べて、保持器14の肉厚が薄くなり剛性が低いので、内輪ユニット10Aが軸に組み付けられる際に、保持器14は楕円状になり易い。そのため、この状態で組み付けを行うと、一部の円すいころ13が内輪12の小鍔部12cを乗り越えてしまい、これが引き金となって、最終的に全ての円すいころ13が小鍔部12cを乗り越えてしまう雪崩現象が起こり、円すいころ13が脱落してしまう。これを防止するためには、締め代を更に大きくする必要があるが、内輪ユニット10Aを組み立てる際には、円すいころ13の転動面13aに傷がつくという問題が顕著になる。
【0040】
以上のように、円すいころ13の転動面13aに傷がつくメカニズムについて本願発明者が鋭意検討を行った結果、B/Aが5以上となる場合、内輪ユニット10Aが分解しないように締め代を設定すると、円すいころ13の転動面13aに傷がついてしまうことがわかった。また、内輪ユニット10Aを治工具なしで組み立てる組み立て試験を行った結果、B/Aが5以上の時は、必ず円すいころ13の転動面13aに傷がつくことがわかった。
【0041】
(第2実施形態)
次に、
図12を参照して、本発明に係る円すいころ軸受の組立方法及び円すいころ軸受の第2実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一或いは同等符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0042】
本実施形態の治具30は、
図12に示すように、円環状に形成され、治具30の軸方向端面に設けられ、内輪12の小鍔部12cが嵌合する周溝30bと、この周溝30b側がストレート形状とされ、中間から軸方向外方に行くに従い縮径するテーパー形状となる外径面30aと、を有する。また、本実施形態では、治具30の大外径D4は、内輪12の小鍔部12cの端面外径D5以上に設定されている。従って、本実施形態では、内輪12の小鍔部12cは、治具30により覆われており、組み付け時においては、外部に露出することはない。なお、
図12では、小鍔部12cの外径面12dはストレート形状であるが、テーパー形状であっても同様の治具が使用可能であり、同様の効果が得られる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の円すいころ軸受の組立方法によれば、組み付け時において、内輪12の小鍔部12cが治具30により覆われ、外部に露出されないため、内輪ユニット10Aの組み立ての際、円すいころ13の小径側端部の面取部13bが治具30の外周面に接触して、円すいころ13の転動面13aに小鍔部12cは接触しない。これにより、円すいころ13の転動面13aに傷がつくのを防止することができる。
【0044】
ところで、上記第1実施形態では、内輪ユニット10Aを組み立てる際の円すいころ13の面取部13bの摩耗を抑えるために、面取部13bより治具20及び小鍔部12cの硬さを低くして、円すいころ13ではなく、治具20及び小鍔部12cが摩耗するようにした方がより好ましい。例えば、治具20の材質を樹脂、ゴム、銅、真鍮などの円すいころ13より軟らかい材質にすることで、面取部13bの摩耗を抑えることができる。他の摩耗対策としては、治具20及び小鍔部12cの表面粗さを小さくして、油などの潤滑剤を塗布することで摩擦抵抗を下げることも効果的である。
【0045】
しかし、本実施形態のように、内輪12の小鍔部12cが治具30により覆われる場合は、適宜交換可能な治具30のみに上記摩耗対策を行えばよいので、作業工数が少なくなり、円すいころ軸受10の製造コストを削減することができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【0046】
(第3実施形態)
次に、
図13及び
図14を参照して、本発明に係る円すいころ軸受の組立方法及び円すいころ軸受の第3実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一或いは同等符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0047】
本実施形態では、
図13に示すように、内輪12の小鍔部12cの外径面12dが、軸方向外方に行くに従い縮径するテーパー形状に形成され、小鍔部12cの外径面12dの角度α2が、ポケット14dに保持された状態の円すいころ13の内径側の角度βより小さく設定されている。また、本実施形態では、小鍔部12cの軸方向幅Lは、(小鍔部12cの外径D1−円すいころ13の内接円径D2)×0.5/tan(小鍔部12cの外径面12dの角度α2)以下に設定されている。また、本実施形態では、治具20の大外径D4は、内輪12の小鍔部12cの端面外径D5以上に設定されている。
【0048】
そして、本実施形態では、治具20が装着された内輪12を圧入していく過程において、円すいころ13の面取部13bは、治具20のテーパー形状の外径面20aに接触しながら治具20を乗り越え、その後、
図14に示すように、小鍔部12cのテーパー形状の外径面12dに接触する。このため、円すいころ13が内輪12の小鍔部12cを乗り越えようとするとき、円すいころ13の転動面13aは小鍔部12cに接触することはない。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【0049】
なお、本発明は上記各実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0050】
例えば、治具20は、
図15(a)に示すように、環状段部20bが設けられていなくてよい(第1変形例)。また、
図15(b)に示すように、環状段部20b及び肉抜き部が設けられていなくてもよい(第2変形例)。また、
図15(c)に示すように、環状段部20bが設けられていないと共に、テーパー形状の外径面20aの大径側端部にストレート部20cが設けられていてもよい(第3変形例)。また、
図15(d)に示すように、環状段部20bが設けられていないと共に、テーパー形状の外径面20aの小径側端部にストレート部20cが設けられていてもよい(第4変形例)。なお、上記各変形例は、第2実施形態の治具30にも適用可能である。
【0051】
また、治具の小径側端部が円すいころの転動面に誤って接触して、円すいころの転動面が傷つくのを防止するため、
図16に示すように、治具20の小径側端部の外縁部に、樹脂などの柔らかい材質からなる円環部材21Aを取り付けるようにしてもよい(第5変形例)。また、
図17(a)に示すように、治具20の小径側端部の端面に、樹脂などの柔らかい材質からなる円環部材21Bを取り付けるようにしてもよい(第6変形例)。また、
図17(b)に示すように、治具20の小径側端部の端面に、樹脂などの柔らかい材質からなる円板部材21Cを取り付けるようにしてもよい(第7変形例)。なお、上記各変形例は、第2実施形態の治具30にも適用可能である。
【実施例】
【0052】
次に、表1及び表2を参照して、本発明に係る円すいころ軸受の実施例について説明する。本実施例では、
図1に示す円すいころ軸受(10)を表1に示す諸元で製作すると共に、
図2に示す治具(20)を表2に示す諸元で製作した。そして、治具(20)を使用する場合としない場合とで、円すいころ(13)の転動面(13a)に傷がつくか否かを確認した。試験は、温度20℃、湿度60%の実験室で行った。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
そして、治具(20)を使用せずに内輪ユニット(10A)を組み立てた場合、円すいころ(13)の転動面(13a)に傷がついた。一方、治具(20)を使用して内輪ユニット(10A)を組み立てた場合、円すいころ(13)の転動面(13a)に傷はつかなかった。なお、垂直に立てた軸に対して、内輪ユニット(10A)を小鍔部(12c)側が下になるように組み込んだところ、いずれの場合も内輪ユニット(10A)の分解は発生しなかった。
【0056】
次に、小鍔部(12c)の外径D1を311.4mmに減じ、即ち、円すいころ(13)の内接円径D2(=311.2mm)に対する締め代を0.2mmにして、内輪ユニット(10A)の組立試験を行った。この場合は、治具(20)を使用した場合も使用しない場合も、円すいころ(13)の転動面(13a)に傷はつかなかった。しかし、垂直に立てた軸に対して、内輪ユニット(10A)を小鍔部(12c)側が下になるように組み込んだところ、いずれの場合も内輪ユニット(10A)の分解が発生した。
【0057】
従って、上記表2の条件を満たす治具(20)を内輪(12)の小鍔部(12c)に装着することによって、小鍔部(12c)を円すいころ(13)の転動面(13a)に接触させずに、内輪ユニット(10A)を組み立てることができ、円すいころ(13)の転動面(13a)の傷つきを防止することができるとわかった。