(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037271
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】腸骨稜ベルト
(51)【国際特許分類】
A61F 5/02 20060101AFI20161128BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
A61F5/02 K
A61F5/01 K
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-225923(P2012-225923)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-76191(P2014-76191A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】512263315
【氏名又は名称】ボディーオーラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】高岡 満
(72)【発明者】
【氏名】澤本 洋介
【審査官】
大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−094336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/02
A61F 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の腰部から腹部に巻付ける帯状の腰痛防止又は骨盤矯正用の伸縮性の腸骨稜ベルトで、該腸骨稜ベルトは着用者の背面部に当接する長手方向の伸縮性を有するベルト中央部と両側のベルト端部とこれらを連結する長手方向に伸縮性を有しかつ斜め方向の帯状のベルト側部からなり、左右両側のベルト端部に比してベルト中央部が高められた形状からなり、両側のベルト端部に装着の面ファスナで両側のベルト端部は着脱可能となっており、さらに、両側のベルト端部と左右の斜め方向の帯状のベルト側部と左右の部材からなるベルト中央部が長手方向に繋ぎ合わされて形成され、該左右の部材からなるベルト中央部の部材は双山状に高められた形状であるギリシャ文字の小文字のオメガの逆向きの逆オメガ形状からなっていることを特徴とする腸骨稜ベルト。
【請求項2】
腸骨稜ベルトのベルト中央部と両側のベルト端部を長手方向に繋ぎ合わせている左右の斜め方向の帯状のベルト側部は、斜め方向の角度がベルト中央部の部材に対して20°〜40°であり、この斜め方向の角度の斜め方向の帯状のベルト側部によって大腿下肢の運動機能が違和感なく維持されかつ下腹部の圧迫が軽減されて腸骨領域の骨盤が囲まれて保護および補助され、さらにベルト中央部の部材と斜め方向のベルト側部の部材の各部材の幅と長さの比(アスペクト比)が幅1に対して長さが1.5〜3.5であることを特徴とする請求項1に記載の腸骨稜ベルト。
【請求項3】
腸骨稜ベルトは、ベルトを構成する伸縮性を有する素材からなる支持部材を有し、該伸縮性の素材は軟質樹脂、硬質ゴム、発泡樹脂、又は立体構造布帛からなり、これらの素材は腸骨稜ベルトの締めつけ力で潰れない程度の厚みと曲げ硬さと弾力性を有し、支持部材の内側には上下方向の滑り止めが形成されており、腸骨稜ベルトの幅は50〜150mmで、伸縮性を有する素材は元の素材長さに対する伸びた長さの比である伸び率は40%以下を有し、腹部側と背部側の伸び率は5〜25%と他の部分の伸び率の20〜40%よりも相対的に低いものであることを特徴とする請求項2に記載の腸骨稜ベルト。
【請求項4】
腸骨稜ベルトを構成する伸縮性を有する支持素材は、装着時に肌に接する支持素材の内面が汗を透過させて発汗性に優れ、下着に対する摩擦係数の高い素材からなることを特徴とする請求項3に記載の腸骨稜ベルト。
【請求項5】
腸骨稜ベルトは、身体に装着すべきベルトの位置をガイド図として表面に記載されており、さらに腹部の丹田部において両側のベルト端部に装着の面ファスナのメス状面にオス状面をベルト長さ方向の前後に移動して自在に重ねて腰回りの長さに合せて調整して締め付け強度も任意に調節可能としたことを特徴とする請求項4に記載の腸骨稜ベルト。
【請求項6】
腸骨稜ベルトは、その支持部材を立体構造布帛から形成し、該立体構造布帛自身を伸縮性の違う素材を組みあわせて形成したことを特徴とする請求項5に記載の腸骨稜ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、腰部への負担を軽減し、股関節、大転子の運動機能を障害することなしに腰痛の時又は腰痛の予防若しくは骨盤矯正のための広く使用できる腸骨稜ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、腰に不安を抱える人は多い。多くは腰に痛みを伴い、日常活動が制限される。腰痛には、ぎっくり腰のように突然起きる急性的な腰痛症から、繰り返し起きる慢性的な腰痛症まであり、中には、腰のせいではなく、内臓の疾患のせいで腰に痛みが出るケースもあり、これらの原因、発生頻度、痛みの程度は様々である。
【0003】
筋肉を酷使するスポーツや肉体労働、あるいは筋肉を酷使しなくとも、長時間座り続けるデスクワークにおいてでも、血行不良、筋肉の凝り、リンパの滞留などにより腰痛を誘発ことがある。これら腰痛の原因の多くは、骨盤にある仙骨あるいは腰椎とそれらを取り巻く関連筋肉に由来する不具合から、周辺の神経を急性又は慢性的に刺激することで生じる痛みが大半である。
【0004】
骨盤は身体全体の中心に位置し、身体全体の基盤であり、クッション役を担っている。この骨盤を支えているのは筋肉であり、筋肉の衰え、疲れや加齢あるいはストレスなどが骨盤のひずみを生じ、痛みを惹起していると考えられている。この場合、骨盤の骨格の構造的なゆがみや変形が原因であり、この解消は簡単ではない。
【0005】
多くの場合、腰痛の治療には理学療法やマッサージ療法等の方法がとられている。これらの併用療法として様々な腰ベルトやコルセットが製造販売され、使用されている。これらは腰部全体の臀部や腰部を固定し、その機能を制限する構造となっており、腰回り方向の強い圧迫力により腰椎、骨盤に無理のかからない安定した姿勢を保持し、腹筋や背筋および腰椎、脊椎等の負担を軽減させ、痛みや不安を緩和させるものである。さらに症状が重い場合には、ギブス等を用いて患部を強制的に固定することもある。これらは、いずれも痛みが発生する動作を制限することで、痛みを緩和させるものである。
【0006】
例えば、これらの腰ベルトやコルセットとしては、特許文献1に開示されているように、単体の伸縮素材からなる帯状のベルトの両側の端部に面ファスナを設けて装着可能とし、伸縮部材の所定部位にパッド等を備え、腰部のホールド性を持たせたもの、また、より締め付け力や保持力を高めるために特許文献2に開示されているように、腰部を保持する腰部固定帯と骨盤を保持する骨盤固定帯を腰部で一体的に連結した医療用コルセットが提案されている。
【0007】
また、特許文献3、4には、腰部の保持効果を高め、装着も容易な腰ベルトとして、サポータとしての主帯と、主帯の保持力を高める副帯を設けて、確実に腰部にサポータが装着されるようにしたものが開示されている。
【0008】
また、特許文献5には、腰部の保持効果を高めた構造のコルセットとして、腰部に巻き付ける上帯部とその下の中間帯部を中央部で連結して一体的に設けるとともに、一対の大腿部を包囲する下帯を中間帯部から連続して一対設けたコルセットも提案されている。
【0009】
さらに特許文献6には、腰痛時や腰痛予防のために、腰部への負担を軽減する目的で腰に装着する腰用サポータとして、腰部から腹部に巻回される帯状腰ベルトと、この腰ベルトの内側中央部に設けられて腰椎部に対向して当接される腰部支持部材と、腰ベルトの内側両側部に設けられて腰部側面の左右一対の腸骨部に対向して当接される一対の側部支持部材と、腰ベルトの中央下部に設けられて臀部上方から股関節を覆い、下腹部で両端部同士が繋がれて巻き付けられる補助ベルトとを備えた腰用サポータが提案されている。
【0010】
また、特許文献7には、腰部を周回する帯状本体部と丹田部に相当する位置に装着の丹田パッドと、腰椎部に相当する位置若しくは仙骨部に相当する位置に装着された腰椎仙骨療養パッドと、丹田パッドに対して丹田部分を押圧する外力を付与すると共に腰椎仙骨療養パッドに対して腰痛部分若しくは仙骨部分を押圧する外力を付与する圧力調整ゴムを備えており、腰椎仙骨療養パッドと丹田パッドとの相対的高さを変更することで、腰椎仙骨療養パッドを腰椎押圧用若しくは仙骨押圧用のいずれかの用途に用いることができるサポートベルトが提案されている。
【0011】
これらの腰ベルトやサポートベルトやコルセットは腰部全体の臀部および腰部を固定し、いずれも痛みが発生する動作を制限することにより、痛みを緩和させるものである。しかし、それがために股関節の機能を阻害してしまう構造のものが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−277936号公報
【特許文献2】特開2004−209050号公報
【特許文献3】特開2004−121278号公報
【特許文献4】特開平11−192250号公報
【特許文献5】特開平10−155826号公報
【特許文献6】特許第4840881号公報
【特許文献7】実用新案登録第3176411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した様に、従来技術のサポータ、腰ベルト、コルセットは、腹部から腰部の辺りの胴回り全周を強い圧迫力で締めつけることにより、姿勢を固定し、腰部の痛みを軽減する。この際、より効果を得るには、より強い力での締めつけが必要であり、サポータ、腰ベルト、コルセットの幅もより広くしたり、ときには副ベルトを装着するなどの必要がある。加えて腰部および股関節は上下に位置することから、それらを同時に固定するには概して幅広のベルトとなる。この幅広のベルトは腹部を広範囲に圧迫、拘束するため暑苦しく不快感が強く、呼吸困難や食欲不振を引き起こすこともある。多くは股関節の機能まで制限されているため、日常必要な基本的な生活動作までもが簡単ではなく、装着者にとってはより不快感やストレスを感じることになる。
【0014】
この発明は、上記背景技術に鑑み、腰ベルトの特徴的な形状から腹部の締めつけ力を軽減し、腰部と股関節の両者を安定的に固定し、できるだけ自然な関節の機能を確保し、快適な着用感を有する腸骨稜ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、上記の課題を達成する手段として、第1の手段では、身体の腰部から腹部に巻付ける帯状の腰痛防止又は骨盤矯正用の伸縮性の腸骨稜ベルトであり、その形状がベルト着用者の背面部に当接する長手方向の伸縮性を有するベルト中央部と両側のベルト端部とこれらを連結する長手方向に伸縮性を有しかつ斜め方向の帯状のベルト側部からなり、左右両側のベルト端部に比してベルト中央部が高められた形状からなり、両側のベルト端部に装着の面ファスナで両側のベルト端部は着脱可能となっている、腸骨稜ベルトである。
【0016】
この腸骨稜ベルトは、伸縮性を有し、かつ、左右両端部には着脱用の面ファスナを有するので、締め付け強度を適正に調整して腰回りに環状に巻回して固定できる。この場合、腰部をより強く固定して支えるために中央部に縦型ボーンを装着することもできる。さらに、腸骨稜ベルトを装着するとき、ベルト中央部の内面が身体背部の腰椎下部から臀部上方部に対向して当接して、腸骨領域の骨盤を囲むように全体を保護および助成をする。この腸骨稜ベルトの特徴的な形状から、上記したように、ベルト中央部の内面は身体背部の腰椎下部から臀部上方に対向して当接するため、外観上、腸骨稜ベルトを装着したことによるシルエットを乱すこともなく、同時に、該腸骨稜ベルトのベルト側部が当接する位置は、腸骨稜ベルトの形状から骨盤の大転子の運動機能を阻害することなく、さらに下肢の運動機能回復の遅れや気持ちの落ち込みを回避することができる。この様に、該腸骨稜ベルトは効果的に骨盤を引き締め、一方で股関節の動きを確保できる立体的に腰部にフィットする形状、構造を有している。
【0017】
第2の手段では、身体の腰部から腹部に巻付ける帯状の腰痛防止又は骨盤矯正用の伸縮性の腸骨稜ベルトであり、両側のベルト端部と左右の斜め方向の帯状のベルト側部と左右の部材からなるベルト中央部が長手方向に繋ぎ合わされて形成されており、この左右の部材からなるベルト中央部の部材が双山状に高められた形状であるギリシャ文字の小文字であるオメガの逆向きの逆オメガ形状からなる、第1の手段の腸骨稜ベルトである。
【0018】
この腸骨稜ベルトのベルト中央部は逆オメガ形状からなる双山状の形状により、身体の側腹部に、この当接される位置は大腿骨の上端部の突起の大転子の運動機能を阻害することがなく、かつ両側のベルト端部が当接される位置は丹田部であり、下腹部の圧迫を軽減できるよう設計された腸骨稜ベルトである。
【0019】
第3の手段では、腸骨稜ベルトのベルト中央部と腸骨稜ベルトの両側のベルト端部を長手方向に繋ぎ合わせる左右の斜め方向の帯状のベルト側部は、斜め方向の角度がベルト中央部の部材に対して20°〜40°であり、この斜め方向の角度となっている斜め方向の帯状のベルト側部によって、身体の大腿下肢の運動機能が違和感なく維持されかつ下腹部の圧迫が軽減されて、腸骨領域の骨盤が囲まれて保護および補助され、さらにベルト中央部の部材と斜め方向のベルト側部の部材の各部材の幅と長さの比すなわちアスペクト比が幅1に対して長さが1.5〜3.5である、第2の手段の腸骨稜ベルトである。
【0020】
この腸骨稜ベルトの形状は下肢の運動機能を確保するために重要で、ベルト中央部の部材と面ファスナで装着する両端部の部材とを繋ぎ合わせる部分であるベルト側部の部材とで形成する角度は、20°〜40°、好ましくは25°〜35°とする。この場合、腰部をより強く支えるために、ベルト中央部には、身体の背筋の向きである縦型のボーンを装着することもできる。そして、腸骨稜ベルトのベルト中央部の背面部の内側は、大腿下肢の運動機能を違和感なく維持し、腸骨領域の骨盤を囲むようにその全体をしっかりと保護し補助することができ、装着したときは臀部のシルエットに対して違和感のない形状を有するよう設計されているものである。
【0021】
第4手段では、腸骨稜ベルトはベルトを構成する伸縮性を有する素材からなる支持部材を有し、この伸縮性の素材は、軟質樹脂、硬質ゴム、発泡樹脂、又は立体構造の布帛からなり、腸骨稜ベルトの締めつけ力で潰れない程度の厚みと曲げ硬さと弾力性を有し、支持部材の内側には上下方向の滑り止めが形成されており、腸骨稜ベルトの幅は50〜150mmで、伸縮性を有する素材は元の素材長さに対する伸びた長さの比である伸び率は40%以下を有し、腹部側と背部側の伸び率は5〜25%と他の部分の伸び率の20〜40%よりも相対的に低いものである、第3の手段の腸骨稜ベルトである。
【0022】
この腸骨稜ベルトは、長手方向に伸縮性であって、その内面側が幅方向に滑り止めを有する面からなっているので、身体に着用した下着の腰回りに装着した際に、腸骨稜ベルトの内面が下着の表面に係合して簡単にずれ落ちなくなっている。
【0023】
第5手段では、腸骨稜ベルトを構成する伸縮性を有する支持素材は、身体に装着した時に肌側の下着に当接する腸骨稜ベルトの支持素材の内面が汗を透過させる発汗性に優れており、かつ、下着に対する摩擦係数の高い素材からなる、第4の手段の腸骨稜ベルトである。
【0024】
第6の手段では、腸骨稜ベルトは、身体に装着すべきベルト位置がガイド図として腸骨稜ベルトの表面に記載されており、さらに身体の腹部の丹田部において、腸骨稜ベルトの両側のベルト端部に装着されている面ファスナのメス状面にオス状面をベルト長さ方向の前後に移動して腰回りの長さに合せて調整して締め付け強度を任意に調節可能とした、第5の手段の腸骨稜ベルトである。
【0025】
この腸骨稜ベルトは6個の部材を繋ぎ合わせて作成される。しかし、この6個の部材からなる腸骨稜ベルトのベルト中央部の2個の部材を1個の部材として5個の部材で構成することもできる。この腸骨稜ベルトの6個あるいは5個の部材を構成する生地は長手方向には伸縮性があるが、幅方向には非伸縮性の生地からなっており、かつ各部材が当接する腰部の位置に応じて、腸骨稜ベルトを構成する各部材の長手方向の向きが異なっている。そこで、腸骨稜ベルトを横に展開した時に、左右両端部に比してベルト中央部の左右の部分が僅かであるが双山状に上方に高められて逆オメガ形状となっているので、この腸骨稜ベルトを身体に装着した場合に、腸骨稜ベルトを構成する各部材が身体の腰回りの各部分を最適な張力で締め付けて支持できる。
【0026】
第7の手段では、腸骨稜ベルトはその支持部材を立体構造布帛から形成し、この立体構造布帛自身を伸縮性の違う素材を組みあわせて形成した、第6の手段の腸骨稜ベルトである。
【0027】
この腸骨稜ベルトは立体構造布帛から形成されて伸縮性を有するので、滑り止め効果もあって直接肌に装着してもかぶれ等の副作用を誘発することもなく、発汗性や通気性も良好である。
【0028】
これら腸骨稜ベルトの両端部を固定して腰部に巻回するために、腸骨稜ベルトの表面側又は裏面側に補強ベルトを設けることもできる。加えて当該腸骨稜ベルトのベルト側部の全面に分散状に略3cm間隔で5〜10mm径の小孔を設けることもできる。このベルト側部の全面に分散状に小孔を設けた腸骨稜ベルトを身体の肌に直接装着するとき、身体表層の血流の促進やリンパの改善の効果が期待できる。なお、腸骨稜ベルトのベルト側部の全面に設ける小孔の大きさおよび個数は特に規定するものではない。
【発明の効果】
【0029】
この発明の腸骨稜ベルトは、着用者の背面側に接するベルト中央部と腹部側に接する左右両端部が、一直線になって繋がった形状ではなく、左右両端部に比して、ベルト中央部を形成する2個からなる部分あるいはベルト中央部を形成する1個からなる部分がギリシャ文字の小文字のオメガの逆向きのオメガ形状のように、僅かであるが双山状に上方に高められた形状となっているので、この腸骨稜ベルトを腰回りに装着した時には、ベルト中央部の内面は身体の背側の腰椎下部から臀部上方に対向して当接するため、外観上、腸骨稜ベルトを装着したことによるシルエットを乱すこともなく、同時に、この腸骨稜ベルトのベルト側部が当接する位置は、腸骨稜ベルトの形状から骨盤の大転子の運動機能を阻害することなく、さらに下肢の運動機能回復の遅れや気持ちの落ち込みを回避することができる。すなわち、従来技術で開示されているような腰および腹部を水平的に周回するベルトではなく、側腹部の骨盤の腸骨稜沿いに斜めに周回するように設計された本発明の腸骨稜ベルトは、細幅でありながら、腰部と骨盤部の両者を安定的に固定できる。また、さらにこの腸骨稜ベルトは、長手方向に伸縮性であるので、締め付け力を自在に調節でき、また、前腹部の締め付け位置がやや下腹部に位置する様に設計された腸骨稜ベルトの形状により、直接腹部を圧迫することなく、圧迫感が軽減されている。この様に、この腸骨稜ベルトは効果的に骨盤を引き締め、一方で股関節の動きを確保して立体的に腰部にフィットする形状および構造となっている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】この発明の実施例の腸骨稜ベルトの装着方法を説明する図である。
【
図2】この発明の腸骨稜ベルトを内面側から見た正面図である。
【
図3】この発明の腸骨稜ベルトを面ファスナで閉じた正面図である。
【
図4】この発明の腸骨稜ベルトを身体に装着した時の腰部の骨構造と腸骨稜ベルトの線描による模式図である。
【
図5】この発明の腸骨稜ベルトの装着状態を示す(a)の正面図と(b)の背面図の模式図である。
【
図6】この発明の他の実施例の腸骨稜ベルトを内面側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この発明の腸骨稜ベルト1を構成する支持部材は、一般に使用の通常の腰ベルトの締めつけ力で潰れない程度の硬さが必要である。しかし、硬すぎると身体へ強く当たる等の問題が生じる。したがって、材質としては、軟質樹脂、硬質ゴム、発泡樹脂、モノフィラメント糸を使用したダブルラッセル生地等の立体構造の布帛やハニカム構造の布帛等からなり、腸骨稜ベルト1の締めつけ力に対して、座屈せず潰れない程度の適宜の曲げ硬さと厚みおよび弾力のある部材が適している。例えば、スチレン系エラストマーの架橋発泡体からなる低反発軟質発泡体や、エチレンビニルアルコール(以下、「EVA」と称す。)から成る発泡樹脂等を、所定の厚さにしたものである。これらの材料は、JIS K6767による25%圧縮硬さ試験値が、スチレン系エラストマーでは2.6N/cm
2、EVAでは4.02N/cm
2のものがあり、これらは腸骨稜ベルト1のベルト側部3の支持部材3aや腰部であるベルト中央部2の支持部材2aとして適している。この様に、比較的伸縮性が高く、薄くて柔軟な材料を用いることにより、身体へのフィット感を高めると同時に、締め付け感を緩和することができる。
【0032】
当該腸骨稜ベルト1の両端部には面ファスナ4が取り付けられている。この面ファスナ4の取り付けは、腸骨稜ベルト1の表面1aと裏面1bの両側のベルト端部6の適正な対応位置に、面ファスナ4のオス状面4aとメス状面23bがそれぞれ張り付けられて形成されている。このオス状面4aとメス状面23bには通気性を良好とするために多数の通気孔4cが設けられている。
【0033】
この腸骨稜ベルト1のベルト側部3を構成する支持部材3aあるいは腰部すなわちベルト中央部2の支持部材2aは上記したように伸縮性を有する部材からなっている。その部材の一例としては、軟質樹脂、硬質ゴム、発泡樹脂、又は立体構造の布帛を挙げることができる。これらは腸骨稜ベルト1の締めつけ力で形状が潰れない程度の曲げ硬さ、厚みおよび弾力性を有し、衝撃吸収性を有する材料である。そのベルト幅は50mm〜150mmで、好ましくは80mm〜120mmである。伸縮性部材の伸び率は40%以下のものを用い、身体の腹部と背部に当接する部分については、伸び率が相対的に低くされた加工を行い、身体の側腹部に用いる部材は伸縮率の高い素材を用いる。通常、前者については5%以上〜20%未満の伸縮率、後者については20%以上〜40%未満の伸縮率の範囲で適正に設計したものである。
【0034】
図2に示す様に、この腸骨稜ベルト1は6個の部材をベルト縫い代5で繋ぎ合わせて作製されたものである。これらの6個の部材からなる腸骨稜ベルト1の両側のベルト端部6は面ファスナ4が装着されており、この両側のベルト端部6の面ファスナ4で身体の腰部の周囲に巻回するものである。腸骨稜ベルト1のベルト中央部2である双山状の部材は1つの部材又は2つの部材で構成されているのである。これらの腸骨稜ベルト1の形状は身体の下肢の運動機能を確保するために重要である。腸骨稜ベルト1のベルト中央部2の部材と面ファスナ4で繋ぎ合わせるための腸骨稜ベルト1の両側のベルト端部6との間のベルト側部3との角度はベルト中央部2の水平に対して20°〜40°とする、好ましくは25°〜35°とすることである。身体の腰部をより強く支持するために、ベルト中央部2の両脇のベルト側部3との繋ぎ目の縫い代5を、
図3に示す様に、ボーン部縫い代5aとして、この部分の内部に硬質の縦型ボーン7を内部に装入することもできる。
【0035】
さらに、腸骨稜ベルト1のベルト側部3の支持部材3aあるいは腰部であるベルト中央部2の支持部材2aとして、衝撃吸収力の高い素材を用いることにより、この腸骨稜ベルト1の装着者が転倒した場合に腸骨や尾骨などの骨折や怪我を予防することもできる。衝撃吸収力の高い素材としては、上記したスチレン系エラストマーの低反発軟質発泡体やEVA発泡樹脂が適している。この腸骨稜ベルト1のベルト側部3の支持部材3aやベルト中央部2の支持部材2aの材料として期待される衝撃吸収性は、衝撃吸収率にして50%以上が望ましい。
【0036】
さらに、腸骨稜ベルト1の内側の面に、好ましくは臀部の部分に、滑り止め加工処理を施すことにより、腸骨稜ベルト1がずり上がることを防止することができる。滑り止め加工処理の例としては、滑り止め効果のある樹脂を腸骨稜ベルト1の内側の面にプリントするか、あるいは縫い付けることで行うが、その他の方法でも滑り止め効果のある樹脂が付着可能であればその方法は問わない。腸骨稜ベルト1のベルト側部3の支持部材3aやベルト中央部2の支持部材2aの内側の身体側に向く面にも滑り止め加工処理を行っても良い。
【0037】
身体の背側の腰椎11の部分に当接する腸骨稜ベルト1のベルト中央部2の支持部材2aは、身体に装着状態で逆オメガ文字の形状に形成され、腰椎11の部分に当てられる部材がより強く腰椎11の部分に押し付けられ、腰椎11の部分の安定感がより一層増して、腰痛予防効果を高めることができる。また、この腸骨稜ベルト1のベルト側部3の支持部材3aは、逆オメガ文字形状のベルト中央部2の水平に対して、20〜40°の角度で、好ましくは25〜35°の角度となって、一体的に繋ぎ合わせ腸骨稜ベルト1を形成している。この角度を維持することで股関節15、大転子16の運動機能を阻害することがなく、骨盤12を安定的に保持することができる。これにより、腰部全体の安定感がより一層増大する。また、着用者の体型や使用状況による腸骨稜ベルト1のずり上がりも防止できる。
【0038】
また、着用時の暑さや蒸れを軽減するために、左右の腸骨14の部分と腰椎11の部分に配置するベルト側部3の支持部材3aおよびベルト中央部2の支持部材2aには、通気性を良好とするために通気孔を設けてもよい。その他、ダブルラッセル生地等の立体構造の布帛やハニカム構造の布帛を用いれば、さらに高い通気性を持たせることができる。
【0039】
この腸骨稜ベルト1の左右のベルト側部3の全面に、
図6に示すように、略3cm間隔で千鳥状に分散した多数の5〜10mm径の小孔3bを設けることができる。このベルト側部3の全面に千鳥状に分散した多数の小孔3bを設けた腸骨稜ベルト1を身体の肌に直接装着するとき、これらの多数の小孔3bの空間の部分に、身体の表層の部分が緩んだ状態で入り込む。この入り込んだ身体の表層の部分はベルト側部3で直接に圧迫されることがなく、解放された状態であるので、この身体の表層の部分によって血流が促進され、さらにリンパが改善されるなどの優れた効果が期待される。
【0040】
次に、本発明の腸骨稜ベルト1の好適な装着態様の実施の形態について、
図5に基づいて説明する。この実施の形態の腸骨稜ベルト1は、身体の脊椎下部18の部分から臀部の上方の部分を覆うようにして巻き付け、下腹部19の前面にて面ファスナ4により腸骨稜ベルト1の左右のベルト端部6を繋げるものである。そこで、大腿骨17にかけて全体的に包み込むような構造にすれば、安定感を高めると同時に身体の適切な装着位置と腸骨稜ベルト1のずれを防ぐことができ、より一層に腸骨稜ベルト1による腰部のサポート効果を高めることができる。
【0041】
本発明の腸骨稜ベルト1の装着態様は上記の実施の形態に限定されるものではなく、さらに腸骨稜ベルト1自体はベルト材質や形状は問わないものである。腸骨稜ベルト1のベルト側部3の支持部材3aの材質や形状、腰部であるベルト中央部2の支持部材2aの材質や形状も、所望の曲げ硬さと厚みおよび弾力性がある部材であれば、適宜使用することができる。
【0042】
以下、本発明の腸骨稜ベルト1の使用例である着用結果について説明する。本発明の腸骨稜ベルト1の着用時に下腹部19へかかる締めつけにより、下腹部19に着用の下着へかかる圧迫感は従来品の腰ベルトと略同等である。しかしながら、股関節15に対しては、その運動機能を抑制することは無く、従来品の腰ベルトに比して本発明の腸骨稜ベルト1は股関節15の運動機能が極めて良好であった。これは、本発明の腸骨稜ベルト1がベルト中央部2とベルト側部3とベルト端部6からなる各長手方向における伸縮が図られており、しかも、これらのベルト側部3とベルト端部6の部材の長手の方向の形状は、
図2に示すように、一直線状となっているものではなく、ベルト側部3がギリシャ文字の小文字のオメガの逆向きの逆オメガ形状からなる双山状の外側の裾部分の様に斜め下方に広がった形状となって水平方向のベルト端部6となっている。
【0043】
また、本発明の腸骨稜ベルト1のベルト側部3の支持部材3aやベルト中央部2の支持部材2aの材料としては、例えばスチレン系エラストマーの発泡体である商品名「ピタフォーム」や、エチレンビニルアルコールの発泡体である商品名「トランスフォーム」を用いることが出来る。さらに、ダブルラッセル生地等の立体構造の布帛やハニカム構造の布帛もベルト側部3の支持部材3aやベルト中央部2の支持部材2aの材料として用いることができる。
【0044】
図1は、本発明の腸骨稜ベルト1を身体の腰部へ装着する方法を示した図である。腸骨稜ベルト1の装着は、先ず、
図1の(a)に示すように、腸骨稜ベルト1の両側のベルト端部6についている面ファスナ4の部分を手で持ち、例えば面ファスナ4のオス状面4aを右手で持ち、メス状面4bを左手で持ち、ベルト中央部2を背中の腰椎11に対応する位置に当てがう。次いで、
図1の(b)に示すように、腸骨稜ベルト1の両側のベルト端部6を外側に引張りながらベルト側部3を、腰部の腸骨稜13に沿わせて、斜め下腹部19の部位に巻きつける。さらに、
図1の(c)に示すように、腸骨稜ベルト1を装着状態でズレないように、前部下腹部19の部位すなわち丹田部位に当てがい、腸骨稜ベルト1の両側のベルト端部6を面ファスナ4で係止して固定する。この様に、腸骨稜ベルト1は腸骨稜13に沿わせて装着することが、骨盤12の全体を保持して固定するために最適な位置に対する装着である。この装着位置は股関節15の自由な運動機能を妨げることのない位置である。なお、必要に応じて、上記した様にベルト側部3の部位が腸骨稜13に沿って装着できるように、腸骨稜ベルト1の表面の適宜箇所に装着方法の模式的なガイド図を描いておくこともできる。
【0045】
腸骨稜ベルト1には、上記したように、身体に装着すべきベルトの位置をガイド図として表面に描いてあるので、従来の腰ベルトの様に腰周りなどの脂肪のつき具合などの装着者の体型に合せて装着する必要はなく、たとえ装着に慣れない者でも装着すべき骨盤12の周囲の位置を手指で押さえることで、位置を確認しながら正しく装着することができる。また、腸骨稜ベルト1の両端部に面ファスナ4が装着されており、下腹部19の丹田部において面ファスナ4のメス状面4bにオス状面4aを重ねて自由な形で固定することができるので、腸骨稜ベルト1の締め付け強度を任意に調節して装着できる。さらに、腸骨稜ベルト1のベルト中央部2の内面には、脊椎下部18の腰椎11の両側の部分に数ミリ大の円板状のネオジム磁石などの磁石の複数個を分散配置し、これらの各磁石とその周辺をウレタンゴム接着剤で被覆してベルト中央部2の内面に接着し、背側腰部に磁力を作用させるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 腸骨稜ベルト
1a 表面
1b 裏面
2 ベルト中央部
2a 支持部材
3 ベルト側部
3a 支持部材
3b 小孔
4 面ファスナ
4a オス状面
4b メス状面
4c 通気孔
5 ベルト縫い代
5a ボーン部縫い代
6 ベルト端部
7 縦型ボーン
11 腰椎
12 骨盤
13 腸骨稜
14 腸骨
15 股関節
16 大転子
17 大腿骨
18 脊椎下部
19 下腹部