特許第6037287号(P6037287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037287
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20161128BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C01B31/02 101F
   B01J23/745
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-212198(P2013-212198)
(22)【出願日】2013年10月9日
(65)【公開番号】特開2015-74585(P2015-74585A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 良吾
(72)【発明者】
【氏名】大橋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】徳根 敏生
(72)【発明者】
【氏名】大田 正弘
(72)【発明者】
【氏名】川原田 洋
(72)【発明者】
【氏名】落合 拓海
(72)【発明者】
【氏名】大原 一慶
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/025000(WO,A1)
【文献】 特開2012−184145(JP,A)
【文献】 特開2012−106921(JP,A)
【文献】 特開2006−036593(JP,A)
【文献】 特開2005−247644(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0292835(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室内にカーボンナノチューブの原料となる気体を流通すると共に、該処理室内を所定の圧力に減圧し、該処理室内に保持された触媒担持基板上に化学気相成長法によりカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、
該触媒担持基板の触媒が担持されている面上に成長するカーボンナノチューブに対し、該カーボンナノチューブの成長方向に対向する方向に押圧力を加えることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のカーボンナノチューブの製造方法において、前記触媒担持基板から下方に向かって前記カーボンナノチューブを成長させるときに、下方から該カーボンナノチューブに当接される当接部材により前記押圧力を加えることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のカーボンナノチューブの製造方法において、前記触媒担持基板から上方に向かって前記カーボンナノチューブを成長させるときに、上方から該カーボンナノチューブに当接される当接部材により前記押圧力を加えることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項記載のカーボンナノチューブの製造方法において、前記処理室は天面にアンテナを備えると共に、前記触媒担持基板は該アンテナの下方に保持されており、該アンテナの先端からプラズマを発生させて、該触媒担持基板上に化学気相成長法によりカーボンナノチューブを成長させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載のカーボンナノチューブの製造方法において、前記触媒担持基板は、基材と、該基材の一方の表面に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成され該触媒材料を担持する触媒担持層と、該触媒担持層上に形成され該触媒担持層に含まれる該触媒材料を分散させる分散層とを備えることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載のカーボンナノチューブの製造方法において、前記触媒担持基板は、前記アンテナと反対側の面に触媒を担持することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと略記することがある)は、軽量であり、機械的強度及び導電性に優れているので、高強度材料や高導電材料として用いることが検討されている。前記CNTは、前記高強度材料又は前記高導電材料として用いるために、高品質且つ長尺で細径であることが必要とされ、細径とするためには単層CNTであることが望まれる。
【0003】
従来、前記CNTを、高密度且つ一方向に配向した集合体として製造する製造方法が提案されている。前記CNTの製造方法として、例えば、金属触媒の存在下で化学気相成長(以下、CVDと略記することがある)法によりCNTを成長させる際に、反応雰囲気に微量の水蒸気を添加する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記製造方法によれば、基板上に垂直に配向した単層CNT集合体を得ることができる。前記製造方法では、さらに、前記単層CNT集合体を液体に晒したのち、乾燥することにより高密度化することができ、0.2〜1.5g/cmの重量密度を有する単層CNT集合体を得ることができるとされている。
【0005】
また、前記CNTの製造方法として、パルスアークプラズマによって基板上に粒子状触媒を堆積させた後、プラズマCVD法によりCNTを成長させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。前記製造方法によれば、前記基板上に高密度の二層CNTを得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4817296号公報
【特許文献2】特許第4872042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、CVD法によりCNTを成長させる際に反応雰囲気に微量の水蒸気を添加する方法では、高密度の単層CNT集合体を得るために、得られた単層CNT集合体を液体に晒し、さらに乾燥するという後処理を行わねばならないという不都合がある。
【0008】
また、パルスアークプラズマによって基板上に粒子状触媒を堆積させた後、プラズマCVD法によりCNTを成長させる方法では、得られるCNTが二層CNTとなり細径のCNTを得ることが難しいという不都合がある。
【0009】
そこで、本発明は、前記不都合を解決するために、後処理を要することなく、高密度且つ一方向に配向した単層CNT集合体を得ることができるCNTの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明は、処理室内にカーボンナノチューブの原料となる気体を流通すると共に、該処理室内を所定の圧力に減圧し、該処理室内に保持された触媒担持基板上に化学気相成長法によりカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、該触媒担持基板の触媒が担持されている面上に成長するカーボンナノチューブに対し、該カーボンナノチューブの成長方向に対向する方向に押圧力を加えることを特徴とする。
【0011】
本発明のカーボンナノチューブ(CNT)の製造方法では、処理室内にCNTの原料となる気体を流通すると共に、該処理室内を所定の圧力に減圧し、該処理室内に保持された触媒担持基板上に化学気相成長(CVD)法によりCNTを成長させる。このようにすることにより、前記原料となる気体から供給される炭素源により、前記触媒担持基板上に多数の単層CNTを密集し且つ垂直に配向した状態で成長させることができる。
【0012】
ところが、本発明者らの検討によれば、前記単層CNTは自由に成長させると、密集した単層CNTが長尺化することにより、その根元の触媒粒子に対する前記炭素源の供給が阻害されやすくなることが判明した。また、前記単層CNTは自由に成長させると、個々の単層CNTの成長速度が異なるために、成長速度の大きい単層CNTが成長速度の小さい単層CNTを、前記触媒担持基板から触媒ごと引き抜いてしまうおそれがあることが判明した。この結果、前記単層CNTを自由に成長させたのでは、高密度の単層CNT集合体を得ることができない。
【0013】
そこで、本発明のCNTの製造方法では、前記触媒担持基板の触媒が担持されている面上に成長するCNTに対し、該CNTの成長方向に対向する方向に押圧力を加えることにより、該CNTの成長速度を制御する。
【0014】
前記押圧力を加えると、個々の単層CNTの成長速度を制御して均一化することができ、単層CNTの長尺化に伴って前記触媒粒子に対する前記炭素源の供給が阻害される現象を緩和することができる。また、前記押圧力を加えて、個々の単層CNTの成長速度を制御して均一化することにより、一部の単層CNTが他の単層CNTに引き抜かれることを防止することができる。従って、本発明のCNTの製造方法によれば、後処理を必要とすることなく、直接前記触媒担持基板上に高密度且つ垂直に配向した単層CNT集合体を得ることができる。
【0015】
本発明のCNTの製造方法では、例えば、前記触媒担持基板から下方に向かって前記CNTを成長させるときに、下方から該CNTに当接される当接部材により前記押圧力を加えることができる。前記触媒担持基板から下方に向かって前記CNTを成長させるときには、該触媒担持基板が自重により該CNTを前記当接部材に押圧する。そこで、前記CNTには前記当接部材から前記押圧に対する反力が作用することとなり、該反力が該CNTの成長方向に対向する方向に加えられる前記押圧力となる。
【0016】
また、本発明のCNTの製造方法では、前記触媒担持基板から上方に向かって前記CNTを成長させるときに、上方から該CNTに当接される当接部材により前記押圧力を加えるようにしてもよい。前記触媒担持基板から上方に向かって前記CNTを成長させるときには、前記当接部材の自重が該CNTの成長方向に対向する方向に加えられる前記押圧力となる。
【0017】
また、本発明のCNTの製造方法において、前記CVD法はどのような方法によるものであってもよいが、例えば、アンテナ型プラズマCVD法を用いることができる。前記アンテナ型プラズマCVD法では、前記処理室の天面にアンテナを備え、該アンテナの下方に保持されている前記触媒担持基板に対して、該アンテナの先端からプラズマを発生させることにより該触媒担持基板上にCNTを成長させる。
【0018】
本発明のCNTの製造方法において、前記アンテナ型プラズマCVD法を用いる場合、前記触媒担持基板は、基材と、該基材の一方の表面に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成され該触媒材料を担持する触媒担持層と、該触媒担持層上に形成され該触媒担持層に含まれる該触媒材料を分散させる分散層とを備えることが好ましい。前記構成を備える前記触媒担持基板によれば、より長尺の単層CNTを得ることができる。
【0019】
また、本発明のCNTの製造方法において、前記アンテナ型プラズマCVD法を用いる場合、前記触媒担持基板は、前記アンテナと反対側の面に触媒を担持することが好ましい。前記触媒担持基板が、前記アンテナと反対側の面に触媒を担持することにより、該触媒担持基板及び該触媒担持基板上に成長する単層CNTが前記プラズマにより攻撃されることを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の製造方法に用いるアンテナ型プラズマCVD装置の構成例を示す模式的断面図。
図2】本発明の製造方法に用いる触媒担持基板の構成例を示す模式的断面図。
図3】本発明の製造方法に用いる基板保持手段の構成例を示す模式的断面図。
図4】本発明の製造方法に用いる基板保持部の構成例を示す模式的断面図。
図5図3に示す基板保持手段を用いて合成された単層CNT集合体の走査型顕微鏡写真。
図6】(a)は図5に示す単層CNT集合体であって、当接部材が当接されている部分の拡大図、(b)はそのラマンスペクトル。
図7】(a)は図5に示す単層CNT集合体であって、当接部材が当接されていない部分の拡大図、(b)はそのラマンスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0022】
本実施形態のCNTの製造方法は、化学気相成長(CVD)法により、触媒担持基板上にCNT集合体を成長させる方法である。前記CVD法は、熱CVD法、プラズマCVD法等のどのようなCVD法であってもよく、例えば、アンテナ型(先端放電型)プラズマCVD法を用いることができる。
【0023】
前記アンテナ型プラズマCVD法は、例えば、図1に示すアンテナ型プラズマCVD装置1を用いて実施することができる。アンテナ型プラズマCVD装置1は、箱形のチャンバー(処理室)2を備え、天井部にCNTの原料となる気体(以下、原料ガスと略記する)を導入する原料ガス導入部3を備える。また、底部側面にはチャンバー2内のガスを排出するガス排出部4を備えており、ガス排出部4は例えば図示しない真空ポンプに接続されている。
【0024】
チャンバー2の天井部には、マイクロ波導波管5及びアンテナ6が備えられており、マイクロ波導波管5により所定の周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波を印加することによりアンテナ6の先端部6aにプラズマを集中発生させるようになっている。この結果、先端部6aの周囲にプラズマ発生領域7が形成される。
【0025】
チャンバー2内には、マイクロ波導波管5に対向する位置に基板保持部8が上下動自在に設けられており、基板保持部8上に触媒担持基板9が載置されている。アンテナ型プラズマCVD装置1では、基板保持部8を上下動させることにより、アンテナ6の先端部6aと触媒担持基板9との距離dを調整するようになっている。
【0026】
触媒担持基板9は、図2に示すように、基材11と、基材11上に形成された反応防止層12と、反応防止層12上に形成された触媒担持層13と、触媒担持層13上に形成された分散層14とから構成されている。基材11に用いることができる材料としては、シリコン、ガラス、溶融石英、耐熱セラミックス、耐熱鋼板等を挙げることができる。
【0027】
反応防止層12は、基材11と触媒担持層13との反応を防止して触媒担持層13に所定量の触媒材料を確保すると共に、該触媒材料から形成される触媒微粒子を所定の形態に維持する機能を備える。反応防止層12は、前記機能を備えるために、例えばAlにより、5〜500nmの範囲の厚さ、例えば50nmの厚さに形成されることが好ましい。
【0028】
触媒担持層13は、例えばFeにより、0.025〜3nmの範囲の厚さ、例えば0.5nmの厚さに形成されることが好ましい。分散層14は、触媒担持層13の触媒材料から形成される触媒微粒子を安定して分散させると共に、該触媒微粒子の径を所望の大きさに規定する機能を備える。分散層14は、前記機能を備えるために、例えばAlにより、0.025〜3nmの範囲の厚さ、例えば1.0nmの厚さに形成されることが好ましい。
【0029】
本実施形態の製造方法では、チャンバー2内にCNTの原料となる気体を流通すると共に、チャンバー2内を所定の圧力に減圧し、触媒担持基板9上にプラズマCVD法によりCNTを成長させる。このとき、前記CNTに対し、その成長方向に対向する方向に押圧力を加える。
【0030】
前記CNTの原料となる気体としては、例えばメタン、アセチレン等の炭化水素の気体を、水素等のキャリアガスと共に用いることができる。また、チャンバー2内は、1333〜26666Pa(10〜200Torr)、例えば13330Pa(100Torr)の圧力に減圧する。
【0031】
前記押圧力を加える手段として、本実施形態の製造方法では、例えば触媒担持基板9から下方に向かってCNTを成長させるときに、下方からCNTに当接される当接部材を用いることができる。
【0032】
触媒担持基板9から下方に向かってCNTを成長させるときには、図1に示す基板保持部8に代えて、図3に示す基板保持手段21を用いる。基板保持手段21は、アンテナ6と反対側に触媒担持基板9を保持するMo製基板保持部材22と、Mo製基板保持部材22の下方から触媒担持基板9に当接される石英製当接部材23と、石英製当接部材23を下方から支持する石英製支持部材24とを備える。
【0033】
Mo製基板保持部材22は、アンテナ6と反対側に凹部22aを備え、触媒担持基板9は凹部22aに収容されて保持される。このとき、触媒担持基板9は、触媒担持層13が基材11に対しMo製基板保持部材22と反対側に位置するように配置され、即ちアンテナ6と反対側に触媒を保持している。尚、図3では、触媒担持基板9の反応防止層12及び分散層14を省略して示している。
【0034】
石英製当接部材23は、第1の円筒状部材25と、第1の円筒状部材25より小径の第2の円筒状部材26とが同心円状に積層されており、第2の円筒状部材26は第1の円筒状部材25に対しMo製基板保持部材22と反対側に配設されている。また、円筒状部材25,26の中央には軸方向に沿って貫通孔27が設けられている。石英製支持部材24は、第2の円筒状部材26よりさらに小径の石英管からなり、第1の円筒状部材25のMo製基板保持部材22と反対側の底面において、第2の円筒状部材26の外周側に配置されている。
【0035】
基板保持手段21によれば、前記アンテナ型プラズマCVD法により、触媒担持基板9と第1の円筒状部材25との間に単層CNTが成長し、単層CNT集合体28,29が形成される。尚、図3の構成では、当初、触媒担持基板9と第1の円筒状部材25とが密着しているが、実際には両者はその表面にμmオーダー以下の微小な凹凸を備えており、両者の間には該凹凸により微小な間隙が形成されている。該間隙は、炭素原子に対しては十分に大きな間隙であり、この結果、触媒担持基板9と第1の円筒状部材25との間に単層CNTが成長することができる。
【0036】
このとき、アンテナ6と触媒担持基板9との間にはMo製基板保持部材22が介在しているので、触媒担持基板9と単層CNT集合体28,29とは、アンテナ6に発生するプラズマに対しMo製基板保持部材22により保護されることとなる。この結果、触媒担持基板9と単層CNT集合体28,29とは、前記プラズマの攻撃を避けることができ、前記単層CNTの成長が妨げられることがない。
【0037】
また、前記単層CNTは触媒担持基板9から第1の円筒状部材25に向かって成長するが、このときMo製基板保持部材22と触媒担持基板9とはその自重により該単層CNTを第1の円筒状部材25に押圧する。そこで、前記単層CNTには第1の円筒状部材25から前記押圧に対する反力が作用することとなり、該反力が該単層CNTの成長方向に対向する方向に加えられる押圧力となる。
【0038】
従って、前記単層CNTは、第1の円筒状部材25が当接されている部分では成長速度が制御される一方、第1の円筒状部材25が当接されていない貫通孔27の内部では成長速度が制御されることなく自由に成長する。この結果、第1の円筒状部材25が当接されている部分に成長する単層CNT集合体28は高密度となり、貫通孔27の内部に成長する単層CNT集合体29は長尺ではあるが、単層CNT集合体28に比較して密度が低くなる。
【0039】
また、前記押圧力を加える手段として、触媒担持基板9から上方に向かってCNTを成長させるときには、上方からCNTに当接される当接部材を用いることもできる。
【0040】
触媒担持基板9から上方に向かってCNTを成長させるときには、図4に示すように、触媒担持基板9はステンレス製の基板保持部8上に保持され、触媒担持層13が基材11に対しアンテナ6方向に位置するように配置される。また、触媒担持基板9上には、当接部材として、例えば質量1gのステンレス板31が載置される。尚、図4では、触媒担持基板9の反応防止層12及び分散層14を省略して示している。
【0041】
そこで、前記アンテナ型プラズマCVD法により、触媒担持基板9とステンレス板31との間に単層CNTが成長すると、ステンレス板31が上方から該単層CNTに当接されることとなる。この結果、ステンレス板31が、単層CNT集合体32が形成される際に、前記単層CNTの成長方向に対向する方向に加えられる押圧力となる。
【0042】
尚、図4の構成では、当初、触媒担持基板9とステンレス板31とは密着しているが、実際には両者はその表面にμmオーダー以下の微小な凹凸を備えており、両者の間には該凹凸により微小な間隙が形成されている。該間隙は、炭素原子に対しては十分に大きな間隙であり、この結果、触媒担持基板9とステンレス板31との間に単層CNTが成長することができる。
【0043】
また、基板保持部8には万力等の係止部材33を立設し、ある程度単層CNTが成長するとステンレス板31が係止部材33に係止され、該単層CNTにさらに大きな押圧力が加えられるようにしてもよい。
【0044】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0045】
〔実施例1及び比較例1〕
本実施例では、図1に示すアンテナ型プラズマCVD装置1において、基板保持部8に代えて、図3に示す基板保持手段21を用いて単層CNT集合体28,29を製造した。図3に示すアンテナ6の先端部6aと、Mo製基板保持部材22との距離は、50mmとした。
【0046】
また、基板保持手段21に保持される触媒担持基板9として、図2に示す構成において、シリコンからなる基材11と、Alからなる反応防止層12と、Feからなる触媒担持層13と、Alからなる分散層14とを備えるものを用いた。触媒担持基板9において、反応防止層12は50nmの厚さを備え、触媒担持層13は0.5nmの厚さを備え、分散層14は1.0nmの厚さを備えている。
【0047】
次に、原料ガス導入部3から原料ガスとしてのメタンとキャリアガスとしての水素との混合ガスをCH:H=10:90の容積比で供給しつつ、ガス排出部4からチャンバー2内のガスを排出し、チャンバー2内の圧力を7999Pa(60Torr)に保持した。この状態で、チャンバー2内部の温度を700℃とし、マイクロ波導波管5により2.45GHzのマイクロ波を120Wの出力で印加することによりアンテナ6の先端部6aに5時間に亘ってプラズマを発生させ、CNTを合成した。
【0048】
このとき、第1の円筒状部材25が当接されている部分に形成された単層CNT集合体28(実施例1)と、貫通孔27の内部に形成された単層CNT集合体29(比較例1)との透過型電子顕微鏡写真を図5に示す。図5から、単層CNT集合体28,29は触媒担持基板9に対し、垂直に配向していることが明らかである。
【0049】
また、第1の円筒状部材25が当接されている部分に形成された単層CNT集合体28の拡大図を図6(a)に、単層CNT集合体28のラマンスペクトルを図6(b)に示す。また、貫通孔27の内部に形成された単層CNT集合体29の拡大図を図7(a)に、単層CNT集合体29のラマンスペクトルを図7(b)に示す。
【0050】
次に、図5〜7から明らかになった単層CNT集合体28,29の物性について表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から、第1の円筒状部材25が当接されている部分で単層CNTの成長方向に対向する方向に押圧力が加えられることにより合成された単層CNT集合体28は、貫通孔27の内部で該押圧力が加えられることなく合成された単層CNT集合体29に比較して、高密度になっていることが明らかである。また、単層CNT集合体28は、単層CNT集合体29に比較してG/D比が大であり、CNTとしてより欠陥の少ない優れた品質を備えていることが明らかである。
【0053】
尚、G/D比とは、単層CNTにおける結晶品質を定量化する指標であり、ラマンスペクトルにより1590cm−1付近に得られるGピークと、1350cm−1付近に得られるDピークと強度比によって示される値である。
【0054】
〔実施例2及び比較例2〕
本実施例では、図1に示すアンテナ型プラズマCVD装置1において、図4に示す基板保持部8を用いた以外は、実施例1と全く同一にして単層CNT集合体を製造した。
【0055】
また、本比較例では、図4に示す基板保持部8において、ステンレス板31を用いない以外は前記実施例と全く同一にして単層CNT集合体を製造した。
【0056】
図4に示す基板保持部8において、ステンレス板31を用いた場合を実施例2、ステンレス板31を用いない場合を比較例2として、それぞれの単層CNT集合体の物性について表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2から、単層CNT上にステンレス板31が当接されて、該単層CNTの成長方向に対向する方向に押圧力が加えられることにより合成された実施例2の単層CNT集合体は、ステンレス板31により該押圧力が加えられることなく合成された比較例2の単層CNT集合体に比較して高密度になっていることが明らかである。
【符号の説明】
【0059】
1…アンテナ型プラズマCVD装置、 2…チャンバー、 6…アンテナ、 8…基板保持部、 9…触媒担持基板、 11…基材、 12…反応防止層、 13…触媒担持層、 14…分散層、 21…基板保持手段、 23…石英製当接部材、 31…ステンレス板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7