(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態では、繊維集合体は、熱可塑性樹脂を含む繊維の集合体である。前記繊維が、1600〜5000g/10minの範囲内のメルトフローレートと、250〜7000mPa・sの範囲内の溶融粘度とのうち、少なくとも一方を有する。前記繊維の径の中央値が0.3μm〜0.9μmの範囲内である。前記繊維のうち8μm以下の径を有する繊維の数量が99%以上である。
【0012】
このため、繊維集合体及びこの繊維集合体を備える吸音材は、中音域の音、特に500〜1500Hzの周波数を有する音を、効果的に吸収できる。
【0013】
繊維集合体を備える吸音材は、車載用であることが好ましい。特に吸音材が、電気自動車、ハイブリッド車等のような内燃機関以外の駆動源を備える輸送車両における駆動音抑制用に適用された場合、駆動源が駆動音を効果的に吸音できる。
【0014】
本実施形態に係る繊維集合体及び吸音材について、更に詳しく説明する。
【0015】
上記の通り、繊維集合体中の繊維は、熱可塑性樹脂を含む。
【0016】
上記の通り、繊維は、1600〜5000g/10minの範囲内のメルトフローレートと、250〜7000mPa・sの範囲内の溶融粘度とのうち、少なくとも一方を有する。
【0017】
本実施形態における繊維のメルトフローレート及び溶融粘度の意義について、詳しく説明する。発明者は、多くの実験を通じて、繊維の材質が中音域の音の吸収性に大きく影響することを見いだし、その要因を検討した結果、繊維のメルトフローレート及び溶融粘度が中音域の音の吸収性と大きく相関するとの知見を得た。この知見に基づいて、発明者は繊維のメルトフローレート又は溶融粘度を規定することにより中音域の音の吸収性を向上することを試みた。その結果、上記のように繊維が1600〜5000g/10minの範囲内のメルトフローレートと、250〜7000mPa・sの範囲内の溶融粘度とのうち、少なくとも一方を有すれば、中音域の音の吸収性が大きく向上することを、見いだした。
【0018】
また、特に繊維のメルトフローレートが5000g/10min以下であることで、繊維集合体は、高い耐熱性も有する。
【0019】
さらに、繊維が1600〜5000g/10minの範囲内のメルトフローレートと、250〜7000mPa・sの範囲内の溶融粘度とのうち、少なくとも一方を有すれば、繊維集合体に高い耐熱性を付与できる。なお、本明細書において、繊維集合体の耐熱性が高いとは、繊維集合体が加熱されても、繊維集合体の中音域の音の吸収性が、低減しにくいことをいう。
【0020】
さらに、繊維が1600〜5000g/10minの範囲内のメルトフローレートと、250〜7000mPa・sの範囲内の溶融粘度とのうち、少なくとも一方を有すれば、繊維の材料(以下、紡糸用材料という)を紡糸して繊維を製造する際に、繊維の径の中央値が0.3μm〜0.9μmの範囲内という小さい値であるにもかかわらず、繊維を安定して製造できるとともに、繊維集合体の低密度化が容易である。すなわち、繊維が1600g/10min以上のメルトフローレートと7000mPa・s以下の溶融粘度とのうち少なくとも一方を有すると、紡糸用材料を紡糸して繊維を製造する際に、紡糸用材料が流動しやすいために繊維の径を小さくすることが容易である。また、この場合において、メルトブローン法のように紡糸時に気流の吹きつけを行う場合には、弱い気流においても繊維の径を更に小さくすることが可能となり、繊維集合体の密度を低くすることが容易である。そのため、紡糸の条件が同じであれば、繊維が1600g/10min以上のメルトフローレートと7000mPa・s以下の溶融粘度とのうち少なくとも一方を有する場合には、そうでない場合よりも、繊維の径を小さくできるとともに、繊維集合体の密度を低くできる。また、繊維が5000g/10min以下のメルトフローレートと250mPa・s以上の溶融粘度とのうち少なくとも一方を有すると、紡糸によって十分な長さを有する繊維を形成することが容易であり、このため繊維を捕集して線維集合体を作製することが容易である。このため、紡糸用材料を紡糸する際の気流の量を抑制しながら、小さい径を有する繊維を製造することが可能となり、密度が低い繊維集合体を製造することが可能となる。
【0021】
繊維は、好ましくは2000〜5000g/10minの範囲内のメルトフローレートを有し、より好ましくは3500〜5000g/10minの範囲内のメルトフローレートを有する。繊維が2000g/10min以上のメルトフローレートを有する場合は、更に繊維の径を小さくできるとともに、繊維集合体の密度を低くできる。繊維が3500g/10min以上のメルトフローレートを有する場合は、特に繊維の径を小さくできるとともに、繊維集合体の密度を低くできる。
【0022】
また、繊維は、好ましくは250〜3000mPa・sの範囲内の溶融粘度を有し、より好ましくは250〜800mPa・sの範囲内の溶融粘度を有する。繊維が3000mPa・s以下の溶融粘度を有する場合は、更に繊維の径を小さくできるとともに、繊維集合体の密度を低くできる。繊維が800mPa・s以下の溶融粘度を有する場合は、特に繊維の径を小さくできるとともに、繊維集合体の密度を低くできる。
【0023】
繊維の融点若しくは軟化点は、130℃以上であることが好ましい。この場合、繊維集合体が加熱されても、繊維集合体の中音域の音の吸収性が低減しにくい。融点若しくは軟化点が140℃以上であれば、より好ましい。融点若しくは軟化点が150℃以上であれば更に好ましい。
【0024】
なお、繊維のメルトフローレートは、ASTM D1238に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。また、繊維の溶融粘度は、230℃における溶融粘度である。また、繊維の融点及び軟化点は、DSC法にて昇温速度5℃/分の条件で得られる融解熱ピークの頂点から求められる。
【0025】
また、上記の繊維のメルトフローレート、溶融粘度、並びに融点及び軟化点は、繊維集合体中の繊維に関する値であり、紡糸用材料に関する値ではなく、紡糸用材料に含まれる成分に関する値でもない。
【0026】
繊維の径の中央値は0.3μm〜0.9μmの範囲内であり、繊維全体に対する、これらの繊維のうち8μm以下の径を有する繊維の数量は、99%以上である。本実施形態では、このように繊維集合体中の繊維の径が規定されることで、繊維集合体及び吸音材の、中音域の音の吸収性を向上できる。
【0027】
繊維の径を規定することによる中音域の音の吸収性向上について、詳しく説明する。多孔質型の吸音材について公知のBiotモデルによると、吸音材中の繊維の径が小さくなるほど、吸音材の吸音特性のピークが2kHzより低周波領域にシフトする。しかし、実際には、単に径が小さい繊維を含むだけでは中音域の音の吸収性は十分には高くならない。これは、吸音材中に径の小さい繊維と径の大きい繊維とが混在すると、吸音材中の空気の流動が生じやすくなり、そのことが中音域の音の吸収性を阻害するためであると、発明者は推測した。この推測に基づいて、発明者は繊維の径を規定することにより中音域の音の吸収性を向上することを試みた。その結果、上記のように繊維の径の中央値が0.3μm〜0.9μmの範囲内であるだけでなく、更に繊維全体に対する、8μm以下の繊維径を有する繊維の数量が99%以上であると、中音域の音の吸収性が大きく向上することを、発明者は見いだした。
【0028】
繊維全体に対する、これらの繊維のうち5μm以下の径を有する繊維の数量が99%以上であれば、特に好ましい。この場合、中音域の音の吸収性を更に向上できる。
【0029】
繊維の最大径が10μmより小さいことが、特に好ましい。すなわち、繊維集合体が、10μm以上の径を有する繊維を含まないことが、特に好ましい。この場合、繊維集合体の単位体積あたりの、小さい径を有する繊維の重量割合が増大し、このため、中音域の音の吸収性が特に高くなる。
【0030】
繊維の長さは、例えば5mm以上あれば好ましいが、繊維同士が十分に絡み合うことが可能な長さがあれば、特にこれに制限されない。
【0031】
各繊維のアスペクト比の値は、1000以上であることが好ましい。
【0032】
なお、繊維の径及び長は、繊維を電子顕微鏡で撮影して得られる画像を画像処理することで測定される。また繊維の径の中央値は、200本の繊維の径の測定結果から算出される、数量基準の中央値である。本実施形態における繊維の径及び長さを規定するに当たっては、繊維同士が熱融着している部分、及び繊維化しきらずに塊状となっている部分は、繊維とはみなされない。
【0033】
繊維集合体は、0.03g/cm
3以下の密度を有することが好ましい。この場合、繊維集合体の、中音域の音の吸収性が、更に向上する。繊維集合体が、0.003g/cm
3以上の密度を有することも好ましい。この場合、繊維集合体の自重による変形及び密度変化が抑制され、このため、繊維集合体の良好な吸収性が長期にわたって維持されうる。
【0034】
繊維集合体は、例えばシート又は層状である。繊維集合体がシート又は層状である場合、繊維集合体の目付け量(すなわち、単位平面視面積あたりの質量)は、好ましくは100〜1000g/m
2の範囲内、より好ましくは100〜600g/m
2の範囲内、更に好ましくは100〜500g/m
2の範囲内である。目付け量が100g/m
2以上であれば、繊維集合体はより高い吸音性を有することができる。また、目付け量が1000g/m
2以下であれば、繊維集合体のコンパクト化及び軽量化が可能であり、このため、特に繊維集合体が車載用である場合の、車両設計の自由度が高まる。
【0035】
繊維に含まれる成分について、詳しく説明する。
【0036】
熱可塑性樹脂は、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、1−ブテン重合体、1−ヘキセン重合体、1−オクテン重合体、1−デセン重合体、1−ヘキサデセン重合体、1−ヘプタデセン重合体、1−オクタデセン重合体、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリブテン、ポリ乳酸、ポリビニールアルコール、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、液晶ポリマー、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアクリロニトリル、環状ポリオレフィン及びポリオキシメチレンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。また、熱可塑性樹脂は、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、パラフィンワックスといった、ワックス状の成分を含有してもよい。特に、熱可塑性樹脂がポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー及びパラフィンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。この場合、繊維集合体の、中音域の音の吸収性が、特に高くなる。
【0037】
熱可塑性樹脂は、二種以上の樹脂を含有でき、この場合、これらの樹脂は、互いに異なるメルトフローレートと、互いに異なる溶融粘度とのうち、少なくとも一方を有することができる。この場合、熱可塑性樹脂中の各樹脂の量を調整することで、繊維のメルトフローレートと溶融粘度とのうち少なくとも一方を、容易に調整できる。また、熱可塑性樹脂の成分として、その物性が繊維と合致しない成分、すなわちそのメルトフローレートが1600〜5000g/10minの範囲内にないとともにその溶融粘度が250〜7000mPa・sの範囲内にない成分を、適用することが可能である。このため、熱可塑性樹脂の成分の選択の自由度が高まる。
【0038】
熱可塑性樹脂中の少なくとも一部の成分(以下、特定成分という)は、熱分解工程を経て製造されてもよい。熱分解工程とは、特定成分の原料(以下、特定原料という)を熱分解させることで、分子量が調整された特定成分を得る工程のことである。この場合、特定成分の分子量を調整することで、繊維のメルトフローレートと溶融粘度とのうち少なくとも一方を、容易に調整できる。また、特定原料として、そのメルトフローレートが1600g/10minよりも小さいとともにその溶融粘度が7000mPa・sよりも高い成分を適用することが可能である。このため、熱可塑性樹脂の原料の選択の自由度が高まる。例えば熱可塑性樹脂が二種以上の樹脂を含有する場合、このうち少なくとも一種の樹脂が、熱分解工程を経て製造されてもよい。また、熱可塑性樹脂の全てが、熱分解工程を経て製造されてもよい。
【0039】
また、繊維集合体を支持体等に熱融着させる際に溶融しないためには、熱可塑性樹脂が高い結晶性を有することが好ましい。熱可塑性樹脂の表面張力ができるだけ低いことも好ましく、この場合、熱可塑性樹脂を含有する紡糸用材料を紡糸して繊維を作製する場合に安定した紡糸が可能である。
【0040】
繊維は、熱可塑性樹脂よりも低いメルトフローレートと熱可塑性樹脂よりも低い溶融粘度とのうち少なくとも一方を有する可塑剤を含有してもよい。この場合、可塑剤の量を調整することで、繊維のメルトフローレートと溶融粘度とのうち少なくとも一方を、容易に調整できる。また、熱可塑性樹脂として、そのメルトフローレートが1600g/10minよりも小さいとともにその溶融粘度が7000mPa・sよりも高い成分を適用することが可能である。このため、熱可塑性樹脂の選択の自由度が高まる。
【0041】
可塑剤は、熱可塑性樹脂との相溶性を有することが好ましい。この場合、繊維から可塑剤がブリードアウトすることが抑制される。ただし、熱可塑性樹脂との相溶性を有さない材料も、ブリードアウトが生じない程度の少量であれば、繊維に含有されていてもよい。
【0042】
可塑剤は、例えばオイルなどの液状の材料を含有してもよい。具体的には、可塑剤は、例えば流動パラフィン、石油系潤滑油、ナフサ潤滑油、シリコーンオイル、フッ素形オイルなどの合成油、及びグリースからなる群から選択される一種以上の材料を含有できる。
【0043】
熱可塑性樹脂と可塑剤の合計に対し、可塑剤は例えば0.1〜50質量%の範囲内であるが、これに限定されない。
【0044】
なお、樹脂及び可塑剤の溶融粘度は、株式会社アントンパール・ジャパン製粘弾性測定装置MCR302を用いて、窒素雰囲気下、230℃においてせん断速度10〔1/s〕の条件下で測定される動的粘度である。また、樹脂及び可塑剤の溶融粘度は、230℃における溶融粘度である。
【0045】
繊維集合体中の繊維は酸化防止剤を含むことができる。この場合、繊維集合体の耐熱性が向上する。さらに、ベース樹脂を含有する紡糸用材料を紡糸して繊維を作製する場合には、紡糸用材料に酸化防止剤を含有させると、材料混練時、紡糸時のベース樹脂等、そして紡糸後の吸音材の酸化劣化が抑制される。
【0046】
酸化防止剤は、ベース樹脂等の材料の合成時に、ベース樹脂の原料と混合されていてもよい。また、酸化防止剤は、紡糸用材料の調製時に、ベース樹脂等と混合されてもよい。
【0047】
酸化防止剤は、例えばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドラジン系酸化防止剤、アミド系酸化防止剤及び光安定化剤(HALS)からなる群から選択される少なくとも一種の材料を含有できる。
【0048】
特に酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤を含有すると、繊維集合体の長期的な耐熱性の向上が得られる。フェノール系酸化防止剤は、ヒンダードタイプ、セミヒンダードタイプ及びレスヒンダードタイプのうち、いずれでもよい。また、酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤に加えてリン系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤とのうち少なくとも一方を含有すると、紡糸時のベース樹脂等の酸化劣化が更に抑制される。
【0049】
酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを共に含むことが特に好ましい。このような二種の酸化防止剤が組み合わされることで、繊維集合体の耐熱性が向上するとともに高い耐熱性が長期にわたって維持される。すなわち、高温下でも、中音域の音の高い吸収性が長期にわたって維持される。
【0050】
繊維がフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを含む場合、熱可塑性樹脂に対するフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤との合計の百分比は、0.1〜2.0質量%の範囲内であることが好ましい。この百分比が0.1質量%以上であれば、繊維の酸化劣化を特に抑制できる。またこの百分比が2.0質量%より多くなると、繊維集合体の酸化劣化の抑制作用が飽和してしまい、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤の量が不必要に増大してしまうとともに経済的な不利益も生じるため、百分比は2.0質量%以下が好ましい。フェノール系酸化防止剤のリン系酸化防止剤に対する質量比は1.0/3.0〜3.0/1.0の範囲内であることが好ましい。この質量比が1.0/3.0以上であることで、高い耐熱性が特に長期にわたって維持される。またこの質量比が3.0/1.0以下であることで、繊維集合体の耐熱性が特に高くなる。さらに、紡糸によって繊維を得る際のフェノール系酸化防止剤の消費を抑えることができる。
【0051】
繊維は、耐候安定剤、耐光安定剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料、柔軟剤、親水材、助剤、撥水剤、フィラー、抗菌剤等の添加剤を含有してもよい。
【0052】
繊維は、上述の通り、例えば熱可塑性樹脂を含有する紡糸用材料を紡糸することで作製されうる。
【0053】
紡糸用材料の組成は、繊維の組成に合致するように決定される。すなわち、紡糸用材料は、可塑剤を含むことができる。紡糸用材料は、酸化防止剤を含むこともできる。紡糸用材料がフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを含んでもよい。また、紡糸用材料は、耐候安定剤、耐光安定剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料、柔軟剤、親水材、助剤、撥水剤、フィラー、抗菌剤といった、添加剤を含有してもよい。
【0054】
紡糸用材料の調製のためには、例えば紡糸用材料の成分をドライブレンドしてもよく、紡糸用材料の成分を加熱して溶融させた状態で混合してもよい。紡糸用材料の成分を加熱して溶融させた状態で混合する場合は、成分を加熱容器内でバッチ式で混合してもよく、連続式の紡糸押出機で混合してもよい。連続式の紡糸押出機で混合する場合は、紡糸押出機は、単軸式、二軸式及び多軸式のうちいずれでもよい。
【0055】
紡糸用材料を紡糸する方法として、メルトブローン法、電界紡糸法といった、溶融紡糸法を適用できる。この場合、繊維を安定して製造できる。
【0056】
溶融紡糸法で繊維を製造する場合、例えばまず紡糸用材料を加熱することで溶融させる。なお、連続式の紡糸押出機で紡糸用材料を調製する場合は、紡糸用材料は溶融した状態で調製される。この溶融した紡糸用材料をノズルから吐出する。ノズルから吐出された紡糸用材料に加熱された気流を吹き付けることで、紡糸用材料を延伸してもよい。気流の方向は、ノズルからの紡糸用材料の吐出方向に沿った方向でもよく、この吐出方向とは異なる方向でもよい。ノズルから吐出された紡糸用材料に電圧を印加することで、繊維を延伸してもよい。これにより、繊維を製造できる。
【0057】
繊維の径は、紡糸用材料の組成に応じて、例えば紡糸用材料を溶融させる際の加熱条件、ノズルの穴径、ノズルからの紡糸用材料の吐出量、気流を吹き付ける場合の気流の温度及び流量、並びに電圧を印加する場合の電圧の印加条件を調整することで、制御されうる。
【0058】
紡糸用材料を溶融させるための加熱温度は、紡糸用材料の組成に依存するが、紡糸用材料中の熱可塑性樹脂の融点又は軟化点より10℃高い温度以上、熱可塑性樹脂の熱分解温度以下の範囲内であることが好ましい。ノズルからの紡糸用材料の吐出量は、ノズルの一つの穴当り0.05〜0.5g/分の範囲内であることが好ましい。紡糸時に繊維に気流を吹き付ける場合は、気流の温度は200〜450℃の範囲内であることが好ましい。気流の流量は、50〜500Nm
3/時・mの範囲内であることが好ましい。
【0059】
繊維を製造する際、上述の通り、特定原料を熱分解させて分子量が調整された特定成分を得ることで、特定成分を含有する繊維を製造してもよい。
【0060】
特定原料の熱分解に当たっては、例えば紡糸用材料を調製する前に、特定原料を、好ましくは不活性雰囲気下(例えば窒素雰囲気下)又は減圧雰囲気下で、特定原料の熱分解が生じる温度下に配置することで、特定原料を熱分解させる。この温度は、特定原料の種類に依存し、例えば特定原料がポリプロピレン樹脂である場合には、300℃以上である。特定原料の熱分解は、加熱容器内でバッチ式で行われてもよく、密閉式の連続式反応機内で連続式で行われてもよい。これより得られた特定成分と、繊維の特定成分以外の成分とを混合することで、紡糸用材料を調製できる。この紡糸用材料を紡糸することにより、特定成分を含有する繊維を作製できる。
【0061】
特定原料と繊維の特定成分以外の成分とを混合して特定原料を含有する紡糸用材料を調製し、この紡糸用材料を紡糸して繊維を作製する際に紡糸用材料中の特定原料を熱分解させることで、特定成分を含有する繊維を作製してもよい。例えば紡糸用材料を上記のように溶融紡糸することで繊維を作製する場合に、紡糸用材料を溶融させる際の温度を紡糸用材料を特定原料の熱分解が生じる温度とすることで、特定原料を熱分解させてもよい。ただし、繊維集合体をより安定して製造するためには、紡糸用材料を調製する前に特定原料を熱分解させる方が好ましい。
【0062】
なお、熱分解が生じる温度は、例えば不活性雰囲気下で特定原料の重量減少が生じる温度、又は不活性雰囲気下で特定原料の溶融粘度が低下する温度である。
【0063】
本実施形態では、繊維が、1600〜5000g/10minの範囲内のメルトフローレートと、250〜7000mPa・sの範囲内の溶融粘度とのうち、少なくとも一方を有するため、このような繊維を上記の溶融紡糸法で安定して製造することができ、これにより、8μm以下の径を有する繊維の数量が99%以上である繊維を安定して製造できる。
【0064】
繊維を集合させることで、繊維集合体が得られる。繊維集合体内では、繊維が絡み合っていることが好ましい。繊維集合体は、例えば不織布状であるが、これに制限されない。
【0065】
繊維集合体には、アニール処理を施すことが好ましい。例えば繊維集合体を100℃の加熱温度で2時間処理することが好ましい。アニール処理により、繊維の結晶化が促進されて、繊維集合体の形状安定性が増す。
【0066】
吸音材は、繊維集合体のみで構成されてもよいし、繊維集合体と、繊維集合体を支持する支持体とを備えてもよい。支持体は、例えばマイクロファイバー不織布である。吸音材は、繊維集合体と、繊維集合体を内包する袋とを備えてもよい。袋は、例えばマイクロファイバー不織布製である。繊維集合体を支持体に支持させるためには、熱間プレス又は熱風の吹きつけによって繊維集合体を支持体に熱融着させてもよい。
【0067】
繊維集合体は、120℃の耐熱性を有することが好ましい。この耐熱性は、繊維集合体に対して、120℃の高温空気雰囲気下に500時間曝露する処理を施した後の繊維集合体の垂直吸音率に基づいて評価される。この処理後の繊維集合体の600Hzの音の吸音率が20%以上かつ1000Hzの音の吸音率が50%以上である場合、120℃の耐熱性を有すると評価される。
【0068】
このような高い耐熱性は、繊維集合体を構成する繊維の組成を、上記説明の範囲内で適宜調整することで、達成可能である。
【実施例】
【0069】
(1)実施例及び比較例の繊維集合体の作製
実施例10の場合を除き、後掲の表の「組成」の欄に示す成分を、不活性条件下で、200℃で溶融させた状態で10分間混合してから、室温まで冷却することで固化させ、更に粉砕することで、紡糸用材料を得た。
【0070】
実施例10の場合は、後掲の表の「組成」の欄に示す成分のうち酸化防止剤以外を、窒素雰囲気下の反応容器内に入れて、混合物を得た。反応容器内で混合物を撹拌しながら350℃まで昇温させてから、10分間保持することで、混合物中のPP樹脂(f)を熱分解させた。続いて、混合物を200℃まで冷却した。続いて混合物に酸化防止剤を加えて5分間混合してから、室温に冷却することで固化させ、更に粉砕することで、紡糸用材料を得た。
【0071】
紡糸用材料を溶融紡糸法で紡糸することで、繊維を得た。具体的には、紡糸用材料を溶融させてから、紡糸用材料をノズルから吐出しながら、この紡糸用材料に気流を吹き付けることで、繊維を得た。紡糸用材料を溶融させるための加熱温度、ノズルの一つの穴当りの紡糸用材料の吐出量、ノズルの穴径、気流の温度及び気流の速度の条件は、表中の「紡糸条件」の欄に示す通りである。なお、比較例3の場合は、0.25mm径の穴と、1.0mm径の穴とを、15:1の数量比で有するノズルを用いた。紡糸用材料の吐出量は、ノズルの穴径の値ごとに独立した押し出し機から規定量の紡糸用材料を押し出すことで調整した。
【0072】
さらに、ノズルから吐出した紡糸用材料が冷却されることで形成された繊維を、コンベア上で捕集することで、不織布状の繊維集合体を得た。コンベアの送り速度は、繊維集合体の目付け量が400g/m
2となるように調整した。なお、実施例11の場合は、目付け量20g/m
2のスパンボンド不織布上で繊維集合体を作製してから、熱ロールプレスによってスパンボンド不織布と繊維集合体とを接着した。
【0073】
後掲の表中の成分の詳細は下記の通りである。
・PP樹脂(a):サンアロマー社製のポリプロピレン樹脂、品番PWH00N、重量平均分子量8.7万、メルトフローレート1700g/10min、230℃溶融粘度6000mPa・s、融点166℃。
・PP樹脂(b):三井化学社製の結晶性ポリプロピレン樹脂(ホモポリマー)、品番NP805、重量平均分子量3.5万、メルトフローレート3500g/10min、230℃溶融粘度800mPa・s、融点155℃。
・PP樹脂(c):三井化学社製の結晶性ポリプロピレン樹脂(ホモポリマー)、品番NP500、重量平均分子量3.5万、メルトフローレート5000g/10min、230℃溶融粘度270mPa・s、融点164℃。
・PP樹脂(d):三井化学社製の結晶性ポリプロピレン樹脂(ホモポリマー)、品番NP055、重量平均分子量1.0万、メルトフローレート6000g/10min、230℃溶融粘度25mPa・s、融点145℃。
・PP樹脂(e):トータルペトロケミカル製のポリプロピレン樹脂、品番3962、重量平均分子量14.5万、メルトフローレート1300g/10min、230℃溶融粘度7500mPa・s、融点165℃。
・PP樹脂(f):ポリミレイ製のポリプロピレン樹脂、品番HP461X、重量平均分子量15万、メルトフローレート1100g/10min、230℃溶融粘度8600mPa・s、融点168℃。
・PE樹脂:三井化学社製のポリエチレンワックス、品番40800、230℃溶融粘度135mPa・s、融点130℃。
・パラフィン:日本精鑞社製のパラフィンワックス、品番FT115、230℃溶融粘度5mPa・s、融点113℃。
・熱可塑性エラストマー:エクソンモービル社製の品名VISTAMAXX、品番6202、メルトフローレート20g/10min、230℃溶融粘度196000mPa・s、軟化点94℃。
・フェノール系酸化防止剤:BASF社製のフェノール系酸化防止剤、品名IRGANOX 1010。
・リン系酸化防止剤:株式会社ADEKA製のリン系酸化防止剤、品名アデカスタブPEP−36。
【0074】
(2)評価試験
各実施例及び比較例について、下記の評価試験を行った。その結果を後掲の表の「評価試験」の欄に示す。
【0075】
なお、比較例4の場合は、紡糸用材料を紡糸しても、繊維状に成形することは困難であったが、繊維とみなせる成形体のみを集めて繊維集合体を作製し、これについて評価を行った。
【0076】
(2−1)メルトフローレート評価試験
ASTM D−1238に準拠して、繊維集合体中の繊維のメルトフローレートを測定した。なお、メルトフローレートの測定条件は、繊維を作製するために用いた紡糸用材料中の熱可塑性樹脂の種類に応じて決定され、紡糸用材料中の熱可塑性樹脂が二種以上の樹脂を含有する場合は、そのうち最も質量割合が大きい樹脂の種類に応じて決定された。
【0077】
(2−2)溶融粘度評価試験
株式会社アントンパール・ジャパン製の粘弾性測定装置(型番MCR302)を用いて、繊維集合体中の繊維の、230℃における溶融粘度を、窒素雰囲気下、せん断速度10〔1/s〕の条件下で測定した。
【0078】
(2−3)繊維径の測定
カーボンテープにおける3mm×3mmの領域に繊維集合体中の繊維を貼り付けてから、繊維にAuを2分間程度蒸着することで、繊維をAuでコーティングした。続いて、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製、型番VE−7800)を用いて繊維の3000倍の画像を得た。この画像を画像処理することで、任意の200本の繊維の径を測定し、この測定結果から、繊維の径の中央値を算出した。
【0079】
また、この測定結果から、200本の繊維のうち、10μm以上の径を有する繊維の数量の割合、8μm以下の径を有する繊維の数量の割合、及び5μm以下の径を有する繊維の数量の割合を、算出した。
【0080】
(2−4)目付け量及び密度
繊維集合体を切断して、平面視50mm×50mmの寸法を有する10個のサンプルを作製した。サンプルの質量を測定し、その結果から質量の平均値を算出した。サンプルの質量の平均値を、サンプルの平面視面積で除することで、繊維集合体の目付量を算出した。
【0081】
また、サンプルにおける四つの辺の各々の中央部の厚みをノギスで測定し、その測定結果からサンプルの厚みの平均値を算出した。サンプルの平面視面積にサンプルの厚みの平均値を乗じて得た値を、サンプルの体積の平均値とした。サンプルの質量の平均値を、サンプルの体積の平均値で除することで、繊維集合体の密度を算出した。
【0082】
(2−5)吸音特性試験
繊維集合体から、平面視直径29mmの寸法を有する試験片を切り出した。この試験片の、600Hz、1000Hz及び1500Hzの各周波数の音の垂直入射吸音率を、JIS A1405−2に基づいて、音響インピーダンス管を備える垂直吸音システム(株式会社小野測器製、型番DS−200)で測定した。
【0083】
(2−6)耐熱性試験
上記の吸音特性試験後の繊維集合体を、120℃で500時間加熱してから、上記吸音特性試験の場合と同じ方法で、600Hz、1000Hz及び1500Hzの各周波数の音の垂直入射吸音率を測定した。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【解決手段】繊維集合体は、熱可塑性樹脂を含む繊維の集合体である。繊維は、1600〜5000g/10minの範囲内のメルトフローレートと、250〜7000mPa・sの範囲内の溶融粘度とのうち、少なくとも一方を有する。繊維の径の数量基準の中央値は、0.3μm〜0.9μmの範囲内である。繊維のうち8μm以下の径を有する繊維の数量は、99%以上である。