(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
SOCとOCVとの関係を表す相関曲線をSOHごとに予め求めておき、重み付けに使用される相関曲線として、算出されたSOHに対応する相関曲線を選択することを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池のSOC推定装置。
SOCとOCVとの関係を表す相関曲線をSOHごとに予め求めておき、重み付けに使用される相関曲線として、算出されたSOHに対応する相関曲線を選択することを特徴とする請求項4又は5に記載の二次電池のSOC推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の二次電池のSOC推定装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、以下の実施の形態では、二次電池として、リチウムイオン二次電池を例にして説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、その他の二次電池においても同様に用いることが可能である。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の二次電池のSOC推定装置を含む二次電池システムの構成を示す図である。二次電池システムは、
図1に示すように、二次電池2の制御を行うBMU(Battery Management Unit)1と、二次電池2と、二次電池2の端子間電圧を測定する電圧センサ3と、通電電流を測定する電流センサ4と、電池温度を測定する温度センサ5とを備えており、二次電池2の電力を消費又は二次電池2に電力を回生するモータ6に接続されている。この構成中、BMU1が本発明のSOC推定装置を含む。なお、図示していないが、二次電池システムは、二次電池2とモータ6との間に、二次電池2の電圧を昇降圧するコンバータ、直流電流と交流電流とを変換するインバータなどを備えていてもよい。また、二次電池2の数は1つに限定されず、複数の二次電池2を直列、並列又はそれらを組み合わせた電池モジュールとして用いてもよい。このとき、各々の二次電池2について各種情報を測定又は推定してもよいが、複数の二次電池2ごとに各種情報を測定又は推定することで平均化した各種情報を得てもよい。
【0013】
図2は、BMU1の制御システムの構成を示す図である。BMU1の制御システムでは、
図2に示すように、電圧センサ3によって測定された二次電池2の端子間電圧、電流センサ4によって測定された通電電流、及び温度センサ5によって測定された電池温度の情報がBMU1のSOC推定装置7に入力され、これらの情報に基づいてSOC推定装置7がSOCを推定する。そして、SOC推定装置7で推定されたSOC及び各センサからの情報に基づいて制御部8が二次電池2に対する充放電の制御指令を行う。
【0014】
次に、SOC推定装置7におけるSOCの推定方法について説明する。
図3は、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2のSOCとOCVとの関係を表す相関曲線を示すグラフである。
図3に示すように、二次電池2の充電を行う場合、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に従い、SOCが0%から100%まで増加するにつれてOCVが上昇する。逆に、二次電池2の放電を行う場合、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に従い、SOCが100%から0%まで低下するにつれてOCVが下降する。充電過程と放電過程とではSOCとOCVとの関係を表す相関曲線が異なり、ヒステリシスが生じている。
【0015】
ここで、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10は、二次電池2のSOCが0%になるまで放電した後、充分な休止時間を経た状態から、一定容量ずつ充電するごとにOCVを測定することで得ることができる。また、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11は、二次電池2のSOCが100%になるまで充電した後、充分な休止時間を経た状態から、一定容量ずつ放電するごとにOCVを測定することで得ることができる。一定容量ずつ充放電を行う際、充放電後の休止時に電圧が増減する挙動が見られるため、この挙動がある程度収まる程度の時間が経過した後にOCVを測定する。この挙動がある程度収まる程度の時間としては、特に限定されないが、一般に1時間程度である。
【0016】
SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なるヒステリシス現象は、二次電池2の電極を構成する材料に主に起因する。すなわち、正極電極に用いられる正極活物質、及び負極電極に用いられる負極活物質がヒステリシス現象の主な発生要因となる物質である。
【0017】
リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質は、リチウムを含む金属酸化物から構成されており、その構成材料によってヒステリシスの発生状況が変化する。また、負極活物質は、黒鉛又はハードカーボンなどの炭素材料から主に構成さており、ハードカーボンを負極活物質として用いた負極は、黒鉛を負極活物質として用いた負極に比べてヒステリシスが大きくなる傾向にある。
【0018】
ハードカーボンを負極活物質として用いた負極を有するリチウムイオン二次電池においてヒステリシスが大きくなる要因は、以下のように考えられる。
黒鉛を負極活物質として用いた場合、充電時は、カーボンが平面状に結合してなるグラフェン層の間にリチウムが挿入される。一方、ハードカーボンは、黒鉛に比べてグラフェン層が発達していないため、これを負極活物質として用いた場合、グラフェン層の間にリチウムが挿入された状態(以下、「挿入状態」と略す。)、及びグラフェン層の末端のカーボンにリチウムが結合した状態(以下、「結合状態」と略す。)の2種類の状態が混在する。
【0019】
ハードカーボンを負極活物質として用いた場合、リチウムイオン二次電池の充電過程では、エネルギー準位の低いグラフェン層にリチウムが優先的に挿入される。充電量の増加に伴い挿入状態のリチウムが増加すると、挿入状態のリチウムのポテンシャルエネルギーが高くなる。さらに、充電を続けると、挿入状態のリチウムの一部は、挿入状態のリチウムと結合状態のリチウムとの間のエネルギー障壁を上回るエネルギー準位となる結果、結合状態のリチウムへと緩やかに変化する。
【0020】
リチウムイオン二次電池の放電過程では、高SOCに予め充電されているため、結合状態のリチウムが多量に存在している。放電の際のリチウムの脱離は挿入状態のリチウムから優先的に進行するが、放電量の増加に伴い挿入状態のリチウムのエネルギー準位が結合状態のリチウムよりも低くなる。その結果、結合状態のリチウムの一部は、挿入状態のリチウムに変化するが、変化速度が緩やかなため、短期的にみると同じリチウムの蓄積量であっても充電過程と異なった状態をとる。
【0021】
上記のように、充電過程及び放電過程で同じリチウムの蓄積量であっても、リチウムの存在状態に違いがあると、負極電位に差異が生じ、ヒステリシス現象が発生することになる。また、低SOCに放電を続けると、結合状態のリチウムから挿入状態のリチウムへの変化が促進される。このような充放電過程において、充電時に挿入状態のリチウムから結合状態のリチウムへの変化が始まるSOCでヒステリシスの幅が最も大きくなる。
結合状態のリチウムが多い放電過程のOCVは、同一のSOCで比較すると、充電過程のOCVよりも小さいため、結合状態のリチウムの蓄積量は、負極電位に与える影響が小さく、挿入状態のリチウムの蓄積量が負極電位を変動させると考えられる。
【0022】
負極のリチウムは、上記した2つの状態間で反応速度が平衡に達するまで緩やかに変化し、長時間をかけて負極のリチウム蓄積量に見合った状態へと収束する。そのため、リチウムイオン二次電池の充放電を停止した後の休止時間の間にOCVに緩やかな変動が生じる。このOCVの変動は、負極が蓄積するリチウムの量で決定される。
【0023】
図4は、リチウムイオン二次電池の休止状態におけるOCVの変動を確認するため、充電過程及び放電過程において、充分に大きなOCVを示す特定のSOCで通電電流を停止した後、長時間にわたって無負荷で保持した際のリチウムイオン二次電池の時間に対するOCVの変動を示したグラフである。充分に大きなOCVを示す特定のSOCで長時間にわたって無負荷で保持した場合、
図4に示すように、充電過程で通電を停止した時のOCV20は、放電過程で通電を停止した時のOCV21に比べて変動時間が長い傾向にある。また、充電過程で通電を停止した時のOCV20は、放電過程で通電を停止した時のOCV21に近接するように収束する傾向がある。特に、通電電流を停止する際のOCVが大きいほど、充電過程で通電を停止した時のOCV20が、放電過程で通電を停止した時のOCV21に近接するように収束する傾向が大きい。
【0024】
図5は、リチウムイオン二次電池の休止状態におけるOCVの変動量を確認するため、充電過程及び放電過程において、充分に小さなOCVを示す特定のSOCで通電電流を停止した後、長時間にわたって無負荷で保持した際のリチウム二次電池の時間に対するOCVの変動を示したグラフである。充分に小さなOCVを示す特定のSOCで長時間にわたって無負荷で保持した場合、
図5に示すように、放電過程で通電を停止した時のOCV21は、充電過程で通電を停止した時のOCV20に比べて変動時間が長い傾向にある。また、放電過程で通電を停止した時のOCV21は、充電過程で通電を停止した時のOCV20に近接するように収束する傾向がある。特に、通電電流を停止する際のOCVが小さいほど、放電過程で通電を停止した時のOCV21が、放電過程で通電を停止した時のOCV20により近接するように収束する傾向が大きい。
【0025】
上記の傾向から、実測OCVが大きいほど放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に重み付けすると共に、実測OCVが小さいほど充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に重み付けした関係式を用いることで、二次電池2の休止状態を考慮しつつ、二次電池2のSOCをより正確に推定できると考えられる。
【0026】
上記のようにして重み付けした関係式は、1つの関係式であっても複数の関係式であってもよい。複数の関係式を用いる場合、OCVの範囲を複数に分け、実測OCVの大きさに応じて、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10又は放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に近接する割合を変化させればよい。
【0027】
図6は、重み付けした関係式として、OCVの範囲を2つに分けて作成した2つの関係式を用いた例を示す。
図6に示すように、2つの関係式12は、OCV
aで2つに分けられており、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に重み付けされた関係式12と、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に重み付けされた関係式12とを有する。実測OCVがOCV
aよりも小さい場合、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に実測OCVを導入することでSOCが算出される。また、実測OCVが閾値OCV12よりも大きい場合、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に実測OCVを導入することでSOCが算出される。
OCVの範囲を2つに分けるOCV
aの設定方法としては、特に限定されないが、充放電過程におけるOCVの最大値の、好ましくは30〜70%、より好ましくは40〜60%、最も好ましくは50%のOCVに設定すればよい。
【0028】
図7は、重み付けした関係式として1つの関係式を用いた例を示す。
図7に示すように、1つの関係式12は、実測OCVが大きいほど放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に重み付けされると共に、実測OCVが小さいほど充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に重み付けされている。この関係式12に実測OCVを導入することでSOCが算出される。
【0029】
充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に実測OCVを導入することで算出されたSOCは、実測OCVが小さいほど正確であるのに対し、実測OCVが大きいほど誤差が大きくなる。逆に、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に実測OCVを導入することで算出されたSOCは、実測OCVが大きいほど正確であるのに対し、実測OCVが小さいほど誤差が大きくなる。したがって、関係式12は、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に実測OCVを導入することで算出されたSOCと、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に実測OCVを導入することで算出されたSOCとを、実測OCVの大きさに応じて変化させる重み係数を用いて合成することにより、お互いの欠点を打消しつつ利点を最大限に引き出すことが可能になる。この関係式12は、例えば、以下の式によって表される。
SOC
e=α×SOC
d+(1−α)×SOC
c
式中、SOC
eは推定されるSOCであり、SOC
dは放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に実測OCVを導入することで算出されたSOCであり、SOC
cは充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に実測OCVを導入することで算出されたSOCであり、αは重み付け係数である。重み付け係数αは0〜1の値を有し、実測OCVが大きいほど1に近くなり、実測OCVが小さいほど0に近くなる。したがって、重み付け係数αを実測OCVが大きくなるにつれて順次大きくするように設定すればよい。
【0030】
上記のようにしてSOCが推定される本実施の形態のSOC推定装置7であれば、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2において、二次電池2の使用中だけでなく、二次電池2を使用休止した後に使用開始する際にも実測OCVを用いてSOCを精度良く推定することができる。
【0031】
実施の形態2.
本実施の形態では、実施の形態1の関係式12に二次電池2における実際の事象を反映させた条件をさらに加えることにより、SOCの推定精度を高めた関係式12を用いた二次電池2のSOC推定装置7について説明する。
図8は、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2の電荷量QとOCVとの関係を表す相関曲線を示すグラフである。
図8に示すように、二次電池2の充電を行う場合、充電過程における電荷量QとOCVとの関係を表す相関曲線13に従い、OCVが高くなるにつれて電荷量Qが増加する。逆に、二次電池2の放電を行う場合、放電過程における電荷量QとOCVとの関係を表す相関曲線14に従い、OCVが低くなるにつれて電荷量Qが低下する。充電過程と放電過程とでは電荷量QとOCVとの関係を表す相関曲線が異なり、ヒステリシスが生じている。充放電を繰り返し行った場合、充放電過程における各OCVでの電荷量Qは、充電過程における電荷量QとOCVとの関係を表す相関曲線13と、放電過程における電荷量QとOCVとの関係を表す相関曲線14との間のヒステリシスの中で変動する。
【0032】
充電過程及び放電過程におけるOCVと電荷量Qとの関係を表す相関曲線の同一OCVでの電荷量Qの差ΔQは、リチウムイオン二次電池の場合、充放電過程における負極のリチウム蓄積量の差と言い換えることができる。負極のリチウム蓄積量の差は、上記で説明したように、リチウムの存在状態の違いに起因していると考えられる。
【0033】
図9は、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2の電荷量Qの差ΔQとOCVとの関係を表すグラフである。このグラフにおいて、ΔQの最大値をΔQ
max、ΔQ
maxとなる時のOCVを閾値OCVと表す。閾値OCVは、予め作成された、二次電池2の電荷量Qの差ΔQとOCVとの関係を表すグラフから求めることができる。閾値OCVより大きいOCVでは、挿入状態のリチウムから結合状態のリチウムへの変化が加速し、また閾値OCVより小さいOCVでは結合状態のリチウムから挿入状態への変化が加速するため、ΔQが小さくなる。
なお、
図9では、二次電池2の電荷量Qの差ΔQとOCVとの関係が二次曲線として変化するグラフの例を示したが、OCVの増加に伴ってΔQが単調に減少する直線、又は三次以上の曲線でもあり得る。ただし、いずれの場合も同様に、ΔQの最大値をΔQ
max、ΔQ
maxとなる時のOCVを閾値OCVとすればよい。また、ΔQ
maxが複数ある場合には、複数のΔQ
maxに対応する複数のOCVの中間を閾値OCVとすればよい。
【0034】
上記の傾向から、閾値OCVで重み付けを切り替え、実測OCVが閾値OCVよりも小さい場合には、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に重み付けすると共に、実測OCVが閾値OCVよりも大きい場合には放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に重み付けした関係式12を用いることで、二次電池2の休止状態を考慮しつつ、二次電池2のSOCをより一層正確に推定できると考えられる。
【0035】
実測OCVが閾値OCVよりも小さい場合、関係式12は、例えば、以下の式によって表される。
SOC
e=β/2×SOC
d+(1−β/2)×SOC
c
式中、SOC
eは推定されるSOCであり、SOC
dは放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に実測OCVを導入することで算出されたSOCであり、SOC
cは充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に実測OCVを導入することで算出されたSOCであり、βは充電過程及び放電過程におけるOCVと電荷量Qとの関係を表す相関曲線の実測OCVでの電荷量Qの差ΔQ/ΔQの最大値ΔQ
maxから導かれる値であり、0〜1の値を有する重み付け係数である。重み付け係数βを用いることにより、実測OCVごとのリチウムの存在状態の影響に起因したSOCの変動の大きさを定量化することが可能となる。
一方、実測OCVが閾値OCVよりも大きい場合、関係式12は、例えば、以下の式によって表される。
SOC
e=β/2×SOC
c+(1−β/2)×SOC
d
式中、SOC
e、SOC
c、SOC
d及びβは上記で定義した通りである。
【0036】
上記のようにしてSOCが推定される本実施の形態のSOC推定装置7であれば、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2において、実測OCVごとのリチウムの存在状態の影響に起因したSOCの変動の大きさを定量化しているため、二次電池2の使用中だけでなく、二次電池2を使用休止した後に使用開始する際にも実測OCVを用いてSOCをより一層精度良く推定することができる。
【0037】
実施の形態3.
本実施の形態は、二次電池の充電電流及び放電電流を積算して得られた電荷量から算出されたSOC(以下、「算出SOC」という。)の大きさに応じて重み付した関係式12を用いてSOCを推定する点で実施の形態1及び2と異なる。
すなわち、本実施の形態の二次電池2のSOC推定装置7は、算出SOCが大きいほど放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に重み付けし、且つ算出SOCが小さいほど充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に重み付けした関係式を用いる。算出SOCは、実測OCVと同様に、その大きさに応じて、充電過程又は放電過程のいずれかのSOCとOCVとの関係を表す相関曲線に従う傾向が高くなることから、この傾向に重み付した関係式を用いることで、二次電池2の休止状態を考慮しつつ、二次電池2のSOCをより正確に推定できると考えられる。
【0038】
この実施の形態では、所定のOCVごとに見られる充放電過程における電荷量Qの差ΔQの代わりに、所定のSOCごとに見られる充放電過程におけるOCVの差ΔOCVを用いる。
図10は、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2のSOCとOCVとの関係を表す相関曲線を示すグラフである。
所定のSOCごとに見られる充放電過程におけるOCVの差ΔOCVは、リチウムイオン二次電池の場合、充放電過程における負極のリチウムの存在状態、特に、負極の電位変動の原因となる挿入状態のリチウム量の差と言い換えることができる。すなわち、ΔOCVは、負極に同量のリチウムが存在している条件下で、挿入状態のリチウムが結合状態に変化する量と相関があると考えられる。
【0039】
図11は、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2のΔOCVとSOCとの関係を表すグラフである。このグラフにおいて、ΔOCVの最大値をΔOCV
max、ΔOCV
maxとなる時のSOCを閾値SOCと表す。閾値SOCは、予め作成された、二次電池2のΔOCVとSOCとの関係を表すグラフから求めることができる。ΔOCVは、SOCの大きさによって変動し、閾値SOCにおいてΔOCVが最大となる。この閾値SOCより大きいSOCでは、挿入状態のリチウムから結合状態のリチウムへの変化が加速し、また閾値SOCより小さいSOCでは、結合状態のリチウムから挿入状態への変化が加速するため、ΔOCVが小さくなる。
なお、
図11では、二次電池2のΔOCVとSOCとの関係が二次曲線として変化するグラフの例を示したが、SOCの増加に伴ってΔOCVが単調に減少する直線、及び三次以上の曲線でもあり得る。ただし、いずれの場合も同様に、ΔOCVの最大値をΔOCV
max、ΔOCV
maxとなる時のSOCを閾値SOCとすればよい。また、ΔOCV
maxが複数ある場合には、複数のΔOCV
maxに対応する複数のSOCの中間を閾値SOCとすればよい。
【0040】
図12は、充電過程及び放電過程において、閾値SOCで通電電流を停止した後、長時間にわたって無負荷で保持した際のリチウムイオン二次電池の時間に対するOCVの変動を示したグラフである。閾値SOCで長時間にわたって無負荷で保持した場合、
図12に示すように、充電過程で通電を停止した時のOCV20及び放電過程で通電を停止した時のOCV21は、両者の平均である平均OCV22に近接するように収束する傾向がある。
【0041】
上記の傾向から、閾値SOCで重み付けを切り替え、算出SOCが閾値SOCよりも小さい場合には、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に重み付けすると共に、算出SOCが閾値SOCよりも大きい場合には放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に重み付けした関係式12を用いることで、二次電池2の休止状態を考慮しつつ、二次電池2のSOCをより一層正確に推定できると考えられる。
【0042】
充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に実測OCVを導入することで算出されたSOCは、算出SOCが閾値SOCよりも小さいほど正確であるのに対し、算出SOCが閾値SOCよりも大きいほど誤差が大きくなる。逆に、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に実測OCVを導入することで算出されたSOCは、算出SOCが閾値SOCよりも大きいほど正確であるのに対し、算出SOCが閾値SOCよりも小さいほど誤差が大きくなる。したがって、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10及び放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11の2つの相関曲線を算出SOCの大きさに応じて変化させる重み係数γを用いて合成し、算出SOCと合成OCVとの関係を表す関係式12を新たに作成することで、お互いの欠点を打消しつつ利点を最大限に引き出すことが可能になる。
【0043】
算出SOCが閾値SOCよりも小さい場合、関係式12の合成OCVは、例えば、以下の式によって算出される。
OCV
m=γ/2×OCV
d+(1−γ/2)×OCV
c
式中、OCV
mは算出SOCにおける合成OCVであり、OCV
dは放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に算出SOCを導入することで算出されたOCVであり、OCV
cは充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に算出SOCを導入することで算出されたOCVであり、γは充電過程及び放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線の算出SOCでのOCVの差ΔOCV/ΔOCVの最大値ΔOCV
maxから導かれる値であり、0〜1の値を有する重み付け係数である。重み付け係数γを用いることにより、算出SOCごとのリチウムの存在状態の影響に起因したOCVの変動の大きさを定量化することが可能となる。
【0044】
一方、算出SOCが閾値SOCよりも大きい場合、関係式12の合成OCVは、例えば、以下の式によって算出される。
OCV
m=γ/2×OCV
c+(1−γ/2)×OCV
d
式中、OCV
m、OCV
c、OCV
d及びγは上記で定義した通りである。
そして、上記の式によって算出される合成OCVと算出SOCとの関係式12を予め求めておき、この関係式12に実測OCVを導入することでSOCが推定される。
【0045】
上記のようにしてSOCが推定される本実施の形態のSOC推定装置7であれば、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2において、算出SOCごとのリチウムの存在状態の影響に起因したOCVの変動の大きさを定量化しているため、二次電池2の使用中だけでなく、二次電池2を使用休止した後に使用開始する際にもSOCをより一層精度良く推定することができる。
【0046】
図13は、実施の形態2及び3で重み付けした関係式12を図示したものである。
図13に示すように、実施の形態2及び3で重み付した関係式12は、実測OCV又は算出SOCが大きいほど放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11に重み付けされると共に、実測OCV又は算出SOCが小さいほど充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10に重み付けされている。
【0047】
実施の形態4.
二次電池2は、充放電又は経年によって電池容量が低下する。この電池容量の低下はSOH(State Of Health;健全度)を用いて表すことができる。SOCとOCVとの関係を表す相関曲線は、SOHの低下に伴い、その形状が変化する。したがって、SOCを精度良く推定するためには、SOHの低下を考慮する必要がある。
本実施の形態では、実施の形態1〜3において重み付けに使用される相関曲線にSOHの低下を反映させた条件をさらに加えることにより、SOCの推定精度を高めることが可能な二次電池2のSOC推定装置7について説明する。
【0048】
SOHの低下は、二次電池2を構成する各種部材の劣化が主な原因である。例えば、ハードカーボンを負極活物質として用いた負極を有する二次電池2では、二次電池2の充放電又は経年に伴い、グラフェン層の一部が壊れて分割される。そのため、グラフェン層の末端部分の数が増加し、挿入状態のリチウムに比べて結合状態のリチウムの割合が多くなる。つまり、SOHの低下により、挿入状態のリチウムから結合状態のリチウムへの変化が促進される。
初期状態の二次電池2(SOHが低下していない二次電池2)では、放電過程において、リチウムの脱離が挿入状態のリチウムから優先的に進行し、放電が進行するにつれて、結合状態のリチウムの一部が挿入状態のリチウムに緩やかに変化する。これに対してSOHが低下した二次電池2では、初期状態の二次電池2に比べて挿入状態のリチウムの割合が少ない。OCVは、挿入状態のリチウムの量に大きく依存するため、同一のSOCでは、SOHの低下が大きいほどOCVが低くなる。
【0049】
また、SOHの低下に伴い、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線は、ΔOCV(所定のSOCごとに見られる充放電過程におけるOCVの差)が最大となるSOC(閾値SOC)付近でOCVの変動が大きくなる傾向がある。つまり、SOHが低下した二次電池2では、各SOCにおいてOCVが一様に変動するわけではなく、各SOCにおけるOCVの変動量は、各SOCにおけるΔOCVの変動と同様の挙動を示す。
【0050】
SOHは、初期状態の電池容量(「満充電容量」ともいう)に対する使用後の電池容量の割合である。具体的には、SOHは、下記の式を用いて算出することができる。
SOH=使用後の電池容量/初期状態の電池容量×100
【0051】
本実施の形態では、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線を一定のSOHごとに予め求めておき、算出されたSOHに対応する相関曲線を選択して使用する。重み付けに使用される相関曲線として、算出されたSOHに対応する相関曲線を選択することにより、SOHの低下による影響を考慮することができるので、SOCを精度良く推定することができる。また、このようにして推定されたSOCをSOHの算出時にフィードバックして繰り返し計算することにより、SOHを正確に算出することができる。その結果、SOCをより一層精度良く推定することが可能となる。
【0052】
図14は、初期状態の二次電池2及びSOHが低下した二次電池2のSOCとOCVとの関係を表す相関曲線を示すグラフである。
図14において、点線は、初期状態の二次電池2のSOCとOCVとの関係を表す相関曲線であり、実線は、SOHが低下した二次電池2のSOCとOCVとの関係を表す相関曲線である。
図14に示すように、SOHが低下した二次電池2は、初期状態の二次電池2と比べて、同一のSOCにおいてOCVが低くなる傾向がある。SOHが低下した二次電池2では、充電を行う場合、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線15に従い、SOCが0%から100%まで増加するにつれてOCVが上昇する。逆に、放電を行う場合、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線16に従い、SOCが100%から0%まで低下するにつれてOCVが下降する。初期状態の二次電池2と同様に、SOHが低下した二次電池2においても、充放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線が異なり、ヒステリシスが生じている。これは、SOHが低下した二次電池2の場合であっても、リチウムの状態変化が初期状態の二次電池2の場合と同様のメカニズムで進行するためである。
【0053】
図15は、初期状態の二次電池2及びSOHが低下した二次電池2のSOCとOCVとの関係を表す相関曲線に重み付けした関係式として1つの関係式を用いた例を示す。
図15において、点線は、初期状態の二次電池2において重み付けした関係式12であり、実線は、SOHが低下した二次電池2において重み付けした関係式17である。関係式17は、実測OCVが大きいほど放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線16に重み付けされると共に、実測OCVが小さいほど充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線15に重み付けされている。この関係式17を用いることで、SOHの低下による影響を考慮することができるので、SOCを精度良く算出することができる。
なお、重み付けの方法は、実施の形態1〜3で説明したとおりである。
【0054】
上記のようにしてSOCが推定される本実施の形態のSOC推定装置7であれば、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2において、SOHの低下による影響を考慮しているので、二次電池2の使用中だけでなく、二次電池2を使用休止した後に使用開始する際にもSOCをより一層精度良く推定することができる。
【0055】
実施の形態1〜4の重み付けした関係式12は、電池温度によって変動するため、各電池温度において関係式12を予め作成しておき、SOCを推定する際に、電池温度を温度センサ5によって測定し、測定された電池温度に対応する関係式12を用いることで、SOCの推定精度を高めることができる。
【0056】
実施の形態1〜4の重み付けした関係式12は、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線10及び放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線11をSOC又はOCVごとに重み付けしているが、代表的なSOC又はOCVごとに重み付けを行い、それらの間は線形補間してもよい。
【0057】
実施の形態1〜4のSOC推定装置7は、SOCとOCVとの関係を表す相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池2において、二次電池2の使用開始直後においてSOCの推定に大きな誤差が生じてしまうという問題を解決することができ、二次電池2の使用中だけでなく、二次電池2を使用休止した後に使用開始する際にもSOCを精度良く推定することができる。
【0058】
実施の形態1〜4のSOC推定装置7は、上記のような特徴を有しているため、例えば、昼間に充放電が頻繁に行われ、夜間に充放電が休止されるエレベータの蓄電システムに用いるのに好適である。さらに、頻繁な充放電と充放電の休止が行われる車両などの輸送機器に用いるのにも好適である。
【0059】
なお、本国際出願は、2014年2月25日に出願した日本国特許出願第2014−33633号に基づく優先権を主張するものであり、この日本国特許出願の全内容を本国際出願に援用する。