(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037411
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】形状記憶合金/繊維強化ポリマー複合構造物および形成方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20161128BHJP
B64C 1/00 20060101ALI20161128BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20161128BHJP
C22C 19/03 20060101ALN20161128BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
B32B15/08 105Z
B64C1/00 B
C22F1/10 G
!C22C19/03 A
!C22F1/00 613
!C22F1/00 623
!C22F1/00 627
!C22F1/00 630L
!C22F1/00 631Z
!C22F1/00 683
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 694B
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-217505(P2015-217505)
(22)【出願日】2015年11月5日
(62)【分割の表示】特願2013-513185(P2013-513185)の分割
【原出願日】2011年5月10日
(65)【公開番号】特開2016-106044(P2016-106044A)
(43)【公開日】2016年6月16日
【審査請求日】2015年12月4日
(31)【優先権主張番号】61/351,546
(32)【優先日】2010年6月4日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/917,740
(32)【優先日】2010年11月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ブロホビアック, ケイ, ワイ.
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン, タイラー, ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】メイブ, ジェームズ, エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】カルキンス, フレデリック, ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ディリガン, マシュー, エー.
【審査官】
加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−334888(JP,A)
【文献】
特表2008−542179(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/046084(WO,A1)
【文献】
米国特許第06773535(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
B64C 1/00
C22F 1/10
C22C 19/03
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金/繊維補強ポリマー複合構造物を作製する方法であって、
第1の複数の繊維強化ポリマープリプレグ層(212)を設ける工程と、
第2の複数の形状記憶合金板を設ける工程と、
前記第2の複数の形状記憶合金板の一つの上面および底面の少なくとも一方を接着性の下塗り層により被覆する工程と、
前記接着性の下塗り層により被覆された形状記憶合金板上を接着剤の層で被覆する工程と、
積層を構成する、前記第1の複数の繊維強化ポリマープリプレグ層の第1の層と第2の層とを用いて、前記被覆された形状記憶合金板を挟む工程であって、前記第1の層は実質的に第1の方向に配向した第1の繊維を含み、前記第2の層は、第2の方向に実質的に配向した第2の繊維を含み、前記挟むことは前記第1の方向が第2の方向とほぼ垂直であるように実施される、挟む工程と、
前記第2の複数の形状記憶合金板のそれぞれから前記接着性の被覆のそれぞれへ移行する傾斜層を有する界面を提供する工程であって、前記傾斜層が実質的に繊維が欠けている工程と、
前記積層を硬化させて、前記形状記憶合金/繊維補強ポリマー複合構造物を形成する工程と、を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記第2の複数の形状記憶合金板のそれぞれの板は、厚さが0.002インチから0.25インチ(0.051mmから6.35mm)である方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
前記接着性の下塗り層は、ゾルゲル下塗り層及びボンド下塗り層からなるグループから選択された少なくとも一つの部材である方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の方法であって、
温度がカ氏200度からカ氏500度の間でかつ少なくとも40PSIの圧力で前記積層を硬化させる工程をさらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、複数の繊維強化ポリマー層と複数の形状記憶合金板とにより形成される複合構造物に関し、より詳細には、本開示は、接着剤により接着されている複数の繊維強化ポリマー層と複数の形状記憶合金板とを有する複合構造物に関し、ここで、複合構造物の形状は、形状記憶合金を変態温度にまで加熱することにより変化させることができる。
【背景技術】
【0002】
航空機業界において、環境騒音および排出物に対する規制が強まり、かつ、燃料関連の運営費が上昇することにより、航空機効率を向上させるという相手先ブランド供給業者(OEM)に対する要求がますます高まっている。空気力学的表面の形状を変形および適合させる能力は、それらの新たな要件を満たすのに役立つ可能性のある多くの性能上の恩恵をもたらす。可変形状シェブロン(VGC)などの変形構造物は、離陸および巡航中にジェットエンジン排気流を修正して、都市騒音を低減するために表面の幾何学的形状を選択的に制御する能力を示してきた。ボーイングによる設計のVGCは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)シェブロン表面と反応する熱的に誘導された形状変化を受ける形状記憶合金(SMA)屈曲型アクチュエータを用いる。SMAベースの航空構造物に対するその他の潜在的用途としては、巡航中の揚力対抗力の向上のための変形翼構造物が挙げられる。
【0003】
SMAは、小容量設計エンベロープに組み込まねばならない変形構造物のための望ましい能動的構成要素である。SMAは、電動部品がそうでなければ従来の作動形態では達成不可能であろう大きな力の出力を要する用途にとって理想的である。SMAベースの変形構造物に対する現在の設計は、SMAを複合材またはアルミニウム航空表面と接合させるために固定具などの金属製品を要する。個別の接続部を用いると、SMA、固定具および支持構造物への負荷および熱応力の集中により性能が限定されかねない。固定具による接続もまた、構造物重量を増加させ、かつ、より多くの空間を占めることにより設計の自由を限定する。
【0004】
固定具などの金属製品を要するSMAベースの変形構造物に対するそのような現在の設計の1つを
図1A〜
図1Dに示す。該設計は、翼100用の展開可能な分岐後縁102を示す翼断面を示している。
図1Aは、展開していない収納位置にある翼100を示している。機械的固定具108によりSMAアクチュエータ104を翼100の外部表面106に固定するための従来の方法として、翼100の例示的断面図を
図IBに示す。収納されている分岐後縁102は、棒状アクチュエータの幾何学形状および固定具108により設計空間が限定されている。
【0005】
図1Cおよび
図IDは、展開状態において機械的固定によりSMAアクチュエータを備えた翼をさらに示している。
図1Cは、SMAアクチュエータ104が作動された後の分岐後縁102を示している。
図1Dは、SMAアクチュエータ104が外部表面106に機械的に固定された状態の展開されている分岐後縁102を示しており、ここで、基板106およびアクチュエータ104における固定具108用位置に大きな局所応力が生じている。
【0006】
したがって、変形構造物の設計空間および効率を高めるために接着されたSMA‐FRPP接合部を開発すると有利であろう。
【発明の概要】
【0007】
接着されたSMA‐FRPP(繊維強化ポリマー層)積層体の作動構造物を開示する。SMAアクチュエータを121°C(250°F)硬化強化エポキシに接着した。ゾルゲル表面処理技法を用いて、ニッケル‐チタン(ニチノール)アクチュエータの接着表面を処理した。ホットプレスを用いて、接着剤の硬化中にアクチュエータ/積層体アセンブリを拘束した。形状記憶挙動の熱機械構成モデルを用いた有限要素解析を用いて、作動サイクル中に接着された構造物と機械的に固定された構造物との両方における応力の集中を解析した。長期にわたる熱的に誘導された作動サイクルの全体にわたって積層体の撓みを測定することにより、接着された混合構造物の性能および耐久性を検査した。次いで、これらの結果を、機械的固定により接合されている類似の混合構造物と比較した。本開示は、空気力学的構造物を変形させるための接着剤の実行可能性および効率を実証する。
【0008】
本開示は概して、少なくとも2層の炭素繊維プリプレグ層と、少なくとも2層の炭素繊維プリプレグ層の間の少なくとも1枚の形状記憶合金板とを有する複合構造物に関する。形状記憶合金板は、約0.002インチから約0.25インチの厚さを有していてもよい。形状記憶合金板はまた、その上面および底面上に接着剤下塗り層およびエポキシ接着剤層を有していてもよい。
【0009】
本開示はまた、少なくとも2枚の形状記憶合金板と、少なくとも2枚の形状記憶合金板の間の少なくとも1層の炭素繊維プリプレグ層とを有する複合構造物に関する。
【0010】
本開示はさらに概して、第1の複数の炭素繊維プリプレグ層と、第1の複数の炭素繊維プリプレグ層に挟まれている第2の複数の形状記憶合金板とを有する炭素繊維複合構造物に関する。第2の複数の形状記憶合金板は、各々が、約0.002インチから0.25インチの厚さを有する。第2の複数の形状記憶合金板はさらに、その上面および底面のうちの少なくとも一方が、接着剤下塗り層およびエポキシ樹脂接着剤層により被覆されていてもよい。接着剤下塗り層は、ゾルゲル被覆層であってもよい。
【0011】
本開示はさらに概して、第1の複数の炭素繊維プリプレグ層を設ける工程と、第2の複数の形状記憶合金板を設ける工程と、第2の複数の形状記憶合金板のうちの1つの上面および底面の少なくとも一方を接着剤下塗り層により被覆する工程と、被覆された形状記憶合金板上をエポキシ樹脂接着剤層で被覆する工程と、被覆された形状記憶合金板に第1の複数の炭素繊維プリプレグ層の少なくとも2層を挟むことにより、積層体を形成する工程と、積層体を熱および圧力下で硬化させることにより、炭素繊維複合構造物を形成する工程と、を含む、炭素繊維複合構造物の作製方法に関する。
【0012】
いくつかの実施形態において、該炭素繊維複合構造物の作製方法は、約0.002から約0.25インチの厚さを有する第2の複数の形状記憶合金板を設ける工程、または、第2の複数の形状記憶合金板の上面および底面の少なくとも一方に接着剤下塗り層およびエポキシ樹脂接着剤層を設ける工程をさらに含んでもよく、接着剤下塗り剤は、ゾルゲル材料もしくはエポキシ接着剤下塗り剤または両方であってもよい。該方法は、約200°Fから約500°Fの温度および40PSI以上の圧力で積層体を硬化させる工程をさらに含んでもよい。アクチュエータは、気流が存在する外部表面ではなく翼の内部表面に接合される。
【0013】
本開示はさらに概して、第1の複数の炭素繊維プリプレグ層を設ける工程と、各々が上面および/または底面をエポキシ接着剤により被覆された第2の複数の形状記憶合金板を設ける工程と、第2の複数の形状記憶合金板に第1の複数の炭素繊維プリプレグ層を挟むことにより、複合構造物を形成する工程と、形状記憶合金が第1結晶状態から第2結晶状態へと変態する最低温度にまで加熱することにより複合構造物を変形させる工程と、を含む、複合構造物の変形方法に関する。
【0014】
いくつかの実施形態において、該複合構造物の変形方法は、第2の複数の形状記憶合金板をニッケルチタン合金で設ける工程をさらに含んでもよく、ニッケルチタン合金をマルテンサイト組織からオーステナイト組織へと変態させる工程をさらに含んでもよく、複合構造物を110°F以上の温度にまで加熱する工程をさらに含んでもよく、または、複合構造物を約110°Fから約320°Fの温度にまで加熱する工程をさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、従来の固定具を用いて内部表面に接合されているSMAアクチュエータを用いることにより展開可能な分岐後縁を有する翼断面を示している。
【
図1B】
図1Bは、従来の固定具を用いて内部表面に接合されているSMAアクチュエータを用いることにより展開可能な分岐後縁を有する翼断面を示している。
【
図1C】
図1Cは、従来の固定具を用いて内部表面に接合されているSMAアクチュエータを用いることにより展開可能な分岐後縁を有する翼断面を示している。
【
図1D】
図1Dは、従来の固定具を用いて内部表面に接合されているSMAアクチュエータを用いることにより展開可能な分岐後縁を有する翼断面を示している。
【
図2】
図2は、強化エポキシ層が挟まれた金属箔を示すニッケルチタン繊維強化ポリマー層混合積層体の斜視図である。
【
図3】
図3は、SMA/FRPP変形構造物の拡大断面図を示している。
【
図4A】
図4Aは、変態前のSMA/CFRP(炭素繊維強化プリプレグ)変形構造物の断面図を示している。
【
図4B】
図4Bは、変態後のSMA/CFRP(炭素繊維強化プリプレグ)変形構造物の断面図を示している。
【
図5A】
図5Aは、SMA/CFRP複合パネルに対する検査機構を示している。
【
図5B】
図5Bは、SMA/CFRP複合パネルに対する検査機構を示している。
【
図6】
図6は、加熱器および熱電対線を備えたSMA/CFRP複合パネルの試料の斜視図である。
図6Aは、加熱器および熱電対線を備えたSMA/CFRP複合パネルの試料の拡大図である。
【
図7A】
図7Aは、分岐後縁へと変形している翼の接着剤により接着されたSMA/CFRP複合構造物を示している。
【
図7B】
図7Bは、分岐後縁へと変形している翼の接着剤により接着されたSMA/CFRP複合構造物を示している。
【
図7C】
図7Cは、分岐後縁へと変形している翼の接着剤により接着されたSMA/CFRP複合構造物を示している。
【
図7D】
図7Dは、分岐後縁へと変形している翼の接着剤により接着されたSMA/CFRP複合構造物を示している。
【
図8】
図8は、炭素繊維複合構造物を作製する方法に対するフロー図を示している。
【
図9】
図9は、接着剤により接着された複合構造物を変形させる方法に対するフロー図を示している。
【
図10】
図10は、航空機製造および保守方法論のフロー図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の詳細な説明は、本質的に単なる例示にすぎず、説明されている実施形態または説明されている実施形態の適用および使用を限定するよう意図されていない。ここに用いられているように、「例示的な」または「説明的な」という語は、「一例、実例または例証となる」ことを意味する。ここで「例示的な」または「説明的な」として説明されるいかなる実施構成も、その他の実施構成に対して好適または有利であるとして解釈される必要はない。下で説明される実施構成はすべて、当業者が本開示を実施できるよう提供されている例示的実施構成であり、かつ、添付の請求項の範囲を限定するよう意図されていない。さらに、前述の技術分野、背景、概要または以下の詳細な説明において提示されている明示的または暗示的ないかなる理論にも拘束されるよう意図されていない。
【0017】
形状記憶合金(SMA)アクチュエータを有する変形航空構造物は、民間航空機からの都市騒音を低減するために開発されている1つの手法である。この目的を達成するために必要なことが2つある。第一に、SMA材料により一体的に作動される航空構造物の設計は、設計がうまくいくために最適化手法を要する。これは、自身の形状変化特性を励起させるために設置されたとき、アクチュエータに負荷がかかっていることを要するSMA材料の独特の挙動の結果である。第二に、SMAアクチュエータを航空構造物に統合する効率的な手段が必要である。構造物内にニチノールの薄板または箔を一体的に設置し、かつ、界面を制御することは、それを達成する1つの手段である。
【0018】
形状記憶合金(SMA)は、ある特定の温度範囲にわたってマルテンサイト状態からオーステナイト状態への遷移を受けているとき、予測可能に形状を変化させることができる。複合構造物に接合されると、該構造物自体が特定の目的のための形状へと変形できる。SMAアクチュエータは、複合構造物に機械的に接合または接着可能な材料の太い棒またはロッドとなるよう形成することができる。あるいは、SMAアクチュエータは、薄板または箔として形成することができる。薄板として形成されると、合金は、複合材の層レイアップ内に材料を選択的に設置することにより、複合構造物に組み込むことができる。これにより、特に形状変化能力が望まれる変形能力の効率的な設計が可能となる。SMA箔の複数の層は、複合部品のより大きな変形が望まれる位置に設置することができる。これらSMA繊維金属積層体(FML)の製造は、複合積層体樹脂に対するSMA表面の付着を要する。ゾルゲル表面処理方法は、接着用のSMA表面の処理において効果的であると示された。もともとはTiGr FML用に設計された薄層強化エポキシ接着剤を用いて、強固な層間接着をもたらすことができる。形状変化プロセス中に作動が効率的に有効となり、かつ、構造物を破壊しないように、変形プロセス中に層間で負荷を効率的に伝達するために、レイアップを注意深く設計する必要がある。
【0019】
SMA表面処理および接合部アセンブリを含む試料の処理を以下に開示する。60ニチノール(60重量%のニッケルまたはその他あらゆる適切な金属、および、チタン)帯状片を10インチ(25.4cm)×1.0インチ(2.54cm)かつ0.11インチ(0.28cm)厚さの寸法にウォータージェット切断した。NiTiPd、NiTiPt、NiTiCuなどの他のニッケル合金もまた、SMAとして用いてもよい。SMA被検査物を曲率半径15インチ(38.1cm)の高温ツールの上方に締め付け、高温炉内で熱処理することにより形状記憶効果を生み出し、かつ、変態温度を設定した。15.4インチ(39.1cm)の曲率半径相当の0.79インチ(2.0cm)において、結果として生じたアクチュエータの弧の高さを測定した。
【0020】
ボーイング規格BSPS‐07‐001クラス2にしたがった吹きつけ加工ゾルゲル法を用いて、SMAアクチュエータの表面を前処理した。アクチュエータを水性脱脂溶液に15分間浸漬し、冷水ですすいだ。次いで、アルカリ性洗浄液に15分間浸漬し、冷水ですすいだ。形状固定プロセス中に形成された熱酸化物層を、180グリットの酸化アルミニウムによる吹きつけ加工で取り除いた。接着表面にボーゲルEPII溶液をスプレー塗布し、1時間乾燥させた。ボーゲル表面上に(サイテックエンジニアードマテリアルズ社製)BR6747‐1エポキシ接着剤下塗り剤をスプレー塗布し、周囲条件において乾燥させ、250°F(121°C)で60分間硬化させた。
【0021】
形状固定後、SMAアクチュエータは、その湾曲したオーステナイト形状を保ち、接着剤を塗布する前に手作業で平坦化する必要があった。本プロセス中、アクチュエータをチーズクロスで包むことにより、下塗り済み表面の損傷および汚染を回避した。包まれたアクチュエータを卓上万力に片持ち支持し、まっすぐになるまで曲率に反して1インチ(2.54cm)ずつ後方へ屈曲させた。
【0022】
用いられた一方向SMAアクチュエータは、その高温オーステナイト固定形状へと能動的に変態可能であっただけで、それだけでは、当初のマルテンサイト形状に戻すために前もって負荷を与える必要があった。60ニチノールのマルテンサイト相(引張係数:4Msi)とオーステナイト相(引張係数:8〜10Msi)との強度率は大きな差があるので、CFRPパネルの剛性は、オーステナイト相において撓み、マルテンサイト相において硬さを保つために層の数および向きにより調整可能である。一方向テープおよび織り合わされた布地の形態でエポキシプリプレグから複合パネルを作製した。表1の積層順により9層のプリプレグをレイアップした。パネルを350°Fのオートクレーブで硬化させた。0°のリボン方向を寸法12インチの辺に平行として、個々のパネルを4インチ(10.2cm)×12インチ(30.5cm)にウォータージェットにより切断した。
図6におけるパネルのツール側の接着領域よりわずかに大きい領域に180グリットの酸化アルミニウムによる吹きつけ加工を施して、接着用表面を準備した。
表1 CFRPパネルの積層順
【0023】
強化エポキシフィルム接着剤(ヘンケル社製HysolEA9696OSTグレード10)を用いて、SMAアクチュエータをCFRPパネルに接合した。1インチ(2.54cm)×1インチの接着剤帯状片を下塗り済みアクチュエータの中央に設置し、
図6に示すように組み立てた。0.010インチ(0.254mm)厚さのシムを接着域付近のSMAとCFRPとの間に設置して、硬化中に接着線厚さを制御した。加熱プレス内にSMA/CFRPアセンブリを設置し、45psiの圧力下で250°F(121°C)において90分間硬化させた。高温硬化中にSMAが作動するのを制限し、かつ、接着線における圧力を一定に維持するために、加熱プレスの使用が必要であった。これらの混合構造物における使用のための接着剤の選択は、最終的な用途によって異なる。一般的に、高度に強化されたエポキシ接着剤の使用は、構造物において要求される高レベルの強度よび耐久性を達成し、かつ、剥離力と各作動サイクルに伴って生じる周期的負荷とに耐えるのに必要な靭性を提供するために、好適である。
【0024】
ゾルゲル法により作製し、CFRPパネルに接着したSMAビームアクチュエータに対して長期熱サイクル試験を行うことにより、作動中の接合部耐久性およびアセンブリ全体形状を求めた。該試験は、熱的に誘導されたニチノールのマルテンサイトからオーステナイトへの相変態の結果生じるCFRP屈曲量を、CFRPパネルに入射する反射レーザ撓みセンサを用いて追跡するよう設計された。
図5Aおよび
図5Bにおいて、試験配置を示している。試験は、最終的な作動形状に対する接着剤の種類および接合部の幾何学的形状の影響を観察するために行われた。レーザセンサ502は、熱的に誘導されたニチノールのマルテンサイトからオーステナイトへの相変態中の撓み量を測定する。
図6において、単純な接着接合部構成を示す。
【0025】
図6は、CFRPパネル610、SMAアクチュエータ620、一連の帯状加熱器630および熱電対線640の単純な接着接合部構成を示している。
図6から抜き出した拡大図である
図6Aにおいて、エポキシ接着剤層650を示している。帯状加熱器630は、ニチノール作動における相変態を誘導するために、SMAアクチュエータ620の表面にテープで留められている。
図6は、作動の分析のためにCFRPパネル610に接着されたSMAアクチュエータ620に対する単純な1インチ×1インチの接合部構成を示している。
【0026】
まず始めに
図2を参照して、SMA/FRPP複合構造物200の斜視図を示す。呼び厚さが約0.002インチから約0.25インチのニッケルチタン箔202を利用する。ニッケルチタン箔(またはその他あらゆる適切なSMA箔)202を(強化繊維220を含む)繊維強化層212の層に組み込んで、複合積層体構造物200を形成する。上面204および底面206は、金属箔202により形成する。
【0027】
本開示において用いられる「約」という語は、与えられた数字の±5パーセントの数値範囲を規定する。例えば、約0.25インチの厚さは、0.2375インチから0.2625インチの厚さ範囲を意味するだろう。
【0028】
金属箔層202と繊維330により強化されたポリマー層212との間の界面232は、ニッケルチタン金属表面からポリマーマトリクス320へ移行する傾斜層を提供するよう構成されている。これは、
図3において拡大断面図で示されている。
【0029】
図3においてまた示されているのは、接着促進層または接着剤下塗り層として機能するゾルゲル材料222界面である。炭素またはその他の繊維である繊維330は、
図2の層212の最上層および最下層において示されているのと同様に横方向に、言い換えると、紙面に対して垂直に示されている。
【0030】
図4Aおよび
図4Bは、それぞれ、変態前および変態後のSMA/CFRP複合パネル400の断面図を示している。変態前の状態において、SMAは、マルテンサイト相で存在する一方、変態後の状態において、SMAは、オーステナイト相で存在する。CFRP層410およびSMA箔板420の選択的設置により、特定の変形特性を生み出すことができる。
【0031】
図4Bにおいて示されている混合SMA/CFRP積層体400の断面図は、SMAのオーステナイト相にある構造物の最終形状が、CFRP層410内のSMA箔420の選択的設置により調整可能であるということを示している。
【0032】
したがって、本開示は、特定の変形特性を生み出すための混合積層体SMA/FML(繊維金属積層体)システムの設計を提供する。表面に傾斜層を作製し、これを典型的に用いられるエポキシプリプレグシステムに接着可能とするSMA処理もまた、本開示により提供される。本開示はさらに、構造物の劣化を生じずに作動が起こることができるようにニチノール箔アクチュエータおよびCFRP部品からの適切な遷移を提供可能な接着剤を開発および選択する。
【0033】
本開示は、接着手段によるCFRPに対するSMAの接着を可能とし、これにより、より空気力学的な表面、より軽量な構造物を可能とし、さらに、より効率的な混合アクチュエータを製造する。SMA/FML構造物(またはSMA/CFRP構造物)の提案されている用途には、展開可能な分岐後縁といった民間航空機に適合可能な後縁装置が含まれる。
図7A〜
図7Dに図示されている。これらの図は、接着剤層720を用いることによりSMA710のアクチュエータがCFRP表面715に接合されている航空機翼断面700を示している。
【0034】
図7Aおよび
図7Bは、相変態前の収納状態にある翼700を示している。例えば、
図7Aは、SMAアクチュエータ710が複合外板730に接着されている収納された分岐後縁705を示している。
図7Aに示すこの設計により、軽量化および設計空間の改善が達成できる。
図7Bは、複数の0.006インチ厚さのSMA箔層725がCFRP730の間に差し込まれている収納された分岐後縁705を示している。
【0035】
図7Cは、展開された分岐後縁755を作製するようSMAアクチュエータ710が作動されている展開された分岐後縁を示しており、ここで、SMAアクチュエータ710は、CFRP730に接着されている。
図7Dは、積層SMA/CFRPアクチュエータを有する展開された分岐後縁755を示す、
図7Cと同様の図を示している。
【0036】
ここで
図8を参照して、炭素繊維複合構造物を作製するための本開示の方法のフロー図を示す。該方法800は、第1の複数の炭素繊維プリプレグ層を設ける第1工程801により開始され、次に、第2の複数の形状記憶合金板を設ける工程802が続き、次に、第2の複数の形状記憶合金板のうちの1つの上面および底面の少なくとも一方を接着剤下塗り層により被覆する工程803が続き、次に、被覆された形状記憶合金板上にエポキシ樹脂接着剤層を被覆する工程804が続き、被覆された形状記憶合金板に炭素繊維プリプレグ層を挟むことにより、積層体を形成する工程805、および最後に、積層体を熱および圧力下で硬化させることにより、炭素繊維複合構造物を形成する工程806が続く。
【0037】
本開示は、
図9のフロー図に示されている複合構造物を変形させるための方法をさらに開示する。複合構造物を変形させるための該方法900は、第1の複数の炭素繊維プリプレグ層を設ける第1工程901により開始することができ、次に、各々が上面および底面上のエポキシ接着剤により被覆された第2の複数の形状記憶合金板を設ける工程902が続き、次に、第2の複数の形状記憶合金板に第1の複数の炭素繊維プリプレグ層を挟むことにより、複合構造物を形成する工程903が続き、最後に、形状記憶合金が第1結晶状態から第2結晶状態へ変態する所定の温度にまで加熱することにより、複合構造物を変形させる工程904が続く。
【0038】
次に
図10および
図11を参照して、
図10に示すような航空機の製造および保守方法1000ならびに
図11に示すような航空機1100との関連において、本開示の実施形態を用いることができる。本生産の前で、方法1000の一例は、航空機1100の仕様および設計1010ならびに材料調達1020を含んでいてもよい。生産の際は、航空機1100の構成部品および部分組立品の製造1030ならびにシステム統合1040が行われる。その後、航空機1100は、認証および納品1050を経て、運航1060されてもよい。顧客による運航中、航空機1100は、(改修、再構成、修繕などをも含むかもしれない)定常的整備および保守1070を受けてもよい。
【0039】
方法1000の各プロセスは、システムインテグレータ、第三者および/または操作者(例えば、顧客)により行われるかまたは実施されてもよい。本件の説明のため、システムインテグレータは、任意の数の航空機製造者および主要なシステム下請け業者に限定されないがこれらを含んでもよい。第三者は、任意の数の取り扱い業者、下請け業者および供給業者に限定されないがこれらを含んでもよい。操作者は、航空会社、リース会社、軍隊、保守組織などであってもよい。
【0040】
図11に示されているように、例示的方法1000により製造される航空機1100は、複数のシステム1110および内装1130とともに機体1120を含んでいてもよい。高レベルシステム1110の例としては、推進システム1140、電気システム1150、油圧システム1160および環境システム1170のうちの1つ以上が挙げられる。任意の数の他のシステムを含んでもよい。航空宇宙の例が示されているが、本発明の原理は、自動車産業といった他の産業に適用することもできる。
【0041】
ここで実施されている装置は、製造および保守方法1000のいずれか1つまたはそれ以上の段階中に使用してもよい。例えば、製造プロセス1030に対応する構成部品や部分組立品は、航空機1100が運航されている間に製造される構成部品や部分組立品と同様に組立てまたは製造されてもよい。また、例えば、航空機1100の組立てを大幅に早めるか、または、航空機1100のコストを削減することにより、製造段階1030および1040中に1つ以上の装置の実施形態を利用してもよい。同様に、航空機1100が運航されている間から、例えば限定はされないが、整備および保守1070までの間、1つ以上の装置の実施形態を利用してもよい。
【0042】
ある例示的な実施形態に関して本開示の実施形態を説明してきたが、該特定の実施形態は、他の変形例に当業者が想到するであろうように、限定ではなく説明を目的とするものであることは理解されたい。
また、本願は以下に記載する態様を含む。
(態様1)
少なくとも1層の繊維強化ポリマー層(212)と、
前記少なくとも1層の繊維強化ポリマー層(212)を密接に結合する少なくとも1枚の形状記憶合金板と、
を含む、複合構造物。
(態様2)
前記少なくとも1枚の形状記憶合金板が、約0.002インチから約0.25インチの厚さを有する層を含む、態様1に記載の複合構造物。
(態様3)
前記少なくとも1枚の形状記憶合金板が、少なくとも1層の接着促進層(222)と、層の上面および底面の少なくとも一方に接着剤層(650)と、を有する、態様1に記載の複合構造物。
(態様4)
少なくとも2層の形状記憶合金層と、
前記少なくとも2層の形状記憶合金層の間の少なくとも1層の繊維強化ポリマー層(212)と、
を含む、複合構造物。
(態様5)
前記少なくとも2層の形状記憶合金層は、各々が、約0.002インチから約0.25インチの厚さを有する、態様4に記載の複合構造物。
(態様6)
前記少なくとも2層の形状記憶合金層は、各々が、その上面および底面のうちの1つに少なくとも1層の接着促進層(222)と、接着剤(650)の層と、を有する、態様4に記載の複合構造物。
(態様7)
前記少なくとも1層の繊維強化ポリマー層(212)が、炭素繊維およびガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1つの繊維により強化されている、態様4に記載の複合構造物。
(態様8)
前記接着剤(650)の層が、エポキシ接着剤の層である、態様6に記載の複合構造物。
(態様9)
形状記憶合金/繊維強化ポリマー複合構造物を作製するための方法であって、
第1の複数の繊維強化ポリマー層を設ける工程と、
第2の複数の形状記憶合金層を設ける工程と、
前記第2の複数の形状記憶合金層のうちの1層の上面および底面の少なくとも一方を接着剤下塗り層により被覆する工程と、
前記接着剤下塗りにより被覆された形状記憶合金層上を接着剤の層で被覆する工程と、
前記被覆された形状記憶合金層に前記第1の複数の繊維強化ポリマー層の少なくとも2層を挟むことにより、積層体を形成する工程と、
前記積層体を硬化させて、前記形状記憶合金繊維強化ポリマー複合構造物を形成する工程と、
を含む方法。
(態様10)
前記第2の複数の形状記憶合金層は、各々が、約0.002インチから約0.25インチの厚さを有する、態様9に記載の形状記憶合金/繊維強化ポリマー複合構造物を作製するための方法。
(態様11)
約200°Fから約500°Fの温度で、かつ、40PSI以上の圧力で前記積層体を硬化させる工程をさらに含む、態様9に記載の形状記憶合金/繊維強化ポリマー複合構造物を作製するための方法。
(態様12)
複合構造物を変形させるための方法であって、
第1の複数の繊維強化ポリマープリプレグ層(212)を設ける工程と、
各々の上面および底面の少なくとも一方が接着剤により被覆されている第2の複数の形状記憶合金層を設ける工程と、
前記形状記憶合金が第1結晶状態から第2結晶状態へ変態する所定の温度にまで加熱することにより前記複合構造物を変形させる工程と、
を含む、方法。
(態様13)
前記複数の形状記憶合金層をニッケルチタン合金で設ける工程をさらに含む、態様12に記載の複合構造物を変形させるための方法。
(態様14)
前記変形させる工程中に前記複合構造物を110°F以上の温度にまで加熱する工程をさらに含む、態様12に記載の複合構造物を変形させるための方法。
(態様15)
前記変形させる工程中に前記複合構造物を約110°Fから約320°Fの温度にまで加熱する工程をさらに含む、態様12に記載の複合構造物を変形させるための方法。