【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて上記実施形態をさらに具体的に説明する。
<1.還元型スキトネミン及びスキトネミンの抽出・単離>
イシクラゲの乾燥粉体(400g)にエタノール(4L)を添加して、室温にて2時間攪拌するとともに30分間静置した後、上清を回収した。また、沈殿物に対して、エタノール(4L)を添加して、室温にて2時間攪拌するとともに30分間静置した後、上清を回収した。この沈殿物に対する再抽出操作を合計10回繰り返した。得られた全ての上清をろ紙によりろ過するとともに、そのろ液を減圧濃縮することにより、イシクラゲ抽出物(20g)を得た。
【0036】
イシクラゲ抽出物に対して、複数のクロマトグラフィによる分画を組み合わせて行うことにより還元型スキトネミン及びスキトネミンの単離を行った。
図1を参照して、還元型スキトネミン及びスキトネミンの単離工程について説明する。
【0037】
イシクラゲ抽出物(18g)について、中性シリカゲルを用いた吸引液体クロマトグラフィを行うことにより8画分に分画し、TLCによる標品との比較に基づいて還元型スキトネミン及びスキトネミンが含有される画分(NC−5)を回収した。画分NC−5について、中性シリカゲルを用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより5画分に分画し、TLCによる標品との比較に基づいて還元型スキトネミン及びスキトネミンが含有される画分(NC−5−4、NC−5−5)を回収した。
【0038】
画分NC−5−4について、更に中性シリカゲルを用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより6画分に分画した。また、画分NC−5−5について、更に中性シリカゲルを用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより4画分に分画した。そして、TLCによる標品との比較に基づいて還元型スキトネミン及びスキトネミンが含有される画分(NC−5−4−4,NC−5−4−5,NC−5−5−3)を回収するとともに、これらを一つに合わせて画分NC−5―Aとした。
【0039】
画分NC−5―Aについて、Sephadex LH−20を用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより8画分に分画した。そして、TLCによる標品との比較に基づいて還元型スキトネミンが含有される画分(NC−5−A−7)を回収するとともに、その画分NC−5―A−7について、ODS担体を用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより還元型スキトネミンを単離した。
【0040】
スキトネミンは、
図2に示されるように、NC−5−A−1の分画からさらに精製処理を行った。まず、NC−5―A−1(19.8mg)を、Sephadex LH−20カラムクロマトグラフィで2画分(NC−5−A−1−1,NC−5−A−1−2)に分画した。そのうち、NC−5−A−1−1について、NMRスペクトル測定及びTLC試験により精製度を確認しながら、Sephadex LH−20カラムクロマトグラフィにより分画した。さらに、ODS C
18カラムクロマトグラフィを繰り返し行い、スキトネミンを単離した。
【0041】
本実施例では、イシクラゲより単離した上記還元型スキトネミン及びスキトネミンの抗炎症作用について細菌感染時のマクロファージ(マウスマクロファージ細胞株 RAW264細胞株)をモデルとしたLPS/IFNγ誘導炎症反応系を用いて検討した。
【0042】
<2.細胞培養>
マウスマクロファージRAW264細胞は、理化学研究所(茨城県つくば市)より入手した。RAW264細胞は、10%牛胎児血清、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトレマイシン(以上Invitrogen, CA, USA)を含んだDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium; Thermo Fisher Scientifics, K. K, MA, USA)にて、95%空気−5%CO
2環境下で培養した。
【0043】
<3.還元型スキトネミン及びスキトネミンによるRAW264細胞への影響>
前記RAW264細胞を2×10
5cells/mLに調製し、24ウェルマルチプレート(Thermo Fisher Scientifics)に500μLずつ播種した。播種後、還元型スキトネミン及びスキトネミンを終濃度がそれぞれ0.5μM,1μM,2.5μMとなるように、各濃度で添加し、2時間前培養を行った。前処理の後、LPS(終濃度:200ng/mL)とIFNγ(終濃度:25ng/mL)を加え24時間処理した。24時間後、産生した一酸化窒素(NO)をGriess試薬(Promega, WI, USA)により発色させ、吸光度計(コロナ電気、茨城県)により、540nmにより検出した。結果を
図3に示す。尚、データは平均±標準誤差で表した。2群間の比較にはStudent’s t-検定を行った。5%有意を*、1%有意を**とした。また、図中、LPS及びIFNγの欄において、+が添加有り、−が添加なしを示す。
【0044】
図3に示されるように、還元型スキトネミン処理は各濃度処理においてスキトネミン処理よりも有意にNOの産生を抑制した。
<4.ウエスタンブロッティング>
還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導NO産生に伴う細胞内シグナル伝達に対する影響をウエスタンブロット法により検討した。LPS/IFNγ誘導によるNO産生シグナルにおいてiNOS及び炎症関連遺伝子の核内転写因子であるCOX-2について検討した。
【0045】
<4−1.細胞溶解サンプルの回収>
細胞数を2×10
5cells/mLに調製し、6ウェルマルチプレートに1mLずつ播種した。一晩培養後、還元型スキトネミンを終濃度が1μMとなるようにそれぞれ添加し、2時間前培養を行った。前処理の後、LPS(終濃度:200ng/mL)とIFNγ(終濃度:25ng/mL)を加え24時間処理した。刺激24時間後にプレートをPBS(-)で洗浄し(0.5mL×2回)、2%Protease inhibitor、2%Phosphatase含有, RIPA Buffer(25mM Tris-HCl pH7.6, 150mM NaCl, 1%NP-40, 1%Sodium deoxycholate, 0.1%SDS)を用いて細胞を溶解後、セルスクレーパーにて細胞を回収した。サンプル溶液中のタンパク質濃度は、Bio Rad DC プロテインアッセイキット(Bio Rab, Hercules, CA, USA)により測定した。タンパク濃度を調整したサンプル溶液に、10%メルカプトエタノール含有サンプルバッファーを加えて98℃で5分間加熱し、ウエスタンブロッティングに供した。
【0046】
<4−2.SDS−PAGE>
泳動槽に12%ゲルをセットし、泳動バッファー(Bio Rad Tris/Glycine Buffer)を泳動槽の3分の1まで入れた。ゲルの各レーンに10μLずつサンプルをアプライし(先頭の使用しないレーンには、等量のタンパク質分子量マーカーをアプライ)、120Vで1〜1.5時間泳動してサンプルのタンパク質を分離した。
【0047】
<4−3.ウエスタンブロッティング>
泳動後、ガラスプレートからゲルを慎重に外し、不要な濃縮ゲルを切り取り、10%ブロッティングバッファー(Tris/Glycine Buffer, Bio Rad)、20%メタノール、及び70%超純水からなる溶液に浸したろ紙の上へ移した。PVDF(Polyvinylidene difluoride)膜(Santa Cruz Biotechnology, CA, USA)は、メタノールに1分間浸し、親水化処理後、ブロッティングバッファーに浸して平衡化した。ブロッティングバッファーをよく染み込ませたスポンジとろ紙にSDS-PAGEで得たゲルと、PVDF膜を挟み、泳動槽にセット後、氷水で冷やしながら、60Vで90分間泳動し、タンパク質をPVDF膜に転写した。
【0048】
ブロッティング終了後、PVDF膜を5%脱脂粉乳(Difco Laboratories Inc, MI, USA)−0.1%Tween 20含有トリス緩衝化生理食塩水(T-TBS)溶液に浸して1時間ブロッキング処理した。PVDF膜をT-TBSで5分間、3回洗浄後、iNOS及びCOX-2に対応する各モノクローナル抗体(一次抗体)を含有する溶液に浸して4℃で一晩振とうした。翌日、T-TBSで振とう洗浄し(10分間×3回)、二次抗体(5%脱脂粉乳含有T-TBS溶液)に浸して1時間振とうした。その後、PVDF膜をT-TBSにて洗浄し(10分間×3回)、ECL Plus(GE Healthcare UK Ltd, Amersham Place , England)を用い、化学発光検出装置(Davinch-Chemi, 和光純薬工業社製、大阪)により検出した。尚、β−アクチンが、本実験において蛋白質発現量の標準マーカーとして用いられた。結果を
図4(a)に示す。尚、図中、LPS/IFNγの欄及びR-scytonemin欄において、+が添加有り、−が添加なしを示す。
【0049】
<5.iNOSのmRNA発現>
還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導NO産生に伴う細胞内シグナル伝達に対するiNOS mRNAの影響をRT-PCR法により検討した。
【0050】
<5−1.総RNAの抽出及びPCR>
2×10
5cells/mLに調整したRAW264細胞を6ウェルマルチプレートに播種し、12時間前培養した。その後、LPS/IFNγで12時間刺激後、PBS(-)で3度洗浄した。洗浄後、Trizol(invitogen)を1mL/ウェル加え細胞を溶解後、1.5mLのエッペンチューブに移した。次に200μLのクロロホルムを加え、30秒ボルテックス後、11500rpm、15分間、4℃で遠心し、上澄みを再び新しい1.5mLエッペンチューブに移した後、2−プロパノールを加え、10分間静置させた。10分後、11500rpm、10分間、4℃で遠心し、上澄みを慎重に除去し、ペレットを500μLの75%EtOHで洗浄した。ペレットを9000rpm、5分間、4℃にて遠心することで回収し、洗浄液を慎重に捨て、30分間風乾させた。30分後、180μLのDEPC水(invitrogen)、20μLの10×Buffer(Takara bio, Ohtsu, Japan)、2μLのDNase1を加え、37℃で1時間反応させた。その後、40μLの酢酸ナトリウム(日本ジーン社、東京、3M、pH5.2)と150μLのフェノールクロロホルム溶液(invitrogen)を加え、ボルテックスした。フェノールクロロホルム・サンプル溶液の入ったチューブを15000rpm、5分間遠心後、上清を新しい1.5mLエッペンチューブに移し、800μLのエタノールにて総RNAを抽出した。その後15000rpm、30分間、4℃にて遠心し、総RNAを回収した。最後に上清を捨て、風乾後、DNase-RNaseフリー水に溶解させ、試験に供した。尚、GAPDHが、本実験においてmRNA発現量の標準マーカーとして用いられた。
【0051】
バイオフォトメーターでサンプルの総RNA量を測定後、それぞれのRNAサンプルを100ng/μLに調整した。タカラバイオPrime Script RT regent kitを用いて逆転写反応を行った。PCR条件は、熱変性94℃:5分と、熱変性94℃:0.5分、アニーリング55℃:0.5分、及び伸長反応72℃:0.5分からなる一連の工程を30サイクルと、伸長反応72℃:7分と、保存4℃:無限とした。PCRに使用したプライマーとして、iNOS:配列番号1(forward)、iNOS:配列番号2(reverse)、GAPDH:配列番号3(forward)、及びGAPDH:配列番号4(reverse)を使用した。
【0052】
逆転写反応で得たサンプルDNAを下記表1の反応溶液を用いて半定量的RT-PCR反応を行った(条件:表1参照)。その後、1×TAE−2%アガロースゲル電気泳動法により、iNOSのmRNA発現を検討した。結果を
図4(b)に示す。尚、図中、LPS/IFNγの欄及びR-scytonemin欄において、+が添加有り、−が添加なしを示す。
【0053】
【表1】
<6.ウエスタンブロットとmRNA発現の結果>
図4(a)に示されるように、還元型スキトネミン処理することで、LPS/IFNγ誘導iNOS及びCOX-2のタンパク発現が無処理の細胞(LPS/IFNγ誘導処理あり)と比較して有意に低下した。また、
図4(b)に示されるように、還元型スキトネミンのiNOS mRNA発現に対する影響を半定量的RT-PCR法にて検討したところ、還元型スキトネミン処理することにより、iNOS mRNA発現が有意に低下した。以上により、還元型スキトネミンはiNOS mRNA発現を抑制し、iNOSタンパクの発現量を低下させることで炎症反応を引き起こすNO産生を減少させたと推察された。
【0054】
<7.還元型スキトネミンの細胞内NO産生シグナルに対する影響>
還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導NO産生に伴う細胞内シグナル伝達に対する影響をウエスタンブロット法により検討した。LPS/IFNγ誘導によるNO産生シグナルにおいて活性化されるMAPキナーゼ(p38, SAPK/JNK, ERK)、IκBα、STAT1について検討した。ウエスタンブロット法は、MAPキナーゼ等に対応する市販の各モノクローナル抗体を使用するとともに、上記<4.ウエスタンブロッティング>欄に記載の方法に従った。尚、β−アクチンが、本実験において蛋白質発現量の標準マーカーとして用いられた。結果を
図5(a)(b)に示す。尚、
図5の各レーン(0,15,30,60)は、LPS/IFNγを添加してからの処理時間(分)を示す。
【0055】
図5(a)(b)に示されるように、還元型スキトネミンは、LPS/IFNγ誘導炎症シグナルにおいてMAPキナーゼ、IκBα、及びSTAT1の活性化を有意に抑制した。例えば、
図6に示されるように、還元型スキトネミンはMAPキナーゼ、Iκ-B、STAT1の活性化を阻害し、下流となるAP-1の活性化やNFκ-Bの核移行を抑制することにより、iNOS発現を減少させ、最終的にNO産生を低下させたと推察された。