特許第6037548号(P6037548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037548
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/403 20060101AFI20161128BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20161128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   A61K31/403ZNA
   A61P29/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-167743(P2012-167743)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-24812(P2014-24812A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2014年3月26日
【審判番号】不服2015-13795(P2015-13795/J1)
【審判請求日】2015年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】593206964
【氏名又は名称】マイクロアルジェコーポレーション株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 守
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智広
(72)【発明者】
【氏名】竹中 裕行
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 渕野 留香
【審判官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第5461070(US,A)
【文献】 The Journal of Immunology,2011年,Vol.186,Meeting Abstract Supplement 112.13
【文献】 41.腹膜炎の病態形成におけるケモカインの役割解析と法医診断学への応用,上原記念生命科学財団研究報告書,2009年,Vol.23,pp.1−4
【文献】 THE JOURNAL OF PHARMACOLOGY AND EXPERIMENTAL THERAPEUTICS,2002年,Vol.303, No.2,pp.858−866
【文献】 日本婦人科腫瘍学会雑誌,2009年 6月25日,Vol.27, No.3 ,p.282
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/403
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元型スキトネミンを有効成分として含有することを特徴とする誘導型一酸化窒素合成酵素を介した細菌性炎症に対する抗炎症剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型スキトネミンを有効成分として含有する誘導型一酸化窒素合成酵素を介した抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、一酸化窒素(NO)は、不対電子を有するため反応性が高く、生体内で様々な反応系に関わっていることが知られている。NOは、生体内において、NO合成酵素によりアルギン酸と酸素から合成される。NO合成酵素には、神経型(nNOS)、誘導型(iNOS)及び内皮型(eNOS)の3つのアイソフォームが知られている。これらの中でiNOSは、感染等によって誘導されたインターフェロン−γ(IFNγ)及びインターロイキン−1(IL-1)等により転写レベルでその発現が誘導され、炎症反応に重要な役割を果たす一酸化窒素を合成するとともに、一連の生体防御機構を活性化させる。
【0003】
通常、炎症反応は、IFNγ及びIL-1の他、リポ多糖(LPS)及びプロスタグランジン(PG)等のメディエーターによって制御される。しかしながら、慢性炎症又は微生物感染等による急性炎症は組織にとって有害であり、細胞障害を引き起こすおそれがある。例えば非特許文献1に開示されるように、iNOSの持続的な発現によるNOの過剰生産は、敗血症、心血管疾患、関節リウマチ、気管支炎、及び癌等の炎症性疾患、並びに自己免疫疾患を引き起こすおそれがある。現在、iNOSを介する炎症性疾患等の疾患の悪化に対する予防薬や治療薬の開発が急務となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Heo S.J., Yoon W.J., Kim K.N., Ahn G. N., Kang S.M., Kang D.H., Affan A., Chulhong O., Jung W.K., Jeon Y. J. (2010). Evaluation of anti-inflammatory effect of fucoxanthin isolated from brown algae in lipopolysaccharide-stimulated RAW 264.7 macrophages . Fo od. Chem.Toxicol., 48, 2045-2051.
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−526768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、校庭の土壌などの表面に肉眼的な大きさのコロニーを作る藻類としてイシクラゲが知られている。例えば特許文献1に開示されるように、イシクラゲはコレステロール低下作用、抗ウイルス作用、抗がん作用等の生体に有用な作用を発揮することが実証されている。
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、イシクラゲから単離した還元型スキトネミンについて、優れた一酸化窒素産生抑制作用を有することを見出した。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、本発明の目的は、優れた抗炎症作用を発揮する抗炎症剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明の誘導型一酸化窒素合成酵素を介した細菌性炎症に対する抗炎症剤は、還元型スキトネミンを有効成分として含有する。
【発明の効果】
【0010】
発明の抗炎症剤によれば、優れた抗炎症作用を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】還元型スキトネミンの単離工程の説明図。
図2】スキトネミンの単離工程の説明図。
図3】還元型スキトネミン及びスキトネミンによるLPS/IFNγ誘導RAW264細胞のNO産生への影響を示すグラフ。
図4】(a)還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導RAW264細胞におけるiNOSとCOX-2発現への影響を示すウエスタンブロット解析の結果。(b)還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導RAW264細胞におけるiNOS mRNA発現に対する影響を示すRT-RCR後の電気泳動の結果。
図5】(a)還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導RAW264細胞におけるNO産生に伴う細胞内シグナル伝達において、MAPキナーゼ(p38, SAPK/JNK, ERK)のウエスタンブロット解析の結果。(b)還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導RAW264細胞におけるNO産生に伴う細胞内シグナル伝達において、IκBα及びSTAT1のウエスタンブロット解析の結果。
図6】還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導RAW264細胞における炎症シグナルにおいて、MAPキナーゼ(p38、JNK、ERK)、Iκ-B、STAT1等の影響を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一酸化窒素産生抑制剤を具体化した実施形態を詳細に説明する。なお、以下、細菌性炎症に対する抗炎症剤以外の用途は参考例とする。
本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤に有効成分として含有される還元型スキトネミン(Reduced scytonemin)及びスキトネミン(Scytonemin)は、それぞれ下記一般式(1)及び一般式(2)に示される構造を有する。これらの中で、一酸化窒素産生抑制作用の優れる還元型スキトネミンが好ましい。なお、以下、スキトネミンは参考例とする。
【0013】
【化1】
【化2】
また、一酸化窒素産生抑制剤に含有される還元型スキトネミン及びスキトネミンとしては、例えば天然素材由来の精製品、生化学品、及び化学合成品を適用することができる。天然素材からの精製品を適用する場合、天然素材原料としては、例えば、シアノバクテリア(藍色細菌)、ネンジュモ科ネンジュモ属の陸生藍藻の一種であるイシクラゲ(Nostoc commune)を挙げることができる。そして、還元型スキトネミン及びスキトネミンは、イシクラゲを原料として抽出工程及び単離工程を行うことにより得ることができる。以下、イシクラゲから還元型スキトネミン及びスキトネミンを得る方法について記載する。
【0014】
原料となるイシクラゲは、天然に自生する藻体であってもよいし、人工的に培養した藻体であってもよい。なお、安定供給が可能である点や品質保持が容易である点から、人工的に培養した藻体を用いることが工業的に好適である。また、原料としてのイシクラゲは採取したままの状態、採取後に破砕処理した状態、採取後に乾燥処理した状態、並びに採取後に破砕処理及び乾燥処理した状態のいずれの状態であってもよい。
【0015】
抽出工程は、イシクラゲから還元型スキトネミン及びスキトネミンを含む抽出物を抽出する工程である。抽出工程に用いる抽出溶媒としては、水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノールやエタノール等の低級アルコール類、アセトン、及び酢酸エチルが挙げられる。抽出方法としては、公知の抽出方法、例えば冷水抽出、温水抽出、熱水抽出、及び蒸気抽出のいずれの方法を用いてもよい。
【0016】
抽出操作としては、抽出溶媒中にイシクラゲを所定時間浸漬させる。抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて攪拌処理、加圧処理、及び超音波処理等の処理をさらに行ってもよい。抽出操作後、例えばろ過や遠心分離等の公知の分離法を用いて固液分離操作を行うことにより、抽出液と原料の残渣とを分離する。このとき、必要に応じて得られた抽出液(抽出物)の濃縮を行う。
【0017】
単離工程は、抽出工程にて得られた抽出物中に含まれる還元型スキトネミン及びスキトネミンを単離・精製する工程である。還元型スキトネミン及びスキトネミンは、上記抽出物を1又は2以上のクロマトグラフィを用いて精製することにより単離される。クロマトグラフィとしては、公知のクロマトグラフィ、例えば液体クロマトグラフィ、超臨界流体クロマトグラフィ、及び薄層クロマトグラフィを用いることができる。液体クロマトグラフィとしては、例えばカラムクロマトグラフィを用いることができ、より具体的には高速液体クロマトグラフィ(HPLC)及びオープンカラムクロマトグラフィを挙げることができる。クロマトグラフィ担体としては、例えばイオン交換クロマトグラフィ、分配クロマトグラフィ(順相・逆相クロマトグラフィ)、吸着クロマトグラフィ、及び分子排斥クロマトグラフィが挙げられる。分配クロマトグラフィとして、より具体的にはシリカゲル担体やODS担体を用いることが分離効率の観点から好ましい。
【0018】
上記各種クロマトグラフィを適宜組み合わせて、公知の使用方法で上記還元型スキトネミン及びスキトネミンを単離・精製することができる。上記各種クロマトグラフィの使用方法としては、公知の方法を適宜採用することができる。上記還元型スキトネミン及びスキトネミンの同定は、構造決定により、又は精製品を指標とすることにより行うことができる。
【0019】
本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤の具体的な配合形態として、例えば健康食品や食品等の飲食品等の添加剤、医薬品、医薬部外品、皮膚外用剤、及び化粧品が挙げられる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状等のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0020】
医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)、血管内投与、経皮投与、腹腔内投与の他、患部に塗布又は直接患部に投与する方法等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、各投与方法に適した剤形を適宜採用することができるが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤、皮膚外用剤等が挙げられる。また、必要により、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0021】
本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤を化粧料に適用する場合、化粧料基材に配合することにより製造することができる。化粧料の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状等のいずれであってもよい。このような化粧料を肌に適用することにより、一酸化窒素産生抑制の効果を得ることができる。化粧料基剤は、一般に化粧料に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。尚、本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤を皮膚外用剤、化粧料、及び飲食品として適用する場合は、従来品と区別するために、上記作用・効果を得ることを目的とする旨の表示を付すことが好ましい。
【0022】
次に、上記のように構成された一酸化窒素産生抑制剤の作用を説明する。
本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、有効成分として配合される還元型スキトネミン又はスキトネミンにより、高い一酸化窒素産生抑制作用を発揮する。より具体的には、誘導型一酸化窒素合成酵素を介した一酸化窒素の産生抑制作用を発揮する。還元型スキトネミン及びスキトネミンは、誘導型一酸化窒素合成酵素に対応するmRNAの発現を抑制し、誘導型一酸化窒素合成酵素量を減少させる。
【0023】
誘導型一酸化窒素合成酵素の持続的な発現による一酸化窒素の過剰生産は、敗血症、心血管疾患、関節リウマチ、気管支炎、及び癌等の炎症性疾患、並びに自己免疫疾患を引き起こすことが知られている。したがって、本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、敗血症、心血管疾患、関節リウマチ、気管支炎、及び癌等の炎症性疾患、並びに自己免疫疾患の予防薬や治療薬として好ましく適用できる。
【0024】
また、本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、LPS/INFγ誘導一酸化窒素産生に伴う細胞内シグナル伝達によって活性化されるMAPキナーゼ(p38,SAPK/JNK,ERK)、IκBα、STAT1について、各活性を抑制する。それにより、炎症反応を起こす一酸化窒素の産生を減少させる。よって、本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、抗炎症剤として好ましく適用することができる。
【0025】
次に、本実施形態における効果について以下に記載する。
(1)本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、還元型スキトネミン又はスキトネミンを有効成分として含有する。したがって、還元型スキトネミン又はスキトネミンの適用により誘導型一酸化窒素合成酵素を介した一酸化窒素の産生抑制作用を有効に発揮することができる。
【0026】
(2)本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、有効成分である還元型スキトネミン又はスキトネミンにより、誘導型一酸化窒素合成酵素を介した一酸化窒素の産生抑制作用を発揮する。したがって、誘導型一酸化窒素合成酵素を介した一酸化窒素の過剰生産が関連する敗血症、心血管疾患、関節リウマチ、気管支炎、及び癌等の炎症性疾患、並びに自己免疫疾患の予防薬や治療薬に好適に用いることができる。
【0027】
(3)本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、好ましくは、有効成分である還元型スキトネミン又はスキトネミンがイシクラゲ由来である。したがって、より副作用が少なく、生体に対してより安全に適用することができる。
【0028】
なお、本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、次のように変更して具体化することも可能である。
・本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、有効成分である還元型スキトネミン又はスキトネミンにより、一酸化窒素の産生抑制作用を発揮する。それにより、一酸化窒素が関連する炎症の抑制効果を有効に発揮することができる。したがって、還元型スキトネミン又はスキトネミンを有効成分とする抗炎症剤として構成してもよい。
【0029】
・本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、有効成分である還元型スキトネミン又はスキトネミンにより、LPS/INFγ誘導一酸化窒素産生に伴う細胞内シグナル伝達によって活性化されるMAPキナーゼ(p38,SAPK/JNK,ERK)、IκBα、STAT1の各活性を抑制する。したがって、還元型スキトネミン又はスキトネミンを有効成分とするMAPキナーゼ、IκBα、又はSTAT1の活性抑制剤として構成してもよい。
【0030】
・本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、例えば誘導型一酸化窒素合成酵素を介した一酸化窒素の過剰生産が関連する炎症性疾患及び自己免疫疾患の患者に好ましく適用される。しかしながら、治療の用途のみならず、健常者がこれらの各種症状の予防のために摂取してもよい。
【0031】
・本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤は、ヒト以外の動物、例えば、ウマ、ウシ、ブタのような家畜(非ヒト哺乳動物)、ニワトリ等の家禽、或いは犬、猫、ラット及びマウス等のペット(各種飼養動物)に投与してもよい。
【0032】
・本実施形態の一酸化窒素産生抑制剤を実験用・研究用試薬として適用してもよい。一酸化窒素の産生が関係する生理作用のメカニズムの解明等を目的として用いることができる。
【0033】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ) 還元型スキトネミン又はスキトネミンを有効成分とするMAPキナーゼ、IκBα、又はSTAT1の活性抑制剤。
【0034】
(ロ) 還元型スキトネミン又はスキトネミンを有効成分として含有する自己免疫疾患の治療又は予防薬。
(ハ) 一酸化窒素産生抑制剤又は抗炎症剤の製造方法であって、水、親水性有機溶媒、又は水と親水性有機溶媒の混合溶媒を用いてイシクラゲから前記還元型スキトネミン又はスキトネミンを含む抽出物を抽出する抽出工程と、前記抽出物から前記還元型スキトネミン又はスキトネミンを単離する単離工程とを有する一酸化窒素産生抑制剤又は抗炎症剤の製造方法。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて上記実施形態をさらに具体的に説明する。
<1.還元型スキトネミン及びスキトネミンの抽出・単離>
イシクラゲの乾燥粉体(400g)にエタノール(4L)を添加して、室温にて2時間攪拌するとともに30分間静置した後、上清を回収した。また、沈殿物に対して、エタノール(4L)を添加して、室温にて2時間攪拌するとともに30分間静置した後、上清を回収した。この沈殿物に対する再抽出操作を合計10回繰り返した。得られた全ての上清をろ紙によりろ過するとともに、そのろ液を減圧濃縮することにより、イシクラゲ抽出物(20g)を得た。
【0036】
イシクラゲ抽出物に対して、複数のクロマトグラフィによる分画を組み合わせて行うことにより還元型スキトネミン及びスキトネミンの単離を行った。図1を参照して、還元型スキトネミン及びスキトネミンの単離工程について説明する。
【0037】
イシクラゲ抽出物(18g)について、中性シリカゲルを用いた吸引液体クロマトグラフィを行うことにより8画分に分画し、TLCによる標品との比較に基づいて還元型スキトネミン及びスキトネミンが含有される画分(NC−5)を回収した。画分NC−5について、中性シリカゲルを用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより5画分に分画し、TLCによる標品との比較に基づいて還元型スキトネミン及びスキトネミンが含有される画分(NC−5−4、NC−5−5)を回収した。
【0038】
画分NC−5−4について、更に中性シリカゲルを用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより6画分に分画した。また、画分NC−5−5について、更に中性シリカゲルを用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより4画分に分画した。そして、TLCによる標品との比較に基づいて還元型スキトネミン及びスキトネミンが含有される画分(NC−5−4−4,NC−5−4−5,NC−5−5−3)を回収するとともに、これらを一つに合わせて画分NC−5―Aとした。
【0039】
画分NC−5―Aについて、Sephadex LH−20を用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより8画分に分画した。そして、TLCによる標品との比較に基づいて還元型スキトネミンが含有される画分(NC−5−A−7)を回収するとともに、その画分NC−5―A−7について、ODS担体を用いた液体カラムクロマトグラフィを行うことにより還元型スキトネミンを単離した。
【0040】
スキトネミンは、図2に示されるように、NC−5−A−1の分画からさらに精製処理を行った。まず、NC−5―A−1(19.8mg)を、Sephadex LH−20カラムクロマトグラフィで2画分(NC−5−A−1−1,NC−5−A−1−2)に分画した。そのうち、NC−5−A−1−1について、NMRスペクトル測定及びTLC試験により精製度を確認しながら、Sephadex LH−20カラムクロマトグラフィにより分画した。さらに、ODS C18カラムクロマトグラフィを繰り返し行い、スキトネミンを単離した。
【0041】
本実施例では、イシクラゲより単離した上記還元型スキトネミン及びスキトネミンの抗炎症作用について細菌感染時のマクロファージ(マウスマクロファージ細胞株 RAW264細胞株)をモデルとしたLPS/IFNγ誘導炎症反応系を用いて検討した。
【0042】
<2.細胞培養>
マウスマクロファージRAW264細胞は、理化学研究所(茨城県つくば市)より入手した。RAW264細胞は、10%牛胎児血清、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトレマイシン(以上Invitrogen, CA, USA)を含んだDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium; Thermo Fisher Scientifics, K. K, MA, USA)にて、95%空気−5%CO環境下で培養した。
【0043】
<3.還元型スキトネミン及びスキトネミンによるRAW264細胞への影響>
前記RAW264細胞を2×10cells/mLに調製し、24ウェルマルチプレート(Thermo Fisher Scientifics)に500μLずつ播種した。播種後、還元型スキトネミン及びスキトネミンを終濃度がそれぞれ0.5μM,1μM,2.5μMとなるように、各濃度で添加し、2時間前培養を行った。前処理の後、LPS(終濃度:200ng/mL)とIFNγ(終濃度:25ng/mL)を加え24時間処理した。24時間後、産生した一酸化窒素(NO)をGriess試薬(Promega, WI, USA)により発色させ、吸光度計(コロナ電気、茨城県)により、540nmにより検出した。結果を図3に示す。尚、データは平均±標準誤差で表した。2群間の比較にはStudent’s t-検定を行った。5%有意を*、1%有意を**とした。また、図中、LPS及びIFNγの欄において、+が添加有り、−が添加なしを示す。
【0044】
図3に示されるように、還元型スキトネミン処理は各濃度処理においてスキトネミン処理よりも有意にNOの産生を抑制した。
<4.ウエスタンブロッティング>
還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導NO産生に伴う細胞内シグナル伝達に対する影響をウエスタンブロット法により検討した。LPS/IFNγ誘導によるNO産生シグナルにおいてiNOS及び炎症関連遺伝子の核内転写因子であるCOX-2について検討した。
【0045】
<4−1.細胞溶解サンプルの回収>
細胞数を2×10cells/mLに調製し、6ウェルマルチプレートに1mLずつ播種した。一晩培養後、還元型スキトネミンを終濃度が1μMとなるようにそれぞれ添加し、2時間前培養を行った。前処理の後、LPS(終濃度:200ng/mL)とIFNγ(終濃度:25ng/mL)を加え24時間処理した。刺激24時間後にプレートをPBS(-)で洗浄し(0.5mL×2回)、2%Protease inhibitor、2%Phosphatase含有, RIPA Buffer(25mM Tris-HCl pH7.6, 150mM NaCl, 1%NP-40, 1%Sodium deoxycholate, 0.1%SDS)を用いて細胞を溶解後、セルスクレーパーにて細胞を回収した。サンプル溶液中のタンパク質濃度は、Bio Rad DC プロテインアッセイキット(Bio Rab, Hercules, CA, USA)により測定した。タンパク濃度を調整したサンプル溶液に、10%メルカプトエタノール含有サンプルバッファーを加えて98℃で5分間加熱し、ウエスタンブロッティングに供した。
【0046】
<4−2.SDS−PAGE>
泳動槽に12%ゲルをセットし、泳動バッファー(Bio Rad Tris/Glycine Buffer)を泳動槽の3分の1まで入れた。ゲルの各レーンに10μLずつサンプルをアプライし(先頭の使用しないレーンには、等量のタンパク質分子量マーカーをアプライ)、120Vで1〜1.5時間泳動してサンプルのタンパク質を分離した。
【0047】
<4−3.ウエスタンブロッティング>
泳動後、ガラスプレートからゲルを慎重に外し、不要な濃縮ゲルを切り取り、10%ブロッティングバッファー(Tris/Glycine Buffer, Bio Rad)、20%メタノール、及び70%超純水からなる溶液に浸したろ紙の上へ移した。PVDF(Polyvinylidene difluoride)膜(Santa Cruz Biotechnology, CA, USA)は、メタノールに1分間浸し、親水化処理後、ブロッティングバッファーに浸して平衡化した。ブロッティングバッファーをよく染み込ませたスポンジとろ紙にSDS-PAGEで得たゲルと、PVDF膜を挟み、泳動槽にセット後、氷水で冷やしながら、60Vで90分間泳動し、タンパク質をPVDF膜に転写した。
【0048】
ブロッティング終了後、PVDF膜を5%脱脂粉乳(Difco Laboratories Inc, MI, USA)−0.1%Tween 20含有トリス緩衝化生理食塩水(T-TBS)溶液に浸して1時間ブロッキング処理した。PVDF膜をT-TBSで5分間、3回洗浄後、iNOS及びCOX-2に対応する各モノクローナル抗体(一次抗体)を含有する溶液に浸して4℃で一晩振とうした。翌日、T-TBSで振とう洗浄し(10分間×3回)、二次抗体(5%脱脂粉乳含有T-TBS溶液)に浸して1時間振とうした。その後、PVDF膜をT-TBSにて洗浄し(10分間×3回)、ECL Plus(GE Healthcare UK Ltd, Amersham Place , England)を用い、化学発光検出装置(Davinch-Chemi, 和光純薬工業社製、大阪)により検出した。尚、β−アクチンが、本実験において蛋白質発現量の標準マーカーとして用いられた。結果を図4(a)に示す。尚、図中、LPS/IFNγの欄及びR-scytonemin欄において、+が添加有り、−が添加なしを示す。
【0049】
<5.iNOSのmRNA発現>
還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導NO産生に伴う細胞内シグナル伝達に対するiNOS mRNAの影響をRT-PCR法により検討した。
【0050】
<5−1.総RNAの抽出及びPCR>
2×10cells/mLに調整したRAW264細胞を6ウェルマルチプレートに播種し、12時間前培養した。その後、LPS/IFNγで12時間刺激後、PBS(-)で3度洗浄した。洗浄後、Trizol(invitogen)を1mL/ウェル加え細胞を溶解後、1.5mLのエッペンチューブに移した。次に200μLのクロロホルムを加え、30秒ボルテックス後、11500rpm、15分間、4℃で遠心し、上澄みを再び新しい1.5mLエッペンチューブに移した後、2−プロパノールを加え、10分間静置させた。10分後、11500rpm、10分間、4℃で遠心し、上澄みを慎重に除去し、ペレットを500μLの75%EtOHで洗浄した。ペレットを9000rpm、5分間、4℃にて遠心することで回収し、洗浄液を慎重に捨て、30分間風乾させた。30分後、180μLのDEPC水(invitrogen)、20μLの10×Buffer(Takara bio, Ohtsu, Japan)、2μLのDNase1を加え、37℃で1時間反応させた。その後、40μLの酢酸ナトリウム(日本ジーン社、東京、3M、pH5.2)と150μLのフェノールクロロホルム溶液(invitrogen)を加え、ボルテックスした。フェノールクロロホルム・サンプル溶液の入ったチューブを15000rpm、5分間遠心後、上清を新しい1.5mLエッペンチューブに移し、800μLのエタノールにて総RNAを抽出した。その後15000rpm、30分間、4℃にて遠心し、総RNAを回収した。最後に上清を捨て、風乾後、DNase-RNaseフリー水に溶解させ、試験に供した。尚、GAPDHが、本実験においてmRNA発現量の標準マーカーとして用いられた。
【0051】
バイオフォトメーターでサンプルの総RNA量を測定後、それぞれのRNAサンプルを100ng/μLに調整した。タカラバイオPrime Script RT regent kitを用いて逆転写反応を行った。PCR条件は、熱変性94℃:5分と、熱変性94℃:0.5分、アニーリング55℃:0.5分、及び伸長反応72℃:0.5分からなる一連の工程を30サイクルと、伸長反応72℃:7分と、保存4℃:無限とした。PCRに使用したプライマーとして、iNOS:配列番号1(forward)、iNOS:配列番号2(reverse)、GAPDH:配列番号3(forward)、及びGAPDH:配列番号4(reverse)を使用した。
【0052】
逆転写反応で得たサンプルDNAを下記表1の反応溶液を用いて半定量的RT-PCR反応を行った(条件:表1参照)。その後、1×TAE−2%アガロースゲル電気泳動法により、iNOSのmRNA発現を検討した。結果を図4(b)に示す。尚、図中、LPS/IFNγの欄及びR-scytonemin欄において、+が添加有り、−が添加なしを示す。
【0053】
【表1】
<6.ウエスタンブロットとmRNA発現の結果>
図4(a)に示されるように、還元型スキトネミン処理することで、LPS/IFNγ誘導iNOS及びCOX-2のタンパク発現が無処理の細胞(LPS/IFNγ誘導処理あり)と比較して有意に低下した。また、図4(b)に示されるように、還元型スキトネミンのiNOS mRNA発現に対する影響を半定量的RT-PCR法にて検討したところ、還元型スキトネミン処理することにより、iNOS mRNA発現が有意に低下した。以上により、還元型スキトネミンはiNOS mRNA発現を抑制し、iNOSタンパクの発現量を低下させることで炎症反応を引き起こすNO産生を減少させたと推察された。
【0054】
<7.還元型スキトネミンの細胞内NO産生シグナルに対する影響>
還元型スキトネミンのLPS/IFNγ誘導NO産生に伴う細胞内シグナル伝達に対する影響をウエスタンブロット法により検討した。LPS/IFNγ誘導によるNO産生シグナルにおいて活性化されるMAPキナーゼ(p38, SAPK/JNK, ERK)、IκBα、STAT1について検討した。ウエスタンブロット法は、MAPキナーゼ等に対応する市販の各モノクローナル抗体を使用するとともに、上記<4.ウエスタンブロッティング>欄に記載の方法に従った。尚、β−アクチンが、本実験において蛋白質発現量の標準マーカーとして用いられた。結果を図5(a)(b)に示す。尚、図5の各レーン(0,15,30,60)は、LPS/IFNγを添加してからの処理時間(分)を示す。
【0055】
図5(a)(b)に示されるように、還元型スキトネミンは、LPS/IFNγ誘導炎症シグナルにおいてMAPキナーゼ、IκBα、及びSTAT1の活性化を有意に抑制した。例えば、図6に示されるように、還元型スキトネミンはMAPキナーゼ、Iκ-B、STAT1の活性化を阻害し、下流となるAP-1の活性化やNFκ-Bの核移行を抑制することにより、iNOS発現を減少させ、最終的にNO産生を低下させたと推察された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]