(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
合成樹脂の吐出成形に用いられる紡糸用パックは、溶融紡糸装置に取り付ける前に使用温度近くまで予熱することが一般的に行われている。多くの場合、紡糸用パックを予熱炉を用いて300℃程度の高温まで加熱しているが、所望の温度に達するために時間を要してしまう。
【0003】
このため、特許文献1に示すように、紡糸用パックの外側周面に誘導コイルを巻回して、当該紡糸用パックを誘導加熱で短時間で昇温させることが考えられている。
【0004】
しかしながら、紡糸用パックの外側周面に誘導コイルを巻回させたものでは、紡糸用パックの外周部の温度が急上昇して、溶融樹脂が通過する流路が形成された内部の温度が所望の温度に達するには、依然として時間がかかってしまうという問題がある。
【0005】
また、紡糸用パックの内部には、溶融樹脂中の異物を除去するフィルタが設けられている場合が多く、当該フィルタの材質や構造の観点から、最高許容温度をおよそ400℃程度とすることが望ましい。このため、内部温度が所望の温度となるまで加熱した場合には、その周辺の温度が前記最高許容温度を超えてしまい、フィルタが破損してしまうという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、紡糸用パックの温度を最高許容温度未満に保ちつつ、紡糸用パックの内部温度を短時間で所望の温度まで加熱することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る紡糸用パック加熱装置は、紡糸用パックを誘導加熱によって予熱する紡糸用パック加熱装置であって、前記紡糸用パックが配置される
複数の紡糸用パック配置空間を挟んで磁路を形成する
対をなす磁路用継鉄心と、前記
複数の紡糸用パック配置空間を
それぞれ囲むように巻回して設けられた
複数の磁束発生用巻線と
、前記対をなす磁路用継鉄心を磁気的に接続する脚鉄心と、前記複数の磁束発生用巻線に流れる電流を個別に制御する制御機構とを備えることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、磁束発生用巻線により発生した磁束が磁路形成部材を通って紡糸用パックの中心部を含めた全体を貫通して、当該紡糸用パック全体を渦電流によって加熱することができ、紡糸用パック全体を万遍なく加熱することができる。これにより、紡糸用パックの外周部温度を最高許容温度未満に保ちつつ、紡糸用パックの内部温度を短時間で予熱することができる。また、磁束発生用巻線を紡糸用パック配置空間を囲むように設けているので、紡糸用パックに直接誘導電流を誘起させることができ、回路力率を高めることができる。
【0010】
前記磁路形成部材が、正三角形の各頂点に配置された3つの紡糸用パック配置空間を形成する対をなす磁路用継鉄心であり、前記3つの紡糸用パック配置空間それぞれに前記磁束発生用巻線が設けられており、前記3つの磁束発生用巻線が、三相交流電源に接続されていることが望ましい。これならば、三相交流電源を用いて3つの紡糸用スピンパックを同時に加熱することができる。また、3つの紡糸用パック配置空間が三角配置されているので、三相の磁気回路長がほぼ等しくなり、三相の磁気抵抗がほぼ等しくなり磁束量もほぼ等しくなる。したがって、3つの紡糸用パックをほぼ等しく加熱することができる。
【0011】
前記3つの紡糸用パック配置空間により構成される正三角形の重心位置に設けられて前記対をなす磁路用継鉄心を磁気的に接続する脚鉄心と、前記3つの磁束発生用巻線に流れる電流を個別に制御する制御機構とを有することが望ましい。これならば、正三角形の重心位置に設けられた脚鉄心が漏洩磁束用脚鉄心となり、各紡糸用パック配置空間に配置された紡糸用パックの温度上昇値及び昇温時間を個別に制御することができる。また、3つの紡糸用パック配置空間に設置する紡糸用パックの個数を1個又は2個又は3個にして加熱することができる。ここで、漏洩磁路に最大磁束が流れる状態は、紡糸用パックを1個又は2個加熱する場合で、入力電圧が同じ場合、その合計磁束は1相の最大磁束を超えない値となる。このため、漏洩磁路である脚鉄心の横断面の断面積は、継鉄心の縦断面の断面積と略同一とすれば良い。
【0012】
前記磁路形成部材の一部に前記磁束発生用巻線とは異なる別の磁束発生用巻線が設けられていることが望ましい。これならば、紡糸用コイル配置空間に設けた磁束発生用巻線により発生させる磁束量と、磁路形成部材に設けた磁束発生用巻線により発生させる磁束量とを調整することによって、紡糸用パックの外周部及び中心部の発熱量を調整することができ、紡糸用パックの各部の温度差が限度以下に収まるように制御することが可能となる。
【0013】
また本発明に係る紡糸用パック加熱装置は、紡糸用パックを誘導加熱によって予熱する紡糸用パック加熱装置であって、前記紡糸用パックが配置される紡糸用パック配置空間を挟んで磁路を形成する磁路形成部材と、前記磁路形成部材の一部に巻回して設けられており、前記紡糸用パック配置空間に磁束を発生させる磁束発生用巻線とを備えることを特徴とする。
【0014】
このようなものであれば、磁束発生用巻線により発生した磁束が磁路形成部材を通って紡糸用パックの中心部を含めた全体を貫通して、当該紡糸用パック全体を渦電流によって加熱することができ、紡糸用パック全体を万遍なく加熱することができる。これにより、紡糸用パックの外周部温度を最高許容温度未満に保ちつつ、紡糸用パックの内部温度を短時間で予熱することができる。
【0015】
上記の紡糸用パック加熱装置において、前記磁路形成部材が、互いに対向して前記紡糸用パック配置空間を形成する対をなす鉄心要素を有しており、前記紡糸用パック配置空間への紡糸用パックの配置又は前記紡糸用パック配置空間からの紡糸用パックの取り外しを行うために、前記対をなす鉄心要素の少なくとも一方を移動させる移動機構を備えることが望ましい。これならば、紡糸用パック加熱装置に対する紡糸用パックの着脱を容易にすることができる。
【0016】
さらに本発明に係る溶融紡糸装置は、溶融樹脂が流入する樹脂流入口及び紡糸された糸条を吐出する吐出口を有する紡糸用パックと、前記紡糸用パックにおける前記樹脂流入口及び前記吐出口以外の部分を挟んで設けられた磁路形成部材と、前記磁路形成部材の一部に巻回して設けられた磁束発生用巻線とを備えることを特徴とする。
【0017】
このようなものであれば、磁束発生用巻線により発生した磁束が磁路形成部材を通って紡糸用パックの中心部を含めた全体を貫通して、当該紡糸用パック全体を渦電流によって加熱することができ、紡糸用パック全体を万遍なく加熱することができる。これにより、紡糸用パックの外周部温度を最高許容温度未満に保ちつつ、紡糸用パックの内部温度を短時間で加熱することができる。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、紡糸用パックの外周部温度を最高許容温度未満に保ちつつ、紡糸用パックの内部温度を短時間で加熱することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明に係る紡糸用パック加熱装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
(1)第1実施形態
第1実施形態に係る紡糸用パック加熱装置100は、溶融紡糸装置に取り付けられる前の紡糸用パックBPを予め所望の温度に誘導加熱するものである。
【0022】
具体的にこのものは、
図1に示すように、紡糸用パックBPが配置される紡糸用パック配置空間Sを挟んで磁路を形成する磁路形成部材2と、この磁路形成部材2の一部に巻回して設けられており、紡糸用パック配置空間Sに磁束を発生させる磁束発生用巻線3とを備えている。
【0023】
磁路形成部材2は、互いに対向する2つの対向面2a、2bによって紡糸用パック配置空間Sを形成しており、その側面視形状が例えば概略C字状の部分円環形状を成すものである。本実施形態の磁路形成部材2は、カットコア型巻鉄心により構成されており、前記対向面2aを有する上側鉄心部21と、前記対向面2bを有する下側鉄心部22と、前記上側鉄心部21及び前記下側鉄心部22を連結する脚鉄心部23とを有する。
【0024】
また、紡糸用パック配置空間Sは、紡糸用パックBPを立てた状態で配置できるとともに、紡糸用パック配置空間Sに配置した状態で紡糸用パックBPが2つの対向面2a、2bの間から外側にはみ出ないサイズを有している。
【0025】
磁束発生用巻線3は、磁路形成部材2において前記紡糸用パック配置空間Sに対向する部分に巻回して設けられている。本実施形態の磁束発生用巻線3は、磁路形成部材2の脚鉄心部23に巻回して設けられている。この磁束発生用巻線3は、周波数50Hz〜1000Hzの交流電源(不図示)により単相交流電圧が印加される入力巻き線である。なお、交流電源は、50Hz若しくは60Hzの商用電源又は変圧器方式の3N(Nは1以上の奇数である。)倍周波数発生装置により構成されている。この3N倍周波数発生装置の構成としては、例えば、3組の単相変圧器の1次巻線をY結線するとともに、2次巻線をΔ結線して、そのΔ結線の一端を開放して、この開放部から高調波成分を取り出すものが考えられる。このように、50Hz〜1000Hzの中周波の交流電圧により誘導加熱するので、高周波電源を用いた場合に比べて電源コストを小さくことができる。つまり、50Hz〜1000Hzの中周波の交流電圧は、変圧器の結線によって簡単に生成できるため、インバータを要する高周波に比べて大幅な低コストの電源とすることができる。
【0026】
そして、磁束発生用巻線3に単相交流電圧が印加されることにより、磁束が磁路形成部材2を通って紡糸用パックBPの中心部を含めた全体を貫通して、当該紡糸用パックBP全体を渦電流によって加熱することができ、紡糸用パックBP全体を万遍なく加熱することができる。
【0027】
次にこのように構成した本実施形態の紡糸用パック加熱装置100の誘導加熱テストについて説明する。
なお、誘導加熱テストに用いたテスト負荷は、マルテンサイト系ステンレス(SUS420)からなり、
図2に示すように、直径150mm、高さ120mm、重量16kgの円柱部材である。このテスト負荷において、上端面において3箇所(点1〜点3)、外側周面において3箇所(点4〜点6)及び内部において3箇所(点7〜点9)を温度測定点とした。
【0028】
本実施形態の紡糸用パック加熱装置100を用いて前記テスト負荷を誘導加熱した結果を以下の表1及び表2及び
図3に示す。なお、表1は、スタート時からの力率等の変化を示す表であり、表2は、時間経過に伴う各点での温度変化を示す表であり、
図3は、時間経過に伴う各点での温度変化を示すグラフである。これら表1、表2及び
図3から分かるように、テスト負荷の中心部温度(点7〜点9)が、加熱開始から18.5分で約300℃に達しており、そのときの各部の温度差は最大46.3℃である。また、20.2分では、各部の最大温度差は17.0℃まで縮小し、全工程での最大温度差が50.4℃に抑えられている。
【0031】
このように構成した第1実施形態の紡糸用パック加熱装置100によれば、磁束発生用巻線3により発生した磁束が磁路形成部材2を通って紡糸用パックBPの中心部を含めた全体を貫通して、当該紡糸用パックBP全体を渦電流によって加熱することができ、紡糸用パックBP全体を万遍なく加熱することができる。これにより、紡糸用パックBPの各部の温度を最高許容温度未満に保ちつつ、紡糸用パックBPの溶融樹脂が通過する流路が形成された内部の温度を短時間で予熱することができる。
【0032】
(2)第2実施形態
次に本発明の第2実施形態について説明する。なお、前記第1実施形態と同一又は対応する部材には同一の符号を付している。
【0033】
第2実施形態に係る紡糸用パック加熱装置100は、前記第1実施形態の紡糸用パック加熱装置100とは、磁束発生用巻線3の配置が異なる。
【0034】
本実施形態の磁束発生用巻線3は、
図4に示すように、紡糸用パック配置空間Sを囲むように巻回して設けられている。この磁束発生用巻線3の上下方向の巻回幅は、紡糸用パックBPの外形の長さ寸法と略同一である。
【0035】
そして、磁束発生用巻線3に単相交流電圧が印加されることにより、磁束が磁路形成部材2を通って紡糸用パックBPの中心部を含めた全体を貫通して、当該紡糸用パックBP全体を渦電流によって加熱することができ、紡糸用パックBP全体を万遍なく加熱することができる。また、また、磁束発生用巻線3を紡糸用パック配置空間Sを囲むように設けているので、紡糸用パックBPに直接誘導電流を誘起させることができ、回路力率を高めることができる。
【0036】
本実施形態の紡糸用パック加熱装置100を用いて
図2のテスト負荷を誘導加熱した結果を以下の表3、表4及び
図5に示す。なお、表3は、スタート時からの力率等の変化を示す表であり、表4は、時間経過に伴う各点での温度変化を示す表であり、
図5は、時間経過に伴う各点での温度変化を示すグラフである。これら表3、表4及び
図5から分かるように、前記第1実施形態の紡糸用パック加熱装置100に比べて、力率が0.185から0.5に改善されており、300℃までの昇温時間も18.5分から9.0分に短縮されている。また、全工程における最大温度差は120.0℃であり、前記第1実施形態よりも大きくなっているが、テスト負荷の最高温度は360℃であり、最大許容温度の400℃を超えていない。
【0039】
このように構成した第2実施形態の紡糸用パック加熱装置100によれば、磁束発生用巻線3により発生した磁束が磁路形成部材2を通って紡糸用パックBPの中心部を含めた全体を貫通して、当該紡糸用パック全体を渦電流によって加熱することができ、紡糸用パックBP全体を万遍なく加熱することができる。これにより、紡糸用パックBPの外周部の温度を最高許容温度未満に保ちつつ、紡糸用パックBPの内部の温度を短時間で予熱することができる。また、磁束発生用巻線3を紡糸用パック配置空間Sを囲むように設けているので、紡糸用パックBPに直接誘導電流を誘起させることができ、前記第1実施形態に比べて回路力率を高めることができる。
【0040】
なお、前記第2実施形態においては、1つの紡糸用パックBPを加熱するものであったが、
図6に示すように、前記脚鉄心部23に該当する部分にも紡糸用パック配置空間Sを形成して、同時に2つの紡糸用パックBPを誘導加熱できるように構成しても良い。この場合、上側鉄心部21又は下側鉄心部22の一方を他方に対して相対移動させる移動機構(不図示)が設けられており、これにより、紡糸用パックBPの着脱を容易にする。ここで移動機構としては、例えば油圧機構を用いたものが考えられ、手動又は自動により、紡糸用パックBPを上側鉄心部21及び下側鉄心部22より挟んだパック加熱位置と、紡糸用パックBPを取り外すことができる取り外し位置との間で、上側鉄心部21又は下側鉄心部22を移動させるものである。なお、前記第2実施形態においても、上側鉄心部21又は下側鉄心部22を前記移動機構によりその他の磁路形成部材2から着脱可能に構成しても良い。
【0041】
(3)第3実施形態
次に本発明の第3実施形態について説明する。なお、前記各実施形態と同一又は対応する部材には同一の符号を付している。
【0042】
第3実施形態に係る紡糸用パック加熱装置100は、同時に3つの紡糸用パックBPを誘導加熱可能なものであり、前記各実施形態とは、磁路形成部材2及び磁束発生用巻線3の構成が異なる。
【0043】
本実施形態の磁路形成部材2は、
図7に示すように、正三角形の各頂点に配置された3つの紡糸用パック配置空間Sを形成する対をなす磁路用継鉄心24、25からなる。そして、この3つの紡糸用パック配置空間Sそれぞれに磁束発生用巻線3u、3v、3wが設けられている。この3つの磁束発生用巻線3u、3v、3wには、三相交流電源(不図示)が接続されている。
【0044】
このように構成した第3実施形態の紡糸用パック加熱装置100によれば、3つの紡糸用パックBPを同時に誘導加熱することができる。また、紡糸用パックBPを三角配置することで、三相の磁気回路長は等しくなるので、三相の磁気抵抗を等しくすることができ、紡糸用パックBPを通過する磁束量を等しくすることができる。これにより、3つの紡糸用パックBPを等しく加熱することができる。
【0045】
なお、前記第3実施形態の紡糸用パック加熱装置100において、
図8に示すように、3つの紡糸用パック配置空間Sにより構成される正三角形の重心位置に設けられて、磁路用継鉄心24、25を磁気的に接続する脚鉄心26と、3つの磁束発生用巻線3u、3v、3wに流れる電流を個別に制御する制御機構(不図示)とを有する構成としても良い。これならば、正三角形の重心位置に設けられた脚鉄心26が漏洩磁束用脚鉄心となり、各紡糸用パック配置空間Sに配置された紡糸用パックBPの温度上昇値及び昇温時間を個別に制御することができる。また、3つの紡糸用パック配置空間Sに設置する紡糸用パックBPの個数を1個又は2個又は3個にして加熱することができる。ここで、脚鉄心26の横断面の断面積は、各磁路用継鉄心24、25の横断面の断面積と略同一である。
【0046】
(4)第4実施形態
次に本発明の第4実施形態について説明する。なお、前記各実施形態と同一又は対応する部材には同一の符号を付している。
【0047】
第4実施形態に係る紡糸用パック加熱装置100は、前記第1実施形態の紡糸用パック加熱装置100とは、磁束発生用巻線3の配置が異なる。
【0048】
本実施形態の紡糸用パック加熱装置100は、
図9に示すように、紡糸用パック配置空間Sを囲むように巻回して設けられた第1の磁束発生用巻線31と、磁路形成部材2の一部に巻回して設けられた第2の磁束発生用巻線32とを有する。なお、第1の磁束発生用巻線31は、前記第2実施形態の磁束発生用巻線と同様であり、第2の磁束発生用巻線32は、前記第1実施形態の磁束発生用巻線と同様である。また、本実施形態では、上側鉄心部21が、脚鉄心部23及び下側鉄心部22に対して上下に移動可能に構成されており、前記移動機構により移動されるように構成されている。
【0049】
そして、前記第1の磁束発生用巻線31と前記第2の磁束発生用巻線32とに流す電流値を制御することによってそれら巻線31、32それぞれから発生させる磁束量を個別に調整できるように構成されている。具体的には、図示しない電源装置によって前記第1の磁束発生用巻線31及び前記第2の磁束発生用巻線32に流す電流値を制御する。
【0050】
本実施形態の紡糸用パック加熱装置100を用いて
図2のテスト負荷を誘導加熱した結果を以下の表5〜表8、
図10及び
図11に示す。ここで、この誘導負荷試験は、第1の磁束発生用巻線31と第2の磁束発生用巻線32との電気容量比を1:0.85とした試験であり、表5、表6及び
図10は、前記第2実施形態と同様の容量となるように調整し、表7、表8及び
図11は、前記第2実施形態と昇温時間を同等となるように調整したものである。また、表5及び表7は、スタート時からの力率等の変化を示す表であり、表6及び表8は、時間経過に伴う各点での温度変化を示す表であり、
図10及び
図11は、時間経過に伴う各点での温度変化を示すグラフである。
【0055】
図10及び
図11の何れにおいても、テスト負荷の各部の最大温度差は、前記第2実施形態以下の値となっており、その値を前記第1実施形態のものと第2実施形態のものとの間で調整できることが分かる。
【0056】
このように構成した第4実施形態の紡糸用パック加熱装置100によれば、第1の磁束発生用巻線31及び第2の磁束発生用巻線32から発生させる磁束量を調整して紡糸用パックBPの外周部と内部との発熱量を調整でき、紡糸用パックBP各部の温度差を所望の温度以下となるように制御することが可能となる。
【0057】
(5)第5実施形態
第5実施形態に係る紡糸用パック加熱装置100は、溶融紡糸装置に取り付けられた紡糸用パックBPを所望の温度に誘導加熱するものである。
【0058】
具体的にこのものは、
図12及び
図13に示すように、溶融樹脂が流入する樹脂流入口BP1及び紡糸された糸条を吐出する吐出口BP2を有する紡糸用パックBPと、紡糸用パックBPにおける前記樹脂流入口BP1及び前記吐出口BP2以外の部分を挟んで設けられた磁路形成部材2と、磁路形成部材2の一部に巻回して設けられた磁束発生用巻線3とを備える。
【0059】
磁路形成部材2の紡糸用パック配置空間Sを形成する2つの対向面2a、2bは、紡糸用パックBPの外側周面に沿った部分円弧形状を成すものであり、これにより、概略円柱状をなす紡糸用パック配置空間Sが形成される。ここで、紡糸用パックBPの樹脂流入口BP1及び吐出口BP2と2つの対向面2a、2bとは干渉しないように構成されている。より詳細には、紡糸用パックBPの下面に吐出口BP2が形成されており、紡糸用パックBPの外側周面の上方に樹脂流入口BP1が形成されているため、2つの対向面2a、2bは、紡糸用パックBPの外側周面において、樹脂流入口BP1の下側に位置している。
【0060】
このように構成した第5実施形態の紡糸用パック加熱装置100によれば、磁束発生用巻線3により発生した磁束が磁路形成部材2を通って、2つの対向面2a、2bにより挟まれた部分全体を貫通して、当該挟まれた部分全体を渦電流によって加熱することができ、2つの対向面2a、2bにより挟まれた部分全体を万遍なく加熱することができる。これにより、紡糸用パックBPの外周部温度を最高許容温度未満に保ちつつ、紡糸用パックBPの内部温度を短時間で加熱することができる。
【0061】
なお、前記第5実施形態の紡糸用パック加熱装置100では、1つの磁路形成部材2及び1つの磁束発生用巻線3から構成されているが、
図14に示すように、1つの磁路形成部材2及び1つの磁束発生用巻線3から構成される加熱ユニットHUを2組用いて1つの紡糸用パックBPを加熱するように構成しても良い。この場合、各加熱ユニットHUの紡糸用パック配置空間Sによって1つの紡糸用パックBPが配置される1つの配置空間が形成される。また、各加熱ユニットHUの紡糸用パック配置空間Sを構成する2つの対向面2a、2bは、斜め直線状に形成してあり、2つの加熱ユニットHUが組み合わされることによって、1つの紡糸用パックBPを挟み込む概略くの字状の対向面となる。これにより、2つの加熱ユニットHUの2つの対向面2a、2bは、4点で紡糸用パックBPに接触又は近接する。なお、この場合、各加熱ユニットHUの磁路形成部材2は、2つに分離可能であり、一方を図示しない移動機構により移動されることによって、紡糸用パックBPの着脱が容易となる。
【0062】
その他、本発明は前記各実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。