(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係るスクロール型圧縮機の縦断面図である。
【
図2】
図1の要部拡大図であり、スラスト滑り軸受と旋回スクロールの端板との擦動部を示す図である。
【
図3】スラスト滑り軸受と旋回スクロールの端板との間に配置されるスラストプレートの平面図である。
【
図4】旋回スクロールの端板、スラストプレート、およびスラスト滑り軸受を模式的に示す断面図である。
【
図5】スラストプレートの窪みの位置を説明するための図である。
【
図7】第1実施形態の他の変形例を示す断面図である。
【
図8】第1実施形態の他の変形例を示す断面図である。
【
図9】第2実施形態におけるスラストプレートの平面図である。
【
図10】スラストプレートの溝の断面を示す図である。
【
図11】第3実施形態における旋回スクロールの端板の平面図である。
【
図12】旋回スクロールの端板の窪みの断面を示す図である。
【0020】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
なお、既に説明した構成と同様の構成については、同じ符号を付し、その説明を省略または簡略する。
〔第1実施形態〕
本実施形態におけるスクロール型圧縮機10は、車両に搭載される空気調和機に適用される。スクロール型圧縮機10は、下部収容室111および上部収容室112を有するハウジング11を備えている。
下部収容室111は、第1収容部111aと第2収容部111bとが合わせ部111cで締結されることによって構成されている。第1収容部111aにはモータ20が収容され、第2収容部111bには圧縮機構30が収容されている。
上方に開口した上部収容室112には、インバータユニット12が収容されている。上部収容室112の開口はカバー17によって覆われている。
【0021】
スクロール型圧縮機10においては、第2収容部111aの側面に形成された図示しない吸入ポートからハウジング11内に冷媒が導入される。その冷媒は、圧縮機構30によって圧縮された後、第2収容部111bの一端に設けられた吐出ポートP2から外部へと吐出される。
吸入ポートから導入される冷媒には潤滑油が混入されており、その冷媒がハウジング11内の各擦動面に接触することで、冷媒中の潤滑油が潤滑に供される。
【0022】
圧縮機構30は、モータ20の固定子21と回転子22との相対回転によって回転駆動される主軸31と、主軸31の回転に伴って旋回する旋回スクロール32と、ハウジング11に固定された固定スクロール33とを備えている。
旋回スクロール32は、円板状の端板321と、端板321の一面側に立設される渦巻状のラップ322とを備えている。固定スクロール33も、同様に、円板状の端板331と、端板331の一面側に立設される渦巻状のラップ332とを備えている。これら旋回スクロール32と固定スクロール33とは、ラップ322,332が噛み合わせられることにより、互いの間に冷媒の圧縮空間を形成している。
【0023】
モータ20を挟んで主軸31の両端側には、主軸31を回転可能に支持する第1ベアリング41および第2ベアリング42が設けられている。
モータ20よりも圧縮機構30側に設けられる第1ベアリング41(ボールベアリング)のケーシング43の内部空間44には、主軸31の一端部に主軸31の軸心から偏心して設けられる偏心ピン45が突出している。ケーシング43は、第1収容部111aと第2収容部111bとの合わせ部111cに外周部が挟まれて固定されている。
【0024】
ここで、
図2に拡大して示すように、上述の旋回スクロール32の端板321の背面321b(ラップ322が形成される側とは反対側の面)には、ボス34が設けられているとともに、そのボス34に軸受35を介してドライブブッシュ36が組み付けられている。ドライブブッシュ36には、その中心から偏心した孔36aが形成されており、その孔36aに偏心ピン45が嵌められている。これにより、旋回スクロール32が主軸31の軸心に偏心して結合されるので、主軸31が回転すると、旋回スクロール32は、主軸31の軸心S
0からの偏心距離(旋回半径)ρを半径とする回転(公転)を行う。なお、旋回スクロール32が、公転しつつも自転はしないよう、旋回スクロール32と主軸31との間には、自転を拘束するオルダムリング37が介在している。
【0025】
第1ベアリング41のケーシング43は、旋回スクロール32の端板321を支持するスラスト滑り軸受を兼ねており、その端面が支持面43aとされている。このケーシング43は、例えばダイカストによって製作されている。
ケーシング43の支持面43aと旋回スクロール32の端板321との間には、リング状のスラストプレート50が配置されている。
本実施形態のスラストプレート50は、鉄系材料から形成されており、いずれもアルミニウム系材料から形成される旋回スクロール32とケーシング43との焼付きを防止する。
【0026】
このスラストプレート50は、
図3および
図4に示すように、旋回スクロール32の端板321との擦動面とされる表面50aに、窪み51を有している。この窪み51は、スラストプレート50を板材からリング状に打ち抜くのと同時に、板金加工によって形成することができる。
本実施形態では、スラストプレート50の表面50aに、固体潤滑材からなる被膜52が設けられている。固体潤滑材は、種々のものを用いることができるが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粉体をエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などに分散させたものを好適に用いることができる。この被膜52は、スクロール型圧縮機10の起動時や、液冷媒圧縮時などの貧潤滑条件での耐摩耗性を確保するために設けられている。
被膜52は、窪み51の形成後、固体潤滑材の粉体を含むペーストや溶液を塗布することによって形成されている。窪み51の内部には、被膜52が塗布されていても、塗布されていなくても、いずれでもよい。
【0027】
窪み51は、本実施形態では、スラストプレート50の周方向に180度離れた対称の位置に2つ設けられている。各窪み51は、表面50aから裏面50b側に向けて窪み、潤滑油を保持する油溜まりとされている。旋回スクロール32の端板321と、スラストプレート50表面の被膜52との間には、潤滑油の油膜53が形成される。
なお、窪み51の直径、容積、平面および断面の形状は、任意に決められる。
窪み51は、スラストプレート50の裏面50bに突起511として現れている。本実施形態の窪み51は、平面視円形で、断面円弧状に形成され、突起511もそれに倣った形状とされている。
【0028】
ケーシング43の支持面43aにおいて、窪み51に対応する2つの位置には、突起511が挿入される凹部431が形成されている。各凹部431は、窪み51とほぼ同様の形状に支持面43aから窪んでいる。2つの突起511が各凹部431に挿入されると、スラストプレート50はケーシング43に位置決めされる。このため、旋回スクロール32の旋回に伴ってスラストプレート50が回転するのが規制される。
なお、スラストプレート50の回転を規制できる限り、突起511と凹部431との間に隙間(ガタ)があってもよい。後述する実施形態においても同様である。
【0029】
スラストプレート50上の窪み51の位置は、下記の式に基づいて決められることが好ましい。下記の式において、Dsは旋回スクロール32の端板321の直径、ρは旋回スクロール32の旋回半径、Rは主軸31の軸心から窪み51までの距離である。
【0030】
【数2】
【0031】
以上のような構成のスクロール型圧縮機10は、モータ20を励磁するとともに、吸入ポートから冷媒をハウジング11内に導入することによって作動する。
モータ20が励磁されると主軸31が回転し、それに伴って旋回スクロール32が固定スクロール33に対して公転旋回運動する。すると、旋回スクロール32と固定スクロール33との間の圧縮空間で冷媒が圧縮されるとともに、旋回スクロール32および固定スクロール33の外周部から冷媒が旋回スクロール32と固定スクロール33との間に吸い込まれる。そして、圧縮空間内で圧縮された冷媒は、吐出ポートP2から外部へと吐出される。こうして、冷媒の吸入、圧縮、および吐出が連続して行われる。
【0032】
圧縮空間内の冷媒圧力により、固定スクロール33および旋回スクロール32は、互いに離間する向きにスラスト荷重を受ける。このスラスト荷重がスラスト滑り軸受としてのケーシング43によって受け止められることにより、固定スクロール33から旋回スクロール32が離れることなく、双方のスクロール32,33間の圧縮空間が維持される。
スラストプレート50は、その突起511がケーシング43の支持面43aの凹部431に挿入されているので、旋回スクロール32の端板321と共に回転することなく、端板321に対して擦動する。スラスト荷重により、スラストプレート50は支持面43aに対して押し付けられているので、突起511は、その高さが僅かであっても凹部431に確実に係合されており、これによってスラストプレート50の回転規制も確実なものとなる。
【0033】
旋回スクロール32の端板321とスラストプレート50との擦動面には、次のように潤滑油が供給される。ケーシング43に形成された図示しない通気孔を介して内部空間44に流入した冷媒は、内部空間44に臨む端板321の背面321bおよびスラストプレート50の表面50aに接触する。このことを通じて、冷媒に混入された潤滑油が擦動面に供給される。この潤滑油は、端板321とスラストプレート50との間に導かれて窪み51内に保持されるので、背面321bと表面50aの被膜52との間に潤滑油の油膜53が形成される。
ここで、窪み51内の潤滑油は、窪み51の中心部で圧力が最も大きくなるくさび効果を生じる。その窪み51内の潤滑油の圧力がスラスト荷重に抗するために、油膜53は、擦動面に微小な凹凸があったとしても、それらによる摩擦抵抗を抑制できる十分な厚みに形成される。
【0034】
ここで、旋回スクロール32が旋回すると、
図5に示すように、端板321は、直径方向で見たとき、その旋回半径ρの2倍の距離(2ρ)だけ移動する。窪み51は、上記式を満足する位置に設けられているため、旋回スクロール32が1周旋回する間に、端板321の外周縁321eに対して1往復、出入りする。端板321から窪み51が露出する間、窪み51には冷媒から捕捉される潤滑油が溜められる。そして、窪み51内の潤滑油は、窪み51に端板321が重なる間、端板321の擦動面に供給される。
【0035】
本実施形態のスクロール型圧縮機10によれば、冷媒に混入される潤滑油が、スラストプレート50に形成された窪み51内に保持されるので、十分な油膜53を確保できる。これにより、潤滑性が向上し、旋回スクロール32の端板321を支持するスラスト滑り軸受の軸受損失を低減できるので、信頼性および効率を向上させることができる。
このような信頼性および効率の向上は、板金加工によってスラストプレート50に窪み51を形成するだけで遂げられる。しかも、この窪み51と同時に形成される突起511をケーシング43の凹部431に挿入するだけで、スラストプレート50の回転が規制されるので、スラストプレート50の回転規制を図るための別途の部品、加工を必要としない。
したがって、本実施形態によれば、油膜確保によって信頼性および効率を向上できる上、製造コストを抑えることもできる。
【0036】
なお、スラストプレート50上における窪み51の位置は特に限定されず、スラストプレート50の回転を規制できるように、スラストプレート50上の異なる位置に各窪み51が設けられていればよい。
また、窪み51は、2箇所だけでなく、
図6に示すように、多数の箇所に設けることもできる。端板321とスラストプレート50との潤滑のため、スラストプレート50が保持することが必要な潤滑油の量に応じて、窪み51の数を調整することができる。スラストプレート50のリングの幅方向(径方向)において複数の窪み51を設ければ、潤滑油が擦動面に均等に供給され易い。
【0037】
上述したように、本発明において窪み51の位置は限定されないが、上記式を満足する位置に窪み51の位置を特定すると、端板321とスラストプレート50との擦動面への潤滑油の捕捉および供給がより確実に行われるので、信頼性および効率をより一層向上させることができる。
【0038】
ところで、
図7に、第1実施形態の変形例を示すように、窪み51の断面形状をなだらかにすることも好ましい。窪み51は、その周縁部から中心部に向けて次第にすぼまった形状とされている。こうすると、端板321に対して垂直に向かう潤滑油の圧力の分布が、最も圧力が大きい窪み51の中心部から窪み51の周縁部にかけて滑らかとなるために、くさび効果がより発揮される。このため、油膜53の厚さをより十分に確保できる。
【0039】
さらに、潤滑油を保持する油溜まりは、窪み51の形態に限られない。本発明は、
図8に示すように、窪み51の代わりに、スラストプレート50を表面50a側から打ち抜いて形成した孔55が設けられた構成をも許容する。打ち抜きにより、孔55の周縁が裏面50b側に立ち上がることで、返し56が形成されている。この返し56がケーシング43の凹部431に挿入される。
このように構成しても、凹部431および孔55の内部に潤滑油を溜めることができるとともに、返し56および凹部431によってスラストプレート50の回転を規制できるので、第1実施形態と同様の効果が得られる。
但し、その底部が連続した窪み51を形成する方が、スラストプレート50の断面2次モーメントが高くなるために強度面で優れる上、くさび効果が得られる点でより好ましい。
【0040】
〔第2実施形態〕
図9および
図10に示す第2実施形態では、窪み51とは異なる形態の油溜まりを示す。
第2実施形態のスラストプレート50の表面50aには、周方向に延びた溝57が1つ形成されている。溝57は、周方向の一部で途切れて円弧状に形成されている。溝57の径方向の断面は、窪み51と同様に円弧状に形成されている。
この溝57は、窪み51と同様に、表面50aからの板金曲げ加工によって形成されていて、この溝57は、裏面50b側には突条571として現れる。
ケーシング43の支持面43aには、溝57に倣った形状の支持溝451が形成されている。この支持溝451に突条571が挿入される。支持溝451に挿入された突条571の両端571a,571b(
図9)は、支持溝451の両端の内壁に対向するので、スラストプレート50の回転が規制される。
本実施形態では、溝57を1つとしているが、溝57を分割し、周方向に隣り合う2以上の溝57を設けるとともに、各溝57に対応する2以上の支持溝451を設けることもできる。
【0041】
溝57および突条571が形成されると剛性が向上するので、圧縮された冷媒の圧力によってスラストプレート50が押し付けられても、スラストプレート50が反り難くなる。これによってスラストプレート50と端板321とが全体に亘り擦接するので、軸受抵抗を低減でき、信頼性が向上する。
【0042】
なお、スラストプレート50のリング幅に応じて、溝57を2周、3周のように同心円状に設ければ、潤滑油が擦動面に均等に供給され易い上、剛性も向上する。
また、溝57は、スラストプレート50の回転を規制できるとともに潤滑油を保持できる限り、延出する方向を問わない。例えば、径方向に延びる溝を設けることもできる。このように径方向に延びる溝を放射状に複数設けることにより、周方向に延びる溝57を設けるのとほぼ同様に、スラストプレート50の剛性が向上する。
【0043】
〔第3実施形態〕
図11および
図12に示す本発明の第3実施形態では、旋回スクロール32の端板321にも、油溜まり(油保持部)として機能する窪み61を形成している。
窪み61は、端板321の背面321bから断面円弧状に窪んでおり、背面321b上にほぼ均等に、複数が形成されている。
これらの窪み61にも、冷媒中の潤滑油が保持されるので、油膜をより確実に形成できる。
その上、上述したスラストプレート50の窪み51内の潤滑油によるくさび効果に加えて、この窪み61内の潤滑油によっても、くさび効果が得られるので、より十分な厚みの油膜が得られる。
【0044】
スラストプレート50の窪み51と同様、潤滑油を保持できる限り、窪み61の形状は問わないが、くさび効果を得るためには、断面円弧状や、
図6に示すようになだらかな形状とするのが好ましい。
なお、窪み61は、その平面位置が窪み51と重なっていても重なっていなくても、いずれでもよい。
【0045】
上記で述べた以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明は、上述の実施形態で挙げた横型のスクロール型圧縮機に限らず、その主軸が鉛直方向に配置される縦型のスクロール型圧縮機としても構成できる。