特許第6037690号(P6037690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037690
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】ロータリーカッター
(51)【国際特許分類】
   B26F 1/44 20060101AFI20161128BHJP
   B26D 1/28 20060101ALI20161128BHJP
   B26D 1/40 20060101ALI20161128BHJP
   B26F 1/38 20060101ALI20161128BHJP
   B26F 1/22 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B26F1/44 H
   B26D1/28 B
   B26D1/28 C
   B26D1/40 501B
   B26D1/40 501C
   B26F1/38 A
   B26F1/44 J
   B26F1/22
【請求項の数】19
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-156108(P2012-156108)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-18867(P2014-18867A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】毛利 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】江口 庄司
(72)【発明者】
【氏名】吉川 毅
(72)【発明者】
【氏名】吉住 謙祐
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−055975(JP,A)
【文献】 特開2012−055974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26F 1/08 − 1/44
B26D 1/28 − 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凸部および凹部の少なくとも一つを有する第1回転部材と、
前記第1回転部材と反対方向に回転可能であって、表面に凸部および凹部の少なくとも一つを有する第2回転部材と、
前記第1回転部材が有する凸部もしくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される弾性体と、
前記第2回転部材が有する凸部もしくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される弾性体と、を備え、
前記第1回転部材および前記第2回転部材は、相互に反対方向に回転する際に、前記第1回転部材および前記第2回転部材の表面は非接触であり、
前記凸部に形成される前記弾性体は、前記凸部のエッジから前記段差部分の下段までの該段差部分を埋めるように形成されるとともに、該弾性体は、前記凸部のエッジおよび外周を露出し、
前記第1回転部材の前記エッジと前記第2回転部材の前記エッジとの対向圧力は、前記第1回転部材および前記第2回転部材の間を通過する切断対象物を、所定切断線に沿って切断し、
前記第1回転部材の前記弾性体と前記第2回転部材の前記弾性体とのそれぞれは、前記第1回転部材および前記第2回転部材の表面と合わせて、切断の前後において、前記切断対象物を挟んで姿勢を安定させる、ロータリーカッター。
【請求項2】
前記第1回転部材の前記弾性体と、前記第2回転部材の前記弾性体は、前記第1回転部材の前記エッジおよび前記第2回転部材の前記エッジとの対向の前後において、前記第1回転部材および前記第2回転部材との間を通過する、前記切断対象物の位置、移動方向および姿勢の少なくとも一つを、その弾性力によって固定する、請求項1記載のロータリーカッター。
【請求項3】
前記第1回転部材および前記第2回転部材は、金属製、合金製、セラミック、硬質樹脂およびこれらの組み合わせの少なくとも一つの硬質素材(以下、「硬質部材」という)で形成されており、相互に反対方向に回転する際に、
前記第1回転部材を形成する硬質部材の表面(以下、「硬質表面」という)は、前記第2回転部材の硬質表面に非接触であり、
前記第1回転部材もしくは前記第2回転部材の硬質表面は、前記第2回転部材もしくは前記第1回転部材の前記弾性体の表面と接触可能である、請求項1又は2記載のロータリーカッター。
【請求項4】
前記第1回転部材の有する凸部は、前記第2回転部材の有する凹部と対称であり、
前記第1回転部材の有する凹部は、前記第2回転部材の有する凸部と対称であり、
前記凸部と凹部との対向によって、前記切断対象物は所定形状に切断される、請求項1から3のいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項5】
前記切断対象物は、前記切断対象物の表面および裏面の少なくとも一方に装着される中間体と共に通過する、請求項1から4のいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項6】
前記切断対象物は、金属薄板もしくは金属箔である、請求項1から5のいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項7】
前記金属薄板および前記金属箔は、その表面および裏面の少なくとも一部に、非金属層および金属層を有する、請求項6記載のロータリーカッター。
【請求項8】
前記金属薄板および前記金属箔のそれぞれは、5μm以上300μm以下の厚みを有する、請求項6記載のロータリーカッター。
【請求項9】
前記弾性体は、前記エッジの周囲の全てに沿って、前記段差部分を埋めるように装着される、請求項記載のロータリーカッター。
【請求項10】
前記弾性体は、前記エッジに対向する部分において面取りを有しており、前記面取りは0.1mm以上1mm以下である、請求項1からのいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項11】
前記第1回転部材に装着される前記弾性体は、前記第1回転部材の硬質表面に対して、同一高さ以上であり、
前記第2回転部材に装着される前記弾性体は、前記第2回転部材の硬質表面に対して、同一高さ以上である、請求項2から10のいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項12】
前記弾性体は、交換可能である、請求項1から11のいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項13】
前記弾性体は、C硬度において3以上22以下であり、もしくは30%圧縮応力において20kPa以上80kPa以下である、請求項1から12のいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項14】
前記弾性体は、ロジン、天然ゴム、合成ゴム、天然スポンジ、合成スポンジ、ゴムスポンジおよび発泡プラスチックの少なくとも一つの素材で形成される、請求項13記載のロータリーカッター。
【請求項15】
前記切断対象物が、金属層および非金属層を混在して有する場合に、
前記第1回転部材および前記第2回転部材のそれぞれの弾性体において、
前記金属層に対向する部分と、前記非金属層に対向する部分とでは、前記弾性体の構造、素材、大きさおよび特性の少なくとも一つが異なる、請求項7から14のいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項16】
前記切断対象物が金属層および非金属層を混在して有する場合に、
前記弾性体において前記金属層に対向する部分は、他部分よりも高い高さおよび他部分よりも高い硬度の少なくとも一方を有し、
前記弾性体において前記非金属層に対向する部分は、他部分よりも低い高さおよび他部分よりも低い硬度の少なくとも一つを有する、請求項15記載のロータリーカッター。
【請求項17】
相互に対向する、前記第1回転部材のエッジと前記第2回転部材のエッジとは、段差以外の部分で対向し、前記対向する幅は、−100μm以上50μm以下である、請求項1から16のいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項18】
前記エッジは、0.1mm以下のR曲面もしくはC面取りを有する、請求項1から17のいずれか記載のロータリーカッター。
【請求項19】
表面に凸部および凹部の少なくとも一つを有する第1回転部材と、
前記第1回転部材と反対方向に回転可能であって、表面に凸部および凹部の少なくとも一つを有する第2回転部材と、
前記第1回転部材が有する凸部もしくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される弾性体と、
前記第2回転部材が有する凸部もしくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される弾性体と、を備え、
前記第1回転部材および前記第2回転部材は、相互に反対方向に回転する際に、前記第1回転部材および前記第2回転部材の表面は非接触であり、
前記第1回転部材の前記エッジと前記第2回転部材の前記エッジとの対向圧力は、前記第1回転部材および前記第2回転部材の間を通過する切断対象物を、所定切断線に沿って切断し、
前記弾性体は、前記エッジに対向する部分において面取りを有しており、前記面取りは0.1mm以上1mm以下であるロータリーカッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄板や金属箔などの、非常に薄い金属部材を、所定の形状にせん断加工にて切断するロータリーカッターに関する。
【背景技術】
【0002】
金属素材により形成されている金属薄板や金属箔などを、所定の形状で切断することが求められることが多い。様々な機械や電子機器に実装される部品が、このような所定形状を有する薄い金属部材で形成されていることが多いからである。例えば、燃料電池には、金属薄膜で形成された多数の電極が備わっている。
【0003】
このような金属薄板や金属箔を所定形状への切断においては、切断刃を有するカッターと、カッターを受けるダイとの組み合わせによる打ち抜き切断の切断装置が用いられる。例えば、所定方向に移動する金属薄板や金属箔の底面にダイが備えられ、上面にカッターが備えられる。カッターが所定位置でダイに上下移動しダイに嵌合して、せん断力により切断する。この際には、カッターとダイとの隙間(クリアランス)への噛み込みにより、金属薄板や金属箔は塑性変形し、バリやカエリが生じる。いわゆる、金属や合金で形成されたカッターとダイとの組み合わせ(カッターとダイとが相互に回転する回転部材であるときも)による切断では、このカッターとダイとの隙間への噛み込みが、バリやカエリを生じさせる塑性変形の原因である。
【0004】
このような切断装置では、直線方向に移動する金属薄板や金属箔を一次元的に切断することしかできないので、切断速度が非常に遅い。金属薄板や金属箔で形成される部品の多くは、コスト削減要求が高く、切断速度はこのコストにかかわる。
【0005】
このようなコスト削減要求に対応する切断速度を実現するために、相互に対向する一対の回転部材の回転によって金属薄板や金属箔を切断するロータリーカッターが用いられる。ロータリーカッターは、一対の回転部材の一方に切断刃を有し、他方に受け胴(アンビルロール)を有している。一対の回転部材のそれぞれが逆方向に回転することで、切断刃と受け胴とが対向して接触することで、ロータリーカッターは、金属薄板や金属箔を所定形状に切断する。このとき、一対の回転部材の回転による面方向での切断圧力の進行によって金属薄板等は切断されるので、ロータリーカッターは、次々と金属薄板等を切断できる。この結果、ロータリーカッターは、上下移動による打ち抜き加工の切断装置よりも、高速に切断作業を行える。
【0006】
このような状況で、ロータリーカッターについての技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
特許文献1は、カッター刃と受け胴とが設けられた一対の回転部材が、逆方向に回転しつつ、カッター刃と受け胴とが接触して対象物を切断するロータリーカッターを開示する。特許文献1は、特に主に布や紙などを所定形状に切断する技術を開示する。
【0008】
特許文献1の技術は、カッター刃の素材や形状の変更により、金属薄板や金属箔などの薄い金属部材の切断に応用することが考えられる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されるロータリーカッターは、カッター刃と受け部であるアンビルロールとが接触することで、切断対象物に圧力を付与して打ち抜きによって切断対象物を切断する。この場合には、切断される前に、弾性変形および塑性変形が、切断対象物に生じてしまう。このような弾性変形および塑性変形は、金属薄板や金属箔の切断線においてバリやカエリを多発させてしまい、切断によって製造される種々の部品の性能を劣化させてしまう(場合によっては使用不可の部品となる)。コストだけでなく、高品質が要求される部品の製造には、不十分であることがある。
【0010】
ここで、特許文献1に開示されるロータリーカッターは、いわゆる「押し切り」として定義される切断態様を有する。押し切りは、切断対象物の切断部分を潰して破断させる。このため、押し切りは、切断部分に変形を生じさせ、この変形が上記のバリやカエリとなる。切断対象物が、布や紙のような素材であれば、このような変形、バリやカエリが生じても問題ない用途が多い。
【0011】
しかしながら、切断対象物が、金属薄板や金属箔などであると、押し切りによって潰し加工することにより塑性変形するために、切断が極めてやりにくい。また、切断できたとしても、その過程で塑性変形(伸びる、潰れる)して切断部品質が劣化し(仕様に応じたサイズ、形状で切断されない)、特許文献1の技術は、金属薄板や金属箔などの切断対象物の切断には適さない問題を有している。
【0012】
一方、特許文献2は、切断対象となる金属薄板や金属箔の表面および裏面の少なくとも一方に、非金属の層を取り付けてから切断する技術を開示する。非金属の層が設けられることで、特許文献1に開示される技術は、金属薄板や金属箔を切断しやすくしている。この結果、金属薄板や金属箔に弾性変形や塑性変形を与えにくく、切断線においてバリやカエリを発生させにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平3−246000号公報
【特許文献2】国際公開WO2010/013818 A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に代表されるカッター刃とダイとが押し切りにて金属薄板や金属箔を切断する切断装置は、次の問題を有する。
【0015】
(問題1)切断対象物である金属薄板や金属箔が、カッター刃先およびアンビルロールに直接押し当てられることにより、切断以前に塑性変形が生じバリやカエリを多発させる。
(問題2)カッター刃とアンビルロールとが強い圧力で接触することで、カッター刃やダイの磨耗や損耗が生じやすい。
(問題3)切断対象物である金属薄板や金属箔が、強い圧力でダイに押し付けられることで、アンビルロールやカッター刃先に金属薄板や金属箔が結合してしまい(金属凝着)、切断装置の性能劣化が進みやすい。程度がひどければ、噛み込んで動かなくなる。
【0016】
このため、特許文献2に提案されるように、カッター刃とアンビルロールとが直接的に接触しない非接触で切断対象物を切断する切断装置が求められる。しかしながら、カッター刃とダイとが直接的に接触しなければ、切断対象物である金属薄板や金属箔に十分な圧力が付与されないので、そのままでは切断が不十分となる。
【0017】
このような切断の不十分を解消するために、特許文献2は、金属薄板や金属箔の表面および裏面の少なくとも一方に、非金属層を設けた上で、切断を実現する。
【0018】
しかしながら、特許文献2に開示される技術は次のような問題を有している。
【0019】
(問題4)切断対象物が、金属面を露出している部分と非金属面を露出している部分との混合である場合には、非金属部分を切断するのに適した応力では金属部分は切れずに、金属を切断するほどの圧力を掛ければ非金属部分の組織が破壊する。
【0020】
すなわち、特許文献2に開示される技術は、切断装置側の対応ではなく、切断対象物側の対応となってしまうので、切断装置を使用する様々な工程での負担や不具合が生じる問題がある。
加えて、切断対象物は、金属薄板や金属箔などの態様を有していたり、これら金属薄板の表面の一部に非金属領域が設けられていたりして、従来技術は、対象物の態様の違いにフレキシブルに対応した切断を行えない問題も有していた。
【0021】
本発明は、切断対象物である金属薄板や金属箔の切断線にバリやカエリを生じさせないように、カッター刃とダイとの直接的な接触を生じさせないと共に、切断対象物ではなく切断装置側の対応で、種々の問題を解消できるロータリーカッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題に鑑み、本発明のロータリーカッターは、表面に凸部および凹部の少なくとも一つを有する第1回転部材と、
第1回転部材と反対方向に回転可能であって、表面に凸部および凹部の少なくとも一つを有する第2回転部材と、
第1回転部材が有する凸部もしくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される弾性体と、
第2回転部材が有する凸部もしくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される弾性体と、を備え、
第1回転部材および第2回転部材は、相互に反対方向に回転する際に、第1回転部材および第2回転部材の表面は非接触であり、
凸部に形成される弾性体は、凸部のエッジから段差部分の下段までの該段差部分を埋めるように形成されるとともに、該弾性体は、凸部のエッジおよび外周を露出し、
第1回転部材のエッジと第2回転部材のエッジとの対向圧力は、第1回転部材および第2回転部材の間を通過する切断対象物を、所定切断線に沿って切断し、
第1回転部材の弾性体と第2回転部材の弾性体とのそれぞれは、第1回転部材および前記第2回転部材の表面と合わせて、切断の前後において、切断対象物を挟んで姿勢を安定させる
【発明の効果】
【0023】
本発明のロータリーカッターは、一対の回転部材である第1回転部材と第2回転部材の硬質表面同士は非接触で、切断対象物を切断する。このため、切断対象物を切断する際に、切断対象物に強い弾性変形や塑性変形が付与されにくく、切断対象物にバリやカエリが生じにくい。
【0024】
また、第1回転部材と第2回転部材の硬質表面同士が非接触であることで、ロータリーカッターの磨耗や変質が防止される。
【0025】
さらに、第1回転部材と第2回転部材の段差に設けた弾性体が金属箔を切断前〜切断中〜切断後と継続して固定する働きにより、金属箔の塑性変形を最小限に抑えた上でせん断加工を行なえる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの第1態様を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの第2態様を示す斜視図である。
図3】本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの動作説明図である。
図4】本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの動作説明図である。
図5】本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの動作説明図であって、切断対象物の一部が切断された状態を示す動作説明図である。
図6】本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターでの次の切断を示す動作説明図である。
図7】本発明の実施の形態2における回転部材(第1回転部材および第2回転部材のいずれか)の側面図である。
図8】本発明の実施の形態2における弾性体の周辺拡大図である。
図9】実施の形態2における切断対象物の正面図である。
図10】本発明の実施の形態2における回転部材同士の拡大図である。
図11】本発明の実施の形態3における従来技術との比較における切断状態を示す模式図である。
図12】従来技術で切断された金属箔の切断面の断面写真である。
図13図12の対称となる、本発明のロータリーカッターで切断された金属箔の切断面の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1の発明に係るロータリーカッターは、表面に凸部および凹部の少なくとも一つを有する第1回転部材と、第1回転部材と反対方向に回転可能であって、表面に凸部および凹部の少なくとも一つを有する第2回転部材と、第1回転部材が有する凸部もしくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される弾性体と、第2回転部材が有する凸部もしくは凹部により形成されるエッジの段差部分の少なくとも一部に装着される弾性体と、を備え、第1回転部材および第2回転部材は、相互に反対方向に回転する際に、第1回転部材および第2回転部材の表面は非接触であり、第1回転部材のエッジと第2回転部材のエッジとの対向圧力は、第1回転部材および第2回転部材の間を通過する切断対象物を、所定切断線に沿って切断する。
【0028】
この構成により、ロータリーカッターは、まず、エッジ同士の対向による圧力によって、切断対象物を垂直に切断する。この垂直性が保たれるのは、エッジの前後に設けられる弾性体の対向によって、切断対象物の姿勢が一定に保たれるからである。また、切断の前後で、切断対象物の姿勢が保たれることで、切断前後での切断対象物の塑性変形が生じにくい。この結果、バリやカエリが生じにくい。
【0029】
本発明の第2の発明に係るロータリーカッターでは、第1の発明に加えて、第1回転部材の弾性体と、第2回転部材の弾性体は、第1回転部材のエッジおよび第2回転部材のエッジとの対向の前後において、第1回転部材および第2回転部材との間を通過する、切断対象物の位置、移動方向および姿勢の少なくとも一つを、その弾性力によって固定する、請求項1記載のロータリーカッター。
【0030】
この構成により、エッジ同士の対向圧力で、切断対象物にはクラックが生じて切断され、しかもこの切断時(および切断後)には、クラック前後の弾性体によって、切断対象物の位置、移動方向および姿勢の少なくとも一つが固定される。この結果、クラック(切断線)が発生する部位において、塑性変形が生じにくくなり、バリやカエリが生じにくくなる。
【0031】
本発明の第3の発明に係るロータリーカッターでは、第1回転部材および第2回転部材は、金属製、合金製、セラミック、硬質樹脂およびこれらの組み合わせの少なくとも一つの硬質素材(以下、「硬質部材」という)で形成されており、相互に反対方向に回転する際に、第1回転部材を形成する硬質部材の表面(以下、「硬質表面」という)は、第2回転部材の硬質表面に非接触であり、第1回転部材もしくは第2回転部材の硬質表面は、第2回転部材もしくは第1回転部材の弾性体の表面と接触可能である。
【0032】
この構成により、硬質素材部分である硬質表面が非接触であるのに対して、硬質表面と弾性体とが、通過する切断対象物を介して接触可能あることになり、切断対象物には、エッジでの線的な力が付与されるだけとなる。エッジを過ぎた後では、回転部材の硬質表面ではなく、弾性体表面が切断対象物に接触するようになるので、切断対象物の塑性変形が生じなくなる。また、硬質表面が非接触であることで、切断対象物に対して硬質表面が面的に接触することが無いだけでなく、金属同士の接触による、硬質表面の変性や変質が生じない。なお、ここでの硬質素材(第1回転部材と第2回転部材の基本的な素材であって、弾性体以外の素材)は、上述の部材のように硬質であれば、ヤング率が高いものであればよい。ヤング率の高い素材で、第1回転部材と第2回転部材が形成される。この硬質部材の表面である硬質表面は、間を通過する切断対象物が無い状態では、離隔するように調整される。
【0033】
本発明の第4の発明に係るロータリーカッターでは、第1から第3のいずれかの発明に加えて、第1回転部材の有する凸部は、第2回転部材の有する凹部と対称であり、第1回転部材の有する凹部は、第2回転部材の有する凸部と対称であり、凸部と凹部との対向によって、切断対象物は所定形状に切断される。
【0034】
この構成により、第1回転部材と第2回転部材とが、所定の切断線を決定できる。
【0035】
本発明の第5の発明に係るロータリーカッターでは、第1から第4のいずれかの発明に加えて、切断対象物は、切断対象物の表面および裏面の少なくとも一方に装着される中間体と共に通過する。
【0036】
この構成により、ロータリーカッターは、金属薄板や金属箔などの切断対象物であっても、中間体を合わせて切断することで、発生するバリの高さが小さく抑えられる。
【0037】
本発明の第6の発明に係るロータリーカッターでは、第1から第5のいずれかの発明に加えて、切断対象物は、金属薄板もしくは金属箔である。
【0038】
この構成により、ロータリーカッターは、バリやカエリなどの発生を問題としやすい切断対象物でも、確実に切断できる。
【0039】
本発明の第7の発明に係るロータリーカッターでは、第6の発明に加えて、金属薄板および金属箔は、その表面および裏面の少なくとも一部に、非金属層を有する。
【0040】
この構成により、非金属層を有する切断対象物を加工することも可能である。
【0041】
本発明の第8の発明に係るロータリーカッターでは、第6の発明に加えて、金属薄板および金属箔のそれぞれは、5μm以上300μm以下の厚みを有する。
【0042】
この構成により、ロータリーカッターは、様々な電子部品や電子機器に使用される金属箔等を切断加工できる。
【0043】
本発明の第9の発明に係るロータリーカッターでは、第1から第8のいずれかの発明に加えて、弾性体は、エッジの周囲の少なくとも一部に沿って、段差部分を埋めるように装着される。
【0044】
この構成により、第1回転部材と第2回転部材との回転に挟まれた切断対象物は、エッジによって所定切断線でクラックを生じさせ、その後は弾性体同士が切断対象物へ圧力を付与することになって、クラックが確実に切断線となると共にそれ以外の部分には、塑性変形が生じにくい。この結果、ロータリーカッターは、切断時に、バリやカエリを生じさせにくい。
【0045】
本発明の第10の発明に係るロータリーカッターでは、第9の発明に加えて、弾性体は、エッジの周囲の全てに沿って、段差部分を埋めるように装着される。
【0046】
この構成により、第1回転部材のエッジと第2回転部材のエッジとが、切断対象物に圧力を付与した後で、第1回転部材および第2回転部材が回転する際に、弾性体が、切断対象物を移動方向に固定するので、切断対象物の塑性変形が生じにくい。
【0047】
本発明の第11の発明に係るロータリーカッターでは、第1から第10のいずれかの発明に加えて、弾性体は、エッジに対向する部分において面取りを有しており、面取りは0.1mm以上1mm以下である。
【0048】
この構成により、弾性体は、エッジの先鋭性を阻害しない。面取りがなければ、変形しやすい弾性体の角の部分が両エッジ間に侵入して、切断を阻害する恐れがある。
【0049】
本発明の第12の発明に係るロータリーカッターでは、第2から第11のいずれかの発明に加えて、第1回転部材に装着される弾性体は、第1回転部材の硬質表面に対して、同一高さ以上であり、第2回転部材に装着される弾性体は、第2回転部材の硬質表面に対して、同一高さ以上である。
【0050】
この構成により、第1回転部材と第2回転部材とが切断対象物を挟んで回転する際に、エッジで切断された後の切断対象物の部分を弾性体で挟むことで、エッジ切断での圧力を和らげる。この結果、切断対象物を面的につぶすことが無くなり、バリやカエリを生じさせることが無くなる。
【0051】
本発明の第13の発明に係るロータリーカッターでは、第1から第12のいずれかの発明に加えて、弾性体は、交換可能である。
【0052】
この構成により、ロータリーカッターのメンテナンスが容易となる。またコストも下がる。
【0053】
本発明の第14の発明に係るロータリーカッターでは、第1から第13のいずれかの発明に加えて、弾性体は、C硬度において3以上22以下であり、もしくは30%圧縮応力において20kPa以上80kPa以下である。
【0054】
この構成により、弾性体は、切断対象物の切断および塑性変形を生じさせない保護との両方を実現できる。
【0055】
本発明の第15の発明に係るロータリーカッターでは、第14の発明に加えて、弾性体は、ロジン、天然ゴム、合成ゴム、天然スポンジ、合成スポンジ、ゴムスポンジおよび発泡プラスチックの少なくとも一つの素材で形成される。これらの材質は弾性変形しやすく、その反力として切断前〜切断中〜切断後の金属薄板、金属箔を固定する応力が十分に生じる。
【0056】
この構成により、弾性体は、種々に選択される。
【0057】
本発明の第16の発明に係るロータリーカッターでは、切断対象物が、金属層および非金属層を混在して有する場合に、第1回転部材および第2回転部材のそれぞれの弾性体において、金属層に対向する部分と、非金属層に対向する部分とでは、弾性体の構造、素材、大きさおよび特性の少なくとも一つが異なる。
【0058】
この構成により、非金属層と金属層との混在を有する切断対象物であっても、確実に切断できる。
【0059】
本発明の第17の発明に係るロータリーカッターでは、第16の発明に加えて、切断対象物が金属層および非金属層を混在して有する場合に、弾性体において金属層に対向する部分は、他部分よりも高い高さおよび他部分よりも高い硬度の少なくとも一方を有し、弾性体において非金属層に対向する部分は、他部分よりも低い高さおよび他部分よりも低い硬度の少なくとも一つを有する。
【0060】
この構成により、金属と非金属とが混在する切断対象物であっても、ロータリーカッターは、確実に切断できる。
【0061】
本発明の第18の発明に係るロータリーカッターでは、第1から第17のいずれかの発明に加えて、相互に対向する、第1回転部材のエッジと第2回転部材のエッジとは、段差以外の部分で対向し、対向する幅は、−100μm以上50μm以下である
【0062】
この構成により、ロータリーカッターの切断性能が更に上がる。
【0063】
本発明の第19の発明に係るロータリーカッターでは、第1から第18のいずれかの発明に加えて、エッジは、0.1mm以下のR曲面もしくはC面取を有する。
【0064】
この構成により、エッジは、十分な切断能力を有する。
【0065】
以下、図面を用いながら実施の形態について説明する。
【0066】
(実施の形態1)
【0067】
実施の形態1について説明する。
【0068】
(全体概要)
図1図2を用いて、実施の形態1におけるロータリーカッターの全体概要について説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの第1態様を示す斜視図であり、図2は、本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの第2態様を示す斜視図である。図1図2に示されるロータリーカッター1は、第1回転部材2と第2回転部材3との回転による回転面が、第1回転部材2と第2回転部材3との間を通過する切断対象物へ両エッジが付与するせん断力によって、切断対象物を切断する。このような第1回転部材2と第2回転部材3との回転面でのせん断力は、第1回転部材2と第2回転部材3に備わる凸部と凹部のエッジの近接により生じる。
【0069】
第1回転部材2と第2回転部材3との間を、薄板や箔である切断対象物が通過する際に、第1回転部材2と第2回転部材3とが回転する。この回転において、エッジが切断対象物へ接触してせん断力を付与し、ロータリーカッター1は、切断対象物を切断する。
【0070】
ここで、第1回転部材2と第2回転部材3とを備えるロータリーカッター1は、第1回転部材2と第2回転部材3のそれぞれに設けられる凸部や凹部の対応によって様々な形状での切断を行う。例えば、図1に示される第1態様のロータリーカッター1は、第1回転部材2と第2回転部材3とによって、切断対象物から所望の閉じた形状で切り取られる。図1では、三角形の凸部21と凹部32とが対応しており、切断対象物から所望の三角形が切断で得られる。
【0071】
一方、図2に示される第2態様のロータリーカッター1は、第1回転部材2と第2回転部材3とのそれぞれに、凸部と凹部とがあり、所望の閉じた形状で切断対象物を切断するのではなく、切断対象物をある切断線に沿って切断する。第1態様と第2態様とでは、閉じた形状を切り取るのか、ある切断線に沿って切断するのかの違いはあるが、いずれにしても、第1回転部材2と第2回転部材によって所定の切断線に沿った切断が行われる。
【0072】
ロータリーカッター1は、第1回転部材2、第2回転部材3を備える。第1回転部材2と第2回転部材3とは、対向した状態で反対方向に回転する。回転する際に、第1回転部材2と第2回転部材3との間を、薄板や箔である切断対象物が移動する。
【0073】
第1回転部材2は、凸部21および凹部22の少なくとも一つを有する。同様に、第2回転部材2は、凸部31および凹部32の少なくとも一つを有する。ここで、第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれは、相互に対向しつつ逆回転するので、円筒状の形状を有する。凸部21、31および凹部22、32のそれぞれは、円筒状の曲面上に形成される。第1回転部材2と第2回転部材3は、曲面を対向させながら回転するからである。曲面は、略円形の円周に沿う形状となる。このため、第1回転部材2および第2回転部材3の外周を、略円周とする仮想円周を基準に突出している部分を凸部21、31として定義し、表面を基準に段差が生じて凹んでいる部分を凹部22、32として定義している。凸部21,31が存在することで、凸部21、31以外の部分が凹部22、32であると把握しても良い。要は、段差から落ちている部分が凹部22、32であり、段差の上の部分が凸部21、31である。
【0074】
図1のロータリーカッター1では、第1回転部材2は、三角形の凸部21を有しており、凸部21以外の部分は、凹部22として把握される。一方図2のロータリーカッター1では、π字状の凸部21を有し、残部となるT字状の部分が凹部22である。第1回転部材2には、この凸部21によってエッジ26が形成される。エッジ26は、凸部21と凹部22との境界で形成される。このエッジ26によって、凸部21から凹部22にかけての段差部分27が形成される。段差部分27は、図1図2に示されるように、凸部21の外周全体に形成される。
【0075】
第1回転部材2は、この段差部分27の少なくとも一部に弾性体25を備える。図1図2では、凸部21の外周全体に渡る段差部分27に、弾性体25が設けられている。
【0076】
一方、第2回転部材3は、第1回転部材2の凸部21に対応する凹部32を有している。図1のロータリーカッター1では、三角形の凸部21に対応して、三角形の凹部32が、第2回転部材3の表面に形成される。一方、図2のロータリーカッター1では、π字状の凸部21に対応して、π字状の凹部32が形成される。第2回転部材3においても、凹部32によってエッジ36が形成される。このエッジ36によって凹部32の外周に段差部分37が形成される。もちろん、凸部31と凹部32とは表裏一体で形成されるので、段差部分37は、凸部31の外周に形成されると把握されても良い。
【0077】
第2回転部材3は、この段差部分37の少なくとも一部に弾性体35を備える。弾性体35は、弾性体25と同様に、接着、溶着、嵌合、直接締結、弾性体と底敷きパッドを一体化して締結などの手段で、装着される。段差部分37となる凹部32の外周全体に弾性体35が装着されても良いし、一部のみに装着されても良い。図1のロータリーカッター1では、三角形の凹部32の外周に沿って弾性体35が装着されている。図2のロータリーカッター1では、π字状の凹部32の外周に沿って、弾性体35が装着されている。
【0078】
第1回転部材2の硬質表面28と第2回転部材3の硬質表面38(弾性体25、35以外の部分での表面)とは、相互に回転する際に非接触である。一方、弾性体25と硬質表面38とは回転する際に接触可能であり、弾性体35と硬質表面28とは、回転する際に接触可能である。第1回転部材2のエッジ26と第2回転部材3のエッジ36とは、回転の際に、間を通る切断対象物を挟んで対向する。
【0079】
回転に合わせて、第1回転部材2のエッジ26と第2回転部材3のエッジ36とが切断対象物を介して近接して、切断対象物50に圧力を付与する。要はエッジ26とエッジ36とが近接して、切断対象物50にせん断力を付与する。もちろん、このとき、エッジ26と弾性体35とが近接して切断対象物50にせん断力を付与することもありえるし、エッジ36と弾性体25とが近接して切断対象物50にせん断力を付与することもありえる。
【0080】
但し、基本的には、エッジ26とエッジ36とが近接して、切断対処物50の両方の面にそれぞれが接触してせん断力を付与する。このせん断力によって、切断対象物50は、エッジ26、36によって形成される所定の切断線そって、切断される。
【0081】
第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれは、金属製、特に超硬合金製、セラミックス製もしくは鉄系の硬質合金製である。また、鉄系合金などの母材表面に超硬合金などの溶射被膜やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)被膜を設けた材料でもよい。これらの特徴は、いずれも弾性変形や塑性変形しにくく、ヤング率が例えば200GPa以上と高い。このため、第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれにおいて、弾性体25、35が装着されている部分以外の表面は、硬質表面、合金表面あるいは金属とセラミックスとの混合体の表面であって、上記で定義した通り「硬質表面」である。すなわち、第1回転部材2は硬質表面28を有し、第2回転部材3は硬質表面38を有する。硬質表面28、38のそれぞれは、凸部21、31の硬質表面である場合には、硬質表面28、38が、第1回転部材2と第2回転部材3の最外周面となる。
【0082】
第1回転部材2と第2回転部材3のそれぞれが逆方向に回転しながら、その間に切断対象物を通す。このとき、上述のように、硬質表面28と硬質表面38とが非接触であることで、第1回転部材2と第2回転部材3の表面の劣化が防止される。一方、対向する位置にある弾性体25、35と、硬質表面28、38とは、接触可能である。弾性体25と硬質表面38とが接触可能であり、弾性体35と硬質表面28とが接触可能である。この結果、上述のように、弾性体25とエッジ36とが接触可能であり、弾性体35とエッジ26とが接触可能である。接触可能であることによって、切断対象物に固定に十分な圧力付与されて、エッジ26、36によって形成される切断線に沿って、切断対象物が切断される。
【0083】
なお、ここでの接触可能とは、実際のロータリーカッター1では、第1回転部材2と第2回転部材3との間を、切断対象物が通るので、切断対象物を介した接触である。
【0084】
あるいは、エッジと弾性体とが接触することだけではなく、エッジ26、36同士の対向圧力によるせん断力で、切断対象物50が切断される。このとき、エッジ26、36は、段差27、37を伴っており、この段差27、37に、弾性体25、35が装着されている。すなわち、エッジ26、36とのせん断圧力の前後においては、弾性体25、35が、切断対象物50を挟んで(しかも硬質表面による強い挟み込みではなく、弾性力のある挟み込み)、その姿勢を安定させる。しかも、弾性体による挟み込みなので、弾性力を伴っており、主に金属薄板や金属箔である切断対象物50に塑性変形を生じさせることは無い。この結果、エッジ26、36による切断において、切断対象物50において塑性変形が生じにくくなり、バリやカエリが生じにくいものとなる。
【0085】
以上のように、実施の形態1におけるロータリーカッター1は、第1回転部材2のエッジ26と第2回転部材3のエッジ36との対向圧力に基づくせん断力で、切断対象物50にクラックを生じさせて切断する。更に、切断の際および切断後には、クラック線の前後において、第1回転部材2の弾性体25と第2回転部材3の弾性体35とが、第1回転部材2と第2回転部材3との間を通過する切断対象物50の位置、移動方向、姿勢を固定する(この働きがなければ、切断応力の方向が切断対象に対して垂直方向にかかりにくくなる)。この結果、エッジ26、36同士での切断時および切断後に、切断部分において塑性変形が生じにくくなり、バリやカエリが生じることが小さくなる。
【0086】
より具体的には、エッジ26に対向する弾性体35は、弾性力による反発力を有しており、この反発力を第1回転部材2(エッジ26と前後の弾性体25)に付与する。この反発力の付与によって、第1回転部材2および第2回転部材3の間を通過する切断対象物が、エッジ26と弾性体35との間に十分に固定される。この固定によって、エッジ26に沿った切断線において、切断対象物には容易にクラックが生じ、線状に切断される。
【0087】
加えて、エッジ26と弾性体35との接触によるせん断力でクラックが生じて切断された後では、第1回転部材2および第2回転部材3の回転によって弾性体35と弾性体25とが切断対象物を挟むようになる。これら弾性体35および弾性体25も、反発力を切断対象物に付与するので、切断対象物は、切断線で切断されたあとでも、十分に固定される。この固定によって、塑性変形が生じにくくなり、切断線においてバリやカエリが生じにくい。
【0088】
実施の形態1のロータリーカッター1は、硬質表面同士の接触が生じないので、切断対象物の切断部分にバリやカエリが発生しにくい。もちろん、硬質表面同士の接触がないことで、ロータリーカッター1の変質や損耗も生じにくい。
【0089】
ここで切断対象物が、表面および裏面の少なくとも一部に非金属層を有する金属薄板もしくは金属箔であることもある。このような切断対象物は、表面に金属部分と非金属部分があることで、通常のロータリーカッター1では切断しにくい。金属部分と非金属部分とによって、切断に必要な圧力の大きさは付与方法が異なるからである。このような切断対象物であっても、実施の形態1のロータリーカッター1は、直線的圧力を付与するエッジと拡散的圧力を付与する弾性体との組み合わせにより、確実に切断できる。もちろん、バリやカエリを発生させることも少なくなる。
【0090】
なお、ロータリーカッター1に投入される切断対象物は、その表面および裏面の少なくとも一方に中間体を備えることが好適である。中間体を備えることで、切断品質(バリやカエリの少なさ)がより容易になるからである。
【0091】
(切断手順)
次に、ロータリーカッター1による切断手順の詳細について説明する。なお、図3図6を用いて説明する切断手順においては、説明と図示の容易性のために、切断対象物の側面のある部分が切断される状態を説明する。実際には、図1のように、閉じた形状を切り抜くこともあるし、図2のように切断線によって切り分けることも行われるので、ロータリーカッター2による切断形態はもっと複雑であることも多い。以下では、説明と図示の容易性のために、切断対象物を側面から見た場合に、所定の部分で切断される状態を説明する。
【0092】
(切断対象物の通過)
図3は、本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの動作説明図である。図3は、ロータリーカッター1において、第1回転部材2と第2回転部材3との間に、切断対象物50が通っている状態を示している。第1回転部材2は、矢印Bの方向に回転し、第2回転部材3は、矢印Cの方向に回転する。この回転によって、切断対象物50は、矢印Aの方向に沿って移動する。
【0093】
第1回転部材2と第2回転部材3とは、切断対象物50を挟んで回転する。第1回転部材2の硬質表面28と第2回転部材3の硬質表面38とは、直接接触しない程度の距離に、第1回転部材2と第2回転部材3との位置が調整される。加えて、第1回転部材2のエッジ26と第2回転部材3の弾性体35とは直接接触できる距離(同様に、第1回転部材2の弾性体25と第2回転部材3のエッジ36とが直接接触できる距離)に、第1回転部材2と第2回転部材3との位置が調整される。
【0094】
ここで、第1回転部材2と第2回転部材3との間を切断対象物50が通過するので、第1回転部材2と第2回転部材3との距離は、この切断対象物50の厚みも考慮されることが好ましい。切断対象物50となる金属薄板もしくは金属箔は、5μm以上300μm以下の厚みを有する。このため、この切断対象物50の厚みに合わせて、第1回転部材2と第2回転部材3との離隔距離が定まればよい。例えば、エッジ同士は離隔しているが、エッジと弾性体とは、切断対象物50が無い状態でも接触可能であって、切断対象物50に固定に十分な圧力を付与することもよい。
【0095】
また、切断対象物50の表面および裏面の少なくとも一方に、非金属の薄板や箔などによる中間体が装着された状態で、ロータリーカッター1に送り込まれることも好適である。非金属の中間体が装着されることで、切断対象物50の固定がより適切となり、せん断応力が適切に切断だけに向けられるために切断時の圧力によるバリやカエリが生じにくくなる。
【0096】
中間体は、樹脂や紙、シリコンなどの素材で形成された薄板であり、切断対象物50の表面および裏面の少なくとも一方に重ねられる。装着においては、貼り付けられてもよいし、簡便に固定されるだけでもよい。中間体は、表面全体に装着されてもよいし、切断される領域のみに装着されてもよい。例えば、切断対象物50の切断線を覆う一部分に沿って、中間体が装着されてもよい。
【0097】
しかし、装着作業性を考慮して、中間体は、表面全体(もしくは裏面全体)に装着されることが適当である。もちろん、表面および裏面の双方に装着されてもよい。
【0098】
弾性体25、35のそれぞれは、エッジ26、36の周囲の段差部分27、37に沿って装着される。特に、段差部分27、37が埋められるように装着されればよい。また、凹部22、32に弾性体25、35が装着される場合には、凹部22、32全体が埋められるように弾性体25、35が装着されてもよい。あるいは、凹部22、32の一部であって段差部分27、37に沿ったところのみに弾性体25、35が装着されてもよい。弾性体25、35は、対向するエッジ26、36に対応する位置に装着されれば、最低限の機能を発揮できる。あるいは、第1回転部材2および第2回転部材3に形成される凹部22、32の全てを埋めるように、弾性体25、35が装着されてもよい。
【0099】
特には、第1回転部材2および第2回転部材3の長さ方向において、エッジ26、36の幅方向全体に渡っては、弾性体25、35が装着されていることが好ましい。これは、図2の右側の展開図で示すような弾性体25、35の装着状態である。
【0100】
(ある部分の切断)
図4は、本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの動作説明図である。図4は、第1回転部材2と第2回転部材3との回転によって引き込まれた切断対象物50に、最初に切断が加わる状態を示している。
【0101】
第1回転部材2は凸部21を有し、第2回転部材3は凸部21に対応する凹部32を有している。凸部21は、凸部21となっている上方から下方に下りるように、エッジ26Aを有しており、エッジ26Aによって生じる段差部分27Aに弾性体25Aが装着されている。一方、第2回転部材3の凹部32には、エッジ36Aが形成され、エッジ36Aによって生じる段差37Aに弾性体35Aが装着される。エッジ26Aとエッジ36Aとは、第1回転部材2と第2回転部材3の回転によって切断対象物50が移動してくると、切断対象物50を挟んで対向する。
【0102】
また、エッジ26とエッジ36とが対向するのに合わせて、エッジ26Aの前方には、弾性体25Aが備わった状態となる。一方、エッジ36Aの後方には、弾性体35Aが備わった状態となる。すなわち、切断対象物50は、エッジ26Aとエッジ36Aとの対向線(これが、切断対象物50の切断線となる)の前後に、上下から弾性体25A,35Aの弾性力を受ける状態となっている。もちろん、弾性体25A、35Aのそれぞれは、対向する第1回転部材2と第2回転部材3の表面を相手側として切断対象物50へ弾性力を付与できる。
【0103】
このように、ロータリーカッター1は、エッジ26とエッジ36との対向によるせん断力によって図4に示されるように切断対象物50の所定切断線に沿ったクラックを生じさせる。このクラックの前後では、弾性体25、35による切断対象物50の固定を生じさせているので、クラックの発生時や発生後に、クラックを基準とする周囲部分の押し下がりや押し上がりが生じない。この結果、切断対象物50に塑性変形が生じにくく、クラック(切断線)に沿ったカエリやバリが生じにくいことになる。
【0104】
このように、弾性体25、35は、第1回転部材2および第3回転部材3の間を通過する切断対象物50の姿勢を固定する役割を果たす。弾性体25、35は、弾性力による反発力を切断対象物50に付与する。この厚さ方向への表裏からの反発力によって、丸い部材である第1回転部材2および第2回転部材3の間を通る切断対象物50が、直線上に(エッジ26等の切断方向に対して略垂直上に)、その姿勢を固定しやすくなる。すなわち、切断対象物50は、進行方向Aに沿って、まっすぐに進む。なお、弾性体25、35は、エッジ26、36と近接することで、エッジ同士のせん断力を強化することもありえる
【0105】
このように、弾性体25、35は、切断対象物50が、進行方向Aに沿ってまっすぐかつ変形せずに進むことを補助する。まっすぐな状態で進行していれば、エッジ26、36によって、まっすぐに切断されるので、変形が生じない。
【0106】
従来技術のように、第1回転部材2および第2回転部材3の間を通過する際に、エッジ26、36のみで切断するロータリーカッターでは、凸部と凹部とが対向するので、金属薄板や金属箔である切断対象物50は、進行方向に垂直方向に逃げ道空間を有してしまい(凹部内部)、変形した状態で切断を受けるので、切断線に変形が生じる。
【0107】
これに対して、実施の形態1におけるロータリーカッター1は、切断線となるエッジ26、36のそれぞれに隣接して弾性体25、35が設けられることで、このような切断対象物50の姿勢変形による切断不良が生じにくい。
【0108】
図5に示されるように、エッジ26A、36A同士の圧力が、切断対象物50に垂直に加わって、所定部分で、切断対象物50は、切断されることになる。このとき、エッジ26A、エッジ36Aの前後の硬質部材と弾性体とによって、切断対象物50がまっすぐに姿勢を制御される。このため、切断部から曲がったりせず、切断部の塑性変形も生じにくい。
【0109】
図5は、本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターの動作説明図であって、切断対象物の一部が切断された状態を示す動作説明図である。
【0110】
第1回転部材2は矢印Bの向きに回転し、第2回転部材3は矢印Cの方向に回転する。この回転によって、図4から図5に、ロータリーカッター1の状態が変化する。ある切断線に沿って、切断対象物50が切断されている。
【0111】
また、上述のように、切断された際でも、弾性体25A、35Aによって、切断対象物50の姿勢が固定されるので、塑性変形が生じにくい。
【0112】
また、第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれは、切断部50Aで切断対象物50が切断された後でも回転を続ける。このため、第1回転部材2と第2回転部材3とのそれぞれは、そのまま切断対象物50を前に送る。切断部50Aで切断された切断対象物50は、そのまま矢印Aに沿って進む。
【0113】
(次の切断)
第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれの回転が更に進むと、図6のような状態となる。図6は、本発明の実施の形態1におけるロータリーカッターでの次の切断を示す動作説明図である。第1回転部材2は矢印Bの方向に回転し、合わせて第2回転部材3が矢印Cの方向に回転する。この回転によって、エッジ26Aとエッジ36Aとは近接し、切断対象のせん断を終えている。
【0114】
回転が進むことで、第1回転部材2のエッジ26Bとこれに対向する第2回転部材3のエッジ36Bとが切断対象物50に接触するようになる。図6では、切断対象物50に対して、エッジ26Bとエッジ36Bとが対向することで生じるせん断力で、切断対象物が切断される。
【0115】
このときも、エッジ26Bとエッジ36Bの前後に備わる弾性体25B,35Bによって、切断対象物50の姿勢を固定できるので、切断時に塑性変形が生じにくい。この結果、切断対象物50には、バリやカエリが生じにくい。
【0116】
なお、ここでは、第1回転部材2の凸部21の端面をエッジ26A、26Bとし、エッジ26Aとエッジ36Aとの対向、エッジ26Bとエッジ36Bとの対向によって、切断されることを説明した。もちろん、他のエッジ同士の対向によるせん断力による切断で説明されることでもよい。
【0117】
以上のように、実施の形態1におけるロータリーカッター1は、図3図6のような手順で、切断対象物50を切断する。図1に示されるロータリーカッター1であれば、三角形に切り抜かれる。あるいは、図2に示されるロータリーカッター1であれば、切断対象物50のπ字状とT字状との2つに切断される。
【0118】
(実施の形態2)
【0119】
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、ロータリーカッター1の各要素の工夫等について説明する。
【0120】
(回転部材と弾性体)
実施の形態1において、第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれに設けられた凸部や凹部によって生じる段差部分27、37に、弾性体25、35が装着されることを説明した。
【0121】
弾性体25、35は、段差部分27、37に設けられるが、段差部分27、37は、凸部21、31もしくは凹部22、32のいずれにおいても生じる。また、第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれは、相互に切断対象物50に対してせん断力を付与する。
【0122】
このため、第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれには、凸部および凹部の双方が形成されることがある。図7は、本発明の実施の形態2における回転部材(第1回転部材および第2回転部材のいずれか)の側面図である。
【0123】
回転部材20は円筒形であるので、側面から見ると円形である。回転部材20は、必要に応じて凸部201と凹部202を備える。相手となる別の回転部材と対向する際に凸部201と凹部202とが、対向する相手側とで切断線を形成する。凸部201もしくは凹部202のいずれが、円周方向において主であるかで、どちらが凸部でどちらが凹部であるかの区別は重要な問題ではなくなる。すなわち、第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれは、エッジと段差部分を、切断線に合わせて有すると考えられればよい。
【0124】
このため、凸部201によって生じる段差部分および凹部202によって生じる段差部分のそれぞれに、弾性体205が装着されればよい。いずれの弾性体205も、対向する別の回転部材のエッジと対向し、切断対象物への圧力を付与する。なお、対向する別の回転部材は、この回転部材20の凸部201に対称となる凹部を有し、回転部材20の凹部202に対称となる凸部を有する。
【0125】
(弾性体)
【0126】
(交換可能)
弾性体25、35は、段差部分27、37に装着される。弾性体25、35は、交換可能に装着されることも好適である。弾性体25、35は、金属製や合金製である第1回転部材2、第2回転部材3とは異なる素材であるので、接着、溶着、嵌合、締結などの手段で装着される。それぞれの装着は、弾性体を直接装着してもよいし、弾性体に台を設けて、その台ごとを装着する形態でもよい。このような手段で装着される場合には、交換可能とできる。
【0127】
弾性体25、35は、実施の形態1で説明したように、エッジ26、36と接触して圧力を切断対象物50に付与する。硬質のエッジ26、36との接触を受ける弾性体25、35自身は、軟質である。このため、弾性体25、35は、使用されるに従い、劣化を生じさせやすい。劣化が放置されれば、当然にロータリーカッター1の切断能力が劣化する。このような性能劣化を防止するために、弾性体25、35が交換可能であることが好適である。第1回転部材2および第2回転部材3の金属製や合金製部分の劣化速度は遅いので、劣化速度の速い弾性体25、35のみが交換されることで、ロータリーカッター1の寿命を延ばすことができる。
【0128】
弾性体25、35の交換は、接着部分の除去や嵌合部分の取り外しなどによって行われれば良い。また、弾性体25、35が多層構造になっている場合には、エッジ26、36と接触する上位層のみが交換されてもよい。
【0129】
(弾性体の素材等)
弾性体25、35は、硬質部材製のエッジ26、36と接触する(実際の使用時においては、まず切断対象物50と接触する。ただ、切断対象物50も、金属薄板や金属箔である)。硬質部材のエッジ26、36との接触によって、弾性体25、35は、切断対象物50へ適切な圧力を付与する。このため、弾性体25、35は、硬質のエッジ26、36との対応関係が適当である特性を有することが好ましい。
【0130】
例えば、弾性体25、35は、C硬度において3以上22以下であることが好ましい。C硬度は、柔軟性のある素材の硬度を測る基準であり、3以上22以下の範囲であることで、エッジ26、36との接触で十分な圧力(切断対象物50を切断可能な圧力)を切断対象物50に付与できつつ、損耗も少ない。
【0131】
あるいは、弾性体25、35は、30%圧縮応力において20kPa以上80kPa以下であることも好ましい。30%圧縮応力は、C硬度と同様に柔軟性のある素材の硬度を測る基準である。弾性体25、35の30%圧縮応力が、20kPa以上80kPa以下であることで、弾性体25、35と共に十分な圧力を、切断対象物50に付与できる。もちろん、接触圧力の付与における損耗も少なくなる。
【0132】
このような特性を有する弾性体25、35として、ロジン、天然ゴム、合成ゴム、天然スポンジ、合成スポンジ、ゴムスポンジおよび発泡プラスチックの少なくとも一つの素材で形成される。これらの素材は、上述の特性を発揮しつつ入手も容易だからである。入手が容易であることで、コストも低く、交換されうる弾性体25、35のコストが低減できる。
【0133】
また、このような素材は、加工性が高いので様々な形状や大きさを必要とする弾性体25、35に適している。弾性体25、35は、段差部分27、37に設けられる。ここで、段差部分27、37に沿って線状に設けられる場合もあれば、凹部22,32を埋めるように面状に設けられる場合もある。エッジ26、36の形状によっては、屈曲したりカーブを有したりする必要もある。厚みや幅も、段差部分27、37の形態によって様々になる。加工性が高い素材で形成されることで、弾性体25、35は、これらの要求に対応できる。
【0134】
(弾性体の形状)
弾性体25は、エッジ36と対向する。弾性体25は、エッジ26により形成される段差部分27に形成される。また、ロータリーカッター1は、第1回転部材2のエッジ26と第2回転部材3の弾性体35との接触圧力によって切断対象物50を切断する。しかし、同時に第2回転部材3のエッジ36と第1回転部材2の弾性体25も接触して圧力を付与する。言い換えれば、第1回転部材2と第2回転部材3のそれぞれは、同じ関係を相互に有することになる。また、多少のずれはあるものの、エッジ26とエッジ36も相互に対向する。
【0135】
このように、第1回転部材2のみを考える場合には、備えるエッジ26のみを考慮すればよいが、相手となる第2回転部材3を考えると、エッジ26に隣接して装着される弾性体25の形態も考慮される必要がある。例えば、第1回転部材2のエッジ26に隣接する弾性体25は、対向する第2回転部材3のエッジ36と接触して十分な接触圧力を付与することが求められる。エッジ26と弾性体25とは、相互に邪魔をしあわないことが求められる。
【0136】
このため、弾性体25は、エッジ26に接する部分において面取りを有していることが好ましい。面取りは、0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましい。図8は、本発明の実施の形態2における弾性体の周辺拡大図である。弾性体25は、第1回転部材2の凹部22を埋めるように装着されている。凹部22の存在により、エッジ26がその端面に形成される。
【0137】
このエッジ26に接する部分において、弾性体25は、面取り250を有することが好適である。面取り250を有することで、エッジ26が弾性体25によって遮蔽されることが無くなり、エッジ26は、対向する第2回転部材3の弾性体35と共に十分な接触圧力を切断対象物50に付与できるからである。つまり、エッジ26の独立性が、確保される。
【0138】
ここでは、第1回転部材2に装着される弾性体25について説明したが、第2回転部材3に装着される弾性体35も同様である。弾性体35は、エッジ36に接する部分において、0.1mm以上1mm以下の面取りを有していることが適当である。また、複数の弾性体25、35が、複数の段差部分27、37に装着されることもある。この場合には、複数の弾性体25、35の全てにおいて面取りされていてもよいし、いずれかのみに面取りされていてもよい。ロータリーカッター1の使用や要求に従って定められればよい。
【0139】
また、面取りは、R曲線による面取りでもよいし、C面取りでもよい。また、一つの弾性体25、35が、複数のエッジ26、36に接する場合には、接する箇所の全てで面取りされてもよいし、一部のみで面取りされてもよい。
【0140】
また、図8に示されるように、弾性体25は、第1回転部材2の硬質表面28に対して同一高さ以上(高さ=ロール径方向の長さ)であることも好適である。ここで、硬質表面28とは、凸部21や凹部22などの形成がなされている第1回転部材2の表面において、もっとも最外周となる仮想曲面に対応する表面である。
【0141】
弾性体25が、この硬質表面28に対して、同一高さ以上であることで、第1回転部材2の表面においては、弾性体25が、他の部分よりも高くなりえる。弾性体25が、その位置において硬質表面28よりも高いことで、何らの圧力が無い状態では、弾性体25が切断対象物50に近くなる。この結果、第1回転部材2と第2回転部材3との回転によって、薄板や箔である切断対象物50を確実に取り込めるようになる。
【0142】
また、弾性体25が、硬質表面28より高いことは、相手側となる第2回転部材3の弾性体35も、硬質表面38よりも高いことになるので、第1回転部材2のエッジ26は、対向する第2回転部材3の弾性体25と高い接触圧力を生じさせやすい。当然ながら、第2回転部材のエッジ36は、対向する第1回転部材2の弾性体35と高い接触圧力を生じさせやすい。このように、弾性体25、35が、装着されている段差部分27、37の上方となる硬質表面28、38と同一高さ以上であることで、ロータリーカッター1は、切断対象物50を、より確実に切断できる。
【0143】
(切断対象物の特性への適合)
切断対象物50は、図9に示されるように、金属層と非金属層を混在して有する場合がある。例えば、金属薄板や金属箔の切断対象物50であるが、使用される用途によってその一部に非金属層などを備えることがある。図9は、実施の形態2における切断対象物の正面図である。切断対象物50の基本的な素材は、金属、合金などであるが、用途によって、表面もしくは裏面の少なくとも一方に非金属層52が設けられる。例えば、非金属の素材が塗布されたり蒸着されたりすることで、非金属層52が形成される。非金属層52以外の部分は、金属が露出した金属層51である。
【0144】
このように、切断対象物によっては、金属層51と非金属層52とのそれぞれを、一組の第1回転部材2および第2回転部材3とによって一度の処理で切断する必要がある。金属層51と非金属層52とでは特性が異なるので、エッジと弾性体との接触圧力も、この特性の違いに合わせることが適当である。
【0145】
例えば、金属層51に対向する部分においては、弾性体25、35は、他部分よりも高い高さおよび高い硬度の少なくとも一方を有することが好適である。一方、非金属層52に対向する部分においては、弾性体25、35は、他部分よりも低い高さおよび低い硬度の少なくとも一方を有することが好適である。
【0146】
金属層51においては、より集中した領域に圧力を付与する必要がある。弾性体25、35は、対向するエッジ26、36との接触圧力を、切断対象物50に付与する。このとき、弾性体25、35の高さや硬度が高いことで、接触圧力が大きくなりやすい。この結果、金属層51部分であっても、確実に切断されるようになる。
【0147】
一方、非金属層52においては、圧力が集中しすぎると、非金属層52を形成する素材を破壊することがありうる。このため、非金属層52に対向する部分で、弾性体25,35の高さや硬度が低いことで、圧力の過剰な集中を減少できる。もちろん、硬度を下げて高さを上げるなどの相関関係を制御することも適当である。この結果、切断は十分にされながらも、非金属層52を形成する素材の破壊を防止できる。
【0148】
要は、金属層51と非金属層52とを混在させる切断対象物50においては、第1回転部材2および第2回転部材3のそれぞれに設けられる弾性体25、35のそれぞれは、金属層51に対向する部分と非金属層52に対向する部分とで、その構造、素材、大きさおよび特性の少なくとも一つで異なることが好適である。
【0149】
もちろん、金属層51と非金属層52とが混在する切断対象物50を切断するに際しては、それぞれに対向する弾性体の種々の特性が適宜変更されることで、切断の容易性や精度が更に向上するメリットがある。これらは、経験的かつ論理的に選択されればよい。
【0150】
(エッジ)
【0151】
(オフセット)
第1回転部材2と第2回転部材3とは、エッジ26、エッジ36同士を対向させる。エッジ26、36は、実際上は、弾性体25、35と接触するが、エッジ26とエッジ36とが対向することで、切断対象物50には、上下からエッジ26とエッジ36との圧力が加わるので、エッジによって形成される切断線に沿って確実に切断されるようになる。なお、対向とは、第1回転部材2と第2回転部材3とが回転して、エッジ26とエッジ36とが最近接する状態での対向をいう。
【0152】
ここで、エッジ26とエッジ36との対向において、エッジの端面がきれいにそろうように対向してもよいが、ある程度のオフセットを有していることも好適である。すなわち、エッジ26とエッジ36とは、図10に示されるように、エッジの端面できれいに揃って対向するのではなく、第1回転部材2のエッジ26は、第2回転部材3の段差部分37以外(エッジ36によって落ち込みを生じさせていないところ)に対向する。逆に見れば、第2回転部材3のエッジ36は、第1回転部材2の段差部分27に対向する。もちろん、逆の関係でもよい。第1回転部材2および第2回転部材3の「第1」、「第2」の用語は、便宜上の区分けであり、明確な区別をするものではないからである。図10は、本発明の実施の形態2における回転部材同士の拡大図である。
【0153】
このように、エッジ26とエッジ36との対向は、完全に一致するのではなく、一定のオフセットを有していてもよい。オフセットを有することで、接触圧力がより効果的に切断対象物50に付与されるからである。もちろん、オフセットが全く無い状態であってもよい。
【0154】
ここで、オフセットの量は、−100μm以上50μm以下であることが好ましい。この範囲であれば、接触圧力を切断対象物50の切断線に、十分に集中させることができるからである。マイナスオフセット量が100μmより小さければ、エッジ26とエッジ36との距離が大きくなりすぎて、切断線に沿った切断がなされない可能性がある。プラスに50μmを超えた場合も同様である。
【0155】
(エッジ)
エッジ26、36は、0.1mm以下のR面取りもしくはC面取りを有することも好適である。エッジ26、36は、十分な尖鋭度を有することが好ましい。切断対象物50(切断対象物は、金属薄板や金属箔である。表面処理が施されていても、同様である。)を、切断線に沿って精度よく切断するためである。
【0156】
エッジ26、36は、金属加工によって形成されるが、加工によって尖鋭度が低くなることもある。尖鋭度が低ければ、切断精度が悪くなる。このため、尖鋭度を維持できるように、エッジ26、36に生じざるを得ない面取り(形状によってR面もしくはC面である。もちろん、近似面も含む)は、0.1mm以下の曲率であることが適当である。エッジ26、36の特性は、このように種々に選択されつつ定められればよい。
【0157】
以上のように、実施の形態2におけるロータリーカッター1は、種々の工夫により、切断対象物50を、より確実に切断できる。特に、金属層と非金属層とを混在させる切断対象物であっても、確実に切断できる。また、第1回転部材2と第2回転部材3の金属部分同士が接触したり、強い圧力を衝突しあったりすることもないので、第1回転部材2や第2回転部材3の劣化や変質も防止される。
【0158】
(実施の形態3)
【0159】
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3では、従来技術との切断状態との差を明確にするために、従来技術での押し切りと本発明のせん断力での切断とを比較しつつ説明する。
【0160】
図11は、本発明の実施の形態3における従来技術との比較における切断状態を示す模式図である。
【0161】
図11の左側は、従来技術による押し切りの切断状態を示している。図11の(1A)から(3A)までの処理手順で、回転部材の間を通過する切断対象物が切断される。図11の右側は、実施の形態1、2で説明したロータリーカッター1による切断を示しており、(1B)〜(3B)までの処理手順で、回転部材の間を通過する切断対象物を切断する。
【0162】
処理手順(1A)〜(3A)に示されるように、従来技術の押切では、エッジが切断対象物に接触した後で、凸部がそのまま切断対象物に面的な圧力を付与してしまっている。この結果、切断対象物がつぶされてしまい、塑性変形が生じてしまう。
【0163】
これに対して、(1B)〜(3B)の処理手順に示されるように、ロータリーカッター1では、エッジ同士でのせん断力でクラックが生じ、このクラックによって切断される。また、エッジ前後に備わる弾性体によって切断対象物の姿勢が(せん断力による切断前、切断時および切断後において)固定されるので、面的な圧力が付与されることも無い。この結果、面的な塑性変形が生じず、バリやカエリが生じにくい。
【0164】
(実験結果)
【0165】
また、実施の形態1,2で説明したロータリーカッターで切断した場合のバリやカエリの少ない切断状態を、実際の試作品での切断によって説明する。
【0166】
図12は、従来技術で切断された金属箔の切断面の断面写真である。図13は、図12の対称となる、本発明のロータリーカッターで切断された金属箔の切断面の断面写真である。
図12の写真から明らかな通り、切断面において活物質がはみ出してしまっている。これは、バリやカエリが発生することで生じる現象である。このような現象によって、切断された金属箔は、製造部品や製品としての使用に問題が生じる。
【0167】
一方、図13の写真から明らかな通り、本発明のロータリーカッター1で切断された金属箔は、切断面において活物質がはみ出していない。活物質がはみ出していなければ、切断された金属箔は、その物性を変化させることがない。もちろん、切断面における物性や特性の変性を生じさせることもない。
【0168】
このように、実験結果からも、本発明のロータリーカッター1の効果が確認された。
【0169】
以上、実施の形態1〜3で説明されたロータリーカッターは、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0170】
1 ロータリーカッター
2 第1回転部材
21 凸部
22 凹部
25 弾性体
26 エッジ
27 段差部分
28 硬質表面
3 第2回転部材
31 凸部
32 凹部
35 弾性体
36 エッジ
37 段差部分
38 硬質表面
50 切断対象物
51 金属層
52 非金属層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13