(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補正部は、前記軌道予測値を構成するデータの内、補正対象の時刻の直前の時刻および直後の時刻の連続する2つの前記データに基づき、前記選択部で前記第1の軌道補正モデルが選択された場合には、前記補正対象の時刻における前記軌道長半径の変化量を算出して前記軌道長半径の変化量および前記オフセット時間に基づき前記軌道予測値の軌道長半径および時刻を補正し、前記選択部で前記第2の軌道補正モデルが選択された場合には、前記補正対象の時刻における前記軌道長半径の誤差を算出して前記軌道長半径の誤差および前記オフセット時間に基づき前記軌道予測値の軌道長半径および時刻を補正し、前記選択部で前記第3の軌道補正モデルが選択された場合には、前記オフセット時間に基づき前記軌道予測値の時刻を補正することを前記補正対象の時刻の変化に応じて前記2つのデータを変えて繰り返し行う請求項1に記載の追尾装置。
前記オフセット時間算出部は、前記所定の時間内において、前記信号の信号レベルが第1の閾値を初めて上回った時刻から、前記信号の信号レベルが第2の閾値を初めて下回った時刻までの、前記信号の信号レベルに基づき、最小二乗法を用いて前記信号の信号レベルに対応する二次曲線を算出し、該二次曲線の最大値に対応する時刻に基づき前記オフセット時間を算出する請求項3に記載の追尾装置。
前記信号の信号レベルに基づき、ある時刻における、前記アンテナが正対している位置に含まれる誤差を低減するために用いる追尾オフセット時間を算出して前記軌道予測値を補正する追尾部をさらに備え、
前記駆動部は、前記補正部または前記追尾部で補正された前記軌道予測値に基づき、該軌道予測値が示す、ある基準時刻における前記目標物の位置に前記アンテナが正対するように制御した後に、該軌道予測値が示す、前記基準時刻より第1の追尾時間だけ進んだ時刻における前記目標物の位置および前記基準時刻より第2の追尾時間だけ遅れた時刻における前記目標物の位置のそれぞれに、前記アンテナが正対するように制御し、
前記追尾部は、前記アンテナが前記基準時刻、前記基準時刻より前記第1の追尾時間だけ進んだ時刻、および前記基準時刻より前記第2の追尾時間だけ遅れた時刻のそれぞれにおける前記目標物の位置に正対している場合の前記信号の信号レベルに基づき、前記追尾オフセット時間を算出し、前記追尾オフセット時間に基づき該軌道予測値を補正し、
前記駆動部は前記制御処理を、前記追尾部は前記補正処理を時刻の変化に応じてそれぞれ繰り返す、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の追尾装置。
前記駆動部は、前記補正部または前記追尾部で補正された前記軌道予測値に基づき、該軌道予測値が示す、ある基準時刻における前記目標物の位置に前記アンテナが正対するように制御した後に、前記アンテナが該目標物の位置に正対している場合の前記信号の信号レベルが閾値以下である場合にのみ、該軌道予測値が示す、前記基準時刻より前記第1の追尾時間だけ進んだ時刻における前記目標物の位置および前記基準時刻より前記第2の追尾時間だけ遅れた時刻における前記目標物の位置のそれぞれに、前記アンテナが正対するように制御し、
前記追尾部は、前記アンテナが前記基準時刻における前記目標物の位置に正対している場合の前記信号の信号レベルが閾値以下である場合にのみ、前記アンテナが前記基準時刻、前記基準時刻より前記第1の追尾時間だけ進んだ時刻、および前記基準時刻より前記第2の追尾時間だけ遅れた時刻のそれぞれにおける前記目標物の位置に正対している場合の前記信号の信号レベルに基づき、前記追尾オフセット時間を算出し、前記追尾オフセット時間に基づき該軌道予測値を補正する、
請求項5に記載の追尾装置。
前記第1の追尾時間および前記第2の追尾時間の絶対値はそれぞれ、前記アンテナのビーム幅を10以上かつ20以下の実数値で除算し、前記アンテナの駆動座標系における前記目標物の進行方向の角速度で除算した値である請求項5または6に記載の追尾装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態に係る追尾装置の構成例を示すブロック図である。追尾装置1は、オフセット時間算出部11、取得部12、選択部13、補正部14および駆動部15を備える。追尾装置1は、目標物から信号を受信するアンテナを駆動し、アンテナが目標物に正対するように制御する。ここで一例として、目標物を、地球を周回している衛星とする。
図2は、実施の形態1に係る追尾装置を含む衛星通信システムの構成例を示すブロック図である。衛星通信システム2は、追尾装置1、アンテナ3、LNA(Low Noise Amplifier:低雑音増幅器)4、D−C(Down-Converter)5、および受信機6を備える。
【0014】
アンテナ3は、衛星からの信号を受信し、受信した衛星信号をLNA4に送る。LNA4は、衛星信号の低雑音増幅を行い、D−C5に送る。D−C5は、低雑音増幅された衛星信号をRF(Radio Frequency:無線周波数)からIF(Intermediate Frequency:中間周波数)に変換し、受信機6に送る。受信機6はIFに周波数変換された衛星信号を復調し、ベースバンド信号を生成して受信機6に接続された外部機器に出力する。また受信機6は、IFに周波数変換された衛星信号の信号レベルを検出し、追尾装置1が備えるオフセット時間算出部11に送る。
【0015】
取得部12は、各時刻における衛星の位置の予測値である軌道予測値を、追尾装置1の外部機器から取得する。軌道予測値は、時刻、および地球の自転により慣性座標系において移動する、アンテナ3を原点とした駆動座標系における方位角、仰角、および距離から成る。距離とは、アンテナ3から衛星までの距離である。慣性座標系として、例えば地球の重心を原点とする三次元の座標を用いる。地球は慣性座標系において回転する。厳密には、上記慣性座標は地球の公転軌道に沿って移動するが、地球近傍に位置する衛星が地球を周回する一周期の間は慣性座標とみなすことができる。取得部12は、取得した軌道予測値をオフセット時間算出部11、補正部14および駆動部15に送る。
【0016】
オフセット時間算出部11は、衛星信号から推定される、ある時刻における衛星の位置と、軌道予測値が示す該時刻における衛星の位置との軌道上での時間ずれを表すオフセット時間を算出し、算出したオフセット時間を補正部14に送る。
【0017】
選択部13は、軌道予測値に含まれる誤差の程度を示す情報を取得し、該情報に基づき、軌道予測値に含まれる誤差の補正に用いる複数の軌道補正モデルの内のいずれかを選択する。軌道予測値に含まれる誤差の程度を示す情報とは、例えば衛星の軌道に影響を与える太陽活動についての情報やオフセット時間算出部11が算出したオフセット時間である。選択部13がオフセット時間に基づき軌道補正モデルを選択する場合には、オフセット時間算出部11はオフセット時間を選択部13に送るように構成する。またユーザが軌道補正モデルを選択できるように構成してもよいし、ユーザから誤差の程度を示す情報の入力を受け付け、該入力に基づき選択部13が軌道補正モデルを選択するよう構成してもよい。
【0018】
選択部13は、例えば、大気抵抗の変化率に基づく軌道長半径の変化量およびオフセット時間に基づく第1の軌道補正モデル、軌道長半径の誤差およびオフセット時間に基づく第2の軌道補正モデル、およびオフセット時間に基づく第3の軌道補正モデルの内のいずれかを選択する。第1の軌道補正モデルは、3つの軌道補正モデルの中で、軌道予測値に含まれる誤差の程度が最も大きいモデルであり、第3の軌道補正モデルは、軌道予測値に含まれる誤差の程度が最も小さいモデルである。
【0019】
補正部14は、選択部13で選択された軌道補正モデルにオフセット時間算出部11で算出されたオフセット時間を適用し、軌道予測値を補正する。補正部14は、補正した軌道予測値を駆動部15に送る。補正部14は、選択部13で第1の軌道補正モデルが選択された場合には、軌道長半径の変化量およびオフセット時間に基づき軌道予測値の軌道長半径および時刻を補正する。選択部13で第2の軌道補正モデルが選択された場合には、軌道長半径の誤差およびオフセット時間に基づき軌道予測値の軌道長半径および時刻を補正する。選択部13で第3の軌道補正モデルが選択された場合には、オフセット時間に基づき軌道予測値の時刻を補正する。
【0020】
駆動部15は、取得部12から送られた軌道予測値および補正部14で補正された軌道予測値に基づきアンテナ3を駆動する。なお追尾装置1の各部は必ずしも1つの筐体に格納される必要はない。
【0021】
追尾装置1の各部の動作について説明する。追尾装置1は、衛星の捕捉を行うために、オフセット時間を算出する。駆動部15は、ある時刻における軌道予測値が示す衛星の位置に基づき、該時刻を含む所定の時間、アンテナ3が該衛星の位置に正対するように制御する。オフセット時間算出部11は、上記所定の時間内にアンテナ3が受信した衛星信号の信号レベルに基づき、オフセット時間を算出する。所定の時間は任意であり、オフセット時間が取り得る範囲を含むように設定すればよい。
【0022】
図3は、実施の形態1に係る追尾装置が行うオフセット時間の算出の例を示す図である。上段は、実際の衛星の軌道および軌道予測値の関係を示したものである。横軸は時間であり、縦軸は仰角である。理解を容易にするため、仰角についてのみ記載し、方位角についての記載は省略した。オフセット時間算出部11は、衛星信号から推定される時刻T4における衛星の位置と、軌道予測値が示す時刻T4における衛星の位置との軌道上での時間ずれを表すオフセット時間を算出するものとする。実際の衛星の軌道が太い実線で示したグラフであり、軌道予測値が細い実線で示したグラフである。アンテナ3は上記所定の時間、軌道予測値が示す衛星の位置に正対し、衛星信号を受信する。アンテナ3の仰角は、点線で表したグラフである。駆動部15は、時刻T0から時刻T5までの所定の時間、時刻T4における軌道予測値が示す衛星の位置にアンテナ3が正対するように制御する。
【0023】
なお実際には、所定の時間、軌道予測値が示す衛星の位置にアンテナ3を正対させるために、地球上にあるアンテナ3の仰角および方位角を、地球回転を考慮して調整する。しかし理解を容易にするため、
図3中ではアンテナ3の仰角を一定値とした。
【0024】
オフセット時間ΔTxを算出する際に、アンテナ3を上記所定の時間、軌道予測値が示す目標時刻における衛星の位置に正対させるための駆動処理の一例について説明する。時刻T4を目標時刻とする。観測時刻tと目標時刻T4との差を初期オフセット時間として算出する。初期オフセット時間ΔT=t−T4である。例えば観測時刻T0において、初期オフセット時間ΔT=T0−T4である。オフセット時間算出部11は初期オフセット時間ΔTを補正部14に送る。補正部14は、選択部13で選択された軌道補正モデルにオフセット時間算出部11で算出された初期オフセット時間ΔTを適用し、軌道予測値の時刻をt+ΔTで補正し、所定の軌道補正モデルが選択された場合には、軌道長半径の補正も行う。補正部14は、補正した軌道予測値を駆動部15に送る。なお軌道予測値を補正する補正部14の動作の詳細については後述する。
【0025】
駆動部15は、時刻t+ΔTで補正された軌道予測値に基づき、アンテナ3を駆動する。上述の処理を繰り返し行い、時々刻々変化する初期オフセット時間ΔTに基づき補正された軌道予測値を用いることで、目標時刻を含む所定の時間、目標時刻T4における軌道予測値が示す衛星の位置にアンテナ3が正対するように制御することができる。その後、オフセット時間算出部11は、目標時間を含む所定の時間における衛星信号の信号レベルに基づき、衛星信号から推定される時刻T4における衛星の位置と、軌道予測値が示す時刻T4における衛星の位置との軌道上での時間ずれを表すオフセット時間を算出する。
【0026】
図3の下段は、衛星信号の信号レベルを示す。横軸は時間であり、縦軸は信号レベルである。時刻T4を0とし、時刻T4との差分を横軸に表した。オフセット時間算出部11は、例えば、上記所定の時間内において、衛星信号の信号レベルが第1の閾値を初めて上回った時刻T1から、衛星信号の信号レベルが第2の閾値を初めて下回った時刻T3までの、衛星信号の信号レベルに基づき、最小二乗法を用いて最も当てはまりのよい二次曲線を算出し、該二次曲線が最大値をとる時刻T2と時刻T4の差分であるΔTxをオフセット時間として算出する。
【0027】
xを時刻T4との差分とし、yを信号レベルとした場合、二次曲線は、下記(1)式で表される。xの値は時刻T4より早い時刻である場合にはマイナスであり、時刻T4より遅い時刻である場合にはプラスである。下記(1)式の係数を用いると、二次曲線の最大値に対応する時刻T2と時刻T4との差分であるオフセット時間ΔTxは、下記(2)式で表される。
図3に示すように、軌道予測値が示す時刻よりも早く、アンテナ3が正対している位置を衛星が通過した場合には、オフセット時間ΔTxはマイナスとなり、該時刻よりも遅く、該位置を衛星が通過した場合には、オフセット時間ΔTxはプラスとなる。
【0030】
次に、追尾装置1は選択部13で選択された軌道補正モデルおよびオフセット時間算出部11で算出されたオフセット時間に基づき軌道予測値を補正する。補正部14は、軌道予測値を構成するデータの内、補正対象の時刻の直前の時刻および直後の時刻の連続する2つのデータに基づき、軌道6要素を算出する。補正対象の時刻をtとし、時刻tの直前および直後の連続する2つのデータの時刻をそれぞれt1、t2とし、t1<t<t2とする。時刻t1の軌道予測値は、方位角AZ1、仰角EL1、および距離R1から成り、時刻t2の軌道予測値は、方位角AZ2、仰角EL2、および距離R2から成る。
【0031】
補正部14は、上記2つのデータに基づき、上記2つのデータにより特定される2点を通過する楕円軌道の時刻t1における軌道6要素(x1、y1、z1、Vx1、Vy1、Vz1)を計算する。x1、y1、z1は慣性座標系における衛星の位置の各成分を示し、Vx1、Vy1、Vz1は、時刻t1における衛星の速度の各成分を示す。上記計算は、参考文献:Pedro Ramon Escobal著、「METHOD OF ORBIT DETERMINATION」、1976年発行、に記載の方法に基づく。
【0032】
軌道6要素の座標変換を行い、時刻t1におけるケプラー軌道要素(a、e、i、Ω、ω、M)を算出する。aは軌道長半径、eは軌道離心率、iは軌道傾斜角、Ωは昇交点赤経、ωは近地点引数、Mは平均近点角を表す。平均角速度である平均運動nは、万有引力定数と地球の質量を乗算した値をμとおくと、ケプラーの第3法則により、下記(3)式で表される。
【0034】
また時刻t1における衛星速度Vは、各成分を合成して、下記(4)式で表される。
【0036】
第1の軌道補正モデルを用いた軌道予測値の補正について説明する。上記(3)式の平均運動nを微分すると、下記(5)式が導き出される。
【0038】
軌道予測値の計算を開始したエポック時刻t0からの経過時間を時間tとする。時間tとともに一様に回転する角度パラメータである平均近点角Mは、平均運動n、時間tおよび平均近点角の初期値M
0を用いて、下記(6)式で表される。下記(6)式を微分して、下記(7)式が得られる。
【0041】
衛星の進行方向の誤差をΔLとすると、上記ΔnおよびΔMに基づき、ΔLは下記(8)式で表される。ただし衛星の進行方向の誤差ΔLは、衛星がある地点を軌道予測値が示す時刻より早い時刻に通過する場合にプラスになり、該時刻より遅い時刻に通過する場合にマイナスになる。
【0043】
大気抵抗による軌道長半径の変化率をΔa
DRとし、時刻t0から補正対象の時刻までの経過時間をteとすると、大気抵抗による軌道長半径の変化量による衛星の進行方向の誤差ΔL
1は、下記(9)式で表される。また衛星の進行方向の誤差ΔL
1は、上記の衛星速度Vおよびオフセット時間ΔTxを用いて、下記(10)式のように表される。
【0046】
上記(9)式および(10)式より、下記(11)式が導き出される。軌道長半径の変化量Δa
DRTは、下記(12)式で表され、補正後の軌道長半径a
1は、下記(13)式で表される。
【0050】
選択部13で第1の軌道補正モデルが選択された場合には、補正部14は軌道予測値の軌道長半径および時刻を補正する。補正部14は、軌道予測値の時刻t1をt1+ΔTxで置き換え、軌道長半径aをa+Δa
DRTで置き換える。
【0051】
第2の軌道補正モデルを用いた軌道予測値の補正について説明する。軌道長半径の誤差をΔa
Dとすると、第1の軌道補正モデルと同様に、上記(8)式より軌道長半径の誤差による衛星の進行方向の誤差ΔL
2は、下記(14)式で表される。また衛星の進行方向の誤差ΔL
2は、上記の衛星速度Vおよびオフセット時間ΔTxを用いて、下記(15)式のように表される。
【0054】
上記(14)式および(15)式より、下記(16)式が導き出される。補正後の軌道長半径a
2は、下記(17)式で表される。
【0057】
選択部13で第2の軌道補正モデルが選択された場合には、補正部14は軌道予測値の軌道長半径および時刻を補正する。補正部14は、軌道予測値の時刻t1をt1+ΔTxで置き換え、軌道長半径aをa+Δa
Dで置き換える。
【0058】
第3の軌道補正モデルを用いた軌道予測値の補正について説明する。衛星の進行方向の誤差ΔL
3は、上記の衛星速度Vおよびオフセット時間ΔTxを用いて、下記(18)式のように表される。
【0060】
選択部13で第3の軌道補正モデルが選択された場合には、補正部14は軌道予測値の時刻を補正する。補正部14は、軌道予測値の時刻t1をt1+ΔTxで置き換える。
【0061】
補正部14は、選択部13で選択された軌道補正モデルに基づき、上述の通り補正した軌道予測値を用いて楕円軌道伝播計算を行う。補正部14は、ケプラーの方程式を時刻t1+ΔTxにおいて計算し、方位角、仰角、および距離を算出する。補正部14は、補正した時刻、および算出した方位角、仰角、および距離を駆動部15に送る。オフセット時間ΔTxを算出する際のアンテナ3の駆動のための軌道予測値の補正においては、上記処理におけるオフセット時間ΔTxを初期オフセット時間ΔTに置き換えて、補正部14は軌道予測値の補正を行う。
【0062】
補正部14は、後続の補正対象の時刻について上述の処理を繰り返し、時刻、方位角、仰角、および距離を駆動部15に順次送る。軌道予測値のデータの時間間隔を例えば1秒とし、組み込み計算機により実時間で上述の計算および軌道予測値の補正の処理を繰り返し行う。補正対象の時刻の直前の時刻および直後の時刻の連続する2つのデータを用いるので、伝播計算における誤差を低減することが可能となる。また補正部14は、上述の処理を繰り返し行っている際に、補正に用いている軌道補正モデルと異なる軌道補正モデルが選択部13で選択された場合には、後続の補正対象の時刻については新たな軌道補正モデルに基づく補正を行ってもよい。
【0063】
駆動部15は、補正部14が補正した軌道予測値に基づきアンテナ3を駆動する。駆動部15は、補正部14から送られた、時刻、方位角、仰角、および距離に基づきアンテナ3を駆動する。
【0064】
図4は、実施の形態1に係る追尾装置が行う衛星追尾の動作の一例を示すフローチャートである。追尾装置1は、衛星を追尾するために、軌道予測値補正および駆動の動作を行う。取得部12は、各時刻における衛星の位置の予測値である軌道予測値を追尾装置1の外部機器から取得する(ステップS110)。選択部13は、軌道予測値に含まれる誤差の程度を示す情報を取得し、該情報に基づき、軌道予測値に含まれる誤差の補正に用いる複数の軌道補正モデルの内のいずれかを選択する(ステップS120)。
【0065】
オフセット時間算出部11は、衛星信号から推定される、ある時刻における衛星の位置と、軌道予測値が示す該時刻における衛星の位置との軌道上での時間ずれを表すオフセット時間を算出する(ステップS130)。補正部14は、選択部13で選択された軌道補正モデルにオフセット時間算出部11で算出されたオフセット時間を適用し、軌道予測値を補正することを各補正対象の時刻について行い、駆動部15に補正した時刻、および方位角、仰角、および距離を順次送る(ステップS140)。ステップS140の補正処理が完了すると、処理を終了する。
【0066】
駆動部15は、補正部14から送られた時刻、方位角、仰角、および距離に基づきアンテナを駆動する(ステップS210)。駆動部15は、所定のタイミングでステップS210の処理を繰り返す。
【0067】
図5は、実施の形態1に係る追尾装置を含む衛星通信システムの異なる構成例を示すブロック図である。
図2に示す衛星通信システム2の構成に加え、
図5に示す衛星通信システム2はレベル検出器7を備える。D−C5は、レベル検出器7にもIFに周波数変換した衛星信号を送る。
図2に示す衛星通信システム2とは異なり、レベル検出器7が、IFに周波数変換された衛星信号の信号レベルを検出し、追尾装置1が備えるオフセット時間算出部11に衛星信号の信号レベルを送る。受信機6での衛星信号の捕捉に時間を要する場合に、信号レベルの検出のみを行うレベル検出器7を設けることで、処理速度を速めることが可能となる。
【0068】
以上説明したとおり、本実施の形態1に係る追尾装置1によれば、複数の軌道補正モデルのいずれかにオフセット時間を適用して軌道予測値を補正することで、目標物の追尾で用いられる、目標物の位置の予測値である軌道予測値の補正の精度を向上させることが可能になる。
【0069】
また従来のように、アンテナ3が例えば2つの給電部を備え、各給電部で受信した衛星信号の和である和信号、および各給電部で受信した衛星信号の差である差信号の振幅比および位相差に基づき算出した駆動座標系におけるアンテナ3のずれに基づき制御する自動追尾を行う場合には、和信号および差信号のそれぞれに対してLNA4およびD−C5を備える必要がある。本実施の形態1に係る追尾装置1は、自動追尾を行う装置に比べて、構成が簡易であり、装置の製造コストを低減することが可能になる。またアンテナ3の給電部の構成を簡易化することも可能になる。
【0070】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2に係る追尾装置の構成例を示すブロック図である。実施の形態2に係る追尾装置1は、実施の形態1に係る追尾装置1の構成に加え、追尾部16を備える。
図7は、実施の形態2に係る追尾装置を含む衛星通信システムの構成例を示すブロック図である。追尾部16は、取得部12から軌道予測値を受け取り、補正部14から補正された軌道予測値を受け取り、受信機6から衛星信号の信号レベルを受け取る。追尾部16は、衛星信号の信号レベルに基づき、ある時刻においてアンテナ3が正対している位置に含まれる誤差を低減するために用いる追尾オフセット時間を算出して軌道予測値を補正する。
【0071】
実施の形態1と異なる追尾装置1の各部の動作について説明する。駆動部15は、実施の形態1で説明したように、補正部14が補正した軌道予測値に基づきアンテナ3を駆動する。駆動部15は、例えば、補正部14から送られたある時刻(以下、基準時刻という)、および基準時刻における方位角、仰角、および距離が示す衛星の位置に基づき、基準時刻における衛星の位置にアンテナ3が正対するように制御する。その後、駆動部15は、基準時刻より第1の追尾時間だけ進んだ時刻における衛星の位置および基準時刻より第2の追尾時間だけ遅れた時刻における衛星の位置のそれぞれに、アンテナ3が正対するように制御する。第1の追尾時間と第2の追尾時間は同じ時間であっても、異なる時間であってもよい。
【0072】
追尾部16は、アンテナ3が基準時刻、基準時刻より第1の追尾時間だけ進んだ時刻、および基準時刻より第2の追尾時間だけ遅れた時刻における衛星の位置に正対している場合の衛星信号の信号レベルに基づき、追尾オフセット時間を算出する。そして、追尾オフセット時間に基づき軌道予測値を補正し、補正した軌道予測値を駆動部15に送る。
【0073】
図8は、実施の形態2に係る追尾装置が行う追尾オフセット時間の算出の例を示す図である。基準時刻における衛星の位置に正対している場合の衛星信号の信号レベルをp2、基準時刻より第1の追尾時間だけ進んだ時刻における衛星の位置に正対している場合の衛星信号の信号レベルをp1、基準時刻より第2の追尾時間だけ遅れた時刻における衛星の位置に正対している場合の衛星信号の信号レベルをp3とする。アンテナ3の駆動座標系の原点を基準とした、基準時刻における衛星の位置ベクトルおよび基準時刻より第1の追尾時間だけ進んだ時刻における衛星の位置ベクトル、がなす角度をΔθ1とした。アンテナ3の駆動座標系の原点を基準とした、基準時刻における衛星の位置ベクトルおよび基準時刻より第2の追尾時間だけ遅れた時刻における衛星の位置ベクトル、がなす角度をΔθ2とした。衛星の進行方向を、角度の正の方向とする。
【0074】
アンテナの放射パターンを
図8において一点鎖線で示すようにガウス分布近似として、衛星信号の信号レベルp1、p2、p3に基づき、基準時刻における衛星の位置と衛星信号の信号レベルのピークとなる位置との角度差Δδを算出する。ガウス分布の式は、下記(19)式で表される。下記(19)式中のσ
2は、分散を表す。下記(19)式を対数で線形化し、(α、p)にそれぞれ(Δθ1、p1)、(0、p2)、(Δθ2、p3)を代入して三元連立一次方程式を解き、下記(20)式に基づきΔδを算出する。
【0077】
下記(21)式で表されるように、角度差Δδを衛星の進行方向の角速度Vtrで除算し、追尾オフセット時間ΔΔTxを算出する。
【0079】
図9は、アンテナの駆動座標系における衛星の速度ベクトルを表す図である。
図9における黒丸が地球上に位置するアンテナ3を含む衛星通信システム2であり、白丸が衛星である。アンテナ3の駆動座標系の原点を基準とした衛星の位置ベクトルrrrと、アンテナ3の駆動座標系における速度ベクトルvvvの内積を計算し、角度βを算出する。追尾部16は、補正部14が補正した軌道予測値を用いて楕円軌道伝播計算を行い、速度ベクトルvvvを算出したい時刻における速度成分を計算し、計算結果から地球の回転速度を減算して、速度ベクトルvvvを算出する。追尾部16は、ベクトルrrrと直交する、ベクトルvvvの成分である|vvv|cos(90°−β)をベクトルrrrで割り算することで、アンテナ3の軌道座標系における衛星の進行方向の角速度Vtrを算出する。
【0080】
補正部14による軌道予測値の補正と、追尾部16による追尾オフセット時間に基づく軌道予測値の補正により、軌道予測値の補正の精度を向上させることで、衛星追尾の精度を向上させることが可能となる。
【0081】
駆動部15は、追尾部16で検出した信号レベルp2が閾値より低い場合にのみ、基準時刻より第1の追尾時間だけ進んだ時刻における衛星の位置および基準時刻より第2の追尾時間だけ遅れた時刻における衛星の位置のそれぞれに、アンテナが正対するように制御するよう構成してもよい。信号レベルp2が閾値より低い場合のみアンテナ3を駆動することで、アンテナ3の駆動の頻度を低減し、保守性を向上することが可能となる。
【0082】
図10は、実施の形態2に係る追尾装置が行う追尾オフセット時間の算出の例を示すタイムチャートである。追尾オフセット時間の算出の前に、第1の追尾時間および第2の追尾時間の絶対値のそれぞれを、例えばアンテナ3のビーム幅を10以上かつ20以下の実数値で除算し、アンテナ3の駆動座標系における衛星の進行方向の角速度で除算した値とする。該衛星の進行方向の角速度は、追尾オフセット時間の算出の開始前の直前の時刻であって、組み込み計算機の計算能力によって決定される計算周期にあわせた時刻において算出する。
【0083】
追尾オフセット時間の算出について説明する。追尾部16は時刻τ0において追尾オフセット時間の算出を開始する。オフセット時間算出部11が算出したオフセット時間をΔTxとする。駆動部15は、補正部14から送られたある基準時刻、方位角、仰角、および距離が示す衛星の位置に基づき、基準時刻において該衛星の位置にアンテナ3が正対するように制御する。補正前の軌道予測値の時刻をtとすると、補正部14から送られた時刻はt+ΔTxである。時刻τ1はt+ΔTxに一致する。駆動部15は、時刻τ0から時刻τ2までの時間s1+s2の間、アンテナ3が補正後の軌道予測値の時刻t+ΔTxにおける衛星の位置に正対するように制御する。
【0084】
追尾部16は、時刻τ1から時刻τ2までの時間s2の間、衛星信号の信号レベルを積分する。積分結果をP2_1とする。積分刻み時間をTとし、例えば20ミリ秒以下の値とする。また信号レベルがデシベル単位であれば、対数を真数に変換して積分を行う。これらは以下の積分処理においても同様である。また追尾部16は、時刻τ0から時刻τ2までの間、アンテナ3の駆動座標系における衛星の進行方向の角速度を積分する。積分結果をVtr1とする。
【0085】
追尾部16は、補正後の軌道予測値を用いて、楕円軌道伝播計算を行い、時刻t+ΔTxから第1の追尾時間だけ進んだ時刻における衛星の位置を算出し、時刻、方位角、仰角、および距離を駆動部15に送る。駆動部15は、時刻τ2から時刻τ3までの時間s1の間に、アンテナ3が該方位角、該仰角および該距離によって決定される衛星の位置に正対するように制御する。
【0086】
追尾部16は、時刻τ3から時刻τ4までの時間s2の間、衛星信号の信号レベルを積分する。積分結果をP1とする。また追尾部16は、時刻τ2から時刻τ4までの時間s1+s2の間、アンテナ3の駆動座標系における衛星の進行方向の角速度に、第1の追尾時間を乗算した値を積分してオフセット角度offang1を算出する。
【0087】
追尾部16は、補正後の軌道予測値を用いて、楕円軌道伝播計算を行い、時刻t+ΔTxから第2の追尾時間だけ遅れた時刻における衛星の位置を算出し、時刻、方位角、仰角、および距離を駆動部15に送る。駆動部15は、時刻τ4から時刻τ5までの時間s1の間に、アンテナ3が該方位角、該仰角および該距離によって決定される衛星の位置に正対するように制御する。
【0088】
追尾部16は、時刻τ5から時刻τ6までの時間s2の間、衛星信号の信号レベルを積分する。積分結果をP3とする。また追尾部16は、時刻τ4から時刻τ6までの時間s1+s2の間、アンテナ3の駆動座標系における衛星の進行方向の角速度に、第2の追尾時間を乗算した値を積分してオフセット角度offang2を算出する。
【0089】
駆動部15は、時刻τ6から時刻τ7までの時間s1の間に、アンテナ3が補正後の軌道予測値の時刻t+ΔTxにおける衛星の位置に正対するように制御する。追尾部16は、時刻τ7から時刻τ8までの時間s2の間、衛星信号の信号レベルを積分する。積分結果をP2_2とする。また追尾部16は、時刻τ6から時刻τ8までの時間s1+s2の間、アンテナ3の駆動座標系における衛星の進行方向の角速度を積分する。積分結果をVtr2とする。
【0090】
上記の処理中における衛星の移動による変化量を直線近似して補正する。補正量Δlvは、下記(22)式で表される。補正量Δlvを用いると、信号レベルp1、p2、p3は下記(23)式で表されるように算出される。
【0093】
上記(20)式で用いるΔθ1およびΔθ2は、下記(24)式で表される。
【0095】
上記処理中における衛星の進行方向の角速度の平均avg_Vtrは、下記(25)式で表される。
【0097】
上記(20)式に、上記(23)式および上記(24)式を適用して、Δδを算出する。上記(21)式のVtrとして、上記(25)式のavg_Vtrを適用し、追尾オフセット時間ΔΔTxを算出する。補正後の軌道予測値が示す時刻よりも早く、アンテナ3が正対している位置を衛星が通過した場合には、追尾オフセット時間ΔΔTxはマイナスとなり、該時刻よりも遅く、該位置を衛星が通過した場合には、追尾オフセット時間ΔΔTxはプラスとなる。
【0098】
追尾部16は、軌道予測値の時刻をt+ΔTx+ΔΔTxで補正し、補正後の軌道予測値を用いて、楕円軌道伝播計算を行い、方位角、仰角、および距離を算出する。追尾部16は、補正した時刻、および算出した方位角、仰角、および距離を駆動部15に送る。駆動部15は、該時刻、該方位角、該仰角、および該距離に基づきアンテナ3を駆動する。駆動部15および追尾部16が上述の処理を繰り返すことで、実施の形態1で説明した衛星の捕捉後に、本実施の形態2で説明したように、軌道予測値を補正し、衛星を追尾する精度を向上させることが可能となる。
【0099】
駆動部15は、仰角が所定の条件を満たす範囲でアンテナ3の制御を行い、駆動部15および追尾部16はそれぞれ一定の時間間隔で上記の処理を行うよう構成してもよい。駆動部15は、例えば仰角が予め定められた範囲内の値となるようにアンテナ3の制御を行う。また上記時間間隔を十分に短くし、実質的に連続して上記処理を行ってもよい。また上記時間間隔を、追尾装置1の外部から設定できるように構成してもよい。
【0100】
図11は、実施の形態2に係る追尾装置が行う衛星追尾の動作の一例を示すフローチャートである。追尾装置1は、衛星を追尾するために、軌道予測値補正および駆動の動作を行う。軌道予測値補正の動作は、実施の形態1に係る追尾装置と同様である。追尾部16は、アンテナ3が該時刻、該時刻より第1の追尾時間だけ進んだ時刻、および該時刻より第2の追尾時間だけ遅れた時刻における衛星の位置に正対している場合の衛星信号の信号レベルに基づき、追尾オフセット時間を算出し、追尾オフセット時間に基づき軌道予測値を補正する(ステップS201)。駆動部15は、追尾部16が補正した軌道予測値に基づきアンテナ3を駆動する(ステップS210)。駆動部15および追尾部16は、所定のタイミングでステップS201、S210の処理を繰り返す。
【0101】
以上説明したとおり、本実施の形態2に係る追尾装置1によれば、追尾オフセット時間を算出して軌道予測値を補正することで、目標物の追尾で用いられる、目標物の位置の予測値である軌道予測値の補正の精度を向上させることが可能になる。
【0102】
(実施の形態3)
図12は、本発明の実施の形態3に係る追尾装置の構成例を示すブロック図である。実施の形態3に係る追尾装置1は、衛星信号に基づきアンテナ制御を行う自動追尾のバックアップとしての役割を果たす。
図13は、実施の形態3に係る追尾装置を含む衛星通信システムの構成例を示すブロック図である。アンテナ3は、例えば2つの給電部を備える。分離部8は、各給電部で受信した衛星信号の和である和信号S、および各給電部で受信した衛星信号の差である差信号Dを生成し、和信号SをLNA41に、差信号DをLNA42に送る。
【0103】
LNA41、42は、和信号Sおよび差信号Dをそれぞれ低雑音増幅し、D−C51、52に送る。D−C51は、周波数変換した和信号Sを受信機6および追尾受信機9に送る。D−C52は、周波数変換した差信号Dを追尾受信機9に送る。追尾受信機9は、和信号Sと差信号Dの振幅比および位相差に基づき、アンテナ3の駆動座標系におけるアンテナ3のずれの大きさおよび方向を算出し、駆動部15に送る。追尾受信機9は、信号追尾部としての動作を行う。駆動部15は、追尾受信機9が算出したずれの大きさおよび方向に基づき、アンテナ3を制御し、主駆動部としての動作を行う。
【0104】
オフセット時間算出部11は、アンテナ3の駆動座標系の原点を基準とした、ある時刻においてアンテナ3が正対している位置の位置ベクトルおよび該時刻における軌道予測値が示す衛星の位置ベクトル、がなす角度を算出する。該角度が最小となるようなオフセット時間を算出し、オフセット時間を補正部14に送る。
【0105】
取得部12、選択部13、および補正部14の処理は実施の形態1と同様である。駆動部15は、追尾受信機9が算出したずれに基づくアンテナ制御と、補正部14が補正した軌道予測値に基づくアンテナ制御とを所定の条件で切り替える切替部としての動作を行う。駆動部15は、例えば追尾受信機9からの信号が一定時間途絶えた場合に、補正部14が補正した軌道予測値に基づくアンテナ制御を行う。
【0106】
図14は、実施の形態3に係る追尾装置が行う衛星追尾の動作の一例を示すフローチャートである。追尾装置1は、衛星を追尾するために、軌道予測値補正および駆動の動作を行う。軌道予測値補正の動作は、実施の形態1、2に係る追尾装置1と同様である。ただし、ステップS130において、オフセット時間算出部11は、上述のように、アンテナ3の駆動座標系の原点を基準とした、ある時刻においてアンテナ3が正対している位置の位置ベクトルおよび該時刻における軌道予測値が示す衛星の位置ベクトル、がなす角度が最小となるようなオフセット時間を算出する。
【0107】
駆動部15は、自動追尾を行うか、軌道予測値に基づくアンテナ駆動を行うかを判断し(ステップS310)、自動追尾を行う場合には(ステップS310:Y)、追尾受信機9が算出した駆動座標系におけるアンテナ3のずれの大きさおよび方向に基づき、自動追尾によるアンテナ3の駆動を行う(ステップS320)。自動追尾を行わない場合には(ステップS310:N)、補正部15が補正した軌道予測値に基づきアンテナ3を駆動する(ステップS210)。駆動部15は、所定のタイミングで上述の処理を繰り返す。
【0108】
なお実施の形態3に係る追尾装置1は、実施の形態2が備える追尾部16をさらに備え、追尾オフセット時間に基づく軌道予測値の補正を行うよう構成してもよい。自動追尾の方法は、上述の和信号Sおよび差信号Dを用いる方法に限られない。
【0109】
以上説明したとおり、自動追尾によるアンテナ駆動を行う場合においても、本実施の形態3に係る追尾装置1を設けることで、衛星追尾の精度を向上させることが可能となる。
【0110】
(具体例)
実施の形態1、2に係る追尾装置1を用いて、衛星追尾のシミュレーションを行った。軌道予測値の時刻の誤差を約−18秒とし、軌道長半径の誤差を−1800mとし、衛星高度を約500kmとし、衛星パスの最大仰角を88.3度とした。またアンテナ3のビーム幅を0.2度とし、軌道予測値の各データの時間間隔を1ミリ秒とした。
【0111】
オフセット時間算出部11が行う衛星信号の信号レベルの検出において、検出間隔を1ミリ秒とし、ガウスノイズを0.18dBrms(root mean square:二乗平均平方根)とし、第1の閾値を−80dBmとし、第2の閾値を信号レベルの最大値から3dBm低下した値とし、軌道予測値の計算を開始したエポック時刻から91402秒経過した時点の前後30秒間、アンテナ3の仰角を0度として衛星信号の信号レベルを検出した。dBrmsは、上記の値が実効値であることを意味する。以下の説明において物理量を示す単位の後に付けられたrmsは、その物理量が実効値であることを意味する。
【0112】
図15は、検出した衛星信号の信号レベルの変化の一例を示す図である。
図15(a)は、検出した衛星信号の信号レベルを表し、
図15(b)は、最小二乗法を用いて算出した最も当てはまりのよい二次曲線を表している。横軸は上記のエポック時刻から91402秒経過した時点との差分時間(単位:秒)であり、縦軸は信号レベル(単位:dBm)である。
図15(b)に示す二次曲線の上記(1)式中のb1=−41.6913であり、b2=−1.1437であるから、オフセット時間ΔTx=−18.2258秒である。したがって、オフセット時間算出部11の処理により、オフセット時間を一定の精度で算出できることがわかる。
【0113】
図16は、オフセット時間および軌道長半径の変化量の時間変化の一例を示す図である。横軸は、オフセット時間算出部11における衛星信号の信号レベル検出の開始からの経過時間(単位:秒)である。第1の縦軸は上記差分時間(単位:秒)であり、第2の縦軸は軌道長半径の変化量(単位:m)である。上記差分時間が実線で示すグラフであり、軌道長半径の変化量が点線で示すグラフである。
【0114】
次に追尾オフセット時間の算出についてシミュレーションを行った。第1の追尾時間および第2の追尾時間の絶対値を、アンテナ3のビーム幅を20で除算し、アンテナ3の駆動座標系における衛星の進行方向の角速度で除算した値とし、積分刻み時間を1秒とし、追尾オフセット時間の算出を連続して繰り返し行った。
【0115】
図17は、アンテナビームの方向の誤差の一例を示す図である。横軸は追尾オフセット時間の算出を開始してからの時間(単位:秒)であり、縦軸はビーム方向の角度誤差(単位:度)である。衛星信号の信号レベルの低下は0.176dBrmsであり、ノイズを含んだ状態での信号レベルの低下は最大で0.997dBであった。ビーム方向の角度誤差は0.007927度rmsであり、ビーム方向の角度誤差は最大で0.0205度であった。
【0116】
図18は、オフセット時間と追尾オフセット時間との合計値および軌道長半径の変化量の時間変化の一例を示す図である。横軸は追尾オフセット時間の算出を開始してからの時間(単位:秒)であり、第1の縦軸はオフセット時間と追尾オフセット時間との合計値(単位:秒)であり、第2の縦軸は軌道長半径の変化量(単位:m)である。オフセット時間と追尾オフセット時間との合計値が実線で示したグラフであり、軌道長半径の変化量が点線で示したグラフである。
【0117】
上述のように衛星捕捉後の軌道予測値の誤差により、信号レベルが低下する。時々刻々と変化する追尾オフセット時間に基づき、アンテナ3の制御を行うことで、衛星追尾の精度を向上させることが可能となる。
【0118】
図19は、本発明の実施の形態に係る追尾装置の物理的な構成例を示すブロック図である。追尾装置1は、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、入出力部34を備える。主記憶部32、外部記憶部33、および入出力部34はいずれも内部バス30を介して制御部31に接続されている。
【0119】
制御部31はCPU(Central Processing Unit)などから構成され、外部記憶部33に記憶されている制御プログラム35に従って、追尾装置1が行う目標物の追尾のための処理を実行する。主記憶部32はRAM(Random-Access Memory)などから構成され、外部記憶部33に記憶されている制御プログラム35をロードし、制御部31の作業領域として用いられる。
【0120】
外部記憶部33は、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD−RAM(Digital Versatile Disc Random-Access Memory)、DVD−RW(Digital Versatile Disc ReWritable)などの不揮発性メモリから構成され、上述の処理を制御部31に行わせるための制御プログラム35を予め記憶し、また、制御部31の指示に従って、この制御プログラム35が記憶するデータを制御部31に供給し、制御部31から供給されたデータを記憶する。
【0121】
入出力部34は、シリアルインタフェースまたはパラレルインタフェースから構成されている。入出力部34には、外部機器が接続されており、例えば追尾装置1が備える取得部12は、外部機器から軌道予測値を取得する。また例えば選択部13は、入出力部34を介して接続された入力装置等からの入力を受け付けて、軌道補正モデルを選択するよう構成してもよい。
【0122】
図1、
図6、および
図12に示す追尾装置1の各部の処理は、制御プログラム35が、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、および入出力部34などを資源として用いて処理することによって実行する。
【0123】
その他、前記のハードウェア構成やフローチャートは一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0124】
制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、内部バス30などから構成される制御処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。たとえば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROMなど)に格納して配布し、前記コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行する追尾装置1を構成してもよい。また、インターネットなどの通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に前記コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロードなどすることで追尾装置1を構成してもよい。
【0125】
また、追尾装置1の機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0126】
また、搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS:Bulletin Board System)に前記コンピュータプログラムを掲示し、ネットワークを介して前記コンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できるように構成してもよい。