(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
隣接する前記第2領域の間に配置される前記第1領域の幅は、前記周縁部側の端部において5〜20mmであり、前記起点側の端部において1〜8mmである、請求項1または2に記載のゴルフクラブヘッド。
クラウン部を有するゴルフクラブヘッドの鋳型を準備するステップであって、前記クラウン部は、第1の肉厚を有する第1領域と、前記第1の肉厚よりも小さい第2の肉厚を有する複数の第2領域とを有し、前記複数の第2領域は、平面視でトウ−ヒール方向において前記ゴルフクラブヘッドの重心を中心にそれぞれ15mm以内の範囲で且つフェース−バック方向における前記フェース側付近を起点として、当該起点から、前記フェース側を除く前記クラウン部の周縁部に向かって放射状に分布しており、隣接する前記第2領域の間に配置される前記第1領域は、前記起点側から前記周縁部側にいくにしたがって幅が大きくなるように構成されており、前記クラウン部の前記周縁部は、前記第1領域により構成され、前記各第2領域における前記周縁部側の端縁は、前記第1領域により構成された前記周縁部に接している、前記ゴルフクラブヘッドの鋳型を準備するステップと、
前記鋳型に設けられた少なくとも1つの湯口から溶融金属を注入するステップであって、前記湯口は、前記クラウン部の前記周縁部において、前記第1領域と対応する位置に設けられている、ステップと、
を備えている、ゴルフクラブヘッドの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るゴルフクラブヘッドの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態に係るゴルフクラブヘッドの基準状態の斜視図、
図2は
図1の平面図である。なお、ゴルフクラブヘッドの基準状態については、後述する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係るゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある)は、中空構造であり、フェース部1、クラウン部2、ソール部3、サイド部4、及びホーゼル部5によって壁面が形成されている。
【0016】
フェース部1は、ボールを打球する面であるフェース面を有しており、クラウン部2はフェース部1と隣接し、ヘッドの上面を構成する。ソール部3は、ヘッドの底面を構成し、フェース部1及びサイド部4と隣接する。また、サイド部4は、クラウン部2とソール部3との間の部位であり、フェース部1のトウ側からヘッドのバック側を通りフェース部1のヒール側へと延びる部位である。さらに、ホーゼル部5は、クラウン部2のヒール側に隣接して設けられる部位であり、ゴルフクラブのシャフト(図示省略)が挿入される挿入孔51を有している。そして、この挿入孔51の中心軸線Zは、シャフトの軸線に一致している。ここで説明するヘッドは、ドライバー(#1)又はフェアウェイウッドといったウッド型であるが、そのタイプは限定されず、いわゆるユーティリティ型及びハイブリッド型等であってもよい。
【0017】
ここで、上述した基準状態について説明する。まず、
図1及び
図2に示すように、上記中心軸線Zが水平面H(
図5参照)に対して垂直な平面P1に含まれ、且つ所定のライ角及びリアルロフト角で水平面H上にヘッドが載置された状態を基準状態と規定する。そして、上記平面P1を基準垂直面P1と称する。また、
図2に示すように、上記基準垂直面P1と上記水平面Hとの交線の方向をトウ−ヒール方向と称し、このトウ−ヒール方向に対して垂直であり且つ上記水平面Hに対して平行な方向をフェース−バック方向と称することとする。
【0018】
本実施形態において、クラウン部2とサイド部4との境界は次のように定義することができる。すなわち、クラウン部2とサイド部4との間に稜線が形成されている場合には、これが境界となる。これに対して、明確な稜線が形成されていない場合には、ヘッドを基準状態に設置し、これをヘッドの重心の真上から見たときの輪郭が境界となる。また、クラウン部2とフェース部1との境界についても、同様であり、稜線が形成されている場合には、これが境界となる。一方、明確な稜線が形成されていない場合には、
図3(a)に示されるように、ヘッド重心GとスイートスポットSSとを結ぶ直線Nを含む各断面E1、E2、E3…において、
図3(b)に示されるように、フェース外面輪郭線Lfの曲率半径rがスイートスポット側からフェース外側に向かって初めて200mm となる位置Peがフェース部1の周縁(境界)として定義される。なお、スイートスポットSSとは、ヘッド重心Gを通るフェース面の法線(直線N)とこのフェース面との交点である。
【0019】
このゴルフクラブヘッドの体積は、例えば、300cm
3以上であることが好ましく、400cm
3以上であることがさらに好ましく、420cm
3以上であることが特に好ましい。このような体積を有するヘッドは、構えた際の安心感が増し、かつ、スイートエリア及び慣性モーメントを増大させるのに役立つ。なお、ヘッド体積の上限は特に定めないが、実用上、例えば500cm
3以下が望ましく、またR&AやUSGAのルール規制に従う場合には470cm
3以下が望ましい。
【0020】
また、ヘッドは、例えば、比重がほぼ4.4〜4.5程度のチタン合金(Ti−6Al−4V)で形成することができる。また、チタン合金以外にも、例えばステンレス鋼、マレージング鋼、アルミ合金、マグネシウム合金、またはアモルファス合金などの中から1種または2種以上を用いて形成することもできる。
【0021】
なお、本実施形態に係るヘッドは、少なくともクラウン部2を有するヘッド本体と、他の部分を組み合わせることで構成される。例えば、フェース部1のみを別部材で構成してヘッド本体に取り付けることでヘッドを構成したり、あるいはソール部3やサイド部4に開口を設けたヘッド本体を形成し、この開口を別部材で塞ぐことでヘッドを構成することもできる。
【0022】
続いて、
図4及び
図5も参照しつつ、クラウン部2について説明する。
図4は、ゴルフクラブヘッドの平面図であるが、特に、クラウン部2において肉厚の相違する領域(後述する第2領域)を破線にて明示している。また、
図5は
図4のA−A線断面図である。
図4及び
図5に示すように、クラウン部2は、肉厚の大きい第1領域21と、肉厚の小さい複数(本実施形態では4つ)の第2領域22とで構成されている。各第2領域22は、
図5に示すように、クラウン部2の内壁面に凹部を形成することで肉厚を小さくしている。複数の第2領域22は、平面視でトウ−ヒール方向においてゴルフクラブヘッドの重心Gを中心にそれぞれ15mm以内の範囲で且つフェース−バック方向におけるフェース側付近を起点Sとして、この起点Sから、フェース側を除くクラウン部2の周縁部23側に向かって放射状に分布している。
【0023】
なお、起点Sが配置される位置については、
図2に示すとおりであり、トゥ−ヒール方向については、上記の通り、ヘッドの重心Gからトゥ側に15mm、ヒール側に15mmの計30mmの範囲内である。一方、フェース−バック方向については、フェース部1とクラウン部2の境界からバック側へ、クラウン部2のフェース−バック方向の長さHの25%以内の範囲内に、起点Sがあればよい。フェース−バック方向の長さHとは、
図2に記載の通りであり、基準状態における平面視において、クラウン部2とフェース部1との境界のうち、最もフェース側に位置する点と、クラウン部2において最もバック側に位置する点との距離Hである。したがって、起点Sは、
図2の斜線の領域内に配置されることとなる。さらに、「放射状」とは、複数の第2領域22が、所定の角度をなして、上記起点Sから、クラウン部2の周縁部側に向かって延びるような態様であればよく、少なくとも複数の第2領域22が平行に並んでいなければよい。なお、ここでいう「フェース側を除くクラウン部2の周縁部23」とは、クラウン部2の周縁部のうち、フェース部1と接している部分を除いた部分であることを意味する。また、起点Sは1つである必要はなく、上述した領域内に複数あってもよい。すなわち、第2領域22のうちのいくつかが異なる起点から放射状に延びるような態様であってもよい。
【0024】
上記のようにクラウン部2に肉厚の小さい第2領域22を設けると、第1領域21に比べて小さくなった肉厚の重量は、例えば、サイド部4に配分することができる。これにより、ヘッドの慣性モーメントを増大することができる。この点について、
図6を参照しつつ説明する。
図6はヘッドをソール部側から見た図である。上述した第2領域22によって減少したクラウン部2の重量は、サイド部4のバック側において、
図6の斜線部に示す領域に分配される。例えば、この領域は、クラウン部2との境界線から下方(ソール部側)に15mm以内の当該境界線に沿う範囲であり、またヘッドの重心を通りフェース−バック方向に延びるラインFより25mmトゥ側からヒール側の範囲とすることができる。但し、これ以外の領域、例えばソール部3などにも重量を分配することもできる。
【0025】
各領域21,22の肉厚は、次のように規定することができる。すなわち、強度、剛性を考慮すると、使用する材料によっても相違するが、例えば、ヘッド本体をチタン合金により形成する場合には、第1領域21の肉厚D1(第1の肉厚)を0.5〜0.8mm、第2領域22の肉厚D2(第2の肉厚)を0.2〜0.6mmとすることができる。また、ヘッド本体をステンレス鋼またはマレージング鋼により形成する場合には、第1領域21の肉厚D1を0.8〜1.5mm、第2領域22の肉厚D2を0.5〜1.3mmとすることができる。
【0026】
図4に示すヘッドの平面視において、すべての第2領域22の投影面積S1が、クラウン部の投影面積とホーゼル部の投影面積との合計である面積S2に占める割合R(=S1/S2)が、25〜50%であるのが好ましい。この割合Rが25%より小さくなると、慣性モーメントの増大効果が得られ難い。そのため、割合Rは、28%以上がより好ましく、30%以上が特に好ましい。一方、割合Rが50%より大きくなると、鋳造性が低下してしまう。そのため、割合Rは、45%以下がより好ましく、40%以下が特に好ましい。例えば、ドライバーの場合、上記面積S2は、80〜110cm
2程度となる。
【0027】
また、
図4に示すように、各第2領域22は、起点S側から周縁部23側にいくにしたがって幅が大きくなるように形成されており、例えば、本実施形態では概ね扇形に形成されている。これと同様に、隣接する第2領域22の間に配置される第1領域21は、起点S側から周縁部23側にいくにしたがって幅Wが大きくなるように構成されており、概ね扇形となっている。このように隣接する第2領域22の間に配置される第1領域21は、周縁部23側の端部の幅Waを5〜20mmとすることができる。また、第1領域21の起点S側の端部の幅Wbは、1〜8mmであることが好ましく、1.5〜6mmであることがさらに好ましく、2〜5mmであることが特に好ましい。特に、周縁部23側の端部の幅Waが5mmより小さいと慣性モーメントの増大効果が小さくなるおそれがあり、また、後述する鋳造時において溶融金属の流れが悪くなるおそれがある。そのため、周縁部23側の端部の幅Waは、7mm以上とすることがさらに好ましく、9mm以上とすることが特に好ましい。一方、周縁部23側の端部の幅Waが、20mmより大きいと、クラウン部2の軽量化が損なわれ、例えば、クラウン部2からサイド部4に分配するための重量を確保できないため慣性モーメントの増大効果が制限されるおそれがある。したがって、周縁部23側の端部の幅Waは、16mm以下であることがさらに好ましく、12mm以下であることが特に好ましい。なお、ここでいう慣性モーメントとは、ヘッドの重心を通る鉛直軸周り(左右)の慣性モーメントである。また、第1領域及21及び第2領域22の幅Wは、基本的に、起点Sから周縁部23側へ延びる方向(
図4の線L)と垂直な方向において計測された値とするが、起点S側または周縁部23側の端部においては、隣接する領域間の距離とする(例えば、
図4のWa,Wb)。
【0028】
また、クラウン部2における周縁部23は、第1領域21により構成されている。したがって、各第2領域22における周縁部23側の端縁は、サイド部4と直接的に接しているのではなく、サイド部4との間には、肉厚の大きい第1領域21が介在している。この第1領域21の幅Xは、例えば、1〜30mmとすることができる。この幅Xが1mm以下であれば慣性モーメントの増大効果が小さくなるおそれがある。したがって、この幅Xは、3mm以上であることがさらに好ましく、5mm以上であることが特に好ましい。一方、この幅Xが30mmより広いと、クラウン部2の軽量化が損なわれるおそれがある。したがって、幅Xは、20mm以下であることがさらに好ましく、10mm以下であることが特に好ましい。
【0029】
ところで、第1領域21と第2領域22との境界は、肉厚の差により、
図5に示すように、ヘッドの内壁面においては段差が形成されている。これに対して、第1領域21と第2領域22と間に、肉厚が変化する移行部24を設けることもできる。この点について、
図7を参照しつつ説明する。
図7は、移行部を有するゴルフクラブヘッドの平面図(a)及びそのB−B線断面図(b)である。同図に示すように、第1領域21と第2領域22との間に設けられた移行部24は、断面において、内壁面が傾斜している領域であり、面方向に、第1領域21から第2領域22へいくにしたがって、肉厚が徐々に小さくなる領域である。このような領域を設けると、ボール打撃時において振動しやすい第2領域22が移行部24によって補強されるため、打球音の残響が長くなるのを防止することができる。この観点から、移行部24の幅は、例えば、0.5〜10mmとすることができる。ここで、移行部24の幅を調整する場合には、第2領域22の面積を調整する。例えば、移行部24の幅を大きくする場合には、第1領域21の面積を変更することなく、第2領域22の面積を小さくする。そして、移行部24の幅が0.5mmより小さくなると、打球音の残響が長くなり過ぎるおそれがある。この観点から、移行部24の幅は、2.0mm以上とすることがさらに好ましい。一方、移行部24の幅が10mmよりも大きくなると、打球音の残響が短くなりすぎるとともに、肉厚の小さい領域が減少するため、慣性モーメントを十分に大きくすることができない。この観点から、移行部24の幅は、6.0mm以下であることがさらに好ましく、3.0mm以下であることが特に好ましい。
【0030】
次に、上記のように構成されたゴルフクラブヘッドの製造方法の一例について説明する。本実施形態に係るゴルフクラブヘッドは、中空構造であるため、2以上の部材を接合することにより製造される。すなわち、内部空間に通じる1または2以上の開口が形成されたヘッド本体と、開口を塞ぐ別部材とを接合することで製造される。上記のようにヘッド本体には、少なくともクラウン部2が含まれ、例えば、公知のロストワックス精密鋳造法などの鋳造によって製造される。この点について
図8を参照しつつ説明する。
図8はヘッド本体の鋳型のキャビティの透過図である。なお、この図では、説明の便宜のため、
図1〜
図7に示したゴルフクラブヘッドと対応する箇所には同一の符号を付して説明する。
【0031】
図8に示すように、この鋳型には、3箇所に湯口、つまり第1〜第3湯口101〜103が設けられている。これらの湯口のうち、第1及び第2湯口101、102は、クラウン部2の周縁部23と対向する位置に設けられ、クラウン部2に対して周縁部23から溶融金属を流し込むようになっている。第1湯口101は、最もトゥ側に配置された第2領域22aと、これに隣接するトゥ側の第1領域21aとの境界を覆うように配置されている。第2湯口102は、最もトゥ側に配置された第2領域22aとトゥ側から2番目に配置された第2領域22bとの間の第1領域21bを覆うように設けられている。また、第3湯口103は、サイド部4においてホーゼル部5の近傍に設けられている。
【0032】
上記のような鋳型に対して、上述した金属材料からなる溶融金属を、第1〜第3湯口101〜103を介して注入すると、溶融金属は、次のようにクラウン部2に流れ込む。まず、第1及び第2湯口101,102は、クラウン部2の周縁部23、つまり肉厚の大きい第1領域と対向しているため、溶融金属は流れ込みやすくなっている。第1及び第2湯口101、102から流れ込んだ溶融金属は、周縁部23に沿ってホーゼル部5側へ流れつつ、トゥ側の第1領域21、及び第2領域22の間に配置された第1領域21に流れ込み、起点S側に向かう。第1領域21は起点S側にいくにしたがって幅が狭くなっているため、溶融金属に作用する圧力が大きくなっていく。そのため、第1領域21では、この圧力を開放するため、溶融金属は、隣接する第2領域22へ流れ込む。すなわち、この溶融金属は、第1領域21の起点S側からクラウン部2の周縁部23側へ向かって次第に、第1領域21から隣接する第2領域22へ押し出される。また、第3湯口103から注入された溶融金属も同様に、周縁部23を伝ってトゥ側に流れつつ、フェース側に向かって第1領域21に流れ込む。そして、圧力の向上に伴って、第1領域21のフェース側から第2領域22に流れ込んでいく。こうして、肉厚の小さい第2領域22にも溶融金属を十分に行き渡らせることができる。
【0033】
以上の実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
【0034】
(1) クラウン部2において、隣接する薄肉の第2領域22の間には、肉厚の大きい第1領域21が配置されているため、薄肉化による機械強度の低下を抑制することができる。また、第2領域22の数や位置を調節することで、衝撃が大きいクラウン部2の中央部分に、肉厚の大きい第1領域21を配置することができ、ヘッドの強度を確保できるという利点もある。さらに、第1領域21は、フェース側を起点としてバック側に向かって放射状に分布しているため、打球による衝撃力をクラウン部2の周縁部23に向かって放射状に逃がすことができるため、これによっても機械強度の低下を抑制することができる。
【0035】
(2) 隣接する第2領域22の間に配置される第1領域21は、起点S側から周縁部23側にいくにしたがって幅が大きくなるように構成されているため、軽量化されたクラウン部2の重量配分を周縁部23側に近づくにつれて大きくすることができる。これにより、ヘッドの重心を通る鉛直軸周りの慣性モーメントを大きくすることができるため、打球の方向性を向上することができる。
【0036】
(3) クラウン部2に肉厚の小さい複数の第2領域22を設けているため、クラウン部2を軽量化することができる。そして、軽量化のために小さくした肉厚に係る重量は、上述したように、ヘッドの他の部分に配分することができる。これにより、ヘッドの設計の自由度を向上することができる。例えば、クラブヘッドのソール部3に上述した重量を配分すると、低重心化を図ることができ、その結果、打ち出し角度を高くすることができる。あるいは、サイド部4に重量を分配すると、ヘッドの重心を通る鉛直軸周りの慣性モーメントを大きくすることができるため、これによって、打球の方向性を向上することができる。
【0037】
(4) 上記クラウン部を含むヘッド本体を鋳造によって製造するとき、クラウン部2の周縁部23は肉厚の大きい第1領域21で構成されているため、この部分から溶融金属を流し込みやすくなる。そして、周縁部23に流れ込んだ溶融金属は、クラウン部2の周囲を流れつつ、起点S側に向かって肉厚の大きい第1領域21に流れ込む。第1領域21に流れた溶融金属には、フェース側にいくにしたがって作用する圧力が大きくなるため、この圧力を開放するため、溶融金属は、隣接する第2領域22へ流れ込む。したがって、肉厚の小さい第2領域22にも溶融金属を十分に行き渡らせることができるため、成形不良を防止することができる。
【0038】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。
【0039】
上記実施形態では、第2領域22を扇形に形成しているが、厳密な扇形でなくてもよく、起点S側から周縁部23側に向かって幅が広くなっていればよい。例えば、扇形の半径部分が直線ではなく曲線で構成されて第2領域22が全体として湾曲するような形状であってもよい。これにより、例えば、隣接する第2領域22の間に配置される第1領域21も、起点S側から周縁部23側に向かって湾曲して延びるような形状になってもよい。また、第2領域22のフェース側の端部の形状も鋭利な形状でなくてもよく、円弧状などに形成することもできる。また、必ずしも第2領域22の幅を変化させなくてもよく、少なくとも隣接する第2領域22の間の第1領域21の幅Wが周縁部23側で大きくなっていれば、第2領域22は、一定の幅で起点S側から周縁部23側に向かって延びていてもよい。また、第2領域22の数は、特には限定されない。
【0040】
上記実施形態では、鋳型に3つの湯口を設けているが、これに限定されるものではない。すなわち、湯口のうちの少なくとも1つを、クラウン部2の周縁部23と対向する位置に設け、クラウン部2の周縁部23から溶融金属を流し込めるようになっていればよい。
【0041】
上記実施形態に係るヘッドは、少なくともクラウン部2を有するヘッド本体と、他の部分を組み合わせることで構成されていたが、クラウン部2のみを別体で形成するヘッドに対しても適用することができる。例えば、フェース部、サイド部、及びソール部を備え、クラウン部用の開口が形成されたヘッド本体に対し、クラウン部を開口に嵌め込んでヘッドを構成する場合、このクラウン部に上述したような第1及び第2領域を形成することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0043】
ここでは、種々の形態のクラウン部を有する8種類の実施例と、5種類の比較例に係るゴルフクラブヘッドを作製した。これらゴルフクラブヘッドは、フェース部を別部材で構成し、これをヘッド本体に接合することで製造した。フェース部は圧延材である「Supper TI−X51AF」(神戸製鋼所社製)をプレス加工することで形成した。そして、ヘッド本体は、チタン合金(Ti−8Al−2V)からなる溶融金属を用い、ロストワックス精密鋳造法により成形した。実施例1〜8、比較例1〜5は、以下の表1に示すような形態で作製されている。なお、これら実施例及び比較例においては、すべてヘッド重量を195g,ヘッド体積を460ccとしている。したがって、クラウン部に肉厚の小さい第2領域を設けている場合、肉厚を薄くした分の重量は、
図6に示したようにサイド部に配分することでヘッド全体の重量を同じにしている。
【表1】
【0044】
実施例1〜8、比較例1〜5の特徴は、以下の通りである。以下の説明で用いられる図面では、第2領域を破線で囲んで示している。また、移行部は省略することがある。
(1) 実施例1
実施例1のクラウン部は、
図7に示すように、4つの扇形の第2領域を有している。また、第1領域と第2領域の間には移行部が形成されている。
(2) 実施例2
実施例2のクラウン部は、
図9に示すように、第2領域の間に配置された第1領域の幅が実施例1より狭くなっており、それ以外は実施例1と同じである。
(3) 実施例3
実施例3のクラウン部は、
図10に示すように、第2領域の間に配置された第1領域の幅が実施例1より広くなっており、それ以外は実施例1と同じである。
(4) 実施例4
実施例4のクラウン部は、移行部の幅が実施例1より狭く、それ以外は実施例1と同じである。
(5) 実施例5
実施例5のクラウン部は、移行部の幅が実施例1より広く、それ以外は実施例1と同じである。
(6) 実施例6
実施例6のクラウン部は、移行部の幅が実施例5より広く、それ以外は実施例5と同じである。
(7) 実施例7
実施例7のクラウン部は、移行部が設けられておらず、それ以外は実施例1と同じである。
(8) 実施例8
実施例8のクラウン部は、移行部の幅が実施例6より広く、それ以外は実施例6と同じである。
(9) 比較例1
比較例1のクラウン部は、
図11に示すように、放射状に分布され、扇形に形成された複数の第2領域が設けられているが、隣接する第2領域の間に配置されている第1領域の幅が起点から周縁部に向かってに沿って一定である。より詳細には、実施例1と第2領域の面積は同じであるが、第1領域の幅を一定としている。
(10) 比較例2
比較例2のクラウン部は、
図12に示すように、肉厚の薄い複数の第2領域を有しているが、これらの領域は、いずれも矩形状に形成され、トゥ側からヒール側に平行に並び、フェース部側からバック部側に向かって延びている。したがって、第2領域の間にある第1領域も矩形状に形成され、幅が一定のままフェース部側からバック部側に延びている。
(11) 比較例3
比較例3のクラウン部は、周縁部を有さないこと以外、実施例1と同じである。すなわち、
図13に示すように、比較例3の第2領域は、第1領域を介することなく、直接サイド部との境界に接している。
(13) 比較例4
比較例4のクラウン部は、第2領域が設けられず、肉厚が一定であること以外、実施例1と同じである。クラウン部の肉厚は実施例1の第2領域と同じである。
(14) 比較例5
比較例5のクラウン部は、第2領域が設けられず、肉厚が一定であること以外、実施例1と同じである。クラウン部の肉厚は実施例1の第1領域と同じである。
【0045】
以上の実施例及び比較例について、以下の点を評価した。
(a) 慣性モーメント
各ヘッドを基準状態に配置し、ヘッド重心を通る垂直軸回りの慣性モーメント(左右の慣性モーメント)を測定した。測定には、INERTIA DYNAMICS Inc 社製のMOMENT OF INERTIA MEASURING INSTRUMENTの MODEL NO.005-002を用いた。数値が大きいほどミスショット時のヘッドのブレが小さく良好であることを示す。
に示す。
【0046】
(b) 打球音の残響長さ
10名のテスターが試打を行い、打球音の残響長さを官能評価した。テスターは、ヘッドスピードが40m/s相当のアベレージゴルファー(ハンディキャップ15〜25)である。上記各実施例及び比較例に係るヘッドに、FRP製の同一のシャフト(ダンロップスポーツ社製のMP700、フレックスR)を装着して45.5インチのウッド型ゴルフクラブを作製し、これを用いて2ピースゴルフボール(ダンロップスポーツ社製DDH TOURSPECIAL)の試打を行った。評価は10段階で行い、評価6が最も適切な残響長さであるとし、残響長さが大きいほど、評価の数値を大きくするとした官能テストを行った。
【0047】
(c) 鋳造性
成形されたヘッド本体を目視で確認し、一部でも溶融金属が十分に行き渡っていない箇所がある場合には、不良品とした。そして、ヘッド本体を200個作製し、不良率が0〜2%であればA,2〜6%であればB,6〜10%であればC,10〜20%であればD,20%以上であればEとした。
【0048】
(d) 耐久性評価
打撃ロボット(株式会社ミヤマエ社製ショットロボ3DX)により評価を行った。ヘッドスピード50m/sによりフェースのセンターで2ピースゴルフボール(ダンロップスポーツ社製DDH TOURSPECIAL)を打球し、ヘッド本体に割れが生じるまでの試打数が10000以上であればA,8000〜10000であればB,6000〜8000であればC,4000〜6000であればD,4000未満であればEとした。
【0049】
結果は、以下の通りである。
【表2】
【0050】
以下、実施例及び比較例について考察する。まず、第2領域の面積が同じである実施例1と比較例1、2とを対比すると、実施例1は比較例1、2に比べ慣性モーメントが大きくなっている。これは、実施例1では肉厚の大きい第1領域が起点から周縁部に向かって放射状に延び、且つ第1領域の幅も起点から周縁部に向かって大きくなっていることによると考えられる。また、実施例1は、この構成により、比較例1、2に比べて耐久性も良好である。つまり、これは、クラウン部において、フェース上の打点に近い位置に第1領域の端部を密集させることができ、且つクラウン部の周縁部で第1領域の幅を大きくできることによると考えられる。その他の実施例についても、同様の理由、あるいは厚肉の周縁部を有していることから、比較例1から4と比べて耐久性は良好である。なお、比較例5は、耐久性は良好であるものの、クラウン部が大きい肉厚のみで形成されており、実施例のようにクラウン部を薄肉化した分の重量がサイド部に配分されていないため、いずれの実施例よりも慣性モーメントが小さくなっている。さらに、実施例1〜6は、移行部の幅が適切であるため、打球音の残響長さの評価が6に比較的近くなっている。
【0051】
また、鋳造性に関し、比較例1,2では、第2領域の間に配置された第1領域の幅が一定であるため、この領域を流れる溶融金属に圧力が作用しがたく、溶融金属が第2領域に流れにくくなっている。そのため、成形不良が多いと考えられる。比較例3では、クラウン部の周縁部に、肉厚の大きい第1領域が形成されていないため、溶融金属がクラウン部へ流れにくく、これにより成形不良が多いと考えられる。比較例4は、クラウン部の肉厚が小さいため、溶融金属がクラウン部へ流れにくく、さらに、耐久性も低かった。