特許第6037879号(P6037879)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6037879ガスバリアコーティングを有するプラスチックボトル用プリフォーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037879
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】ガスバリアコーティングを有するプラスチックボトル用プリフォーム
(51)【国際特許分類】
   B29C 49/22 20060101AFI20161128BHJP
   B29C 49/06 20060101ALI20161128BHJP
   B29C 49/42 20060101ALI20161128BHJP
   B29C 49/68 20060101ALI20161128BHJP
   B29B 11/14 20060101ALI20161128BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20161128BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20161128BHJP
   B65D 1/02 20060101ALI20161128BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
   B29C49/22
   B29C49/06
   B29C49/42
   B29C49/68
   B29B11/14
   B05D7/24 302M
   B65D1/00 C
   B65D1/02 Z
   B29L9:00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-26117(P2013-26117)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-151632(P2014-151632A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉森 友彦
(72)【発明者】
【氏名】山根 亮
(72)【発明者】
【氏名】泊 一朗
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−061463(JP,A)
【文献】 特開2002−263562(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02431409(EP,A1)
【文献】 特開2012−250771(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0306126(US,A1)
【文献】 国際公開第03/037969(WO,A1)
【文献】 特開2010−104987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C49/00−49/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなり、ガスバリアコーティングを有する、ブロー成形によりプラスチックボトルに成形されるプリフォームであって、該円筒状胴部の外表面上に、ポリビニルアルコール(PVA)コーティングを、該PVAコーティング上にさらにポリビニルブチラール(PVB)コーティングを有し、ここで、該PVBコーティングは、該PVAコーティングが露出しないように該PVAコーティング上に被覆され、かつ、該円筒状胴部内に専ら存在することを特徴とする前記プリフォーム。
【請求項2】
以下の工程:
(a)プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプリフォームを用意し;
(b)該筒状胴部を水平に回転させながら、該円筒状胴部にポリビニルアルコール(PVA)の水溶液をコーティングし;
(c)これを乾燥させて、該円筒状胴部にPVAコーティングを形成し;そして
(d)該筒状胴部を水平に回転させながら、該PVAコーティングが露出しないように、該PVAコーティング上にポリビニルブチラール(PVB)のエタノール溶液をコーティングし;
(e)これを乾燥させて、該円筒状胴部にPVBコーティングを形成する;あるいは、上記(d)及び(e)工程に代えて、以下の工程(d’)及び(e’):
(d’)該PVAコーティングが露出しないように、該PVAコーティング上にポリビニルブチラール(PVB)のエタノール溶液をコーティングし;
(e’)これを乾燥させて、該円筒状胴部及び該底部にPVBコーティングを形成する;
を含む、ガスバリアコーティングを有する、ブロー成形によりプラスチックボトルに成形されるプリフォームの製造方法。
【請求項3】
工程(b)に先立って、前記プリフォームの円筒状胴部表面をプラズマ、コロナ又は電子線処理する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)における乾燥は、ヒーター及び/又は送風(常温又は熱風)により実施される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなり、ガスバリアコーティングを有するプラスチックボトルであって、該円筒状胴部の外表面上に、ポリビニルアルコール(PVA)コーティングを、該PVAコーティング上にさらにポリビニルブチラール(PVB)コーティングを有し、ここで、該PVBコーティングは、該PVAコーティングが露出しないように該PVAコーティング上に被覆され、かつ、該円筒状胴部内に専ら存在することを特徴とする前記プラスチックボトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引掻耐性、防湿性、酸素や二酸化炭素に対するバリア性のコーティングを有するプラスチックボトル用のプリフォーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日。飲料や食品(以下、飲料等という。)用のポリエチレンレテレフタレート製のプラスチック容器(以下、PETボトルともいう。)は広く使用されており、該PETホトルは、プリフォームの形態でボトラーに供給され、ブロー成形により製造されている。
【0003】
かかるPETボトルの表面にバリアコーティングを適用して、ガス、特に、酸素や二酸化炭素の容器内外への透過を減少させ、それによりボトル内部に充填された飲料等の保存寿命を改善することは公知である。
【0004】
例えば、以下の特許文献1には、PETボトル上のガスバリアとしてポリビニルアルコール(以下、PVAと略する。)を使用し、ポリビニルブチラール(以下、PVBと略する。)を含む追加的なトップコートを用いてバリアコーティングの耐水性を改善することが開示されている。かかる多層コーティングは、酸素及び二酸化炭素に対する良好なバリア性能、引掻耐性を示し、且つ、該バリアコーティングは水溶性であるために、該トップコートを機械的に破壊した後にリサイクル可能である。
【0005】
ソフトドリンクのために使用されるPETボトルは、一般に、いわゆるプリフォームから、射出延伸ブロー成形によって製造されている。一般に、かかるブロー法において、プリフォームは元の体積の10倍よりも大きく膨張される結果、プリフォームの表面上に層状化されたコーティングは著しく薄くなる。したがって、最終的に得られるバリアコーティングの機械的及び化学的安定性が重要となる。
【0006】
したがって、バリアコーティング適用前に、プリフォームの表面を化学的又は物理的に前処理することも重要であり、基材を、バリアコーティング前に、プラズマ、コロナ又は電子線、火炎、塩素、フッ素、化学エッチング等により前処理することも知られている。
【0007】
また、消費者及び製造業者は、PETボトルに充填された飲料等の貯蔵寿命を、PETボトルの厚さや組成を変えることなく、引き延ばしたいと要望している。
【0008】
かかる従来技術の状況下、以下の特許文献2には、PET及びポリプロピレン(以下、PPという。)容器の表面にPVB、PVA、及びPVBを順番にコーティングすることにより、ブロー成形に耐える機械的及び化学的に安定したバリアコーティングをプリフォーム表面上に形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO03/037969号
【特許文献2】特開2012−250771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、プリフォームへのPVA、PVBの塗布は、本願明細書に添付する図2(f)に示すように、プリフォームを垂直に配置して行う浸漬コーティングによるものであり、適用されるPVA溶液やPVB溶液の膜厚が、重力に因り、プリフォームの円筒状胴部の上部からプロフォーム底部にかけて次第に厚くなり、これらの溶液の乾燥時間が、該胴部よりも底部において長くなり、そのため、底部の溶液を十分に乾燥させると、胴部が過加熱となり、また、プリフォームが白化するという問題がある。
また、浸漬コーティングにより、プリフォーム底部にPVAが、該PVAの上にPVBが塗布されていると、PETボトルをコンベアで搬送する時の擦れに因り、PVBにクラックが発生した場合、販売時や消費者による使用時等に結露や水への浸漬によって該底部に存在するPVAが再溶解してしまうという問題がある。
【0011】
かかる状況下、バリアコーティング形成用溶液の膜厚が薄く均一であり、コーティング形成に要する乾燥時間が短く、プリフォームの過加熱の問題が発生せず、さらにクラックに因る底部PVAの再溶解という問題が発生しないプラスチックボトル用プリフォーム及びその製造方法を提供する必要性が未だある。
前記した従来技術の問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、ガスバリアコーティングの膜厚が薄く均一であるために膜形成における乾燥時間が短く、過加熱部位が発生せず、さらにクラックに因る底部PVAの再溶解という問題が発生しない、ガスバリアコーティングを有するプラスチックボトル用プリフォーム、及び該プリフォームの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、プリフォームの筒状胴部を水平に回転させながら、該筒状胴部にポリビニルアルコール(PVA)の水溶液をコーティングし、次いで、これを乾燥させて、PVAコーティングを形成し、次いで、PVAコーティングが露出しないように、PVAコーティング上にPVBのエタノール溶液をコーティングし、次いで、これを乾燥させて、PVBコーティングを形成することにより、前記した課題を解決しうることを見出し、本発明を完成されたものである。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなり、ガスバリアコーティングを有する、ブロー成形によりプラスチックボトルに成形されるプリフォームであって、該円筒状胴部の外表面上に、ポリビニルアルコール(PVA)コーティングを、該PVAコーティング上にさらにポリビニルブチラール(PVB)コーティングを有し、ここで、該PVBコーティングは、該PVAコーティングが露出しないように該PVAコーティング上に被覆され、かつ、該円筒状胴部内に専ら存在するか又は該円筒状胴部と該底部に存在することを特徴とする前記プリフォーム。
【0014】
[2]以下の工程:
(a)プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプリフォームを用意し;
(b)該筒状胴部を水平に回転させながら、該筒状胴部にポリビニルアルコール(PVA)の水溶液をコーティングし;
(c)これを乾燥させて、該円筒状胴部にPVAコーティングを形成し;そして
(d)該筒状胴部を水平に回転させながら、該PVAコーティングが露出しないように、該PVAコーティング上にポリビニルブチラール(PVB)のエタノール溶液をコーティングし;
(e)これを乾燥させて、該円筒状胴部にPVBコーティングを形成する;あるいは、上記(d)及び(e)工程に代えて、以下の工程(d’)及び(e’):
(d’)該PVAコーティングが露出しないように、該PVAコーティング上にポリビニルブチラール(PVB)のエタノール溶液をコーティングし;
(e’)これを乾燥させて、該円筒状胴部及び該底部にPVBコーティングを形成する;
を含む、ガスバリアコーティングを有する、ブロー成形によりプラスチックボトルに成形されるプリフォームの製造方法。
【0015】
[3]工程(b)に先立って、前記プリフォームの円筒状胴部表面をプラズマ、コロナ又は電子線処理する、前記[2]に記載の方法。
【0016】
[4]工程(c)における乾燥は、ヒーター及び/又は送風(常温又は熱風)により実施される、前記[2]又は[3]に記載の方法。
【0017】
[5]前記[2]〜[4]のいずれかに記載の方法により製造されたプリフォーム。
【0018】
[6]前記[1]又は[5]に記載のプリフォームをブロー成形して得られたプラスチックボトル。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、ガスバリアコーティングの膜厚が薄く均一であるために膜形成における乾燥時間が短く、過加熱部位が発生しガスバリアコーティングを有するプラスチックボトル用プリフォーム、及び該プリフォームの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、PETボトル用の典型的なプリフォーム1の概略図(a)と、ブロー成形後のPETボトル2の概略図(b)である。該プリフォームは、口部a、円筒状胴部b、及び底部cからなる。
図2図2は、プリフォームを垂直に配置してPVA等が、円筒状胴部aと底部bの全体に塗布された従来技術のバリアコーティングを有するプリフォーム((a)と(b))並びにその塗布方法((e)と(f))と、本発明における円筒状胴部のみに特定のバリアコーティングを有するプロフォーム((d)と(i))及びその塗布方法((g)と(h))とを、対比して説明する概略図である。
図3図3は、プリフォームのブロー成形を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書中、用語「プラスチックボトル」とは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、及びポリエチレン(PE)製のボトルを包含し、PETボトルに限定されない。
図1(a)に、PETボトル用プリフォームの一例を示す。本発明に係るプリフォームは、プラスチックボトル、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルのキャップと嵌合するねじ部を有する口部(a)と、円筒状胴部(b)と、該円筒状胴部を閉塞する底部(c)とからなり、ガスバリアコーティングを有する、ブロー成形によりPETボトルに成形されるプリフォームである。かかるプリフォームは、図3に示すようなブロー成形により、図1(b)に示すPETボトルに成形され、その内部に飲料等が充填され、その後、キャップが閉められ、流通、保管、消費される。
【0022】
ガスバリアコーティングは、最初の成形体(プリフォーム)上に適用され、その後、それをPETボトル(容器)へとブロー成形される。ブロー成形は、例えば、延伸ブロー成形であることができる。図3に、延伸ブロー法を説明する。段階(a)において、プリフォームがまず加熱され、その後、鋳型内に移される(b)。力による延伸及びプリブロー(段階(c))の後、ボトルは最終的に段階(d)においてブローされる。本発明に係るバリアコーティングを有するプリフォームは、該コーティングを損傷することなく延伸され得、最終的に膨張してバリアコーティングを有するPETボトルとなる(図1(b)参照)。
【0023】
本発明に係るプリフォームは、プラスチックボトルのキャップと嵌合するねじ部を有する口栓部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなり、ガスバリアコーティングを有する、ブロー成形によりプラスチックボトルに成形されるプリフォームであって、該円筒状胴部の外表面上に、ポリビニルアルコール(PVA)コーティングを、該PVAコーティング上にさらにポリビニルブチラール(PVB)コーティングを有し、ここで、該PVBコーティングは、該PVAコーティングが露出しないように該PVAコーティング上に被覆され、かつ、該円筒状胴部内に専ら存在するか又は該円筒状胴部と該底部に存在することを特徴とする前記プリフォームである。
【0024】
かかるプリフォームは、以下の工程:
(a)プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプリフォームを用意し;
(b)該筒状胴部を水平に回転させながら、該筒状胴部にポリビニルアルコール(PVA)の水溶液をコーティングし;
(c)これを乾燥させて、該円筒状胴部にPVAコーティングを形成し;そして
(d)該筒状胴部を水平に回転させながら、該PVAコーティングが露出しないように、該PVAコーティング上にポリビニルブチラール(PVB)のエタノール溶液をコーティングし;
(e)これを乾燥させて、該円筒状胴部にPVBコーティングを形成する;あるいは、上記(d)及び(e)工程に代えて、以下の工程(d’)及び(e’):
(d’)該PVAコーティングが露出しないように、該PVAコーティング上にポリビニルブチラール(PVB)のエタノール溶液をコーティングし;
(e’)これを乾燥させて、該円筒状胴部及び該底部にPVBコーティングを形成する;
を含む、ガスバリアコーティングを有する、ブロー成形によりプラスチックボトルに成形されるプリフォームの製造方法により製造され得る。
【0025】
本発明に係るプリフォームにおいては、PVAコーティングは円筒状胴部にのみ専ら存在することを特徴とする。また、PVBコーティングは、少なくとも円筒状胴部に、該PVAコーティングが露出しないように、存在する必要があるが、底部に存在してもよい。内部に充填された飲料等の保存寿命を改善するために、PETボトルにおいては、他の部分に比べて低いガスバリアを有する部分だけ被覆すれば十分である場合がある。したがって、ガス透過性が十分に低い底部や口部には、ガスバリアコーティングを設ける必要がない場合もある。
【0026】
ポリビニルアルコール(PVA)は、基材のガス透過性(特に、O2及びCO2)を著しく低下させ、それにより、梱包された食品、ソフトドリンク又はビール等の飲料等の保存寿命を改善することができる。しかしながら、PVAのみからなるコーティングの使用は、その吸湿性ゆえに制限される。そのため、ポリビニルアセタール、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)が、PVA層のためのトップコーティングとして適していることが見出され、用いられている。なぜなら、PVAポリマーとPVBポリマーは、以下の化学式:
【化1】
【化2】
に示すように、類似したポリマー主鎖を有し、且つ、広範な混合物中で相容性であるからである。
【0027】
本発明に係るプリフォームの製造方法においては、前記した工程(b)に先立って、前記プリフォームの円筒状胴部表面をプラズマ、コロナ又は電子線処理することが好ましい。かかる前処理によって、基材へPVA層の付着を強化することができる。但し、かかる前処理は、任意付加的な工程であり、本発明においては、ほとんどの場合、前処理をしないでも、ひび割れや離層の発生を伴わずに、延伸ブロー成形され得る機械的に安定なコーティング層を有するプリフォームを製造することが可能である。
【0028】
図2を参照して、従来技術と比較して、本発明に係るプリフォーム及びその製造方法を説明する。
従来、PVAやPVBのコーティング方法としては、図2(e)に示すブロー方式や図2(f)に示すディッピング(浸漬)方式が使用されている。かかる方式でPVAとPVBをコーティングした場合を、図2(a)と図2(b)に示す。この場合には、底部に行く程、膜厚が大きくなり、円筒状胴部に比較して底部の乾燥時間を長く要することになる。すなわち、底部を十分に乾燥させると、円筒状胴部、特に円筒状胴部の上部が過加熱となり、プリフォーム基材の白化が発生してしまう場合がある。また、PVAが底部まで塗布されているため、PETボトルの搬送中の擦れでPVBにクラックが生じた場合、販売時や消費者の使用時等に結露や水への浸漬によって、PVBコーティング内部の底部に存在するPVAが水に再溶解してしまうとう問題もある。
【0029】
かかる問題を解決するため、本発明においては、PVAコーティングは円筒状胴部にのみ専ら存在させる。さらに、かかるPVAコーティングは、該筒状胴部を水平に回転させながら、該筒状胴部にポリビニルアルコール(PVA)の水溶液をコーティングし、これを乾燥させることにより、該円筒状胴部に形成される。すなわち、本発明においては、PVAコーティングは、例えば、図2(g)に示すコーター方式や図2(h)に示す転写方式により円筒状胴部に専ら存在するように形成される(図2(c)参照)。コーター方式等を使用すると、浸漬方式に比較して、形成されるPVA膜厚がより薄く、かつ、均一になるため、乾燥時間は短くなり、前記した浸漬方式における乾燥時間の相違による過加熱や基材の白化の問題は発生し難くなる。但し、PVAが塗布されていない底部の過加熱を防止するために、遮断板を用いて熱を遮断することが必要となる。さらに、PVAは底部に塗布されていないため、PETボトルの搬送中の擦れで、底部に存在するPVBにクラックが生じたとしても、販売時や消費者の使用時等に結露や水への浸漬によって、該底部のPVBコーティング内部にはPVAが存在しないので、PVAが水に再溶解してしまうとう問題は発生しない。搬送時には、円筒状胴部に存在するPVBコーティングもガイドと接触するため、クラックが発生する可能性はあるものの、底部と異なり胴部に存在するPVAが水と接触する頻度は低いため、PVA再溶解という問題は発生し難い。
形成されるPVAの膜厚は、例えば、PETボトルに要求されるガスバリア性能に依存する。例えば、PVAの膜厚は、湿度依存性があるため、湿度何%でどの程度のバリアを要求するかにより決定される。また、塗布されるPVA水溶液の濃度は5〜25重量%が好ましい。濃度が25重量%を超えると粘度が高すぎて塗布における作業性が悪く、またPVA原体が水に溶解し難い。また、使用するコーターの溝の深さは0.01〜1mm(10〜1000μm)であることが好ましい。プリフォームにおけるPVAコーティングの膜厚は、ブロー成形後のPETボトルにおける膜厚0.01〜5μmを基準に、PETボトルへの延伸倍率5倍〜15倍から逆算して計算される。例えば、延伸倍率が15倍であれば、プリフォームにおける膜厚は0.15〜75μmと計算される。膜厚が薄いと、ガスバリア性が低く、他方、膜厚が厚いと、コスト高となり、また、乾燥時間も長くなる。開く前記したように、PVA水溶液の濃度が変わると粘度も変わるため、コーターの溝の深さを調整する必要がある。例えば、PVA水溶液の粘度が低いと、溝が深いコーターを使用した場合、PVA水溶液が掻き取られる前に下に垂れてしまうため、溝が浅いコーターを使用する必要がある。
【0030】
前記工程(c)における乾燥は、ヒーター及び送風(常温又は熱風)により実施されることが好ましい。PVA水溶液の加熱乾燥時間を短くするためには、溶媒である水及び水酸基の吸収波長に適合した加熱波長をもつ熱源を選択することにより膜の内部からの加熱することが効果的である。この点から、近赤外線〜中赤外線を発生するカーボンヒーターの使用が好ましい。また、膜を冷やさずに蒸発した水を効率良く除去するためには、近赤外線〜中赤外線を発生するカーボンヒーターの使用とともに、遠赤外線ヒーターや送風(常温)又は熱風を吹き付けることを併用してもよい。
PVA水溶液の乾燥温度は、常温〜80℃であることが好ましい。100℃以上では溶液沸騰のおそれがあり、また、80℃を超えると過加熱により基材が白化したり変形したりするおそれがある。
【0031】
本発明においては、PVBはエタノール溶液として塗布され、また、PVBコーティングは薄膜に形成されることができるため、その乾燥時間は比較的短く、円筒状胴部だけでなく、底部にもPVBが塗布されたとしても、PVBエタノール溶液の場合には、過加熱等の問題は、PVA水溶液に比較して発生し難い。PVBエタノール溶液の乾燥温度は、常温〜78℃であることができる。但し、78℃を超えるとエタノール溶液が沸騰するおそれがあり、また、80℃を超えると過加熱により基材が白化したり変形したりするおそれがある。
前記したように、PVBエタノール溶液の場合には、過加熱等の問題は、PVA水溶液に比較して発生し難いため、本発明においては、PVBコーティングは、少なくとも円筒状胴部に、該PVAコーティングが露出しないように、存在する必要があるが、底部に存在してもよい(図2(i)参照)。ここで、PVBコーティングを円筒状胴部に専ら存在させる場合(図2(d)参照)には、PVAと同様にコーター方式等を使用することができる。あるいは、PVBコーティングを円筒状胴部だけでなく底部にも存在させる場合には、浸漬方式を使用しても構わない。但し、PETボトルのリサイクルにおいては、PET(基材)/PVAコーティング/PVBコーティングの部分は、アルカリ洗浄により、まずPVAが溶解し、これによりPVBコーティングが剥がれ、PETと、PVA及びPVBコーティングの分離を行うが、PET(基材)/PVBコーティングの部分では、PVBコーティングがPETから分離しないので、最終的に、PETボトル底部からのPETの分離回収率が低下することになる。したがって、リサイクル適性の観点からは、本発明においては、PVBコーティングも、PVAコーティングと同様、円筒状胴部に専ら存在することが好ましい(図2(d)参照)。
塗布されるPVBエタノール溶液の濃度は1〜25重量%が好ましい。使用するコーターの溝の深さは0.01〜1mm(10〜1000μm)であることが好ましい。プリフォームにおけるPVBコーティングの膜厚は、ブロー成形後のPETボトルにおける膜厚0.01〜5μmを基準に、PETボトルへの延伸倍率5倍〜15倍から逆算して計算される。例えば、延伸倍率が15倍であれば、プリフォームにおける膜厚は0.15〜75μmと計算される。膜厚が薄いと、耐水保護性が低く、他方、膜厚が厚いと、リサイクル性が低下し、コスト高となり、また、乾燥時間も長くなる。開く前記したように、PVBエタノール溶液の濃度が変わると粘度も変わるため、コーターの溝の深さを調整する必要がある。例えば、PVBエタノール溶液の粘度が低いと、溝が深いコーターを使用した場合、PVBエタノール溶液が掻き取られる前に下に垂れてしまうため、溝が浅いコーターを使用する必要がある。
【実施例】
【0032】
[実施例1:プリフォーム円筒状胴部へのPVAコーティングの形成(コーター方式)]
加熱装置及び撹拌機を備えたピーカーにPVA粉末(株式会社クラレ製、エクセバール(登録商標)HR-3010)を入れ、濃度15質量%となるように常温の水を入れ、撹拌しながら溶液温度95℃まで加熱し、PVAが完全に溶解するまで撹拌を継続して、PVA水溶液を調製した。
プリフォーム外表面に(少なくともPVAを塗布する胴部が処理可能なように)、プラズマ照射(ウエッジ株式会社製、大気中プラズマ照射表面改質装置 PS-1200AW)にてプラズマ処理をした。
得られたPVA水溶液(濃度15質量%)のプリフォームへの塗布には、図2(g)に示すプリフォーム水平回転装置(コーター)を使用した。500mlのPET製のボトルのためのプリフォーム(未処理)の円筒状胴部に、PVA水溶液を塗布した。該コーターにおいては、プリフォームの円筒状胴部に相当する部分に溝を設け、該溝の深さは0.25mmとした。コーターをプリフォームに接触させ、プリフォームとコーターの間に、常温のPVA水溶液を垂らし、プリフォームを回転させ、余分なPVA水溶液を掻き取り、溝部分にのみPVA水溶液を残存させた。
コーターをプリフォームから離し、PVA水溶液が垂れないように、プリフォームを水平に回転させながら、PVA水溶液が塗布された部分に、PVA水溶液が80℃になるように熱風を吹きかけて、乾燥させた。このとき、ヒーターによる加熱を併用した。乾燥後に得られたPVAコーティングの膜厚は0.03mm(30μm)であった。
【0033】
[実施例2:PVAコーティング上へのPVBコーティングの形成(コーター方式)]
加熱装置及び撹拌機を備えたピーカーにPVB粉末(株式会社クラレ製、モビタール(登録商標)B-30HH、ガラス転移温度63℃)を入れ、濃度15質量%となるように常温のエタノール(99.5%)を入れ、常温で撹拌しながら、PVBが完全に溶解するまで撹拌を継続して、PVBエタノール溶液を調製した。
得られたPVBエタノール溶液(濃度15質量%)の、実施例1で得たプリフォームのPVAコーティング上への塗布には、図2(g)に示すプリフォーム水平回転装置(コーター)を使用した。プリフォームの円筒状胴部に形成されたPVAコーティング上にさらにPVBコーティングを形成し、ここで、該PVBコーティングは、該PVAコーティングが露出しないように該PVAコーティング上に被覆され、かつ、該円筒状胴部内に専ら存在するように、PVBエタノール溶液を塗布した。該コーターにおいては、プリフォームの円筒状胴部に相当し、かつ、PVBコーティングがPVAコーティングが露出しないように形成されるために十分な幅の溝を設け、該溝の深さは0.15mmとした。コーターをプリフォーム上のPVAコーティングに接触させ、プリフォーム上のPVAコーティングとコーターの間に、常温のPVBエタノール溶液を垂らし、プリフォームを25rpmで回転させ、余分なPVBエタノール溶液を掻き取り、溝部分にのみPVBエタノール溶液を残存させた。
コーターをプリフォームから離し、PVB溶液が垂れないように、プリフォームを水平に回転させながら、PVBエタノール溶液が塗布された部分に、常温の送風を行い、乾燥させた。このとき、ヒーターによる加熱を併用した。乾燥後に得られたPVBコーティングの膜厚は0.02mm(20μm)であった。
【0034】
[実施例3:PVAコーティング上へのPVBコーティングの形成(浸漬方式)]
実施例2と同様に、PVBエタノール溶液を調製した。
得られたPVBエタノール溶液(濃度15質量%)の、実施例1で得たプリフォームのPVAコーティング上への塗布には、図2(f)に示す浸漬方式を使用した。プリフォームの円筒状胴部に形成されたPVAコーティング上にさらにPVBコーティングを形成し、ここで、該PVBコーティングは、該PVAコーティングが露出しないように該PVAコーティング上に被覆され、かつ、該円筒状胴部及び底部に存在するように、PVBエタノール溶液を塗布した。実施例1で得たPVAコーティングを円筒状胴部に有するプリフォームを、垂直に保ちながら、常温の上記PVBエタノール溶液に、口部が浸からないように、浸漬した。該プリフォームを垂直に保ちながら、PVBエタノール溶液から引き上げ、常温で静置して乾燥させた。この時、余分なPVBエタノール溶液は、重力によりプリフォーム底部先端から垂れ落ちた。乾燥後に得られたPVBコーティングの膜厚は、該円筒状胴部の上部で0.017mm(17μm)、該底部の先端付近の下部で0.023mm(23μm)であった。
【0035】
[実施例4:PETボトルの製造]
実施例2と3で得られたPVA及びPVBコーティングを有するプリフォームを、通常の延伸ブロー成形機にて、慣用の条件で延伸ブロー成形した。得られたPETボトルでは、PETボトル本体、PVAコーティング、及びPVBコーティングの間で、クラックや離層は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るガスバリアコーティングを有するプラスチックボトル用プリフォームは、ガスバリアコーティングの膜厚が薄くかつ均一であるために膜形成における乾燥時間が短く、過加熱部位が発生せず、さらにクラックに因る底部PVAの再溶解という問題が発生しない。よって、プラスチックボトル用プリフォームとして好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 プリフォーム
a 口部
b 円筒状胴部
c 底部
2 PETボトル
図1
図2
図3