特許第6037910号(P6037910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037910
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】工具経路生成装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20161128BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   G05B19/4093 F
   B23Q15/00 301K
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-61670(P2013-61670)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-186596(P2014-186596A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】入口 健二
(72)【発明者】
【氏名】山下 亮輔
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0178629(US,A1)
【文献】 特開平10−124129(JP,A)
【文献】 特開2003−263208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポケット部を構成する側壁に工具が接する閉ループ状の複数の第1経路を前記側壁に沿って前記ポケット部の加工進行方向にずらしながら加工する工具経路を生成する工具経路生成装置であって、
第1経路と、当該第1経路を直前に加工される第1経路から加工進行方向にずらすための第2経路と、の対である単位経路毎の側壁の加工区間のうちの前記加工進行方向側の一部に再加工区間を設定する再加工区間設定部と、
1つの単位経路または連続する2つの単位経路の加工によって前記再加工区間を2度加工するように前記第1経路を設定し、前記設定した第1経路と前記第2経路とを接続して単位経路を生成する単位経路生成部と、
を備えることを特徴とする工具経路生成装置。
【請求項2】
前記第1経路は、前記ポケット部を構成する2つの側壁の夫々に前記工具が接する経路であって、前記2つの側壁のうちの一を加工する第1加工区間であって前記単位経路のうちの加工領域への切込みを終了する第1加工区間を含み、
前記第2経路は、前記2つの側壁のうちの他を加工する第2加工区間であって前記単位経路のうちの加工領域への切込みを開始する第2加工区間を含み、
前記再加工区間設定部は、前記第1加工区間上に第1再加工区間を、前記第2加工区間上に第2再加工区間を、夫々設定し、
前記単位経路生成部は、前記第2再加工区間が前記第2経路による加工後に前記第1経路によって加工され、前記第1再加工区間が前記第1経路による加工後に次の単位経路の前記第1経路によって加工されるように、前記第1経路を設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の工具経路生成装置。
【請求項3】
前記再加工区間設定部は、前記工具と加工素材との接触角が予め設定された値を越える区間を再加工区間に設定する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の工具経路生成装置。
【請求項4】
前記再加工区間設定部は、設定距離の区間を再加工区間に設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の工具経路生成装置。
【請求項5】
前記再加工区間設定部は、設定距離の区間を再加工区間に設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の工具経路生成装置。
【請求項6】
前記設定距離は、前記第1加工区間と前記第2加工区間とで独立に設定される、
ことを特徴とする請求項5に記載の工具経路生成装置。
【請求項7】
前記再加工区間設定部は、前記工具の半径に応じて前記設定距離を算出する、
ことを特徴とする請求項4乃至請求項6の何れか一項に記載の工具経路生成装置。
【請求項8】
前記再加工区間設定部は、前記第2経路の移動量に応じて前記設定距離を算出する、
ことを特徴とする請求項4乃至請求項6の何れか一項に記載の工具経路生成装置。
【請求項9】
前記再加工区間設定部は、前記工具の半径および前記第2経路の移動量に応じて前記設定距離を算出する、
ことを特徴とする請求項4乃至請求項6の何れか一項に記載の工具経路生成装置。
【請求項10】
工具経路生成装置がポケット部を構成する側壁に工具が接する閉ループ状の複数の第1経路を前記側壁に沿って前記ポケット部の加工進行方向にずらしながら加工する工具経路を生成する方法であって、
前記工具経路生成装置が備える再加工区間設定部が、第1経路と、当該第1経路を直前に加工される第1経路から加工進行方向にずらすための第2経路と、の対である単位経路毎の側壁の加工区間のうちの前記加工進行方向側の一部に再加工区間を設定する、第1ステップと、
前記工具経路生成装置が備える単位経路生成部が、1つの単位経路または連続する2つの単位経路の加工によって前記再加工区間を2度加工するように前記第1経路を設定し、前記設定した第1経路と前記第2経路とを接続して単位経路を生成する、第2ステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記第1経路は、前記ポケット部を構成する2つの側壁の夫々に前記工具が接する経路であって、前記2つの側壁のうちの一を加工する第1加工区間であって前記単位経路のうちの加工領域への切込みを終了する第1加工区間を含み、
前記第2経路は、前記2つの側壁のうちの他を加工する第2加工区間であって前記単位経路のうちの加工領域への切込みを開始する第2加工区間を含み、
前記第1ステップは、前記再加工区間設定部が、前記第1加工区間上に第1再加工区間を、前記第2加工区間上に第2再加工区間を、夫々設定するステップであり、
前記第2ステップは、前記単位経路生成部が、前記第2再加工区間が前記第2経路による加工後に前記第1経路によって加工され、前記第1再加工区間が前記第1経路による加工後に次の単位経路の前記第1経路によって加工されるように、前記第1経路を設定するステップである、
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1ステップは、前記再加工区間設定部が、前記工具と加工素材との接触角が予め設定された値を越える区間を再加工区間に設定するステップである、
ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポケット部を加工するための工具経路を生成する工具経路生成装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポケット部は、一般に、2次元の加工領域形状と深さとを用いて定義される。例えば特許文献1および特許文献2に開示されているような工具経路生成装置は、このようなポケット部を加工するために、トロコイド経路などの閉ループ状の経路(以下、閉ループ経路)を加工進行方向にずらしながら繰り返すような工具経路を生成する。このような工具経路生成装置によれば、工具への加工負荷を抑制できることから工具の刃長を有効利用した高効率な加工が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3870021号公報
【特許文献2】特許第4714348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の工具経路によって加工された、ポケット部の側壁の加工面においては、加工面の各点において工具にかかる加工負荷が一様でないことから工具の撓み量が一様でないため、加工面に加工痕の凹凸が残り易いといった問題がある。特に、高硬度材をより多くの刃長を利用して加工する場合には加工痕の凹凸が顕著になる。そのため、加工痕の凸凹を取り除くための仕上げ加工や中仕上げ加工を追加することも必要となることがあり、加工準備や加工時間が増加するといった問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ポケット部の側壁の加工痕の凸凹をできるだけ抑制することができる工具経路生成装置および方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、ポケット部を構成する側壁に工具が接する閉ループ状の複数の第1経路を前記側壁に沿って前記ポケット部の加工進行方向にずらしながら加工する工具経路を生成する工具経路生成装置であって、第1経路と、当該第1経路を直前に加工される第1経路から加工進行方向にずらすための第2経路と、の対である単位経路毎の側壁の加工区間のうちの前記加工進行方向側の一部に再加工区間を設定する再加工区間設定部と、1つの単位経路または連続する2つの単位経路の加工によって前記再加工区間を2度加工するように前記第1経路を設定し、前記設定した第1経路と前記第2経路とを接続して単位経路を生成する単位経路生成部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、工具の撓みが大きい状態で加工される部分が再加工区間に設定され、再加工区間に設定された部分は、最初に工具の撓みが大きい状態で加工された後に、工具の撓みが最初より小さい状態で再加工されるので、ポケット部の側壁の加工痕の凸凹をできるだけ抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、比較例にかかる技術を説明するための、ポケット部の俯瞰図である。
図2図2は、比較例にかかる工具経路によって加工された場合の工具と被加工物との間の位置関係を説明する図である。
図3図3は、比較例にかかる工具経路によって加工された場合の工具と被加工物との間の位置関係を説明する図である。
図4図4は、比較例にかかる工具経路によって加工された場合の工具と被加工物との間の位置関係を説明する図である。
図5図5は、比較例にかかる工具経路によって加工された場合の工具と被加工物との間の位置関係を説明する図である。
図6図6は、比較例にかかる工具経路によって加工された場合の工具と被加工物との間の位置関係を説明する図である。
図7図7は、比較例が適用された場合の、加工目標形状SK上の接触角の変化を示す図である。
図8図8は、本発明の実施の形態の工具経路生成装置の機能構成を示す図である。
図9図9は、本発明の実施の形態の工具経路生成装置のハードウェア構成例を示す図である。
図10図10は、本発明の実施の形態の工具経路生成装置の動作を説明するフローチャートである。
図11図11は、初期状態の加工境界形状を示す図である。
図12図12は、加工部経路を示す図である。
図13図13は、加工開始側再加工経路を生成する処理を説明するフローチャートである。
図14図14は、加工開始側再加工経路を生成する処理を説明するための図である。
図15図15は、加工開始側再加工経路を生成する処理を説明するための図である。
図16図16は、加工終了側再加工経路を生成する処理を説明するフローチャートである。
図17図17は、加工終了側再加工経路を生成する処理を説明するための図である。
図18図18は、加工終了側再加工経路を生成する処理を説明するための図である。
図19図19は、非加工部経路を生成する処理を説明するフローチャートである。
図20図20は、非加工部経路の例を示す図である。
図21図21は、単位経路の例を示す図である。
図22図22は、本発明の実施の形態が適用された場合の、加工目標形状SK上の接触角の変化を示す図である。
図23図23は、加工開始側再加工経路を設定する処理の別の例を説明するための図である。
図24図24は、加工終了側再加工経路を設定する処理の別の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本発明の実施の形態と比較される技術(比較例)について説明する。図1は、比較例にかかる技術を説明するための、ポケット部の俯瞰図である。
【0010】
SLおよびSKは、夫々ポケット部の側壁を示しており、加工目標形状として定義される。用いられる工具の半径はrtである。比較例によれば、工具が「D」型の閉ループ経路(第1経路)と、当該「D」型の閉ループ経路を加工目標形状SLおよびSKに沿って紙面右方に移動せしめるための経路(第2経路)とが対になった単位経路が複数連続するように工具経路が構成される。より詳しくは、例えば、点P0から点P1に至る経路が第2経路に該当し、点P1を始点および終点として点Q0などを経る「D」型の経路が第1経路に該当する。閉ループ経路のステップ量(即ち第2経路の移動量)をp、SLおよびSKから等距離にある点を集合した中心軸線をSB、繰り返し数をNとする。
【0011】
比較例によれば、まず、中心軸線SB上の点Bi(i=0、1、2、・・・N)が算出される。点Biの間隔は、ステップ量pである。比較例によれば、次に説明するように、単位経路を生成する処理が繰り返される。なお、jは0からN−1までの値をとるカウンタ変数とする。
【0012】
比較例によれば、単位経路を生成する処理においては、点BjおよびBj+1に対する加工目標形状SK上の最近接点KjおよびKj+1と加工目標形状SL上の最近接点LjおよびLj+1とが算出される。そして、点KjおよびKj+1をそれぞれ点BjおよびBj+1方向へ工具半径rtだけオフセットさせた点Pjおよび点Pj+1が算出される。同様に、点Ljおよび点Lj+1をそれぞれ点Bjおよび点Bj+1方向へ工具半径rtだけオフセットさせた点Qjおよび点Qj+1が算出される。そして、点Pjから点Pj+1に向かう経路と、点Bj+1を中心とし、点Bj+1から点Pj+1までの距離rc1を半径とする、点Pj+1から点Qj+1に向かう半円状の円弧経路と、点Qj+1から点Qjに向かう経路と、点Qjから点Pjに向かう経路とが生成されて結合されることによって、1つの閉ループ経路が生成される。
【0013】
以上の手順で生成された経路において、点Pj〜点Pj+1〜点Qj+1〜点Qjの間の経路は加工素材に切り込む部分(加工部経路)であり、点Qj〜点Pj+1の間の経路は加工素材には切り込まない部分(非加工部経路)である。
【0014】
図2図6は、上述した比較例にかかる工具経路によって加工された場合の工具と被加工物との間の位置関係を説明する図である。
【0015】
図2は、工具の中心位置が点Piに位置する状態における位置関係を示している。工具は、点Kiの位置で加工目標形状SKと接している。ここから工具が点Pi+1に向かって移動することで工具が加工素材に切り込んでゆくとともに加工目標形状SKで定義される側壁を加工することになる。なお、工具の回転方向は、図中の矢印に示すように、紙面上方からみて時計周りであるものとしている。
【0016】
図3は、工具の中心位置が点Pi+1に位置する状態における位置関係を示している。工具は、点Ki+1の位置で加工目標形状SKと接している。また、工具が加工素材に切り込まれていることによって、工具と加工素材との接触角(工具中心に対する工具と加工素材との接触している部分の角度範囲)がFi+1となっている。
【0017】
工具の回転方向が図2の矢印に示す方向の場合には、工具の刃が工具と加工素材の接触している部分で加工素材を加工目標形状側へ押し出そうとするので工具には加工目標形状から離そうとする反対の力(図3中のM方向の力)がかかる。この力により工具に加工目標形状から離れる方向の撓みが生じ、その結果として加工目標形状に対して削り残しが発生する。
【0018】
図4は、工具が点Pi+1から点Qi+1、点Qi、点Pi+1間の経路を通り、再び点Pi+1の位置まで戻ってきた状態における位置関係を示している。図4に示す状態においては、工具と加工素材との接触している範囲(図3の場合での削り残し部分と工具との接触範囲)は、図3の場合の工具と加工素材との接触している範囲に比べて十分小さなものとなる。
【0019】
図5は、点Pi+2まで工具が加工素材に切り込んだ状態における位置関係を示しており、図6は、工具が点Pi+2から点Qi+2、点Qi+1、点Pi+2間の経路を通り、再び点Pi+2の位置まで戻ってきた状態における位置関係を示している。図5図6に示す状態においては、図3図4に示す状態と同様の位置関係が繰り返されている。
【0020】
図7は、比較例が適用された場合の、加工目標形状SK上の接触角の変化を示す図である。図示するように、加工目標形状SKに沿って接触角の変化に着目した場合に、接触角が不連続に変化することがわかる。接触角の変化に応じて工具の撓み量も変化するため、比較例によれば、加工面上に加工痕の凹凸が形成される結果となる。
【0021】
本発明の実施の形態によれば、この加工目標形状上の加工における工具と加工素材との接触角の変動を抑制することで側壁に発生する加工痕の凸凹を抑制することができる。以下に、本発明にかかる工具経路生成装置および方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
実施の形態.
図8は、本発明の実施の形態の工具経路生成装置の機能構成を示す図である。工具経路生成装置100は、データ入力部1、工具経路生成部2、経路定義データ記憶部10および工具経路記憶部16を備えている。また、工具経路生成部2は、加工境界形状生成部3、加工部経路生成部4、加工開始側再加工経路生成部5、非加工部経路生成部6、経路出力部7、加工終了側再加工経路生成部8、加工境界形状更新部9、加工境界形状記憶部11、加工部経路記憶部12、加工開始側再加工経路記憶部13、非加工部経路記憶部14および加工終了側再加工経路記憶部15を備えている。
【0023】
図9は、工具経路生成装置100のハードウェア構成例を示す図である。図9に示すように、工具経路生成装置100は、CPU(Central Processing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)103、入力装置104および出力装置105を備える。CPU101、RAM102、ROM103、入力装置104および出力装置105は、バスラインを介して夫々接続されている。
【0024】
CPU101は、コンピュータプログラムである工具経路生成プログラム106を実行する。出力装置105は、液晶モニタなどの表示装置である。出力装置105は、CPU101からの指示に基づいて、操作画面などのユーザに対する出力情報を表示する。入力装置104は、マウスやキーボードを備えて構成される。入力装置104は、ユーザからの工具経路生成装置100に対する操作が入力される。入力装置104へ入力された操作情報は、CPU101へ送られる。
【0025】
ROM103は、工具経路生成プログラム106を予め記憶する記録媒体である。工具経路生成プログラム106は、ROM103から読み出され、バスラインを介してRAM102へロードされる。CPU101は、RAM102内にロードされた工具経路生成プログラム106を実行する。具体的には、工具経路生成プログラム106は、構成要素(データ入力部1、加工境界形状生成部3、加工部経路生成部4、加工開始側再加工経路生成部5、非加工部経路生成部6、経路出力部7、加工終了側再加工経路生成部8および加工境界形状更新部9)を夫々実現するプログラムモジュールを含んでいる。工具経路生成装置100では、ユーザによる入力装置104からの指示入力に従って、CPU101が、ROM103内から工具経路生成プログラム106を読み出してRAM102内のプログラム格納領域に夫々のプログラムモジュールを展開する。また、CPU101は、工具経路生成プログラム106に基づいて、RAM102に、経路定義データ記憶部10、加工境界形状記憶部11、加工部経路記憶部12、加工開始側再加工経路記憶部13、非加工部経路記憶部14、加工終了側再加工経路記憶部15および工具経路記憶部16を確保する。CPU101は、RAM102に展開されたプログラムモジュールを実行することによって、対応する構成要素として機能することができる。
【0026】
なお、工具経路生成プログラム106を、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることによりRAM102に展開されるように構成してもよい。また、工具経路生成プログラム106をインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。また、工具経路生成プログラム106を予め記憶する記録媒体は、一時的でない有形の記録媒体であれば、ROM103以外の記録媒体であっても適用可能である。例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、CD−ROM、DVD−ROM、または着脱可能なメモリデバイスが工具経路生成プログラム106を予め記憶する記録媒体として適用可能である。
【0027】
なお、データ入力部1、加工境界形状生成部3、加工部経路生成部4、加工開始側再加工経路生成部5、非加工部経路生成部6、経路出力部7、加工終了側再加工経路生成部8および加工境界形状更新部9は、ソフトウェアにより実現されるものとするが、これらの各構成要素は、ハードウェア、またはハードウェアとソフトウェアとの組み合わせとして実現することができる。これらの構成要素が、ハードウェアとして実現されるか、ソフトウェアとして実現されるかは、装置全体に課される設計制約に基づいて決定される。
【0028】
図10は、本発明の実施の形態の工具経路生成装置100の動作を説明するフローチャートである。
【0029】
まず、データ入力部1は、閉ループ経路をずらしながら繰り返す工具経路を生成するための条件を記述した経路定義データの入力を受け付ける(ステップS1)。経路定義データは、加工目標形状の定義、工具の情報、および、工具経路の設定条件を含む。具体的には、経路定義データは、例えば、工具半径rt、加工目標形状SLおよびSK、中心軸線SB、閉ループ経路のステップ量pの設定、および、閉ループ経路の繰り返し数Nの設定などを含む。また、経路定義データは、接触角設定値Eを含む。接触角設定値Eについては後ほど明らかになる。データ入力部1は、受け付けた経路定義データを経路定義データ記憶部10に格納する。なお、経路定義データの入力の手法は任意である。例えばユーザが入力装置104を操作することによってユーザによって直接的に経路定義データが作成され、データ入力部1は、作成された経路定義データを取り込むようにしてもよい。また、予め作成された経路定義データを図示しない外部記憶装置を介して入力されるようにしてもよい。
【0030】
続いて、加工境界形状生成部3は、経路定義データ記憶部10に格納されている経路定義データに基づいて、初期状態の加工境界形状を生成する(ステップS2)。加工境界形状生成部3は、生成した初期状態の加工境界形状を加工境界形状データに記録して、加工境界形状データを加工境界形状記憶部11に格納する。
【0031】
図11は、初期状態の加工境界形状を示す図である。加工境界形状生成部3は、中心軸線SB上の始点B0に対する加工目標形状SK上の最近接点K0および加工目標形状SL上の最近接点L0を求め、点B0を中心とし点K0と点L0とを結ぶ加工領域側の円弧を初期状態の加工境界形状とする。なお、本発明の実施の形態においては、閉ループ経路は、一例として、加工進行方向側に(rb1−rt)を半径とする半円分の円弧を備えるものとしている。
【0032】
続いて、工具経路生成部2は、一周分の経路(即ち単位経路)の生成を繰り返すための準備として、経路定義データ記憶部10に格納された経路定義データから繰り返し回数Nを読み出すとともに繰り返しのためのカウンタ変数iを0に初期化する(ステップS3)。
【0033】
続いて、加工部経路生成部4は、経路定義データ記憶部10に格納されている経路定義データとカウンタ変数iとに基づいて、一周分の経路中の加工素材に切り込んでいる部分の経路(加工部経路)を生成する(ステップS4)。加工部経路生成部4は、生成した加工部経路を加工部経路データに記録して、加工部経路データを加工部経路記憶部12に格納する。なお、加工部経路記憶部12に前回(カウンタ変数がi−1の時)に生成された古い加工開始側再加工経路データが存在する場合には、古い加工開始側再加工経路データが削除された上で新しい加工開始側再加工経路データが格納される。
【0034】
加工部経路の生成手法は比較例と同等である。図12は、加工部経路を示す図である。加工部経路生成部4は、中心軸線SB上においてステップ量pの間隔で連続する2点である点Biおよび点Bi+1に着目する。そして、加工部経路生成部4は、点Biに対する加工目標形状SK上の最近接点から工具半径rtだけ中心軸線SB側にオフセットさせた位置である点Pi、点Bi+1に対する加工目標形状SK上の最近接点から工具半径rtだけ中心軸線SB側にオフセットさせた位置である点Pi+1、点Biに対する加工目標形状SL上の最近接点から工具半径rtだけ中心軸線SB側にオフセットさせた位置である点Qi、および、点Bi+1に対する加工目標形状SL上の最近接点から工具半径rtだけ中心軸線SB側にオフセットさせた位置である点Qi+1を夫々求める。そして、加工部経路生成部4は、点Pi、点Pi+1、点Qi+1および点Qiをこの順番で経由する経路を加工部経路TPCiとする。なお、加工部経路を構成する経路のうち、点Pi〜点Pi+1間の経路および点Qi+1〜点Qi間の経路の形状は夫々直線であり、点Pi+1〜点Qi+1間の経路は予め定められた曲線(ここでは前述のように半円分の円弧)である。
【0035】
続いて、加工開始側再加工経路生成部5は、経路定義データ記憶部10に格納されている経路定義データと加工境界形状記憶部11に格納されている加工境界形状データとに基づいて、加工部経路のうちの加工素材に対する切り込みを開始する側において、加工目標形状を再加工する部分の経路(加工開始側再加工経路)を生成する(ステップS5)。加工開始側再加工経路生成部5は、生成した加工開始側再加工経路を加工開始側再加工経路データに記録して、加工開始側再加工経路データを加工開始側再加工経路記憶部13に格納する。
【0036】
図13は、ステップS5の処理をさらに詳しく説明するフローチャートである。また、図14および図15は、ステップS5の処理を説明するための図である。
【0037】
まず、加工開始側再加工経路生成部5は、工具と加工素材との点Pi+1における接触角Fi+1を算出する(ステップS21)。図14において、点Piから点Pi+1間の経路は、側壁を加工しながら加工素材に対する切り込みが開始する経路(第2加工区間を加工する経路)である。また、点Ki+1は点Pi+1に位置する工具と加工目標形状SKとの接点である。ステップS21の処理は、例えば次の通りである。即ち、点Pi+1において工具の輪郭の円と加工境界形状との交点Ai+1が算出される。そして、点Pi+1から点Ai+1に向かうベクトルと点Pi+1から点Ki+1に向かうベクトルとの間の角度が算出される。算出された角度は接触角Fi+1である。
【0038】
続いて、加工開始側再加工経路生成部5は、接触角Fi+1が接触角設定値Eよりも大きいか否かを判定する(ステップS22)。接触角設定値Eは、経路定義データに記述されている。接触角Fi+1が接触角設定値Eよりも小さい場合(ステップS22、No)、加工開始側再加工経路生成部5は、加工開始側再加工経路を設定しないで(ステップS23)、動作を終了する。加工開始側再加工経路を設定しないとは、加工開始側再加工経路記憶部13に何も格納せず、加工開始側再加工経路記憶部13に前回(カウンタ変数がi−1の時)に生成された古い加工開始側再加工経路データが存在する場合には、古い加工開始側再加工経路データを消去することである。
【0039】
接触角Fi+1が接触角設定値Eよりも大きい場合(ステップS22、Yes)、加工開始側再加工経路生成部5は、図15に示すように、点Piから点Pi+1までの間の経路上で工具と加工素材との接触角が接触角設定値Eに等しくなる点Pi’を算出する(ステップS24)。そして、加工開始側再加工経路生成部5は、点Pi’から点Pi+1に至る経路を加工開始側再加工経路に設定する(ステップS25)。即ち、この処理によって、加工開始側再加工経路生成部5は、点Pi’から点Pi+1までの区間を、再加工を行う区間に設定している。点Pi’を算出する処理は、例えば、点Piから点Pi+1間の経路上の点でステップS21と同様の手順に示す計算により接触角を評価することにより探索的に行うことで実現される。
【0040】
続いて、加工開始側再加工経路生成部5は、加工開始側再加工経路を加工開始側再加工経路データに記録して、加工開始側再加工経路を記録した加工開始側再加工経路データを加工開始側再加工経路記憶部13に格納し(ステップS26)、動作を終了する。なお、ステップS26の処理においては、加工開始側再加工経路記憶部13に前回(カウンタ変数がi−1の時)に生成された古い加工開始側再加工経路データが存在する場合には、古い加工開始側再加工経路データは削除された上で新しい加工開始側再加工経路データが格納される。
【0041】
このように、加工開始側再加工経路生成部5は、加工目標形状SKによって定義される側壁を加工する区間(点Piから点Pi+1までの区間)のうちの、加工進行方向側(即ち紙面右側)の一部の区間(点Pi’から点Pi+1までの区間)を、再加工する区間に設定する。なお、加工開始側再加工経路生成部5は、接触角が接触角設定値Eを越える区間を、再加工する区間に設定する。
【0042】
ステップS5の処理に引き続いてステップS6〜ステップS7の処理が実行されるが、分かりやすくするために、ステップS8の処理をステップS6〜ステップS7の処理よりも先に説明する。
【0043】
ステップS8においては、加工終了側再加工経路生成部8は、経路定義データ記憶部10に格納されている経路定義データと加工境界形状記憶部11に格納されている加工境界形状データとに基づいて、加工部経路のうちの加工素材に対する切り込みを終了する側において、加工目標形状を再加工する部分の経路(加工終了側再加工経路)を生成する(ステップS8)。加工終了側再加工経路生成部8は、生成した加工終了側再加工経路を加工終了側再加工経路データに記録して、加工終了側再加工経路データを加工終了側再加工経路記憶部15に格納する。
【0044】
図16は、ステップS8の処理をさらに詳しく説明するフローチャートである。また、図17および図18は、ステップS8の処理を説明するための図である。
【0045】
まず、加工終了側再加工経路生成部8は、工具と加工素材との点Qi+1における接触角Gi+1を算出する(ステップS31)。図17において、点Qi+1から点Qiまでの間の経路は、側壁を加工しながら、加工素材に対する切り込みが終了する経路(第1加工区間を加工する経路)である。また、点Li+1はQi+1に位置する工具と加工目標形状SLとの接点である。ステップS31の処理は、例えば次の通りである。即ち、点Qi+1において工具の輪郭の円と加工境界形状との交点が求められる。そして、点Qi+1から前記求めた交点に向かうベクトルと点Qi+1から点Li+1に向かうベクトル間の角度が算出される。算出された角度は接触角Gi+1である。
【0046】
続いて、加工終了側再加工経路生成部8は、接触角Gi+1が接触角設定値Eよりも大きいか否かを判定する(ステップS32)。接触角Gi+1が接触角設定値Eよりも小さい場合(ステップS32、No)、加工終了側再加工経路生成部8は、加工終了側再加工経路を設定しないで(ステップS33)、動作を終了する。加工終了側再加工経路を設定しないとは、加工終了側再加工経路記憶部15に何も格納せず、加工終了側再加工経路記憶部15に前回(カウンタ変数がi−1の時)に生成された古い加工終了側再加工経路データが格納されている場合には、古い加工終了側再加工経路データを消去することである。
【0047】
接触角Gi+1が接触角設定値Eよりも大きい場合(ステップS32、Yes)、加工終了側再加工経路生成部8は、図18に示すように、点Qi+1から点Qiまでの間の経路上で工具と加工素材との接触角が接触角設定値Eに等しくなる点Qi’を算出する(ステップS34)。そして、加工終了側再加工経路生成部8は、点Qi+1から点Qi’に至る経路を加工終了側再加工経路に設定する(ステップS35)。点Qi’を求める処理は、例えば、点Pi’を求める処理(ステップS24)と同様の手法によって実現される。
【0048】
続いて、加工終了側再加工経路生成部8は、加工終了側再加工経路を加工終了側再加工経路データに記録して、記録した加工終了側再加工経路データを加工終了側再加工経路記憶部15に格納し(ステップS36)、動作を終了する。なお、ステップS36の処理においては、加工終了側再加工経路記憶部15に古い加工終了側再加工経路データが格納されていた場合には、古い加工終了側再加工経路データは削除された上で新しい加工終了側再加工経路データが格納される。
【0049】
このように、加工終了側再加工経路生成部8は、加工目標形状SLによって定義される側壁を加工する区間(点Qi+1から点Qiまでの区間)のうちの、加工進行方向側(即ち紙面右側)の一部の区間(点Qi+1から点Qi’までの区間)を、再加工する区間に設定する。なお、加工終了側再加工経路生成部8は、接触角が接触角設定値Eを越える区間を再加工する区間に設定する。
【0050】
ステップS5の処理に続いて、非加工部経路生成部6は、加工開始側再加工経路記憶部13の記憶内容および加工終了側再加工経路記憶部15の記憶内容に基づいて、工具が加工素材に切り込まない部分の経路(非加工部経路)を生成する(ステップS6)。非加工部経路生成部6は、生成した非加工部経路を非加工部経路データに記録して、非加工部経路データを非加工部経路記憶部14に格納する。
【0051】
図19は、ステップS6の処理をさらに詳しく説明するフローチャートである。また、図20は、ステップS6の処理によって生成される非加工部経路の例を示す図である。図20において、点Pi’〜点Pi+1間の経路TPSiは加工開始側再加工経路である。また、点Qi〜点Qi−1’間の経路TPEi−1は、加工終了側再加工経路である。加工終了側再加工経路TPEi−1は前回(カウンタ変数がi−1の時)に生成されたものである。
【0052】
非加工部経路生成部6は、まず、加工終了側再加工経路記憶部15に加工終了側再加工経路データが格納されているか否かを判定する(ステップS41)。加工終了側再加工経路記憶部15に加工終了側再加工経路データが格納されている場合(ステップS41、Yes)、非加工部経路生成部6は、加工終了側再加工経路の終点Qi−1’を非加工部経路の始点に設定する(ステップS42)。加工終了側再加工経路記憶部15に加工終了側再加工経路データが格納されていない場合(ステップS41、No)、非加工部経路生成部6は、点Qiを非加工部経路の始点に設定する(ステップS43)。
【0053】
ステップS42の処理またはステップS43の処理に続いて、非加工部経路生成部6は、加工開始側再加工経路記憶部13に加工開始側再加工経路データが格納されているか否かを判定する(ステップS44)。加工開始側再加工経路記憶部13に加工開始側再加工経路データが格納されている場合(ステップS44、Yes)、非加工部経路生成部6は、加工開始側再加工経路の始点Pi’を非加工部経路の終点に設定する(ステップS45)。加工開始側再加工経路記憶部13に加工開始側再加工経路データが格納されていない場合(ステップS44、No)、非加工部経路生成部6は、点Pi+1を非加工部経路の終点に設定する(ステップS46)。
【0054】
ステップS45の処理またはステップS46の処理の後、非加工部経路生成部6は、設定した始点から設定した終点に至る経路であって加工素材に工具が切り込まないような経路を非加工部経路に設定する(ステップS47)。ステップS48の処理によって、点Qi−1’から点Pi’に至る経路か、点Qiから点Qi−1’を経ないで点Pi’に至る経路か、点Qi−1’からPi’を経ないで点Pi+1に至る経路か、点Qiから点Qi−1’および点Pi’の何れも経ないで点Pi+1に至る経路か、の何れかが非加工部経路に設定される。なお、図20は、点Qi−1’から点Pi’に至る経路TPNiが非加工部経路に設定された場合を示している。図20において、点線で示される経路、即ち、点Piから点Pi’および点Qi+1を経て点Qiに至る経路TPCiは、加工部経路を示している。
【0055】
続いて、非加工部経路生成部6は、非加工部経路を非加工部経路データに記録して、非加工部経路を記録した非加工部経路データを非加工部経路記憶部14に格納し(ステップS48)、動作を終了する。なお、ステップS48の処理においては、非加工部経路記憶部14に格納されている、前回(カウンタ変数がi−1の時)に生成された古い非加工部経路データが存在する場合には、その古い非加工部経路データは削除される。
【0056】
ステップS6の処理に続いて、経路出力部7は、加工部経路記憶部12、加工終了側再加工経路記憶部15、非加工部経路記憶部14および加工開始側再加工経路記憶部13のうちの、データが格納されている記憶部から、この記憶部の順番で経路データを読み出して、読み出した経路データを読み出した順番で結合することによって、一周分の経路データを生成する(ステップS7)。経路出力部7は、生成した一周分の経路データを工具経路記憶部16に出力する。
【0057】
図21は、カウンタ変数の値がiである場合と、カウンタ変数の値がi+1である場合との夫々において生成された、単位経路の例を示す図である。なお、両方の場合においては、加工開始側経路データおよび加工終了側経路データがともに生成され、対応する記憶部に夫々格納されていたものとしている。図示するように、点Piを始点とし、点Pi’、点Pi+1、点Qi+1、点Qi’、点Qi、点Qi−1’および点Pi’をこの順番で経て、点Pi+1を終点とする経路が、カウンタ変数の値がiである場合にかかる単位経路である。また、点Pi+1を始点とし、点Pi+1’、点Pi+2、点Qi+2、点Qi+1、点Qi’および点Pi+1’をこの順番で経て、点Pi+2を終点とする経路が、カウンタ変数の値がi+1である場合にかかる単位経路である。即ち、加工開始時再加工経路に設定された点Pi’から点Pi+1に至る経路は、カウンタ変数の値がiである場合の一周分の経路が加工される際に、合計2回、加工される。同様に、加工開始時再加工経路に設定された点Pi+1’から点Pi+2に至る経路は、カウンタ変数の値がi+1である場合の一周分の経路が加工される際に、合計2回、加工される。また、加工終了時再加工経路に設定された点Qi+1から点Qi’に至る経路は、カウンタ変数の値がiである場合の一周分の経路が加工される際およびカウンタ変数の値がi+1である場合の一周分の経路が加工される際の合計2回、加工される。
【0058】
このように、経路出力部7は、再加工する区間に設定された区間を、1つの単位経路または連続する2つの単位経路の加工によって2度加工するように、閉ループ経路を設定する。また、経路出力部7は、閉ループ経路と、当該閉ループ経路をずらすための経路とを接続して、単位経路を生成している。
【0059】
図22は、本願の実施の形態が適用された場合の、加工目標形状SK上の接触角の変化を示す図である。図示するように、Ki’〜Ki+1の区間における接触角は、一度目の加工において、接触角設定値Eを越えてFi+1に到達する。その後、接触角は、再加工時には接触角設定値Eに対して十分小さい値に抑えられる。即ち、加工目標形状SKが最終的に加工された際の接触角が、接触角設定値Eよりも小さく抑えられることになる。加工目標形状SLにおいても同様である。これにより、加工目標形状上において工具の撓みを抑制した加工が行われることになり、その結果、側壁の加工痕による凹凸が比較例に比して小さくなる。
【0060】
ステップS7の処理に続いて、前述したステップS8の処理が実行される。そして、工具経路生成部2は、カウンタ変数iを1だけインクリメントする(ステップS9)。
【0061】
続いて、工具経路生成部2は、カウンタ変数iの値が経路定義データによって設定された繰り返し数Nよりも小さいか否かを判定する(ステップS10)。カウンタ変数iの値が繰り返し数Nよりも小さくない場合(ステップS10、No)、動作が終了となる。カウンタ変数iの値が繰り返し数Nよりも小さい場合(ステップS10、Yes)、加工境界形状更新部9は、経路定義データ記憶部10に格納されている経路定義データと、加工部経路記憶部12に格納されている加工部経路データとに基づいて、加工境界形状データを再び作成し、加工部経路記憶部12に格納されている加工境界形状データを再び作成した新しい加工境界形状データで更新する(ステップS11)。新しい加工境界形状データは、古い加工境界形状データに記録された加工境界形状から、加工部経路によって工具によって加工される領域を除去することによって生成される。ステップS11の処理の後、ステップS4の処理が実行される。
【0062】
なお、以上の説明においては、閉ループ経路がポケット部を構成する2つの側壁(SKおよびSL)の夫々に接するように工具経路が生成される場合について説明したが、閉ループ経路が接する側壁の数は1つであってもよい。その場合には、工具経路生成装置100は、その側壁を加工する区間に設定した再加工区間を、加工目標形状SKに対してしたように、閉ループ経路である第1経路と閉ループ経路をずらすための第2経路とによって2回加工するようにしてよい。また、工具経路生成装置100は、加工目標形状SLに対してしたように、再加工区間を、第1経路と次の単位経路に属する第1経路とによって2回加工するようにしてもよい。
【0063】
また、閉ループ経路が接するポケット部の2つの側壁は互いに平行になるように配置されているものとして説明したが、閉ループ経路が接するポケット部の2つの側壁の配置は平行でなくてもよい。その場合には、閉ループ経路の大きさが単位経路毎に順次変更されるようにしてよい。
【0064】
以上述べたように、本発明の実施の形態によれば、工具経路生成装置100は、単位経路毎の側壁の加工区間のうちの加工進行方向側の一部に再加工区間を設定する加工開始側再加工経路生成部5および加工終了側再加工経路生成部8と、1つの単位経路または連続する2つの単位経路の加工によって再加工区間を2度加工するように閉ループ経路である第1経路を設定し、第1経路と当該第1経路を側壁にそって加工進行方向側にずらすための第2経路とを接続して、単位経路を生成する経路出力部7と、を備える。これにより、本発明の実施の形態によれば、再加工区間は、最初に工具の撓みが大きい状態で加工された後に、工具の撓みが最初より小さい状態で再加工されるので、側壁の加工面は、再加工区間が設けられない比較例に比べて側壁に残る加工痕の凸凹を抑制することができる。即ち、ポケット部の側壁の加工痕の凸凹をできるだけ抑制することができる。
【0065】
また、加工開始側再加工経路生成部5は、1つの側壁を加工する加工区間であって加工素材への切込みを開始する加工区間に加工開始側再加工区間を設定し、加工終了側再加工経路生成部8は、別の側壁を加工する加工区間であって加工素材への切込みを終了する加工区間に加工終了側再加工区間を設定する。そして、経路出力部7は、加工開始側再加工区間が第2経路による加工後に第1経路によって加工され、加工終了側再加工区間が第1経路による加工後に次の単位経路の第1経路によって加工されるように、第1経路を設定する。これにより、本発明の実施の形態によれば、ポケット部を構成する2つの側壁を同時に加工できるとともに、当該2つの側壁に残る加工痕の凸凹を抑制することができる。
【0066】
また、加工開始側再加工経路生成部5および加工終了側再加工経路生成部8は、工具と加工素材との接触角が予め設定された値を越える区間を再加工区間に設定する。これにより、本発明の実施の形態によれば、側壁において工具の接触角を所定値以下に抑えることができるので、比較例に比べて側壁に残る加工痕の凸凹を抑制することができる。
【0067】
なお、工具経路生成装置100は、加工痕の抑制が必要であるか否かをユーザが指定することが可能に構成されてもよい。例えば、データ入力部1は、加工痕の抑制が必要であるか否かを示す属性情報が記述された経路定義データの入力を受け付けることができる。加工痕の抑制が必要である旨の属性情報が入力された場合には、加工開始側再加工経路生成部5は、図13に示す一連の処理を実行し、加工終了側再加工経路生成部8は、図16に示す一連の処理を実行する。加工痕の抑制が必要でない旨の属性情報が入力された場合には、加工開始側再加工経路生成部5は、加工開始側再加工経路の設定を実行せず、加工終了側再加工経路生成部8は、加工終了側再加工経路を実行しない。なお、工具経路生成装置100は、加工痕の抑制が必要であるか否かの設定が、加工目標形状SKと加工目標形状SLとで別々に(即ち独立に)設定可能に構成されてもよい。
【0068】
また、再加工経路(加工開始側再加工経路および/または加工終了側再加工経路)の区間は、次のように簡略的に算出されるようにしてもよい。即ち、図23に示すように、加工開始側再加工経路生成部5は、点Piから点Pi+1までの間の経路上で点Pi+1から所定の距離lだけ点Pi側に戻った位置を点Pi’とし、点Pi’から点Pi+1に至る経路を加工開始側再加工経路とする。また、図24に示すように、加工終了側再加工経路生成部8は、点Qi+1から点Qiまでの間の経路上で点Qi+1から所定の距離mだけ点Qi側に進んだ位置を点Qi’とし、点Qi+1から点Qi’に至る経路を加工終了側再加工経路とする。
【0069】
ここで、距離lおよび距離mは例えば経路定義データに記述されて入力される。ユーザが距離lおよび距離mを設定できるようにすることによって、ユーザは、加工結果の加工痕の凹凸の幅などを確認し、それに応じて再加工区間を距離で直接指定できるようになり加工結果に応じた直感的な調整が可能となる。
【0070】
また、加工開始側再加工経路生成部5および加工終了側再加工経路生成部8は、工具半径rtに基づいて距離lおよび距離mを夫々算出するようにしてもよい。例えば、加工開始側再加工経路生成部5および加工終了側再加工経路生成部8は、工具半径rtが大きいほど距離lおよび距離mが大きくなるように距離lおよび距離mを算出する。工具半径rtと距離lおよび距離mとの関係は比例関係であってよい。これにより、工具半径rtに連動して再加工区間を変更するような運用が容易に実現される。
【0071】
また、加工開始側再加工経路生成部5および加工終了側再加工経路生成部8は、ステップ量pに基づいて距離lおよび距離mを夫々算出するようにしてもよい。ステップ量pと距離lおよび距離mとの関係は例えば比例関係であってよい。これにより、ステップ量pを越えた範囲の再加工経路を設定することが防止される。
【0072】
さらに、加工開始側再加工経路生成部5および加工終了側再加工経路生成部8は、工具半径rtおよびステップ量pに基づいて距離lおよび距離mを夫々算出するようにしてもよい。例えば、工具半径rtおよびステップ量pは、夫々、距離lとの間で比例関係が成立し、工具半径rtおよびステップ量pは、夫々、距離mとの間で比例関係が成立するように、距離lおよび距離mが算出されるようにしてよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、本発明にかかる工具経路生成装置および方法は、ポケット部を加工するための工具経路を生成する工具経路生成装置および方法に適用して好適である。
【符号の説明】
【0074】
1 データ入力部、2 工具経路生成部、3 加工境界形状生成部、4 加工部経路生成部、5 加工開始側再加工経路生成部、6 非加工部経路生成部、7 経路出力部、8 加工終了側再加工経路生成部、9 加工境界形状更新部、10 経路定義データ記憶部、11 加工境界形状記憶部、12 加工部経路記憶部、13 加工開始側再加工経路記憶部、14 非加工部経路記憶部、15 加工終了側再加工経路記憶部、16 工具経路記憶部、100 工具経路生成装置、101 CPU、102 RAM、103 ROM、104 入力装置、105 出力装置、106 工具経路生成プログラム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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