(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキやドラムブレーキなどのブレーキ、或いはクラッチなどに使用される摩擦材は、補強作用をする繊維基材、摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整する摩擦調整材、及び、これらの成分を一体化する結合材などの原材料からなっている。
昨今の車両の高性能化、高速化に伴い、ブレーキの役割は益々過酷なものとなってきており、十分に高い摩擦係数(効き)を有することが必要である。さらに高速からの制動時には高温となることから、低温低速での制動時とは摩擦状態が異なり、温度変化による摩擦係数の変化が少ない、安定した摩擦特性が求められている。
【0003】
現在、一般的な摩擦材に金属繊維を適量含有することは、摩擦材の強度補強や摩擦係数の安定化、さらには高温における摩擦係数の維持や放熱効率の向上、耐摩耗性向上等に有効であることが知られている。この金属繊維の特性に着目し、スチール繊維を5〜10質量%、平均繊維長が2〜3mmの銅繊維を5〜10質量%、および粒径が5〜75μmの亜鉛粉を2〜5質量%、含有した摩擦材が特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1によれば、摩擦材は銅繊維を所定量の範囲で含有すると、低温での摩擦係数の向上を図ることができ、高温高速時の摩擦係数の低下を抑制することができる。このメカニズムは摩擦材と相手材(ディスクロータ)との摩擦時に、摩擦材に含有された金属の展延性によって相手材表面に凝着被膜が生成し、この被膜が保護膜として作用することで低温での摩擦係数を安定化し、高温での高い摩擦係数を維持することに大きく寄与すると考えられる。
【0005】
しかしながら、ディスクロータの摩耗粉やブレーキパッドの摩擦材に含まれる金属成分が摩擦材に食い込み、そこで凝集して大きな金属塊となってブレーキパッドとディスクロータの間に留まってしまう場合がある。このように凝集した金属塊は、ディスクロータを異常摩耗させることがある(特許文献2)。
現在、摩擦材に含まれる金属成分は主にスチール繊維や銅繊維といった金属繊維が多く、これらの繊維を多量に含有した場合、上述のディスクロータの異常摩耗を引き起こすおそれがある。
【0006】
また、摩擦材中に含まれる銅成分は、ブレーキ制動により摩耗粉として放出されることから、自然環境への影響が指摘されている。そこで特許文献3では、摩擦材中の銅成分の溶出を抑制する方法が開示されている。
【0007】
一方、一般に摩擦材においては、水が介在すると摩擦材表面で液体潤滑の作用が働き、摩擦係数が低下し、ブレーキの効きも低下することが知られている。従来の銅成分を含んだ摩擦材であっても、水濡れ時は摩擦面により多くの水分を吸着するため、一制動中の摩擦係数の変化が大きくなることがある。
そこで、特許文献4には、摩擦材に無機結合材として炭化ケイ素を加えることにより、水膜を切る効果が開示されている。特許文献5にはシラン系の撥水性物質で表面処理する方法が開示されている。また、特許文献6にはディスクブレーキパッドの形状を面取りすることで、水の影響を緩和する方法が開示されている。さらに特許文献7には、Fe−Mo金属間化合物及び酸化銅を添加することにより、摩擦特性を全般的に向上させる方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明に係る摩擦材は、結合材、摩擦調整材及び繊維基材を含み、かつ銅成分を含まない摩擦材であって、アルミニウム及びFe−Al金属間化合物の少なくともいずれか一方、アルミナ、クロマイト、並びにスチール繊維を含有することを特徴とする。
また、本発明の摩擦材は、さらに前記摩擦調整材として有機充填材や無機充填材などの充填材、研削材、銅成分以外の金属等を含有することが好ましく、繊維基材としては前記スチール繊維の他に通常用いられる有機繊維や無機繊維などを含有してもよい。また、必要に応じてこれらの成分を一体化する熱硬化性樹脂などの結合材を含有することが好ましい。
【0014】
(アルミナ、クロマイト)
本発明において、アルミナ及びクロマイトは主に研削材として用いられる。
本発明におけるアルミナとは、単結晶、多結晶コランダムなどのα−アルミナ(α−Al
2O
3)のことを表す。
アルミナの粒径d50は通常用いられる大きさのものであれば特に制限されないが、二次粒子として0.5μm〜50μmが好ましく、1.0μm〜10μmがより好ましい。かかる範囲であれば相手材を過不足なく適度に研削することから、水濡れ時の摩擦係数が安定化し、良好な相手材攻撃性も得ることができる。
【0015】
本明細書における粒径d50とは積算分布曲線の50%粒径の数値、すなわち重量百分率で50%となる粒子径d50のことを表し、レーザー回折粒度分布法により求めることができる。なお、研削材の詳細については後で詳述するが、粒径が小さい方がマイルドな研削材となり、大きいほど強力な研削材となる。
【0016】
アルミナの含有量は、アルミナの粒径によって異なるが、一般的には摩擦材中0.5〜10質量%含まれることが好ましく、1〜8質量%がより好ましい。かかる範囲であれば、相手材を適度に研削することにより水濡れ時の摩擦係数が安定し、また、相手材を過剰に研削することなく、良好な相手材攻撃性が得られる。
【0017】
本発明におけるクロマイトとはFeCr
2O
4や、Feの一部又は全部をMgに置換されたもの及び/又はCrの一部又は全部をAlやFe
3+に置換されたものであり、(Fe,Mg)O・(Cr,Al)
2O
3などのクロム鉄鉱を表す。
クロマイトの粒径d50は通常用いられる大きさのものであれば特に制限されないが、0.5μm〜50μmが好ましく、1.0μm〜20μmがより好ましい。かかる範囲であれば、相手材を適度に研削することにより水濡れ時の摩擦係数が安定し、また、相手材を過剰に研削することなく、良好な相手材攻撃性が得られる。
【0018】
クロマイトの含有量は、クロマイトの粒径に依存して決定されるが、一般的には摩擦材中1〜15質量%含まれることが好ましく、2〜10質量%がより好ましい。かかる範囲であれば、相手材を適度に研削することにより水濡れ時の摩擦係数が安定し、また、相手材を過剰に研削することなく、良好な相手材攻撃性が得られる。
【0019】
(アルミニウム、Fe−Al金属間化合物)
本発明においてアルミニウムは繊維状あるいは粒子状物質として用いられる。
アルミニウムの形状には特に限定されないが、原材料混合物中での分散性の点からアルミニウム粉及びアルミニウム繊維の少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0020】
アルミニウムがアルミニウム粉である場合、粒径d50は通常用いられる大きさのものであれば特に制限されないが、5μm〜500μmが相手材の過剰な摩耗防止および摩擦面上への被膜形成の点から好ましい。
【0021】
アルミニウム繊維の場合、形状は繊維径20〜500μm、長さ0.1〜5mm、アスペクト比3以上が被膜形成および原材料混合物中からの脱落防止の点から好ましい。
【0022】
アルミニウムの含有量は粉状、繊維状等によらず、摩擦材中0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい。上記範囲であることにより相手材攻撃性低減および摩擦特性の安定化の点から好ましい。
【0023】
本発明に係る摩擦材は、前記アルミニウムに代えて、又は前記アルミニウムと併用して、Fe−Al金属間化合物を含むことができる。
Fe−Al金属間化合物は、銅成分に代えて、相手材表面に凝着被膜を形成することができることから好ましく用いられる。Fe−Al金属間化合物を適切に選択、組み合わせることで銅に近い融点の合金として得ることができ、好ましい。
【0024】
Fe−Al金属間化合物としては、Fe
3Al、FeAl、FeAl
2、Fe
2Al
5、FeAl
3等が挙げられる。中でも、銅の融点に近く、相手材に良好な凝着被膜を形成できることから、Fe:Alの質量比で50:50〜15:85が有効と思われる。これらは単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
Fe−Al金属間化合物の粒径d50は通常用いられる大きさのものであれば特に制限されないが、1μm〜500μmが好ましく、5μm〜100μmがより好ましい。かかる範囲であれば、相手材攻撃性が小さく好ましい。
【0026】
Fe−Al金属間化合物の含有量は、摩擦材中0.5〜7質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。0.5質量%以上であることにより相手材攻撃性低減の点から好ましく、7質量%以下であることにより水濡れ時における安定した摩擦特性の点から好ましい。
【0027】
また、アルミニウムとFe−Al金属間化合物を併用した場合には、高速からの制動において、水濡れ効力が向上し、相手材攻撃性の低減の点から好ましい。これらを併用する場合のアルミニウムとFe−Al金属間化合物の総量は、摩擦材に対して1〜10質量%が安定した摩擦特性の点から好ましい。
【0028】
(スチール繊維)
本発明において、スチール繊維は主に繊維基材中の金属繊維として用いられる。摩擦材中にスチール繊維を入れることによって、高速からの制動が良好となる。
【0029】
スチール繊維の形状は繊維径50〜200μm、長さ1〜30mm、アスペクト比3以上が相手材攻撃性低減と摩擦特性安定化の両立の点から好ましい。
【0030】
スチール繊維の含有量は、摩擦材中5〜40質量%であることが相手材攻撃性と摩擦係数(効き)の両立の点から好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0031】
以上より、本発明に係る摩擦材は、上述したアルミニウム及びFe−Al金属間化合物の少なくともいずれか一方、アルミナ、クロマイト、並びにスチール繊維を含むことにより、水濡れ時の摩擦係数の安定性(水濡れ効力)に優れ、また、相手材攻撃性にも優れた摩擦材となる。
これらを組み合わせて用いることで従来の摩擦材に含有されていた銅の展延性に期待していた凝着被膜の形成の代替効果があるものと考えられる。
【0032】
本発明に係る摩擦材は、さらにマグネシア(MgO)を併用することが好ましい。マグネシアはアルミナやクロマイトと比べてマイルドな研削材であることから、摩擦材の相手材攻撃性をより良好なものとすることができる。
マグネシアの粒径d50は通常用いられる大きさのものであれば特に制限されないが、1μm〜100μmが摩擦材製造時の成形性および相手材に対する摩耗特性の点からより好ましい。
【0033】
マグネシアの含有量は、摩擦材中0.5〜8質量%であることが相手材攻撃性の点から好ましい。
【0034】
[その他の摩擦調整材]
(充填材)
上記の他に用いられる摩擦調整材として、通常用いられる有機充填材や無機充填材を利用することができる。
有機充填材としては、例えば、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等からなる各種ゴムやタイヤトレッド、ゴムダスト、カシューダストなどの有機物ダスト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。
【0035】
無機充填材としては、例えば、錫、亜鉛等の金属粉、バーミキュライト、マイカ、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、天然黒鉛、鱗片状黒鉛、弾性黒鉛、膨張黒鉛、黒鉛コークス、硫化スズ、板状、鱗片状または粉状のチタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等を挙げることができる。
【0036】
有機充填材の含有量は、摩擦材中1〜15質量%であること好ましい。無機充填材の含有量は、摩擦材中1〜70質量%であることが好ましい。
また、充填材の総量としては、摩擦材中1〜75質量%であることが好ましい。
【0037】
(研削材)
本発明に係る摩擦材は、上述したアルミナ、クロマイト及びマグネシア以外の研削材(以下、「その他研削材」と称することがある。)を含んでいてもよい。
研削材の粒径は小さいほどマイルドな研削材となるが、小さすぎると研削材としての役目を果たさなくなる。一方、粒径が大きいほど相手材を研削して摩擦係数を向上させるが、大きすぎると相手材を過剰に研削する。研削材の種類や形状、モース硬度に応じて、粒径や含有量を調整することが必要である。
【0038】
その他研削材としてモース硬度が7以上の研削材を用いると、高速・高負荷での制動で要求される高い摩擦係数を得られる。 モース硬度が7以上である研削材は例えば、シリカ、シリコンカーバイド、ムライト、安定化ジルコニア、珪酸ジルコニウム等が挙げられ、相手材を研削し摩擦係数を向上させる役割がある。
この中でも、安定化ジルコニア及び珪酸ジルコニウムの少なくとも一方を研削材として用いることが高速・高負荷での制動で要求される高い摩擦係数を得られる点から好ましく、安定化ジルコニアおよび珪酸ジルコニウムの少なくともいずれか一方を用いることがより好ましい。これら研削材は単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
特に、高速・高負荷での制動で要求される高い摩擦係数を得るために、熱的に安定な立方晶系の安定化ジルコニアを含有することが好ましい。
安定化ジルコニアの調製は、例えば天然ジルコニアであるバッデライトをカルシア(CaO)、イットリア(Y
2O
3)、またはマグネシア(MgO)などの安定化剤を数%添加して電融・安定化処理することにより調製される。この処理により、単斜晶系のジルコニアは立方晶系となって相転移を起こさなくなり、熱的に安定化される。
【0040】
その安定化率、即ち、ジルコニア結晶中の立方晶系の割合は、初期の摩擦係数の安定化に影響しないので任意でよいが、安定化率50%未満の部分安定化ジルコニアの場合は、相手材であるディスクロータの摩耗量が著しく増加することが知られており、相手材の硬度によっては相手材の摩耗量が大きくなることから、安定化率は50%以上のものが望ましい。しかし、相手材の摩耗量があまり大きくならない場合は、安定化率50%未満でも差し支えない。
なお、安定化剤が固溶した立方晶系のみで構成される100%安定化ジルコニアを得るために必要な安定化剤の添加量は、例えば、次のとおりである。ここでの添加量は天然ジルコニアに対する量である。
カルシア(CaO):4〜8質量%
イットリア(Y
2O
3):6〜10質量%
マグネシア(MgO):4〜8質量%
【0041】
本発明ではモース硬度7以上の研削材を、摩擦材に対して1〜20質量%含有することが好ましく、3〜10質量%が更に好ましい。この範囲であれば高速・高負荷の制動時での摩擦係数を向上させ相手材攻撃性を小さくすることができる。
本発明ではモース硬度7以上の研削材は平均粒径が3〜20μmが好ましい。この範囲であれば高速・高負荷の制動時での摩擦係数を向上させ相手材攻撃性を小さくすることができる。なお、本発明において粒径はレーザー回折粒度分布法により測定したd50粒径の値を用いた。
【0042】
その他研削材としてモース硬度が7未満の研削材を用いると、摩擦係数(効き)と相手材攻撃性のバランスの点から好ましい。モース硬度7未満のその他研削材としては、四三酸化鉄、マグネシア、クロマイト等を挙げることができる。
【0043】
なお、アルミナのモース硬度は7以上であり、マグネシア及びクロマイトのモース硬度は7未満である。
本発明において、アルミナ、クロマイト、マグネシア及びその他研削材を含む研削材全体の含有量は、摩擦材中通常1〜30質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。
【0044】
[その他の繊維基材]
本発明に係る摩擦材に含まれるその他繊維基材して、有機繊維、無機繊維及びスチール繊維とアルミニウム繊維とを除いたその他金属繊維が挙げられる。
(有機繊維、無機繊維)
有機繊維としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、セルロース繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられる。中でもアラミド繊維が摩擦材のマトリクス強度の点から好ましい。
無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、生体溶解性無機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール等が挙げられる。
【0045】
(その他金属繊維)
その他金属繊維としては、亜鉛、錫および錫合金、ステンレス等が挙げられる。
【0046】
上記その他の繊維基材は単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。また、スチール繊維及びアルミニウム繊維も含む、繊維基材全体の含有量は、摩擦材中通常1〜40質量%であり、好ましくは5〜30質量%である。
【0047】
[結合材]
本発明に係る摩擦材には、通常用いられる結合材が含まれていればよい。
結合材としては、エラストマー変性フェノール樹脂、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。なお、各種変性フェノール樹脂には炭化水素樹脂変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0048】
エラストマー変性フェノール樹脂において、フェノール樹脂を変性させるエラストマーはフェノール樹脂に可塑性を与えるものであればよく、架橋した天然ゴムや合成ゴムが例示される。
フェノール樹脂を変性させるエラストマーとしては、アクリルゴム、シリコーンゴム等が好ましく用いられる。エラストマー変性フェノール樹脂は単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
エラストマー変性フェノール樹脂は摩擦材全体中に5〜20質量%含有することが好ましく、5〜15質量%含有することが更に好ましい。この範囲であれば、金属成分由来の凝着被膜が無くても、低温での摩擦係数の安定化を図ることができる。
【0049】
なお、本発明において、結合材は摩擦材全体中、通常は5〜20質量%、好ましくは5〜15質量%用いられる。
【0050】
[摩擦材の製造方法]
本発明の摩擦材を製造するには、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研摩等の処理を施すことにより製造することができる。
上記摩擦材を備えたブレーキパッドは、以下の工程(1)〜(4)により製造することができる。
(1)鋼板(プレッシャプレート)を板金プレスにより所定の形状に成形する工程。
(2)所定の形状に成形された鋼板に脱脂処理、化成処理及びプライマー処理を施し、接着剤を塗布する工程。
(3)上記(1)および(2)の工程を経たプレッシャプレートと、上記摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着する工程。
(4)その後アフタキュアを行い、最終的に研摩や表面焼き、塗装等の仕上げ処理を施す工程。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<実施例1〜22および比較例1〜4>
摩擦材の配合材料を表1に示す配合組成(質量%)に従って混合機にて均一に混合し、摩擦材混合物を得た。続いて摩擦材混合物を常温、圧力20MPaで10秒間予備成形した。成形後の予備成形品を熱成形型に投入し、予め接着剤を塗布した金属板(プレッシャープレート:P/P)を重ね、温度150℃、成形面圧40MPaで5分間加熱圧縮成形を行った。この加熱圧縮成形体に対し、温度220℃で3時間熱処理し、所定の厚みに研摩・塗装することで、実施例1〜22及び比較例1〜4に係る摩擦材を含む摩擦パッドを得た。
実施例及び比較例では、クロマイトとして、組成が(Fe,Mg)O・(Cr,Al)
2O
3、d50粒径が12μmのものを用いた。
Fe−Al金属間化合物としてはFe
3Al、FeAl
2、Fe
2Al
5の3つの化合物の混合物でありFe:Al=50:50(質量比)である粉砕品を用い、そのd50粒径は40μmであった。なお、表1中「フェロアルミ粉」は、この粉砕品のことを表す。
【0052】
【表1】
【0053】
得られた摩擦パッドの評価方法を以下に示す。
(1)摩擦特性
JASO C406(一般性能試験)に準拠した摩擦特性評価を実施した。摩擦特性の評価はフルサイズダイナモメーターを用いてドライ条件(乾燥時)と水濡れ条件で第二効力試験をそれぞれ行って摩擦係数μを求め、乾燥時における摩擦係数を100%とした場合の水濡れ条件における摩擦係数の変動率を制動変化率として求めた。試験条件は、制動初速度100km/h、減速度5.88m/s
2で行った。
なお、水濡れ条件での評価は、水掛け条件を乾燥状態での摺り合わせ後、ロータ温度が50℃まで冷却された時点で散水開始し、2L/minの水量で試験終了まで連続散水した。
一般に摩擦係数μは、より高い方が好まれる傾向が認められ、第二効力試験においては、摩擦係数μが高いほど好ましいが、相手材攻撃性とのバランスを考慮し、適宜、所望の摩擦係数となるように調整する。
【0054】
(2)相手材攻撃性
JASO C406:2000(フルサイズダイナモメータ試験法)に準拠した摩擦特性評価を実施した後の、ディスクロータ(相手材)の摩耗量を評価した。なお、ディスクロータにはFC200相当を用いた。
【0055】
上記(1)及び(2)の評価結果を表2及び表3に示す。
表中、水濡れ効力(制動変化)の評価において、制動変化率が10%未満のものを○、10%以上20%未満のものを△、20%以上のものを×で表している。
相手材攻撃性については、相手材のロータ摩耗量が15μm以下のものを○、15μmより大きく20μm未満のものを△、20μm以上のものを×で表している。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
比較例1の摩擦パッドは銅繊維を含有しており、配合組成はNAO(Non−Asbestos Organic)材の摩擦材として従来一般的に用いられる配合組成に相当するものである。
なお、摩擦パッドの相手材攻撃性は表中では15μm以下を○としたが、実用上は20μm未満であれば有用であると言える。そのため、表中の相手攻撃性が△であっても十分に実用上利用可能な性能を有していると言える。
【0059】
これに対し、従来の摩擦パッドに含まれる摩擦材から銅成分を排除すると、比較例2に示すように、水濡れ条件と乾燥条件における摩擦係数の差(制動変化率)が大きくなり、摩擦特性が不安定になっていることが分かる。また、銅繊維の代わりにスチール繊維の含有量を増やして金属繊維の量を一定にしようとすると、相手材の摩耗量が非常に大きくなり、相手材攻撃性が増大してしまう。
【0060】
しかしながら、銅成分を含まなくても、本願発明の構成にすることにより、制動変化率が小さく摩擦特性が安定化し、かつ相手材攻撃性にも優れた摩擦材が得られ、従来と同等またはそれ以上の性能を示すことが分かった(実施例1〜22)。
【0061】
銅成分を含まない摩擦材において、アルミニウム、アルミナ及びスチール繊維を含むものの、クロマイト含有量を0質量%(クロマイトを含まない)とすると、制動変化率は20%を超え、さらに相手材攻撃性も18μmと、性能は格段に悪くなる(比較例4)。
実施例1〜5の結果より、クロマイトを含有することで水濡れ時の摩擦係数が安定化し、さらにクロマイトの含有量を調整することにより、相手材を過剰に研削することなく、良好な相手材攻撃性が得られることが分かる。
【0062】
本発明に係る摩擦材は、アルミナも摩擦特性の安定化に寄与する。
d50粒径が5μmのアルミナをわずか0.5質量%でも含有していると、制動変化率及び相手材攻撃性に共に優れた摩擦材が得られるのに対して(実施例6)、アルミナを含有しないと制動変化率が25%を超え、摩擦特性が非常に不安定になる(比較例3)。
【0063】
本発明に係る摩擦材に含まれるアルミニウムは相手材の過剰な摩耗防止及び摩擦面上への被膜形成の点から用いられるが、その形状は繊維状に限らず、粉末状であっても同様の効果が得られることが分かった(実施例14)。またアルミニウムに代えてFe−Al金属間化合物を用いて良好な結果が得られることが分かった(実施例21)。これは、相手材に良好な凝着被膜を形成できるためであると考えられる。
またさらに、アルミニウムとFe−Al金属間化合物とを併用することによって、測定条件である高速からの制動であっても、より安定した摩擦特性が得られ、相手材攻撃性も低減する(実施例17〜20)。
【0064】
以上より、銅成分を含まない摩擦材であっても、アルミニウム及びFe−Al金属間化合物の少なくともいずれか一方、アルミナ、クロマイト、並びにスチール繊維を含有することにより、制動初速度100km/h、減速度5.88m/s
2といった高温高速の条件での制動時であっても、水濡れ効力が向上することで摩擦係数が安定化し、相手材攻撃性にも優れた摩擦材が得られることが分かった。