特許第6037934号(P6037934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037934
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】車両用空調システム
(51)【国際特許分類】
   B61D 27/00 20060101AFI20161128BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B61D27/00 D
   B60H1/22 651C
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-104096(P2013-104096)
(22)【出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-223853(P2014-223853A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085198
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 久夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098604
【弁理士】
【氏名又は名称】安島 清
(74)【代理人】
【識別番号】100087620
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 範夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125494
【弁理士】
【氏名又は名称】山東 元希
(74)【代理人】
【識別番号】100141324
【弁理士】
【氏名又は名称】小河 卓
(74)【代理人】
【識別番号】100153936
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 健誠
(74)【代理人】
【識別番号】100160831
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 元
(72)【発明者】
【氏名】中島 康裕
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−016976(JP,A)
【文献】 実開昭59−132036(JP,U)
【文献】 特開昭62−216861(JP,A)
【文献】 特開平09−207541(JP,A)
【文献】 特開2012−017003(JP,A)
【文献】 特開2012−148746(JP,A)
【文献】 特開昭50−150108(JP,A)
【文献】 特許第3432684(JP,B2)
【文献】 特開平07−186947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 27/00
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に空気を吹き出す吹出口と前記車室内の空気を吸い込むリターン口とを備え、前記吹出口及び前記リターン口が前記車室の天井部に配置されるヒートポンプ式空調装置と、
前記リターン口に吸い込まれる前記車室内の空気の温度Trを検出するリターン温度センサと、
前記車室内の座席下方に設けられる電気ヒータと、
前記座席下方の温度Tuを検出する座席下方温度センサと、
前記温度Tr、前記温度Tu及び設定温度に基づいて前記ヒートポンプ式空調装置及び前記電気ヒータを制御する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記温度Tr及び前記設定温度に基づいて、前記ヒートポンプ式空調装置及び前記電気ヒータの総暖房能力を決定し、
前記温度Tr及び前記温度Tuに基づいて、前記ヒートポンプ式空調装置の暖房能力と前記電気ヒータの暖房能力との比である暖房能力比を設定すること
を特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記温度Trと前記温度Tuとの差が小さいほど、前記ヒートポンプ式空調装置の暖房能力が前記電気ヒータの暖房能力に対して相対的に高くなるように、前記暖房能力比を設定すること
を特徴とする請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記設定温度と前記温度Trとの差に基づいて前記総暖房能力を決定すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用空調システム。
【請求項4】
前記吹出口から吹き出される空気の風向を所定の揺動角度で揺動させる横流ファンをさらに有し、
前記制御装置は、前記温度Tr及び前記温度Tuに基づいて前記揺動角度を設定すること
を特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記温度Trと前記温度Tuとの差が大きいほど、前記揺動角度を大きく設定すること
を特徴とする請求項4に記載の車両用空調システム。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記温度Trと前記温度Tuとの差が第1の値未満の場合には、前記ヒートポンプ式空調装置のみによる暖房を行い、
前記温度Trと前記温度Tuとの差が前記第1の値以上で第2の値未満の場合には、前記ヒートポンプ式空調装置及び前記電気ヒータの双方による暖房を行い、
前記温度Trと前記温度Tuとの差が前記第2の値以上の場合には、前記電気ヒータのみによる暖房を行うこと
を特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【請求項7】
前記車室内の壁部の温度Twを検出する壁部温度センサをさらに有し、
前記制御装置は、前記温度Tr、前記温度Tu、前記温度Tw及び前記設定温度に基づいて前記ヒートポンプ式空調装置及び前記電気ヒータを制御するものであり、
前記制御装置は、
前記温度Tr、前記温度Tw及び前記設定温度に基づいて前記総暖房能力を決定し、
前記温度Tr、前記温度Tu及び前記温度Twに基づいて前記暖房能力比を設定すること
を特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記温度Tr、前記温度Tu及び前記温度Twのうちいずれが最大であるかに基づいて前記暖房能力比を設定すること
を特徴とする請求項7に記載の車両用空調システム。
【請求項9】
前記制御装置は、
前記温度Tr及び前記温度Twに基づいて車内温度を算出し、
前記設定温度と前記車内温度との差に基づいて前記総暖房能力を決定すること
を特徴とする請求項7又は請求項8に記載の車両用空調システム。
【請求項10】
前記制御装置は、
前記温度Tr、前記温度Tu及び前記温度Twのうち前記温度Tuが最大である場合、前記ヒートポンプ式空調装置のみによる暖房を行い、
前記温度Tr、前記温度Tu及び前記温度Twのうち前記温度Twが最大である場合、前記温度Trと前記温度Tuとの差が第3の値未満であるときには、前記ヒートポンプ式空調装置のみによる暖房を行い、前記温度Trと前記温度Tuとの差が前記第3の値以上であるときには、前記ヒートポンプ式空調装置及び前記電気ヒータの双方による暖房を行い、
前記温度Tr、前記温度Tu及び前記温度Twのうち前記温度Trが最大である場合、前記温度Trと前記温度Tuとの差が第4の値未満であるときには、前記ヒートポンプ式空調装置及び前記電気ヒータの双方による暖房を行い、前記温度Trと前記温度Tuとの差が前記第4の値以上であるときには、前記電気ヒータのみによる暖房を行うこと
を特徴とする請求項7〜請求項9のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ式空調装置と電気ヒータとを備えた車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の天井に装備されたヒートポンプ式空調装置と、座席の下に設けられた暖房用ヒータとを併用運転する車両用空調装置が開示されている。この車両用空調装置は、併用運転の開始から一定時間経過した後に、ヒートポンプ式空調装置を運転停止状態にし、暖房用ヒータのみを運転させる制御手段を有している。
【0003】
特許文献2には、冷房及び暖房両用のヒートポンプ式冷凍サイクルと、冷房専用の冷凍サイクルとを備えた鉄道車両用空調装置が開示されている。この鉄道車両用空調装置は、車両の座席下に設けられている電気ヒータだけでは暖房能力が不足する場合に、ヒートポンプ式冷凍サイクルを暖房補助モードで暖房運転するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3432684号公報
【特許文献2】特開平7−186947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の車両用空調装置では、座席の下に設けられた暖房用ヒータを主とし、ヒートポンプ式空調装置を従とした暖房制御を行っている。一般に、車両の天井に装備されたヒートポンプ式空調装置により暖房を行うと、暖気が天井付近に集まり、車内の上部と下部との間で温度差が生じてしまう。そのため、同文献の車両用空調装置では、ヒートポンプ式空調装置による暖房は、短時間で車内温度を上昇させる場合(例えば、営業運転開始前等)に限って行われ、通常の営業運転中には行われない。また、暖房用ヒータの消費電力は、暖房能力が同じヒートポンプ式空調装置の消費電力の2倍以上である。このため、暖房用ヒータを主とした暖房制御が行われる同文献の車両用空調装置では、暖房時の消費電力が大きくなってしまうという問題点があった。
【0006】
同様に、特許文献2の鉄道車両用空調装置では、座席下に設けられた電気ヒータを主とし、ヒートポンプ式冷凍サイクルを従とした暖房制御を行っている。電気ヒータとヒートポンプ式冷凍サイクルとが併用される暖房補助モードに設定されるのは、電気ヒータだけでは暖房能力が不足する場合(例えば、営業運転開始前や厳寒期の営業運転時等)に限られており、通常の暖房運転時にはヒートポンプ式冷凍サイクルを用いた暖房が行われない。このため、同文献の鉄道車両用空調装置では、特許文献1の車両用空調装置と同様に、暖房時の消費電力が大きくなってしまうという問題点があった。
【0007】
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたものであり、暖房運転時の消費電力を低減することができる車両用空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両用空調システムは、車室内に空気を吹き出す吹出口と前記車室内の空気を吸い込むリターン口とを備え、前記吹出口及び前記リターン口が前記車室の天井部に配置されるヒートポンプ式空調装置と、前記リターン口に吸い込まれる前記車室内の空気の温度Trを検出するリターン温度センサと、前記車室内の座席下方に設けられる電気ヒータと、前記座席下方の温度Tuを検出する座席下方温度センサと、前記温度Tr、前記温度Tu及び設定温度に基づいて前記ヒートポンプ式空調装置及び前記電気ヒータを制御する制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記温度Tr及び前記設定温度に基づいて、前記ヒートポンプ式空調装置及び前記電気ヒータの総暖房能力を決定し、前記温度Tr及び前記温度Tuに基づいて、前記ヒートポンプ式空調装置の暖房能力と前記電気ヒータの暖房能力との比である暖房能力比を設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温度Tr、温度Tu及び設定温度に基づき、ヒートポンプ式空調装置と電気ヒータとを適切に併用することができるため、暖房運転時の消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態1に係る車両用空調システム1の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る車両用空調システム1における運転状態設定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態1に係る車両用空調システム1における暖房運転パターン1〜3のそれぞれでのヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の具体例を示す図である。
図4】本発明の実施の形態1に係る車両用空調システム1における暖房運転パターン1の概念図である。
図5】本発明の実施の形態1に係る車両用空調システム1における暖房運転パターン2の概念図である。
図6】本発明の実施の形態1に係る車両用空調システム1における暖房運転パターン3の概念図である。
図7】本発明の実施の形態2に係る車両用空調システム2の概略構成を示す図である。
図8】本発明の実施の形態2に係る車両用空調システム2における運転状態設定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係る車両用空調システムについて説明する。図1は、本実施の形態に係る車両用空調システム1の概略構成を示す図である。図1では、車両用空調システム1が搭載された鉄道車両100を当該鉄道車両100の前後方向(前進又は後退方向)に垂直な面で切断した断面を示している。図1に示すように、車両用空調システム1は、冷房運転及び暖房運転が可能なヒートポンプ(H/P)式空調装置10と、暖房用の電気ヒータ30a、30bと、ヒートポンプ式空調装置10及び電気ヒータ30a、30bを制御する制御装置40と、を有している。
【0012】
ヒートポンプ式空調装置10は、鉄道車両100の屋根102上に設置されており、室内送風機11及び室内熱交換器12a、12bを有している。室内送風機11及び室内熱交換器12a、12bは、ヒートポンプ式空調装置10の内部であって後述するリターン口14a、14bと吹出口13との間に形成される空気通路内に配置されている。また、ヒートポンプ式空調装置10は、室内熱交換器12a、12bと共に冷凍サイクルを構成する不図示の圧縮機、四方弁、室外熱交換器及び膨張装置と、室外熱交換器に外気を送風する室外送風機と、を有している。冷凍サイクルは、圧縮機、四方弁、室外熱交換器、膨張装置及び室内熱交換器12a、12bが冷媒配管を介して順次環状に接続された構成を有している。
【0013】
冷房運転時には、冷凍サイクルの圧縮機によって圧縮され吐出された高温高圧のガス冷媒は、四方弁を経由して室外熱交換器に流入する。室外熱交換器に流入したガス冷媒は、室外送風機により送風される外気との熱交換により凝縮し、低温の冷媒となって、室外熱交換器から流出する。室外熱交換器から流出した冷媒は、膨張装置によって膨張及び減圧され、低温低圧の気液二相冷媒となる。この気液二相冷媒は、室内熱交換器12a、12bに流入し、室内送風機11により送風される室内空気との熱交換により蒸発し、低温低圧のガス冷媒となって室内熱交換器12a、12bから流出する。このとき、冷媒に吸熱されて冷却された室内空気は、空調空気(冷風)となって、鉄道車両100の車室101内(空調対象空間)に吹き出される。室内熱交換器12a、12bから流出したガス冷媒は、四方弁を経由して圧縮機に吸入され、再び圧縮される。以上の動作が繰り返される。
【0014】
暖房運転時には、圧縮機によって圧縮され吐出された高温高圧のガス冷媒は、四方弁を経由して室内熱交換器12a、12bに流入する。室内熱交換器12a、12bに流入したガス冷媒は、室内送風機11により送風される室内空気との熱交換により凝縮し、低温の冷媒となって、室内熱交換器12a、12bから流出する。このとき、冷媒から吸熱して加熱された室内空気は、空調空気(温風)となって、車室101内に吹き出される。室内熱交換器12a、12bから流出した冷媒は、膨張装置によって膨張及び減圧され、低温低圧の気液二相冷媒となる。この気液二相冷媒は、室外熱交換器に流入し、室外送風機により送風される外気との熱交換により蒸発し、低温低圧のガス冷媒となって室外熱交換器から流出する。室外熱交換器から流出したガス冷媒は、四方弁を経由して圧縮機に吸入され、再び圧縮される。以上の動作が繰り返される。
【0015】
車室101の天井部103には、車室101内の空気を吸い込むリターン口14a、14bと、リターン口14a、14bに吸い込まれて室内熱交換器12a、12bで冷却又は加熱された空調空気を車室101内に吹き出す吹出口13と、が設けられている。吹出口13は、車室101の左右方向(鉄道車両100の車幅方向)中央部に配置されている。リターン口14a、14bは、吹出口13を挟んで左右両側に配置されている。
【0016】
吹出口13には、当該吹出口13から吹き出される空調空気の風向を制御可能な横流ファン20が設置されている。横流ファン20は、制御装置40の制御により、空調空気の風向を、鉛直下方を中心として車室101の左右方向に所定の揺動角度及び所定の周期で揺動させることができるようになっている。風向の揺動方向は前後方向であってもよい。
【0017】
リターン口14aの近傍には、リターン口14aに吸い込まれた車室101内の空気の温度Tr1を検出するリターン温度センサ41aが設けられている。リターン口14bの近傍には、リターン口14bに吸い込まれた車室101内の空気の温度Tr2を検出するリターン温度センサ41bが設けられている。リターン温度センサ41a、41bは、それぞれ検出した温度Tr1、Tr2の情報を制御装置40に出力するようになっている。制御装置40では、温度Tr1、Tr2に基づきリターン温度Trが設定される。本例では、温度Tr1、Tr2の平均値がリターン温度Trとなる。
【0018】
電気ヒータ30aは、車室101内の図中左方に位置する座席104aの下方に設けられている。電気ヒータ30bは、車室101内の図中右方に位置する座席104bの下方に設けられている。電気ヒータ30a、30bは、制御装置40の制御により、暖房能力を調整できるようになっている。本例では、電気ヒータ30a、30bは互いに同一の暖房能力で動作する。
【0019】
座席104aの下方には、当該座席104a下方の温度Tu1を検出する座席下方温度センサ42aが設けられている。座席下方温度センサ42aは、電気ヒータ30aよりも上方に配置されている。座席104bの下方には、当該座席104b下方の温度Tu2を検出する座席下方温度センサ42bが設けられている。座席下方温度センサ42bは、電気ヒータ30bよりも下方に配置されている。座席下方温度センサ42a、42bは、それぞれ検出した温度Tu1、Tu2の情報を制御装置40に出力するようになっている。制御装置40では、温度Tu1、Tu2に基づき座席下方温度Tuが設定される。本例では、温度Tu1、Tu2の平均値が座席下方温度Tuとなる。電気ヒータ30a、30bの運転時には測定場所(特に、電気ヒータ30a、30bの上下)によって温度が大きく異なるため、本例では、電気ヒータ30aよりも上方に配置された座席下方温度センサ42aと、電気ヒータ30bよりも下方に配置された座席下方温度センサ42bとで一対としている。
【0020】
制御装置40は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート等を備えている。制御装置40は、不図示の設定手段により予め設定された設定温度T0と、リターン温度センサ41a、41bで検出されたリターン温度Tr(例えば、温度Tr1、Tr2の平均値)と、座席下方温度センサ42a、42bで検出された座席下方温度Tu(例えば、温度Tu1、Tu2の平均値)と、に基づいて、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bを制御する。
【0021】
次に、車両用空調システム1の暖房運転制御について説明する。図2は、制御装置40が暖房運転制御の一部として実行する運転状態設定処理の流れの一例を示すフローチャートである。運転状態設定処理では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態が設定される。本例では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の組合せとして、後述する暖房運転パターン1〜3のいずれか1つが選択される。運転状態設定処理は、車両用空調システム1が起動してから停止するまで所定の周期で繰り返し実行される。なお、図2中での条件判断に用いられている閾値は一例であり、他の値を閾値とすることも可能である。
【0022】
図2に示すように、まずステップS1では、設定温度T0とリターン温度Trとに基づいて、ヒートポンプ式空調装置10及び電気ヒータ30a、30bの総暖房能力Pを決定する。総暖房能力Pは、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力と、電気ヒータ30a、30bの暖房能力との総和である。総暖房能力Pは、例えば、設定温度T0とリターン温度Trとの温度差(T0−Tr)に基づいて決定され、温度差(T0−Tr)が大きいほど大きい値となる。
【0023】
次に、ステップS2では、座席下方温度Tuとリターン温度Trとを比較し、リターン温度Trが座席下方温度Tuよりも低いか否か(Tr<Tuの関係を満たすか否か)を判定する。言い換えれば、ステップS2では、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの温度差(Tr−Tu)が0℃未満であるか否かを判定する。リターン温度Trが座席下方温度Tuよりも低い場合(温度差(Tr−Tu)が0℃未満の場合)にはステップS4に進み、リターン温度Trが座席下方温度Tu以上である場合(温度差(Tr−Tu)が0℃以上の場合)にはステップS3に進む。
【0024】
ステップS3では、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの温度差(Tr−Tu)が0℃以上3℃未満であるか否か(0≦(Tr−Tu)<3の関係を満たすか否か)を判定する。温度差(Tr−Tu)が0℃以上3℃未満である場合にはステップS5に進み、温度差(Tr−Tu)が3℃以上である場合にはステップS6に進む。
【0025】
ステップS4では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の組合せを暖房運転パターン1に決定する。ステップS5では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の組合せを暖房運転パターン2に決定する。ステップS6では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の組合せを暖房運転パターン3に決定する。
【0026】
以上のように、ステップS2〜ステップS6では、リターン温度Tr及び座席下方温度Tuに基づいて、暖房運転パターンが決定される。後述するように、暖房運転パターンが決定されることにより、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力と電気ヒータ30a、30bの暖房能力との比である暖房能力比と、横流ファン20の揺動角度と、が設定される。暖房能力比は、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとのそれぞれにおいて総暖房能力Pを分担する割合を表している。
【0027】
ここで、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの温度差(Tr−Tu)と、選択される暖房運転パターンとの関係をみると、温度差(Tr−Tu)が相対的に小さいときに暖房運転パターン1が選択され、温度差(Tr−Tu)がそれより大きいときに暖房運転パターン2が選択され、温度差(Tr−Tu)がそれよりさらに大きいときに暖房運転パターン3が選択される。
【0028】
制御装置40は、上記の運転状態設定処理で設定された暖房運転パターンに基づき、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの暖房運転制御を行う。
【0029】
図3は、暖房運転パターン1〜3のそれぞれでのヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の具体例を示す図である。図4は暖房運転パターン1の概念図であり、図5は暖房運転パターン2の概念図であり、図6は暖房運転パターン3の概念図である。図4図6において、ハッチングを付した太矢印はヒートポンプ式空調装置10付近の暖気の流れを表し、白抜きの太矢印はヒートポンプ式空調装置10付近の冷気(室内空気)の流れを表し、破線矢印は車室101内の暖気の流れを表している。
【0030】
図3に示すように、暖房運転パターン1が選択されると、ヒートポンプ式空調装置10の運転状態は、暖房能力P(すなわち、図2のステップS1で決定された総暖房能力Pに等しい)での暖房運転に設定され、横流ファン20の運転状態は、相対的に小さい揺動角度(本例では10°)での揺動運転に設定され、電気ヒータ30a、30bの運転状態は、オフ(暖房能力0)に設定される。暖房運転パターン1では、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力と電気ヒータ30a、30bの暖房能力との暖房能力比は10:0となる。
【0031】
制御装置40において上記のように設定されることにより、ヒートポンプ式空調装置10及び横流ファン20は図4に示すように動作する。ヒートポンプ式空調装置10は、暖房能力Pでの暖房運転(例えば、設定温度T0とリターン温度Trとに基づく通常の暖房運転)を行う。横流ファン20は、相対的に小さい揺動角度で風向を揺動させる運転を行う。これにより、車室101内の冷気は、リターン口14a、14bを介してヒートポンプ式空調装置10に吸い込まれ、室内熱交換器12a、12bでの熱交換により加熱される。加熱された空調空気は、横流ファン20により相対的に小さい揺動角度で風向を揺動させながら、吹出口13を介して車室101内に吹き出される。これにより、ヒートポンプ式空調装置10から送風される暖気を、車室101下部を含む車室101内の全体に行き渡らせることができる。図4に示す状態では、電気ヒータ30a、30bが停止しているが、ヒートポンプ式空調装置10が暖房能力Pで暖房運転を行うことにより、全体として必要な暖房能力(総暖房能力P)が得られている。
【0032】
図3に戻り、暖房運転パターン2が選択されると、ヒートポンプ式空調装置10の運転状態は、暖房能力0.5Pでの暖房運転に設定され、横流ファン20の運転状態は、相対的に小さい揺動角度(本例では10°)での揺動運転に設定され、電気ヒータ30a、30bの運転状態は、暖房能力0.5Pでの運転に設定される。ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力0.5Pと電気ヒータ30a、30bの暖房能力0.5Pとの和は、図2のステップS1で決定された総暖房能力Pに等しい。暖房運転パターン2では、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力と電気ヒータ30a、30bの暖房能力との暖房能力比は5:5となる。
【0033】
制御装置40において上記のように設定されることにより、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bは図5に示すように動作する。ヒートポンプ式空調装置10は、暖房能力0.5Pでの暖房運転を行う。すなわち、ヒートポンプ式空調装置10は、暖房能力Pでの暖房運転と比較して、半分の暖房能力(例えば、吹出風量は同一だが、吹出風に含まれる熱量が半分となるような暖房能力)で暖房運転を行う。電気ヒータ30a、30bは、暖房能力0.5Pでの運転を行う。すなわち、電気ヒータ30a、30bは、暖房能力Pでの運転と比較して、半分の暖房能力(例えば、発熱量が半分)で運転を行う。横流ファン20は、暖房運転パターン1と同様に、相対的に小さい揺動角度で風向を揺動させる運転を行う。図5に示す状態においても、ヒートポンプ式空調装置10から送風される暖気を車室101内の全体に行き渡らせることができる。また、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとで暖房能力を補い合うことにより、全体として必要な暖房能力(総暖房能力P)が得られている。
【0034】
図3に戻り、暖房運転パターン3が選択されると、ヒートポンプ式空調装置10の運転状態は、送風運転(暖房能力0)に設定され、横流ファン20の運転状態は、暖房運転パターン1及び2よりも大きい揺動角度(本例では30°)での揺動運転に設定され、電気ヒータ30a、30bの運転状態は、暖房能力P(すなわち、図2のステップS1で決定された総暖房能力Pに等しい)での運転に設定される。暖房運転パターン3では、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力と電気ヒータ30a、30bの暖房能力との暖房能力比は0:10となる。
【0035】
制御装置40において上記のように設定されることにより、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bは図6に示すように動作する。ヒートポンプ式空調装置10は、冷凍サイクルの作動を停止させて送風運転のみを行う。電気ヒータ30a、30bは、暖房能力Pでの運転(例えば、設定温度T0とリターン温度Trとに基づく通常の運転)を行う。横流ファン20は、暖房運転パターン1及び2よりも大きい揺動角度で風向を揺動させる運転を行う。図6に示す状態では、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力は0であるが、電気ヒータ30a、30bが暖房能力Pで運転することにより、全体として必要な暖房能力(総暖房能力P)が得られている。また、横流ファン20の揺動角度を大きくすることにより、車室101内の空気を攪拌することができるため、車室101内の温度の均一化を図ることができる。
【0036】
ここで、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの温度差(Tr−Tu)と、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとの暖房能力比との関係をみると、温度差(Tr−Tu)が相対的に小さいとき(例えば、0℃未満のとき)には暖房能力比が10:0に設定され(暖房運転パターン1)、温度差(Tr−Tu)がそれより大きいとき(例えば、0℃以上3℃未満のとき)には暖房能力比が5:5に設定され(暖房運転パターン2)、温度差(Tr−Tu)がそれよりさらに大きいとき(例えば、3℃以上のとき)には暖房能力比が0:10に設定される(暖房運転パターン3)。すなわち、温度差(Tr−Tu)が大きいほど、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力が相対的に低くなり、かつ電気ヒータ30a、30bの暖房能力が相対的に高くなるように暖房能力比が設定される。また、温度差(Tr−Tu)が小さいほど、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力が相対的に高くなり、かつ電気ヒータ30a、30bの暖房能力が相対的に低くなるように暖房能力比が設定される。なお、本例では、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとの暖房能力比が3つのパターンに設定され得るが、暖房能力比のパターンは2つ又は4つ以上であってもよい。ここで、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力がxP(ただし、0<x<1)に設定された場合には、例えば、ヒートポンプ式空調装置10に搭載されている圧縮機の容量制御、又は圧縮機の運転/停止切替え頻度の制御等を行うことにより、吹出風に含まれる熱量がxPとなるように制御される(吹出風量は暖房能力Pのときと同一)。
【0037】
また、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの温度差(Tr−Tu)と、横流ファン20の揺動角度との関係をみると、温度差(Tr−Tu)が相対的に小さいときには揺動角度が相対的に小さい角度(本例では10°)となり(暖房運転パターン1、2)、温度差(Tr−Tu)がそれより大きいときには揺動角度が相対的に大きい角度(本例では30°)となる(暖房運転パターン3)。すなわち、温度差(Tr−Tu)が大きいほど、横流ファン20の揺動角度が大きく設定される。なお、本例では、横流ファン20の揺動角度が2つのパターンに設定され得るが、横流ファン20の揺動角度のパターンは3つ以上であってもよい。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用空調システム1は、車室101内に空気を吹き出す吹出口13と車室101内の空気を吸い込むリターン口14a、14bとを備え、吹出口13及びリターン口14a、14bが車室101の天井部103に配置されるヒートポンプ式空調装置10と、リターン口14a、14bに吸い込まれる車室101内の空気の温度(リターン温度)Trを検出するリターン温度センサ41a、41bと、車室101内の座席104a、104b下方に設けられる電気ヒータ30a、30bと、座席104a、104b下方の温度(座席下方温度)Tuを検出する座席下方温度センサ42a、42bと、リターン温度Tr、座席下方温度Tu及び設定温度T0に基づいてヒートポンプ式空調装置10及び電気ヒータ30a、30bを制御する制御装置40と、を有し、制御装置40は、リターン温度Tr及び設定温度T0に基づいて、ヒートポンプ式空調装置10及び電気ヒータ30a、30bの総暖房能力Pを決定し、リターン温度Tr及び座席下方温度Tuに基づいて、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力と電気ヒータ30a、30bの暖房能力との比である暖房能力比を設定することを特徴とするものである。
【0039】
この構成によれば、設定温度T0、リターン温度Tr及び座席下方温度Tuに基づき、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとを適切に併用することができる。具体的には、例えば、温度差(Tr−Tu)が小さいほど、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力が相対的に高くなり、電気ヒータ30a、30bの暖房能力が相対的に低くなるように暖房能力比を設定する。温度差(Tr−Tu)が小さいとき(典型的には、Tr<Tuのとき)には、車室101内の空気の自然対流による温度むらの改善が期待できるため、全体として必要な暖房能力(総暖房能力P)を維持しつつ、消費電力の低いヒートポンプ式空調装置10の暖房能力を相対的に高く設定する。逆に、温度差(Tr−Tu)が大きいときには、自然対流による温度むらの改善が期待できないため、車室101内の下部を暖めるために電気ヒータ30a、30bの暖房能力を相対的に高く設定する。これにより、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとを備えた車両用空調システム1において、電気ヒータ30a、30bを必ずしも主とせず、ヒートポンプ式空調装置10を多用した暖房制御を行うことができる。ヒートポンプ式空調装置10の消費電力は、暖房能力が同じ電気ヒータの消費電力の数分の1である。したがって、本実施の形態に係る車両用空調システム1によれば、暖房運転時の消費電力を低減することができる。
【0040】
また、本実施の形態に係る車両用空調システム1は、吹出口13から吹き出される空気の風向を所定の揺動角度で揺動させる横流ファン20をさらに有し、制御装置40は、リターン温度Tr及び座席下方温度Tuに基づいて揺動角度を設定することを特徴とするものである。
【0041】
この構成によれば、ヒートポンプ式空調装置10及び電気ヒータ30a、30bに加えて横流ファン20を適切に併用することができるため、ヒートポンプ式空調装置10を多用しても車室101内の上部と下部との間の温度差を緩和することができる。したがって、本実施の形態に係る車両用空調システム1によれば、暖房運転時の消費電力を低減しつつ、車室101内の快適性を向上させることができる。
【0042】
また、本実施の形態に係る車両用空調システム1は、制御装置40が、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの差が第1の値(本例では0℃)未満の場合には、ヒートポンプ式空調装置10のみによる暖房を行い、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの差が第1の値以上で第2の値(本例では3℃)未満の場合には、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとの双方による暖房を行い、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの差が第2の値以上の場合には、電気ヒータ30a、30bのみによる暖房を行うことを特徴とするものである。
【0043】
この構成によれば、消費電力の高い電気ヒータ30a、30bの使用頻度を減少させ、消費電力の低いヒートポンプ式空調装置10の使用頻度を増加させることができるため、暖房運転時の消費電力を低減することができる。
【0044】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る車両用空調システムについて説明する。図7は、本実施の形態に係る車両用空調システム2の概略構成を示す図である。図7では、車両用空調システム2が搭載された鉄道車両100を当該鉄道車両100の前後方向に垂直な面で切断した断面を示している。なお、実施の形態1に係る車両用空調システム1と同一の機能及び作用を有する構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
図7に示すように、本実施の形態に係る車両用空調システム2は、実施の形態1の車両用空調システム1と比較すると、壁部温度センサ43a、43bを備える点に特徴を有している。壁部温度センサ43aは、車室101の図中左側の内壁面上に配置されており、車室101内の壁部近傍の温度Tw1を検出する。壁部温度センサ43bは、車室101の図中右側の内壁面上に配置されており、車室101内の壁部近傍の温度Tw2を検出する。壁部温度センサ43a、43bはいずれも、車室101の床面からの高さが100〜150cm程度の位置に配置されている。壁部温度センサ43a、43bは、それぞれ検出した温度Tw1、Tw2の情報を制御装置40(図7では図示せず)に出力するようになっている。制御装置40では、温度Tw1、Tw2に基づき壁部温度Twが設定される。本例では、温度Tw1、Tw2の平均値が壁部温度Twとなる。本実施の形態の制御装置40は、リターン温度Tr、壁部温度Tw、座席下方温度Tu及び設定温度T0に基づいて、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bを制御するものである。
【0046】
図8は、制御装置40が実行する運転状態設定処理の流れの一例を示すフローチャートである。運転状態設定処理では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態が設定される。本例では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の組合せとして、暖房運転パターン1〜3のいずれか1つが選択される。運転状態設定処理は、車両用空調システム2が起動してから停止するまで所定の周期で繰り返し実行される。なお、図8中での条件判断に用いられている閾値は一例であり、他の値を閾値とすることも可能である。
【0047】
図8に示すように、まずステップS11では、設定温度T0と車内温度Tiとに基づいて、ヒートポンプ式空調装置10及び電気ヒータ30a、30bの総暖房能力Pを決定する。車内温度Tiは、リターン温度Tr及び壁部温度Twから算出される。本例では、リターン温度Tr及び壁部温度Twの平均値が車内温度Tiとなる。言い換えれば、ステップS11では、設定温度T0、リターン温度Tr及び壁部温度Twに基づいて総暖房能力Pが決定される。総暖房能力Pは、例えば、設定温度T0と車内温度Tiとの温度差(T0−Ti)に基づいて決定され、温度差(T0−Ti)が大きいほど大きい値となる。
【0048】
次に、ステップS12では、リターン温度Tr、壁部温度Tw及び座席下方温度Tuを比較し、3つの温度のうち座席下方温度Tuが最大であるか否かを判定する。座席下方温度Tuが最大である場合にはステップS16に進み、それ以外の場合にはステップS13に進む。
【0049】
ステップS13では、リターン温度Tr、壁部温度Tw及び座席下方温度Tuを比較し、3つの温度のうち壁部温度Twが最大であるか否かを判定する。壁部温度Twが最大である場合にはステップS14に進み、それ以外の場合(リターン温度Trが最大である場合)にはステップS15に進む。
【0050】
ステップS14では、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの温度差(Tr−Tu)が3℃未満であるか否か((Tr−Tu)<3の関係を満たすか否か)を判定する。温度差(Tr−Tu)が3℃未満である場合にはステップS16に進み、それ以外の場合にはステップS17に進む。
【0051】
ステップS15では、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの温度差(Tr−Tu)が3℃未満であるか否か(0≦(Tr−Tu)<3の関係を満たすか否か)を判定する。なお、ステップS15ではリターン温度Trが最大であるため、温度差(Tr−Tu)は必ず0℃以上となる。温度差(Tr−Tu)が3℃未満である場合にはステップS17に進み、それ以外の場合にはステップS18に進む。
【0052】
ステップS16では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の組合せを暖房運転パターン1に決定する。ステップS17では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の組合せを暖房運転パターン2に決定する。ステップS18では、ヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態の組合せを暖房運転パターン3に決定する。
【0053】
以上のように、ステップS12〜ステップS18では、リターン温度Tr、壁部温度Tw及び座席下方温度Tuに基づいて、暖房運転パターンが決定される。また、ステップS12〜ステップS18では、リターン温度Tr、壁部温度Tw及び座席下方温度Tuのうちいずれが最大であるかに基づいて、暖房運転パターンが決定される。暖房運転パターンが決定されることにより、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力と電気ヒータ30a、30bの暖房能力の比である暖房能力比と、横流ファン20の揺動角度と、が設定される。
【0054】
暖房運転パターン1〜3のそれぞれでのヒートポンプ式空調装置10、横流ファン20及び電気ヒータ30a、30bの運転状態については、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0055】
ここで、リターン温度Tr、壁部温度Tw及び座席下方温度Tuと、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとの暖房能力比との関係をみると、リターン温度Tr、壁部温度Tw及び座席下方温度Tuのうち座席下方温度Tuが最大である場合、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとの暖房能力比が10:0に設定される(暖房運転パターン1)。リターン温度Tr、壁部温度Tw及び座席下方温度Tuのうち壁部温度Twが最大である場合、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの温度差(Tr−Tu)が相対的に小さいとき(例えば、3℃未満のとき)には暖房能力比が10:0に設定され(暖房運転パターン1)、温度差(Tr−Tu)が相対的に大きいとき(例えば、3℃以上のとき)には暖房能力比が5:5に設定される(暖房運転パターン2)。リターン温度Tr、壁部温度Tw及び座席下方温度Tuのうちリターン温度Trが最大である場合、温度差(Tr−Tu)が相対的に小さいとき(例えば、3℃未満のとき)には暖房能力比が5:5に設定され(暖房運転パターン2)、温度差(Tr−Tu)が相対的に大きいとき(例えば、3℃以上のとき)には暖房能力比が0:10に設定される(暖房運転パターン3)。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用空調システム2は、車室101内の壁部温度Twを検出する壁部温度センサ43a、43bをさらに有し、制御装置40は、リターン温度Tr、座席下方温度Tu、壁部温度Tw及び設定温度T0に基づいてヒートポンプ式空調装置10及び電気ヒータ30a、30bを制御するものであり、制御装置40は、リターン温度Tr、壁部温度Tw及び設定温度T0に基づいて、ヒートポンプ式空調装置10及び電気ヒータ30a、30bの総暖房能力Pを決定し、リターン温度Tr、座席下方温度Tu及び壁部温度Twに基づいて、ヒートポンプ式空調装置10の暖房能力と電気ヒータ30a、30bの暖房能力との比である暖房能力比を設定することを特徴とするものである。
【0057】
この構成によれば、リターン温度Tr、座席下方温度Tu及び設定温度T0だけでなく、壁部温度Twも考慮して総暖房能力P及び暖房能力比を決定しているため、実施の形態1と比較して、温調制御の精度及び車内温度平均化の精度をさらに高くすることができる。
【0058】
また、本実施の形態に係る車両用空調システム2は、制御装置40が、リターン温度Tr、座席下方温度Tu及び壁部温度Twのうち座席下方温度Tuが最大である場合、ヒートポンプ式空調装置10のみによる暖房を行い、リターン温度Tr、座席下方温度Tu及び壁部温度Twのうち壁部温度Twが最大である場合、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの差が第3の値(本例では3℃)未満であるときには、ヒートポンプ式空調装置10のみによる暖房を行い、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの差が第3の値以上であるときには、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとの双方による暖房を行い、リターン温度Tr、座席下方温度Tu及び壁部温度Twのうちリターン温度Trが最大である場合、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの差が第4の値(本例では3℃)未満であるときには、ヒートポンプ式空調装置10と電気ヒータ30a、30bとの双方による暖房を行い、リターン温度Trと座席下方温度Tuとの差が第4の値以上であるときには、電気ヒータ30a、30bのみによる暖房を行うことを特徴とするものである。
【0059】
この構成を有することにより、本実施の形態では、電気ヒータ30a、30bのみによる暖房を行う暖房運転パターン3の成立条件を実施の形態1よりも限定することができる。このため、本実施の形態では、消費電力の低いヒートポンプ式空調装置10を用いて暖房を実行する頻度が、実施の形態1よりも増加する。したがって、本実施の形態に係る車両用空調システム2によれば、暖房運転時の消費電力をさらに低減することができる。
【0060】
その他の実施の形態.
本発明は、上記実施の形態に限らず種々の変形が可能である。
例えば、上記実施の形態では、3つの暖房運転パターンを備えた車両用空調システムを例に挙げたが、暖房運転パターンは2つ又は4つ以上備えられていてもよい。
【0061】
上記実施の形態において、ヒートポンプ式空調装置又は電気ヒータのいずれか一方のみによる暖房を行う暖房運転パターンが選択された場合、当該一方の暖房能力が総暖房能力Pに満たないときには、他方を補助的に運転するように制御してもよい。
【0062】
また、上記実施の形態において、ヒートポンプ式空調装置及び電気ヒータのそれぞれの暖房能力の値は、相互に比較するのが容易となるように正規化された状態で制御装置40のROMに記憶されていてもよい。
【0063】
また上記の各実施の形態や変形例は、互いに組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1、2 車両用空調システム、10 ヒートポンプ式空調装置、11 室内送風機、12a、12b 室内熱交換器、13 吹出口、14a、14b リターン口、20 横流ファン、30a、30b 電気ヒータ、40 制御装置、41a、41b リターン温度センサ、42a、42b 座席下方温度センサ、43a、43b 壁部温度センサ、100 鉄道車両、101 車室、102 屋根、103 天井部、104a、104b 座席。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8