(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037966
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】車載機器および車輌ヒューズ溶断方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/08 20060101AFI20161128BHJP
H02H 3/087 20060101ALI20161128BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20161128BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
H02H3/08 P
H02H3/087
H02J7/00 S
B60R16/02 635
B60R16/02 650S
B60R16/02 645Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-159119(P2013-159119)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-33161(P2015-33161A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2015年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123434
【弁理士】
【氏名又は名称】田澤 英昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100173934
【弁理士】
【氏名又は名称】久米 輝代
(74)【代理人】
【識別番号】100156351
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 秀央
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩明
【審査官】
永井 啓司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−087608(JP,A)
【文献】
特開2010−041836(JP,A)
【文献】
特開平09−284981(JP,A)
【文献】
特開平10−124154(JP,A)
【文献】
特開平11−069601(JP,A)
【文献】
特開平11−191921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R16/00−17/02
H02H3/08−3/253
H02J7/00−7/12
7/34−7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載バッテリからの電力を供給するバッテリ電源ラインに複数台接続される車載機器であって、
前記バッテリ電源ラインの過電流を検知する過電流検知回路と、
前記バッテリ電源ラインに電流を流すための負荷回路と、
前記過電流検知回路により過電流が検知された場合に、前記負荷回路を動作させて前記バッテリ電源ラインに流れる電流を増加させ、前記バッテリ電源ラインに配設された車輌ヒューズを溶断する制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記バッテリ電源ラインに接続しているいずれかの車載機器において前記バッテリ電源ラインの過電流が検知され、前記過電流を検知した他の車載機器から過電流の検知が通知された場合に、自機器が備える負荷回路を動作させることにより、前記自機器が備える負荷回路の電流と前記過電流を検知した前記他の車載機器の負荷回路の電流とを合わせて流して前記車輌ヒューズを溶断することを特徴とする車載機器。
【請求項2】
前記制御回路は、前記バッテリ電源ラインに接続している他の車載機器の制御回路との間が車内ネットワークを介して通信接続されており、前記他の車載機器の過電流検知回路による過電流の検知が、前記車内ネットワークを介して通知されることを特徴とする請求項1記載の車載機器。
【請求項3】
前記過電流検知回路は、前記バッテリ電源ラインに接続している他の車載機器の制御回路との間が信号ラインを介して接続されており、
前記制御回路は、前記他の車載機器の過電流検知回路による過電流の検知が、前記信号ラインを介して通知されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車載機器。
【請求項4】
車載バッテリからの電力を複数台の請求項1記載の車載機器に対して供給するバッテリ電源ラインに配設された車輌ヒューズを溶断する車輌ヒューズ溶断方法であって、
前記バッテリ電源ラインに接続している前記複数台の車載機器の過電流検知回路により前記バッテリ電源ラインの過電流を検知するステップと、
前記複数台の車載機器のいずれかにおいて前記バッテリ電源ラインの過電流が検知された場合、前記過電流を検知した車載機器から前記バッテリ電源ラインに接続している他の車載機器へ前記過電流の検知を通知するステップと、
前記過電流を検知した車載機器の制御回路と前記過電流の検知を通知された車載機器の制御回路が、各々の負荷回路の電流を合わせて流すことによって前記車輌ヒューズを溶断するステップとを備える車輌ヒューズ溶断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輌のバッテリ電源ラインにおける過電流を検知して内部回路を保護する機能を有した車載機器および車輌ヒューズ溶断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器で過電流が検知された場合、他の回路から遮断するか、ヒューズを溶断させて、故障箇所を他の回路から隔離することが行われている。
例えば、特許文献1には、車輌の電気負荷への電力を供給する配線の途中に、異常電流が流れたときに溶断するヒューズと、配線にヒューズと直列に配設され、異常電流が流れてヒューズが溶断する以前に抵抗値を増加させて電流を絞るPTC素子とを備える車輌用配線系統の保護装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−327068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車載機器に異物が混入するなどの要因により、故障回路を遮断する制御回路が故障した状態でかつ内部回路がレアショート(部分的短絡)した場合において、車輌のバッテリ電源ラインに配設された車輌ヒューズを溶断するほどではないが、通常よりも大きい過電流が流れることがある。この場合、回路遮断や車輌ヒューズの溶断が行われないため、過電流が長時間流れ続けて車載機器が発火、発煙する可能性がある。
このような不具合は、特許文献1に代表される従来の技術では対応することができず、車載機器の内部回路を的確に保護することができない。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、車輌ヒューズが溶断しない程度の過電流が発生しても内部回路を的確に保護することができる車載機器および車輌ヒューズ溶断方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る車載機器は、車載バッテリからの電力を供給するバッテリ電源ラインに発生した過電流から内部回路を保護する機能を有し、バッテリ電源ライン
に複数台接続される車載機器であって、バッテリ電源ラインに発生した過電流を検知する過電流検知回路と、バッテリ電源ラインに電流を流すための負荷回路と、過電流検知回路により過電流が検知された場合に、負荷回路を動作させてバッテリ電源ラインの電流を増加させ、バッテリ電源ラインに配設された車輌ヒューズを溶断する制御回路とを備え
、制御回路は、バッテリ電源ラインに接続しているいずれかの車載機器においてバッテリ電源ラインの過電流が検知され、過電流を検知した他の車載機器から過電流の検知が通知された場合に、自機器が備える負荷回路を動作させることにより、自機器が備える負荷回路の電流と過電流を検知した他の車載機器の負荷回路の電流とを合わせて流して車輌ヒューズを溶断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、車輌ヒューズが溶断しない程度の過電流が発生しても内部回路を的確に保護することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る車載機器を利用した車載システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態1に係る車輌ヒューズ溶断方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る車載機器を利用した車載システムの構成を示すブロック図であって、バッテリ電源ライン1aにN台の車載機器が接続されたシステムを示している。
図1において、車載機器3−1〜3−Nの内部回路(不図示)が完全に短絡(デッドショート)した場合、バッテリ電源ライン1aに流れた大電流によって車輌ヒューズ2は溶断する。
しかしながら、ある程度の短絡抵抗を有して不完全に短絡する、いわゆるレアショートが発生した場合には、車輌ヒューズ2を溶断する程ではないが、通常よりも大きな過電流がバッテリ電源ライン1aに流れる。この過電流が流れている状態が長時間継続すると、レアショートを起こした箇所が局所的に発熱して熱が蓄積されることにより、車載機器が発煙、発火する可能性がある。
【0010】
そこで、この発明に係る車載機器は、バッテリ電源ライン1aにおいてレアショートによる過電流が検知された場合に、バッテリ電源ライン1aに積極的に電流を流して車輌ヒューズ2を溶断する。これにより、車輌ヒューズ2が溶断しない程度の過電流が発生しても内部回路を的確に保護することができる。
【0011】
図1に示す車載システムにおいて、車載のバッテリ1からの電力を車載機器3−1〜3−Nに供給するバッテリ電源ライン1aには、車輌ヒューズ2が配設されている。なお、バッテリ電源ライン1aは、車載機器3−1〜3−Nの内部回路に接続されており、車載機器3−1〜3−Nは、バッテリ1からの電力が供給されて動作する。
車輌ヒューズ2は、車載機器3−1〜3−Nのいずれかの内部回路で完全短絡が発生してバッテリ電源ライン1aに流れる大電流で溶断される。
車載機器3−1〜3−Nは、バッテリ電源ライン1aに発生した過電流から内部回路を保護する機能を有した車載機器であり、過電流検知回路4−1〜4−N、制御回路5−1〜5−Nおよび負荷回路6−1〜6−Nを備えて構成される。
【0012】
過電流検知回路4−1〜4−Nは、バッテリ電源ライン1aに発生した過電流を検知する過電流検知回路である。ここで、過電流検知回路4−1〜4−Nが検知する過電流は、内部回路のレアショートによってバッテリ電源ライン1aに流れる電流を想定しており、内部回路の完全短絡でバッテリ電源ライン1aに流れる電流値よりも低いが、通常動作で許容している電流値よりも大きい値の電流である。
レアショートに起因する過電流の検知は、例えば、検知電流をあらかじめ設定した電流閾値と比較することにより判断してもよい。ただし、レアショートの状態によっては、あらかじめ設定した閾値を超えない過電流も発生する可能性がある。
そこで、バッテリ電源ライン1aを流れる電流の所定時間あたりの変化量を測定して、この変化量を所定の閾値と比較することで、バッテリ電源ライン1aにおける異常電流(過電流)を検知してもよい。
【0013】
制御回路5−1〜5−Nは、車載機器3−1〜3−Nが搭載するマイクロコンピュータにより実現され、過電流検知回路4−1〜4−Nにより過電流が検知された場合に、負荷回路6−1〜6−Nを動作させてバッテリ電源ライン1aに積極的に電流を流してバッテリ電源ライン1aに配設された車輌ヒューズ2を溶断する制御回路である。
また、制御回路5−1〜5−Nは、互いに車内LAN(Local Area Network)7に通信接続されている。制御回路は、自機器の過電流検知回路によって過電流が検知された場合、この過電流の検知を、車内LAN7を介して他の車載機器の制御回路に通知する。
さらに、制御回路5−1は、自機器以外の過電流検知回路4−2〜4−Nとの間で信号ラインとなるワイヤ8で接続されており、制御回路5−2〜5−Nについても自機器以外の過電流検知回路とワイヤ8で接続されている。過電流検知回路4−1〜4−Nは、過電流を検知すると、ワイヤ8の電位をハイレベルに変化させる。制御回路は、ワイヤ8の電位がハイレベルになった場合に、他の車載機器の過電流検知回路で過電流が検知されたと判断して、自機器の負荷回路を制御してバッテリ電源ライン1aに所定の電流を流す。
【0014】
負荷回路6−1〜6−Nは、制御回路5−1〜5−Nによってバッテリ電源ライン1aに流れる電流を増加させる負荷回路である。例えば、負荷回路6−1〜6−Nは、電源ライン1aとグランドGND間に配設された抵抗によって実現され、制御回路5−1〜5−Nから負荷回路に所定の電圧を印加することで、所定値の電流をバッテリ電源ライン1aに流すことができる。
【0015】
次に動作について説明する。
図2は、実施の形態1に係る車輌ヒューズ溶断方法を示すフローチャートであり、車載機器3−1〜3−Nによる過電流の検知時の車両ヒューズ2の溶断処理を示している。
車載機器3−1〜3−Nが動作している間、過電流検知回路4−1〜4−Nは、バッテリ電源ライン1aにおける過電流の検知を行っている(ステップST1)。
過電流検知回路4−1〜4−Nのいずれも過電流を検知しない場合(ステップST2;NO)、ステップST1に戻り、過電流の検知処理を繰り返す。
【0016】
例えば、過電流検知回路4−1が、バッテリ電源ライン1aの過電流を検知した場合(ステップST2;YES)、制御回路5−1に対して過電流を検知したことを通知する。
制御回路5−1は、過電流検知回路4−1から過電流を検知したことが通知されると、負荷回路6−1をオン(電圧印加)して、所定値(例えば、3A)の電流をバッテリ電源ライン1aに流す(ステップST3)。
【0017】
続いて、もしくは、これと同時に、制御回路5−1は、車内LAN7を介して他の車載機器3−2〜3−Nへ過電流の検知を通知する(ステップST4)。例えば、ワイヤ8が故障(切断)などの不具合があった場合に、車内LAN7を介して制御回路間で過電流の検知を通知することが考えられる。
車載機器3−2〜3−Nの制御回路5−2〜5−Nは、車内LAN7を介して過電流の検知が通知されると、負荷回路6−2〜6−Nをそれぞれオン(電圧印加)して、所定値(例えば、3A)の電流をバッテリ電源ライン1aに流す(ステップST5)。
これにより、バッテリ電源ライン1aに配設された車輌ヒューズ2が、負荷回路6−1〜6−Nの電流を合わせて流すことによって溶断される(ステップST6)。
【0018】
例えば、バッテリ電源ライン1aに車載機器3−1〜3−3の3台の車載機器が接続しており、車輌ヒューズ2が5Aで溶断する場合であれば、車載機器3−1の負荷回路6−1が流す3Aの電流、車載機器3−2の負荷回路6−2が流す3Aの電流、車載機器3−3の負荷回路6−3が流す3Aの電流を合わせた9Aの電流を流すことによって車輌ヒューズ2は溶断される。
このように、複数の車載機器で分散して負荷回路の電流を流すことにより、車輌ヒューズ2を溶断するために1台の車載機器にかかる負担を軽減でき、各車載機器内にヒューズを配置しなくてもよい。
【0019】
なお、制御回路5−1〜5−Nは、過電流検知回路4−1〜4−Nによる過電流の検知をワイヤ8によって認識してもよい。この場合、制御回路5−1〜5−Nのいずれかまたは車内LAN7が何らかの要因によって故障しても、故障していない制御回路が、過電流検知回路4−1〜4−Nのいずれかから過電流の検知が通知されて、自機器の負荷回路をそれぞれオンし、これらの負荷回路の電流を合わせて流すことによって車輌ヒューズ2が溶断される。
なお、負荷回路6−1〜6−Nとして車輌ヒューズ2が溶断する電流値を出力する負荷回路をそれぞれ用意しておけば、制御回路5−1〜5−Nのうち、1つ以外の全てが故障した場合であっても、車輌ヒューズ2を溶断することができる。
このようにすることで、制御回路、車内LAN7およびワイヤ8のいずれかが故障しても、車輌ヒューズ2を的確に溶断することが可能である。
【0020】
以上のように、この実施の形態1によれば、車載機器3−1〜3−Nが、バッテリ電源ライン1aの過電流を検知する過電流検知回路4−1〜4−Nと、バッテリ電源ライン1aに電流を流すための負荷回路6−1〜6−Nと、過電流検知回路4−1〜4−Nのいずれかにより過電流が検知された場合に、過電流を検知した車載機器の負荷回路を動作させてバッテリ電源ライン1aの電流を増加させ、バッテリ電源ライン1aに配設された車輌ヒューズ2を溶断する制御回路5−1〜5−Nとを備える。このように構成することで、車輌ヒューズ2が溶断しない程度の過電流が発生しても内部回路を的確に保護することができる。
【0021】
また、この実施の形態1によれば、制御回路5−1〜5−Nが、バッテリ電源ライン1aに接続しているいずれかの車載機器3−1〜3−Nにおいてバッテリ電源ライン1aの過電流が検知され、過電流を検知した車載機器から過電流の検知が通知された場合に、
自機器が備える負荷回路を動作させることにより、自機器が備える負荷回路の電流と過電流を検知した他の車載機器の負荷回路の電流とを合わせて流すことで車輌ヒューズ2を溶断する。
このようにすることで、車輌ヒューズ2を溶断するために1台の車載機器にかかる負担を軽減でき、各車載機器内へのヒューズの配置を省略できる。
【0022】
さらに、この実施の形態1によれば、制御回路5−1〜5−Nが、バッテリ電源ラインに接続している他の車載機器の制御回路との間が車内LAN7を介して通信接続されており、他の車載機器の過電流検知回路による過電流の検知が、車内LANを介して通知される。このように構成することで、複数の車載機器で分散して負荷回路の電流を流すことができる。
【0023】
さらに、この実施の形態1によれば、過電流検知回路4−1〜4−Nが、バッテリ電源ラインに接続している他の車載機器の制御回路5−1〜5−Nとの間がワイヤ8を介して接続されており、制御回路5−1〜5−Nが、他の車載機器の過電流検知回路による過電流の検知が、ワイヤ8を介して通知される。このように構成することで、制御回路または車内LAN7が故障しても、車輌ヒューズ2を的確に溶断することが可能である。
【0024】
なお、本発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 バッテリ、1a バッテリ電源ライン、2 車輌ヒューズ、3−1〜3−N 車載機器、4−1〜4−N 過電流検知回路、5−1〜5−N 制御回路、6−1〜6−N 負荷回路、7 車内LAN、8 ワイヤ。