特許第6037977号(P6037977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 6037977-消失模型用塗型剤組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037977
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】消失模型用塗型剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B22C 3/00 20060101AFI20161128BHJP
   B22C 9/04 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B22C3/00 D
   B22C3/00 F
   B22C9/04 L
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-174577(P2013-174577)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-42412(P2015-42412A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2015年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐之
(72)【発明者】
【氏名】田中 勉
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平3−180244(JP,A)
【文献】 特開昭64−66039(JP,A)
【文献】 特開2009−214126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 3/00
B22C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火骨材、及びセルロースを含有し、前記セルロースの含有量が、前記耐火骨材100質量部に対して1〜10質量部であり、前記セルロースが繊維状セルロース及び/又は粒子状セルロースであり、前記繊維状セルロースの繊維長は50〜1000μmであり、前記粒子状セルロースの平均粒子径は50〜500μmである、消失模型用塗型剤組成物。
【請求項2】
さらに、分散剤を含有し、前記分散剤は前記セルロースを溶解させない、請求項1に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項3】
前記繊維状セルロースの繊維長と繊維径の比(繊維長/繊維径)が、1.5以上50以下である請求項1又は2に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項4】
前記繊維状セルロースの繊維径が10〜200μmである請求項1〜3いずれか1項に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項5】
前記粒子状セルロースの球形度が0.90〜1.00である請求項1〜4いずれか1項に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項6】
前記耐火骨材の平均粒子径が20〜400μmである請求項1〜5いずれか1項に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項7】
前記耐火骨材の含有量が30〜80質量%である請求項1〜6いずれか1項に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項8】
消失模型の周囲に塗型膜を有する鋳物用消失模型の製造方法であって、
請求項1〜7いずれか1項に記載の消失模型用塗型剤組成物を前記消失模型の周囲に付着させて塗型膜を形成させる工程を有する、鋳物用消失模型の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、
前記鋳物用消失模型を鋳物砂に埋設する工程と、
前記鋳物砂に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する、鋳物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消失模型の周囲に付着させる消失模型用塗型剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
消失模型鋳造法は、製品と同じ形状の合成樹脂発泡体模型を溶融金属(以下、「溶湯」ともいう)と置換させる鋳造法で、中子不要、型合せなどの煩雑な作業不要、設計変更が容易、短納期など数多くのメリットがあるため、近年、注目されている鋳造法である。この鋳造法では鋳込まれた溶湯によって合成樹脂発泡体を熱分解させるため、発生する多量の熱分解ガス及び残査によって鋳物に残渣欠陥が発生する欠点がある。特に合成樹脂発泡体としてポリスチレンを用いた場合は、炭化成分により鋳肌が悪化する。
【0003】
前記消失模型鋳造法において、消失模型用塗型剤は、合成樹脂発泡体模型の熱分解に起因する「残渣欠陥」、及び溶湯が塗膜を破壊して砂型に漏れ出す「焼着欠陥」を防止するために用いられる。
【0004】
残渣欠陥は、合成樹脂発泡体模型が溶融金属と置換する際、熱分解ガスの排出が不十分な場合に、熱分解残渣となり製品上部に巻き込む現象である。当該「残渣欠陥」を防止するためには、合成樹脂発泡体模型の熱分解ガスを効率良く鋳型側に排出させることが要求される。「焼着欠陥」については、溶湯の凝固が完了するまでの間、強固な膜として保持し続けることが要求される。
【0005】
従来の消失模型用塗型剤組成物として、例えば、特許文献1には、水に不溶で親水性有機溶媒に可溶なニトロセルロースを用いたものが開示されている。当該消失模型用塗型剤組成物は、水−親水性有機溶媒系で白濁析出微分散する物質を選び、ニトロセルロースを塗液中にミクロに白濁析出微分散させて残渣欠陥を低減させるものである。また、特許文献2には、有機粒体物を含有させて残渣欠陥を低減させる塗型剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−180244号公報
【特許文献2】特開2001−1104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の消失模型用塗型剤組成物では残渣欠陥の防止が十分ではなく、さらなる改善が求められていた。また、特許文献1に係る消失模型用塗型剤組成物ではニトロセルロースを用いているため、安全性に問題がある。
【0008】
本発明は、安全性が高く、残渣欠陥をより抑制できる消失模型用塗型剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の消失模型用塗型剤組成物は、耐火骨材、及びセルロースを含有し、前記セルロースの含有量が、前記耐火骨材100質量部に対して1〜10質量部である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安全性が高く、残渣欠陥をより抑制できる消失模型用塗型剤組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の評価に用いた消失模型の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の消失模型用塗型剤組成物(以下、単に「塗型剤組成物」ともいう)は、耐火骨材とセルロースとを含有し、前記セルロースの含有量が、前記耐火骨材100質量部に対して1〜10質量部である。本実施形態の消失模型用塗型剤組成物によれば、安全性が高く、残渣欠陥をより抑制できるという効果を奏する。このような効果を奏する理由は定かではないが、以下の様に考えられる。
【0013】
残渣欠陥を防止するためには、鋳造が完了するまで、塗型膜から合成樹脂発泡体模型の熱分解ガスを効率よく排出させることが重要である。本実施形態に係る塗型剤組成物では、塗型剤組成物の耐火骨材中にセルロースを含有するため、塗型膜中に当該セルロースが分散して存在する。当該セルロースは、鋳造時の熱によって燃焼消失するため、当該セルロースがあった部分は空隙となる。この空隙がガス孔となり、合成樹脂発泡体の熱分解ガスを効率よく排出させることができるため、残渣欠陥を低減させることができると考えられる。
【0014】
以下、本実施形態の消失模型用塗型剤組成物に含有される成分について説明する。
【0015】
〔消失模型用塗型剤組成物〕
<耐火骨材>
本実施形態に係る塗型剤組成物は、耐火骨材を含有する。当該耐火骨材は、従来から鋳造の目的に応じて利用されている耐火骨材を用いることができる。耐火骨材の例としては、雲母、黒曜石、真珠岩、松脂岩、正長石、曹長石、白瑠石、霞石、シリカ、アルミナ、ムライト、シャフトバンケツ、ダイアスポア、スピネル、マグネシア、オリビン、タルク、ジルコン、カオリン、シリマナイト、アンダルサイト、カイヤナイト、ギブサイト、黒砂石、デッカイト、灰長石、黒鉛ボーキサイトを焼成したもの等が挙げられる。当該耐火性骨材は、上記の1種又は2種以上で用いることができる。
【0016】
前記耐火骨材の平均粒子径は、残渣欠陥を防止する観点から20μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上が更に好ましい。また、耐火骨材の平均粒子径は、焼着欠陥を防止する観点から400μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下が更に好ましい。また、耐火骨材の平均粒子径は20〜400μmが好ましく、40〜200μmがより好ましく、50〜150μmが更に好ましい。なお、前記耐火骨材の平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定する。
【0017】
本実施形態の塗型剤組成物の耐火骨材の含有量は、乾燥性やクラックなどの塗膜欠陥防止の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。本実施形態の塗型剤組成物の耐火骨材の含有量は、塗布作業性の観点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。また、本実施形態の塗型剤組成物の耐火骨材の含有量は、30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。
【0018】
<セルロース>
本実施形態に係るセルロースは、分子式(C10)nで表される炭水化物(多糖類)であり、植物細胞の細胞壁および繊維の主成分である。
【0019】
塗型膜中に分散させたセルロースが燃焼消失した後にガス孔ができるためには、鋳造時のガス層の温度である250〜400℃で燃焼消失し、鋳造が終了するまでガス孔が存在することが必要である。そのため、250〜400℃で分解し、分解後の残炭率や灰分が少ないセルロースが好ましい。
【0020】
本実施形態で用いられるセルロースは、特に限定されないが、取扱い上の観点から、広葉樹、針葉樹、竹から製造するものがよく、新聞紙やコピー紙などの古紙などから再生してもよい。
【0021】
本実施形態に係る塗型剤組成物のセルロースの含有量は、耐火骨材100質量部に対し、残渣欠陥低減の観点、すなわち、ガス孔となる空隙の確保の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上が更に好ましい。また、本実施形態に係る塗型剤組成物のセルロースの含有量は、耐火骨材100質量部に対し、焼着欠陥(加熱時の塗膜強度)の観点から10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下が更に好ましい。また、本実施形態に係る塗型剤組成物のセルロースの含有量は、耐火骨材100質量部に対し、1〜10質量部が好ましく、3〜7質量部がより好ましく、4〜6質量部が更に好ましい。
【0022】
前記セルロースの形状は、特に限定されないが、例えば、繊維状、粒子状のものが用いられる。
【0023】
前記セルロースの形状が繊維状の場合、残渣欠陥低減の観点から、繊維長と繊維径の比(繊維長/繊維径)は、1.5以上が好ましく、5以上がより好ましい。また、焼着欠陥低減の観点から、繊維長/繊維径は、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。また、繊維長/繊維径は、1.5〜50が好ましく、5〜40がより好ましく、5〜20が更に好ましい。
【0024】
前記セルロースの形状が繊維状の場合、残渣欠陥低減の観点から、繊維長は、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましい。また、焼着欠陥低減の観点から、繊維長は、1000μm以下が好ましく、600μm以下がより好ましく、300μm以下が更に好ましい。また、繊維長は、50〜1000μmが好ましく、80〜600μmがより好ましく、80〜300μmが更に好ましい。なお、本明細書において、繊維長は、実施例に記載の方法により測定する。
【0025】
前記セルロースの形状が繊維状の場合、残渣欠陥低減の観点から、繊維径は、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。また、焼着欠陥低減の観点から、繊維長は、200μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましい。また、繊維長は、10〜200μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。なお、本明細書において、繊維径は、実施例に記載の方法により測定する。
【0026】
前記セルロースの形状が粒子状の場合、当該セルロースの平均粒子径は、残渣欠陥低減の観点から、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、100μm以上が更に好ましい。また、当該セルロースの平均粒子径は、焼着欠陥低減の観点から、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。また、当該セルロースの平均粒子径は、50〜500μmが好ましく、80〜200μmがより好ましく、100〜200μmが更に好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定する。
【0027】
前記セルロースの形状が粒子状の場合、当該セルロースの球形度は、合成樹脂発泡体模型への塗工性の観点から、0.90以上が好ましく、0.95以上がより好ましい。また、当該セルロースの球形度は、合成樹脂発泡体模型への塗工性の観点から、1.00以下が好ましい。また、当該セルロースの球形度は、0.90〜1.00が好ましく、0.95〜1.00がより好ましい。なお、本明細書において、球形度は、実施例に記載の方法により測定する。
【0028】
<分散媒>
本実施形態の消失模型鋳造法では、前記セルロースを鋳造時の熱によって燃焼消失させた後の空隙をガス孔とするため、セルロースを溶解させる分散媒を用いると、当該ガス孔となる空隙が形成されにくい。そのため、当該分散媒は、前記セルロースを溶解しないものが好ましい。
【0029】
前記分散媒としては、例えば、アルコール類や水等が使用できる。
【0030】
アルコール系塗型剤組成物の場合は、乾燥性の観点から、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類が好ましく、エタノールがより好ましい。アルコール系塗型剤組成物の場合は、芳香族系溶剤や炭化水素系溶剤を補助分散媒として使用してもよい。
【0031】
アルコール系塗型剤組成物中の分散媒の量は用いる分散媒の種類によって適宜変更しうる。一例としては、当該分散媒が低級アルコールの場合、塗布作業性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、20質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましい。アルコール系塗型剤組成物中の分散媒の量は、低級アルコールの場合、乾燥性やクラック等の塗膜欠陥防止の観点から、耐火骨材100質量部に対し、120質量部以下が好ましく、110質量部以下がより好ましい。また、アルコール系塗型剤組成物中の分散媒の量は、低級アルコールであれば、塗布作業性と健全な塗膜を形成させる観点から、耐火骨材100質量部に対し、20〜120質量部が好ましく、70〜110質量部がより好ましい。
【0032】
水系塗型剤組成物の場合、水系塗型剤組成物中の水の量は、塗布作業性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、20質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましい。水系塗型剤組成物の場合、水系塗型剤組成物中の水の量は、乾燥性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましい。また、水系塗型剤組成物の場合、水系塗型剤組成物中の水の量は、塗布作業性と乾燥性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、20〜150質量部が好ましく、70〜130質量部がより好ましい。
【0033】
<粘結剤>
本実施形態の塗型剤組成物には、通常使用されるような粘結剤を含有しても良い。当該粘結剤としては、例えば、水系ではポリアクリル酸ナトリウム、澱粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム等の水溶性高分子や各種の樹脂エマルションが使用できる。また、アルコール系ではアルコールに可溶又は分散する各種樹脂を添加するのが、塗型膜強度の点から好ましい。粘結剤の含有量は、塗膜強度と経済性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、30質量部以下が好ましい。また、粘結剤の含有量は、塗膜強度と経済性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、0.5〜30質量部が好ましい。
【0034】
<焼結剤>
本実施形態の塗型剤組成物には、通常使用されるような焼結剤を含有しても良い。当該焼結剤としては、例えば、ナトリウムベントナイト、カルシウムベントナイト等のベントナイト、木節粘土等の粘土類、エチルシリケート等が挙げられる。中でも、ベントナイトは、粘結剤としての役割の他、高温域においては焼結剤としての役割も果たすため好ましい。焼結剤の添加量は、高温時の塗膜強度の観点から、耐火骨材100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、焼結剤の添加量は、高温時の塗膜強度の観点から、耐火骨材100質量部に対し、30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。また、焼結剤の添加量は、高温時の塗膜強度の観点から、耐火骨材100質量部に対し、0.5〜30質量部が好ましく、1.0〜15質量部がより好ましい。
【0035】
<その他の成分>
本実施形態の塗型剤組成物に配合できるその他の成分として、界面活性剤、分散剤、チキソトロピー性付与剤等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の塗型剤組成物は、消失模型の周囲に付着させる塗型剤組成物として好適に使用することができる。
【0037】
〔鋳物用消失模型の製造方法〕
本実施形態の鋳物用消失模型の製造方法では、従来の鋳物用消失模型の製造方法を適用することができる。本実施形態の鋳物用消失模型の製造方法は、消失模型の周囲に塗型膜を有する鋳物用消失模型の製造方法であって、前記消失模型用塗型剤組成物を前記消失模型の周囲に付着させて塗型膜を形成させる工程を有する。
【0038】
本実施形態の塗型剤組成物を付着させる消失模型としては、通常と同様の合成樹脂発泡体の模型を用いることができる。合成樹脂発泡体としては、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、又はこれらの共重合体等の発泡体が用いられる。本実施形態の塗型剤組成物を付着させる消失模型が発泡ポリスチレンである場合、本実施形態の塗型剤組成物の効果がより得られる。塗型剤組成物を消失模型に付着させて塗型膜を形成させる方法は、流し塗り(ブッカケ法)、浸漬(ドブ漬け法)、刷毛塗り、スプレー塗布等の従来知られている方法の何れでも良い。
【0039】
本実施形態の鋳物用消失模型の製造方法により得られた鋳物用消失模型は、消失模型鋳造法による鋳型の製造方法に好適に用いることができる。
【0040】
〔鋳物の製造方法〕
本実施形態の消失模型鋳造法による鋳型の製造方法では、従来の消失模型鋳造法による鋳型の製造方法を適用することができる。本実施形態の鋳型の製造方法は、前記鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、前記鋳物用消失模型を鋳物砂に埋設する工程と、前記鋳物砂に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する。
【0041】
前記鋳物用消失模型を鋳物砂に埋設する工程で用いる鋳物砂としては、石英質を主成分とする珪砂の他、ジルコン砂、クロマイト砂、合成セラミック砂等の新砂又は再生砂が使用される。鋳物砂はバインダーを添加せずに用いることもでき、その場合には充填性が良好であるが、高強度の鋳型が要求される場合には、従来公知のバインダーを添加し、硬化剤により硬化させるのが好ましい。
【0042】
前記バインダーを添加する場合に係る本実施形態の鋳型の製造方法は、前記鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、前記鋳物砂に、バインダー及び当該バインダーを硬化させる硬化剤を加え、混練して混合物を調製する工程と、前記鋳物用消失模型を前記混合物に埋設する工程と、前記混合物に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する。
【0043】
前記バインダーとしては、通常使用されるようなバインダーを使用することができる。当該バインダーとしては、例えば、水系ではポリアクリル酸ナトリウム、澱粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム等の水溶性高分子や各種の樹脂エマルションが使用できる。また、アルコール系ではアルコールに可溶又は分散する各種樹脂を添加するのが、鋳型強度の点から好ましい。当該バインダーの含有量は、鋳型強度と経済性の観点から、鋳物砂100質量部に対し、0.4質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、当該バインダーの含有量は、鋳型強度と経済性の観点から、鋳物砂100質量部に対し、1.2質量部以下が好ましく、0.8質量部以下がより好ましい。また、当該バインダーの含有量は、鋳型強度と経済性の観点から、鋳物砂100質量部に対し、0.4〜1.2質量部が好ましく、0.5〜0.8質量部がより好ましい。
【0044】
本実施形態の鋳型の製造方法において、鋳込み温度は、使用する金属により異なるが、鋳鉄系の場合は一般に1330〜1410℃であり、アルミニウム系の場合は一般に700〜750℃であり、鋳鋼系の場合は一般に1450〜1500℃である。本実施形態の消失模型鋳造法は、中でも、鋳鉄系に発生する残渣欠陥をより低減できる。
【0045】
前記消失模型用塗型剤組成物を用いて鋳物を製造すると、残渣欠陥および焼着欠陥が少なく、鋳肌が美麗な鋳物が得られるため、複雑な構造や、鋳肌表面の美しさが要求されるもの等に好適である。具体的な鋳物の例としては、自動車金型、工作機械、建設機械の油圧バルブ、モーター、エンジンフレーム、建築部材等に用いられる、部材、部品等が挙げられる。
【0046】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の組成物、製造方法、或いは用途を開示する。
【0047】
<1>耐火骨材とセルロースとを含有し、前記セルロースの含有量が、前記耐火骨材100質量部に対して1〜10質量部である消失模型用塗型剤組成物。
【0048】
<2>前記耐火骨材の平均粒子径が、20μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上が更に好ましく、400μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下が更に好ましく、20〜400μmが好ましく、40〜200μmがより好ましく、50〜150μmが更に好ましい前記<1>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<3>前記耐火骨材の含有量が、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい前記<1>又は<2>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<4>前記セルロースの含有量が、前記耐火骨材100質量部に対し、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上が更に好ましく、10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下が更に好ましく、1〜10質量部が好ましく、3〜7質量部がより好ましく、4〜6質量部が更に好ましい前記<1>〜<3>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<5>前記セルロースが、繊維状である前記<1>〜<4>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<6>前記セルロースの繊維長と繊維径の比(繊維長/繊維径)が、1.5以上が好ましく、5以上がより好ましく、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、20以下が更に好ましく、1.5〜50が好ましく、5〜40がより好ましく、5〜20が更に好ましい前記<5>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<7>前記セルロースの繊維長が、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、1000μm以下が好ましく、600μm以下がより好ましく、300μm以下が更に好ましく、50〜1000μmが好ましく、80〜600μmがより好ましく、80〜300μmが更に好ましい前記<5>又は<6>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<8>前記セルロース繊維径が、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、200μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、10〜200μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい前記<5>〜<7>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<9>前記セルロースが、粒子状である前記<1>〜<4>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<10>前記セルロースの平均粒子径が、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、100μm以上が更に好ましく、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、50〜500μmが好ましく、80〜200μmがより好ましく、100〜200μmが更に好ましい前記<9>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<11>前記セルロースの球形度が、0.90以上が好ましく、0.95以上がより好ましく、1.00以下が好ましく、0.90〜1.00が好ましく、0.95〜1.00がより好ましい前記<9>又は<10>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<12>さらに、分散剤を含有し、前記分散剤は前記セルロースを溶解させない前記<1>〜<11>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<13>前記分散媒が、低級アルコールが好ましく、メタノールがより好ましい前記<12>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<14>前記分散媒の含有量が、耐火骨材100質量部に対し、20質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましく、120質量部以下が好ましく、110質量部以下がより好ましく、20〜120質量部が好ましく、70〜110質量部がより好ましい前記<13>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<15>前記分散媒が、水が好ましい前記<12>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<16>前記分散媒が、耐火骨材100質量部に対し、20質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましく、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、20〜150質量部が好ましく、70〜130質量部がより好ましい前記<15>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<17>さらに、粘結剤を含有し、当該粘結剤の含有量が、耐火骨材100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、30質量部以下が好ましく、0.5〜30質量部が好ましい前記<1>〜<16>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<18>さらに、焼結剤を含有し、焼結剤の添加量が、耐火骨材100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、0.5〜30質量部が好ましく、1.0〜15質量部がより好ましい前記<1>〜<17>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<19>前記焼結剤が、ベントナイトが好ましい前記<18>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<20>消失模型の周囲に塗型膜を有する鋳物用消失模型の製造方法であって、前記<1>〜<19>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物を前記消失模型の周囲に付着させて塗型膜を形成させる工程を有する、鋳物用消失模型の製造方法。
<21>前記消失模型が、発泡ポリスチレンが好ましい前記<20>に記載の鋳物用消失模型の製造方法。
<22>前記<20>又<21>に記載の鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、前記鋳物用消失模型を鋳物砂に埋設する工程と、前記鋳物砂に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する、鋳物の製造方法。
<23>前記<20>又<21>に記載の鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、鋳物砂に、バインダー及び当該バインダーを硬化させる硬化剤を加え、混練して混合物を調製する工程と、前記鋳物用消失模型を前記混合物に埋設する工程と、前記混合物に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する、鋳物の製造方法。
<24>前記<1>〜<19>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物の消失模型用の塗型剤としての使用。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。
【0050】
<塗型剤組成物の調製>
<実施例1>
耐火骨材(シリカ(60質量%、平均粒子径80μm)、黒曜石(20質量%、平均粒子径93μm)、黒鉛(20質量%、平均粒子径79μm))と、当該耐火性骨材100質量部に対し、表1に示す添加物6.0質量部、ノニオン性界面活性剤(花王製、エマルゲン106)3.0質量部、ベントナイト2.0質量部、ポリビニルアルコール2.0質量部、並びにイオン交換水40質量部を混合し、塗型剤組成物を調製した。
【0051】
<実施例2〜12及び比較例1〜3>
表1に示した添加物及びその量を用いた以外は、実施例1と同様の方法で調製した。表1に記載の添加量の単位は質量%である。ただし、実施例7で用いたセルロースは、KCフロックW−50GKを20メッシュ(目開き0.85mm)の篩いで処理し、篩いのメッシュに通過しないものを採取して用いた。
【0052】
【表1】
【0053】
<評価方法>
<繊維径>
走査型電子顕微鏡により得られた像(写真)を画像解析して得られる任意50個の粒子の繊維径を計測し平均した値である。
【0054】
<繊維長>
走査型電子顕微鏡により得られた像(写真)を画像解析して得られる任意50個の粒子の繊維長を計測し平均した値である。
【0055】
<平均粒子径>
平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)を用いて測定された体積累積50%の平均粒子径である。分析条件は下記の通りである。
・測定方法:フロー法
・分散媒:イオン交換水
・分散方法:攪拌、内蔵超音波3分
・試料濃度:2mg/100cc
【0056】
<球形度>
球形度は、耐火骨材粒子個々の走査型電子顕微鏡により得られた像(写真)を画像解析して得られる投影断面の面積および周囲長から、[粒子投影断面の面積(mm)と同じ面積の真円の円周長(mm)]/[粒子投影断面の円周長(mm)]を求め、これを任意の50個の耐火骨材粒子について平均した値である。
【0057】
<耐火骨材に対する添加物(固形分)の体積比>
黒曜石の比重を2.3、シリカの比重を2.7、黒鉛の比重を2.2、セルロース他添加剤の比重を1.0として計算して求めた。
【0058】
<残渣欠陥の評価方法>
発泡ポリスチレン(発泡倍率50倍)を用いて図1に示す形状の消失模型1を作製した。この消失模型の周囲に前記塗型剤組成物を付着させ(乾燥膜厚:1.4mm)、鋳物用消失模型を作製した。そして、フリーマントル珪砂(5号)100質量部に有機スルホン酸硬化剤(花王クエーカー製、C−14)を0.2質量部添加し、これらを混練した後に、フラン樹脂(花王クエーカー製、EF−5302)を前記珪砂100質量部に対して0.5質量部混合した。得られた混練砂に前記の鋳物用消失模型を埋設し、溶融金属が溢れない速度で堰から鋳込みを行い(鋳鉄:FC−250、鋳込み温度:1400℃)、24時間経過後、鋳型をばらして鋳物を取り出した。得られた鋳物について、TP側面の400×100の2つの側面に発生した残渣面積(%)を画像解析により計測した。
【0059】
<常温通気度、300℃通気度の評価方法>
常温通気度は、表1に示す塗型剤について、日本鋳造工学会関西支部が発行する「消失模型鋳造用塗型剤の試験方法(平成8年3月)」の「5.通気度試験方法」に準じて、通気度の測定を行なった。300℃通気度については、試験片が完成した後に、300℃±10℃に保持できるオーブンにて、30分加熱させ室温まで冷却させ通気度を測定した。なお、加熱工程以外は常温通気度と同じ要綱で測定した。
【0060】
<固形分65%粘度>
表1に示す塗型剤について、イオン交換水を添加し、固形分65%になるように調整した。その後、レオメーターにて、(条件:パラレルコーン、20℃、クリアランス1mm)せん断速度10s−1の条件下で60秒履歴後の粘度(mPa・s)を測定した。
【0061】
<1000℃塗膜強度>
表1に示す塗型剤について、日本鋳造工学会関西支部が発行する「消失模型鋳造用塗型剤の試験方法(平成8年3月)」の「6.抗折力測定法」に準じて、塗膜強度の測定を行なった。なお、1000℃の加熱処理については、非酸化性雰囲気にするため、Φ50のルツボ中に平均粒子径60μmの鱗状黒鉛を充填し、その内部に試験片を埋設した。その後、1000℃±30℃に保持できるマッフル炉にて、1時間分加熱させて室温まで冷却し測定した。なお、加熱工程以外は「6.抗折力測定法」に準じて測定した。
【0062】
<実施例1〜12及び比較例1〜3>
各実施例及び比較例の結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
図1