(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記差分算出工程で算出した前記差分に基づいて、前記第一のひずみゲージと前記第二のひずみゲージとの出力の差から前記き裂が開口を開始したとみなせる開口開始点を算出する開口開始点算出工程と、
前記差分算出工程で算出した前記差分に基づいて、前記開口開始点からの前記差分の最大値を前記き裂の開口量として算出し、算出した前記開口量から応力拡大係数を算出する係数算出工程と、を有すること特徴とする請求項1または請求項2に記載のき裂の開口挙動取得方法。
前記係数算出工程で算出した前記応力拡大係数が、前記き裂が進展する速度であるき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数を超えているか否かを判定するき裂進展判定工程を有することを特徴とする請求項3に記載のき裂の開口挙動取得方法。
前記き裂進展判定工程において前記応力拡大係数が前記基準応力拡大係数を超えていると判定された場合に、前記応力拡大係数から前記き裂進展速度を算出し、時間経過に伴うき裂の長さを推定して前記試験対象物の許容する許容き裂長さに達するまでの時間を算出する進展時間算出工程を有することを特徴とする請求項4に記載のき裂の開口挙動取得方法。
前記制御部は、前記係数算出部で算出した前記応力拡大係数が、前記き裂が進展する速度であるき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数を超えているか否かを判定するき裂進展判定部を有することを特徴とする請求項6に記載のき裂の開口挙動取得装置。
前記制御部は、前記き裂進展判定部において前記応力拡大係数が前記基準応力拡大係数を超えていると判定された場合に、前記応力拡大係数から前記き裂進展速度を算出し、時間経過に伴う前記き裂の長さを推定して、前記試験対象物の許容する許容き裂長さに達するまでの時間を算出する進展時間算出部を有することを特徴とする請求項7に記載のき裂の開口挙動取得装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような方法では、き裂の先端部を測定しているため、き裂が開口したことを正確に検出することが難しいという問題を有している。特に、微小なき裂の場合、き裂の先端部の開口量は微小であり、その変化量が小さすぎるため正確にき裂の開口挙動を検出することが困難である。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、き裂の開口挙動を精度高く検出することが可能なき裂の開口挙動取得方法、き裂の開口挙動取得装置及びき裂の開口挙動取得プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の一態様におけるき裂の開口挙動取得方法は試験対象物の表面におけるき裂の延在方向の中央を含む領域に、該き裂を前記延在方向に交差する方向にまたぐようにして第一のひずみゲージを設ける第一取付工程と、前記試験対象物の表面における前記き裂から離間した箇所に、第二のひずみゲージを設ける第二取付工程と、前記試験対象物に対して荷重を加えた際における前記第一のひずみゲージ及び前記第二のひずみゲージの出力を取得する出力取得工程と、前記第一のひずみゲージ及び前記第二のひずみゲージの出力の差分を算出する差分算出工程と、
前記出力取得工程と前記差分算出工程との間に、前記第一のひずみゲージの出力と前記第二のひずみゲージの出力との弾性域における傾きを一致させる補正工程と、を備える。
【0008】
このようなき裂の開口挙動取得方法よれば、出力取得工程によって、き裂が開口した際の変形量が最も大きくなるき裂の中央部分のひずみ量を第一のひずみゲージによって取得することができる。即ち、き裂が開口した際のひずみ量の変化が最も認識し易い部分におけるひずみ量を取得することができる。また、出力取得工程では、第二のひずみゲージによって取得することで、試験対象物の標準的なひずみ量を取得することができる。その後、差分算出工程にて、差分を求めることで、き裂が開口した際の試験対象物の標準的なひずみ量と、き裂の中央を含む領域でのひずみ量との変化の差を算出することができる。き裂が開口した際に最も変化量が大きなき裂の中央を含む領域のひずみ量と試験対象物の標準的なひずみ量との差分を算出しているため、差分算出工程で算出される差分は大きくなる。その結果、変化が明確にすることできる。そして、変化が明確になることで、き裂が開口する際の応力やひずみ量を精度高く取得することができ、き裂の開口挙動を正確に検知することができる。
【0010】
このようなき裂の開口挙動取得方法よれば、補正工程によって、第一のひずみゲージの出力と第二のひずみゲージの出力とを補正することで、試験条件による誤差を補正することができる。即ち、き裂が開口するまでの領域である弾性域ではヒステリシスループが応力に対してひずみ量を線形に変化させることを利用し補正する。その結果、弾性域における第一のひずみゲージの出力と第二のひずみゲージの出力とを一致させ、き裂が開口するまでの誤差を取り除くことができ、き裂が開口した際のひずみ量の変化が微小であっても検出し易くすることができる。これにより、より精度高くき裂の開口挙動を取得することができる。
【0011】
さらに、本発明の他の態様におけるき裂の開口挙動取得方法は、前記第一取付工程は、前記き裂の全体を覆うように前記第一のひずみゲージを取り付けてもよい。
【0012】
このようなき裂の開口挙動取得方法によれば、試験対象物に延在するき裂の全体としてのひずみ量を検出することで、開口挙動を検出することができる。これにより、き裂の中央部分が不明な複雑な形状をなすき裂に対しても、精度高くき裂の開口挙動を取得することができる。
【0013】
また、本発明の他の態様におけるき裂の開口挙動取得方法は、前記差分算出工程で算出した前記差分に基づいて、前記第一のひずみゲージと前記第二のひずみゲージとの出力の差から前記き裂が開口を開始したとみなせる開口開始点を算出する開口開始点算出工程と、前記差分算出工程で算出した前記差分に基づいて、前記開口開始点からの前記差分の最大値を前記き裂の開口量として算出し、算出した前記開口量から応力拡大係数を算出する係数算出工程と、を有していてもよい。
【0014】
このようなき裂の開口挙動取得方法によれば、き裂が開口し始めた時点を精度高く検出することができる。即ち、き裂が開口し始めるタイミングを第一のひずみゲージの出力と第二のひずみゲージの出力との差からき裂が開口を開始したとみなせる開口開始点として検出することで、き裂が開口したことを容易に精度高く検出することができる。また、開口開始点から差分の最大値までをき裂の開口量として算出する。そのため、き裂が開口する時点で、どの程度き裂が開いたのかを開口量として取得することができる。また、開口量が取得できることで、き裂が進展するき裂であるか否かを評価する指標となる応力拡大係数も容易に取得することができる。これによって、き裂の開口挙動をより精度高く検出することができる。
【0015】
さらに、本発明の他の態様におけるき裂の開口挙動取得方法は、前記係数算出工程で算出した前記応力拡大係数が、前記き裂が進展する速度であるき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数を超えているか否かを判定するき裂進展判定工程を有していてもよい。
【0016】
このようなき裂の開口挙動取得方法によれば、試験対象物のき裂が進展するき裂なのか否かを精度高く判定することができる。これにより、試験対象物に形成されているき裂が悪影響を及ぼす有害なき裂であるか否かを容易に精度高く判定できる。
【0017】
また、本発明の他の態様におけるき裂の開口挙動取得方法は、前記き裂進展判定工程において前記応力拡大係数が前記基準応力拡大係数を超えていると判定された場合に、前記応力拡大係数から前記き裂進展速度を算出し、時間経過に伴うき裂の長さを推定して前記試験対象物の許容する許容き裂長さに達するまでの時間を算出する進展時間算出工程を有していてもよい。
【0018】
このようなき裂の開口挙動取得方法によれば、き裂進展速度を容易に算出することができ、き裂がどの程度の速度で進展していくかを容易に検出することができる。そして、算出したき裂進展速度に基づいて、繰返し数を算出し、試験対象物に荷重を負荷する周期から時間変換することで、時間経過に伴うき裂長さであるき裂開口挙動を推定することができる。したがって、試験対象物が許容き裂長さに達するまでの時間も推定することが容易にできる。これにより、試験対象物が許容できる許容き裂長さに達するまでの時間を算出することができる。つまり、試験対象物に形成されたき裂によって試験対象物が使用できなくなるまでの時間を容易に算出して推定することができる。これにより、試験対象物を検査するまで期間や取り換えるまでの期間等を予測することができ、き裂によって試験対象物に致命的な影響が生じる前に対策を講じることができる。
【0019】
さらに、本発明の一態様におけるき裂の開口挙動取得装置は、試験対象物の表面におけるき裂の延在方向の中央を含む領域に、該き裂を前記延在方向に交差する方向にまたぐようにして取り付けられる第一のひずみゲージと、前記試験対象物の表面における前記き裂から離間した箇所に取り付けられる第二のひずみゲージと、前記試験対象物に対して荷重を加えた際における前記第一のひずみゲージ及び前記第二のひずみゲージの出力に基づいて、前記き裂の開口挙動を推定する制御部とを備え、前記制御部は、
前記第一のひずみゲージの出力と前記第二のひずみゲージの出力との弾性域における傾きを一致させる補正部と、前記補正部で補正した前記第一のひずみゲージ及び前記第二のひずみゲージの出力の差分を算出する差分算出部と、前記差分算出部で算出した前記差分に基づいて、前記第一のひずみゲージと前記第二のひずみゲージとの出力の差から前記き裂が開口を開始したとみなせる開口開始点を算出する開口開始点算出部と、前記差分算出部で算出した前記差分に基づいて、前記開口開始点からの前記差分の最大値を前記き裂の開口量として算出し、算出した前記開口量から応力拡大係数を算出する係数算出部と、を有する。
【0020】
このようなき裂の開口挙動取得装置によれば、き裂が開口し始めた時点を精度高く検出することができる。即ち、き裂が開口し始めるタイミングを第一のひずみゲージの出力と第二のひずみゲージの出力との差からき裂が開口を開始したとみなせる開口開始点として検出することで、き裂が開口したことを容易に精度高く検出することができる。また、開口開始点から差分の最大値までをき裂の開口量として算出する。そのため、き裂が開口する時点で、どの程度き裂が開いたのかを開口量として取得することができる。また、開口量が取得できることで、き裂が進展するき裂であるか否かを評価する指標となる応力拡大係数も容易に取得することができる。これによって、き裂の開口挙動をより精度高く検出することができる。
【0021】
また、本発明の他の態様におけるき裂の開口挙動取得装置は、前記制御部は、前記係数算出部で算出した前記応力拡大係数が、前記き裂が進展する速度であるき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数を超えているか否かを判定するき裂進展判定部を有していてもよい。
【0022】
このようなき裂の開口挙動取得装置によれば、試験対象物のき裂が進展するき裂なのか否かを精度高く判定することができる。これにより、試験対象物に形成されているき裂が悪影響を及ぼす有害なき裂であるか否かを容易に精度高く判定できる。
【0023】
さらに、本発明の他の態様におけるき裂の開口挙動取得装置は、前記制御部は、前記き裂進展判定部において前記応力拡大係数が前記基準応力拡大係数を超えていると判定された場合に、前記応力拡大係数から前記き裂進展速度を算出し、時間経過に伴う前記き裂の長さを推定して、前記試験対象物の許容する許容き裂長さに達するまでの時間を算出する進展時間算出部を有してもよい。
【0024】
このようなき裂の開口挙動取得装置によれば、き裂進展速度を容易に算出することができ、き裂がどの程度の速度で進展していくかを容易に検出することができる。そして、算出したき裂進展速度に基づいて、繰返し数を算出し、試験対象物に荷重を負荷する周期から時間変換することで、時間経過に伴うき裂長さであるき裂開口挙動を推定することができる。したがって、試験対象物が許容き裂長さに達するまでの時間の時間も推定することが容易にできる。これにより、試験対象物が許容できる許容き裂長さに達するまでの時間を算出することができる。つまり、試験対象物に形成されたき裂によって試験対象物が使用できなくなるまでの時間を容易に算出して推定することができる。これにより、試験対象物を検査するまで期間や取り換えるまでの期間等を予測することができ、き裂によって試験対象物に致命的な影響が生じる前に対策を講じることができる。
【0025】
また、本発明の一態様におけるき裂の開口挙動取得プログラムは、試験対象物の表面におけるき裂の開口挙動をコンピュータで取得するき裂の開口挙動取得プログラムであって、前記コンピュータの入力装置により、前記試験対象物の前記き裂上に配置された第一のひずみゲージが出力した第一出力及び前記試験対象物の前記き裂と離間した位置に配置された第二のひずみゲージが出力した第二出力を取得する入力工程と、
前記入力工程で取得された前記第一出力と前記第二出力との弾性域における傾きを一致させる補正工程と、前記補正工程で補正された前記第一出力と前記第二出力との差分を算出する差分算出工程と、前記差分算出工程で算出された前記差分に基づいて、前記第一出力と前記第二出力との差から前記き裂が開口を開始したとみなせる開口開始点を算出する開口開始点算出工程と、前記差分算出工程で算出した前記差分に基づいて、前記開口開始点からの前記差分の最大値を前記き裂の開口量として算出し、算出した前記開口量から応力拡大係数を算出する係数算出工程と、前記係数算出工程で算出した前記応力拡大係数が、前記き裂が進展する速度であるき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数を超えているか否かを判定するき裂進展判定工程と、前記き裂進展判定工程において前記応力拡大係数が前記基準応力拡大係数を超えていると判定された場合に、前記応力拡大係数から前記き裂進展速度を算出し、時間経過に伴う前記き裂の長さを推定して、前記試験対象物の許容する許容き裂長さに達するまでの時間を算出する進展時間算出工程と、前記進展時間算出工程における算出結果を前記コンピュータの出力装置から出力させる出力工程と、を前記コンピュータに実行させる。
【0026】
このようなき裂の開口挙動取得プログラムによれば、き裂進展速度を容易に算出することができ、き裂がどの程度の速度で進展していくかを容易に検出することができる。そして、算出したき裂進展速度に基づいて、繰返し数を算出し、試験対象物に荷重を負荷する周期から時間変換することで、時間経過に伴うき裂長さであるき裂開口挙動を推定することができる。したがって、試験対象物が許容き裂長さに達するまでの時間の時間も推定することが容易にできる。これにより、試験対象物が許容できる許容き裂長さに達するまでの時間を算出することができる。つまり、試験対象物に形成されたき裂によって試験対象物が使用できなくなるまでの時間を容易に算出して推定することができる。これにより、試験対象物を検査するまで期間や取り換えるまでの期間等を予測することができ、き裂によって試験対象物に致命的な影響が生じる前に対策を講じることができる。
【0027】
さらに、本発明の一態様におけるき裂の開口挙動取得プログラムは、試験対象物の表面におけるき裂の開口挙動をコンピュータで取得するき裂の開口挙動取得プログラムであって、前記コンピュータの入力装置により、前記試験対象物の前記き裂上に配置された第一のひずみゲージが出力した第一出力及び前記試験対象物の前記き裂と離間した位置に配置された第二のひずみゲージが出力した第二出力を取得する入力工程と、
前記入力工程で取得された前記第一出力と前記第二出力との弾性域における傾きを一致させる補正工程と、前記補正工程で補正された前記第一出力と前記第二出力との差分を算出する差分算出工程と、前記差分算出工程で算出された前記差分に基づいて、前記第一出力と前記第二出力との差から前記き裂が開口を開始したとみなせる開口開始点を算出する開口開始点算出工程と、前記差分算出工程で算出した前記差分に基づいて、前記開口開始点からの前記差分の最大値を前記き裂の開口量として算出し、算出した前記開口量から応力拡大係数を算出する係数算出工程と、前記係数算出工程で算出した前記応力拡大係数が、前記き裂が進展する速度であるき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数を超えているか否かを判定するき裂進展判定工程と、前記き裂進展判定工程における判定結果を前記コンピュータの出力装置から出力させる出力工程と、を前記コンピュータに実行させる。
【0028】
このようなき裂の開口挙動取得プログラムによれば、試験対象物のき裂が進展するき裂なのか否かを精度高く判定することができる。これにより、試験対象物に形成されているき裂が悪影響を及ぼす有害なき裂であるか否かを容易に精度高く判定できる。そして、き裂進展判定工程後に出力することで、短時間で試験対象に形成されているき裂が悪影響を及ぼすき裂なのか否かを判断することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のき裂の開口挙動取得方法によれば、き裂の中央を含む領域のひずみ量を検出することで、き裂の開口挙動を精度高く検出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る第一実施形態について
図1から
図9を参照して説明する。
第一本実施形態のき裂の開口挙動取得方法は、き裂の開口挙動取得装置を用いて実施される。
【0032】
き裂の開口挙動取得装置は、
図3に示すように、表面にき裂2が形成されている矩形板状の試験対象物1に対して設置される。試験対象物1の表面に形成されるき裂2は、幅1mm以下で先端部の曲率半径が0である微小き裂であり、矩形板状の試験対象物1の短手方向(
図1紙面左右方向)対して平行に延在している。ここで、き裂2の延在する試験対象物1の短手方向を延在方向とする。
【0033】
本実施形態におけるき裂の開口挙動取得装置5は、試験対象物1の表面における微小き裂の開口挙動を取得する装置である。き裂の開口挙動取得装置5は、試験対象物1の表面におけるき裂2上に配置される第一のひずみゲージ3と、試験対象物1の表面におけるき裂2から離間した位置に配置される第二のひずみゲージ4と、第一のひずみゲージ3及び第二のひずみゲージ4から出力に基づいてき裂2の開口挙動を演算する取得装置本体50と、を備えている。
【0034】
第一のひずみゲージ3は、試験対象物1の表面におけるき裂2の延在方向の中央を含む領域とき裂2の一端を含む領域とにわたって、き裂2を延在方向に直交に交差する方向(
図3上下方向)にまたぐようにして貼り付けられている。第一のひずみゲージ3は、任意の箇所のひずみが測定できる公知のひずみゲージを使用する。即ち、第一のひずみゲージ3は、試験対象物1に一定の荷重が負荷され、負荷された荷重に対するひずみ量εを出力する。このひずみ量εは、応力‐ひずみ曲線として描くことでヒステリシスループとして出力される。ここで、第一のひずみゲージ3からの出力を第一出力D1とする。
【0035】
第二のひずみゲージ4は、試験対象物1の表面におけるき裂2から一定の間隔を離間した箇所に貼り付けられている。第二のひずみゲージ4は、第一のひずみゲージ3と同じひずみゲージが使用され、試験対象物1に負荷された荷重に対するひずみ量εを出力する。ここで、第二のひずみゲージ4からの出力を第二出力D2とする。
【0036】
取得装置本体50は、コンピュータであり、各種演算を行うCPU6と、CPU6のワークエリア等になるメモリ51と、ハードディスクドライブ装置等の補助記憶装置7と、キーボードやマウス等の手入力装置52と、表示装置53(出力装置)と、手入力装置52及び表示装置53の入出力インタフェース54と、第一のひずみゲージ3及び第二のひずみゲージ4との間でデータの受送信を行うためのひずみゲージインタフェース55(入力装置)と、インターネット等のネットワークIを介して外部と通信するための通信インタフェース56と、ディスク型記憶媒体Dに対してデータの記憶処理や再生処理を行う記憶・再生装置57と、を備えている。
【0037】
補助記憶装置7には、第一のひずみゲージ3及び第二のひずみゲージ4により実際に測定された第一出力D1及び第二出力D2からき裂2の開口挙動を取得するためのき裂の開口挙動取得プログラム71及びOS(Operating System)プログラム72が予め格納されている。き裂の開口挙動取得プログラム71及びOSプログラム72は、例えば、記憶・再生装置57を介して、ディスク型記憶媒体Dから補助記憶装置7に取り込まれる。なお、き裂の開口挙動取得プログラム71及びOSプログラム72は、通信インタフェース56を介して外部の装置から補助記憶装置7に取り込まれてもよい。
【0038】
補助記憶装置7には、さらに、き裂の開口挙動取得プログラム71の実行過程で、各種データが格納される。具体的に、第一のひずみゲージ3から出力される第一出力D1と、第二のひずみゲージ4から出力される第二出力D2と、さらに、補助記憶装置7には、取得プログラムの実行過程で
図9に示すような評価テーブル73が作成され、この評価テーブル73に、このき裂2の開口挙動に関連するデータ等が格納される。
【0039】
また、補助記憶装置7には、き裂の開口挙動取得プログラム71の実行前に、材料ごとに定められている基準応力拡大係数ΔK
thのデータや、試験対象物1ごとに定められる許容き裂長さa
mのデータ等の試験対象物1の材料や形状に関数する固有のデータが、手入力装置52、通信インタフェース56及び記憶・再生装置57によって入力されることで格納される。
【0040】
CPU6は、取得装置本体50における制御部であり、複数の機能部を有している。CPU6は、第一出力D1及び第二出力D2を取得する入力部61と、第一出力D1及び第二出力D2の弾性域における傾きを一致させるよう補正する補正部62と、補正部62で補正された第一出力D1及び第二出力D2の差分を算出する差分算出部63とを有する。CPU6は、差分算出部63で得られた差分に基づいて第一出力D1と第二出力D2とから開口開始点Aを算出する開口開始点算出部64と、差分算出部63で得られた差分に基づいて応力拡大係数ΔKを算出する係数算出部65とを有する、CPU6は、係数算出部65で算出した応力拡大係数ΔKが基準応力拡大係数ΔK
thを超えているかを判定するき裂進展判定部66と、き裂進展判定部66での判定結果に基づいて許容き裂長さa
mに達するまでの時間を算出する進展時間算出部67と、進展時間算出部67における算出結果を表示装置53で表示させる出力部68と、を有している。
【0041】
なお、これらの各機能部は、いずれも、CPU6が補助記憶装置7に格納されているき裂の開口挙動取得プログラム71を実行することで機能する。
【0042】
次に、以上で説明したき裂の開口挙動取得装置5を用いたき裂の開口挙動取得方法について
図1に示す工程図に沿って説明する。
【0043】
き裂の開口挙動取得方法S10は、
図1に示すように、試験対象物1の表面におけるき裂2の延在方向の中央を含む領域に第一のひずみゲージ3を設ける第一取付工程S1と、試験対象物1の表面におけるき裂2から離間した箇所に第二のひずみゲージ4を設ける第二取付工程S2と、第一のひずみゲージ3及び第二のひずみゲージ4の出力を取得する出力取得工程S3と、出力取得工程S3で得られた第一のひずみゲージ3及び第二のひずみゲージ4の出力に基づいて、き裂2の開口挙動をコンピュータによって演算し取得するコンピュータ演算工程S4と、を有している。
【0044】
第一取付工程S1は、
図3に示すように、き裂2の延在方向の中央を含む領域とき裂2の一端を含む領域とにわたって、き裂2を延在方向に直交に交差する方向にまたぐようにして第一のひずみゲージ3を貼り付ける。即ち、第一取付工程S1では、試験対象物1の表面におけるき裂2に対して、き裂2の先端から中央部分を超えた範囲を覆うように第一のひずみゲージ3を貼り付けて設けている。
【0045】
第二取付工程S2は、
図3に示すように、試験対象物1の表面におけるき裂2から一定の間隔を離間した箇所に第二のひずみゲージ4を貼り付けて設けている。第二のひずみゲージ4は、き裂2から離間した箇所であれば配置する場所を問わないが、き裂2の影響を避けるため、き裂2からひずみゲージの幅一つ分以上離れた箇所に配置することが好ましい。
【0046】
出力取得工程S3は、第一取付工程S1及び第二取付工程S2を実施後に、試験対象物1に一定の荷重を負荷し、負荷した荷重に対応する第一のひずみゲージ3の第一出力D1及び第二のひずみゲージ4の第二出力D2を取得する。第一出力D1及び第二出力D2は、負荷した荷重におけるひずみゲージによって得られるひずみ量εであり、応力‐ひずみ曲線として描くことで、
図4に示すようなヒステリシスループとして出力される。
図4に示すように、出力取得工程S3で得られた第一出力D1と第二出力D2とのヒステリシスループを比較すると、き裂2のひずみ量εを測定した第一出力D1では、き裂2が開口すると荷重をかけても応力σが大きくならず、ひずみ量εだけが大きくなる。そのため、第一のひずみゲージ3と第二のひずみゲージ4とが同じ試験対象物1に設けられて同じ荷重が負荷されているにも関わらず、第一出力D1の方が第二出力D2よりも最大ひずみ量ε
maxが大きく出力される。
なお、試験対象物1に負荷する荷重は、き裂2に対して開口させる方向にき裂2を変位させる荷重であれば良く、単純に試験対象部に対してき裂2の延在方向と直交する方向に向かって引張試験を実施して良く、試験対象物1に曲げを与えるよう曲げ試験を実施しても良い。
【0047】
次に、取得装置本体50の動作であるコンピュータ演算工程S4について、
図2に示す工程図に従ってCPU6の各機能部の詳細とともに説明する。
コンピュータ演算工程S4は、出力取得工程S3で取得した第一出力D1及び第二出力D2を取得装置本体50に取り込んで、き裂2の開口挙動をコンピュータである取得装置本体50によって複数の処理を実行して取得する。コンピュータ演算工程S4は、出力取得工程S3で取得した第一出力D1と第二出力D2とを取得装置本体50の入力装置により取り込む入力工程S41と、入力工程S41で得られた第一出力D1及び第二出力D2の弾性域における傾きを一致させる補正工程S42と、補正工程S42で補正された第一出力D1及び第二出力D2の差分を算出する差分算出工程S43と、を有している。コンピュータ演算工程S4は、差分算出工程S43で得られた差分から第一出力D1と第二出力D2との差からき裂2が開口を開始したとみなせる開口開始点Aを算出する開口開始点算出工程S44と、差分算出工程S43で得られた差分から応力拡大係数ΔKを算出する係数算出工程S45と、を有している。コンピュータ演算工程S4は、き裂2が進展する速度であるき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数ΔK
thを算出した応力拡大係数ΔKが超えているか否かを判定するき裂進展判定工程S46と、き裂進展判定工程S46における判定結果に基づいて、試験対象物1の許容する許容き裂長さa
mに達するまでの時間を算出する進展時間算出工程S47と、算出した時間を取得装置本体50の表示装置53から出力させる出力工程S48とを有している。コンピュータ演算工程S4は、上記の複数の工程をき裂の開口挙動取得プログラム71を実行することで、取得装置本体50によって実施される。
【0048】
入力工程S41では、試験対象物1のき裂2上に第一取付工程S1によって配置された第一のひずみゲージ3が出力した第一出力D1及び試験対象物1のき裂2と離間した位置に第二取付工程S2によって配置された第二のひずみゲージ4が出力した第二出力D2を出力取得工程S3によって取得した後に、入力部61によって取得装置本体50により取り込むことで取得する。
【0049】
具体的には、入力工程S41では、取得装置本体50の入力装置であるひずみゲージインタフェース55により取り込まれた第一出力D1及び第二出力D2を補助記憶装置7に格納することで取得する。本実施形態においては、入力部61は、CPU6の機能部の一つである。
【0050】
補正工程S42では、
図5に示すように、出力取得工程S3で取得し、入力工程S41によって取得装置本体50に取り込んだ第二出力D2を、第一出力D1の弾性域における傾きと一致するように補正部62にて補正する。
【0051】
具体的には、補正工程S42では、補正部62が、入力部61で取得した第一出力D1と第二出力D2とによって応力‐ひずみ曲線として描かれるヒステリシスループの弾性域における傾きを一致させるよう値を補正する。そして、補正部62が、第二出力D2を倍数化するよう補正することで、第二出力D2のヒステリシスループの直線部分である弾性域を第一出力D1の弾性域と一致させる。これは、第一出力D1と第二出力D2とは同じ試験対象物1に設けられているひずみゲージからの出力であることを利用している。つまり、き裂2が開口するまでの領域である弾性域では、理論的にはヒステリシスループは応力σに対してひずみ量εが線形に変化する。そこで、補正工程S42では、補正部62が、第一出力D1によって得られるヒステリシスループの弾性域の傾きと、第二出力D2によって得られるヒステリシスループの弾性域の傾きとが一致するように第二出力D2の値に任意の乗数を掛け合わせ補正する。本実施形態における補正部62は、CPU6の機能部の一つである。
【0052】
差分算出工程S43では、
図6に示すように、補正工程S42によってヒステリシスループの弾性域における傾きが一致するように補正された第二出力D2と第一出力D1との差分を差分算出部63によって算出する。
【0053】
具体的には、差分算出工程S43では、差分算出部63が、補正部62で補正した第一出力D1及び第二出力D2の差分を基に、応力‐ひずみ曲線を描くことで、補正工程S42で第一出力D1と第二出力D2とが一致されている弾性域では応力σが変化してもひずみが0である差分ヒステリシスループを得られる。差分算出工程S43では、差分算出部63が、補正した第二出力D2と第一出力D1との差分である差分ひずみ量Δεを算出し、補助記憶装置7の評価テーブル73に格納する。そして、差分算出部63が、算出した差分ひずみ量Δεを基に、第一出力D1と第二出力D2とが一致されている範囲の弾性域では応力σが変化しても差分ひずみ量Δεが0である差分ヒステリシスループを算出する。本実施形態における差分算出部63は、CPU6の機能部の一つである。
【0054】
開口開始点算出工程S44では、
図6に示すように、差分算出工程S43で算出された差分に基づいて、第一出力D1と第二出力D2との差からき裂2が開口を開始したとみなせる開口開始点Aを開口開始点算出部64によって算出する。
【0055】
具体的には、開口開始点算出工程S44では、開口開始点算出部64が、差分算出部63で算出した差分に基づいて、差分算出工程S43によって描かれた差分ヒステリシスループから、第一出力D1と第二出力D2との間のひずみ量εに差が生じ始め、差分ひずみ量Δεが変化する変化点を開口開始点Aとして算出する。本実施形態における開口開始点算出部64は、CPU6の機能部の一つである。
【0056】
き裂2が開口を始めると、材料の伸びに加えて、き裂2が開口したことによる変位も第一のひずみゲージ3の第一出力D1として出力される。そのため、き裂2が開口したことにより試験対象物1の標準的なひずみ量εである第二出力D2から第一出力D1がずれ始める。したがって、差分ヒステリシスループにおいて差分ひずみ量Δεに差が生じ始める変化点を開口開始点Aとして検出することで、き裂2が開口したことを判定することができる。
【0057】
そして、開口開始点算出部64は、評価テーブル73に格納された差分である差分ひずみ量Δεが変化し始める変化点を開口開始点Aとして算出し、補助記憶装置7の評価テーブル73に格納する。
【0058】
その後、開口開始点算出工程S44では、開口開始点Aを開口開始点算出部64にて算出し、開口応力σ
Aと開口ひずみ量ε
Aとを算出する。
【0059】
具体的には、開口開始点算出工程S44では、開口開始点算出部64が、
図6に示すように、差分ヒステリシスループから開口開始点Aにおける応力σを、き裂2が開口し始める開口応力σ
Aとして算出する。
【0060】
ここで、開口応力σ
Aは、第一出力D1のひずみ量εと第二出力D2のひずみ量εとの差分として算出された差分ひずみ量Δεのうち、開口開始点Aにおける差分ひずみ量Δεから算出される応力σである。また同時に、
図5に示すように、開口応力σ
Aに対応し、開口開始点Aに対応してき裂2が開口し始めるひずみ量εである開口ひずみ量ε
Aが算出される。
【0061】
そして、開口開始点算出工程S44では、開口開始点算出部64が、評価テーブル73に格納された開口開始点Aにおける差分ひずみ量Δεに対応する応力σを開口応力σ
Aとして算出し、補助記憶装置7の評価テーブル73に格納する。さらに、開口開始点算出部64が、第一出力D1から開口応力σ
Aに対応するひずみ量εを開口ひずみ量ε
Aとして算出し、補助記憶装置7の評価テーブル73に格納する。これらにより、開口開始点算出工程S44では、き裂2が開口した際の開口応力σ
A及び開口ひずみ量ε
Aが取得される。
【0062】
係数算出工程S45は、
図6に示すように、差分算出工程S43で算出された差分と開口開始点算出工程S44で算出した開口開始点Aとに基づいて、き裂2の開口量δとして係数算出部65にて算出し、開口量δから応力拡大係数ΔKを算出する。
【0063】
具体的には、係数算出工程S45では、係数算出部65が、差分算出工程S43で算出した評価テーブル73に格納された差分である差分ひずみ量Δεに基づいて、開口量δを算出し、補助記憶装置7の評価テーブル73に格納する。開口量δは、開口開始点Aにおける差分ひずみ量Δεから差分ひずみ量Δεの最大値までの変化量である最大差分ひずみ量Δε
maxとして算出される。本実施形態おける係数算出部65は、CPU6の機能部の一つである。
【0064】
その後、係数算出工程S45では、算出した開口量δに基づいて、(1)式を用いて応力拡大係数ΔKを係数算出部65にて算出する。
【0066】
ここで、ヤング率Eや降伏応力σ
yは、試験対象物1の材質に依存する定数であり、用いる試験対象物1によって予め決定されている。ヤング率Eや降伏応力σ
yは、図示されていないが、手入力装置52によって手動で補助記憶装置7に入力してよく、通信インタフェース56や記憶・再生装置57によって自動的に補助記憶装置7に入力されてもよい。
【0067】
そして、係数算出部65は、開口量δと、補助記憶装置7に格納されているヤング率E及び降伏応力σ
yとに基づいて、上記(1)式を用いて応力拡大係数ΔKを算出し、補助記憶装置7の評価テーブル73に格納する。
【0068】
き裂進展判定工程S46は、係数算出工程S45で算出した応力拡大係数ΔKが、き裂2が進展する速度であるき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数ΔK
thを超えているか否かをき裂進展判定部66にて判定する。
【0069】
図7に示すように、き裂進展速度は、応力拡大係数ΔKが基準応力拡大係数ΔK
thを超えると増加し始める。き裂進展速度が増加するとき裂2が進展することになるが、き裂進展速度が増加しない場合、き裂2は進展しない。即ち、算出した応力拡大係数ΔKが基準応力拡大係数ΔK
thを超えていない場合は、き裂進展速度が増加せず、この応力拡大係数ΔKが算出されたき裂2は、それ以上のき裂長さaに進展しないき裂2であることがわかる。逆に、算出した応力拡大係数ΔKが基準応力拡大係数ΔK
thを超えている場合は、き裂進展速度が増加して、この応力拡大係数ΔKが算出されたき裂2は、き裂長さa以上に進展するき裂2であることがわかる。
【0070】
したがって、き裂進展判定工程S46では、き裂進展判定部66が、補助記憶装置7に格納されている応力拡大係数ΔKと基準応力拡大係数ΔK
thとを比較することで、き裂2がそれ以上進展するか否かを判定している。き裂進展判定部66が、応力拡大係数ΔKが基準応力拡大係数ΔK
thを超えていると判定すると、進展時間算出部67に信号を出力し、次に進展時間算出工程S47を実施する。一方、き裂進展判定工程S46で、応力拡大係数ΔKが基準応力拡大係数ΔK
thを超えていないと判定すると、入力部61に信号を出力し、再び入力工程S41を実施する。
【0071】
なお、基準応力拡大係数ΔK
thは、用いられる試験対象物1の材質に依存する定数であり、用いられる試験対象物1によって予め決定されている。基準応力拡大係数ΔK
thは、手入力装置52によって手動で補助記憶装置7に入力してよく、通信インタフェース56や記憶・再生装置57によって自動的に補助記憶装置7に入力されてもよい。
【0072】
進展時間算出工程S47では、き裂進展判定工程S46における判定結果に基づいて、応力拡大係数ΔKからき裂進展速度を進展時間算出部67にて算出する。そして、進展時間算出工程S47では、時間経過に伴うき裂2のき裂長さaを推定して、試験対象物1の許容する許容き裂長さa
mに達するまでの時間を進展時間算出部67にて算出する。
【0073】
許容き裂長さa
mは、試験対象物1の材質や形状に依存して決定される値であり、用いる試験対象物1によって予め決定されている。即ち、許容き裂長さa
mは、試験対象物1を使用する上で許容できる限界のき裂長さaである。許容き裂長さa
mを超えると、試験対象部に形成されているき裂2によって、試験対象物1の機能が損なわれて破損したとみなされる。許容き裂長さa
mは、手入力装置52によって手動で補助記憶装置7に入力してよく、通信インタフェース56や記憶・再生装置57によって自動的に補助記憶装置7に入力されてもよい。
【0074】
具体的には、まず、進展時間算出工程S47では、き裂進展判定工程S46において応力拡大係数ΔKが基準応力拡大係数ΔK
thを超えていると判定された場合に、進展時間算出部67が、(2)式を用いて、補助記憶装置7に格納されている応力拡大係数ΔKからき裂進展速度を算出し、補助記憶装置7の評価テーブル73に格納する。
なお、き裂進展速度は、出力取得工程S3にて試験対象物1に一定の荷重を1サイクル負荷した場合のき裂2の進展量である。
【0076】
ここで、da/dNはき裂進展速度である。また、材料定数Cや材料定数mは、試験対象物1の材質に依存する定数であり、用いる試験対象物1によって予め決定されている。Cやmは、図示されていないが、手入力装置52によって手動で補助記憶装置7に入力してよく、通信インタフェース56や記憶・再生装置57によって自動的に補助記憶装置7に入力されてもよい。
【0077】
そして、(3)式及び上記(2)式に基づいて、(4)式が導かれる。
【0079】
ここで、形状定数fは、試験対象物1の形状に依存する定数であり、用いる試験対象物1によって予め決定されている。形状定数fは、図示されていないが、手入力装置52によって手動で補助記憶装置7に入力してよく、通信インタフェース56や記憶・再生装置57によって自動的に補助記憶装置7に入力されてもよい。
【0081】
進展時間算出工程S47では、(4)式に基づいて、進展時間算出部67が、き裂長さa
x−1のき裂2がき裂長さa
xに進展するまでに必要な繰返し数Nを算出し、補助記憶装置7の評価テーブル73に格納する。
同様に、進展時間算出部67が、所定のき裂長さaごとに複数回にわたって(4)式に基づいて算出した繰返し数Nとき裂長さaとの関係は、
図8に示すようなグラフとなる。これにより、進展時間算出工程S47では、繰返し数Nの増加に伴うき裂長さaの変化を推定される。そして、繰返し数Nは、出力取得工程S3における試験対象物1に荷重を負荷する周期から時間tに変換できる。そのため、進展時間算出部67が、時間経過に伴うき裂2の進展長さであるき裂2の開口挙動を進展時間算出部67は推定することができる。これにより、進展時間算出工程S47では、進展時間算出部67が、
図8のグラフに基づいて、時間tを算出して、補助記憶装置7の評価テーブル73に格納する。
【0082】
その後、進展時間算出部67が、許容き裂長さa
mに達するまでの許容繰返し数N
mを算出する。算出した許容繰返し数N
mを変換することで、進展時間算出部67が、許容き裂長さa
mに達するまでの時間tである許容時間t
mを算出する。
【0083】
出力工程S48では、進展時間算出工程S47における算出結果である時間tが格納された
図9に示すような評価テーブル73のデータを出力部68によって取得装置本体50の表示装置53から出力させる。
【0084】
具体的には、出力工程S48では、出力部68によって、コンピュータ演算工程S4にて取得装置本体50がき裂の開口挙動取得プログラム71を実施することで算出した差分ひずみ量Δε、開口開始点A、開口応力σ
A、開口ひずみ量ε
A、開口量δ、応力拡大係数ΔK、き裂進展速度、繰返し数N、時間tを出力する。即ち、出力部68が、取得装置本体50の出力装置である入出力インタフェース54により、補助記憶装置7に格納された評価テーブル73を表示装置53に表示させて出力する。
【0085】
上記のようなき裂の開口挙動取得方法S10によれば、第一取付工程S1で、き裂2の先端から中央部分を超えた範囲を覆うように、き裂2の延在方向の中央を含む領域に延在方向に対して直交に交差する方向に、き裂2をまたぐようにして第一のひずみゲージ3を設けることができる。そのため、出力取得工程S3によって、き裂2が開口した際の変形量が最も大きくなるき裂2の中央部分のひずみ量εを第一のひずみゲージ3によって第一出力D1として取得することができる。即ち、き裂2が開口した際のひずみ量εの変化が最も認識し易い部分におけるひずみ量εを取得することができる。
また、出力取得工程S3では、第一のひずみゲージ3の出力である第一出力D1とともに、き裂2から離間した位置に設けられた第二のひずみゲージ4によって第二出力D2として取得することで、き裂2の無い領域のひずみ量εである試験対象物1の標準的なひずみ量εを取得することができる。
【0086】
その後、差分算出工程S43にて、第一出力D1と第二出力D2との差分である差分ひずみ量Δεを求めることで、き裂2が開口した際の試験対象物1の標準的なひずみ量εと、き裂2の延在方向の中央を含む領域のひずみ量εとの変化の差を算出することができる。き裂2が開口した際に最も変化量が大きなき裂2の延在方向の中央を含む領域のひずみ量εと試験対象物1の標準的なひずみ量εとの差分を算出しているため、差分算出工程S43で算出される第一出力D1と第二出力D2との差分は大きくなり、開口開始点Aが明確になり正確に検出することできる。そして、開口開始点Aが正確に検出できることで、き裂2が開口する際の開口応力σ
Aや開口ひずみ量ε
Aを精度高く取得することができ、き裂2がいつ開口したかというき裂2の開口挙動を正確に検知することができる。これによって、き裂2の開口挙動を精度高く検出することができる。
【0087】
また、補正工程S42によって、第一のひずみゲージ3から出力される第一出力D1と第二のひずみゲージ4から出力される第二出力D2とを補正し一致させることで、試験条件による誤差を補正することができる。即ち、第一のひずみゲージ3と第二のひずみゲージ4とが同じ試験対象物1に貼り付けられて設けられていても、実際に引張試験等を実施すると何らの誤差が生じる。この誤差は、試験環境や、ひずみゲージの貼り付け方など様々な要因により必ず発生してしまう。そこで、き裂2が開口するまでの領域である弾性域ではヒステリシスループが応力σに対してひずみ量εを線形に変化させることを利用し、補正工程S42にて第一出力D1と第二出力D2との弾性域における傾きを合わせるように補正する。その結果、弾性域における第一出力D1と第二出力D2とを一致させ、き裂2が開口するまでの試験環境等による誤差を取り除くことができ、き裂2が開口した際のひずみ量εの変化が微小であっても検出し易くすることができる。これにより、より精度高くき裂2の開口挙動を取得することができる。
【0088】
さらに、差分算出工程S43で算出した差分ひずみ量Δεに基づいて、第一出力D1と第二出力D2に差が生じ始める開口開始点Aを算出することで、き裂2が開口し始めた時点を精度高く検出することができる。即ち、き裂2が開口し始めるタイミングを第一出力D1と第二出力D2に差が生じ始める開口開始点Aとして検出することで、目視できないような微小き裂2が開口したことを容易に精度高く検出することができる。そして、開口開始点Aにおける応力σとひずみ量εとをそれぞれ開口応力σ
A及び開口ひずみ量ε
Aとして算出することで、き裂2が開口した時点のき裂2の情報を精度高く取得できる。これらにより、き裂2の開口挙動をより精度高く検出することができる。
【0089】
また、差分算出工程S43で算出した差分ひずみ量Δεと開口開始点算出工程S44で算出した開口開始点Aとに基づいて、開口開始点Aにおける差分ひずみ量Δεから差分ひずみ量Δεの最大値までの変化量をき裂2の開口量δとして算出する。そのため、き裂2が開口する時点での開口応力σ
Aや開口ひずみ量ε
Aだけでなく、どの程度き裂2が開いたのかを開口量δとして取得することができる。また、開口量δが取得できることで、き裂2が進展するき裂2であるか否かを評価する指標となる応力拡大係数ΔKも容易に取得することができる。これによって、き裂2の開口挙動をより精度高く検出することができる。
【0090】
さらに、算出した応力拡大係数ΔKをき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数ΔK
thと比較して、基準応力拡大係数ΔK
thを超えているか否かを判定する。これにより、試験対象物1のき裂2が進展するき裂2なのか否かを精度高く判定することができる。即ち、き裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数ΔK
thを超えるような応力拡大係数ΔKとなるまでは、その応力拡大係数ΔKを有するき裂2は進展しない。このようなき裂2は、試験対象物1の表面に形成されていても、対策を講じなくとも試験対象物1に破損等を引き起こすような悪影響を及ぼす恐れが非常に少ない。したがって、応力拡大係数ΔKと基準応力拡大係数ΔK
thを比較することで、試験対象物1に形成されているき裂2が悪影響を及ぼす有害なき裂2であるか否かを容易に精度高く判定できる。
【0091】
また、応力拡大係数ΔKによってき裂進展速度を容易に算出することができ、き裂2がどの程度の速度で進展していくかを容易に検出することができる。そして、算出したき裂進展速度に基づいて、繰返し数Nを算出することで、き裂2があるき裂長さaに達するまでにかかる繰返し数Nを容易に算出することができる。つまり、繰返し数Nの増加に伴うき裂長さaの変化を容易に推定することができる。また、繰返し数Nは、出力取得工程S3における試験対象物1に荷重を負荷する周期から時間変換できるため、時間経過に伴うき裂長さaであるき裂2開口挙動を推定することができる。したがって、試験対象物1が許容き裂長さa
mに達するまでの時間の時間も推定することが容易にできる。これにより、試験対象物1が許容できる許容き裂長さa
mに達するまでの時間を算出することで、試験対象物1に形成されたき裂2によって試験対象物1が使用できなくなるまでの時間を容易に算出して推定することができる。即ち、試験対象物1を検査するまで期間や取り換えるまでの期間等を予測することができ、き裂2によって試験対象物1に致命的な影響が生じる前に対策を講じることができる。
【0092】
次に、
図10を参照して第二実施形態のき裂の開口挙動取得方法S10について説明する。
第二実施形態においては第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を伏して詳細な説明を省略する。この第二実施形態のき裂の開口挙動取得方法S10は、試験対象部の表面において複雑な形状をなすき裂2が形成されており、き裂2に対する第一のひずみゲージ3の貼り付け位置について第一実施形態と相違する。
【0093】
即ち、
図10に示すように、第二実施形態では、試験対象物1は延在方向に一直線に伸びるき裂2ではなく、複数の微小き裂2が集まって微小き裂群21を形成している。このような微小き裂群21としては、例えば、応力σ腐食割れの際に結晶粒の隙間を縫うように形成される微小き裂2の集合が挙げられる。
【0094】
そして、第一取付工程S1では、第一実施形態と異なり、微小き裂群21の全体を覆うように第一のひずみゲージ3を貼り付けて設けている。第二実施形態における第一取付工程S1は、微小き裂群21の完全に覆うようにき裂2の一端から他端まで延在方向に直交に交差する方向に向かって微小き裂群21をまたぐようにして第一のひずみゲージ3を貼り付ける。即ち、第二実施形態における第一取付工程S1では、試験対象物1の表面における微小き裂群21が完全に隠れるように第一のひずみゲージ3を貼り付けて設けられている。
【0095】
上記のようなき裂の開口挙動取得方法S10によれば、試験対象物1に延在するき裂2である微小き裂群21の全体としてのひずみ量εを検出することで、開口挙動を検出することができる。即ち、微小き裂群21を形成する微小き裂2毎では、開口時に変化するひずみ量εが僅かであっても、微小き裂2の集合である微小き裂群21としては大きなひずみ量εが変化している。したがって、微小き裂群21の全体を覆うように第一のひずみゲージ3を貼り付けていることで、微小き裂2の集合である微小き裂群21としての大きなひずみ量εを検出することができ、開口開始点Aが正確に検出できる。そのため、き裂2が開口する際の開口応力σ
Aや開口ひずみ量ε
Aを精度高く取得することができる。これにより、き裂2の中央部分が不明な複雑な形状をなす微小き裂群21に対しても、精度高くき裂2の開口挙動を取得することができる。
なお、第二実施形態における第一取付工程S1で第一のひずみゲージ3が貼り付けられるき裂2は、微小き裂群21に限定されるものではなく、例えば、第一実施形態と同様に延在方向に延びるき裂2であっても良い。
【0096】
次に、
図11を参照して第三実施形態のき裂の開口挙動取得プログラム71について説明する。
第三実施形態においては第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を伏して詳細な説明を省略する。この第三実施形態のき裂の開口挙動取得プログラム71は、き裂進展判定工程S46後に、出力工程S48を実施する点について第一実施形態と相違する。
【0097】
即ち、
図11に示すように、第三実施形態における第二コンピュータ演算工程S40は、き裂進展判定工程S46後に、進展時間算出工程S47を実施せずに、第二出力工程S481を実施する。
第二出力工程S481は、出力工程S48と異なり、き裂進展判定工程S46の判定結果を出力部68によって取得装置本体50の表示装置53から出力させる。即ち、第二出力工程S481では、出力部68が、コンピュータ演算工程S4にて取得装置本体50がき裂の開口挙動取得プログラム71を実施することで算出した差分ひずみ量Δε、開口開始点A、開口応力σ
A、開口ひずみ量ε
A、開口量δ、応力拡大係数ΔK、判定結果を表示装置53に表示させて出力させる。
【0098】
上記のようなき裂の開口挙動取得プログラム71によれば、算出した応力拡大係数ΔKをき裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数ΔK
thと比較して、基準応力拡大係数ΔK
thを超えているか否かを判定する。これにより、試験対象物1のき裂2が進展するき裂2なのか否かを精度高く判定することができる。即ち、き裂進展速度が増加し始める基準応力拡大係数ΔK
thを超えるような応力拡大係数ΔKとなるまでは、その応力拡大係数ΔKを有するき裂2は進展しない。このようなき裂2は、試験対象物1の表面に形成されていても、対策を講じなくとも試験対象物1に破損等を引き起こすような悪影響を及ぼす恐れが非常に少ない。したがって、応力拡大係数ΔKと基準応力拡大係数ΔK
thを比較することで、試験対象物1に形成されているき裂2が悪影響を及ぼす有害なき裂2であるか否かを容易に精度高く判定できる。そして、き裂進展判定工程S46後に出力することで、短時間で試験対象に形成されているき裂2が悪影響を及ぼすき裂2なのか否かを判断することができる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0100】
なお、補正工程S42は、第二のひずみゲージ4の出力を第一のひずみゲージ3の出力に合わせることに限定されるものではなく、例えば、逆に第一のひずみゲージ3の出力を第二のひずみゲージ4の出力に合わせても良く、第一のひずみゲージ3及び第二のひずみゲージ4の出力の両方を共に補正することで合わせても良い。
また、き裂2とは、材料の表面に生じる傷やひび割れであっても良く、材料中の介在物が抜けた後の微小な孔であっても良い。
さらに、き裂2は本実施形態における試験対象物1の短手方向に延びているものに限定されるものではなく、例えば、本実施形態における試験対象物1の短手方向に対して斜めに延在していても良い。
さらに、コンピュータ演算工程S4で実施した各工程は、コンピュータによって自動的に実施されることに限定されるものではなく、手動で各工程を実施して、必要な情報を算出してもよい。