(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼板の圧延では、一定量の圧延材を圧延すると、ロールの摩耗、肌荒れ等の理由により、圧延ロールが交換される。一方、条鋼圧延を製造する圧延ラインでは、鋼板などを圧延するような圧延ラインとは異なり、圧延材のサイズ、形状に応じて、圧延ロールだけでなく圧延スタンドの交換が頻繁に行われている。このため、圧延スタンドの交換等に伴って圧延荷重を測定するロードセルの取り外し、再取り付け、調整(校正)を繰り返し行わなければならない。ロードセルによる測定を精確なものとするためには、ロードセルの取り付け後の調整や校正を、毎回確実に行う必要が生じてくる。このようなことから、条鋼圧延ラインにおいては、ロードセルを用いて圧延荷重を測定し、得られた圧延荷重からスタンド間張力を求めることは難しいのが実情である。また、同様の理由により、ロードセルによる計測値から圧延トルクを精確に算出し、得られた圧延トルクからスタンド間張力を求めることも難しいのが実情である。
【0007】
つまり、特許文献2、3、5には、圧延荷重や圧延トルクを用いてスタンド間張力を求めることが開示されているが、これらの技術を用いてスタンド間張力を求めることは、実
際の現場では困難を極めることが多い。
一方、特許文献1には、圧延材が尻抜けしたときの圧延材の幅寸法に基づいて張力を推定する残差張力推定方法の技術が開示されている。しかしながら、実際の条鋼圧延における上流側の圧延スタンドでは、尻抜け時の張力の変化が圧延材の幅寸法の変化に大きな影響を及ぼさず、特許文献1の技術のように、圧延材の幅寸法に基づいて上流側のスタンド間張力を求めることは難しい。
【0008】
また、特許文献4には、電磁特性の変化によってスタンド間張力を求めることが開示されているものの、圧延材には温度ムラ(例えば、スキッドに接した部分が他部分より低温となっているなど)が存在することがあり、この温度ムラの影響により電磁特性が変化することから、特許文献4の技術を用いても安定してスタンド間張力を求めることができない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、安定的にスタンド間張力を求めることができる条鋼圧延におけるスタンド張力の推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明におけるスタンド張力の推定方法は、モータで駆動される圧延スタンドを複数有する圧延機によって前記圧延スタンド間の張力を測定しながら条鋼圧延を行うに際し、前記圧延スタンドのモータ電流に対してローパスフィルタ処理を施し、ローパスフィルタ処理後の電流値の変化量である差電流を求め、求めた差電流と圧延モデルとを用いて、圧延スタンド間の張力を求める
ものであって、i番目の圧延スタンドと、i番目の圧延スタンドの下流側に位置するi+1番目の圧延スタンドとの間における圧延スタンド間の張力を求めるに際し、i+1番目の圧延スタンドに圧延材が噛み込む前におけるi番目の圧延スタンドのモータ電流に対してローパスフィルタ処理を施したものと、i+1番目の圧延スタンドに圧延材が噛み込んだ後におけるi番目の圧延スタンドのモータ電流に対してローパスフィルタ処理を施したものとの差である差電流を求め、求めた差電流と下記の圧延モデルとを用いて、前記圧延スタンド間の張力を求めることを特徴とする。
【0013】
【数1】
【0014】
好ましくは、前記差電流を求める周期を0.5秒以下にするとよい。
好ましくは、前記モータ電流を基に変形抵抗を推定し、推定した変形抵抗に基づいて前記スタンド間の張力を求めるとよい。
好ましくは、前記ローパスフィルタ処理におけるカットオフ周波数は、前記圧延材の搬送速度が0〜6m/secのときには0.2〜1.0Hzとし、前記圧延材の搬送速度が10m/sec以上のときには0.5〜2.0Hzとし、前記圧延材の搬送速度が6〜10m/secのときには、0.2〜1.0Hz又は0.5〜2.0Hzの範囲からカット
オフ周波数を選択するとよい。
【0015】
好ましくは、ローパスフィルタ処理を行うに際しては、現在の電流値データから過去の電流値データに遡るように処理を行うとよい。
好ましくは、ローパスフィルタ処理後の電流値データに対してn=2/f
c点分(なお、f
cはカットオフ周波数)だけ位相を進めたデータを用いて、差電流を求めるとよい。
好ましくは、ローパスフィルタ処理として、レカーシブフィルタを用いるとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、圧延スタンドを複数有する圧延機によって条鋼圧延を行うときに、圧延スタンドを駆動させるモータのモータ電流によってメンテナンスコストをかけず極めて安価に安定的にスタンド間張力を求めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を説明する前に、参考となる実施形態について、図面に基づき説明を行う。
[参考実施形態]
図1は、棒鋼、線材、型鋼などの条鋼(条鋼材)を圧延する圧延機(圧延ライン)の概要を示している。
【0019】
圧延機1は、加熱炉2から移送された圧延材(素材)3を条鋼に圧延するものであって、粗圧延機4、中間圧延機5、仕上げ圧延機(ブロックミル)6、ピンチロール7、巻き取り機(レイングヘッド)8、若しくは、切断装置(コールドシャー)と冷却床とを備えている。加熱炉2の下流側には粗圧延機4が配置されており、粗圧延機4から下流側に向けて順に中間圧延機5、仕上げ圧延機6、ピンチロール7、巻き取り機8が配置されている。
【0020】
各圧延機4、5、6は、複数の圧延スタンド9を備えている。各圧延スタンド9は圧延ロール10を備えていて、この圧延ロール10には、当該圧延ロール10を回転駆動するモータ(図示略)が設けられている。各圧延ロール10を回転駆動するモータの電流(モータ電流という)は、電流計等から構成された電流検出手段12によって検出可能であり、検出されたモータ電流は、プロコンから構成された制御装置11に入力されるようになっている。
【0021】
この制御装置11は、モータ電流、モータ電圧、モータ回転数などからスタンド間張力を求める張力演算手段13を備えており、張力演算手段13によって求めたスタンド間張力によって、各圧延ロール10を駆動するモータや圧延ロール10のギャップ等を制御できるようになっている。
このような圧延機1を用いて、圧延材3を条鋼圧延にするには、まず、ビレット等の圧延材3を加熱炉2にて加熱し、その後、加熱した圧延材3を、粗圧延機4、中間圧延機5、仕上げ圧延機6の順に導入して、圧延ロール10に設けたカリバーによって、圧延材3の断面を角状、オーバル、丸状の順に変形し、圧延材3を所望の断面形状にする。仕上げ圧延機6によって条鋼となった圧延材は、巻き取り機8に巻き取られる。この条鋼圧延では、圧延材3が圧延スタンド9に噛み込んだとき、当該圧延スタンド9と、この圧延スタンド9の1つ前(1つ上流側)との間におけるスタンド間張力を求めて、スタンド間張力
に基づいて条鋼圧延の制御を行う。
【0022】
以下、制御装置11に備えられた張力演算手段13で行われる張力推定方法について、詳しく説明する。
図2は、圧延材3の噛み込みとモータ電流との関係を示したものである。
図2(a)に示すように、圧延材3がi番目の圧延スタンド9に噛み込む前では、i番目の圧延スタンド9のモータ電流は零に近く非常に小さい。
図2(b)に示すように、圧延材3がi番目の圧延スタンド9に噛み込んだ時点では、i番目の圧延スタンド9のモータ電流は急激に大きくなる。そして、
図2(c)に示すように、圧延材3が次の圧延スタンド9であるi+1番目の圧延スタンド9に噛み込み、i番目の圧延スタンド9とi+1番目の圧延スタンド9との間にスタンド間張力が発生すると、例えば、i番目の圧延スタンド9のモータ電流さらに大きくなる。
【0023】
このように、スタンド間張力とモータ電流とは関連性があることから、本発明では、張力演算手段13においてスタンド間張力を求めるに際しては、各圧延スタンドを駆動させるそれぞれのモータ電流を用いることとしている。
圧延スタンド間張力を求めるには、まず、
図2(b)、(c)に示すように、圧延材3がi番目の圧延スタンド9に噛み込み後、i+1番目の圧延スタンド9に噛み込む前までのi番目の圧延スタンド9におけるモータ電流を電流検出手段12によって検出し、このモータ電流を逐次記憶する。説明の便宜上、圧延材3が「i番目の圧延スタンド9に噛み込んだ後であって、i+1番目の圧延スタンド9に噛み込む前」に検出したモータ電流のことを「前モータ電流」という。
【0024】
次に、
図2(c)に示すように、圧延材3がi+1番目の圧延スタンド9に噛み込んだ後、i番目の圧延スタンド9のモータ電流を同様に電流検出手段12によって検出し、このモータ電流を逐次記憶する。説明の便宜上、圧延材3が「i番目の圧延スタンド9に噛み込んだ後であって、i+1番目の圧延スタンド9にも噛み込んだ後」に検出したモータ電流のことを「後モータ電流」という。
【0025】
そして、制御装置11に設けた張力演算手段13によって、前モータ電流と、後モータ電流との差である差電流を求める。そして、求めた差電流を圧延モデルに適用して、i番目の圧延スタンド9とi+1番目の圧延スタンド9とのスタンド張力を求める。
以下、
図3を用いて、3台の圧延スタンドを例にとり、スタンド間張力の算出について詳しく説明する。
【0026】
図3(a)は、1番目の圧延スタンド9のモータ電流の変化を示したものであり、
図3(b)は、2番目の圧延スタンド9のモータ電流の変化を示したものであり、
図3(c)は、3番目の圧延スタンド9のモータ電流の変化を示したものである。説明の便宜上、1番目の圧延スタンド9を第1圧延スタンド、2番目の圧延スタンド9を第2圧延スタンド、3番目の圧延スタンド9を第3圧延スタンドという。
【0027】
圧延材3の圧延が始まると、第1〜第3圧延スタンド9におけるモータ電流がそれぞれ電流検出手段12によって測定され、各モータ電流は制御装置11に入力される。各モータ電流が予め定められた閾値を超えると、圧延開始とされる。例えば、
図3(a)に示すように、第1圧延スタンド9では、ポイントAにてモータ電流が急激に上昇して閾値を超えるため、制御装置11では、ポイントAで第1圧延スタンド9の圧延が開始されたと検出される。同様に、ポイントBで第2圧延スタンド9の圧延開始が検出され、ポイントCで第3圧延スタンド9の圧延開始が検出される。
【0028】
次に、張力演算手段13は、モータ電流の差電流を求める処理に移行する。
まず、
図3(a)に示すように、第1圧延スタンド9の圧延開始後、第2圧延スタンド9が圧延開始となるまで、第1圧延スタンド9における前モータ電流を、サンプリング時間毎に順次記憶する。そして、第2圧延スタンド9が圧延開始となった(圧延材3が第2圧延スタンド9に噛み込んだポイントB)後、圧延材3が第3圧延スタンド9に噛み込むまで、第1圧延スタンド9における後モータ電流をサンプリング時間毎に順次記憶する。
【0029】
つまり、第2圧延スタンド9に圧延材3が噛み込むポイントBを中心として、その前後のモータ電流、即ち、第1圧延スタンド9の前モータ電流と、第1圧延スタンド9の後モ
ータ電流とを記憶する。
第1圧延スタンド9の前モータ電流と、後モータ電流との記憶が終了すると、張力演算手段13は、第1圧延スタンド9における前モータ電流のデータを呼び出し、ポイントBから数秒間(例えば、2秒間)遡ったデータ中で安定している前モータ電流を、差電流を計算するための第1電流値Ibとする。また、張力演算手段13は、同様に、第1圧延スタンド9の後モータ電流を呼び出し、ポイントBから数秒間(例えば、2秒間)進んだデータ中で安定している後モータ電流を、差電流を計算するための第2電流Iaとする。言い換えれば、前モータ電流のうち、ポイントBから数秒間過去に遡った区間で安定している電流値を、第1電流値Ibとして採用し、後モータ電流のうち、ポイントBから数秒間進んだ区間で安定している電流値を、第2電流値Iaとして採用している。
【0030】
そして、第2電流値Iaから第1電流値Ibを引くことによって第1圧延スタンド9の差電流を求める(差電流=Ia−Ib)。
圧延材3が圧延スタンド9に噛み込んだとき、大きな電流変動(インパクト)が生じるが、上述したように、差電流を求めるにあたっては、ポイントBから前後の数秒間(例えば、2秒間)のモータ電流を用いているため、大きな電流変動(インパクト)を除いた部分での差電流を求めることができる。
【0031】
なお、差電流を求めるにあたって、採用する第1電流値Ibや第2電流値Iaは、圧延速度が遅い場合には、モータ電流において0.5〜1秒程度の平均値としてもよく、圧延速度が早い場合には、モータ電流において0.1〜0.5秒程度の平均値としてもよい。このようなことから、各圧延スタンド9において、差電流を求める周期は0.5秒以下にすることが好ましい。
【0032】
以上のように、第1圧延スタンド9と第2圧延スタンド9との間のスタンド間張力を求めるにあたっては、まず、圧延材3が第2圧延スタンド9に噛み込む前後における、第1圧延スタンド9の差電流(=Ia−Ib)を求めることとしている。同様に、第2圧延スタンド9と第3圧延スタンド9との間のスタンド間張力を求めるにあたっても、圧延材3が第3圧延スタンド9に噛み込む前後における第2圧延スタンド9の差電流を求めることとしている。
【0033】
そして、スタンド間張力Δσ
Fは、得られた差電流ΔAを基に式(1)により算出される。
【0035】
式(1)で用いるモータトルクGは、式(2)により計算するとよい。
式(2)の計算に用いる変形抵抗kfmは、本実施形態の場合、張力が作用していな状態のロール回転数N、モータ負荷(モータ電流A×モータ電圧V)の実績値から当業者常法の変形抵抗モデル(例えば、式(3)〜式(5))を使って推定する。すなわち、モータ電流Aを基に変形抵抗kfmを推定し、推定した変形抵抗kfmに基づいてスタンド間の張力を求めることとなる。
【0037】
さて、上記した式(1)の導出方法は、以下の通りである。
まず、モータに作用するトルクG、電圧V、電流Aの関係は、式(6)のように表される。
【0039】
この式(6)を変形すると式(7)、式(8)のようになる。
【0041】
式(7)、式(8)を用いれば、スタンド間張力が作用したときの差電流(電流変化量)を求めることによって、スタンド間張力を求めることができる。ただし、σ
Fは前方張力、σ
Bは後方張力である。
ここで、圧延スタンドにおいて前方張力が発生しても後方張力は一定に保たれる(圧延材3が噛み込んだとしても既に噛み込んでいるスタンド間張力に影響を与えない、即ち、Δρ
B=0)、スタンド間張力の発生によって圧延荷重が変化してもロールギャップ(ロール隙間)は、変わらない「即ち、Δh=0」と仮定すると、スタンド間張力を求める式(7)及び式(8)は、式(1)に変形することができる。
【0042】
このようにして得られた式(1)を用い、差電流ΔAから前方張力Δσ
Fを計算することで、スタンド間張力を求めることができる。
図4は、圧延スタンド間の差電流の検出と張力の演算結果を示す図である。
図4では、i番目の圧延スタンドを「#1スタンド」で表し、i+1番目の圧延スタンドを「#1+1スタンド」で表すこととする。
【0043】
図4に示すように、圧延材3がi番目の圧延スタンド9に噛み込むと、i番目の圧延スタンド9のモータ電流は急激に上昇する。そして、圧延材3がi+1番目の圧延スタンド9に噛み込むと、i番目の圧延スタンド9のモータ電流はやや上昇する。そして、20秒を超えた時点で、差電流を検出してスタンド間張力を求めると、スタンド間張力は0.5kg/mm
2となる。また、圧延材3が尻抜けして1回目の圧延(1パス)が終了後、2回目の圧延(2パス)において、圧延材3がi番目の圧延スタンド9に噛み込むと(次材が#1スタンド噛み込み)、75秒付近で次材を圧延したときのスタンド間張力(0.15kg/mm
2)を求めることができる。
【0044】
以上述べたように、隣接する圧延スタンドのモータ電流の差と圧延モデルとを用いて、圧延スタンド間の張力を求めることで、安定的且つ精確にスタンド間張力を求めることができるようになる。
[本発明の実施形態]
上記した参考実施形態を基に、以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。
【0045】
参考実施形態で述べたように、モータで駆動される圧延スタンド9を複数有する圧延機
1によって圧延スタンド9間の張力を測定しながら条鋼圧延を行うに際し、圧延スタンド9のモータ電流の変化量である差電流と圧延モデルとを用いて、圧延スタンド9,9間の張力を求めることで、メンテナンスコストをかけず極めて安価に安定的にスタンド間張力を求めることが可能となる。
【0046】
しかしながら、参考実施形態の技術を実際に現場に適用した場合、以下に述べるような若干の問題が発生することが知見されている。
すなわち、実際に現場におけるモータ電流の実測値は、前述の
図4(a)に示したとおりであり、例えば、電流検出手段11にて計測された電流には様々なノイズがのっており、計測された電流(生の電流値)を使って電流差を検出すると、張力が正しく検出できない状況が発生する。
【0047】
そこで、本実施形態では、計測されたモータ電流の時系列データにフィルタ処理を施し、モータの共振、熱鋼の温度変動、クロップカット等を原因とし、モータ電流の時系列データに重畳されている様々なノイズを除去するようにする。フィルタ処理後の電流値データ、すなわち、ノイズ除去後の電流データに対して、参考実施形態で開示した手法を適用し、スタンド間張力を算出する。係る処理は張力演算手段13にて実施される。
【0048】
フィルタ処理で使用するフィルタは、ローパスフィルタであり、様々な形式のフィルタが採用可能であるが、本実施形態ではレカーシブフィルタを用いるようにした。使用したレカーシブフィルタを[数6]に示す。
【0050】
また、フィルタ処理に使用するデータは、連続する40点から250点のモータ電流値の時系列データとする。データのサンプリング周期は、0.5秒以下、好ましくは0.1秒以下とするのが好ましい。
レカーシブフィルタ(ローパスフィルタ)のカットオフ周波数f
cは、圧延材3の搬送
速度(線速)が0〜6m/secのときには0.2〜1.0Hz、好ましくは0.5Hzとする。線速が10m/sec以上のときには0.5〜2.0Hz、好ましくは2.0Hzとする。線速が両者の中間の場合には、線速が0〜6m/secのときに採用したカットオフ周波数の値、又は線速が10m/sec以上のときに採用したカットオフ周波数の値のいずれかを用いるようにする。
【0051】
カットオフ周波数f
cを上記の範囲とすることが好ましいことは、本願発明者らが鋭意研究の末、知見したものであって、通常の条鋼圧延機を対象にサンプリング周期が0.1〜1secの条件下では、上記のカットオフ周波数f
cは適正な値となる。
例えば、
図6(特に図中の丸印で示した部分)に示すように、圧延材3の搬送速度(線速)が0.5m/s程度の場合に、カットオフ周波数の値f
cを0.2Hz〜1.0Hzとして下流側に位置する圧延スタンドで電流値を取り込む場合を考える。500A前後で推移していた電流値に100A程度のステップ状の変化が起きた場合、カットオフ周波数f
cが1Hzより大きいと、ノイズを十分に除去できない上にステップ状の変化がなだらかなものとなる。しかしながら、カットオフ周波数f
cを0.5Hzまで小さくするとノイズの影響が小さくなり、カットオフ周波数f
cを0.2Hzまで小さくするとノイズを十分に除去でき、ステップ状の電流変化を精確に検出可能となることを確認している。
【0052】
また、
図7(特に図中の丸印で示した部分)に示すように、圧延材3の搬送速度(線速)が3.5m/s程度の場合に、カットオフ周波数の値f
cを0.2Hz〜1.0Hzとして下流側に位置する圧延スタンドで電流値を取り込む場合を考える。400A前後で推移していた電流値に100A程度のステップ状の変化が起きた場合、カットオフ周波数f
cが0.2Hzと小さいと、ステップ状の変化がなまされてフィルタ処理後の電流値に変動が計測されなくなる。しかしながら、カットオフ周波数f
cを0.5Hzにするとフィルタ処理後の電流値に変動が計測されるようになり、カットオフ周波数f
cを1.0Hzまで大きくするとフィルタ処理後の電流値で略ステップ状の変化を確認することが可能となることを確認している。
【0053】
また、i番目の圧延スタンド9(前段スタンド)よりi+1番目の圧延スタンド9(後段スタンド)の方が線速が速い場合、カットオフ周波数f
cを小さくとると、i+1番目の圧延スタンド9での噛み込みによるスタンド間張力の発生に伴うステップ状の電流変化を「なまして」しまい、差電流を正しく評価できないことを、本願出願人らは知見している。その場合、i+1番目の圧延スタンド9では、i番目の圧延スタンド9よりカットオフ周波数f
cを大きく設定することが好ましい。
【0054】
なお、カットオフ周波数を大きくしすぎる(高すぎる)と、計測された電流値に重畳されたノイズを完全に除去できなくなるので注意が必要である。逆にカットオフ周波数が低すぎると、圧延材3が次スタンドに噛み込みによってステップ的に変化する電流値(計測された電流値)がなだらかな変化となってしまい、電流差を検出できなくなる。すなわち、ノイズを除去できる範囲でなるべく高いカットオフ周波数を選択することが好ましい。
【0055】
図5(a)には、圧延スタンド9における電流値の実測データが◆の印のグラフ(フィルタ前のグラフ)で示されている。このグラフに示す如く、次スタンド噛み込み前の電流参照エリアを見れば、モータ電流値は約700Aであることがわかる。一方、次スタンド噛み込み後の電流参照エリアを見れば、モータ電流値は約950A〜800Aとばらついており、差電流を求めた場合、約250A〜100Aとなって、正確な張力測定が不可能な状況となっている。
【0056】
そこで、計測されたモータ電流値に対して、前述のレカーシブフィルタを用いたフィルタ処理を施す。その結果は、
図5(a)のなめらかな曲線(フィルタ後のグラフ)のようになる。フィルタ後の電流値を用いれば、差電流ΔAは約200Aと算出され、式(1)、式(2)を用いることで正確な張力を求めることが可能となる。
ところで、上記したフィルタ処理を実施するに際しては、A0,A1,A2・・・,Anのように、現在のデータを先頭におき、順に過去のデータに遡るようにフィルタ処理を実行するとよい。なお、
A0:現在の電流値
A1:現在から1サンプリング周期前の電流値
A2:現在から2サンプリング周期前の電流値
An:現在からnサンプリング周期前の電流値
である。
【0057】
係る処理を行う理由は、レカーシブフィルタの場合、データ列の初めの数点は立ち上がりのため、本当のデータを再現できていない可能性がある。そこで、電流差の検出に影響の少ない新しいデータを先頭においてフィルタをかけると、適切なフィルタ処理が実現可能となるからである。
また、上記したフィルタ処理を実施すると、データ(モータ電流値の時系列データ)に位相遅れが発生する。そこで、この位相遅れを補正することは非常に好ましい。具体的には、カットオフ周波数をf
cとして、n=2/f
c点分、フィルタ処理後のデータの位相を進めるとよい。
【0058】
図5(b)おける滑らかな曲線は、計測されたモータ電流値に対して、前述のレカーシブフィルタを適用するフィルタ処理を施し、その後、n=2/f
c点だけ、位相を進めたものである。このようにフィルタ処理ならびに位相シフト処理を行った時系列データを用いることで、当該スタンドおよび次スタンドの噛み込みタイミングを参照して電流差を確実に検出でき、正確な張力を計算することが可能となる。
【0059】
以上述べたように、モータで駆動される圧延スタンド9を複数有する圧延機1によって、圧延スタンド9,9間の張力を測定しながら条鋼圧延を行うに際し、圧延スタンド9のモータ電流に対してローパスフィルタ処理を施し、ローパスフィルタ処理後の電流値の変化量である差電流を求め、求めた差電流と圧延モデルとを用いて、圧延スタンド9間の張力を求めることで、安定的且つ正確にスタンド間張力を求めることができるようになる。その結果、スタンド間張力の誤検出や張力のハンチングが軽減し、張力検出の信頼性向上に寄与することができる。
【0060】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。