(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6038075
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】ガスタービンの羽根に設けられた開口を閉鎖する方法
(51)【国際特許分類】
B22D 29/00 20060101AFI20161128BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20161128BHJP
F01D 5/14 20060101ALI20161128BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
B22D29/00 H
F01D25/00 X
F01D5/14
F02C7/00 D
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-110843(P2014-110843)
(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-231096(P2014-231096A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2014年5月29日
(31)【優先権主張番号】13169650.2
(32)【優先日】2013年5月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515322297
【氏名又は名称】ゼネラル エレクトリック テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】General Electric Technology GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン ルケティチ
(72)【発明者】
【氏名】マルセル ケーニヒ
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ ボグダニチ
【審査官】
長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−137947(JP,A)
【文献】
特開2003−236661(JP,A)
【文献】
特開2012−020308(JP,A)
【文献】
特開平10−305365(JP,A)
【文献】
特開平01−107973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 29/00−31/00
B23K 9/00
B23K 26/00
B23P 5/00−17/06
B64C 27/46
F01D 1/00−11/24
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンの羽根に設けられた開口を閉鎖する方法であって、前記ガスタービンの前記羽根が、上面と下面とを備えた先端部を有しており、前記羽根の前記先端部に開口が形成されており、該開口が、周縁端部を有している、ガスタービンの羽根に設けられた開口を閉鎖する方法であって、
前記開口の前記周縁端部が、前記羽根の前記先端部の前記下面に対して相対的に、設定された角度を成すようにするために、前記開口の前記周縁端部を面取りするステップと、
開口内にインサートを配置することなく、タングステン不活性ガス(TIG)溶接プロセスにより形成された溶接部によって開口を閉鎖するステップと、を有し、
前記TIG溶接プロセスを、前記開口の前記周縁端部から始めて前記開口の中心に向かって螺旋状に肉盛溶接によって実施することを特徴とする、ガスタービンの羽根に設けられた開口を閉鎖する方法。
【請求項2】
前記TIG溶接プロセスにより形成された前記溶接部が、それぞれ前記羽根の前記先端部の前記上面および前記下面を越えて延びている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、前記閉鎖するステップ以前に、さらに、前記開口の前記周縁端部と、前記開口の前記周縁端部の、前記TIG溶接プロセスにより影響が与えられる直近の部分とを清浄化するステップを有している、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記溶接部の上面を前記羽根の前記先端部の前記上面に整合させるために、前記方法が、前記閉鎖するステップ以後に、さらに、前記TIG溶接プロセスにより形成された前記溶接部を仕上げ加工するステップを有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、前記閉鎖するステップ以前に、さらに、前記羽根の前記先端部を熱処置するステップを有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン、特にガスタービンの羽根に関し、より詳細には、ガスタービンの羽根に設けられた開口を閉鎖する方法であって、前記ガスタービンの前記羽根が、上面と下面とを備えた先端部を有しており、前記羽根の前記先端部に開口が形成されており、該開口が、周縁端部を有している、ガスタービンの羽根に設けられた開口を閉鎖する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの羽根は、根元部と、プラットフォーム部と、翼形部とを有している。通常、ガスタービンの羽根は、高い速度および温度で運転される。したがって、羽根を、比較的肉薄の凸面状のかつ凹面状の側壁を備えて形成するのが好ましい。この側壁は、冷却のための複数の内部冷却路を備えている。冷却効率の改善に関して、これらの内部冷却路は複雑な構造に設計されている。
【0003】
羽根の重要な空気力学的な形状と、複雑な内部冷却路とを考慮して、羽根を製造するためには、通常、鋳造プロセスが採用されている。この鋳造プロセスでは、内部冷却路を形成するために、型内にセラミックス製のまたはガラス製の中子が配置される。この中子は、取扱いおよび位置決めのために、羽根の先端部を越えて延びていなければならないので、鋳造プロセスが終了した時には、結果として、1つ以上の開口が残される。その後、羽根の運転の間に冷却流体が漏出することを防止するために、羽根の先端部に設けられた開口をシールすることが必要となる。従来では、この開口は、鑞付けプレート、いわゆる「レターボックス」によってシールされる。
【0004】
米国特許第6984801号明細書には、ガスタービン羽根の先端部に設けられた孔を塞ぐ方法が開示されている。この方法は、先端プラグとタービン羽根の先端部との間に突合せ区分を提供するために、タービン羽根の先端部に形成された孔内に先端プラグを嵌め込むステップと、先端プラグとタービン羽根の先端部との間の突合せ区分でレーザビームを用いて突合せ溶接を実施するステップと、孔を塞ぐステップとを有している。
【0005】
米国特許出願公開第20040060964号明細書には、タービン羽根閉鎖システムが開示されている。このタービン羽根閉鎖システムは、タービン羽根内の内側の中空室からの冷却流体の逃げ出しを防止するために、中空鋳造タービン羽根に設けられた開口内で摩擦溶接可能な閉鎖部材を有している。この閉鎖部材の異なる形状および開口に対する相応の処理も同明細書に開示されている。
【0006】
米国特許出願公開第20070258825号明細書には、タービン羽根を製造する方法が開示されている。この方法は、(a)互いに反対の側の端部においてタービン羽根内側中子支持体を支持して、タービン羽根の半径方向内外の端部を鋳造の間に開放したままにしておくステップと、(b)水平線に対して傾けられた半径方向外側の縁部を備えた翼形部分を含めて羽根を鋳造するステップと、(c)翼形部分の半径方向外側の縁部を加工して、翼形部分に設けられた半径方向外側の開口を取り囲む周肩部を形成するステップと、(d)この周肩部に先端キャップを装着しかつ位置固定する、たとえば羽根の翼形部分に先端キャップを溶接するステップとを有している。
【0007】
上述した明細書から認めることができるように、先端キャップまたはこれに類する部材は、羽根の先端部に設けられた、鋳造プロセスから残された開口の閉鎖に際して、上述した明細書の解決手段の全てに採用されている。先端キャップは、羽根の先端部に設けられた開口をシールする全体的なプロセスを複雑にし、これによって、プロセスサイクルが延長されてしまう。また、このように、羽根の先端部に溶接された先端キャップが、ガスタービンの運転の間に早期の破損を招いてしまうことも知られている。その結果、保守および修理のための休止時間が長くなり、ひいては、多大なコストが発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6984801号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第20040060964号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第20070258825号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上述した問題を除去するかまたは少なくとも軽減する、つまり、先端キャップまたはこれに類する部材を使用することなく、羽根の先端部に設けられた開口を閉鎖する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明に係る方法では、該方法が、開口内にインサートを配置することなく、タングステン不活性ガス(TIG)溶接プロセスにより形成された溶接部によって開口を閉鎖するステップを有している。
【0011】
本発明に係る方法の好ましい態様では、前記TIG溶接プロセスを前記開口の前記周縁端部に沿って実施する。
【0012】
本発明に係る方法の好ましい態様では、前記TIG溶接プロセスを肉盛溶接によって実施する。
【0013】
本発明に係る方法の好ましい態様では、前記TIG溶接プロセスにより形成された前記溶接部が、それぞれ前記羽根の前記先端部の前記上面および前記下面を越えて延びている。
【0014】
本発明に係る方法の好ましい態様では、前記方法が、前記閉鎖するステップ以前に、さらに、前記開口の前記周縁端部と、前記開口の前記周縁端部の、前記TIG溶接プロセスにより影響が与えられる直近の部分とを清浄化するステップを有している。
【0015】
本発明に係る方法の好ましい態様では、前記開口の前記周縁端部が、前記羽根の前記先端部の前記下面に対して相対的に、設定された角度を成すようにするために、前記方法が、前記閉鎖するステップ以前に、さらに、前記開口の前記周縁端部を面取りするステップを有している。
【0016】
本発明に係る方法の好ましい態様では、前記溶接部の上面を前記羽根の前記先端部の前記上面に整合させるために、前記方法が、前記閉鎖するステップ以後に、さらに、前記TIG溶接プロセスにより形成された前記溶接部を仕上げ加工するステップを有している。
【0017】
本発明に係る方法の好ましい態様では、前記方法が、前記閉鎖するステップ以前に、さらに、前記羽根の前記先端部を熱処置するステップを有している。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、従来使用されていた「レターボックス」、インサート、先端キャップおよびこれに類するものを使用することなしに、羽根の先端部に設けられた開口を閉鎖するための簡単で廉価な技術的な解決手段が提供される。このことを考慮して、開口を閉鎖するプロセスを簡略化することができ、発生するコストを減少させることができる。さらに、羽根の早期の破損が防止されている。
【0019】
本発明の目的、利点および更なる特徴は、同じエレメントを表すために同一の参照符号を使用した添付の図面に相俟って、例示の目的のためにのみ記載した、限定されていない本発明の好適な実施の形態の以下の説明からさらに明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ガスタービンの羽根の先端部の概略的な平面図である。
【
図2】溶接前の羽根の先端部の側方横断面図である。
【
図3】溶接後の羽根の先端部の側方横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための形態を図面につき詳しく説明する。
【0022】
図1には、ガスタービンの羽根100の先端部110の概略的な平面図が示してある。このガスタービンの羽根100は、
図2に示したように、上面120と下面130とを備えた先端部110を有している。羽根100のこの先端部110には、たとえば鋳造プロセスによって開口140が形成されている。この開口140は、
図2に示したように、周縁端部142を有している。本発明の1つの実施の形態によれば、開口140を閉鎖する方法が、開口140内にインサートを配置することなく、タングステン不活性ガス(TIG)溶接プロセスにより形成された溶接部150(
図3参照)によって開口140を閉鎖するステップを有している。
【0023】
本発明の1つの可能な実施の形態では、TIG溶接プロセスが開口140の周縁端部142に沿って実施される。特にTIG溶接プロセスは、開口140の周縁端部142から始まって、開口140の中心に向かって螺
旋状に進行し、そこで、TIG溶接プロセスが終了し、開口140が溶接部150によって閉鎖される。
【0024】
本発明の1つの好適な実施の形態では、羽根100、特に羽根100の先端部110が、溶接前に熱処理にさらされてよく、これによって、羽根100の先端部110がいっそう溶接可能となり、結果として生じる溶接部150における亀裂が回避される。したがって、本発明に係る方法は、羽根100の先端部110を熱処理するステップを有していてよい。
【0025】
当業者に自明であるように、厚さ、すなわち、羽根100の先端部110の上面120と下面130との間の距離が、幾つかの羽根において極めて大きい場合には、溶接部150が先端部110の厚さ全体を埋め尽くすことができない。この場合、本発明の1つの好適な実施の形態によれば、TIG溶接プロセスが肉盛溶接によって実施されてよく、これによって、先端部110の厚さが十分に埋め尽くされ、ひいては、溶接部150の十分な強度が保証される。
【0026】
実際の用途では、種々の処理および組立て誤差のため、上面120と下面130とが平坦なままであることはない。この場合には、
図3に示したように、TIG溶接プロセスにより形成された溶接部150が、それぞれ羽根100の先端部110の上面120と下面130とを越えて延びており、これによって、下面130の外観がそれほど重要でない場合でさえ、上面120と下面130とにおけるあらゆる凹凸が除去され、ひいては、溶接部150と上面120との強度および外観が保証される。
【0027】
本発明の1つの好適な実施の形態によれば、本発明に係る方法が、閉鎖のステップ以前に、さらに、開口140の周縁端部142と、この開口140の周縁端部142の、TIG溶接プロセスにより影響が与えられる直近の部分とを清浄化するステップを有している。この清浄化のステップは、開口140の周縁端部142と、この開口140の周縁端部142の、TIG溶接プロセスにより影響が与えられる直近の部分とを覆うあらゆる酸化された金属を除去するために利用することができる。これによって、酸化された金属による溶接部150の品質の悪化を防止することができる。
【0028】
付加的に、本発明の1つの可能な実施の形態では、
図2に破線で示したように、開口140の周縁端部142が面取りされていてよい。したがって、本発明に係る方法は、閉鎖のステップ以前に、さらに、開口140の周縁端部142を面取りするステップを有しており、これによって、周縁端部142が、羽根100の先端部110の下面130に対して相対的に、設定された角度を成している。したがって、形成された面取り部144が溶接プロセスおよび溶接部強度を促進することができる。面取り部144と下面130との間の角度に関して、当業者は、特別な用途に応じて、適切な角度、たとえば30°、45°およびこれに類する角度を選択してよい。
【0029】
付加的に、本発明の1つの実施の形態に係る方法は、さらに、TIG溶接プロセスにより形成された溶接部150を仕上げ加工するステップを有していてよく、これによって、溶接部150の上面が、羽根100の先端部110の上面120に整合させられる。この仕上げ加工ステップは、工作機械によって実施されてもよいし、手動で行われてもよい。溶接部150の仕上げ加工された上面は、通常、羽根100の先端部110の上面120と同一平面を成しており、これによって、後続の処理および組立てに対して平滑なかつ仕上げ加工された表面が提供される。
【0030】
当業者に自明であるように、上述したステップおよびステップの実施順序は、特別な用途に応じて選択され、決定されてよい。上述したステップのあらゆる組合せが、実地作業の間に直面した技術的な問題に取り組む際の1つの可能な解決手段を成している場合には、この組合せが本発明の保護範囲に含まれていることが提案されている。
【0031】
本発明を、ただ1つの限定した実施の形態に関連して詳細に説明したにもかかわらず、当然ながら、本発明はこのような上述した実施の形態に限定されるものではない。それどころか、本発明は、上述していないものの、本発明の精神および範囲に相応する変化形態、改良形態、代用形態または同等の配置形態を含めるために変更されてよい。付加的に、本発明の種々異なる実施の形態を説明したにもかかわらず、当然ながら、本発明の態様は、幾つかの説明した実施の形態だけを含むものであってもよい。したがって、本発明は、前述した説明によって限定されていると見なされるべきではなく、添付した特許請求の範囲によって限定されたものでしかない。
【符号の説明】
【0032】
100 羽根
110 先端部
120 上面
130 下面
140 開口
142 周縁端部
144 面取り部
150 溶接部