特許第6038209号(P6038209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社石崎電機製作所の特許一覧

<>
  • 特許6038209-アイロン 図000002
  • 特許6038209-アイロン 図000003
  • 特許6038209-アイロン 図000004
  • 特許6038209-アイロン 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6038209
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】アイロン
(51)【国際特許分類】
   D06F 75/38 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   D06F75/38
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-42759(P2015-42759)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-159032(P2016-159032A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2015年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】391047455
【氏名又は名称】株式会社石崎電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸一
(72)【発明者】
【氏名】成田 真弥
【審査官】 石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−150594(JP,U)
【文献】 実開昭54−181187(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 75/00−85/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部を有するアイロン本体と、該アイロン本体の下側でかけ面を下方へ向けたベース板とを備えたアイロンにおいて、
前記かけ面を、後部側に位置する大面積部と該大面積部よりも前側に位置し且つ面積の小さい小面積部とに区画し、前記小面積部を、前記大面積部に対し前方斜め上方へ傾け
前記小面積部にスチーム噴出孔を設けるとともに、前記大面積部にはスチーム噴出孔を設けないようにしたことを特徴とするアイロン。
【請求項2】
前記小面積部の横幅を、前記大面積部の横幅よりも小さくしたことを特徴とする請求項1記載のアイロン。
【請求項3】
前記かけ面の前端寄りにおける両側部のうち、その一方の側部のみに切欠部を設けて、前記かけ面を左右非対称にしたことを特徴とする請求項1又は2記載のアイロン。
【請求項4】
前記小面積部を前方へゆくにしたがって徐々に横幅が狭くなるように形成し、この小面積部における一方の側部のみに前記切欠部を設けたことを特徴とする請求項3記載のアイロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布等の皺をのばすのに用いられるアイロンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発明には、例えば特許文献1に記載のもののように、アイロン本体(2)と、該アイロン本体(2)の上側に設けられた把持部(4)と、該アイロン本体(2)の下側でかけ面(9)を下方へ向けたベース板(底板部11)とを備え、前記かけ面(9)の前端側を徐々に幅狭にした形状のスチームアイロンがある。なお、前記括弧内の数字は、特許文献1における符号を示す。
【0003】
ところで、従来のアイロンを用いて、衣類等におけるボタン回りや、襟回り、袖回り等、比較的面積の小さい要部をアイロンがけする際、衣類等に対し局部的に押圧力を加え熱を伝達させるために、幅狭なかけ面前端側部分を衣類等に強く押し付ける場合がある。
しかしながら、このようにして作業を行う場合には、前記押圧力により、かけ面が前方斜め下方を向くように傾斜するため、かけ面の前端縁に前記押圧力が過剰に集中するとともに、その後側では極端に押圧力が弱かったり、布面との間に隙間を生じたりして、前記要部に対するアイロンがけを良好に行えない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平7−9297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とする処は、比較的面積の小さい要部に対するアイロンがけを良好に行うことができるアイロンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための一手段は、把持部を有するアイロン本体と、該アイロン本体の下側でかけ面を下方へ向けたベース板とを備えたアイロンにおいて、前記かけ面を、後部側に位置する大面積部と該大面積部よりも前側に位置し且つ面積の小さい小面積部とに区画し、前記小面積部を、前記大面積部に対し前方斜め上方へ傾け、前記小面積部にスチーム噴出孔を設けるとともに、前記大面積部にはスチーム噴出孔を設けないようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以上説明したように構成されているので、比較的面積の小さい要部に対するアイロンがけを良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係るアイロンの一例を示す側面図である。
図2】同アイロンのベース板を示し、(a)は側面図、(b)は底面図である。
図3】同アイロンの使用状態の側面図であり、(a)は大面積部をアイロンがけ対象物に接触させた状態を示し、(b)は小面積部をアイロンがけ対象物に接触させた状態を示す。
図4】同アイロンによりアイロンがけ対象物の要部をアイロンがけしている状態を平面視した模式図であり、ハッチングはかけ面と前記対象物との接触部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態の第1の特徴は、把持部を有するアイロン本体と、該アイロン本体の下側でかけ面を下方へ向けたベース板とを備えたアイロンにおいて、前記かけ面を、後部側に位置する大面積部と該大面積部よりも前側に位置し且つ面積の小さい小面積部とに区画し、前記小面積部を、前記大面積部に対し前方斜め上方へ傾けた。
この構成によれば、前側に位置する小面積部を、布等に対し局部的に強く押し付けることができるため、布等において皺になり易い部位(例えば、襟回りやポケット回り、ボタン回り等)等、面積の比較的小さい要部に対するアイロンがけを良好に行うことができる。
【0010】
第2の特徴としては、細かな部位に対するアイロンがけを良好に行うために、前記小面積部の横幅を、前記大面積部の横幅よりも小さくした。
【0011】
第3の特徴としては、前記小面積部にスチーム噴出孔を設けるとともに、前記大面積部にはスチーム噴出孔を設けないようにした。
この構成によれば、通常状態では、アイロンがけ対象物に接しない小面積部のスチーム噴出孔からスチームが噴出し、このスチームが前記対象物に沿って拡散する。そして、この後、スチームを当てた面を、小面積部又は大面積部によりアイロンがけすることができる。
すなわち、布地に接する面にスチーム噴出孔を有する従来技術では、スチーム噴出孔に対応する狭い範囲のみにスチームが当たったり、スチーム噴出孔内縁の汚れが前記対象物に転写したり等の不具合を生じるおそれがあるが、本発明によれば、このような不具合を解消することができ、アイロンがけ作業を効率的に行うことができる。
【0012】
第4の特徴としては、特に、ボタンや装飾物等の突起物の回りのアイロンがけ作業を良好に行えるようにするために、前記かけ面の前端寄りにおける両側部のうち、その一方の側部のみに切欠部を設けて、前記かけ面を左右非対称にした。
【0013】
第5の特徴としては、細かな要部に対するアイロンがけ作業をより良好に行えるようにするために、前記小面積部を前方へゆくにしたがって徐々に横幅が狭くなるように形成し、この小面積部における一方の側部のみに前記切欠部を設けた。
【0014】
なお、後述する実施例では、上記特徴の一部を含まずに、以下の構成要件のみを必須とした発明も開示している。
すなわち、この発明は、把持部を有するアイロン本体と、該アイロン本体の下側でかけ面を下方へ向けたベース板とを備えたアイロンにおいて、前記かけ面の前端寄りにおける両側部のうち、その一方の側部のみに切欠部を設けて、前記かけ面を左右非対称にした。
前記構成によれば、例えば、切欠部によりボタンや装飾物等の突起物を逃がすようにして、対象物の前記突起物の回りの部位を効率的にアイロンがけすることができる。しかも、一方の側部のみに切欠部を設けるとともに他方の側部には切欠部を有さないため、熱の伝達効率が良好である。すなわち、仮に両側に切欠部を有する構成とした場合には、熱が両側方へ逃げ易くなるが、本発明では、切欠部を有さない側部側に蓄積した熱を、効率的に切欠部側へ伝導することができる。
【実施例】
【0015】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
なお、本明細書中、「下方」とは、アイロンにおいてかけ面を有する方向(図1によれば下方)を意味し、「上方」とは、前記「下方」に対する逆方向を意味する。
また、「前方」とは、アイロンが通常の用い方で把持された場合において、その前方となる方向(図1によれば右方向)を意味し、「後方」とは、前記「前方」に対する逆方向を意味する。特に、図示例のアイロン1では、図3に示すように、通常の用い方で把持部11が手で把持された際に、該手の親指p及び人差し指iが位置する方向が前記「前方」となり、小指chが位置する方向が前記「後方」となる。また、図示例のアイロン1では、一端から他端まで横幅が徐々に狭くなる略V字状又は略三角形状の輪郭を有しており、前記「前方」は、前記横幅が徐々に狭くなってゆく方向(図2(b)によれば右方)である。
また、「左右」とは、先端を前方へ向けたアイロン1を上方側から平面視して(図4参照)、大面積部21aを横方向に二分割する中心線C(仮想線)を設けた場合に、該中心線Cを境(基準)にした一方側と他方側(図4によれば左側と右側)を意味する。
また、「横幅」とは、前記中心線Cに略直交する方向の幅を意味する。
【0016】
このアイロン1は、把持部11を有するアイロン本体10と、該アイロン本体10の下側でかけ面21を下方へ向けたベース板20とを備える。このアイロン1を用いてアイロンがけする際には、把持部11が手で把持され、かけ面21が対象物aに押し付けられる(図3参照)。
【0017】
アイロン本体10は、合成樹脂材料等により成形され、内部には、スチームを発生させるための水を貯溜するタンク(図示せず)や、該タンク内の水を加熱するヒータ(図示せず)等が設けられる。
アイロン本体10の外側部分には、把持部11や、スチームを発生させるためのスチームボタン12、前記ヒータに電源を供給するための電源コード(図示せず)、前記ヒータの温度を調整するための温度調整ツマミ(図示せず)、電源及び温度状態等に応じて点灯又は消灯するパイロットランプ(図示せず)等が設けられる。
【0018】
把持部11は、アイロンがけの際に作業者等が手で把持する部位である。この把持部11は、アイロン本体10上部側の貫通孔13の上側に配置され、前後方向へ長尺な略軸状に形成される。
この把持部11は、図3に示すように、親指p及び人差し指iが前側に位置し、小指chが後側に位置するようにして手で握られることを想定している。
なお、把持部11は。手で把持することが可能な構成であればよく、図示例以外の形状とすることが可能である。
【0019】
スチームボタン12は、アイロンがけ作業のモード切換(すなわち、スチームとドライとの切換)を行う押しボタンスイッチである。このスチームボタン12は、例えば、押し込まれた状態又は突出した状態でドライとなり、前記と逆の状態でスチームとなるように構成される。
【0020】
また、ベース板20は、アイロン本体10の下部側に、かけ面21を下方へ向けるようにして設けられている。
このベース板20は、熱伝導性の比較的高い金属材料を、ダイキャスト等の金型鋳造により所定形状に成形してなる。
このベース板20の上面側には、スチーム発生室(図示せず)が設けられ、該スチーム発生室で発生するスチームは、後述するスチーム噴出孔22を通ってベース板20の下方側へ噴出する。
そして、このベース板20の下面は、布等のアイロンがけ対象物aに押圧されるかけ面21となっている。このかけ面21には、対象物aに対する摩擦抵抗の軽減や耐腐食性の向上等のために、フッ素樹脂等のコーティングが施されている。
【0021】
かけ面21は、後部側に位置する大面積部21aと、該大面積部21aよりも前側に位置し且つ面積及び横幅の小さい小面積部21bとに区画される。
【0022】
大面積部21aは、比較的広い面積の平坦面状に形成され、図2(b)に示す一例によれば、前方へ向かって徐々に横幅が狭くなる左右対称形状である。
この大面積部21aには、スチーム噴出孔22を設けていない。
【0023】
小面積部21bは、大面積部21aよりも前側において、前方へゆくにしたがって徐々に横幅が狭くなる平面視略三角形状であって、且つ、大面積部21aに対し前方斜め上方へ傾く傾斜平坦面状に形成される。そして、大面積部21aに連続して前方へ延びる仮想平面と、小面積部21bとの角度αは、約1〜20度に設定される(図2(a)参照)。なお、前記角度範囲の上限を超えた場合には、アイロンがけの作業性が著しく低するおそれがある。
この小面積部21bには、複数のスチーム噴出孔22が設けられる。これらスチーム噴出孔22は、図2(b)に示すように、小面積部21bの略三角形状の輪郭に沿って複数配設されるとともに、小面積部21bの中央部近傍にも複数配設される。
【0024】
また、小面積部21bは、その前端寄りにおける両側部のうち、その一方の側部のみに切欠部23を有する。すなわち、かけ面21の前端寄りは、切欠部23により左右非対称な形状となる。
【0025】
切欠部23は、滑らかな凹曲線状の輪郭を有し、その曲率や、凹みの深さ、幅等は、図4に示すように、衣類等に用いられる平均的な径のボタンa1の外周部に嵌り合うように適宜に設定される。
【0026】
次に、上記構成のアイロン1について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。
先ず、図3(a)に示すように、大面積部21aの全面をアイロンがけの対象物aに接触させた状態では、小面積部21bが、前方斜め上方へ傾斜して対象物aから離れる。
把持部11を手で握り持ち、図3(b)に示すように、大面積部21aを対象物aから引き離すとともに、前側に位置する小面積部21bを対象物aに接触させれば、小面積部21bを衣類等の要部に対し局部的に強く押し付けることができ、衣類の襟回りや、袖回り、ポケット回り、ボタン回り等、細かな要部を効率的にアイロンがけすることができる。
【0027】
また、図3(a)に示す初期状態では、対象物aに接しない小面積部21bのスチーム噴出孔22からスチームが噴出し、このスチームが、対象物aの表面に沿って徐々に拡散する。したがって、この後、大面積部21a又は小面積部21bを用いて、対象物aにおけるスチームが当てられた比較的広範囲な面を効率的にアイロンがけすることができる。
また、対象物a上にアイロン1を載置した初期状態(図3(a)参照)では、スチーム噴出孔22の出口側の縁が対象物aに接触しないため、対象物aにスチーム噴出孔22の跡が付いたり、スチーム噴出孔22の汚れが対象物aに転写したり、スチーム噴出孔22内に対応する狭い範囲のみスチームが当たったりするのを防ぐことができる。
【0028】
また、例えば、図4に示すように、対象物aにおけるボタンa1の周りをアイロンがけする場合には、切欠部23によりボタンa1を逃がすようにして、対象物aにおけるボタンa1近傍をアイロンがけすることができ、ボタンa1にベース板20が当たってボタンa1が損傷等するのを防ぐことができる。
また、前記アイロンがけの際、ベース板20における切欠部23を有さない部分(図4によれば前端側の右側部分)に蓄積される熱が、切欠部23側へ伝導するため、仮に左右両側に切欠部を設けた場合と比較し、側部からの放熱が少なく熱伝導が良好であり、ひいては、アイロンがけ作業を効率的に行うことができる。
また、対象物aにおけるポケット回り、襟回り、袖回り等をアイロンがけする場合にも、切欠部23を各要部の輪郭に沿わせて、アイロンがけを効率的に行うことができる。
【0029】
なお、上記実施例によれば、特に好ましい一例として、小面積部21bを平坦面状に形成したが、他例としては、小面積部21bを、凸曲面状に形成することも可能である。
【0030】
また、上記実施例によれば、かけ面21を前方へ行くにしたがって連続的に徐々に横幅が狭くなるように形成したが、他例としては、かけ面21を前方へ向かって段状に横幅が狭くなるようにすることも可能である。
【0031】
また、上記実施例によれば、切欠部23を凹曲線状に形成したが、他例としては、切欠部23を、曲線を有さない凹字状や、V字状、その他の凹形状とすることが可能である。
【0032】
また、上記実施例によれば、切欠部23を小面積部21bにおける一方の側部のみに単数設けたが、他例としては、切欠部23を小面積部21bにおける一方の側部のみに複数設けることも可能である。
【0033】
また、図示例によれば、右利きの作業者が使い易いように、かけ面21の左側部のみに切欠部23を設けたが(図4参照)、他例としては、左利きの作業者が使い易いように、かけ面21の右側部のみに切欠部23を設けるようにしてもよい。
【0034】
また、上記実施例によれば、特に好ましい一例として、スチーム噴出孔22を小面積部21bのみに設けたが、他例としては、スチーム噴出孔22を大面積部21aにも設けたり、全てのスチーム噴出孔22を省いてドライ専用のアイロンを構成したりすることも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1:アイロン
10:アイロン本体
11:把持部
20:ベース板
21:かけ面
21a:大面積部
21b:小面積部
22:スチーム噴出孔
23:切欠部
図1
図2
図3
図4