特許第6038263号(P6038263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6038263
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   A61B8/08
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-213652(P2015-213652)
(22)【出願日】2015年10月30日
【審査請求日】2016年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中俣 徹
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英司
【審査官】 宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−62550(JP,A)
【文献】 特開2013−198636(JP,A)
【文献】 特開2013−198635(JP,A)
【文献】 特開2008−99931(JP,A)
【文献】 特開2008−12047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受するプローブと、
前記プローブを制御することにより、胎児を含む診断領域から超音波の受信信号を得る送受信部と、
前記受信信号に基づいて前記診断領域の画像データを形成する画像形成部と、
前記画像データ内の胎児に対して、当該胎児の発育情報に基づいて決定されるサイズの心臓関心領域を設定する関心領域設定部と、
前記心臓関心領域内の画像データに基づいて胎児の心拍情報を得る心拍情報処理部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記関心領域設定部は、前記画像データ内の胎児に対して、前記発育情報として得られる当該胎児の妊娠週数に応じたサイズの心臓関心領域を設定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
妊娠週数から心臓関心領域のサイズを決定するテーブルまたは関数を利用し、前記画像データ内の胎児の妊娠週数から当該胎児の心臓関心領域のサイズを決定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記心拍情報処理部は、前記心臓関心領域内における複数のサブ領域の各サブ領域ごとに当該サブ領域内の画像データに基づいて胎児のサブ心拍情報を導出し、複数のサブ領域に対応した複数のサブ心拍情報の中から選択される少なくとも一つのサブ心拍情報に基づいて、前記心拍情報として当該胎児の心拍波形と心拍数の少なくとも一方を導出する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記関心領域設定部は、前記画像データ内において前記心臓関心領域の外側に追跡用関心領域を設定し、
前記追跡用関心領域内の画像データに基づいて、複数の時相に亘って前記画像データ内において移動する胎児をトラッキングするトラッキング処理部と、
前記トラッキングの結果に基づいて、複数の時相に亘って前記画像データ内において移動する胎児に追従するように前記心臓関心領域を移動させる移動処理部と、
をさらに有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎児を診断する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体内における組織等の診断のために利用されており、特に胎児の診断において必要不可欠な装置となっている。そのため、従来から胎児の超音波診断に係る様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、胎児の頭部の大きさに基づいて胎児の頭部に関する関心領域の大きさを決定する超音波診断装置が記載されている。また、特許文献2,3には、胎児などの計測対象部位のサイズを直感的に把握できるようにした超音波診断装置が記載されている。そして、特許文献4には、胎児の三次元画像を基に4D表示を行う超音波診断装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−231035号公報
【特許文献2】特開2008−99931号公報
【特許文献3】特開2008−183063号公報
【特許文献4】特開2010−148828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来から胎児の超音波診断に係る様々な技術が提案されている中で、本願の発明者らは、胎児の心臓に関する超音波診断に注目した。
【0006】
胎児の心臓に関する超音波診断においては、例えば、胎児を映し出した超音波画像内に心臓の関心領域が設定される。この場合に、医師や検査技師などのユーザがマニュアル操作により関心領域の位置や大きさを設定するのが一般的である。
【0007】
ところが、超音波診断による診断対象の中で胎児の心臓は比較的小さく、そのうえ母体内で動く胎児とともにその心臓も移動するため、超音波画像内の胎児の心臓に関心領域を設定することは容易ではない。
【0008】
本発明は、こうした背景事情に鑑みて成されたものであり、その目的は、胎児の心臓に対する関心領域の設定を支援する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、超音波を送受するプローブと、前記プローブを制御することにより、胎児を含む診断領域から超音波の受信信号を得る送受信部と、前記受信信号に基づいて前記診断領域の画像データを形成する画像形成部と、前記画像データ内の胎児に対して、当該胎児の発育情報に基づいて決定されるサイズの心臓関心領域を設定する関心領域設定部と、前記心臓関心領域内の画像データに基づいて胎児の心拍情報を得る心拍情報処理部と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記装置によれば、超音波の画像データ内の胎児に対して、その胎児の発育情報に基づいて決定されるサイズの心臓関心領域が設定される。本願の発明者らによる多数の測定結果に基づく統計的な調査によれば、胎児の心臓の大きさと妊娠週数には密接な相関が認められる。そのため、胎児の発育情報として、例えば妊娠週数を利用することにより、診断対象となる胎児の心臓の大きさに適した心臓関心領域のサイズを比較的高い精度で決定することができる。また、胎児の超音波診断においては、胎児の頭部の大きさや胎児の全長(頭臀長)などの標準計測を行うことが一般的である。そのため、標準計測の結果を胎児の発育情報として利用してもよい。例えば、胎児に関する標準計測の結果から直接的にその胎児の心臓の大きさを推定して心臓関心領域のサイズを決定してもよい。また、胎児に関する標準計測の結果からその胎児の妊娠週数を導出し、導出された妊娠週数からその胎児の心臓の大きさに適した心臓関心領域のサイズを決定してもよい。つまり、標準計測の結果から妊娠週数を介して心臓関心領域のサイズが決定されてもよい。これにより、一般的に実施される標準計測の結果を利用して、さらに、胎児の心臓の大きさと妊娠週数との間の密接な相関に基づいた比較的高い信頼性をもって、その胎児の心臓の大きさに適した心臓関心領域のサイズを決定することができる。
【0011】
望ましい具体例において、前記関心領域設定部は、前記画像データ内の胎児に対して、前記発育情報として得られる当該胎児の妊娠週数に応じたサイズの心臓関心領域を設定する、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記超音波診断装置は、妊娠週数から心臓関心領域のサイズを決定するテーブルまたは関数を利用し、前記画像データ内の胎児の妊娠週数から当該胎児の心臓関心領域のサイズを決定する、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記心拍情報処理部は、前記心臓関心領域内における複数のサブ領域の各サブ領域ごとに当該サブ領域内の画像データに基づいて胎児のサブ心拍情報を導出し、複数のサブ領域に対応した複数のサブ心拍情報の中から選択される少なくとも一つのサブ心拍情報に基づいて、前記心拍情報として当該胎児の心拍波形と心拍数の少なくとも一方を導出する、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記関心領域設定部は、前記画像データ内において前記心臓関心領域の外側に追跡用関心領域を設定し、前記超音波診断装置は、前記追跡用関心領域内の画像データに基づいて、複数の時相に亘って前記画像データ内において移動する胎児をトラッキングするトラッキング処理部と、前記トラッキングの結果に基づいて、複数の時相に亘って前記画像データ内において移動する胎児に追従するように前記心臓関心領域を移動させる移動処理部と、をさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、胎児の心臓に対する関心領域の設定を支援する技術が提供される。例えば本発明の好適な態様によれば、超音波の画像データ内の胎児に対して、その胎児の発育情報に基づいて決定されるサイズの心臓関心領域を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成図である。
図2】心臓用ROIと追跡用ROIの具体例を示す図である。
図3】心臓用ROIの初期サイズと妊娠週数の対応関係を示す図である。
図4】心臓用ROIの分割例を示す図である。
図5】心拍波形の具体例を示す図である。
図6】計測結果の表示画像の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成図である。プローブ10は、胎児を含む診断領域に超音波を送波し、その診断領域から反射される超音波を受波する。プローブ10は、超音波を送受する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子が送受信部12によって送信制御されて送信ビームが形成される。また、複数の振動素子が診断領域から反射された超音波を受波し、これにより得られた受波信号に基づいて送受信部12が受信ビームを形成する。
【0018】
送受信部12は、プローブ10が備える複数の振動素子の各々に対応した送信信号を出力することにより、超音波の送信ビームを形成してその送信ビームを走査する。また、送受信部12は、プローブ10が備える複数の振動素子の各々から得られる受波信号に対して整相加算処理などを施すことにより、走査される送信ビームに対応した受信ビームを形成し、受信ビームに沿って得られるエコーデータ(受信信号)を出力する。つまり、送受信部12は、送信ビームフォーマと受信ビームフォーマの機能を備えている。なお、送信開口合成などの送受信技術を利用してエコーデータ(受信信号)が得られてもよい。
【0019】
画像形成部20は、複数の時相に亘って得られるエコーデータ(受信信号)に基づいて胎児を含んだ診断領域に関する複数の時相に亘る超音波画像の画像データを形成する。画像形成部20は、例えば、胎児を映し出した断層画像(Bモード画像)の画像データを各フレームごとに(各時相ごとに)複数フレームに亘って形成する。画像形成部20において形成された断層画像の画像データは、各フレームごとに次々に画像記憶部24に記憶される。また、画像形成部20において形成された画像データは、表示処理部80に出力され、その画像データに対応した断層画像が表示部82に表示される。
【0020】
関心領域設定部30は、画像記憶部24に記憶された断層画像の画像データ内に関心領域(ROI)を設定する。関心領域設定部30は、画像データ内の胎児に対して心臓用ROIと追跡用ROIを設定する。
【0021】
関心領域設定部30は、まず、画像データ内の初期位置に初期サイズの心臓用ROIと追跡用ROIを設定し、例えば、操作デバイス90を介して入力されるユーザ操作に応じて、心臓用ROIと追跡用ROIの位置とサイズを調整して確定する。ユーザは、例えば表示部82に映し出される断層画像を見ながら、所望の位置に所望のサイズで心臓用ROIと追跡用ROIが設定されるように操作デバイス90を操作する。
【0022】
心臓用ROIは、胎児の心臓を取り囲むように設定される。これに対し、追跡用ROIは、胎児の心臓を避けるように胎児の他の部位に設定されることが望ましい。なお、関心領域設定部30が断層画像内の画像状態を解析して、心臓用ROIと追跡用ROIの位置とサイズを確定してもよい。
【0023】
サイズ決定部40は、関心領域設定部30により画像データ内に初期設定される関心領域(ROI)のサイズ(大きさ)を決定する。サイズ決定部40は、画像データ内の胎児の発育情報に基づいて、その胎児に対して設定される心臓用ROIの初期サイズを決定する。また、サイズ決定部40は、心臓用ROIの初期サイズに応じて追跡用ROIの初期サイズを決定してもよい。なお、サイズ決定部40による初期サイズの決定処理については後に詳述する。
【0024】
関心領域設定部30により断層画像の画像データ内に心臓用ROIと追跡用ROIが設定され、胎児の心臓に係る計測が開始されると、トラッキング処理部50は、追跡用ROI内の画像データに基づいて、複数の時相に亘って断層画像の画像データ内において移動する胎児をトラッキングする。そして、移動処理部60は、トラッキング処理部50におけるトラッキング結果に基づいて、複数の時相に亘って断層画像の画像データ内において移動する胎児に追従するように心臓用ROIを移動させる。これにより、胎児の心臓に対して設定された心臓用ROIが、移動する胎児の心臓に追従するように制御される。
【0025】
心拍情報処理部70は、複数の時相に亘って移動する心臓用ROI内の画像データに基づいて、胎児の心臓の周期的な運動である心拍を反映した心拍情報を得る。心拍情報処理部70は、心拍情報として、胎児の心拍波形と心拍数の少なくとも一方を導出する。望ましくは、心拍情報処理部70により、胎児の心拍波形データと心拍数データの両方が得られて表示処理部80に出力される。
【0026】
表示処理部80は、画像形成部20から得られる断層画像の画像データと、心拍情報処理部70から得られる心拍情報(心拍波形と心拍数のデータ)に基づいて、断層画像と心拍情報の表示画像を形成する。表示処理部80において形成された表示画像は表示部82に表示される。
【0027】
制御部100は、図1に示す超音波診断装置内を全体的に制御する。制御部100による全体的な制御には、医師や検査技師などのユーザから操作デバイス90を介して受け付けた指示も反映される。
【0028】
図1に示す構成(符号を付された各部)のうち、送受信部12,画像形成部20,関心領域設定部30,サイズ決定部40,トラッキング処理部50,移動処理部60,心拍情報処理部70,表示処理部80の各部は、例えば電気電子回路やプロセッサ等のハードウェアを利用して実現することができ、その実現において必要に応じてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。また、上記各部に対応した機能が、CPUやプロセッサやメモリ等のハードウェアと、CPUやプロセッサの動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により実現されてもよい。
【0029】
画像記憶部24の好適な具体例は、例えば半導体メモリなどの記憶デバイスである。表示部82の好適な具体例は、例えば液晶ディスプレイであるが、今後の普及が予想される有機EL(electroluminescence)ディスプレイなどの表示デバイスであってもよい。操作デバイス90は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル、その他のスイッチ類等のうちの少なくとも一つにより実現できる。そして制御部100は、例えば、CPUやプロセッサやメモリ等のハードウェアと、CPUやプロセッサの動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により実現することができる。
【0030】
図1の超音波診断装置の全体構成は以上のとおりである。次に、図1の超音波診断装置により実現される機能等について詳述する。なお、図1に示した構成(部分)については以下の説明において図1の符号を利用する。
【0031】
図1の超音波診断装置を利用した胎児の心臓の診断において、医師や検査技師などのユーザは、表示部82に映し出される胎児の断層画像(リアルタイム画像)を確認し、診断に適した断層画像が得られたタイミングで断層画像をフリーズ(静止画像表示)させる。そして、フリーズされた断層画像内に、関心領域設定部30により心臓用ROIと追跡用ROIが設定される。心臓用ROIと追跡用ROIは、関心領域設定部30により断層画像の画像データ内に初期設定され、ユーザによる調整を経て設定が確定される。こうして設定された心臓用ROIと追跡用ROIが利用されて胎児の心臓に係る診断処理が実行される。診断処理の対象となるのは、画像記憶部24に記憶された画像データであり、例えばフリーズ直前までに得られた数秒間程度(例えば3秒間)の複数フレームが処理対象となる。もちろん、処理対象となる秒数をユーザが適宜に調整できる構成としてもよい。
【0032】
図2は、心臓用ROI31と追跡用ROI32の具体例を示す図である。断層画像(Bモード画像)22には、母体(子宮)内の胎児が映し出されており、母体内において胎児は羊水に取り囲まれている。
【0033】
心臓用ROI31は、胎児の心臓の周期的な運動である心拍を解析するために利用される。そのため、心臓用ROI31は、胎児の心臓の運動が検出され易い箇所に設定されることが望ましい。具体的には、例えば、比較的高い輝度となる胎児の心臓部分(特に心臓壁)が含まれるように、ユーザが心臓用ROI31の位置を確定する。なお、関心領域設定部30が、例えば二値化処理等の画像解析処理により、比較的高い輝度となる胎児の心臓部分を判定して、心臓用ROI31の位置を決定してもよい。また、胎児の心臓の運動が検出できる限りにおいて、心臓の一部分のみを含むように心臓用ROI31が設定されてもよい。
【0034】
一方、追跡用ROI32は、胎児の身体に関する全体的な動きを解析するために利用される。そのため、追跡用ROI32は、胎児の身体の動きが検出され易い箇所に設定されることが望ましい。具体的には、例えば、胎児と羊水の境界が含まれるように、追跡用ROI32を設定することが望ましい。なお、関心領域設定部30が、例えば二値化処理等の画像解析処理により胎児と羊水の境界を判定し、追跡用ROI32の設定位置を決定してもよい。なお、胎児の身体の動きが検出され易い他の箇所を含むように追跡用ROI32が設定されてもよい。
【0035】
図2に示す具体例においては、心臓用ROI31と追跡用ROI32は共に矩形状であるが、これらの関心領域(ROI)はその他の多角形や円形や楕円形であってもよい。また、図2に示す具体例のように、心臓用ROI31は胎児の心臓の大きさに合わせて比較的小さく、追跡用ROI32は胎児の身体の大きさに合わせて、心臓用ROI31よりも大きいことが望ましい。
【0036】
また、追跡用ROI32は、胎児の心臓を含まないように設定されることが望ましいものの、胎児の身体の動きを検出できる限りにおいて、心臓の一部を含むように設定されてもよい。心臓用ROI31が心臓に対して設定されるため、追跡用ROI32は、図2に示す具体例のように、心臓用ROI31に対応する領域が刳り抜かれた形状で、心臓用ROI31を取り囲むように設定されることが望ましい。例えば、心臓用ROI31の位置のみがユーザによって指定され、これにより位置を確定された心臓用ROI31を取り囲むように、関心領域設定部30が追跡用ROI32を設定(確定)してもよい。なお、追跡用ROI32と心臓用ROI31が部分的に重なり合ってもよい。
【0037】
次に、心臓用ROI31の初期サイズについて説明する。サイズ決定部40は、胎児の発育情報に基づいて心臓用ROI31の初期サイズを決定する。例えば、胎児の妊娠週数に応じてその胎児に対する心臓用ROI31の初期サイズが決定される。
【0038】
図3は、心臓用ROIの初期サイズと妊娠週数の対応関係を示す図である。図3には、横軸に妊娠週数を示して縦軸に心臓用ROIサイズ(初期サイズ)を示したグラフが図示されている。図3には、具体例1と具体例2のサイズ曲線が図示されている。
【0039】
本願の発明者らによる多数の測定結果に基づく統計的な調査によれば、胎児の心臓の大きさと妊娠週数には密接な相関が認められる。図3に示す具体例1と具体例2のサイズ曲線は、多数の胎児に関する妊娠週数と心臓サイズの実測値(測定結果)の対応関係から得られたものである。これら多数の測定結果によれば、図3の具体例1または具体例2のサイズ曲線から、実用上において十分に適正な心臓用ROIの初期サイズを得ることができる。
【0040】
一般に胎児の診断において、早期の胎児については心臓全体が診断対象とされ、中期以降(中期と後期)の胎児については心臓の左室が診断対象とされる。したがって、心臓用ROIについても、早期の胎児については心臓全体を対象とした設定が望ましく、中期以降の胎児については左室を対象とした設定が望ましい。
【0041】
図3に示す具体例1のサイズ曲線は、早期と中期以降において心臓用ROIのサイズを切り替える具体例である。早期から中期への切り替え週数(サイズを切り替える妊娠週数)は、例えば10〜15週程度のうちのいずれかの週に設定される。もちろん、例えば、切り替え週数をユーザが適宜に調整できる構成としてもよい。
【0042】
これに対し、図3に示す具体例2のサイズ曲線は、早期から中期以降まで心臓用ROIのサイズを滑らかに変化させる具体例である。この具体例2のサイズ曲線は、例えば、複数のサブROIに分割される心臓用ROIとの組み合わせにおいて好適である。後に詳述するように心臓用ROI内を複数のサブROIに分割することにより、複数のサブROIから得られる心拍情報の中から、信頼性の高い心拍情報を選択することができる。つまり心臓全体から又は心臓の左室から信頼性の高い心拍情報を選択することができる。そのため、例えば、具体例2のサイズ曲線に従って心臓用ROIのサイズを心臓全体に適合させた場合でも、例えば左室に対応したサブROIから信頼性の高い心拍情報を得ることが可能になる。したがって、心臓全体と左室のみの両方に高い信頼性をもって対応できる。
【0043】
そこで、例えば、具体例2のサイズ曲線をデフォルトの曲線とし、必要に応じて例えばユーザが具体例1のサイズ曲線を選択できるようにしてもよい。もちろん、具体例1,2以外にも選択可能なサイズ曲線が設けられてもよい。
【0044】
サイズ決定部40は、サイズ曲線に従って、診断対象となる胎児の妊娠週数に対応した初期サイズを決定する。例えば、サイズ曲線(図3の具体例1または具体例2など)に従って妊娠週数と心臓用ROIのサイズを対応付けたテーブルが予め用意され、サイズ決定部40がそのテーブルを参照して、診断対象となる胎児の妊娠週数に対応した心臓用ROIのサイズを決定する。また、例えば、サイズ曲線に対応した関数が予め用意され、サイズ決定部40がその関数を利用して、診断対象となる胎児の妊娠週数から心臓用ROIのサイズを算出してもよい。
【0045】
また、胎児の超音波診断においては、胎児の頭部の大きさや胎児の全長(頭臀長)などの標準計測を行うことが一般的である。そのため、サイズ決定部40は、標準計測の結果を利用して心臓用ROIの初期サイズを決定してもよい。例えば、胎児に関する標準計測の結果から直接的にその胎児の心臓の大きさを推定して心臓用ROIの初期サイズを決定してもよい。また、胎児に関する標準計測の結果からその胎児の妊娠週数を導出し、導出された妊娠週数から、サイズ曲線(図3の具体例1または具体例2など)を利用し、その胎児の心臓の大きさに適した心臓用ROIの初期サイズを決定してもよい。これにより、一般的に実施される標準計測の結果を利用して、さらに、胎児の心臓の大きさと妊娠週数との間の密接な相関に基づいた比較的高い信頼性をもって、その胎児の心臓の大きさに適した心臓用ROIの初期サイズを決定することができる。
【0046】
関心領域設定部30は、サイズ決定部40において決定されたサイズを心臓用ROIの初期サイズとする。例えば、決定された初期サイズを一辺の長さとする正方形の心臓用ROIが画像データ内に初期設定される。なお、決定された初期サイズを直径とする円形の心臓用ROIが初期設定されてもよいし、決定された初期サイズを長軸とする楕円形の心臓用ROIが初期設定されてもよい。また、関心領域設定部30は、例えば予め定められた画像データ内の初期位置に心臓用ROIを初期設定する。もちろん、関心領域設定部30は、画像解析処理などにより得られた胎児の心臓の位置(予想位置)に心臓用ROIを初期設定してもよい。
【0047】
さらに、関心領域設定部30は、心臓用ROIの位置とサイズに応じた追跡用ROIを設定する。例えば、心臓用ROIに対応する領域が刳り抜かれた形状で心臓用ROIを取り囲む追跡用ROI(図2参照)が設定される。例えば、関心領域設定部30は、心臓用ROIの境界から追跡用ROIの境界までの距離が一定に維持されるように、心臓用ROIのサイズに応じて追跡用ROIのサイズを決定する。もちろん、心臓用ROIの面積と追跡用ROIの面積との比率に基づいて、例えば比率が一定となるように、追跡用ROIのサイズが決定されてもよい。
【0048】
次に、心臓用ROIの分割について説明する。関心領域設定部30は、心臓用ROI内を複数のサブROIに分割する。
【0049】
図4は、心臓用ROIの分割例を示す図である。図4の具体例において、心臓用ROIは矩形(正方形)であり、6個の矩形状のサブROI(A)〜(F)に分割されている。
【0050】
4個のサブROI(A)〜(D)は、心臓用ROIを4等分して得られる。図4の具体例では、4個のサブROI(A)〜(D)は、いずれも矩形(正方形)である。心臓用ROIは、胎児の心臓を全体的に含むように設定され、4個のサブROI(A)〜(D)は胎児の心臓を部分的に含むように設定される。
【0051】
サブROI(E)は、心臓用ROIの中心に設けられる。図4に示す具体例において、サブROI(E)は、サブROI(A)〜(D)の各々と同じサイズで同じ形状である。なお、サブROI(E)は、サブROI(A)〜(D)と部分的に重なるように設定される。
【0052】
そして、サブROI(F)は、心臓用ROI全体に対応しており、図4の具体例では、心臓用ROIが矩形(正方形)であるため、サブROI(F)も矩形(正方形)である。心臓用ROIは、胎児の心臓を全体的に含むように設定され、従って、サブROI(F)も胎児の心臓を全体的に含むように設定される。
【0053】
なお、図4には、複数のサブROI(A)〜(F)が矩形(正方形)である具体例を示したが、例えば心臓用ROIの形状に応じて、複数のサブROI(A)〜(F)が矩形以外の多角形や円形や楕円形とされてもよい。また、図4の具体例において、複数のサブROI(A)〜(E)は互いに等しいサイズであるが、互いに異なるサイズに分割されてもよい。また、複数のサブROI(A)〜(D)が互いに部分的に重なって設定されてもよい。さらに、サブROIの個数(分割数)も図4に示す具体例に限定されない。サブROIの形状、サイズ、個数、設定位置などを、例えばユーザが指定(調整)できる構成としてもよい。
【0054】
関心領域設定部30により断層画像の画像データ内に心臓用ROI(図2図4参照)と追跡用ROI(図2参照)が設定され、胎児の心臓に係る計測が開始されると、トラッキング処理部50は、追跡用ROI内の画像データに基づいて、複数の時相に亘って断層画像の画像データ内において移動する胎児をトラッキングする。そして、移動処理部60は、トラッキング処理部50におけるトラッキング結果に基づいて、複数の時相に亘って断層画像の画像データ内において移動する胎児に追従するように心臓用ROIを移動させる。これにより、胎児の心臓に対して設定された心臓用ROIが、移動する胎児の心臓に追従するように制御される。
【0055】
心拍情報処理部70は、複数の時相に亘って移動する心臓用ROI内の画像データに基づいて、胎児の心臓の周期的な運動である心拍を反映した心拍情報を得る。心拍情報処理部70は、複数の時相に亘って得られる心臓用ROI内の画像データに基づいて、胎児の心拍波形を生成する。心拍情報処理部70は、例えば、図4に示す心臓用ROI内の複数のサブROI(A)〜(F)について、各サブROIごとにそのサブROI内の画像データに基づいて胎児の心拍波形を生成する。
【0056】
図5は、心拍波形の具体例を示す図である。図5には、横軸を時間軸(フレーム番号)として縦軸に振幅である平均輝度を示した心拍波形が図示されている。
【0057】
心拍情報処理部70は、心臓用ROI内の各サブROIごとに、そのサブROI内の画像データに基づいて、そのサブROI内における平均輝度(輝度値の平均)を算出し、複数の時刻に亘って平均輝度を得る。これにより、各サブROIごとに心拍波形が生成される。心臓用ROIが6個のサブROI(A)〜(F)に分割されていれば(図4参照)、図5に示すように、6個のサブROI(A)〜(F)に対応した6個の心拍波形が得られる。胎児の心臓は周期的に拡張収縮運動するため、各サブROI内における平均輝度が拡張収縮運動に伴って変化し、例えば図5に示す具体例のような心拍波形が得られる。
【0058】
なお、平均輝度に代えて、各サブROI内の輝度に関する他の統計値、例えば輝度の総和などにより心拍波形が生成されてもよい。また、画像データの時相間における相関値から心拍波形が生成されてもよい。例えば、各サブROIごとに、基準時刻の画像データと各時刻の画像データとの間の相関値を複数時刻に亘って算出し、縦軸の振幅を相関値とした心拍波形が生成されてもよい。また、各サブROIごとにドプラ情報等に基づいて心拍波形が形成されてもよい。
【0059】
複数のサブROIに対応した複数の心拍波形が生成されると、心拍情報処理部70は、それら複数の心拍波形の中から診断において好適な1つ以上の心拍波形を選択する。心拍情報処理部70は、例えば、正弦波の基準波形または正弦波を修正して得られる基準波形と、各サブROIの心拍波形とを比較することにより、比較的波形の整った信頼性の高い心拍波形を選択する。もちろん、複数のサブROIに対応した複数の心拍波形の中から、医師や検査技師などのユーザが指示する所望の心拍波形を心拍情報処理部70が選択してもよい。
【0060】
そして、心拍情報処理部70は、選択した1つ以上の心拍波形に基づいて、例えば胎児の心拍数を算出する。心拍情報処理部70により得られた心拍波形と心拍数のデータは、表示処理部80に送られる。表示処理部80は、画像形成部20から得られる断層画像の画像データと、心拍情報処理部70から得られる心拍情報(心拍波形と心拍数のデータ)に基づいて、断層画像と心拍情報の表示画像を形成する。表示処理部80において形成された表示画像は表示部82に表示される。
【0061】
図6は、計測結果の表示画像の具体例を示す図である。断層画像は、診断対象となる胎児の超音波画像であり、計測結果の表示においては、画像記憶部24に記憶され、計測に利用された断層画像が表示される。また、計測結果の表示画像内には、心拍情報処理部70において生成された胎児の心拍波形と、心拍波形に基づいて算出される心拍数も表示される。例えば、計測期間MP内における心拍波形の周期から心拍数が算出される。なお、計測期間MPの位置(心拍波形内の位置)と計測期間MPの長さ(演算対象となる期間の長さ)をユーザが適宜に調整できることが望ましい。
【0062】
なお、計測結果が得られるまでの期間、例えば、関心領域設定部30により関心領域(心臓用ROIと追跡用ROI)が設定されてから、心拍情報処理部70により心拍波形データと心拍数データが得られるまでの解析期間に、解析の進捗状況をユーザに知らせるプログレスバーや解析対象の画像データが表示されてもよい。解析対象の画像データを表示させる場合には、画像データ内に設定される心臓用ROIも表示させ、心臓用ROIが胎児の心臓を的確にトラッキングしていることをユーザが確認できるようにしてもよい。
【0063】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0064】
10 プローブ、12 送受信部、20 画像形成部、24 画像記憶部、30 関心領域設定部、40 サイズ決定部、50 トラッキング処理部、60 移動処理部、70 心拍情報処理部、80 表示処理部、90 操作デバイス、100 制御部。
【要約】
【課題】胎児の心臓に対する関心領域の設定を支援する技術を提供する。
【解決手段】関心領域設定部30は、画像データ内の初期位置に初期サイズの心臓用ROIと追跡用ROIを設定し、操作デバイス90を介して入力されるユーザ操作に応じて、心臓用ROIと追跡用ROIの位置とサイズを調整して確定する。心臓用ROIは、胎児の心臓を取り囲むように設定され、追跡用ROIは、胎児の心臓を避けるように胎児の他の部位に設定される。サイズ決定部40は、胎児の発育情報に基づいて心臓用ROI31の初期サイズを決定する。例えば、胎児の妊娠週数に応じてその胎児に対する心臓用ROI31の初期サイズが決定される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6