特許第6038270号(P6038270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6038270
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】電子装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20161128BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   H05K7/20 F
   H01L23/36 D
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-249897(P2015-249897)
(22)【出願日】2015年12月22日
【審査請求日】2016年1月6日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504034585
【氏名又は名称】有限会社 ナプラ
(72)【発明者】
【氏名】関根 重信
(72)【発明者】
【氏名】池田 博明
(72)【発明者】
【氏名】木村 竜司
(72)【発明者】
【氏名】下川 耕一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 圭二
(72)【発明者】
【氏名】大井 達也
(72)【発明者】
【氏名】進藤 広明
【審査官】 原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−060458(JP,A)
【文献】 特開2015−076518(JP,A)
【文献】 特開2009−004666(JP,A)
【文献】 特開2007−150040(JP,A)
【文献】 特開2013−143216(JP,A)
【文献】 特許第4401281(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体部と、放熱構造部とを含む電子装置であって、
前記放熱構造部は、接合部と、熱伝導部とを含み、
前記接合部は、複数種の金属成分よりなり、前記複数種の金属成分の少なくとも2種による1μm以下の金属間化合物を含むナノコンポジット構造を有しており、
前記熱伝導部は、同一厚みの熱抵抗値が前記接合部のそれよりも低い値を持ち、前記接合部と一体化され前記装置本体部と熱結合されており、
前記接合部及び熱伝導部は、複数種であって互いに並置され、それぞれの一端が前記装置本体部の接合面上に共存する、
電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子装置に関するものである。本発明に係る電子装置には、電子工学の技術を応用した電子・電気機器が広く含まれる。
【背景技術】
【0002】
電子装置を構成する各種半導体素子の内、電力制御用半導体素子(パワーデバイス)は、発熱が大きいことから、耐熱性に優れた接合材が望まれている。しかし、従来より知られた接合材は、必ずしも、上述した要求を満たし得るものではなかった。
【0003】
例えば、特許文献1は、異方性を有する導電性接着シートを、厚さ方向の中央に配置したコアフィルムと、コアフィルムの両面に配置された接着剤層と、球状の導電性微粒子とで構成する。コアフィルムに、厚さ方向に貫通する貫通孔を規則的に形成し、全ての貫通孔内に、各1個の導電性微粒子を配置する。しかし、導電性接着シートを用いているので、高い耐熱性を確保することができない。
【0004】
また、放熱特性を向上させるためには、放熱構造部の熱抵抗値は、できるだけ小さいほうがよい。ところが、接合強度や機械的強度の確保などの観点から、放熱構造部の厚みがある値以上であることが要求される。放熱構造部の厚みが増すと、一般には熱抵抗値が大きくなる。このため、放熱構造部の接合強度や機械的強度を確保しながら、熱抵抗値の増大を抑え、放熱特性に優れた放熱構造部を形成することは容易ではない。
【0005】
さらに、複数種の半導体基板を積層して接合する場合や、金属や合金による三次元造形物を成形する場合等に固有の問題として、カーケンダルボイドによる機械的強度の低下の問題がある。カーケンダルボイドは、金属の相互拡散の不均衡により発生した原子空孔(格子)が、消滅することなく集積したことにより発生する。例えば、SnとCuの界面の場合、金属間化合物とCu界面とに空孔が集積し、カーケンダルボイドを形成する。このカーケンダルボイドが、より大きな空洞又はクラックに発展し、接合部の信頼性及び品質を低下させ、更には機械的強度が低下し、剥離、破断、破損等を生じてしまうこともある。
【0006】
例えば、特許文献2は、半導体装置の電極と実装基板の電極を、CuSnと、Cuボールを有する接続部とにより接続し、Cuボール同士もまた、CuSnで連結する技術を開示している。しかしながら、カーケンダルボイドについての言及がなく、その発生を抑制する手段を開示するものではない。
【0007】
特許文献3は、半導体チップ又は基板の接合面に、Cu金属粒子とSn粒子を含む接合剤を塗布し、Snの融点より高い温度で加熱し、接合剤のCuとSnとを遷移的液相焼結させた後、更に、加熱する工法を開示している。しかし、カーケンダルボイド抑制手段を開示するものではない。
【0008】
特許文献4は、金属粒子としてCu粒子と、はんだ粒子としてSn粒子3を含むはんだ材料を圧延して形成したはんだ箔を開示している。はんだ箔では、Cuは粒子の状態であり、SnはこのCu粒子の間を埋める状態にあるから、Cu粒子の間をSnによって完全に埋めることができなければ、カーケンダルボイドを発生することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−286456号公報
【特許文献2】特開2002−261105号公報
【特許文献3】特開2014−199852号公報
【特許文献4】特開2002−301588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、放熱性、耐熱性、接合強度及び機械的強度に優れた接合構造を有する電子装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明に係る電子装置は、装置本体部と、放熱構造部とを含む。前記放熱構造部は、接合部と、熱伝導部とを含み、前記接合部によって前記装置本体に接合されている。前記接合部は、複数種の金属成分よりなり、前記複数種の金属成分のうちの少なくとも2種による1μm以下の金属間化合物を含むナノコンポジット構造を有している。前記熱伝導部は、同一厚みの熱抵抗値が前記接合部のそれよりも低い値を持ち、前記接合部と一体化され前記装置本体部と熱結合されている。本発明において、「金属」とは、金属元素及び/又は複数種金属元素の合金をいう。
【0012】
上述したように、本発明に係る電子装置において、放熱構造部は、接合部を有し、接合部によって装置本体に接合されている。また、放熱構造部は、熱熱伝導部を含み、熱伝導部は接合部と一体化され装置本体部と熱結合される。従って、装置本体部に発生した熱は、接合部及び熱伝導部を通して放熱される。接合部は、さらに、外部との接合に供される。
【0013】
しかも、熱伝導部は、同一厚みの熱抵抗値が接合部のそれよりも低い値を持っている。従って、熱伝導部によって熱抵抗値を下げるとともに、熱伝導部の厚み増大によって、放熱構造部全体としての接合強度及び機械的強度を確保するとともに、熱抵抗値を低下させ、全体として、接合強度、機械的強度及び放熱性に優れた放熱構造部を実現することができる。
【0014】
また、接合部は、複数種の金属成分を含むから、それらの金属成分として、低融点成分と高融点成分とを組合せ、初期融解時には、主として、低融点成分のもつ融点で溶解させ、凝固後の再融解温度を、高融点成分の持つ融点によって支配されるような温度まで、高温化することができる。つまり、温度ヒエラルキ―を確保することができる。従って、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の接合部を形成することができる。接合部のこの特性は、発熱量の大きな電力制御用半導体素子(パワーデバイス)のための導電性接合構造として有用である。
【0015】
さらに、本発明において、接合部は、複数種の金属成分の少なくとも2種による1μm以下の金属間化合物を含むナノコンポジット構造を有するから、接合部において、カーケンダルボイドが発生するのを抑制し、機械的強度が大で、剥離、破断、破損等を生じにくい高信頼性及び高品質の導電性接合部を形成することが可能になる。
【0016】
具体的な形態として、前記接合部は、第1接合部と、第2接合部とを含むことができる。前記第1接合部は、一面が前記装置本体部に接続される。前記熱伝導部は、層状であって、その一面が前記第1接合部の他面に接合される。前記第2接合部は、一面が前記熱伝導部の他面に接合される。
【0017】
この形態によれば、第1接合部によって、装置本体部との接合を実現するとともに、第2接合部によって外部との接合を実現し、熱抵抗値の小さな中間の熱伝導部によって、接合強度、機械的強度及び放熱性を確保することができる。
【0018】
別の形態として、前記接合部及び熱伝導部は、複数種であって互いに並置され、それぞれの一端が前記装置本体との接合面上に共存する構造を実現することもできる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、耐熱性、接合強度、機械的強度及び放熱性に優れた放熱構造部を有する電子装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る電子装置の一例における一部を示す図である。
図2図1に示した電子装置の接合状態を示す図である。
図3】接合層厚と熱抵抗値との関係を示すグラフである。
図4】本発明に係る電子装置の別の例における一部を示す図である。
図5】本発明に係る電子装置の更に別の例における一部を示す図である。
図6】本発明に係る電子装置の更に別の例における一部を示す図である。
図7図6に示された電子装置の放熱構造部を示す斜視図である。
図8】本発明に係る電子装置の接合部に用いられる金属粒子の電子顕微鏡写真を示す図である。
図9】本発明に係る電子装置の接合部に用いられる金属粒子の断面の電子顕微鏡写真を示す図である。
図10図8に示された金属粒子の表面を極薄くレーザ研磨した試料の電子顕微鏡写真を示す図である。
図11図10に示された試料の拡大された電子顕微鏡写真を示す図である。
図12】冷間圧接法を用いた金属間接合を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1に図示された電子装置は、装置本体部100と、放熱構造部300とを含む。装置本体部100は、電子工学技術を応用した電子・電気機器の主要部を構成している。装置本体部100には、電極、バンプまたは端子などの金属部101が設けられている。
【0022】
放熱構造部300は、接合部301と、熱伝導部302とを有し、接合部301によって装置本体部100に接合されている。接合部301は、複数種の金属成分からなり、複数種の金属成分のうちの少なくとも2種による1μm以下の金属間化合物を含むナノコンポジット構造を有する。そのような接合部301は、具体的には、SnAgCu系合金粒子と、Cu8Sn粒子と、Cu粒子との混合組成によって実現することができる。Cu8Snとは、8質量%のCuと、92質量%のSnの組成の合金をいう。これらの金属成分のうち、Cu8Sn粒子は、金属成分SnとCuによるnmサイズ(1μm以下)の金属間化合物CuxSnyを含むナノコンポジット構造を有する。金属間化合物CuxSnyは、典型的には、CuSn、CuSn5である。
【0023】
接合部301は、典型的には、上述した混合組成の紛体を、例えば冷間圧接法を用いた金属間接合によって処理することによって得ることができる(後述)。したがって、接合部301は、Cu8Sn粒子の有するナノコンポジット構造を保存している。
【0024】
熱伝導部302は、接合部301と接合によって一体化され装置本体部100と熱結合される。従って、装置本体部100に発生した熱は、接合部301、熱伝導部302さらに接合部303を通して放熱される。熱伝導部302の具体例としては、Cuを主成分とするものや、Cuとカーボンナノチューブ(CNT)とを主成分とするものなどを例示することができる。
【0025】
実施の形態では、第1接合部301と、第2接合部303とを含んでいる。第1接合部301は、層状であって、一面が装置本体部100の金属部101に接合される。熱伝導部302は、層状であって、その一面が第1接合部301の他面に接合される。第2接合部303は、一面が熱伝導部302の他面に接合される。第2接合部302は、外部との接続に用いられる。第1接合部301、熱伝導部302及び第2接合部303は、例えば冷間圧接法を用いた金属間接合によって、接合することができる。
【0026】
また、第1接合部301及び装置本体部100の金属部101の間も、冷間圧接法を用いた金属間接合によって接合することができる。冷間圧接法を用いた金属間接合のほか、加熱接合法によって接合することもできる。
【0027】
図2は、図1に示した電子装置を他の外部装置500と接合した状態を示す。外部装置500に対しては、本発明に係る電子装置の第2接合部303を、外部装置500の金属部501に接合する。外部装置500は、放熱装置であってもよいし、他の電子装置であってもよい。
【0028】
上述したように、本発明に係る電子装置において、放熱構造部300は、接合部301,303と、熱伝導部302とを有し、接合部301は装置本体部100の金属部101に接合され、熱伝導部302は接合部301によって装置本体部100と熱結合される。装置本体部100に発生した熱は、接合部301,303及び熱伝導部302を通して放熱され、または外部装置500に伝えられる。
【0029】
ここで、熱伝導部302は、同一厚みの熱抵抗値が接合部301,303のそれよりも低い値を持っている。従って、熱伝導部302によって熱抵抗値を下げるとともに、熱伝導部302の厚み増大によって、放熱構造部300全体としての接合強度及び機械的強度を確保し、接合強度、機械的強度及び放熱性に優れた放熱構造部300を実現することができる。この点について、図3を参照して説明する。
【0030】
図3では、横軸に放熱構造部300の厚みTをとり、縦軸に熱抵抗値(℃/W)をとってある。特性L1はCu6Sn5で構成した場合の特性、特性L2はCu3Snで構成した場合の特性、特性L3は焼付けAgで構成した場合の特性、特性L4はCuで構成した場合の特性、をそれぞれ示している。
【0031】
接合強度や機械的強度の確保の観点から、放熱構造部300の厚みが必要最小厚みTmin以上であることが要求される。一方、放熱性の観点から、必要熱抵抗値THRを満たす必要がある。放熱構造部300を、Cu6Sn5やCu3Snで構成した場合、必要熱抵抗値THRを満たす接合厚みTが、必要最小厚みTminよりも小さな厚みT1、T2であり、必要熱抵抗値THRを満たすことができない。
【0032】
本発明では、上記問題点を解決するため、接合部301,303に対して、同一厚みの熱抵抗値が接合部301,303のそれよりも低い、例えばCu(特性L4)でなる熱伝導部302を組み合わせる。これにより、放熱構造部300全体としての放熱特性が、図3の特性L0のようになる。すなわち、必要最小厚みTmin以上、厚みT0以下(T0>Tmin)の範囲で、必要熱抵抗値THR(℃/W)を満たすことができる。このため、放熱構造部300の接合強度や機械的強度を確保しながら、熱抵抗値の増大を抑え、放熱特性に優れた放熱構造部300を実現することができる。接合部301,303及び熱伝導部302の相対的な厚みの選択によっては、Ag焼き付けの特性L3よりも、優れた特性L0を確保することもできる。
【0033】
また、接合部301,303は、複数種の金属成分を含むから、それらの金属成分として、低融点成分と高融点成分とを組合せ、初期融解時には、主として、低融点成分のもつ融点で溶解させ、凝固後の再融解温度を、高融点成分の持つ融点によって支配されるような温度まで、高温化することができる。つまり、温度ヒエラルキ―を確保することができる。従って、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の接合部301,303を形成することができる。接合部301,303のこの特性は、発熱量の大きな電力制御用半導体素子(パワーデバイス)のための導電性接合材として有用である。
【0034】
接合部301,303を、SnAgCu系合金粒子と、Cu8Sn粒子と、Cu粒子との混合組成とした場合には、初期融解時には、主として、低融点成分であるSnのもつ融点で溶解させ、凝固後の再融解温度を、高融点成分であるCuの持つ融点によって支配されるような温度まで、高温化することができる。
【0035】
さらに、接合部301,303は、複数種の金属成分による1μm以下の金属間化合物を含むナノコンポジット構造を有するから、接合部301,303において、カーケンダルボイドが発生するのを抑制し、機械的強度が大で、剥離、破断、破損等を生じにくい高信頼性及び高品質の導電性接合部301,303が形成される。
【0036】
本発明に係る電子装置の別の例における一部を示す図4には、第1接合部301及び第2接合部303を、熱伝導部302を貫通する貫通部304によって連続させた構造が図示されている。この実施の形態によれば、第1接合部301及び第2接合部303と、熱伝導部302との間の結合が強化される。貫通部304は、第1接合部301及び第2接合部303と同じ材料によって構成し得る。貫通部304は、熱伝導部302を貫通する孔または溝を利用して形成することができる。
【0037】
図5の実施の形態は、熱伝導部302の両面に設けた凹部305に、第1接合部301及び第2接合部303を埋め込んだ構造を示している。凹部305は、孔または溝として形成することができる。この実施の形態の場合も、第1接合部301及び第2接合部303と、熱伝導部302との間の結合が強化される。
【0038】
さらに、図6の実施の形態では、接合部301及び熱伝導部302は、複数種であって互いに並置され、それぞれの一端が装置本体部100の接合面上に共存させてある。具体的には、図7に示すように、接合部301と熱伝導部302とを積層して巻き込んだ帯状積層体310を、装置本体部100に設けられた金属部101の接合面上で、直交2方向のX方向及びY方向に必要数並べ、その一端を金属部101の接合面に接合してある。
【0039】
本発明に係る接合部301,303は、SnAgCu系合金と、Cu8Snと、Cu粒子との混合組成の紛体を、例えば冷間圧接法を用いた金属間接合によって処理することによって得ることができる。
【0040】
SnAgCu系合金と、Cu8Snと、Cu粒子との混合組成の紛体のうち、ナノコンポジット構造において、主要な役割を担うCu8Sn粒子につては、図8に電子顕微鏡写真が図示されている。Cu8Sn粒子は、特許第4401281号に開示された技術を適用して製造することができる。図8に示されたCu8Sn粒子1は、図中のスケール表示からすると、10μm以下の粒径を持っている。実際の使用にあたっては、このCu8Sn粒子1の集合体である紛体が用いられる。
【0041】
Cu8Sn粒子1は、複数種の金属成分を含み、ナノコンポジット構造を有する。ナノコンポジット構造は、金属成分によるnmサイズの金属間化合物を含む。その詳細について、図9図11に図示した電子顕微鏡写真を参照し、具体的に説明する。図9図11は、Cu8Sn粒子1を示している。図10及び図11は、図8に示したCu8Sn粒子1の表面を、線分(X1-X1)〜(X2-X2)によって画定される幅ΔX12を以って、レーザによって薄く研磨したものの電子顕微鏡写真を示している。
【0042】
先ず、図9を参照すると、Cu8Sn粒子1の内部には、暗色の第1領域11の内部に明色の第2領域12が点在している。暗色の第1領域11は、Cu8Sn粒子1の主成分を占めるSnの領域であり、明色の第2領域12は、Snと、Cuとの金属間化合物CuxSnyの領域である。金属間化合物CuxSnyは、粒子状、または、膜状に現れている。
【0043】
金属間化合物CuxSnyには、図9に図示されたスケール表示に照らして、nmサイズのものが含まれていることが看て取れる。即ち、図9において、ナノコンポジット構造は、金属成分SnとCuによるnmサイズの金属間化合物CuxSnyを含む。金属間化合物CuxSnyは、典型的には、Cu3Sn 、Cu6Sn5である。
【0044】
金属間化合物CuxSnyは、図10及び図11に示すように、Cu8Sn粒子1の表面からも観測される。Cu8Sn粒子1の表面で見た金属間化合物CuxSnyも、網目状121、点状又は膜状122等の形態をとる。金属間化合物CuxSnyのサイズは、図10及び図11に図示されたスケール表示に照らして、nmサイズのものが含まれている。
【0045】
もっとも、Cu8Sn粒子1は、これを用いて得ようとするものに応じて選定される。半導体チップ間を接合する接合部301,303を形成する場合には、例えば、Cu、Al、Ni、Sn、Ag、Au、Pt、Pd、Si、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Znの群から選択された金属元素の少なくとも一種を含むことができる。
【0046】
上述したように、本発明に係るCu8Sn粒子1は、ナノコンポジット構造を有する。このナノコンポジット構造は、当該Cu8Sn粒子1を構成する複数種の金属成分(例えばSnとCu)とによるnmサイズの金属間化合物(例えばCuxSny)を含むから、Cu8Sn粒子1を構成する複数種の金属成分間で、nmサイズに微細化され、かつ、均一化された金属間化合物が形成される。
【0047】
このため、当該Cu8Sn粒子1の紛体を用いて、接合部301,303を形成した場合、カーケンダルボイドの発生を抑制し、機械的強度が大で、剥離、破断、破損等を生じにくい高信頼性及び高品質の接合部301,303を形成することができる。
【0048】
更に、Cu8Sn粒子1は、複数種の金属成分を含むから、それらの金属成分として、低融点成分と高融点成分とを組合せ、初期融解時には、主として、低融点成分のもつ融点で溶解させ、凝固後の再融解温度を、高融点成分の持つ融点によって支配されるような温度まで、高温化することができる。例えば、実施の形態として例示したように、Cu8Sn粒子1を、Cu8Snによって構成した場合、初期融解時には、主として、低融点成分Snのもつ融点(231.9℃)で溶解させ、凝固後の再融解温度を、高融点成分Cuの持つ融点(1,085℃)によって支配されるような温度まで、高温化することができる。
【0049】
従って、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の接合部301,303を形成し得る。Cu8Sn粒子1のこの特性は、発熱量の大きな電力制御用半導体素子(パワーデバイス)のための導電性接合材として極めて有用である。
【0050】
しかも、本発明に係るCu8Sn粒子1は、ナノコンポジット構造を有する。ナノコンポジット構造を構成する金属間化合物が、低融点成分と高融点成分との化合物である場合、金属間化合物に含まれる高融点成分が、凝固後の再融解温度を高温化する根拠の一つとなる。この金属間化合物は、nmサイズに微小化され、かつ、均一化されているから、再融解温度を均一化できる。
【0051】
本発明に係る接合部301,303は、典型的には、上述した本発明に係るCu8Sn粒子を含む紛体を、例えば冷間圧接法を用いた金属間接合によって処理することによって得ることができる。冷間圧接法を用いた金属間接合それ自体は、種々知られている。本発明においては、それらの公知技術を適用することができる。図12は、適用可能な典型例を示している。図12において、対向する向きに回転R1,R2する圧接ローラ31,32の間に、本発明に係るCu8Sn粒子を含む紛体4を供給し、圧接ローラ31,32から紛体4に対して圧力を加えて、紛体4を構成するCu8Sn粒子に金属間接合を生じさせる。実際の処理に当たっては、圧接ローラ31,32から紛体4に100℃前後の熱を加えることが望ましい。
【0052】
紛体4を構成するCu8Sn粒子の一種が、図8図11に示したCu8Snであって、接合材として利用する成形体2を得る場合には、紛体4としては、SnAgCu系合金と、Cu8Snと、Cu粒子との混合組成とすることができる。具体的には、SnAgCu系合金は10〜20質量%の範囲、Cu粒子は10〜20質量%の範囲、残部をCu8Snとするような組成である。
【0053】
本発明に係るCu8Sn粒子を含む紛体に対し、冷間圧接法を用いた金属間接合処理を施して、本発明に係る成形体2を得た場合、成形体2の内部では、本発明のCu8Sn粒子及び他の粒子は、外形形状は変化するものの、粒子の内部構造は、ほぼ、原形を保っている。即ち、成形体2は、複数種の金属成分によるnmサイズの金属間化合物を含むナノコンポジット構造を有する。従って、本発明に係る成形体2は、本発明に係るCu8Sn粒子の奏する作用効果をそのまま保存している。
【0054】
また、成形体2の内部のおけるCu8Sn粒子及び他の粒子の外形形状は、圧接ローラ31,32から紛体4に加わる圧力、及び、熱等の条件を選定することによって、nmサイズに圧縮変形させることができる。この場合には、Cu8Sn粒子の粒子構造によるナノコンポジット構造の他、Cu8Sn粒子の外形形状のnmサイズ化によるナノコンポジット構造も現れることになる。
【0055】
以上、好ましい実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、その基本的技術思想および教示に基づき、種々の変形例を想到できることは自明である。
【符号の説明】
【0056】
100 装置本体部
300 放熱構造部
301 接合部
302 熱伝導部
303 接合部

【要約】      (修正有)
【課題】放熱性、耐熱性、接合強度及び機械的強度に優れた接合構造を有する電子装置を提供すること。
【解決手段】放熱構造部300は、接合部301と、熱伝導部302とを含み、接合部301によって装置本体部100と接合されている。接合部301は、複数種の金属成分よりなり、複数種の金属成分の少なくとも2種による1μm以下の金属間化合物を含むナノコンポジット構造を有している。熱伝導部302は、同一厚みの熱抵抗値が接合部301のそれよりも低い値を持ち、接合部301と一体化され装置本体部100と熱結合されている。
【選択図】図1
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