(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
低電圧端子と高電圧端子と基準端子とを有し、上記低電圧端子と上記基準端子との間の直流電圧と、上記高電圧端子と上記基準端子との間の直流電圧との電圧変換を行う電圧変換回路であって、
コアを介して一次巻線と二次巻線が磁気的に結合して1対1の巻数比で逆巻きされた磁気相殺型の変圧器と、
上記変圧器の上記一次巻線に接続されて当該一次巻線とは独立して設けられたエネルギ蓄積用の第1のリアクトルと、
上記変圧器の上記二次巻線に接続されて当該二次巻線とは独立して設けられたエネルギ蓄積用の第2のリアクトルと、
上記一次巻線から上記基準端子への通電を制御する第1のスイッチ素子と、
上記一次巻線から上記高電圧端子への通電を制御する第2のスイッチ素子と、
上記二次巻線から上記基準端子への通電を制御する第3のスイッチ素子と、
上記二次巻線から上記高電圧端子への通電を制御する第4のスイッチ素子と、
を備え、
上記第1のリアクトルと上記第2のリアクトルのいずれか一方は、上記変圧器の上記高電圧端子の近接側に設けられ、
上記変圧器の上記一次巻線と上記二次巻線のインダクタンスは、上記第1のリアクトルと上記第2のリアクトルのインダクタンスの1倍〜10倍の範囲に設定されている電圧変換回路。
上記第1のリアクトルは、第1端が上記一次巻線に接続され、第2端が上記第1のスイッチ素子と第2のスイッチ素子との共通接続点に接続されている請求項1に記載の電圧変換回路。
上記第2のリアクトルは、第1端が上記二次巻線に接続され、第2端が上記第3のスイッチ素子と第4のスイッチ素子との共通接続点に接続されている請求項1に記載の電圧変換回路。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、この発明の内容の理解を容易にするために、
図9から
図13に基づいて参考例である電圧変換回路について先に説明する。次いで、この発明の実施の形態の内容についての説明を行う。
【0013】
図9はこの発明の参考例となる電圧変換回路の構成を示す回路図である。
この電圧変換回路は、平滑コンデンサ5,6、リアクトル7、変圧器8、および4つのスイッチ素子12,14,16,18から構成されている。そして、低電圧端子2と基準端子(GND)4との間に平滑コンデンサ5が接続され、また、高電圧端子3と基準端子4との間に平滑コンデンサ6が接続されている。
【0014】
低電圧端子2にはリアクトル7の第1端が接続され、リアクトル7の第2端と高電圧端子3との間には互いに並列に接続された一対の第3、第4のT型回路が設けられている。第3のT型回路は、変圧器8の一次巻線9と2つのスイッチ素子12,14からなる。また、第4のT型回路は、変圧器8の二次巻線10と2つのスイッチ素子16,18からなる。
【0015】
この場合、リアクトル7は、昇圧のための磁気エネルギ蓄積用のものである。このリアクトル7には変圧器8の一次巻線9と二次巻線10の各第1端が共通に接続されている。また、変圧器8は、コア11を介して一次巻線9と二次巻線10とが磁気的に結合して1対1の巻数比で互いに逆巻きされた磁気相殺型のものである。
【0016】
第3のT型回路では、一次巻線9と基準端子4との間にスイッチ素子12のコレクタ・エミッタ間が接続され、また一次巻線9と高電圧端子3との間にスイッチ素子14のエミッタ・コレクタ間が接続されている。同様に、第4のT型回路では、二次巻線10と基準端子4との間にスイッチ素子16のコレクタ・エミッタ間が接続され、また二次巻線10と高電圧端子3との間にスイッチ素子18のエミッタ・コレクタ間が接続されている。
【0017】
さらに、各スイッチ素子12,14,16,18には、これらに並列にダイオード13,15,17,19が個別に接続されている。また、各スイッチ素子12,14,16,18のゲートにはオン・オフ制御用のゲート信号が図示しない制御装置から与えられる。
【0018】
次に、上記参考例の電圧変換回路の動作、特にここでは昇圧動作について、
図10〜
図13を参照して説明する。
【0019】
図10は、第3のT型回路のスイッチ素子12のみをオンして変圧器8の一次巻線9に通電させるときの電圧変換回路各部の電流の流れを示している。また、
図12は第4のT型回路のスイッチ素子16のみをオンして変圧器8の二次巻線10に通電させるときの電圧変換回路各部の電流の流れを示している。
【0020】
図10に示した状態では、スイッチ素子14,18およびスイッチ素子16の各ゲートには共にローレベルのゲート信号が入力されて、それぞれオフになっている。また、スイッチ素子12のゲートにはオン・オフ用のゲート信号G12が入力される。
【0021】
ここで、低電圧端子2には直流電源(図示せず)からの直流電圧Viが入力されているので、スイッチ素子12のゲートにハイレベルのゲート信号G12が入力されてオン動作すると、変圧器8の一次巻線9に励磁電流I1が流れる。この励磁電流I1は、低電圧端子2、リアクトル7、一次巻線9、スイッチ素子12、基準端子4を経由して流れる。スイッチ素子12のゲート信号G12がハイレベルである間、励磁電流I1は次第に増加する。ゲート信号G12がローレベルに反転してスイッチ素子12がオフになると、励磁電流I1’(
図10に破線で示す)は減少し、最後にゼロになる。この励磁電流I1’は、一次巻線9、ダイオード15を通って高電圧端子3へ流れる。
【0022】
このように、変圧器8の一次巻線9に上述の励磁電流I1,I1’が流れると、二次巻線10には相互誘導作用に基づき励起電流I2が生じる。この励起電流I2は、ダイオード19を経由して高電圧端子3へ流れる。ここで、第3、第4のT型回路の回路定数が共に略等しい場合、
図11に示すように、二次巻線10の励起電流I2は、励磁電流I1,I1’と実質的に同形の変化特性を有し、かつ巻数比(1:1)に基づき実質的に同じ値で生じる。そして、励起電流I2と励磁電流I1’(破線)とによって平滑コンデンサ6が充電され、その結果、高電圧端子3には昇圧された直流電圧Voが出力される。
【0023】
次に、
図12に示した状態では、スイッチ素子14,18およびスイッチ素子12の各ゲートには共にローレベルのゲート信号が入力されて、それぞれオフになっている。また、スイッチ素子16のゲートにはオン・オフ用のゲート信号G16が入力される。
【0024】
ここで、低電圧端子2には直流電源(図示せず)からの直流電圧Viが入力されているので、スイッチ素子16のゲートにハイレベルのゲート信号G16が入力されてオン動作すると、変圧器8の二次巻線10に励磁電流I3が流れる。この励磁電流I3は、低電圧端子2、リアクトル7、二次巻線10、スイッチ素子16、基準端子4を経由して流れる。スイッチ素子16のゲート信号G16がハイレベルである間、励磁電流I3は次第に増加する。ゲート信号G16がローレベルに反転してスイッチ素子16がオフになると、励磁電流I3’(
図12に破線で示す)は減少し、最後にゼロになる。この励磁電流I3’は、二次巻線10、ダイオード19を通って高電圧端子3へ流れる。
【0025】
このように、変圧器8の二次巻線10に上述の励磁電流I3,I3’が流れると、一次巻線9には相互誘導作用に基づき励起電流I4が生じる。この励起電流I4は、ダイオード15を経由して高電圧端子3へ流れる。ここで、第3、第4のT型回路の回路定数が共に略等しい場合、
図13に示すように、一次巻線9の励起電流I4は、励磁電流I3,I3’と実質的に同形の変化特性を有し、かつ巻数比(1:1)に基づき実質的に同じ値で生じる。そして、励起電流I4と励磁電流I3’(破線)とによって平滑コンデンサ6が充電され、その結果、高電圧端子3には昇圧された直流電圧Voが出力される。
【0026】
以上のように、スイッチ素子12,16が、制御装置(図示せず)から与えられるゲート信号G12,G16によって時分割で交互にオン・オフ制御されることにより、高電圧端子3には昇圧、安定化された直流電圧Voが出力される。
【0027】
ここで、変圧器8の一次巻線9に流れる上記の各電流I1,I1’,I4を総称してic1と表記し、また、二次巻線10に流れる上記の各I2,I3,I3’を総称してic2と表記すれば、リアクトル7に流れるリアクトル電流ibは、一次巻線電流ic1と二次巻線電流ic2の和である。このリアクトル電流ibは、スイッチ素子12,16がオンしている期間Tonで変化するため、リアクトル7に生じるリアクトル電流リプルをIbとすると、Ibは下記の式(1)で与えられる。
【0029】
さらに、
図10から回路方程式を立てると、一次巻線電流ic1(I1)が流れる経路の電圧式と、二次巻線電流ic2(I2)が流れる経路の電圧式とから下記の式(2)が得られる。ただし、変圧器8の磁気結合度は1、一次巻線9のインダクタンスと二次巻線10のインダクタンスは共に等しくLa、リアクトル7のインダクタンスはLbとする。
【0031】
式(2)を変形すれば、下記の式(3)が得られる。
【0033】
前述の式(1)と式(3)とから、リアクトル電流リプルIbは下記の式(4)で与えられる。
【0035】
ここで、式(4)で表されるリアクトル電流リプルIbは、平滑コンデンサ5のコンデンサ電流リプルに等しい。
【0036】
このように、参考例として挙げた
図9に示す電圧変換回路は、変圧器8の一次巻線9と二次巻線10のそれぞれの電流の向きが反対になるので、コア11における直流磁化が相殺され、コア11が磁気飽和しにくくなるので、小さい巻線(コイル)を採用でき、電圧変換回路の小型化が図れるという利点がある。
【0037】
しかしながら、この参考例の電圧変換回路では、平滑コンデンサ5に着目すると、平滑コンデンサ電流リプルは、リアクトル電流リプルIbに等しいため、式(4)が示すように、昇圧比が決まるとリアクトル7のインダクタンスLbで一意にリアクトル電流リプルIbが決まり、このためコンデンサ電流リプルも決定されてしまう。
【0038】
コンデンサ電流リプルは、平滑コンデンサ5の設計に影響するため、コンデンサ電流リプルの制約などにより、リアクトル7のインダクタンスLbが決定されることになり、リアクトル7の設計に制約が生じるという問題がある。
【0039】
実施の形態1.
次に、この発明の実施の形態1における電圧変換回路について説明する。
図1は、この発明の実施の形態1における電圧変換回路の構成を示す回路図であり、
図9に参考例として示した電圧変換回路と対応もしくは相当する構成部分には同一の符号を付す。
【0040】
実施の形態1の電圧変換回路は、平滑コンデンサ5及び6、2つの第1及び第2のリアクトル21及び22、変圧器8、並びに4つのスイッチ素子12,14,16,18を備えている。そして、低電圧端子2と基準端子4(GND)との間に平滑コンデンサ5が接続され、また、高電圧端子3と基準端子4との間に平滑コンデンサ6が接続されている。
【0041】
低電圧端子2と高電圧端子3との間には互いに並列に接続された一対の第1及び第2のT型回路が設けられている。第1のT型回路は、第1のリアクトル21、変圧器8の一次巻線9、および2つのスイッチ素子12,14を備える。また、第2のT型回路は、第2のリアクトル22、変圧器8の二次巻線10、および2つのスイッチ素子16,18を有する。
【0042】
この場合、第1及び第2のリアクトル21、22は、昇圧のための磁気エネルギ蓄積用のものであり、第1及び第2のリアクトル21,22の第1端は低電圧端子2に共通に接続されている。また、変圧器8は、コア11を介して一次巻線9と二次巻線10とが磁気的に結合して1対1の巻数比で互いに逆巻きされた磁気相殺型のものである。また、各スイッチ素子12,14,16,18は、ここではIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が使用されている。
【0043】
第1のT型回路において、第1のリアクトル21の第2端は、変圧器8の一次巻線9の第1端側の接続端子28に接続されている。一次巻線9の第2端側の接続端子32と基準端子4との間には、一次巻線9から基準端子4への通電を制御するスイッチ素子12のコレクタ・エミッタ間が接続されている。一次巻線9の第2端側の接続端子32と高電圧端子3との間には、一次巻線9から高電圧端子3への通電を制御するスイッチ素子14のエミッタ・コレクタ間が接続されている。
【0044】
同様に、第2のT型回路において、第2のリアクトル22の第2端は、変圧器8の二次巻線10の第1端側の接続端子29に接続されている。二次巻線10の第2端側の接続端子33と基準端子4との間には、二次巻線10から基準端子4への通電を制御するスイッチ素子16のコレクタ・エミッタ間が接続されている。二次巻線10の第2端側の接続端子33と高電圧端子3との間には、二次巻線10から高電圧端子3への通電を制御するスイッチ素子18のエミッタ・コレクタ間が接続されている。
【0045】
さらに、各スイッチ素子12,14,16,18には、これらと並列に各ダイオード13,15,17,19が個別に接続されている。各スイッチ素子12,14,16,18のゲートにはオン・オフ制御用のゲート信号が図示しない制御装置から与えられる。なお、符号41は、第1のT型回路のスイッチ素子12,14の共通接続点、符号42は、第2のT型回路のスイッチ素子16,18の共通接続点である。
【0046】
このように、実施の形態1では、第1のリアクトル21は変圧器8の一次巻線9の接続端子28を介して接続され、また、第2のリアクトル22は変圧器8の二次巻線10の接続端子29を介して接続されている。ここで、各リアクトル21,22は変圧器8の一次巻線9や二次巻線10の巻線の一部として共用されたものではなく、変圧器8の各巻線9,10とは物理的および作用的に分割されて独立した構成となっている。
【0047】
なお、特許請求の範囲における第1のスイッチ素子がスイッチ素子12に、第2のスイッチ素子がスイッチ素子14に、第3のスイッチ素子がスイッチ素子16に、第4のスイッチ素子がスイッチ素子18に、それぞれ対応している。
【0048】
このような構成を有する電圧変換回路の動作、特にここでは昇圧動作について、
図2および
図3を参照して説明する。
【0049】
図2は、第1のT型回路のスイッチ素子12のみをオンして変圧器8の一次巻線9に通電させるときの電圧変換回路各部の電流の流れを示している。また、
図3は第2のT型回路のスイッチ素子16のみをオンして変圧器8の二次巻線10に通電させるときの電圧変換回路各部の電流の流れを示している。
【0050】
図2に示した状態では、スイッチ素子14,18およびスイッチ素子16の各ゲートには共にローレベルのゲート信号が入力されて、それぞれオフになっている。また、スイッチ素子12のゲートにはオン・オフ用のゲート信号が入力される。
【0051】
ここで、低電圧端子2には直流電源(図示せず)からの直流電圧Viが入力されているので、スイッチ素子12のゲートにハイレベルのゲート信号が入力されてオン動作すると、変圧器8の一次巻線9に励磁電流I5が流れる。この励磁電流I5は、低電圧端子2、第1のリアクトル21、一次巻線9、スイッチ素子12、基準端子4を経由して流れる。スイッチ素子12のゲート信号がハイレベルである間、励磁電流I5は次第に増加する。スイッチ素子12のゲート信号がローレベルに反転すると、励磁電流I5’(
図2に破線で示す)は減少し、最後にゼロになる。この励磁電流I5’は、第1のリアクトル21、一次巻線9、ダイオード15を通って高電圧端子3へ流れる。
【0052】
変圧器8の一次巻線9に上記の励磁電流I5,I5’が流れると、相互誘導作用に基づき二次巻線10に励起電流I6が生じる。この励起電流I6は、ダイオード19を経由して高電圧端子3へ流れる。ここで、第1、第2のT型回路の回路定数が共に略等しいとき、
図11に示した場合と同様に、二次巻線10の励起電流I6は、励磁電流I5,I5’と実質的に同形の変化特性を有し、かつ巻数比(1:1)に基づき実質的に同じ値で生じる。そして、励起電流I6と励磁電流I5’とによって平滑コンデンサ6が充電され、その結果、高電圧端子3には昇圧された直流電圧Voが出力される。
【0053】
次に、
図3に示した状態では、スイッチ素子14,18およびスイッチ素子12の各ゲートには共にローレベルのゲート信号が入力されて、それぞれオフになっている。また、スイッチ素子16のゲートにはオン・オフ用のゲート信号が入力される。
【0054】
ここで、低電圧端子2には直流電源(図示せず)からの直流電圧Viが入力されているので、スイッチ素子16のゲートにハイレベルのゲート信号が入力されてオン動作すると、変圧器8の二次巻線10に励磁電流I7が流れる。すなわち、この励磁電流I7は、低電圧端子2、第2のリアクトル22、二次巻線10、スイッチ素子16、基準端子4を経由して流れる。スイッチ素子16のゲート信号がハイレベルである間、励磁電流I7は次第に増加する。スイッチ素子16のゲート信号がローレベルに反転してスイッチ素子16がオフになると、励磁電流I7’(破線で示す)は減少し、最後にゼロになる。この励磁電流I7’は、第2のリアクトル22、二次巻線10、ダイオード19を通って高電圧端子3へ流れる。
【0055】
変圧器8の二次巻線10に上記の励磁電流I7,I7’が流れると、相互誘導作用に基づき一次巻線9に励起電流I8が生じる。この励起電流I8は、ダイオード15を経由して高電圧端子3へ流れる。ここで、第1、第2のT型回路の回路定数が共に略等しいとき、
図13に示した場合と同様に、一次巻線9の励起電流I8は、励磁電流I7,I7’と実質的に同形の変化特性を有し、かつ巻数比(1:1)に基づき実質的に同じ値で生じる。そして、励起電流I8と励磁電流I7’とによって平滑コンデンサ6が充電され、その結果、高電圧端子3には昇圧された直流電圧Voが出力される。
【0056】
このようにして、スイッチ素子12,16が、制御装置(図示せず)から与えられるゲート信号によって時分割で交互にオン・オフ制御されることにより、高電圧端子3には昇圧、安定化された直流電圧Voが出力される。
【0057】
ここで、変圧器8の一次巻線9に流れる上記の各電流I5,I5’,I8を総称してic3と表記し、また、二次巻線10に流れる上記の各I6,I7,I7’を総称してic4と表記すれば、第1のリアクトル21に流れる電流はic3に等しく、第2のリアクトル22に流れる電流はic4に等しい。
【0058】
いま、第1、第2のリアクトル21,22に流れる電流の合計を入力電流ieと表記すれば、この入力電流ieは、一次巻線9に流れる電流ic3と二次巻線10に流れる電流ic4の和である。入力電流ieは、スイッチ素子12,16がオンしている期間Tonで変化するため、入力電流ieのリプル(以下、単に入力電流リプルという)をIeとすると、Ieは下記の式(5)で与えられる。
【0060】
また、
図2から回路方程式を立てると、一次巻線電流ic3(I5)が流れる経路の電圧式と、二次巻線電流ic4(I6)が流れる経路の電圧式とから下記の式(6)が得られる。ただし、ここでは変圧器8の磁気結合度は1、一次巻線9のインダクタンスと二次巻線10のインダクタンスは共に等しくLc、両リアクトル21,22のインダクタンスは共に等しくLdとする。
【0062】
式(6)において、(dic3/dt)と(dic4/dt)について解くと、下記の式(7)が得られる。
【0064】
前述の式(5)と式(7)とから、入力電流リプルIeは、下記の式(8)で与えられる。
【0066】
ここで、式(8)で表される入力電流リプルIeは、平滑コンデンサ5のコンデンサ電流リプルに等しい。
【0067】
式(8)は、この実施の形態1による入力電流リプルIeすなわちコンデンサ電流リプルIeが、第1、第2のリアクトル21,22のインダクタンスLdと、変圧器8の一次巻線9、二次巻線10のインダクタンスLcによって決定されることを示している。
【0068】
ここで、各リアクトル21,22のインダクタンスLdと、変圧器8の一次巻線9,二次巻線10のインダクタンスLcの関係に着目して、両者Lc,Ldの比をインダクタンス比Pと表記して、次の式(9)を定義する。
【0070】
前述の式(8)と式(9)とから、コンデンサ電流リプルIeは次式で与えられる。
【0072】
ここで、式(10)より、変圧器8の一次巻線9及び二次巻線10のインダクタンスLcをゼロとしたときのコンデンサ電流リプルIeを1として正規化し、上述のインダクタンス比P(=Lc/Ld)とコンデンサ電流リプルIeとの相関を求めると、
図4に示すグラフが得られる。
図4から分かるように、インダクタンス比P(=Lc/Ld)を大きくしていくと、コンデンサ電流リプルIeは小さくなるという傾向が示されている。
【0073】
図4に示す関係から、第1、第2のリアクトル21,22のみの場合よりも、第1、第2のリアクトル21,22に対して更に変圧器8を設けてインダクタンス比Pを大きくすれば、コンデンサ電流リプルIeを小さくできるという利点が得られるが、各リアクトル21,22や変圧器8の外形もこれに準ずるとは限らない。
【0074】
そこで、コンデンサ電流リプルIeが一定の条件の下で、実際に各リアクトル21,22と変圧器8を設計し、変圧器8を省き第1、第2のリアクトル21,22のみ設けた場合の装置の体積を基準として、その状態から、所定のインダクタンスLcをもつ変圧器8を設けた場合に、装置全体としての体積がどのように変化するかを調べた結果を
図5に示す。
【0075】
図5において、第1、第2のリアクトル21、22の合計の体積(以下、リアクトル体積という)をVd、変圧器8の体積(以下、変圧器体積という)をVc、上記リアクトル体積Vdと変圧器体積Vcの合計の体積(以下、装置体積という)をVl(=Vd+Vc)とし、変圧器8を設けない場合(したがって、Lcがゼロ、つまりリアクトル比P=0の場合)を基準として、そのときのリアクトル体積Vdを10として正規化したときの、Vd,Vc,Vlの各体積の関係を示している。
【0076】
コンデンサ電流リプルIeの発生をできるだけ小さく抑えながら電圧変換回路の小型化を図るためには、変圧器8を設けない場合(すなわちインダクタンス比P=0の場合)のリアクトル体積Vdを基準として、これよりも変圧器8を設けた場合の装置体積Vlが小さくなることが望ましい。
【0077】
ここで、
図5から分かるように、第1、第2のリアクトル21,22に対して変圧器8を新たに設けてインダクタンス比Pをゼロより大きくすれば、変圧器8の各巻線9,10として所定のインダクタンスLcを得るために最低限の構造的な体積が必要となるため、装置体積Vlは増加する。
【0078】
引き続き、インダクタンス比Pを増加させていくと、変圧器体積Vcもこれに伴って次第に増加するものの、各リアクトル体積Vdは顕著に減少し、インダクタンス比P=1のときに装置体積Vlは初期値と等しい10となった。
【0079】
さらに、インダクタンス比Pを増加させていくと、装置体積Vlは極小値をとった後、増加に転じる。これは、リアクトル体積Vdの減少が鈍化するとともに、変圧器体積Vcの増加が大きくなっていることに起因している。装置体積Vlが再び初期値の10に達するときのインダクタンス比Pは10であった。
【0080】
以上のことから、コンデンサ電流リプルIeの発生をできるだけ小さく抑えながら電圧変換回路の小型化を図る上では、インダクタンス比P(=Lc/Ld)の選択範囲は1〜10、したがって各リアクトル21,22のインダクタンスLdに対して、変圧器8の一次巻線9、二次巻線10のインダクタンスLcを1〜10倍の範囲で選択するのが望ましい。特に、インダクタンス比Pの選択範囲を3〜6とすることで、装置体積Vlは、初期値の10に対して6程度の最小レベルまで小さくすることができるため、より一層好ましい選択範囲である。
【0081】
このように、
図4から、要求される平滑コンデンサ5のコンデンサ電流リップルIeとインダクタンス比Pの関係が分かる。また、
図5から、装置体積Vlとインダクタンス比Pとの関係が分かる。そのため、装置体積Vlをできるだけ小さくなるようにしつつ、要求される平滑コンデンサ5のコンデンサ電流リップルIeとなる第1、第2のリアクトル21,22のインダクタンスLdと、変圧器8の一次巻線9と二次巻線10のインダクタンスLcの値を具体的に決定することができる。これにより、第1、第2のリアクトル21,22と変圧器8に対して最適な構造設計を行うことが可能となるため、従来よりも電力変換装置の小型化・低コスト化が図れるという効果が得られる。
【0082】
以上のように、この実施の形態1の電圧変換回路は、2つに分割された第1及び第2のリアクトル21,22と変圧器8とを組み合わせて配置するとともに、変圧器8の一次巻線9と二次巻線10のインダクタンスLcを、各リアクトル21,22のインダクタンスLdの1〜10倍の範囲で選択することで、各リアクトル21,22の磁気飽和を緩和しながら、各リアクトル21,22と変圧器8の設計の自由度を広げ、装置の小型化、低コスト化を実現することが可能となる。
【0083】
なお、この発明は、上記の
図1に示した実施の形態1の回路構成に限定されるものではなく、例えば
図6に示すように、変圧器8の一次巻線9と両スイッチ素子12,14の共通接続点41との間に第1のリアクトル21を配置した構成としても良い。また、図示しないが、変圧器8の二次巻線10と両スイッチ素子16,18の共通接続点42との間に第2のリアクトル22を配置した構成としても、上記と同様の効果が得られる。
【0084】
実施の形態2.
図7は、この実施の形態2における電圧変換回路の構成を示す回路図であり、
図1に示した実施の形態1の回路図と対応もしくは相当する構成部分には同一の符号を付す。
【0085】
機器を製造する場合、製造や組み立て易さは重要な要素である。これは部品コストや生産効率に直結し、常に改善が求められている。そこで、この実施の形態2では、第1、第2のリアクトル21,22と変圧器8の配置関係や変圧器8の一次巻線9および二次巻線10の巻線構造について考慮を払うことで、製造や組み立ての易さを改善した構成について説明する。
【0086】
この実施の形態2の特徴は、以下の通りである。すなわち、変圧器8の一次巻線9と二次巻線10の各第1端が共通化されて一つの接続端子31として低電圧端子2に接続されていること、一次巻線9の第2端の接続端子32と両スイッチ素子12,14の共通接続点41との間に第1のリアクトル21が配置、接続されること、二次巻線10の第2端の接続端子33と両スイッチ素子16,18の共通接続点42との間に第2のリアクトル22が配置、接続されていることである。その他の構成は、
図1に示した実施の形態1の場合と同様である。
【0087】
このような構成とした場合の変圧器8の構造を
図8に示す。
図8の変圧器8は、トロイダル状のコア11に巻線34が巻回されており、巻線34の中間にはタップ30を介してワイヤ35の第1端が接続され、ワイヤ35の第2端が低電圧端子2に接続するための接続端子31となっている。また、巻線34の両末端はそれぞれ一次巻線9側の接続端子32と二次巻線10側の接続端子33となっている。
【0088】
次に、
図8の変圧器と
図7の回路図との対応について説明する。
図8の一方の接続端子32から中間のタップ30までの巻線34の部分が
図7の一次巻線9となり、また、他方の接続端子33から中間のタップ30までの巻線34の部分が
図7の二次巻線10となる。そして、接続端子31は、
図7の低電圧端子2に接続され、一次巻線9側の接続端子32は第1のリアクトル21の第1端に接続され、二次巻線10側の接続端子33は第2のリアクトル22の第1端に接続される。
【0089】
この実施の形態2の構成によれば、変圧器8のコア11に巻線34を巻装するだけで一次巻線9と二次巻線10とを一体化して構成することが可能となる。そのため、配線接続点を削減でき、組み立て工程を簡素化して生産効率を向上させる効果が得られる。また、変圧器8の一次巻線9と二次巻線10とを一工程で形成することが可能となるため、製造コストを削減できる効果も得られる。
なお、電圧変換回路としての動作や付随する効果などは、全て実施の形態1と同様である。
【0090】
なお、この実施の形態2における変圧器8のコア11の形状は、上記トロイダルに限定されるものではなく、動作上で同じ機能を有するコアであれば、あらゆる形状に適用可能であることは言うまでもない。
【0091】
上記の実施の形態1、2において、回路構成のスイッチ素子12,14,16,18としてIGBTを用いて説明したが、この発明はこれに限定するものではなく、MOSFETなどのスイッチ素子などを用いることができることは言うまでもない。
【0092】
また、上記実施の形態1、2では、変圧器8の結合度を1として説明したが、この発明はこれに限定するものではなく、結合度が1以下の回路構成においても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0093】
また、上記の各実施の形態1、2では、低電圧端子2と基準端子4との間に直流電源が接続されて昇圧動作を行う場合を例にとって説明したが、降圧動作を行うこともできる。降圧動作については、高電圧端子3と基準端子4との間に直流電源が接続され、制御装置(図示せず)から与えられるゲート信号によって、スイッチ素子12,16が共にオフされた状態で、スイッチ素子14,18が時分割で交互にオン・オフ制御されることにより、低電圧端子2に降圧された安定化された直流電圧Viが得られる。
【0094】
実施の形態3.
上記の実施の形態1、2では、回路構成のスイッチ素子12,14,16,18やダイオード13,15,17,19としてIGBTやMOSFETなど、主に珪素(Si)で構成されたものについて説明した。
【0095】
近年になり、スイッチ素子やダイオードとしてこのような珪素によって形成されるもののほか、珪素に比べてバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体によって形成されたものが実用化されている。この場合のワイドバンドギャップ半導体の素材としては、例えば、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドで構成することができる。
【0096】
このようなワイドバンドギャップ半導体によって形成されたスイッチ素子やダイオード素子は、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、スイッチ素子やダイオードの小型化が可能であり、これら小型化されたスイッチ素子やダイオードを用いることにより、これらの素子を組み込んだ半導体モジュールの小型化が可能となる。
【0097】
そこで、この実施の形態3では、特にスイッチ素子12,14,16,18の素材として、炭化珪素(SiC)を適用したものである。
その他の構成は、
図1に示した実施の形態1の場合と同様である。
【0098】
一般に、例えば600Vを超えるような高電圧回路において、炭化珪素で構成されたスイッチ素子は、IGBTのような珪素で構成されたスイッチ素子と比較して、スイッチング損失を小さく抑えることができるため、当該素子のスイッチング周波数を高くすることができる。
【0099】
例えば、実施の形態1(
図1)の電圧変換回路では、コンデンサ電流リプルIeを一定に維持した場合に、スイッチング周波数を高くすると、これに比例して各リアクトル21,22のインダクタンスLdや変圧器8の一次巻線9,10のインダクタンスLcを小さくすることができる。これは、電圧変換回路を小型化するには非常に効果的な方法である。つまり、スイッチ素子の高周波駆動が求められている。
【0100】
しかしながら、各リアクトル21,22や変圧器8に用いられる鉄心は、それらの巻線に流れる電流のリプルによって損失(鉄損)を発生し、その鉄損は同一のリプル量でもリプル周波数が高いほど大きくなる。
【0101】
ここで、鉄心は材料によって周波数特性が異なり、同じリプルを与えても発生する鉄損は異なる。さらに、鉄損はインダクタンスと依存関係があるため、各リアクトル21,22と変圧器8の鉄心材料とインダクタンスLc,Ldの関係は電圧変換回路の小型化に大きな影響を与える要素となる。
【0102】
つまり、電圧変換回路に炭化珪素で構成されたスイッチ素子12,14,16,18を適用する場合、各リアクトル21,22や変圧器8を小型化するために高周波駆動するときに、例えば変圧器8の鉄心に高周波でも損失が少ない特性を持つフェライトなどの材料を用いてインダクタンス比P(=Lc/Ld)を大きく、つまり変圧器8の各巻線9,10のインダクタンスLcの方をリアクトル21,22のインダクタンスLdよりも大きくなるように構成することで、リアクトル21,22と変圧器8における鉄損の分布を変え、全体の鉄損を小さく抑えることができる。
【0103】
以上のように、この実施の形態3では、2つに分割された第1、第2のリアクトル21,22と変圧器8とを組み合わせて配置するとともに、変圧器8の一次巻線9と二次巻線10のインダクタンスLcを各アクトル21,22のインダクタンスLdの1〜10倍の範囲で選択することで、小型化・低コスト化を実現することが可能となることに加えて、炭化珪素で構成されたスイッチ素子12,14,16,18を高周波駆動することにより、発熱を抑えて冷却器を小さくすることができるため、実施の形態1の場合よりも更に電圧変換回路の小型化と低コスト化が可能になる。
その他の作用、効果は、実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0104】
なお、この発明は、上記の実施の形態1〜3の構成のみに限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、各実施の形態1〜3を自由に組み合わせたり、各実施の形態1〜3の構成を適宜変更したり、省略したりすることが可能である。