(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態にかかる電力変換装置について説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる電力変換装置の一構成例を示す図である。
図1に示す例では、実施の形態1にかかる電力変換装置100は、直流電源1から供給される直流電力を負荷装置(
図1に示す例ではモータ)9に供給する3相交流電力に変換する構成としている。
【0012】
図1に示すように、電力変換装置100は、負荷装置9に3相交流電力を供給するための主たる構成要素として、上アームスイッチング素子3a〜3c(ここでは、3a:U相、3b:V相、3c:W相)および下アームスイッチング素子3d〜3f(ここでは、3d:U相、3e:V相、3f:W相)からなる3つのアームで構成されるインバータ2と、各相上アームスイッチング素子3a〜3cおよび各相下アームスイッチング素子3d〜3fに対応する6つの駆動信号を生成して、それぞれ各相上アームスイッチング素子3a〜3cおよび各相下アームスイッチング素子3d〜3fに出力する制御部7と、各駆動信号に基づいて各相上アームスイッチング素子3a〜3cおよび各相下アームスイッチング素子3d〜3fを駆動する駆動部8とを備えている。各相上アームスイッチング素子3a〜3cおよび各相下アームスイッチング素子3d〜3fは、それぞれ逆並列接続された還流ダイオード4a〜4f(ここでは、4a:U相上アーム、4b:V相上アーム、4c:W相上アーム、4d:U相下アーム、4e:V相下アーム、4f:W相下アーム)を含み構成されている。
【0013】
制御部7は、例えばマイコンやCPU等で構成され、入力されたアナログの電圧信号をデジタル値に変換して、負荷装置9の制御アプリケーションに応じた演算・制御を行う演算・制御手段である。
【0014】
また、実施の形態1にかかる電力変換装置100は、直流電源1の負電圧側とインバータ2との間に設けられた電源シャント抵抗5と、各相下アームスイッチング素子3d,3e,3fと電源シャント抵抗5との間にそれぞれ設けられた各相下アームシャント抵抗6a,6b,6c(ここでは、6a:U相、6b:V相、6c:W相)と、電源シャント抵抗5および各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cの接続点(
図1に示すX点)と直流電源1の負電圧側(基準電位)との間の電圧(以下、「電源シャント抵抗電圧」という)Vxに基づいて、電源シャント抵抗5に流れる電流の過電流検出を行う第1の過電流検出部21aと、各相下アームスイッチング素子3d,3e,3fおよび各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cの各接続点と直流電源1の負電圧側(基準電位)との間の各電圧(以下、「各相下アーム電圧」という)Vu,Vv,Vwに基づいて、各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに流れる各電流の過電流検出を行う第2の過電流検出部21bとを備えている。なお、
図1に示す例では、電源シャント抵抗5の抵抗値をRdc、各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cの抵抗値をRshとしている。
【0015】
図2は、実施の形態1にかかる電力変換装置の第1の過電流検出部の一構成例を示す図である。
図2に示すように、第1の過電流検出部21aは、電圧比較手段22を含み構成される。
【0016】
電圧比較手段22では、電源シャント抵抗電圧Vxに対する第1の閾値V1が予め設定され、電源シャント抵抗電圧Vxが第1の閾値V1以下(Vx≦V1)である場合には、電源シャント抵抗5に流れる電流の電流値が正常値であることを示す値(ここでは、Hi出力)をOC1出力として制御部7に出力し、電源シャント抵抗電圧Vxが第1の閾値V1よりも大きい(Vx>V1)場合には、電源シャント抵抗5に過電流が流れたことを示す値(ここでは、Lo出力)をOC1出力として制御部7に出力する。
【0017】
なお、この第1の過電流検出部21aは、電圧比較手段22の前段に、電源シャント抵抗電圧Vxを制御部7で扱い易い電圧値Vx’とするための増幅手段を具備する構成であってもよい。この場合には、電圧比較手段22において、Vx’が予め設定された第1の閾値V1’以下(Vx’≦V1’)である場合には、電源シャント抵抗5に流れる電流の電流値が正常値であることを示す値(ここでは、Hi出力)をOC1出力として制御部7に出力し、Vx’が第1の閾値V1’よりも大きい(Vx’>V1’)場合には、電源シャント抵抗5に過電流が流れたことを示す値(ここでは、Lo出力)をOC1出力として制御部7に出力するようにすればよい。
【0018】
図3は、実施の形態1にかかる電力変換装置の第2の過電流検出部の一構成例を示す図である。
図3に示すように、第2の過電流検出部21bは、各相電圧比較手段23a,23b,23c、および論理積演算手段24を含み構成される。
【0019】
各相電圧比較手段23a,23b,23cでは、それぞれ各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwに対する第2の閾値V2およびこの第2の閾値V2よりも高い第3の閾値V3が予め設定され、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwが第2の閾値V2以上であり、且つ、第3の閾値V3以下(V2≦Vu,Vv,Vw≦V3)である場合には、各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに流れる各電流の電流値が正常値であることを示す値(ここでは、Hi出力)をそれぞれOC2a,OC2b,OC2cとして出力し、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwが第2の閾値V2よりも小さい(Vu,Vv,Vw<V2)か、あるいは第3の閾値V3よりも大きい(Vu,Vv,Vw>V3)場合には、各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに過電流が流れたことを示す値(ここでは、Lo出力)をそれぞれOC2a,OC2b,OC2cとして出力する。
【0020】
この各相電圧比較手段23a,23b,23cは、例えば、各相毎に比較器を2回路ずつ設け、一方の比較器で各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwと第2の閾値V2との比較を行い、他方の比較器で各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwと第3の閾値V3との比較を行い、各比較器の出力を論理演算して、その論理演算結果をOC2a,OC2b,OC2cとすればよい。
【0021】
なお、この第2の過電流検出部21bは、各相電圧比較手段23a,23b,23cの前段に、それぞれ各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwを制御部7で扱い易い各電圧値Vu’,Vv’,Vw’とするための増幅手段を具備する構成であってもよい。また、各相下アームスイッチング素子3d,3e,3fの各還流ダイオード4d,4e,4fに電流が流れる場合には、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwが直流電源1の負電圧側(基準電位)よりも低くなり、直流電源1の負電圧側(基準電位)がGNDである場合には、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwが負電圧となるため、さらに電圧レベルシフト手段を具備する構成であってもよい。この場合には、第1の過電流検出部21aにおいて、Vu’,Vv’,Vw’が予め設定された第2の閾値V2’以上であり、且つ、第3の閾値V3’以下(V2’≦Vu’,Vv’,Vw’≦V3’)である場合には、各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに流れる各電流の電流値が正常値であることを示す値(ここでは、Hi出力)をそれぞれOC2a,OC2b,OC2cとして出力し、各相下アーム電圧Vu’,Vv’,Vw’が第2の閾値V2’よりも小さい(Vu’,Vv’,Vw’<V2’)か、あるいは第3の閾値V3’よりも大きい(Vu’,Vv’,Vw’>V3’)場合には、各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに過電流が流れたことを示す値(ここでは、Lo出力)をそれぞれOC2a,OC2b,OC2cとして出力するようにすればよい。
【0022】
論理積演算手段24では、各相電圧比較手段23a,23b,23cの各出力OC2a,OC2b,OC2cが全て各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに流れる各電流が正常値であることを示す値(ここでは、Hi出力)である場合には、各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに流れる各電流の電流値が全て正常値であることを示す値(ここでは、Hi出力)をOC2として制御部7に出力し、各相電圧比較手段23a,23b,23cの各出力OC2a,OC2b,OC2cのうち、いずれか1つ以上が各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに過電流が流れたことを示す値(ここでは、Lo出力)である場合には、各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cのいずれか1つ以上に過電流が流れたことを示す値(ここでは、Lo出力)をOC2として制御部7に出力する。
【0023】
図4は、実施の形態1にかかる電力変換装置の制御部の一構成例を示す図である。実施の形態1にかかる電力変換装置100の制御部7は、上述した各相上アームスイッチング素子3a〜3cおよび各相下アームスイッチング素子3d〜3fに対応する各駆動信号Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnを生成するための各構成部(図示せず)に加え、第1の過電流検出部21aによる過電流検出結果と第2の過電流検出部21bによる過電流検出結果とを切り替えて出力する過電流検出結果切替部25と、過電流検出結果切替部25の出力を保持する状態保持部26と、状態保持部26の出力が電源シャント抵抗5あるいは各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cのいずれかに過電流が流れたことを示す値(ここでは、Lo出力)である場合に、インバータ2を構成する各相上アームスイッチング素子3a〜3cおよび各相下アームスイッチング素子3d〜3fへの各駆動信号の出力を停止するインバータ駆動停止部27とを備えている。
【0024】
過電流検出結果切替部25は、
図4に示すように、スイッチ手段28を含み構成される。このスイッチ手段28では、後述するインバータ2の出力電圧ベクトルに応じて、第1の過電流検出部21aの過電流検出結果である出力OC1と第2の過電流検出部21bの過電流検出結果である出力OC2とを切り替えて、OC3として出力する。
【0025】
状態保持部26は、例えばラッチ回路等により構成される。この状態保持部26では、過電流検出結果切替部25の出力OC3が電源シャント抵抗5に流れる電流あるいは各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに流れる各電流の電流値が正常値であることを示す値(ここでは、Hi出力)である間は、過電流検出結果切替部25の出力値OC3と同値(ここでは、Hi出力)が保たれ、過電流検出結果切替部25の出力OC3が電源シャント抵抗5あるいは各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cのいずれかに過電流が流れたことを示す値(ここでは、Lo出力)となった時点で、過電流検出結果切替部25の出力値OC3と同値(ここでは、Lo出力)を保持する。
【0026】
インバータ駆動停止部27は、
図4に示すように、各論理積演算手段29a,29b,29c,29d,29e,29fを含み構成される。これら各論理積演算手段29a,29b,29c,29d,29e,29fでは、それぞれ、状態保持部26により保持された過電流検出結果切替部25の出力OC3が電源シャント抵抗5に流れる電流あるいは各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに流れる各電流の電流値が正常値であることを示す値(ここでは、Hi出力)である間は、各駆動信号Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnを出力し、過電流検出結果切替部25の出力OC3が電源シャント抵抗5あるいは各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cのいずれかに過電流が流れたことを示す値(ここでは、Lo出力)となった時点で、各駆動信号Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnの出力を停止する。
【0027】
なお、上述した第1の過電流検出部21a、第2の過電流検出部21b、および制御部7の構成や制御手法により、本発明が制限されるものではない。
【0028】
つぎに、PWM変調による空間ベクトル変調方式について説明する。
図5は、空間ベクトル変調方式における各相上アームスイッチング素子のON/OFF状態とインバータの出力電圧ベクトルとの関係を示す図である。
図5(a)は、各相上アームスイッチング素子3a〜3cのON/OFF状態とインバータ2の出力電圧ベクトルとの関係を示す模式図であり、
図5(b)は、インバータ2の出力電圧ベクトルの定義を示している。なお、
図5に示す例では、各相上アームスイッチング素子3a〜3cがON状態である場合を「1」、OFF状態である場合を「0」と定義する。
【0029】
図5に示すように、各相上アームスイッチング素子3a〜3cのON/OFF状態としては、ON状態(つまり、「1」)とOFF状態(つまり、「0」)との2通り存在し、また、各相上アームスイッチング素子3a〜3cのON/OFF状態の組み合わせに対応して、インバータ2の出力電圧ベクトルは、((U相上アームスイッチング素子3aの状態)(V相上アームスイッチング素子3bの状態)(W相上アームスイッチング素子3cの状態))の形式で定義すると、V0(000),V1(100),V2(010),V3(001),V4(110),V5(011),V6(101),V7(111)の8通り存在する。これらインバータの出力電圧ベクトルのうち、大きさを持たないV0(000)およびV7(111)をゼロベクトルと呼び、これら以外の大きさが等しく互いに60度の位相差を持つV1(100),V2(010),V3(001),V4(110),V5(011),V6(101)を実ベクトルと呼ぶ。
【0030】
このように、PWM変調による空間ベクトル変調方式におけるインバータの出力電圧ベクトルは、大きさを持たない各ゼロベクトルV0,V7と、大きさが等しく互いに60°の位相差を持つ各実ベクトルV1〜V6とで構成され、これら8通りの出力電圧ベクトルを任意の組み合わせで合成することにより、各相上アームスイッチング素子3a〜3cおよび各相下アームスイッチング素子3d〜3fに対応する3相PWM電圧を発生させる。
【0031】
ここで、インバータ2や負荷装置9を保護し、運転信頼性を確保するためには、各相電流の過電流検出およびインバータ2の停止には即時性が要求される。したがって、各相電流の過電流検出においては、演算処理が介在しない過電流検出手法が望ましい。
【0032】
図6は、インバータの出力電圧ベクトルが実ベクトルV1(100)である場合に、インバータの各部に流れる電流を示す図である。
図6に示す例では、負荷装置(ここではモータ)9の各相巻線の高電位側から低電位側に流れる各相電流iu,iv,iwを正の値としている。なお、以下の各図に示す例においても、
図6と同様の記載とする。
【0033】
図6に示すように、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV1(100)である場合には、直流電源1の正電圧側からU相上アームスイッチング素子3aを介してモータ9に向かいU相電流iuが流れ、モータ9からV相下アームスイッチング素子3e、V相下アームシャント抵抗6b、電源シャント抵抗5を介して直流電源1の負電圧側に向かいV相電流ivが流れ、W相下アームスイッチング素子3f、電源シャント抵抗5を介して直流電源1の負電圧側に向かいW相電流iwが流れる。このとき、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwは、以下の(1),(2),(3)式で表すことができる。
【0034】
Vu=Vx=iu×Rdc …(1)
Vv=Vx+iv×Rsh=iu×Rdc+iv×Rsh …(2)
Vw=Vx+iw×Rsh=iu×Rdc+iw×Rsh …(3)
【0035】
つまり、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV1(100)である場合には、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwを検出することにより、上記(1),(2),(3)式を用いて各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに流れる各相電流iu,iv,iwを算出することができる。
【0036】
また、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、上記(1)式を用いて電源シャント抵抗5に流れるI相電流iuを算出することができる。
【0037】
図7は、インバータの出力電圧ベクトルが実ベクトルV2(010)である場合に、インバータの各部に流れる電流を示す図である。
【0038】
図7に示すように、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV2(010)である場合には、直流電源1の正電圧側からV相上アームスイッチング素子3bを介してモータ9に向かいV相電流ivが流れ、モータ9からU相下アームスイッチング素子3d、U相下アームシャント抵抗6a、電源シャント抵抗5を介して直流電源1の負電圧側に向かいU相電流iuが流れ、W相下アームスイッチング素子3f、電源シャント抵抗5を介して直流電源1の負電圧側端子に向かいW相電流iwが流れる。このとき、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwは、以下の(4),(5),(6)式で表すことができる。
【0039】
Vu=Vx+iu×Rsh=iv×Rdc+iu×Rsh …(4)
Vv=Vx=iv×Rdc …(5)
Vw=Vx+iw×Rsh=iv×Rdc+iw×Rsh …(6)
【0040】
つまり、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV2(010)である場合には、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwを検出することにより、上記(4),(5),(6)式を用いて各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cに流れる各相電流iu,iv,iwを算出することができる。
【0041】
また、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、上記(5)式を用いて電源シャント抵抗5に流れるV相電流ivを算出することができる。
【0042】
図8は、インバータの出力電圧ベクトルが実ベクトルV3(001)である場合に、インバータの各部に流れる電流を示す図である。
【0043】
図8に示すように、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV3(001)である場合には、直流電源1の正電圧側からW相上アームスイッチング素子3cを介してモータ9に向かいW相電流iwが流れ、モータ9からU相下アームスイッチング素子3d、U相下アームシャント抵抗6a、電源シャント抵抗5を介して直流電源1の負電圧側に向かいU相電流iuが流れ、V相下アームスイッチング素子3e、電源シャント抵抗5を介して直流電源1の負電圧側に向かいV相電流ivが流れる。このとき、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwは、以下の(7),(8),(9)式で表すことができる。
【0044】
Vu=Vx+iu×Rsh=iw×Rdc+iu×Rsh …(7)
Vv=Vx+iv×Rsh=iw×Rdc+iv×Rsh …(8)
Vw=Vx=iw×Rdc …(9)
【0045】
つまり、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV3(001)である場合には、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwを検出することにより、上記(7),(8),(9)式を用いて各相下アームスイッチング素子3d〜3fに流れる各相電流iu,iv,iwを算出することができる。
【0046】
また、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、上記(9)式を用いて電源シャント抵抗5に流れるW相電流iwを算出することができる。
【0047】
このように、本実施の形態にかかる電力変換装置100では、実ベクトルV1(100),V2(010)、およびV3(001)である場合には、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwを検出することにより、モータ9の各相巻線に流れる各相電流iu,iv,iwを算出することも可能であるが、複数の検出値を用いて算出する時間が必要であるので、即時性を要する過電流検出には不向きである。
【0048】
一方、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、1相分の相電流を算出することが可能であり、電源シャント抵抗電圧Vxに対して、各相電流iu,iv,iwの過電流検出値に相当する第1の閾値V1を設定しておき、単に、電源シャント抵抗電圧Vxを検出して第1の閾値V1と比較することにより、過電流の検出を行うことが可能である。
【0049】
また、キルヒホッフの第一法則や、相電流の平衡条件を用いることなく、各相電流iu,iv,iwを得ることから、モータ9が不平衡負荷である場合でも適用可能である。
【0050】
図9は、インバータの出力電圧ベクトルが実ベクトルV4(110)である場合に、インバータの各部に流れる電流を示す図である。
【0051】
図9に示すように、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV4(110)である場合には、直流電源1の正電圧側からU相上アームスイッチング素子3aを介してモータ9に向かいU相電流iuが流れ、V相上アームスイッチング素子3bを介してモータ9に向かいV相電流ivが流れ、モータ9からW相下アームスイッチング素子3f、W相下アームシャント抵抗6c、電源シャント抵抗5を介して直流電源1の負電圧側に向かいW相電流iwが流れる。このとき、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwは、以下の(10),(11),(12)式で表すことができる。
【0052】
Vu=Vx=iw×Rdc …(10)
Vv=Vx=iw×Rdc …(11)
Vw=Vx+iw×Rsh=iw×Rdc+iw×Rsh …(12)
【0053】
ここで、モータ9が3相平衡負荷である場合には、相電流の平衡条件より、
【0054】
iu+iv=iw …(13)
iu=iv=(1/2)iw …(14)
【0055】
となる。つまり、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV4(110)であり、モータ9が3相平衡負荷である場合には、上記(10),(11),(13)式のうちのいずれか1式、および(14)式を用いて各相電流iu,iv,iwを算出することができる。
【0056】
また、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、上記(10)式あるいは(11)を用いて電源シャント抵抗5に流れるW相電流iwを算出することができる。
【0057】
図10は、インバータの出力電圧ベクトルが実ベクトルV5(011)である場合に、インバータの各部に流れる電流を示す図である。
【0058】
図10に示すように、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV5(011)である場合には、直流電源1の正電圧側からV相上アームスイッチング素子3bを介してモータ9に向かいV相電流ivが流れ、W相上アームスイッチング素子3cを介してモータ9に向かいW相電流iwが流れ、モータ9からU相下アームスイッチング素子3d、U相下アームシャント抵抗6a、電源シャント抵抗5を介して直流電源1の負電圧側に向かいU相電流iuが流れる。このとき、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwは、以下の(14),(16),(17)式で表すことができる。
【0059】
Vu=Vx+iu×Rsh=iu×Rdc+iu×Rsh …(14)
Vv=Vx=iu×Rdc …(16)
Vw=Vx=iu×Rdc …(17)
【0060】
ここで、モータ9が3相平衡負荷である場合には、相電流の平衡条件より、
【0061】
iv+iw=iu …(18)
iv=iw=(1/2)iu …(19)
【0062】
となる。つまり、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV5(011)であり、モータ9が3相平衡負荷である場合には、上記(14),(15),(16)式のうちのいずれか1式、および(19)式を用いて各相電流iu,iv,iwを算出することができる。
【0063】
また、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、上記(16)式あるいは(17)を用いて電源シャント抵抗5に流れるU相電流iuを算出することができる。
【0064】
図11は、インバータの出力電圧ベクトルが実ベクトルV6(101)である場合に、インバータの各部に流れる電流を示す図である。
【0065】
図11に示すように、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV6(101)である場合には、直流電源1の正電圧側からU相上アームスイッチング素子3aを介してモータ9に向かいU相電流iuが流れ、W相上アームスイッチング素子3cを介してモータ9に向かいW相電流iwが流れ、モータ9からV相下アームスイッチング素子3e、V相下アームシャント抵抗6b、電源シャント抵抗5を介して直流電源1の負電圧側に向かいV相電流ivが流れる。このとき、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwは、以下の(20),(21),(22)式で表すことができる。
【0066】
Vu=Vx=iv×Rdc …(20)
Vv=Vx+iv×Rsh=iv×Rdc+iv×Rsh …(21)
Vw=Vx=iv×Rdc …(22)
【0067】
ここで、モータ9が3相平衡負荷である場合には、相電流の平衡条件より、
【0068】
iu+iw=iv …(23)
iu=iw=(1/2)iv …(24)
【0069】
となる。つまり、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV6(101)であり、モータ9が3相平衡負荷である場合には、上記(20),(21),(22)式のうちのいずれか1式、および(24)式を用いて各相電流iu,iv,iwを算出することができる。
【0070】
また、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、上記(20)式あるいは(22)を用いて電源シャント抵抗5に流れるV相電流ivを算出することができる。
【0071】
このように、本実施の形態にかかる電力変換装置100では、実ベクトルV4(110),V5(011),V6(101)である場合でも、モータ9が3相平衡負荷である場合には、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwのうちのいずれか1つを検出することにより、モータ9の各相巻線に流れる各相電流iu,iv,iwを算出することも可能であるが、複数の検出値を用いて算出する時間が必要であるので、即時性を要する過電流検出には不向きである。
【0072】
一方、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、1相分の相電流を算出することが可能であり、電源シャント抵抗電圧Vxに対して、各相電流iu,iv,iwの過電流検出値に相当する第1の閾値V1を設定しておき、単に、電源シャント抵抗電圧Vxを検出して第1の閾値V1と比較することにより、過電流の検出を行うことが可能である。
【0073】
図12は、インバータの出力電圧ベクトルがゼロベクトルV0(000)である場合に、インバータの各部に流れる電流を示す図である。
図12に示す例では、一例として、実ベクトルV1(100)からゼロベクトルV0(000)に移行した場合に、インバータ2に流れる電流を示している。
【0074】
図12に示すように、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV1(100)からゼロベクトルV0(000)に移行した場合には、電源シャント抵抗5には電流はほとんど流れず、X点の直流電源1の負電圧側(基準電位)に対する電圧Vxはほぼゼロとなる。このとき、X点から還流ダイオード4dを介してモータ9に向かいU相電流iuが流れ、モータ9からV相下アームスイッチング素子3e、V相下アームシャント抵抗6bを介してX点に向かいV相電流ivが流れ、W相下アームスイッチング素子3eを介してX点に向かいW相電流iwが流れる。このとき、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwは、以下の(25),(26),(27)式で表すことができる。
【0075】
Vu=(−iu)×Rsh …(25)
Vv=iv×Rsh …(26)
Vw=iw×Rsh …(27)
【0076】
つまり、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV1(100)からゼロベクトルV0(000)に移行した場合には、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwを検出することにより、上記(10),(11),(12)式を用いて各相電流iu,iv,iwを算出することができる。
【0077】
なお、上述した例では、インバータ2の出力電圧ベクトルが実ベクトルV1(100)からゼロベクトルV0(000)に移行した場合について説明したが、他の実ベクトルからゼロベクトルV0(000)に移行する場合においても、同様に各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwを検出することにより各相電流iu,iv,iwを算出することができる。
【0078】
このように、本実施の形態にかかる電力変換装置100では、ゼロベクトルV0(000)である場合には、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwを検出することにより、3相分の相電流を算出することが可能であり、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwに対して、各相電流iu,iv,iwの過電流検出値に相当する第2の閾値V2および第3の閾値V3を設定しておき、単に、各相下アーム電圧Vu,Vv,Vwを検出して第2の閾値V2および第3の閾値V3と比較することにより、過電流の検出を行うことが可能である。
【0079】
なお、上記説明では、下アーム電圧検出部を3相分設けた構成について説明したが、この下アーム電圧検出部を2相分設けた構成においても、負荷装置9が平衡負荷である場合には、キルヒホッフの第一法則や相電流の平衡条件を用いることにより、各相電流iu,iv,iwを算出することが可能であるが、ここでは、その詳細な説明は省略する。
【0080】
図13は、1キャリア周期における各出力電圧ベクトル発生期間の一例を示す図である。
図13では、a期間におけるゼロベクトルV0(000)、b期間における実ベクトルV1(100)、c期間における実ベクトルV4(110)、d期間におけるゼロベクトルV7(111)、e期間における実ベクトルV4(110)、f期間における実ベクトルV1(100)、g期間におけるゼロベクトルV0(000)の順に遷移する例を示している。
【0081】
図13に示す例では、a,g期間はゼロベクトルV0(000)であるので、U相下アーム電圧Vu、V相下アーム電圧Vv、およびW相下アーム電圧Vwを検出することにより、各相電流iu,iv,iwの過電流の検出を行うことが可能である。つまり、このa,g期間では、第2の過電流検出部21bにより各相電流iu,iv,iwの過電流の検出を行うことができる。
【0082】
また、b,f期間は実ベクトルV1(100)であるので、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、I相電流iuの過電流の検出を行うことが可能である。つまり、このb,f期間では、第1の過電流検出部21aによりI相電流iuの過電流の検出を行うことができる。
【0083】
また、c,e期間は実ベクトルV4(110)であるので、電源シャント抵抗電圧Vxを検出することにより、W相電流iwの過電流の検出を行うことが可能である。つまり、このc,e期間では、第1の過電流検出部21aによりW相電流iwの過電流の検出を行うことができる。
【0084】
なお、上述した例では、1キャリア周期において、ゼロベクトルV0(000)、実ベクトルV1(100)、実ベクトルV4(110)、ゼロベクトルV7(111)、実ベクトルV4(110)、実ベクトルV1(100)、ゼロベクトルV0(000)の順に遷移する例について説明したが、この1キャリア周期における各出力電圧ベクトル発生期間は、
図13に示す例に限るものではなく、少なくとも1種の実ベクトルとゼロベクトルとが存在する。
【0085】
したがって、本実施の形態にかかる電力変換装置100では、各実ベクトルV1(100),V2(010),V3(001),V4(110),V5(011),V6(101)の発生期間では、第1の過電流検出部21aにより各相電流iu,iv,iwのうちの1相分の過電流の検出を行うことにより、演算処理が介在しない過電流検出を実現することができ、ゼロベクトルV0(000)の発生期間では、第2の過電流検出部21bにより各相電流iu,iv,iwの過電流の検出を行うことにより、演算処理が介在しない過電流検出を実現することができる。
【0086】
つまり、本実施の形態にかかる電力変換装置100では、第1の過電流検出部21aおよび第2の過電流検出部21bを具備し、これら第1の過電流検出部21aによる過電流検出結果および第2の過電流検出部21bによる過電流検出結果のうちの何れか一方を用いて、各相電流の過電流検出を行うことにより、ゼロベクトルV7(111)以外の各出力電圧ベクトル発生期間において、演算処理が介在しない過電流検出を実現することができる。
【0087】
また、各実ベクトルV1(100),V2(010),V3(001),V4(110),V5(011),V6(101)の発生期間では、過電流検出結果切替部25のスイッチ手段28を第1の過電流検出部21a側に制御し、ゼロベクトルV0(000)の発生期間では、過電流検出結果切替部25のスイッチ手段28を第2の過電流検出部21b側に制御することにより、第1の過電流検出部21aに設定する第1の閾値、および、第2の過電流検出部21bに設定する第2の閾値および第3の閾値は、それぞれ1つずつ設定しておけばよい。つまり、相電流が電源シャント抵抗5および各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cの双方を流れる場合と、相電流が電源シャント抵抗5あるいは各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cの何れか一方を流れる場合とでは、異なる閾値を設定する必要があるが、本実施の形態では、上述したように、各実ベクトルV1(100),V2(010),V3(001),V4(110),V5(011),V6(101)の発生期間では、過電流検出結果切替部25のスイッチ手段28を第1の過電流検出部21a側に制御し、ゼロベクトルV0(000)の発生期間では、過電流検出結果切替部25のスイッチ手段28を第2の過電流検出部21b側に制御することにより、常に相電流が電源シャント抵抗5あるいは各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cの何れか一方を流れている場合の過電流検出結果となり、相電流が電源シャント抵抗5および各相下アームシャント抵抗6a,6b,6cの双方を流れている場合の検出結果を排除することができるので、出力電圧ベクトルに応じて、第1の過電流検出部21aに設定する第1の閾値、および、第2の過電流検出部21bに設定する第2の閾値および第3の閾値を変更することなく、確実に過電流検出を行うことができる。
【0088】
以上説明したように、実施の形態1の電力変換装置によれば、直流電源の負電圧側とインバータとの間に設けられた電源シャント抵抗と、各相下アームスイッチング素子と電源シャント抵抗との間にそれぞれ設けられた各相下アームシャント抵抗とを設け、電源シャント抵抗および各相下アームシャント抵抗の接続点と直流電源の負電圧側(基準電位)との間の電圧である電源シャント抵抗電圧に基づいて、電源シャント抵抗に流れる電流の過電流検出を行う第1の過電流検出部と、各相下アームスイッチング素子および各相下アームシャント抵抗の各接続点と直流電源の負電圧側(基準電位)との間の各電圧である各相下アーム電圧に基づいて、各相下アームシャント抵抗に流れる各電流の過電流検出を行う第2の過電流検出部とを備え、これら第1の過電流検出部による過電流検出結果および第2の過電流検出部による過電流検出結果のうちの何れか一方を用いて、各相電流の過電流検出を行うようにしたので、各相上アームスイッチング素子のON/OFF状態、つまり、インバータの出力電圧ベクトルがゼロベクトルV0である場合だけでなく、実ベクトルV1〜V6である場合においても、演算処理を介在させることなく各相電流の過電流検出を行うことができるので、相電流の過電流検出期間の拡大および過電流検出手順の簡素化を実現することができ、インバータや負荷装置の運転信頼性の向上を図ることができる。
【0089】
また、各実ベクトルV1(100),V2(010),V3(001),V4(110),V5(011),V6(101)の発生期間では、過電流検出結果切替部のスイッチ手段を第1の過電流検出部側に制御し、ゼロベクトルV0(000)の発生期間では、過電流検出結果切替部のスイッチ手段を第2の過電流検出部21b側に制御するようにしたので、常に相電流が電源シャント抵抗あるいは各相下アームシャント抵抗の何れか一方を流れている場合の過電流検出結果となり、相電流が電源シャント抵抗および各相下アームシャント抵抗の双方を流れている場合の検出結果を排除することができるので、第1の過電流検出部に設定する第1の閾値、および、第2の過電流検出部に設定する第2の閾値および第3の閾値をインバータの出力電圧ベクトルに応じて変更することなく、確実に過電流検出を行うことができる。
【0090】
実施の形態2.
実施の形態1では、インバータの出力電圧ベクトルに応じて、第1の過電流検出部による過電流検出結果と第2の過電流検出部による過電流検出結果とを切り替える例について説明したが、本実施の形態では、インバータの運転状態、あるいは変調率に応じて、第1の過電流検出部による過電流検出結果と第2の過電流検出部による過電流検出結果とを切り替える例について説明する。なお、実施の形態2にかかる電力変換装置の構成は、実施の形態1にかかる電力変換装置と同一であるので、ここでは説明を省略する。
【0091】
本実施の形態では、過電流検出結果切替部25のスイッチ手段28は、インバータ2の運転状態、あるいは変調率に応じて、第1の過電流検出部21aによる検出結果と第2の過電流検出結果とを切り替え、OC3として出力する。
【0092】
図14は、インバータの変調率が比較的高い場合の電源シャント抵抗電圧Vxの推移を示す図である。また、
図15は、インバータの変調率が比較的低い場合の電源シャント抵抗電圧Vxの推移を示す図である。また、
図16は、インバータの変調率が比較的低い場合のU相下アーム電圧Vuの推移を示す図である。
【0093】
図15に示すように、通常運転域においてインバータ2の変調率が比較的高い場合には、実ベクトルV1(100)〜V6(101)の発生期間が長く、ゼロベクトルV0(000)の発生期間が短くなる。
【0094】
また、
図16および
図17に示すように、低速運転域においてインバータ2の変調率が比較的低い場合には、ゼロベクトルV0(000)の発生期間が長く、実ベクトルV1(100)〜V6(101)の発生期間が短くなる。
【0095】
したがって、本実施の形態では、インバータ2の変調率が高い運転状況で長時間運転を行うような運転状態では、実ベクトルV1(100)〜V6(101)の発生期間において、スイッチ手段28を第1の過電流検出部21a側に制御して第1の過電流検出部21aの検出結果(OC1)を選択し、インバータ2の変調率が低い運転状況で長時間運転を行うような運転状態では、ゼロベクトルV0(000)の発生期間において、スイッチ手段28を第2の過電流検出部21b側に制御して第2の過電流検出部21bの検出結果(OC2)を選択する。
【0096】
あるいは、スイッチ手段28を切り替えるトリガーとして、インバータ2の変調率に閾値を設け、インバータ2の変調率が閾値よりも大きい場合には、実ベクトルV1(100)〜V6(101)の発生期間において、スイッチ手段28を第1の過電流検出部21a側に制御して第1の過電流検出部21aの検出結果(OC1)を選択し、インバータ2の変調率が閾値以下である場合には、スイッチ手段28を第2の過電流検出部21b側に制御し、ゼロベクトルV0(000)の発生期間において、スイッチ手段28を第2の過電流検出部21b側に制御して第2の過電流検出部21bの検出結果(OC2)を選択する。
【0097】
なお、本実施の形態では、インバータ2の変調率が高い運転状況で長時間運転を行うような運転状態、あるいは、インバータ2の変調率が閾値よりも大きい場合には、ゼロベクトルV0(000)の発生期間はスイッチ手段28をオフ制御し、何れの検出結果も選択せず、インバータ2の変調率が低い運転状況で長時間運転を行うような運転状態、あるいは、インバータ2の変調率が閾値以下である場合には、実ベクトルV1(100)〜V6(101)の発生期間はスイッチ手段28をオフ制御し、何れの検出結果も選択しない。
【0098】
このようにすれば、実施の形態1と同様に、第1の過電流検出部に設定する第1の閾値、および、第2の過電流検出部に設定する第2の閾値および第3の閾値をインバータ2の出力電圧ベクトルに応じて変更することなく、さらに、発生期間が短い出力電圧ベクトルによる検出結果を排除することができ、過電流検出の高精度化を図ることができる。
【0099】
以上説明したように、実施の形態2の電力変換装置によれば、インバータの運転状態、あるいは変調率に応じて、第1の過電流検出部による過電流検出結果と第2の過電流検出部による過電流検出結果とを切り替えるようにし、インバータの変調率が高い運転状況で長時間運転を行うような運転状態、あるいは、インバータの変調率が閾値よりも大きい場合には、実ベクトルV1(100)〜V6(101)の発生期間において、過電流検出結果切替部のスイッチ手段を第1の過電流検出部側に制御して第1の過電流検出部の検出結果を選択し、ゼロベクトルV0(000)の発生期間は過電流検出結果切替部のスイッチ手段をオフ制御して何れの検出結果も選択せず、インバータの変調率が低い運転状況で長時間運転を行うような運転状態、あるいは、インバータの変調率が閾値以下である場合には、ゼロベクトルV0(000)の発生期間において、過電流検出結果切替部のスイッチ手段を第2の過電流検出部側に制御して第2の過電流検出部の検出結果(OC2)を選択し、実ベクトルV1(100)〜V6(101)の発生期間は過電流検出結果切替部のスイッチ手段をオフ制御して何れの検出結果も選択しないようにしたので、実施の形態1と同様に、第1の過電流検出部に設定する第1の閾値、および、第2の過電流検出部に設定する第2の閾値および第3の閾値をインバータの出力電圧ベクトルに応じて変更することなく、さらに、発生期間が短い出力電圧ベクトルによる検出結果を排除することができ、過電流検出の高精度化を図ることができる。
【0100】
なお、上述した実施の形態では、過電流検出結果切替部、状態保持部、およびインバータ駆動停止部を制御部に具備する構成例について説明したが、これら過電流検出結果切替部、状態保持部、あるいはインバータ駆動停止部を制御部の外部に設ける構成とすることも可能である。
【0101】
例えば、制御部の過電流検出ポートを減らしたい場合には、過電流検出結果切替部を制御部の外部に設けることにより、制御部の過電流検出ポートを1つに減らすことができる。
【0102】
また、状態保持部を構成するラッチ回路を制御部の外部に設けることにより、制御部の構成を簡素化することも可能である。
【0103】
さらに、インバータ駆動停止部を駆動部に設け、各駆動信号と状態保持部の出力との論理積演算結果に基づいて各相上アームスイッチング素子および各相下アームスイッチング素子を駆動するようにしてもよいし、各駆動信号に基づいて生成された各相上アームスイッチング素子および各相下アームスイッチング素子のゲート信号と状態保持部の出力との論理積演算結果により各相上アームスイッチング素子および各相下アームスイッチング素子を駆動するようにしてもよい。
【0104】
このように、過電流検出結果切替部、状態保持部、あるいはインバータ駆動停止部を制御部の外部に設ける構成としても、上述した実施の形態と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0105】
なお、上述した実施の形態において説明した電力変換装置を、モータを負荷とするモータ駆動装置に適用し、このモータ駆動装置を、空気調和機や冷蔵庫、冷凍機等の送風機や圧縮機に適用することも可能であり、これら各装置や各機器の運転信頼性の向上を図ることができるのは言うまでもない。
【0106】
また、上述した実施の形態では、各相電圧比較手段にそれぞれ各相下アーム電圧に対する第2の閾値およびこの第2の閾値よりも高い第3の閾値を設定し、各相下アーム電圧が第2の閾値以上であり、且つ、第3の閾値以下である場合には、各相下アームシャント抵抗に流れる各電流の電流値が正常値であることを示す値を出力し、各相下アーム電圧が第2の閾値よりも小さいか、あるいは第3の閾値よりも大きい場合には、各相下アームシャント抵抗に過電流が流れたことを示す値を出力する例について説明したが、システムや用途によっては、第2の閾値あるいは第3の閾値のうちの何れか一方を用いて過電流判定を行う構成とすることも可能である。例えば、第2の閾値のみを設定して過電流判定を行う場合には、各相下アーム電圧が第2の閾値以上である場合に、各相下アームシャント抵抗に流れる各電流の電流値が正常値であることを示す値を出力し、各相下アーム電圧が第2の閾値よりも小さい場合に、各相下アームシャント抵抗に過電流が流れたことを示す値を出力するようにすればよい。また、例えば、第3の閾値のみを設定して過電流判定を行う場合には、各相下アーム電圧が第3の閾値以下である場合に、各相下アームシャント抵抗に流れる各電流の電流値が正常値であることを示す値を出力し、各相下アーム電圧が第3の閾値よりも大きい場合に、各相下アームシャント抵抗に過電流が流れたことを示す値を出力するようにすればよい。
【0107】
また、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは言うまでもない。