特許第6038327号(P6038327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6038327樹脂−含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6038327
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】樹脂−含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20161128BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20161128BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20161128BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20161128BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20161128BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20161128BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K5/05
   C08K5/5415
   C08K3/38
   C08K5/053
   C08K5/06
   C09D201/00
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-531362(P2015-531362)
(86)(22)【出願日】2015年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2015057023
(87)【国際公開番号】WO2015137344
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-47314(P2014-47314)
(32)【優先日】2014年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】福島 剛史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−196482(JP,A)
【文献】 特表2003−534439(JP,A)
【文献】 特開2002−348567(JP,A)
【文献】 特表2011−505423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂に、一般式
RF-A-OH 〔I〕
(ここで、RFは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基であり、またはパーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換され、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールまたは含フッ素アルコールとこれに対してモル比1.0以下のアルコキシシランとの両者およびホウ酸の縮合体を添加してなる樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体。
【請求項2】
一般式〔I〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
CnF2n+1(CH2)jOH 〔II〕
(ここで、nは1〜6、jは1〜6の整数である)で表されるポリフルオロアルキルアルコールが用いられた請求項1記載の樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体。
【請求項3】
一般式〔I〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOH 〔III〕
(ここで、nは1〜6、aは1〜4、bは0〜2、cは1〜3の整数である)で表されるポリフルオロアルキルアルコールが用いられた請求項1記載の樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体。
【請求項4】
アルコキシシランが、一般式
(R1O)pSi(OR2)q(R3)r 〔IV〕
(ここで、R1、R3はそれぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、R2は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、ただしR1、R2、R3は共にアリール基であることはなく、p+q+rは4であり、ただしqは0ではない)で表わされるシラン誘導体である請求項1記載の樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体。
【請求項5】
含フッ素アルコール100重量部に対しホウ酸が0.1〜50重量部の割合で用いられた請求項1記載の樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体。
【請求項6】
樹脂に、一般式
RF′-A-OH 〔Ia〕
または一般式
HO-A-RF′′-A-OH 〔Ib〕
(ここで、RF′は炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、RF′′は炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールまたは含フッ素アルコールとこれに対してモル比1.0以下のアルコキシシランとの両者およびホウ酸の縮合体を添加してなる樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体。
【請求項7】
一般式〔Ib〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
HO(CH2)fCF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕gO(CF2)hO〔CF(CF3)CF2O〕i
CF(CF3)(CH2)fOH 〔IIb〕
(ここで、fは1〜3、g+iは0〜50、hは1〜6の整数である)で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオールが用いられた請求項6記載の樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体。
【請求項8】
アルコキシシランが、一般式
(R1O)pSi(OR2)q(R3)r 〔IV〕
(ここで、R1、R3はそれぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、R2は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、ただしR1、R2、R3は共にアリール基であることはなく、p+q+rは4であり、ただしqは0ではない)で表わされるシラン誘導体である請求項6記載の樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体。
【請求項9】
含フッ素アルコール100重量部に対しホウ酸が0.1〜50重量部の割合で用いられた請求項6記載の樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体。
【請求項10】
請求項1または6記載の樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体を有効成分とする表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子複合体に関する。さらに詳しくは、表面処理特性を改善せしめた樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
無機材料表面を各種の化合物やポリマーでコーティングすることにより、様々な表面特性を発現させることが知られている。中でも、フッ素系化合物を表面処理に使用した場合には、フッ素原子の有する特性から、撥水性だけではなく撥油性の点でも表面改質できるので、様々な基材へのコーティングに利用されている。
【0003】
特に、C8のパーフルオロアルキル基を有する表面処理剤を基質に塗布するとことで、高い撥水撥油性を示すコーティングが可能であるが、近年C7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物が、細胞株を用いた試験管内試験において、発がん因子と考えられている細胞間コミュニケーション阻害をひき起すこと、かつこの阻害は官能基ではなく、フッ素化された炭素鎖長に依存し、炭素鎖が長いもの程阻害力が高いことが報告されており、フッ素化された炭素数の長い化合物を使用したモノマーの製造が制限されるようになってきている。
【0004】
また、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素アルコールにあっては、ガラス、金属、石材等の無機質基材への密着性に欠けるという問題もみられる。
【0005】
特許文献1〜2には、含フッ素アルコール、アルコキシシラン(および重合性官能基含有アルコール)を縮合反応させることが記載されているが、得られたアルコキシシラン誘導体は、光酸発生剤または光塩基発生剤を添加した硬化性組成物、あるいは無機導電塗料組成物の調製に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−285111号公報
【特許文献2】特開平5−186719号公報
【特許文献3】特許第4674604号公報
【特許文献4】WO 2007/080949 A1
【特許文献5】特開2008−38015号公報
【特許文献6】米国特許第3,574,770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、環境中に放出されてもパーフルオロオクタン酸等を生成させず、しかも短鎖の化合物に分解され易いユニットを有する含フッ素アルコールを用い、無機質基材等に対する密着性を有する樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって、樹脂に、一般式
RF-A-OH 〔I〕
(ここで、RFは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基であり、またはパーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換され、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールとホウ酸との縮合体を添加してなる樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子複合体が提供される。樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子複合体は、含フッ素アルコール〔I〕と含フッ素アルコールに対してモル比1.0以下のアルコキシシランとの両者およびホウ酸の縮合体を用いたものであってもよい。
【0009】
また、本発明によって、樹脂に、一般式
RF′-A-OH 〔Ia〕
または一般式
HO-A-RF′′-A-OH 〔Ib〕
(ここで、RF′は炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、RF′′は炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールとホウ酸との縮合体を添加してなる樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子複合体が提供される。樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子複合体は、含フッ素アルコール〔Ia〕または〔Ib〕とこれら含フッ素アルコールに対してモル比1.0以下のアルコキシシランとの両者およびホウ酸の縮合体を用いたものであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明で用いられる含フッ素アルコールは、末端パーフルオロアルキル基やポリフルオロアルキル基中のパーフルオロアルキレン鎖の炭素数が6以下のものであり、短鎖の含フッ素化合物に分解され易いユニットを有しているため、環境汚染につながらない。また、得られた樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子複合体は、基材表面に良好な撥水撥油性、防汚機能性を示す薄膜を形成させ、この薄膜は樹脂成分を有しているので、無機質基材等に対する密着性にもすぐれている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
含フッ素アルコール〔I〕としては、例えば一般式
CnF2n+1(CH2)jOH 〔II〕
n:1〜6、好ましくは4〜6
j:1〜6、好ましくは1〜3、特に好ましくは2
で表されるポリフルオロアルキルアルコール等が用いられる。
【0012】
アルキレン基Aとしては、-CH2-基、-CH2CH2-基等が挙げられ、かかるアルキレン基を有するパーフルオロアルキルアルキルアルコールとしては、2,2,2-トリフルオロエタノール(CF3CH20H)、3,3,3-トリフルオロプロパノール(CF3CH2CH2OH)、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール(CF3CF2CH20H)、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブタノール(CF3CF2CH2CH2OH)、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタノール(CF3CF2CF2CF2CH20H)、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキサノール(CF3CF2CF2CF2CH2CH2OH)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクタノール(CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH2OH)等が例示される。
【0013】
また、ポリフルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基の末端-CF3基が例えば-CF2H基などに置き換った基あるいは中間-CF2-基が-CFH-基または-CH2-基に置き換った基を指しており、かかる置換基を有する含フッ素アルコール〔I〕としては、例えば2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール(HCF2CF2CH2OH)、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブタノール(CF3CHFCF2CH2OH)、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンタノール(HCF2CF2CF2CF2CH2OH)等が挙げられる。
【0014】
一般式〔II〕で表されるポリフルオロアルキルアルコールは、例えば特許文献3に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
まず、一般式
CnF2n+1(CF2CF2)b(CH2CH2)cI
で表されるポリフルオロアルキルアイオダイド、例えば
CF3(CH2CH2)I
CF3(CH2CH2)2I
C2F5(CH2CH2)I
C2F5(CH2CH2)2I
C3F7(CH2CH2)I
C3F7(CH2CH2)2I
C4F9(CH2CH2)I
C4F9(CH2CH2)2I
C2F5(CF2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CF2CF2)(CH2CH2)2I
C2F5(CF2CF2)2(CH2CH2)I
C2F5(CF2CF2)2(CH2CH2)2I
C4F9(CF2CF2)(CH2CH2)I
C4F9(CF2CF2)(CH2CH2)2I
をN-メチルホルムアミド HCONH(CH3)と反応させ、ポリフルオロアルキルアルコールとそのギ酸エステルとの混合物とした後、酸触媒の存在下でそれに加水分解反応させ、ポリフルオロアルキルアルコール
CnF2n+1(CF2CF2)b(CH2CH2)cOH
を形成させる。ただし、n+2bの値は6以下である。
【0015】
含フッ素アルコール〔I〕としてはまた、RF基がパーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換され、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、具体的には炭素数3〜20、好ましくは6〜10のポリフルオロアルキル基であり、Aが炭素数2〜6、好ましくは2のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOH 〔III〕
n:1〜6、好ましくは2〜4
a:1〜4、好ましくは1
b:0〜2、好ましくは1〜2
c:1〜3、好ましくは1
で表されるポリフルオロアルキルアルコール等が用いられる。
【0016】
一般式〔III〕で表されるポリフルオロアルキルアルコールは、特許文献3に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
まず、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cI
で表されるポリフルオロアルキルアイオダイド、例えば
CF3(CH2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CH2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CH2CF2)(CH2CH2)2I
C3F7(CH2CF2)(CH2CH2)I
C3F7(CH2CF2)(CH2CH2)2I
C4F9(CH2CF2)(CH2CH2)I
C4F9(CH2CF2)(CH2CH2)2I
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)2I
C2F5(CH2CF2)2(CF2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CH2CF2)2(CF2CF2)(CH2CH2)2I
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)I
C4F9(CH2CF2)2(CF2CF2)(CH2CH2)I
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)2I
C4F9(CH2CF2)2(CF2CF2)(CH2CH2)2I
をN-メチルホルムアミド HCONH(CH3)と反応させ、ポリフルオロアルキルアルコールとそのギ酸エステルとの混合物とした後、酸触媒の存在下でそれに加水分解反応させ、ポリフルオロアルキルアルコール
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOH
を形成させる。
【0017】
含フッ素アルコール〔Ia〕としては、RF′基が炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、具体的には炭素数3〜305、好ましくは8〜35のO、SまたはN含有パーフルオロアルキル基であり、Aが炭素数1〜3、好ましくは1のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
CmF2m+1O〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)eOH 〔IIa〕
m:1〜3、好ましくは1
d:0〜100、好ましくは2〜50
e:1〜6、好ましくは2
で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコール等が用いられる。
【0018】
また、含フッ素アルコール〔Ib〕としては、RF′′基が炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有し、具体的には炭素数5〜160のO、SまたはN含有パーフルオロアルキレン基であり、Aが炭素数1〜3、好ましくは1のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
HO(CH2)fCF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕gO(CF2)hO〔CF(CF3)CF2O〕iCF(CF3)(CH2)fOH
〔IIb〕
f:1〜3、好ましくは1
g+i:0〜50、好ましくは2〜50
h:1〜6、好ましくは2
で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオール等が用いられる。
【0019】
一般式〔IIa〕で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコールにおいて、m=1、e=1の化合物は特許文献4に記載されており、次のような工程を経て合成される。
一般式 CF3O〔CF(CF3)CF2O〕nCF(CF3)COOR (R:アルキル基、n:0〜12の整数)で表される含フッ素エーテルカルボン酸アルキルエステルを、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元反応させる。
【0020】
さらに、一般式〔IIb〕で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオールにおいて、f=1は特許文献5〜6に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
FOCRfCOF → H3COOCRfCOOCH3 → HOCH2RfCH2OH
Rf:-CF(CF3)〔OCF2C(CF3)〕aO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕bCF(CF3)-
【0021】
アルコキシシランは、一般式
(R1O)pSi(OR2)q(R3)r 〔IV〕
R1、R3:H、C1〜C6のアルキル基またはアリール基
R2:C1〜C6のアルキル基またはアリール基
ただし、R1、R2、R3が共にアリール基であることはない
p+q+r:4 ただし、qは0ではない
で表され、例えばトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が用いられる。
【0022】
これらの各成分は、含フッ素アルコール100重量部に対し、ホウ酸が約0.1〜50重量部、好ましくは約10〜20重量部の割合で、またアルコキシシランが含フッ素アルコールに対して約1.0以下、好ましくは約0.05〜0.50のモル比で用いられる。ホウ酸の使用割合がこれよりも少ないと撥水撥油性が低くなり、一方これよりも多い割合で使用されると溶媒への分散性が悪くなる。また、アルコキシシランの使用割合がこれよりも多い割合で使用されると撥水撥油性が低くなる。
【0023】
得られた含フッ素ホウ酸コンポジット粒子中の含フッ素アルコール量は、約25〜98モル%、好ましくは約40〜80モル%、コンポジット粒子径(動的光散乱法により測定)は約10〜600nm、好ましくは約15〜350nmである。
【0024】
反応生成物である含フッ素ホウ酸コンポジット粒子は、ホウ酸粒子の水酸基に含フッ素アルコールが結合しているものと考えられ、したがってホウ酸の化学的、熱的安定性とフッ素のすぐれた撥水撥油性、防汚性などが有効に発揮されており、実際にガラス表面を含フッ素ホウ酸コンポジット粒子で処理したものは良好な撥水撥油性を示している。また、含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の粒径およびそのバラツキも小さい値を示している。なお、含フッ素ホウ酸コンポジット粒子は、含フッ素アルコールとアルコキシシランとの両者およびホウ酸粒子の反応生成物としても形成されるが、この発明の目的を阻害しない限り他の成分の混在も許容される。
【0025】
含フッ素ホウ酸コンポジット粒子は、樹脂に添加されて複合体を形成させる。樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。
【0026】
コンポジット成分である含フッ素アルコールは、ポリマー結合していないので、洗浄などに対する耐久性や耐熱性に劣り、それをホウ酸コンポジット化することで耐久性や耐熱性を向上させることができるが、無機質基材に対する密着性は十分ではなく、しかるに含フッ素ホウ酸コンポジット粒子を樹脂と複合することにより、無機質基材に対する密着性を十分に改善することができる。
【0027】
含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の添加割合は任意であり、例えば樹脂成分の改質のためには、それに対して1重量%程度でも有効であり得る。また、それの添加方法も、添加割合に応じて種々の方法をとることができ、添加剤の一成分として添加されるばかりではなく、樹脂の有機溶媒溶液を含フッ素ホウ酸コンポジット粒子にコーティングすることもできる。例えば、ホウ酸コンポジットのテトラヒドロフラン分散液を調製した後、その分散液を攪拌しながら、ポリメチルメタクリレート溶液を滴下し、最後に濃度調整を行うためにテトラヒドロフランを添加することにより行われる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0029】
参考例1
CF3(CF2)5(CH2)2OH〔FA-6〕1100mg(3.02ミリモル)、ホウ酸200mgおよびテトラヒドロフラン〔THF〕2mlを容量30mlの反応容器に仕込み、室温条件下で1日撹拌した。その後、溶媒を留去し、含フッ素ホウ酸コンポジット粒子767mg(収率59%)を得た。得られた含フッ素ホウ酸コンポジット粒子について、次の各項目の測定を行った。
粒子径およびそのバラツキ:
25℃で固形分濃度1g/Lメタノール分散液について、動的光散乱(DLS)測定法によって測定
【0030】
参考例2〜6
参考例1において、FA-6量が適宜変更され、またテトラエトキシシラン〔TEOS;密度0.94g/cm3〕も適宜用いられた。
【0031】
参考例7〜16
参考例1において、FA-6の代りに種々の含フッ素アルコールが用いられ、またテトラエトキシシランも適宜用いられた。THF量は、参考例11〜13では4ml用いられた。
OXF3PO:HOCH2CF(CF3)OCF2CF(CF3)OCF2CF2OCF(CF3)CH2OH
OXF14PO:HOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕nOCF2CF2O〔CF(CF3)CF2O〕mCF(CF3)CH2OH
(n+m=12)
DTFAC:C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)OH
【0032】
実施例1〜8
前記各参考例で得られた含フッ素ホウ酸コンポジット粒子10mgを、再度20mlのテトラヒドロフランに分散させた後、ポリメチルメタクリレート990mgを加えてポリマーコンポジット溶液を調製し、これをガラス基材にコーティングして、得られた樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子複合体の表面特性の分析を行った。
液滴の接触角(単位:°):
得られた樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体薄膜表面に、n-ドデカンまたは水の液滴4μlを静かに接触させ、付着した液滴の接触角を、θ/2法により接触角計(協和界面化学製Drop Master 300)で測定した。なお、水については経時的な測定が行われた。
上記結果は、水に対する経過時間20〜30分を除いて、いずれも撥水撥油性が改善されていることを示している。
【0033】
比較例1
コーティングされていないガラス基材について、実施例1と同様に表面特性の分析が行われた。
【0034】
比較例2
ホウ酸を用いてコーティングされたガラス基材について、実施例1と同様に表面特性の分析が行われた。
【0035】
比較例3
ポリメチルメタクリレートを用いてコーティングされたガラス基材について、実施例1と同様に表面特性の分析が行われた。
【0036】
比較例4〜8
実施例1において、含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の代わりに同量(10mg)の下記試料を用い、これにポリメチルメタクリレート990mgを加えた溶液を用いてコーティングされたガラス基材について、実施例1と同様に表面特性の分析が行われた。
比較例4:ホウ酸/TEOS
比較例5:FA-6
比較例6:FA-6/TEOS
比較例7:OXF3PO
比較例8:OXF14PO
ただし、比較例4では、実施例1においてFA-6が用いられず、ホウ酸50mg(0.81ミリモル)、TEOS 0.10ml(0.45ミリモル)が用いられ、生成物の収量は130mg、収率は90%であった。また、比較例6では、実施例1においてホウ酸が用いられず、FA-6 1100mg(3.02ミリモル)、TEOS 0.10ml(0.45ミリモル)が用いられ、生成物の収量は763mg、収率は68%であった。
【0037】
以上の各比較例で得られた結果は、次の表3に示される。
表3
水 (経過時間:分)
n-ドデカン 10 15 20 25 30
比較例1 0 50 − − − − − −
〃 2 22 60 − − − − − −
〃 3 10 58 − − − − − −
〃 4 20 55 − − − − − −
〃 5 45 81 79 78 76 75 74 73
〃 6 11 36 32 28 21 17 13 7
〃 7 42 86 81 82 78 78 77 75
〃 8 58 102 81 79 77 76 71 70