(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
含フッ素アルコール〔I〕としては、例えば一般式
C
nF
2n+1(CH
2)
jOH 〔II〕
n:1〜6、好ましくは4〜6
j:1〜6、好ましくは1〜3、特に好ましくは2
で表されるポリフルオロアルキルアルコール等が用いられる。
【0012】
アルキレン基Aとしては、-CH
2-基、-CH
2CH
2-基等が挙げられ、かかるアルキレン基を有するパーフルオロアルキルアルキルアルコールとしては、2,2,2-トリフルオロエタノール(CF
3CH
20H)、3,3,3-トリフルオロプロパノール(CF
3CH
2CH
2OH)、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール(CF
3CF
2CH
20H)、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブタノール(CF
3CF
2CH
2CH
2OH)、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタノール(CF
3CF
2CF
2CF
2CH
20H)、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキサノール(CF
3CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2OH)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクタノール(CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2OH)等が例示される。
【0013】
また、ポリフルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基の末端-CF
3基が例えば-CF
2H基などに置き換った基あるいは中間-CF
2-基が-CFH-基または-CH
2-基に置き換った基を指しており、かかる置換基を有する含フッ素アルコール〔I〕としては、例えば2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール(HCF
2CF
2CH
2OH)、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブタノール(CF
3CHFCF
2CH
2OH)、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンタノール(HCF
2CF
2CF
2CF
2CH
2OH)等が挙げられる。
【0014】
一般式〔II〕で表されるポリフルオロアルキルアルコールは、例えば特許文献3に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
まず、一般式
C
nF
2n+1(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cI
で表されるポリフルオロアルキルアイオダイド、例えば
CF
3(CH
2CH
2)I
CF
3(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CH
2)
2I
C
3F
7(CH
2CH
2)I
C
3F
7(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CF
2CF
2)
2(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CF
2CF
2)
2(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
をN-メチルホルムアミド HCONH(CH
3)と反応させ、ポリフルオロアルキルアルコールとそのギ酸エステルとの混合物とした後、酸触媒の存在下でそれに加水分解反応させ、ポリフルオロアルキルアルコール
C
nF
2n+1(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cOH
を形成させる。ただし、n+2bの値は6以下である。
【0015】
含フッ素アルコール〔I〕としてはまた、R
F基がパーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換され、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、具体的には炭素数3〜20、好ましくは6〜10のポリフルオロアルキル基であり、Aが炭素数2〜6、好ましくは2のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
C
nF
2n+1(CH
2CF
2)
a(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cOH 〔III〕
n:1〜6、好ましくは2〜4
a:1〜4、好ましくは1
b:0〜2、好ましくは1〜2
c:1〜3、好ましくは1
で表されるポリフルオロアルキルアルコール等が用いられる。
【0016】
一般式〔III〕で表されるポリフルオロアルキルアルコールは、特許文献3に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
まず、一般式
C
nF
2n+1(CH
2CF
2)
a(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cI
で表されるポリフルオロアルキルアイオダイド、例えば
CF
3(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
3F
7(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
3F
7(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CH
2CF
2)
2(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CF
2)
2(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CH
2CF
2)
2(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CH
2CF
2)
2(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
をN-メチルホルムアミド HCONH(CH
3)と反応させ、ポリフルオロアルキルアルコールとそのギ酸エステルとの混合物とした後、酸触媒の存在下でそれに加水分解反応させ、ポリフルオロアルキルアルコール
C
nF
2n+1(CH
2CF
2)
a(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cOH
を形成させる。
【0017】
含フッ素アルコール〔Ia〕としては、R
F′基が炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、具体的には炭素数3〜305、好ましくは8〜35のO、SまたはN含有パーフルオロアルキル基であり、Aが炭素数1〜3、好ましくは1のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
C
mF
2m+1O〔CF(CF
3)CF
2O〕
dCF(CF
3)(CH
2)
eOH 〔IIa〕
m:1〜3、好ましくは1
d:0〜100、好ましくは2〜50
e:1〜6、好ましくは2
で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコール等が用いられる。
【0018】
また、含フッ素アルコール〔Ib〕としては、R
F′′基が炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有し、具体的には炭素数5〜160のO、SまたはN含有パーフルオロアルキレン基であり、Aが炭素数1〜3、好ましくは1のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
HO(CH
2)
fCF(CF
3)〔OCF
2CF(CF
3)〕
gO(CF
2)
hO〔CF(CF
3)CF
2O〕
iCF(CF
3)(CH
2)
fOH
〔IIb〕
f:1〜3、好ましくは1
g+i:0〜50、好ましくは2〜50
h:1〜6、好ましくは2
で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオール等が用いられる。
【0019】
一般式〔IIa〕で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコールにおいて、m=1、e=1の化合物は特許文献4に記載されており、次のような工程を経て合成される。
一般式 CF
3O〔CF(CF
3)CF
2O〕
nCF(CF
3)COOR (R:アルキル基、n:0〜12の整数)で表される含フッ素エーテルカルボン酸アルキルエステルを、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元反応させる。
【0020】
さらに、一般式〔IIb〕で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオールにおいて、f=1は特許文献5〜6に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
FOCRfCOF → H
3COOCRfCOOCH
3 → HOCH
2RfCH
2OH
Rf:-CF(CF
3)〔OCF
2C(CF
3)〕
aO(CF
2)
cO〔CF(CF
3)CF
2O〕
bCF(CF
3)-
【0021】
アルコキシシランは、一般式
(R
1O)
pSi(OR
2)
q(R
3)
r 〔IV〕
R
1、R
3:H、C
1〜C
6のアルキル基またはアリール基
R
2:C
1〜C
6のアルキル基またはアリール基
ただし、R
1、R
2、R
3が共にアリール基であることはない
p+q+r:4 ただし、qは0ではない
で表され、例えばトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が用いられる。
【0022】
これらの各成分は、含フッ素アルコール100重量部に対し、ホウ酸が約0.1〜50重量部、好ましくは約10〜20重量部の割合で、またアルコキシシランが含フッ素アルコールに対して約1.0以下、好ましくは約0.05〜0.50のモル比で用いられる。ホウ酸の使用割合がこれよりも少ないと撥水撥油性が低くなり、一方これよりも多い割合で使用されると溶媒への分散性が悪くなる。また、アルコキシシランの使用割合がこれよりも多い割合で使用されると撥水撥油性が低くなる。
【0023】
得られた含フッ素ホウ酸コンポジット粒子中の含フッ素アルコール量は、約25〜98モル%、好ましくは約40〜80モル%、コンポジット粒子径(動的光散乱法により測定)は約10〜600nm、好ましくは約15〜350nmである。
【0024】
反応生成物である含フッ素ホウ酸コンポジット粒子は、ホウ酸粒子の水酸基に含フッ素アルコールが結合しているものと考えられ、したがってホウ酸の化学的、熱的安定性とフッ素のすぐれた撥水撥油性、防汚性などが有効に発揮されており、実際にガラス表面を含フッ素ホウ酸コンポジット粒子で処理したものは良好な撥水撥油性を示している。また、含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の粒径およびそのバラツキも小さい値を示している。なお、含フッ素ホウ酸コンポジット粒子は、含フッ素アルコールとアルコキシシランとの両者およびホウ酸粒子の反応生成物としても形成されるが、この発明の目的を阻害しない限り他の成分の混在も許容される。
【0025】
含フッ素ホウ酸コンポジット粒子は、樹脂に添加されて複合体を形成させる。樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。
【0026】
コンポジット成分である含フッ素アルコールは、ポリマー結合していないので、洗浄などに対する耐久性や耐熱性に劣り、それをホウ酸コンポジット化することで耐久性や耐熱性を向上させることができるが、無機質基材に対する密着性は十分ではなく、しかるに含フッ素ホウ酸コンポジット粒子を樹脂と複合することにより、無機質基材に対する密着性を十分に改善することができる。
【0027】
含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の添加割合は任意であり、例えば樹脂成分の改質のためには、それに対して1重量%程度でも有効であり得る。また、それの添加方法も、添加割合に応じて種々の方法をとることができ、添加剤の一成分として添加されるばかりではなく、樹脂の有機溶媒溶液を含フッ素ホウ酸コンポジット粒子にコーティングすることもできる。例えば、ホウ酸コンポジットのテトラヒドロフラン分散液を調製した後、その分散液を攪拌しながら、ポリメチルメタクリレート溶液を滴下し、最後に濃度調整を行うためにテトラヒドロフランを添加することにより行われる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0029】
参考例1
CF
3(CF
2)
5(CH
2)
2OH〔FA-6〕1100mg(3.02ミリモル)、ホウ酸200mgおよびテトラヒドロフラン〔THF〕2mlを容量30mlの反応容器に仕込み、室温条件下で1日撹拌した。その後、溶媒を留去し、含フッ素ホウ酸コンポジット粒子767mg(収率59%)を得た。得られた含フッ素ホウ酸コンポジット粒子について、次の各項目の測定を行った。
粒子径およびそのバラツキ:
25℃で固形分濃度1g/Lメタノール分散液について、動的光散乱(DLS)測定法によって測定
【0030】
参考例2〜6
参考例1において、FA-6量が適宜変更され、またテトラエトキシシラン〔TEOS;密度0.94g/cm
3〕も適宜用いられた。
【0031】
参考例7〜16
参考例1において、FA-6の代りに種々の含フッ素アルコールが用いられ、またテトラエトキシシランも適宜用いられた。THF量は、参考例11〜13では4ml用いられた。
OXF3PO:HOCH
2CF(CF
3)OCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2OCF(CF
3)CH
2OH
OXF14PO:HOCH
2CF(CF
3)〔OCF
2CF(CF
3)〕
nOCF
2CF
2O〔CF(CF
3)CF
2O〕
mCF(CF
3)CH
2OH
(n+m=12)
DTFAC:C
4F
9(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)
2(CH
2CH
2)
OH
【0032】
実施例1〜8
前記各参考例で得られた含フッ素ホウ酸コンポジット粒子10mgを、再度20mlのテトラヒドロフランに分散させた後、ポリメチルメタクリレート990mgを加えてポリマーコンポジット溶液を調製し、これをガラス基材にコーティングして、得られた樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子
の複合体の表面特性の分析を行った。
液滴の接触角(単位:°):
得られた樹脂-含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の複合体
の薄膜表面に、n-ドデカンまたは水の液滴4μlを静かに接触させ、付着した液滴の接触角を、θ/2法により接触角計(協和界面化学製Drop Master 300)で測定した。なお、水については経時的な測定が行われた。
上記結果は、水に対する経過時間20〜30分を除いて、いずれも撥水撥油性が改善されていることを示している。
【0033】
比較例1
コーティングされていないガラス基材について、実施例1と同様に表面特性の分析が行われた。
【0034】
比較例2
ホウ酸を用いてコーティングされたガラス基材について、実施例1と同様に表面特性の分析が行われた。
【0035】
比較例3
ポリメチルメタクリレートを用いてコーティングされたガラス基材について、実施例1と同様に表面特性の分析が行われた。
【0036】
比較例4〜8
実施例1において、含フッ素ホウ酸コンポジット粒子の代わりに同量(10mg)の下記試料を用い、これにポリメチルメタクリレート990mgを加えた溶液を用いてコーティングされたガラス基材について、実施例1と同様に表面特性の分析が行われた。
比較例4:ホウ酸/TEOS
比較例5:FA-6
比較例6:FA-6/TEOS
比較例7:OXF3PO
比較例8:OXF14PO
ただし、比較例4では、実施例1においてFA-6が用いられず、ホウ酸50mg(0.81ミリモル)、TEOS 0.10ml(0.45ミリモル)が用いられ、生成物の収量は130mg、収率は90%であった。また、比較例6では、実施例1においてホウ酸が用いられず、FA-6 1100mg(3.02ミリモル)、TEOS 0.10ml(0.45ミリモル)が用いられ、生成物の収量は763mg、収率は68%であった。
【0037】
以上の各比較例で得られた結果は、次の表3に示される。
表3
水 (経過時間:分)
例 n-ドデカン 0 5 10 15 20 25 30
比較例1 0 50 − − − − − −
〃 2 22 60 − − − − − −
〃 3 10 58 − − − − − −
〃 4 20 55 − − − − − −
〃 5 45 81 79 78 76 75 74 73
〃 6 11 36 32 28 21 17 13 7
〃 7 42 86 81 82 78 78 77 75
〃 8 58 102 81 79 77 76 71 70