(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6038354
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】エンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-556626(P2015-556626)
(86)(22)【出願日】2014年1月7日
(86)【国際出願番号】JP2014000018
(87)【国際公開番号】WO2015104732
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 優作
【審査官】
山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】
実開平3−117522(JP,U)
【文献】
特開2011−20248(JP,A)
【文献】
特公昭45−31225(JP,B1)
【文献】
特開2001−287114(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0090273(US,A1)
【文献】
特開2011−45959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心回りに回転されるミル本体の先端側外周に、前記軸心回りにねじれる外周刃部が複数形成されて成るエンドミルであって、
前記外周刃部は、
前記軸心回りのラセン状に形成された外周刃と、
前記外周刃を境に前記外周刃よりも回転方向前側を向く外周すくい面と、
前記外周刃を境に上記外周刃よりも回転方向後側に形成された外周逃げ面と、から構成され、
前記外周逃げ面は、
前記ミル本体の先端側から前記ミル本体の末端側に延在した第1外周逃げ面と、
前記第1外周逃げ面上の回転方向後側の領域において前記先端側から前記末端側に向かって断続的に設けた第2外周逃げ面と、から構成されていることを特徴とするエンドミル。
【請求項2】
前記第1外周逃げ面は、
前記第2外周逃げ面より回転方向前側で隣接し、
前記第1外周逃げ面の回転方向の幅の最小値が、0mmを超え0.1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のエンドミル。
【請求項3】
前記第1外周逃げ面および/または前記第2外周逃げ面は、
軸心方向に視た断面において前記軸心方向に凹入した曲線となる、曲面であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエンドミル。
【請求項4】
前記第2外周逃げ面は、
各外周刃において、共通の回転位相の位置に形成されることを特徴とする請求項1に記載のエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被削材の側面の切削加工を行うエンドミル(以下において、工具と称する場合もある)の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5〜
図7に従来の一般的なエンドミルの例を示す。
図5は、エンドミルの外観を示している。
図6は従来のエンドミルによる切削加工時の態様を示している。
図7は従来のエンドミルにより切削加工されて形成された被削材の加工面の断面形状を示している。
図5〜
図7に示したエンドミル500は、
ミル本体105の末端側がシャンク部108となっており、先端側に6本のらせん状の外周刃103が形成されている。各外周刃103の回転方向Rの前側には外周すくい面101が形成され、回転方向Rの
後側には外周逃げ面106Aが形成されている。このエンドミル500の代表的な使用態様は、エンドミル500を回転(矢印R方向)させながら、所定の切込みを与えて被削材Pの側面に沿って移動させることで被削材Pの一部分を除去し、目的の形状を得るようにしている。このような切削加工を行う場合、エンドミル500の弾性変形による加工面のうねりが生じるので、高精度な平面度、軸方向の真直度を要求される加工においては、精度不良の原因となる。
【0003】
以下、エンドミルの弾性変形と加工面のうねりについて説明する。
図5に示した一般的なエンドミル500は、円柱状のミル本体105の外周面に螺旋状の外周刃103を備え、ミル本体105の先端に放射状の切れ刃を備えている。このエンドミル500は、自身が回転しながら被削材に接触することで被削材の側面と底面を同時に除去加工する機能を有する。エンドミルの加工形態の都合上、片持ち梁状態になり、被削材Pの除去加工時の負荷(以下、切削抵抗)を側面方向に受けるので、エンドミル500にたわみを生じる。エンドミル500の複数の外周刃103は軸心方向に沿って離間している。これにより、回転位相に応じて加工点の数および位置が変動するため、エンドミルのたわみも変化する。
【0004】
以下、エンドミル500の6本の外周刃103を平面状に展開した
図6(b)を用いて説明する。エンドミル500の回転位相が
図6(b)中のAの位置にある場合、エンドミル500と被削材は3点(図中の○を付した位置)で接触しており、接触位置はエンドミル500の先端寄りになる。次に、エンドミル500が回転して回転位相Bの位置に来ると、エンドミル500と被削材は3点で接触するが、接触位置はエンドミル500の根元寄り(シャンク108寄り)になり、工具たわみが減少する。回転位相Cの位置では2点接触となり、接触位置がさらに根元寄りになるため、たわみがいっそう減少する。回転位相Dの位置に来ると、回転位相Aと同様の接触形態となり、たわみが増加する。実際には、エンドミル500の水平方向の移動速度に対して回転速度が非常に速いため、上記回転
位相A〜Dにおける現象は被削材Pの軸心V方向の断面に連続して表れ、被削材Pの加工面Mは
図7に示すようなうねりを生じ、軸心Vから最も高い位置と最も低い位置との差である、うねり高さHAは大きいものとなっている。
【0005】
高精度な平面度や軸方向真直度が要求される加工においては、上記のうねりが問題となる。そこで、被削材の加工面の真直度を改善するため、エンドミルの回転位相に応じた加工面のうねり位置および高さを事前に予測し、予測されたうねりを相殺するように工具径を予め軸心方向に沿って連続的に変化させておく方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−45959号公報(明細書の段落[0019]〜[0031]、
図1〜
図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のエンドミルは、使用し続けると外周刃の摩耗が進行して切れ味が低下し、切削抵抗が増加する。これに伴いエンドミルの弾性変形が大きくなり、加工面のうねりも増大するという問題があった。すなわち、工具摩耗進行の過程において被削材の加工面のうねり高さも変化するため、上記特許文献1のように、工具摩耗進行のある1時点のうねり高さを予測して工具径を補正するものでは、その時点におけるうねり抑制はできるが、工具摩耗がその他の状態にある場合はうねり高さが大きくならざるを得ないのである。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、工具摩耗の進行度合いによらず被削材の加工面のうねりを小さくすることができ、加工精度を長期間に亘って維持することのできる長寿命なエンドミルの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエンドミルは、軸心回りに回転されるミル本体の先端側外周に、上記軸心回りにねじれる外周刃部が複数形成されて成るエンドミルであって、
前記外周刃部は、
前記軸心回りのラセン状に形成された外周刃と、
前記外周刃を境に
前記外周刃よりも回転方向前側
を向く外周すくい面と、
前記外周刃を境に上記外周刃よりも回転方向後側に形成された外周逃げ面と、から構成され、
前記外周逃げ面は、
前記ミル本体の先端側
から前記ミル本体の末端側に延在した第1外周逃げ面と、
前記第1外周逃げ面
上の回転方向後側の領域において前記先端側から前記末端側に向かって断続的に設けた第2外周逃げ面と、から構成さ
れていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明のエンドミルは、外周逃げ面が、第1逃げ角で形成された第1外周逃げ面と、第1逃げ角よりも大きな第2逃げ角で形成された第2外周逃げ面と、から構成されているので、外周刃部の逃げ面幅が小さな領域は他の逃げ面幅の大きな領域と比べて工具摩耗が早く進行する。また、逃げ面幅が小さい領域は加工面のうねりの凹部に相当する。よって、エンドミル摩耗による工具径の減少と加工面のうねりの凹部とが相殺されるから、加工面のうねり高さを小さくでき、加工面の平面度を高くして見栄えを良くするという効果を奏する。因みに、本発明は、従来技術のような外周刃の直径すなわち工具径を軸心に沿う方向に変化させたものでない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の実施の形態1におけるエンドミルを示す図であって、(a)は部分正面図、(b)は底面図、(c)は(a)におけるF−F線矢視部分断面図、(d)は(a)におけるG−G線矢視部分断面図部分正面図、(e)は(a)のF−F線矢視部分における磨耗の状態を示す説明図、(f)は(a)のG−G線矢視部分における磨耗の状態を示す説明図である。
【
図2】この発明の実施の形態1におけるエンドミルにより切削加工された被削材の加工面の断面形状を示す部分断面図である。
【
図3】この発明の実施の形態2におけるエンドミルを示す図であって、(a)は図
1(c)に対応した部分断面図、(b)は図
1(d)に対応した部分断面図である。
【
図4】この発明の実施の形態3におけるエンドミルを示す部分正面図である。
【
図5】従来の一般的なエンドミルを示す部分正面図である。
【
図6】従来の一般的なエンドミルによる切削加工の態様を示す図であって、(a)は正面図、(b)は外周刃を軸周方向に展開した状態を示す展開図である。
【
図7】従来の一般的なエンドミルにより切削加工された被削材の加工面の断面形状を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は実施の形態1におけるエンドミルの概略構成を示している。
図1に示すように、この発明の実施形態1におけるエンドミル100は、例えば超硬合金(タングステンカーバイト鋼)製であり、軸心V回りに回転するミル本体105の先端側外周に、軸心V回りにねじれる6条の外周刃部107が形成されている。各外周刃部107は、軸心V回りのラセン状に形成された外周刃103と、外周刃103を境に外周刃103よりも回転方向Rの前側に形成された外周すくい面101と、外周刃103を境に外周刃103よりも回転方向Rの後側に形成された外周逃げ面106と、から構成されている。尚、ミル本体105の末端側は、従来技術と同様に、回転駆動機のホルダ(
図6(a)参照)に掴持されるシャンク部108となっている。
【0013】
そして、上記の外周逃げ面106は、ミル本体105の先端側位置に形成された第1外周逃げ面102と、第1外周逃げ面102よりもミル本体105の末端寄りの隣接位置に形成された第2外周逃げ面104と、から構成されている。上記の第2外周逃げ面104は、
図1(a)に示すように、外周刃103の軸心Vに沿う方向の領域A−C内において、エンドミル100の根元側半分の領域B−Cにのみ形成されている。この第2外周逃げ面104は、例えば砥石を用いて研削することにより形成される。また、同図(c)のF−F断面に示すように、第1外周逃げ面102の第1逃げ角αは、同図(d)のG−G断面に示す第2外周逃げ面104の第2逃げ角βに比して小さく設定されている。この例では、例えば逃げ角β=2αにしてある。尚、エンドミル100の切れ味と刃先強度を両立させるためには、逃げ角α,βを、それぞれ0〜20degの範囲に設定することが望ましい。
【0014】
また、第1外周逃げ
面102の回転方向Rの幅Q1の外周刃103の螺進方向における平均値は、第2外周逃げ面104の回転方向Rの幅QAの外周刃103の長さ方向における平均値と比して大きくなるように設定されている。そして、第2外周逃げ面104と回転方向R前側で隣接する第1外周逃げ面102の回転方向Rの幅Qの最小値は、0mmを超え0.1mm以下に設定されている。言い換えれば、第2外周逃げ面104と回転方向Rに隣接する領域には、幅Qの第
1外周逃げ面102が形成されている。尚、各外周刃103において、第2外周逃げ面104はそれぞれ共通の回転位相の位置に形成されている。
【0015】
次に動作について説明する。
上記のように構成された実施の形態1のエンドミル100は、回転駆動機のホルダ(
図6参照)にチャック部108が掴持され、回転駆動機の駆動により回転される。そして、被削材Pに所定の切込みを与えながら被削材Pの側面に沿って繰り返し移動されることにより切削加工が施される。すなわち、第2外周逃げ面104が形成されている領域は、工具摩耗の過程において第1外周逃げ面102が回転方向の全幅に渡って摩耗した後に、第2外周逃げ面104が形成されていない領域と比べて摩耗進行が早くなり、工具径は小さくなる。このように工具摩耗が進行した状態で更に加工がなされると、
図2に示すような被削材Pの加工面Nの形状が得られる。このようにして得られた加工面Nは、被削材Pの軸心から最凸部までの距離と最凹部までの距離との差である、うねり高さHが、従来技術により得られた加工面Mに関するうねり高さHA(
図7参照)よりも小さくなり加工面Nを形成させる。因みに、第2外周逃げ面104の存在による効果は、自分でうねりを修復するイメージである。すなわち、従来の加工面Mのように取り過ぎる部分を、取り過ぎにしないようにしてやって加工面Nを形成させるのである。
【0016】
上記した態様について更に詳しく説明する。
図1(c)のF−F断面、
図1(d)のG−G断面を近似形状で表したものが、
図1(e)と
図1(f)である。ここで、第1外周逃げ面102の第1逃げ角α=5deg、第2外周逃げ面104の第2逃げ角β=15deg、第
1外周逃げ面
102の回転方向Rの幅Q=0.03mmと仮定する。切削加工を続けるうちに工具摩耗が進行し、
図1(
e),(
f)中のハッチングで示した部分が消失していくが、逃げ面の形状が消失するエンドミル100の体積に与える影響は小さく、
図1(
e),(
f)中に示すように、F−F断面におけるハッチング部の断面積Sと、G−G断面におけるハッチング部の断面積Sは等しくなる。この性質により、F−F断面に比べG−G断面の径方向の摩耗が早く進行する。例えば、F−F断面における径方向の摩耗高さx=0.01mmとすると、G−G断面における径方向の摩耗高さx‘=0.013mmである。更に、F−F断面における径方向の摩耗高さx=0.02mmの場合は、G−G断面における径方向の摩耗高さx‘=0.03mmとなる。
【0017】
また、第2外周逃げ面104が形成されている軸心Vに沿う方向の位置は、従来のエンドミル500で加工した場合の加工面の凹面として形成される位置に対応しており、工具径が他の領域よりも小さいことで凹面の深さが浅くなる。すなわち、得られるうねり高さHが低減化されたのである。
尚、第1外周逃げ面102の回転方向の摩耗の幅は一般的に0.1mm以下であることから、第2外周逃げ面104を形成する際に、第1外周逃げ面102の回転方向Rの幅Qは、0を超えて0.1mm以下にすることが望ましい。
【0018】
以上のように、実施の形態1に係るエンドミル100を使用することにより、工具摩耗が進行した場合であっても、加工面のうねり高さHを低減化することができる。このように、うねり高さHが小さくなると、加工面の見栄えが良くなるとともに平面度が高くなる。これにより、例えば空調機のスクロール圧縮機に使用されるアルミニウム製のスクロール刃を切削加工した場合は、互いに摺動するスクロール刃間からの冷媒ガスの漏れを解消することができる。また、高精度な平面度や真直度が要求される加工において、エンドミルの長寿命化が可能となる。
【0019】
実施の形態2.
実施の形態1では、第1外周逃げ面および第2外周逃げ面として、断面直線状の平面に形成したものを示したが、次に、実施の形態1とは異なる実施の形態2を説明する。
この実施の形態2におけるエンドミル100Aは、
図3に示すように、第1外周逃げ面102および第2外周逃げ面104Aを備えている。この第2外周逃げ面104Aはその軸心V方向に視た断面形状が、径方向内向きに凹入した曲線(
図3(b)参照)に形成されている。
このような凹曲面の第2外周逃げ面104Aを備えたエンドミル100Aであれば、直線状の第2外周逃げ面104と比べて、第2外周逃げ面104Aの第2逃げ角βを大きく採ることができる。これにより、加工面のうねり高さを低減化でき、高精度の平面度や真直度を実現することができる。
【0020】
実施の形態3.
上記の実施形態1,2では、6条の外周刃部を有するエンドミル100を例示したが、本発明はそれに限定されるものでない。例えば、7条以上の外周刃部または5条以下の外周刃部を有するエンドミルも、本発明に含まれる。
それらのうち、例えば4条の外周刃部を有するエンドミル100Aを
図4に示す。このエンドミル100Aも、ミル本体105の先端側部分に、外周すくい面101、第1外周逃げ面102、外周刃103、および、第2外周逃げ面104から成る外周刃部107を4つ有している。このようなエンドミル100Aであっても、工具摩耗が進行した場合にうねり高さを低減化することができる。また、エンドミル100Aにおいて、第2外周逃げ面104を第2外周逃げ面104A(実施の形態2)に替えた場合も、実施の形態2と同様の効果を有する。
【0021】
尚、上記下実施形態1〜3においては、軸心V方向に沿って視た第1外周逃げ面102の断面形状を、ほぼ直線状の平面に形成した例を示しているが、これらの第1外周逃げ面102も、径方向内向きに凹入した曲線となる曲面に形成しても構わない。
以上のように、第1外周逃げ面102および第2外周逃げ面104Aがいずれもれ凹曲面で形成されている場合は、実施の形態3の場合と同等もしくはそれ以上の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0022】
100 エンドミル
101 外周すくい面
102 第1外周逃げ面
103 外周刃
104 第2外周逃げ面
104A 第2外周逃げ面
105 ミル本体
106 外周逃げ面
107 外周刃部
Q 幅
R 回転方向
S 断面積
T 接線
V 軸心
α 第1逃げ角
β 第2逃げ角