(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたモータ付き減速機においては、ハウジング12とホルダ23との合わせ面にてハウジング12とホルダ23とを連結しているため、以下の問題が生じるおそれがある。
【0006】
まず、合わせ面の面積は、ハウジング12やホルダ23の大きさや形状によって定まるものであり、限りがあるため、連結用のボルト5を多く設けることができない。合わせ面にボルト穴を形成する場合、強度低下や縁部の欠け等防止の観点からハウジング12やホルダ23の外周よりも十分内側にボルト穴を形成する必要があり、周方向に沿って十分な数のボルト5を配設できない。
【0007】
また、ボルト5にかかる力は、ハウジング12やホルダ23の中心に近いほど大きくなる。そのため、できるだけ中心からの距離をとってボルト5を配置することが好ましい。
【0008】
特許文献2に記載されたモータ付き減速機においては、軸スプライン3Dによりキャリア33をモータケーシング3の外周面に連結しているので上記のような問題が生じることはない。しかしながら、スプライン結合の場合、スプラインを形成するための加工に時間がかかる。また、スプライン形成用の専用加工機が必要となる。すなわち、スプライン結合を採用した場合、製造単価が高くなるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、連結力を十分に確保でき、且つ加工性にも優れた、油圧モータの固定ケースと減速機構のキャリアとの連結構造を備える減速機付きモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の減速機付き油圧モータは、内部に油圧モータ機構が配置され、固定ピンの周面が当接するケース側溝が外周面に形成される固定ケースと、前記固定ケースに回転自在に支持される回転ケースと、前記回転ケースの内部に配置されるとともに前記油圧モータ機構の出力軸に連結される減速機構と、を備える。前記減速機構は、前記出力軸に連結される太陽歯車と、前記太陽歯車から前記油圧モータ機構の出力が伝達される出力歯車と、前記固定ピンの周面が当接するキャリア側溝が鍔部の内周面に形成される、前記出力歯車を回転自在に保持するキャリアと、を有する。前記固定ケースと前記キャリアとが重ね合わせられた状態で、前記固定ケースの一部にまで到達する孔が前記固定ケースとは反対側から前記キャリアにあけられることにより、前記ケース側溝と前記キャリア側溝とが同時加工で形成される。そして、前記ケース側溝と前記キャリア側溝とで形成された空間に前記固定ピンが挿入されることにより、前記キャリアが前記固定ケースに連結される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固定ケースの外周面に固定ピンが配置されるので、固定ケースとキャリアとの合わせ面に固定ピンを設ける場合に比べて、固定ピンを多く設けることができる。また、ケース側溝とキャリア側溝とが同時加工で形成されるので、固定ピンが挿入されるケース側溝とキャリア側溝との芯ズレを抑制できる。これらにより、固定ケースとキャリアとの連結力を十分に確保できる。また、ケース側溝およびキャリア側溝を形成するためのキャリアの孔あけ加工は、一般的な加工機械で可能である。すなわち、本発明における固定ケースとキャリアとの連結構造は、その製作における加工性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
図1〜5は、減速機付き油圧モータ1を説明するための図である。
【0014】
(減速機付き油圧モータ)
減速機付き油圧モータ1は、
図1に示すように、油圧モータ2と、減速機3(遊星減速機)とを有している。この減速機付き油圧モータ1は、例えば油圧ショベルなどの建設車両における走行装置などに用いられるものである。なお、建設車両用の用途に限定されるものではない。
【0015】
(油圧モータ)
油圧モータ2は、油圧モータ機構5と、油圧モータ機構5を内部に収容する固定ケース4とを有している。
【0016】
固定ケース4は、有底円筒状のケーシングであり、底部11の中央部分には油圧モータ機構5の出力軸13を挿通するための孔12が設けられている。
【0017】
油圧モータ機構5は、上述した出力軸13を有するモータ部分であり、固定ケース4の内部に配置されている。そして、この出力軸13により油圧モータ機構5の出力が減速機3に伝達されるようになっている。なお、油圧モータ機構5としては、公知のものを用いることができ、本願においてはその説明を割愛している。
【0018】
(減速機)
減速機3は、減速機構7(遊星減速機構)と、減速機構7を内部に収容する回転ケース6とを有している。
【0019】
回転ケース6は、中空円筒状のケーシングであり、その一方の開口部側から固定ケース4の底部11側が挿入されている。また、他方の開口部は、蓋21によって閉じられている。この回転ケース6は、固定ケース4の外周と回転ケース6の内周との間に配置された軸受22a・22bを介して固定ケース4に回転自在に支持されている。
【0020】
減速機構7は、回転ケース6の内部に配置されるとともに、油圧モータ機構5の出力軸13に連結されており、第1太陽歯車24(太陽歯車)、第1遊星歯車25、第1キャリア26、第2太陽歯車27、第2遊星歯車28(出力歯車)、第2キャリア29(キャリア)、および内歯30を有している。減速機構7は、油圧モータ機構5の出力を回転速度を減速しながら伝達し、最終的に回転ケース6を回転駆動することで、当該回転ケース6のフランジ部31に取り付けられたスプロケット(不図示)を介して非駆動部(不図示)を駆動する。
【0021】
第1太陽歯車24は、油圧モータ機構5の出力軸13の端部に連結されており、出力軸13と共に回転するようになっている。
【0022】
第1遊星歯車25は、第1太陽歯車24の周囲に複数個配置されており、各々第1太陽歯車24と噛合している。これらの第1遊星歯車25は、第1キャリア26に対して回転自在に保持されている。これにより、各第1遊星歯車25は、自転しながら第1太陽歯車24の周囲を公転するようになっている。また、各第1遊星歯車25は、回転ケース6の内周に形成された内歯30にも噛合するよう配置されている。
【0023】
第1キャリア26は、第1遊星歯車25を回転自在に保持する部材であり、第2太陽歯車27とスプライン結合されている。第2太陽歯車27は、出力軸13が内挿される円筒部材であり、第1キャリア26の他、複数個の第2遊星歯車28とも噛合している。
【0024】
第2遊星歯車28(出力歯車)は、第1太陽歯車24から第1遊星歯車25、第1キャリア26、および第2太陽歯車27を介して伝達された油圧モータ機構5の出力を、内歯30を介して回転ケース6に伝達する歯車である。
【0025】
この第2遊星歯車28は、第2キャリア29に対して回転自在に保持されている。また、第2遊星歯車28は、内歯30にも噛合するよう配置されている。
【0026】
第2キャリア29は、第2遊星歯車28を回転自在に保持する部材である。第2キャリア29は、詳細は後述するが、油圧モータ2の固定ケース4に、第2キャリア29が固定ケース4に対して固定ケース4の少なくとも周方向に変位しないように連結されている。固定ケース4とは反対側の第2キャリア29の端面29a(
図3参照)には、第2遊星歯車28を回転自在に保持する複数の柱部53が形成されている。なお、
図3に示した第2キャリア29の単品図は、
図1に示す矢印Bの方向で
図1中の第2キャリア29をみたときの図である。
【0027】
(減速機構部の各歯車の動き)
上記のように構成された減速機3の作動について記載しておく。固定ケース4の内部に配置された油圧モータ機構5が回転すると、その出力軸13に結合された第1太陽歯車24が回転して、この第1太陽歯車24に噛合している各第1遊星歯車25が内歯30と噛合しながら、第1太陽歯車24の周りで公転運動を行う。この第1遊星歯車25の公転運動に伴って第1キャリア26が回転し、第1キャリア26とスプライン結合された第2太陽歯車27が回転する。この第2太陽歯車27が回転することで、第2キャリア29に回転自在に保持された各第2遊星歯車28が回転(自転)し、これにより、第2遊星歯車28と内歯30との噛合を介して、回転ケース6が回転駆動される。
【0028】
(固定ケースとキャリアとの連結)
固定ケース4と第2キャリア29との連結について詳しく説明する。
【0029】
固定ケース4と第2キャリア29とは、第2キャリア29の鍔部41の内周面42に複数形成されたキャリア側溝43と、固定ケース4の底部11の外周面44に複数形成されたケース側溝45とで形成された空間に挿入された円柱形状の固定ピン51によって連結されている。なお、第2キャリア29の鍔部41は、
図1に示すように、第2キャリア29の外周部から出力軸13の軸方向、かつ油圧モータ機構5側に延在する環状の鍔である。
【0030】
<キャリア側溝およびケース側溝の形成>
図4、5を参照しつつ、キャリア側溝43およびケース側溝45の形成方法についてまず説明する。
図4のうちの右側の図(F4a)は、固定ケース4および第2キャリア29の加工状態を示す断面図であり、
図4のうちの左側の図(F4b)は、その後、固定ケース4と第2キャリア29とが固定ピン51で連結された状態を示す断面図である。
図5は、
図4のA
部拡大図である。
【0031】
第2キャリア29の内側部分には、重ね合わせられた固定ケース4の側に突出する環状の凸部61が設けられている。また、固定ケース4の底部11における内側部分(孔12部分)の端には、凸部61と当接する環状の凹部62が設けられている。凸部61と凹部62とで、第2キャリア29の軸心と固定ケース4の軸心とを合わせるための軸心調整機構を形成する。
【0032】
固定ケース4に設けられた凹部62は円錐形状とされている。そのテーパ面62aは、固定ケース4の軸心方向に対してα度の角度で傾斜している。αの値は、例えば30以上90未満である。本実施形態では30度のテーパ面となっている。なお、10≦α<90であってもよいし、さらには、0<α<90であってもよい。
【0033】
第2キャリア29に設けられた凸部61の外周面もテーパ面61aとされている。第2キャリア29の軸心方向に対してのテーパ面61aの傾斜角度は、固定ケース4の凹部62のテーパ面62aの傾斜角度(α度)と同じとされる。
【0034】
ここで、
図4のうちの右側の図に示したように、固定ケース4の底部11に第2キャリア29を重ね合わせたときに、固定ケース4の凹部62と第2キャリア29の凸部61とのみで、固定ケース4と第2キャリア29とが接触するように、凸部61(第2キャリア29)および凹部62(固定ケース4)は形成される。すなわち、固定ケース4の底部11に第2キャリア29を重ね合わせたとき、固定ケース4の軸心方向においては、固定ケース4と第2キャリア29との間には例えば隙間Sがあく。また、固定ケース4の軸心方向に直交する方向においては、固定ケース4の底部11の外周面44と第2キャリア29の鍔部41の内周面42との間にも隙間があく。なお、凹部62のテーパ面62aと凸部61のテーパ面61aとは同じ傾斜角度であるため、テーパ面62aとテーパ面61aとの間には隙間があかず、凹部62と凸部61とは面接触する。
【0035】
凹部62と凸部61と(軸心調整機構)により、固定ケース4の底部11の上に第2キャリア29を重ね合わせたとき、第2キャリア29の軸心と固定ケース4の軸心とは一致(合致)する。
【0036】
このようにして固定ケース4と第2キャリア29とを軸心同一で重ね合わせ、例えばねじ棒63およびナット64により固定ケース4と第2キャリア29とを固定する。この状態で、固定ケース4の一部にまで到達する複数の孔52を固定ケース4とは反対側から第2キャリア29に対して垂直にあける。
図3に示したように、本実施形態では、孔52は第2キャリア29の柱部53の間にあけられている(本実施形態では、計15個の孔52があけられている)。
【0037】
この孔52をあけることにより、キャリア側溝43とケース側溝45とが同時に形成される。すなわち、孔52の直径と、キャリア側溝43およびケース側溝45で形成される孔の直径とは当然等しい。
【0038】
<固定ケースとキャリアの組み付け>
第2キャリア29を固定ケース4に組み付けるにあたっては、まず、固定ケース4の底部11の外周に設けられた環状の溝33に、所定の厚みのロックワッシャー32を取り付ける。そして、固定ケース4の底部11に第2キャリア29を重ね合わせ、ケース側溝45とキャリア側溝43とで形成された空間に固定ピン51を挿入して、固定ケース4と第2キャリア29とを連結する。固定ピン51の挿入は、圧入であってもよいし緩挿であってもよい。これにより、第2キャリア29は固定ケース4に対して固定ケース4の少なくとも周方向に変位しないように連結される。
【0039】
(作用・効果)
本発明によれば、固定ケースの外周面に固定ピンが配置されるので、特許文献1に記載の減速機付き油圧モータよりも固定ピンを多く設けることができる。また、ケース側溝とキャリア側溝とが同時加工で形成されるので、固定ピンが挿入されるケース側溝とキャリア側溝との芯ズレを抑制できる。これにより、複数の固定ピンに作用する力のばらつきは極小に抑えられる。その結果、特定の固定ピンに大きな力が作用して摩耗することでその耐久性が低下することを極小に抑えられる。これらにより、固定ケースとキャリアとの連結力を十分に確保できる。
【0040】
また、ケース側溝およびキャリア側溝を形成するためのキャリアの孔あけ加工は、一般的な加工機械で可能である。すなわち、本発明における固定ケースとキャリアとの連結構造は、その製作における加工性にも優れている。
【0041】
本実施形態では、ケース側溝とキャリア側溝とを形成するための孔をキャリアの柱部の間にあけている。この部分は薄肉部であるため加工が容易である。すなわち、加工性をされに向上させることができている。
【0042】
また、本実施形態では、キャリアの軸心と固定ケースの軸心とを合わせた状態で前記孔をあける。これにより、固定ピンを用いて固定ケースにキャリアを連結した状態において、キャリアの軸心と固定ケースの軸心とは一致する。これにより、減速機内部の歯車などの構成部品が回転動作した際に歯車の噛合いが均一にならないことを防止でき、製品寿命がばらつくことを抑制できる。
【0043】
また、キャリアの軸心と固定ケースの軸心とを合わせる軸心調整機構が設けられているので、容易に軸心合わせを行うことができる。
【0044】
本実施形態では、キャリアの内側部分に形成された環状の凸部および固定ケースの内側部分に形成された円錐形状の凹部というように、キャリアおよび固定ケースの一部分に軸心調整機構を形成したことから、軸心調整(軸心合わせ)用の部品を別途、必要としない。その分、製造コストを抑えることができるとともに、軸心合わせをより容易に行うことができる。
【0045】
また、本実施形態では、固定ケースの底部の外周にロックワッシャーを取り付けて、連結状態において、キャリアに形成された環状の凸部と固定ケースに形成された円錐形状の凹部とが接触しないようにされている。これにより、これら凸部・凹部が摩耗することがないので、分解・組立を繰り返し行っても、軸心合わせのための凸部・凹部の形状を微修正などする必要はない。
【0046】
(変形例)
固定ピン51は必ずしも円柱形状である必要はない。同様に、固定ピン51の周面が当接するケース側溝45およびキャリア側溝43の内周面は必ずしも円弧(略半円)である必要はない。例えば、楕円柱形状、四角柱形状などの固定ピン51であってもよい。この場合、ケース側溝45およびキャリア側溝43も固定ピン51に面接触する形状とするため、これらの溝を同時形成するための孔52の形状は、真円ではなく、楕円、四角形などとなる。
【0047】
(軸心調整機構の他の形態)
図6、7を参照しつつ軸心調整機構の他の形態について説明する。本実施形態では、固定ピン51が配置される固定ケース4の外周部分、および固定ピン51が配置される第2キャリア29の内周部分に軸心調整機構を形成している。
【0048】
具体的には、固定ケース4の底部11の外周面をテーパ面44a(ケース側テーパ面)とし、第2キャリア29の鍔部41の内周面をテーパ面44a(ケース側テーパ面)に沿うテーパ面42a(キャリア側テーパ面)としている。このテーパ面44a(ケース側テーパ面)とテーパ面42a(キャリア側テーパ面)とで、第2キャリア29の軸心と固定ケース4の軸心とを合わせる軸心調整機構を形成している。
【0049】
固定ケース4の底部の外周に形成されたテーパ面44aは、固定ケース4の軸心方向において第2キャリア29の側に縮径する環状のテーパ面である。このテーパ面44aは、固定ケース4の軸心方向に対してβ度の角度で傾斜している。βの値は、例えば1以上30未満である。本実施形態では3度のテーパ面となっている。なお、0<β<30であってもよい。
【0050】
第2キャリア29の鍔部41の内周に形成されたテーパ面42aは、第2キャリア29の軸心方向において固定ケース4の側に拡径する環状のテーパ面である。第2キャリア29の軸心方向に対してのテーパ面42aの傾斜角度は、固定ケース4のテーパ面44aの傾斜角度(β度)と同じとされる。
【0051】
また、
図6、7に示したように、固定ケース4の底部11に第2キャリア29を重ね合わせたときに、固定ケース4に形成されたテーパ面44aと第2キャリア29に形成されたテーパ面42aとのみで、固定ケース4と第2キャリア29とが接触するように、第2キャリア29および固定ケース4は形成される。すなわち、固定ケース4の底部11に第2キャリア29を重ね合わせたとき、固定ケース4の軸心方向において、固定ケース4と第2キャリア29との間には隙間があく。なお、テーパ面44aとテーパ面42aとは同じ傾斜角度であるため、これらの面の間には隙間があかず、テーパ面44aとテーパ面42aとは面接触する。
【0052】
これらテーパ面44a・44b(軸心調整機構)により、固定ケース4の底部11の上に第2キャリア29を重ね合わせたとき、第2キャリア29の軸心と固定ケース4の軸心とを容易に一致させることができる。
【0053】
(作用・効果)
本実施形態によると、円錐面(テーパ面)の接触面積を大きくとることができるため、軸心合わせ時のガタツキが抑えられる。そのため、キャリアと固定ケースとの軸心合わせがより容易となる。さらには、孔あけ加工(ケース側溝およびキャリア側溝の同時加工)の際に工具の刃からの力が作用する部分が接触(テーパ面44a・44b)しているため、孔あけ加工時のガタツキも抑えられる。すなわち、この軸心調整機構によると、製作における加工性をさらに向上させることができる。
【0054】
また、円錐面(テーパ面)の接触面積を大きくとることができるため、テーパ面の傾斜角度を先の実施形態のものよりも小さくすることができる、という効果もある。