特許第6038639号(P6038639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6038639
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】熱可塑性セルロースエステル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/08 20060101AFI20161128BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20161128BHJP
   C08K 5/523 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C08L1/08
   C08K5/11
   C08K5/523
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-282097(P2012-282097)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-125513(P2014-125513A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】501041528
【氏名又は名称】ダイセルポリマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100076680
【弁理士】
【氏名又は名称】溝部 孝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】奥村 泰男
(72)【発明者】
【氏名】辻岡 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】柳井 一伸
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭47−022086(JP,B1)
【文献】 特開2007−161943(JP,A)
【文献】 特開2006−176596(JP,A)
【文献】 特開平08−337683(JP,A)
【文献】 特開2006−028219(JP,A)
【文献】 特開平10−204270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−1/32
C08K 5/00−5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロースエステル100質量部に対して、
(B)ベンジルメチルジグリコールアジペート、ベンジルエチルジグリコールアジペート、ベンジルn-プロピルジグリコールアジペートから選ばれるアジピン酸エステル系化合物5〜50質量部、
(C)下記一般式(I)で示されるリン酸エステル1〜50質量部を含有するセルロースエステル組成物。
【化1】
(式中、nは1〜2の整数、R1は水素原子か炭素数1〜4のアルキル基、R3、R4はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
【請求項2】
(C)成分のリン酸エステルが下記一般式(II)で示されるリン酸エステルである、請求項記載のセルロースエステル組成物。
【化2】
【請求項3】
(C)成分のリン酸エステルが下記式(III)のリン酸エステルである請求項記載のセルロースエステル組成物。
【化3】
【請求項4】
(A)成分のセルロースエステルが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートから選ばれるものである請求項1〜のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【請求項5】
(A)成分のセルロースエステルが、置換度2.7以下のセルロースアセテートである、請求項1〜のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性セルロースエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテート等のセルロースエステルは一般的に熱可塑性が乏しいため、通常は可塑剤を含む組成物として使用されている。さらに用途に応じて難燃性が要求される場合には、難燃剤が配合される。
このようにセルロースエステル組成物に可塑剤や難燃剤のような添加剤を配合したとき、成形後に添加剤がブリードアウトしないことが求められる。
【0003】
特許文献1には、セルロースエステルに対して、可塑剤と前記可塑剤のブリードアウトを抑制または防止するためのブリードアウト抑制剤として縮合リン酸エステルが配合された組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−176596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、難燃性が高く、ブリードアウトも抑制された成形体が得られる、セルロースエステル組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、課題の解決手段として、
(A)セルロースエステル100質量部に対して、
(B)アジピン酸エステル系化合物5〜50質量部、
(C)下記一般式(I)で示されるリン酸エステル1〜50質量部を含有するセルロースエステル組成物を提供する。
【0007】
【化1】
【0008】
(式中、nは1〜2の整数、R1は水素原子か炭素数1〜4のアルキル基、R3、R4はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
【発明の効果】
【0009】
本発明のセルロースエステル組成物は熱可塑性が良く、さらに高い難燃性を有し、ブリードアウトも抑制された成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<(A)成分>
本発明で用いる(A)成分のセルロースエステルは公知のものであり、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートを挙げることができる。その他、ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテート、アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロース、アセチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルヒドロキシプロピルセルロース等も挙げることができる。
これらのセルロースエステルの中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが好ましい。
【0011】
(A)成分のセルロースエステルは、平均置換度が2.7以下のセルロースアセテートが好ましく、平均置換度が1.7〜2.7のものがさらに好ましい。
(A)成分のセルロースエステルの重合度は、粘度平均重合度が100〜1000であることが好ましく、さらに好ましくは100〜500程度である。
【0012】
<(B)成分>
(B)成分のアジピン酸エステル系化合物は、アジピン酸と芳香族アルコールまたは脂肪族アルコールとのエステルを挙げることができるが、アジピン酸と芳香族アルコールとのエステルの単独化合物または混合物が好ましい。
【0013】
アジピン酸と芳香族アルコールとのエステルとしては、ベンジルアルキルジグリコールアジペートが好ましく、ベンジルアルキルジグリコールアジペートを単独で使用してもよいし、ベンジルアルキルジグリコールアジペートを含むアジピン酸と芳香族アルコールとのエステルの混合物を使用してもよい。
ベンジルアルキルジグリコールアジペートを含む混合物を使用するときは、ベンジルアルキルジグリコールアジペートの含有量が35質量%以上であるものが好ましい。
ベンジルアルキルジグリコールアジペートのアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
また、アルキル基の炭素数は1〜20が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜4がさらにより好ましい。
特に直鎖状の炭素数1〜4のアルキル基を有する、ベンジルメチルジグリコールアジペート、ベンジルエチルジグリコールアジペート、ベンジルn-プロピルジグリコールアジペート、及びベンジルn-ブチルジグリコールアジペートが好ましい。
【0014】
アジピン酸と脂肪族アルコールとのエステルとしては、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチルなどのアジピン酸エステルなどを挙げることができる。
【0015】
(B)成分のアジピン酸エステル系化合物の組成物中の含有量は、(A)成分100質量部に対して5〜50質量部であり、好ましくは5〜35質量部、より好ましくは10〜25質量部である。
【0016】
<(C)成分>
(C)成分は、下記一般式(I)で示されるリン酸エステルである。
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、nは1〜2の整数、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R3、R4はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
【0019】
(C)成分のリン酸エステルとしては、一般式(I)においてR1、R3,R4がメチル基である下記一般式(II)で示されるリン酸エステルであることが好ましく、nが2である下記式(III)で示されるリン酸エステルであることが特に好ましい。
【0020】
【化3】
【0021】
【化4】
【0022】
(C)成分の組成物中の含有量は、(A)成分100質量部に対して1〜50質量部であり、好ましくは5〜30質量部、より好ましくは10〜25質量部である。
【0023】
本発明の組成物は、さらに難燃剤や充填剤を含有することができる。
難燃剤としては、本発明の課題を解決できる範囲内にて、公知の有機および無機の難燃剤を使用することができる。
充填剤としては、繊維状充填剤、非繊維状充填剤(粉粒状又は板状充填剤など)が含まれ、例えば、特許文献1(特開2005−194302号公報)の段落番号0025〜0032に記載のものを挙げることができる。
充填剤の含有割合は、(A)成分100質量部に対して、5〜50質量部が好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、特開2005−194302号公報の段落番号0035〜0042に記載のエポキシ化合物、段落番号0043〜0052に記載の有機酸、チオエーテル、亜リン酸エステル化合物等の安定化剤を含有することができる。
【0025】
本発明の組成物は、用途に応じて、慣用の添加剤、例えば、他の安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、分散剤、流動化剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤等を含んでいてもよい。
【0026】
本発明の組成物は、例えば、各成分をタンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ニーダーなどの混合機を用いて乾式又は湿式で混合して調製してもよい。
さらに、前記混合機で予備混合した後、一軸又は二軸押出機などの押出機で混練してペレットに調製する方法、加熱ロールやバンバリーミキサー等の混練機で溶融混練して調製する方法を適用することができる。
【0027】
本発明の組成物は、射出成形、押出成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、プレス成形、ブロー成形、ガス注入成形等によって各種成形品に成形することができる。
【0028】
本発明の組成物は、例えば、OA・家電機器分野、電気・電子分野、通信機器分野、サニタリー分野、自動車等の輸送車両分野、家具・建材等の住宅関連分野、雑貨分野等の各パーツ、ハウジング等に使用することができる。
【実施例】
【0029】
実施例および比較例
ヘンシェルミキサーを用いて、ミキサー内の摩擦熱で70℃以上となるように表1示す各成分を攪拌混合したものを二軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス温度:220℃)に供給し、押し出してペレット化して組成物を得た。
得られたペレットを、射出成形機に供給して、シリンダー温度210℃、金型温度50℃、成形サイクル30秒(射出15秒、冷却時間15秒)の条件で試験片を射出成形した。得られた試験片について、特性評価を行った。
【0030】
<(A)成分>
(A−1):セルロースアセテート:(株)ダイセル製、商品名「L20」、置換度2.5、粘度平均重合度140
(A−2):セルロースアセテート:(株)ダイセル製、商品名「L50」、置換度2.5、粘度平均重合度180
<(B)成分>
製造例(ベンジルメチルジグリコールアジペート)
温度計、攪拌機、コンデンサーおよび水分け装置を備えた1リットルの四つ口フラスコにアジピン酸146.1g(1モル)、ベンジルアルコール 129.8g(1.2モル)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル144.2g(1.2モル)、パラトルエンスルホン酸0.95g、トルエン120gを入れ、水分け装置を用いて生成する水を抜き出しながら、8時間還流して反応させた。
炭酸ナトリウム2.9gと水を用いて中和した後、水洗、脱溶剤、水蒸気蒸留にて残存溶剤、残存アルコールを除去し、ベンジルメチルジグリコールアジペートを収率96.9%で得た。
<(C)成分>
(C):クレジルジ(2,6−キシリル)ホスフェート
(C’−1):商品名NDPP;2−ナフチルジフェニルホスフェート(大八化学工業(株)製)
(C’−2):商品名TCP;トリクレジルホスフェート(大八化学工業(株)製)
(C’−3):製造例
攪拌機、温度計、滴下ロート、および水スクラバーを連結したコンデンサーを取り付けた1Lの四つ口フラスコに、244gの2,6−キシレノール、20gのキシレン、1.5gの塩化マグネシウムを入れ、加熱、混合した。
反応液の温度が120℃に達した時点で、オキシ塩化リン153gを約2時間に亘って添加した。このとき発生した塩酸ガスは水スクラバーへ導いた。
オキシ塩化リンの添加が終了した後、反応液の温度を徐々に180℃まで2時間かけて上昇させて反応を完結させ、ジ(2,6−キシリル)ホスホロクロリデート322gを得た。
得られたジ(2,6−キシリル)ホスホロクロリデート322gに、53.5gのレゾルシン、1.5gの塩化アルミニウムを入れ、加熱、混合し、反応液の温度を徐々に180℃まで2時間かけ上昇させて脱塩酸反応を行った。
同温度にて2時間熟成後、200mmHg減圧下でさらに2時間熟成を行い、反応を完結させた。
反応液にキシレン500g、10%塩酸水200gを添加し、攪拌して残存する触媒などを除去し、さらに水洗を行なった後、攪拌しながら室温まで冷却して結晶を析出させた。析出した結晶を濾過により分離し、メタノール200gで洗浄した後100℃にて減圧乾燥した。
得られた結晶は、白色の結晶性粉末であり、収量は320gであった。ゲルパーミエイションクロマトグラフィーで分析したところ、得られた結晶の純度は98.5%であり、下記式に示す構造を有する。
【0031】
【化5】
【0032】
<測定試験>
(1)MFR
220℃、荷重10kgで測定した。
(2)密度
ISO1183に準拠して測定した(単位:g/cm3)。
(3)引張強さ、引張呼び歪み
ISO527に準拠して、試験片の引張強さおよび引張呼び歪みを測定した(引張強さ単位:MPa、呼び歪み単位:%)。
(4)曲げ強さ、曲げ弾性率
ISO178に準じて測定した(単位:MPa)。
(5)シャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)
ISO179/1eAに準じてシャルピー衝撃強さ(kJ/m2)を測定した(単位:KJ/m2)。
(6)加熱変形温度(HDT)
ISO75に準拠し、荷重1.80MPaで測定した(単位:℃)。
(7)燃焼試験
UL−94に規定されている垂直燃焼試験を行った。試験片の厚さは1.5mmである。
(8)湿熱条件下での質量減少率
成形プレート(90mm×50mm×厚み3mm)を65℃、85%RHの雰囲気中に500時間放置したときの質量減少率(24時間後の質量に対する減少率)を測定した。
(9)ブリードアウトの有無
「(8)湿熱条件下での質量減少率」の試験後におけるブリードアウトの有無を肉眼で観察した。
成形プレート表面にブリードアウトがなかったか、一部のみ(全体の10%以下)にあったものを○、ブリードアウトが全体の50%以上にあったものを×とした。
(10)変形および変色
「(8)湿熱条件下での質量減少率」の試験後における加水分解による変形および変色の有無を肉眼で観察した。
変形および変色がなかったものを○、一部でも変形および変色があったものを×とした。
【0033】
【表1】