(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、
図1に示すように、静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系1と、送信系3と、受信系5と、信号処理系7と、計測制御部6と、演算処理部8と、補正磁場演算部200
(図示なし)と、を備えて構成される。
【0017】
静磁場発生系2は、被検体9の周りにその体軸方向または体軸と直交する方向に均一な静磁場を発生させるもので、上記被検体9の周りのある広がりをもった空間に永久磁石方式、または常電導方式、あるいは超電導方式の図示していない磁場発生手段が配置されている。
【0018】
傾斜磁場発生系1は、X、Y、Zの三軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル10と、それぞれのコイルを駆動する傾斜磁場電源11とから成り、後述する計測制御部6から命令にしたがってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源11を駆動することにより、X、Y、Zの三軸方向の傾斜磁場Gs、Gp、Gfを被検体9に印加するようになっている。
【0019】
2次元スライス面の撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体9に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード(リードアウト)傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、NMR信号(エコー信号)にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0020】
また傾斜磁場の印加に起因する渦電流や残留磁場に起因する誤差磁場、或いは振動に起因する誤差磁場の空間且つ時間的な情報から、静磁場発生系2の一部を形成しているシムコイルや局在コイル、或いは傾斜磁場発生系1に対して、補正電流を印加することで上記各誤差磁場を低減する。
【0021】
送信系3は、被検体9の生体組織を構成する原子の原子核にNMR現象を起こさせるために高周波磁場(以下、RFという)パルスを照射するもので、高周波発振器12と、変調器13と、高周波増幅器14と、送信側のRF送信コイル15とから成る。具体的には、後述の計測制御部6からの命令に従って高周波発振器12が駆動されて高周波パルスを発生し、変調器13により高周波パルスが振幅変調され、高周波増幅器14により増幅された後に被検体9に近接して配置されたRF送信コイル15に供給されることにより、RFパルスが被検体9に照射される。
【0022】
受信系5は、被検体9の生体組織を構成する原子核のNMR現象により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側のRF受信コイル16と、増幅器17と、直交位相検波器18と、A/D変換器19とから成る。RF送信コイル15から照射された電磁波による被検体9の応答の電磁波(NMR信号)は被検体9に近接して配置されたRF受信コイル16で検出され、増幅器17及び直交位相検波器18を介してA/D変換器19に入力されてデジタル量に変換され、さらに計測制御部6からの命令によるタイミングで直交位相検波器18によりサンプリングされた二系列の収集データとされ、その信号が信号処理系7に送られるようになっている。
【0023】
信号処理系7は、受信系5で検出したエコー信号を用いて画像再構成演算を行うと共に画像表示をするもので、エコー信号についてフーリエ変換、補正係数計算、画像再構成等の処理及び計測制御部6の制御を行う演算処理部8と、経時的な画像解析処理及び計測を行うプログラムやその実行において用いる不変のパラメータなどを記憶するROM(読み出し専用メモリ)20と、前計測で得た計測パラメータや受信系5で検出したエコー信号、及び関心領域設定に用いる画像を一時保管すると共にその関心領域を設定するためのパラメータなどを記憶するRAM(随時書き込み読み出しメモリ)21と、演算処理部8で再構成された画像データを記録するデータ格納部となる光磁気ディスク22及び磁気ディスク
24と、これらの光磁気ディスク22又は磁気ディスク24から読み出した画像データを映像化して断層像として表示する表示部となるディスプレイ23とから成る。
【0024】
計測制御部6は、ある所定のパルスシーケンスに基づいてRFパルスと傾斜磁場パルスを繰り返し印加して、被検体9からのエコー信号の計測を制御する制御手段となるもので、演算処理部
8の制御で動作し、被検体9の断層像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系3、静磁場発生系2の一部を形成しているシムコイルや局在コイル、傾斜磁場発生系1、および受信系5に送る。
【0025】
また、操作部4は、信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボールやマウス25及び、キーボード26から成る。この操作部4はディスプレイ23に近接して配置され、操作者がディスプレイ23を見ながら操作部4を介してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0026】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0027】
本発明を創出するに至った経緯としては、発明者は、渦電流に起因する誤差磁場(以下、渦電流誤差磁場という)の計測結果には、MRI装置の機械構造物の振動に起因する誤差磁場(以下、振動誤差磁場という)の成分も重畳していることを発見したことによる。従来(公知)の渦電流誤差磁場の計測方法は、予め印加したテスト傾斜磁場に対するMRI装置の応答を計測しているので、計測結果には渦電流誤差磁場のみならずテスト傾斜磁場に起因する振動誤差磁場も含んでいて然るべきである。
【0028】
そこで、発明者は、傾斜磁場印加によって発生する渦電流誤差磁場とMRI装置構造物の振動に起因した振動誤差磁場を共に補正する本発明のMRI装置及び振動誤差磁場低減方法を想起したので、以下に、その一実施例を詳細に説明する。
【0029】
最初に、本実施例に係る振動誤差磁場を補正する補正磁場を算出し、出力する補正磁場演算部200の各機能を、
図2に示す補正磁場演算部200の機能ブロック図に基づいて説明する。本実施例に係る補正磁場演算部200は、誤差磁場計測部201と、誤差磁場画像取得部202と、誤差磁場算出部203と、誤差磁場補正部204と、補正磁場算出部205と、位相較正部206と、を有してなる。これらの各部は、計測制御部6又は演算処理部8内に実装される。そして、これらの各部が連携して、
図3のフローチャートに示す振動誤差磁場の補正を行う処理を行う。以下、
図3のフローチャートに基づいて、本実施例の振動誤差磁場補正処理の概要を説明する。
【0030】
ステップ301で、振動誤差磁場の計測が行なわれる。誤差磁場計測部201は、所定の計測シーケンスを生成して、計測制御部6に実行させて、振動誤差磁場が重畳されたエコー信号の計測を行わせ、振動誤差磁場が重畳されたエコー信号を取得する。詳細は後述する。
【0031】
ステップ302で、ステップ301で取得されたエコー信号を用いて時系列の誤差磁場画像データが取得される。誤差磁場画像取得部202は、ステップ301で取得されたエコー信号を、空間軸方向にフーリエ変換して、エコー信号のサンプリング時刻毎の複素画像を取得し、各複素画像から位相画像を求めて、時系列位相画像データを取得する。さらに時系列位相画像データから時系列誤差磁場画像データを取得する。詳細は後述する。
【0032】
ステップ303で、ステップ302で取得された時系列位相画像データを用いて振動
誤差磁場解析が行なわれる。振動
誤差磁場解析の詳細は後述する。
【0033】
ステップ304で、ステップ303の振動誤差磁場解析の結果を用いて、入力傾斜磁場波形に応じて振動誤差磁場を補正するための補正磁場が算出される。補正磁場の算出の詳細は後述する。
【0034】
ステップ305で、ステップ304で算出された補正磁場の位相校正が行われる。位相校正の詳細は後述する。
以上までが、本実施例の処理フローの説明である。以下、各ステップの詳細を説明する。
【0035】
(1.振動誤差磁場計測)
次に、ステップ301の振動誤差磁場計測の詳細を説明する。
【0036】
傾斜磁場印加によって誘起されるMRI装置構造物の振動に起因した振動誤差磁場は、周波数分布を有する。従って、対象となる周波数成分を正しく計測するために、最適な時間分解能および計測窓(サンプリング時間)を有するパルスシーケンスを用いて、振動誤差磁場が重畳されたエコー信号を計測する必要がある。そこで、この要求を満たす公知の計測手法であって、振動誤差磁場の低周波成分の計測に好適な計測シーケンスを用いる手法と高周波成分の計測に好適な計測シーケンスを用いる手法を以下に説明する。
【0037】
なお、下記いずれの手法においても、振動誤差磁場の計測においては、予め渦電流誤差磁場を補正した状態で振動誤差磁場のみの情報が重畳されたエコー信号を計測して振動誤差磁場のみの情報を取得しても良いし、渦電流誤差磁場を補正せず渦電流誤差磁場と振動誤差磁場の情報が共に重畳されたエコー信号を計測して、これらの情報を同時に取得しても良い。両方の情報を同時に取得した場合は、
渦電流誤差磁場と振動誤差磁場とを区別無く補正することになる。
【0038】
(1.1 低周波数成分の計測)
約10〜20[Hz]以下の低い周波数を有する成分の計測には、十分長い時間に渡って誤差磁場変動を計測する必要がある。これには、特許文献2に示される計測方法が適している。この手法は計測窓(計測時間)における制限が無いので、誤差磁場変動の周波数が限りなくゼロに近くても、或いは減衰時間が非常に長くても、有意に誤差磁場変動を計測する事が可能である。
【0039】
エコー信号を計測するための傾斜磁場に起因する誤差磁場の影響と、静磁場不均一による影響を除外するため、テスト傾斜磁場の極性を反転した2回の計測間で、或いは、テスト傾斜磁場有りと無しの2回の計測間で、エコー信号又はそのフーリエ変換後の画像の差分を取得しても良い。
【0040】
ただし、特許文献2の手法は繰り返し時間TRで時間分解能が決まるため、計測できる周波数に上限が存在する。従って、高周波数成分は後述する手法を用いるのが望ましい。
【0041】
誤差磁場計測部201は、特許文献2に記載のパルスシーケンスを構成するRFパルスとテスト傾斜磁場を含む傾斜磁場パルスの印加タイミング及び印加強度、或いは、サンプリングタイミング等を具体的に規定するデータを求めて該パルスシーケンスを生成する。そして、計測制御部6に求めたデータを通知し、計測制御部6にパルスシーケンスを実行させて、振動誤差磁場が反映されたエコー信号を計測する。なお、テスト傾斜磁場の極性を反転した2回の計測、又は、テスト傾斜磁場有りと無しの2回の計測を行なう場合は、誤差磁場計測部201は、各パルスシーケンスを生成して計測制御部6にそれぞれ実行されて、テスト傾斜磁場の異なるエコー信号をそれぞれ計測し、エコー信号又はそのフーリエ変換後の画像の差分を取得する。
【0042】
(1.2 高周波成分の計測)
高周波数成分の計測方法の1つとしては、特許文献3で示されるような、予めテスト傾斜磁場を印加し、その直後、或いは所定の時間後に高周波励起を行ってエコー信号を計測する技術が挙げられる。
【0043】
別の手法として、
図4に示すような計測シーケンスを用いてもよい。この計測シーケンスはSpin Echoシーケンスを基にしている。RF,Gs,Gp,Gf,Echo,A/Dはそれぞれ、RFパルス、スライス傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、周波数エンコード傾斜磁場、エコー信号、サンプリング期間の軸を意味する。
図4は、2繰り返し分のシーケンス・チャートを示し、前半には「-1」の添え字を付け、後半には「-2」の添え字を付けて表している。そして、一繰り返し時間(TR)内で、90°励起用RFパルス401とスライス選択傾斜磁場パルス403とを略同時に印加して所望の撮像領域のスピンを励起し、位相エンコード方向のエンコード傾斜磁場パルス405と周波数エンコード方向のエンコード傾斜磁場パルス406とを印加して励起されたスピンの位相に位置情報をエンコードし、180°再収束RFパルス402とスライス選択傾斜磁場パルス404とを略同時に印加して、スピンの位相を再収束させてエコー信号を形成させ、サンプリング期間410でエコー信号を計測する。
【0044】
このようなSpin Echoシーケンスに、印加量の等しいテスト傾斜磁場407,408が誤差磁場を計測する物理軸方向(
図4の例では、周波数エンコード方向)に再収束RFパルス402の前後に印加される。時刻TEの直前にテスト傾斜磁場408がゼロになるようにして、このテスト傾斜磁場により誘起された(渦電流、あるいは機械振動に起因する)誤差磁場が重畳したエコー信号を、その直後、或いは所定の時間後にサンプリングする。
【0045】
以上のような誤差磁場計測シーケンスにおいて、2次元画像化するための傾斜磁場403,404,405,406,407に起因する誤差磁場の影響と、静磁場不均一性による影響を除外するため、テスト傾斜磁場407,408の極性を異ならせて(つまり反転させて)、或いはテスト傾斜磁場の有り無しで、それぞれエコー信号の計測を行なう。そのため、別の繰り返し時間(TR)では、テスト傾斜磁場407,408の極性を反転し、テスト傾斜磁場407,408以外は同じとする。テスト傾斜磁場407,408が正極性の計測をScan(+),負極性の計測をScan(-)とする。或いは、テスト傾斜磁場有りの計測をScan(+)、テスト傾斜磁場無しの計測をScan(-)としても良いし、その逆でも良い。
【0046】
エコー信号計測については、
図5に示すように、1つの位相エンコード値ごとにScan(+),Scan(-)を順次行い、これが励起断面の2軸位相エンコードに必要な回数Np * Nf回繰り返される。なお、テスト傾斜磁場の極性反転は、交互でなくてもよく、いずれか一方のテスト傾斜磁場の計測を終了後に、テスト傾斜磁場の極性を反転して計測を繰り返しても良い。
【0047】
この
図4の誤差磁場計測シーケンスは、特許文献3の誤差磁場計測シーケンスのようにテスト傾斜磁場印加後にRFパルスによる励起を行う必要が無いので、傾斜磁場印加中、或いは傾斜磁場をゼロにした直後から誤差磁場を計測できる利点がある。
【0048】
以上の2つの手法のおける振動誤差磁場に対する周波数分解能は、エコー信号のサンプリングの帯域幅(BW)で決まり、且つ、低周波数側の計測能力はエコー信号取得時間(窓時間)で決まる。
【0049】
誤差磁場計測部201は、上記特許文献3又は
図4の誤差磁場計測シーケンスを生成し、計測制御部6に実行させて誤差磁場が重畳されたエコー信号の計測を行なう。
【0050】
(時系列位相画像の取得)
次に、ステップ302の時系列の位相画像データの取得の詳細を、
図6に示すフローチャートに基づいて説明する。なお、前述の振動誤差磁場計測で説明した2つの手法(低周波成分計測及び高周波成分計測)のいずれにも、本時系列位相画像データの取得処理が行われる。
【0051】
ステップ651で、誤差磁場画像取得部202は、ステップ301で計測されたエコー信号を、
図6の601,602に示されるようなScan(+),Scan(-)毎の3次元データセットS+(kx,ky,ti),S-(kx,ky,ti)に分ける。ここでkx,kyはそれぞれ周波数エンコード方向および位相エンコード方向の空間周波数であり、tiはサンプリングしたエコー信号の離散的な時間点(i=1,2,・・・,n)を示している。ti方向の時間間隔(時間分解能)はサンプリング周波数、またデータ数は周波数方向の分解能Freq.#で一義的に決まる。
【0052】
ステップ652で、誤差磁場画像取得部202は、2つのデータセットS+,S-をkx,kyを変数として、各々の時刻tiにおいて別個に2次元フーリエ変換を行い、各時刻の2次元複素画像I+(x,y,ti)およびI-(x,y,ti)を得る。この2次元複素画像を用いて、各時刻tiにおける位相画像φ+(x,y,ti),φ-(x,y,ti)を作成する(603,604)。
【0053】
ステップ653で、誤差磁場画像取得部202は、画像化するための傾斜磁場403,404,405,406,407に起因する誤差磁場の影響と、静磁場不均一性による影響を除外した位相画像のデータセットφ(x,y,ti)(605)を作成するため、2つの位相画像データφ+(x,y,ti),φ-(x,y,ti)間の差分をとる。
【0054】
テスト傾斜磁場を反転して2回計測(両極性計測)した場合の位相画像データは、
φ(x,y,ti)=[φ+(x,y,ti)-φ-(x,y,ti)]/2
となり、片極性計測の場合は、
φ(x,y,ti)=φ+(x,y,ti)-φ-(x,y,ti)
とする。
図6は、両極性計測の場合を示す。このようにして求めた位相画像データには、傾斜磁場印加によって誘起されたMRI装置構造物の振動に起因した減衰を伴う振動誤差磁場に基づく位相が反映されたものとなる。
【0055】
最後に、位相画像の位相と磁場強度とが比例関係にあることに基づいて、以下のように振動誤差磁場画像データBe(x,y,ti)を求めることができる。
【0056】
Be(x,y,ti)=φ(x,y,ti)/(γti)
ここで、γは磁気回転比である。この演算を時刻ti毎に行えば、サンプリング時間毎の誤差磁場分布を表す振動誤差磁場画像データを取得できる。
【0057】
以上までが、サンプリング時間毎の振動誤差磁場データの取得処理であるが、上記に示した2つの手法(低周波成分計測及び高周波成分計測)は、誤差磁場を2次元或いは3次元の空間情報として取得する事が可能である。しかし、これらの詳細な空間情報が必要でない場合は、特許文献
4、或いは特許文献
5に示されるような特定の空間座標における誤差磁場を計測するだけでも良い。
【0058】
(振動誤差磁場の解析)
次に、ステップ303の振動誤差磁場解析の詳細を説明する。
【0059】
誤差磁場算出部
203は、
図7に示すフローチャートに基づいて、前述した振動誤差磁場計測によって取得された振動誤差磁場データの空間成分毎の周波数分布を求める解析を行なう。以下、各ステップの処理を詳細に説明する。
【0060】
ステップ701で、誤差磁場算出部
203は、テスト傾斜磁場を印加した方向(X,Y,Z)毎に、ステップ653で取得された各時刻tiの振動誤差磁場Be(x,y,ti)を、球面調和関数の各項(以下、球面調和項という)にそれぞれ分解する。即ち、全ての時刻tiの振動誤差磁場Be(x,y,ti)を、それぞれ以下の様に球面調和項に分解する。
【0061】
Be(x,y,ti)=
ζ
0,0(ti)+ζ
1,-1(ti)y+ζ
1,0(ti)z+ζ
1,1(ti)x+ζ
2,-2(ti)xy+ζ
2,-1(ti)yz
+ζ
2,0(ti)(3z
2-1)+ζ
2,1(ti)xz+ζ
2,2(ti)(x
2-y
2)+・・
ここでζ
l,m(ti) (I,m=0, ±1、±2、‥)は各項の時刻tiにおける係数の値である。このように分解する理由は、振動誤差磁場を補正する補正磁場発生装置及び傾斜磁場コイル(1次項)が球面調和項に対応する空間変化の磁場を発生するためである。そこで、球面調和項の次数は、補正対象となるMRI装置が備える補正磁場発生装置及び傾斜磁場コイル(1次項)の仕様に一致させるのが望ましい。
【0062】
一方、特許文献
4、或いは特許文献
5に示されるような特定の空間座標における振動誤差磁場を計測した場合は、それぞれの手法で導出可能な項に分解する。
【0063】
効果が大きく、且つ望ましい分解例としては、振動誤差磁場を0次項と全ての1次項に分解して、それらの球面調和項毎に振動誤差磁場を補正することである。例えば、テスト傾斜磁場をX、Y,Z軸に印加した場合には、下表に示す球面調和項を算出することに相当する。
【0064】
ステップ702で、誤差磁場算出部
203は、ステップ701において算出された振動誤差磁場の各球面調和項データを時間軸方向に並べて、時間軸方向に窓関数w(k)を乗じる。即ち、ζ
l,m(t
k)←W(tk)ζ
l,m(t
k)
このように窓関数を掛けた各球面調和項データを以降の解析に用いる。
【0065】
本実施例において望ましい窓関数”Tukey Window”の定義式を以下に示す。
k: 整数
L=N+1
【0066】
ここでL(Window Length)は、対象となる解析データと同じサイズ(長さ)であり、α(0≦α≦1)は、対象となるデータによって最適化される。
図8(a)にTukey Windowを、
図8(b)に振動誤差磁場の(X to X)項にTukey Windowを乗じた例を示す。
【0067】
なお、信号取得開始時間をシフトするなどして、振動誤差磁場データが時間方向に複数存在する場合は、時間軸に沿って重なっている部分は加算平均などを取得し、1つのデータに結合するものとする。
【0068】
次に、誤差磁場算出部
203は、以下のステップ703〜705の処理で周波数解析を行なう。
ステップ703で、誤差磁場算出部
203は、ステップ702で窓関数を乗じた振動誤差磁場の球面調和項データ毎に、適切なゼロ詰め処理を併用した上で、離散フーリエ変換を行う。
【0069】
ステップ704で、誤差磁場算出部
203は、離散フーリエ変換により得た複素スペクトルから、絶対値スペクトルと位相スペクトルを作成する。複素数データから位相値を算出するには、公知の技術を用いればよい。位相スペクトルに対しては、アンラップ処理を施しても良い。Y to X成分に関する絶対値スペクトルの例を
図9(a)に、位相スペクトルの一例を
図9(b)にそれぞれ示す。
【0070】
ステップ705で、誤差磁場算出部
203は、ステップ704で取得した周波数スペクトルについて周波数ピーク解析を行なう。そこで、周波数ドメイン(Freq. Domain)のLorentzian関数と時間ドメイン(Time Domain)の減衰振動関数とがフーリエ変換を介して数学的に対応付けられることを利用する。そこで、周波数ドメインにおける周波数ピーク近傍のスペクトル形状をLorentzian関数で近似(つまりフィッティング)して表して得たLorentzian関数のパラメータ値に対応する、時間ドメインの減衰振動関数を求める。
【0071】
周波数≦fを変数とするLorentzian関数は、次式で定義される。
【0072】
この関数はフーリエ変換を用いる事により、時間ドメインと以下に示す対応関係を持つ。
【0073】
この関係を踏まえ、誤差磁場算出部
203は、絶対値スペクトルに対してLorentzian関数を当てはめる(フィッティング)事により周波数ピーク解析を行う。有意な周波数ピークが多数存在する場合は、数学的に既知であるLevenberg-Marquardt法や、Nelder-Mead法を用いて非線形近似を行っても良い。
【0074】
なお、周波数ピーク解析はLorentzian関数でなく、以下に示すようにGaussian関数を用いても良い。これらは振動特性に応じて使い分けられるようになっているのが望ましい。
【0075】
周波数ピークの同定が完了したら、ピーク周波数における位相値を、ステップ
704で求めた位相スペクトルから読み取る。位相スペクトルは離散値ゆえ、適宜補完処理を併用して精度を向上しても良い。
【0076】
以上の周波数解析により得られたパラメータ値である、減衰定数τ、ピーク周波数f
0、位相等を、誤差磁場を表す特性値として磁気ディスク
24等の記憶部に記憶しておき、ステップ704における振動誤差磁場の補正を行うための補正磁場の出力値を求める際に、読み出されてその計算に使用される。
【0077】
(補正磁場の算出)
次に、ステップ304の振動誤差磁場の補正を行うための補正磁場算出の詳細を説明する。
【0078】
誤差磁場補正部204は、ステップ705で求められた時間ドメインの減衰振動関数を表す各パラメータ値を用いて、入力傾斜磁場波形に応じて振動誤差磁場の補正を行うための補正磁場の出力値を求める。振動誤差磁場を補正する磁場成分は、傾斜磁場波形に重畳されるので、既にMRI装置の計測制御部6内に実装されている渦電流補正機能(制御基板)に本誤差磁場補正部204を追加実装しても良いし、新しく機能追加としても良い。動作速度の観点から、ハードウェアで演算するのが望ましが、処理速度が間に合えば演算処理部7が本誤差磁場補正部204を備えてソフトウェアで演算してもよい。以下、補正磁場算出の詳細を説明する。
【0079】
最初に、補正磁場成分の出力波形の表現(定式化)について説明する。どの補正成分でも考え方は同じなので、振動誤差磁場の1次傾斜成分を代表として説明する。
入力傾斜磁場波形(j軸における傾斜磁場波形の微分値)dl
j(S)に対するインパルス応答関数VGC
j(dl
j(s),t)を、次式のようにモデル化する。
t=0のとき、
となる。ここで、
である。
【0080】
このモデルに基づいて、任意の傾斜磁場の入力波形に対する補正成分の出力を求めるには、渦電流起因の誤差磁場補正と同様、入力波形(傾斜磁場波形の微分値)に対する逐次応答補正とする。具体的な処理は、以下の式に示す。不連続な時間軸t
k(k=0,1,2,・・・n)において入力波形dl
j(t
k)が与えられる場合、時刻tにおける振動
誤差磁場は次式で与えられる。
:
:
(*)ベクトル和であることに注意する。
上記のように振動誤差磁場を随時計算し、その実部を補正値として出力する。
Re[・・・]:実部
なお、ハードウェア側で指数関数を直接処理出来ない場合は、以下の関係式を用いる。
【0081】
(補正磁場の算出)
次に、ステップ305の補正磁場の位相校正の詳細を説明する。
位相校正部206は、ステップ704で求めた補正磁場の出力の位相校正を行うための位相校正値を求める。位相校正部206が計測制御部6内に実装される場合は、位相校正部206が求めた位相校正値を用いて補正磁場の位相校正を行い、位相校正後の補正磁場を補正磁場発生装置及び傾斜磁場電源に出力する。位相校正部206が演算処理部
8内に実装される場合は、求めた位相校正値を計測制御部6に通知する。計測制御部6は、ステップ704で算出した補正磁場を、この位相校正値を用いて位相校正を行い、位相校正後の補正磁場を補正磁場発生装置及び傾斜磁場電源に出力する。
【0082】
位相校正の目的は、ステップ704で求めた補正磁場の出力位相と、ステップ703 - 705で求めた周波数ピークでの位相の間に誤差が生じるので、この位相誤差をキャンセルするためである。そのために、周波数毎の位相値を計測する。これらの周波数の位相校正値との関係を予め磁気ディスク等に保存しておき、位相校正部206がステップ
705で求められた周波数ピーク値に応じて位相校正値を読み出して補正磁場の位相校正を行う。
図10に位相校正データの一例のグラフを示す。このグラフにおいて横軸は設定周波数であり、縦軸は計測位相である。周波数ゼロのY切片が位相誤差(オフセット)に相当する。
【0083】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及び振動誤差磁場低減方法は、振動誤差磁場の周波数スペクトルにおける周波数ピーク及び該ピーク近傍の波形形状を所定関数を用いて同定し、該同定により得られるパラメータ値に対応する減衰時定数を有する補正磁場を入力傾斜磁場波形に応じて求めて、求めた補正磁場を傾斜磁場に重畳して出力する。これにより、渦電流磁場のみならず、傾斜磁場の印加に伴うMRI装置の機械構造物の振動に伴う振動誤差磁場を補正することが可能になり、その結果、画質を向上させることができる。
【0084】
最後に、本発明の振動誤差磁場低減を実際に適用した場合の効果の一例を
図11に示す。
図11は、FSEシーケンス(TR=733msec、IET=8msec、位相エンコード方向=上下方向)を用いて、ファントムのアキシャル断面をマルチスライス撮像して得られた画像であり、(a)は本発明の振動誤差磁場低減処理を行わずに得られた場合の画像であり、(b)は本発明の振動誤差磁場低減処理を行って得られた場合の画像である。本実施例の振動誤差磁場低減処理を適用することにより、左右方向両端部に発生する画像シェーディングが解消されていることが理解される。
【0085】
以上の本発明の実施例の説明によって理解されるとおり、本発明は以下の特徴を有するものである。即ち、本発明のMRI装置は、
撮像空間に静磁場を発生する静磁場発生部と、静磁場に重畳させて傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生部と、傾斜磁場の印加に起因して撮像空間に発生する誤差磁場を補正する補正磁場を発生する補正磁場発生部と、静磁場発生部と傾斜磁場発生部と補正磁場発生部が据え付けられてこれらを支持する構造物と、所定のパルスシーケンスに基づいて撮像空間に配置された被検体からエコー信号を計測する計測制御部と、傾斜磁場の印加に伴い撮像空間に発生する誤差磁場を補正するための補正磁場を求める補正磁場演算部と、を備え、
補正磁場演算部は、傾斜磁場の印加に起因する構造部の振動に基づく振動誤差磁場を含む誤差磁場を求め、該求めた誤差磁場を補正する補正磁場を求めることを特徴とする。
【0086】
好ましくは、補正磁場演算部が求めた誤差磁場を表す特性値を記憶しておく記憶部を備え、補正磁場演算部は、記憶された誤差磁場の特性値に基づいて、補正磁場を求める。
【0087】
また、好ましくは、補正磁場演算部は、テスト傾斜磁場を有するパルスシーケンスを用いたエコー信号の計測を計測制御部に行なわせる誤差磁場計測部と、エコー信号を用いて、そのサンプリング時間毎の誤差磁場分布を表す誤差磁場画像データを取得する誤差磁場画像取得部と、誤差磁場画像データを用いて誤差磁場を表す減衰振動関数のパラメータ値を算出する誤差磁場算出部と、算出されたパラメータ値に基づいて、補正磁場を算出する補正磁場算出部と、を有して成る。
【0088】
また、好ましくは、誤差磁場計測部は、渦電流誤差磁場と振動誤差磁場の情報が重畳されたエコー信号を計測制御部に計測させることで、該渦電流誤差磁場と該振動誤差磁場の情報を共に取得する。
【0089】
また、好ましくは、パルスシーケンスは、少なくとも2軸方向にエンコード傾斜磁場パルスを印加するものであり、誤差磁場画像取得部は、サンプリング時間毎にエコー信号を少なくとも2軸方向にフーリエ変換して得た位相画像データを用いて、サンプリング時間毎の誤差磁場画像データを求める。
【0090】
また、好ましくは、誤差磁場計測部は、テスト傾斜磁場を異ならせてエコー信号の計測を計測制御部に行なわせ、誤差磁場画像取得部は、サンプリング時間毎にテスト傾斜磁場の異なる位相画像データの差分を用いて、サンプリング時間毎の誤差磁場画像データを求める。
【0091】
また、好ましくは、誤差磁場算出部は、各誤差磁場画像データを複数の球面調和項に分解し、球面調和項毎に誤差磁場を表す減衰振動関数のパラメータ値を算出し、
補正磁場算出部は、球面調和項毎の誤差磁場を表す減衰振動関数のパラメータ値に基づいて、球面調和項毎に補正磁場を算出する。
【0092】
また、好ましくは、誤差磁場算出部は、球面調和項毎に、誤差磁場画像データを時間軸方向にフーリエ変換して得たスペクトル分布に Lorentzian関数又はGaussian関数を当てはめて、誤差磁場を表す減衰振動関数のパラメータ値を算出する。
【0093】
また、好ましくは、誤差磁場算出部は、周波数ドメインでスペクトル分布における周波数ピーク近傍の波形に Lorentzian関数又はGaussian関数を当てはめて、該 Lorentzian関数又はGaussian関数のフーリエ変換に対応する時間ドメインの減衰振動関数の減衰時定数を含むパラメータ値を算出する。
【0094】
また、好ましくは、補正磁場算出部は、減衰振動関数のパラメータ値を用いて傾斜磁場波形に対するインパルス応答関数のモデルを作成し、任意の入力傾斜磁場波形に対してモデルの逐次応答として、補正磁場を算出する。
【0095】
また、好ましくは、補正磁場の位相と、スペクトル分布の周波数ピークにおける位相と、の間の位相誤差を校正するための位相校正部を備えている。
【0096】
また、好ましくは、パルスシーケンスは、再収束RFパルスの前後にテスト傾斜磁場をそれぞれ備え、該再収束RFパルス後のテスト傾斜磁場がゼロになった後にエコー信号を計測するものである。
【0097】
本発明の振動誤差磁場低減方は、傾斜磁場の印加に起因する磁気共鳴イメージング装置の構造物の振動に基づく振動誤差磁場を、補正磁場を用いて補正する振動誤差磁場低減方法であって、テスト傾斜磁場を有するパルスシーケンスを用いてエコー信号を計測する計測ステップと、エコー信号を用いて、そのサンプリング時間毎の誤差磁場分布を表す誤差磁場画像データを取得するステップと、サンプリング時間毎の誤差磁場画像データを用いて振動誤差磁場を表す減衰振動関数のパラメータ値を算出するパラメータ値算出ステップと、算出された振動誤差磁場を表す減衰振動関数のパラメータ値に基づいて、補正磁場を算出する補正磁場算出ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0098】
好ましくは、パラメータ値算出ステップは、サンプリング時間毎の誤差磁場画像データを時間軸方向にフーリエ変換して得たスペクトル分布に対して、Lorentzian関数あるいはGaussian関数を用いて、誤差磁場を表す減衰振動関数のパラメータ値を算出する。
【0099】
また、好ましくは、パラメータ値算出ステップは、周波数ドメインでスペクトル分布に当てはめたLorentzian関数又はGaussian関数に対応する時間ドメインの減衰振動関数を求めて、該減衰振動関数の減衰時定数を含むパラメータ値を算出する。
【0100】
また、好ましくは、補正磁場算出ステップは、減衰振動関数のパラメータ値を用いて傾斜磁場波形に対するインパルス応答関数のモデルを作成し、任意の入力傾斜磁場波形に対してモデルの逐次応答として、補正磁場を算出する。