特許第6038688号(P6038688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6038688
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】セラミック膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20161128BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20161128BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20161128BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D69/10
   B01D69/12
   C04B41/85 C
【請求項の数】7
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-44812(P2013-44812)
(22)【出願日】2013年3月6日
(65)【公開番号】特開2013-226541(P2013-226541A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-73979(P2012-73979)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】武野 省吾
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/105511(WO,A1)
【文献】 特開2006−021128(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/114132(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/002181(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが形成された筒状の多孔質基材の前記セルの表面に、セラミック膜成形用の前駆体ゾルを塗布して、セラミック膜前駆体を形成するセラミック膜前駆体作製工程と、
前記セラミック膜前駆体を熱処理して、前記多孔質基材の前記セルの表面にセラミック膜を形成する熱処理工程と、を備え、
前記セラミック膜前駆体作製工程が、前記多孔質基材の前記一方の端面における前記セルが形成されている領域よりも開口部の大きさが大きな液排出口を有する前駆体ゾル貯留用容器を、前記多孔質基材の前記一方の端面側に配設し、前記前駆体ゾルが貯留された前記前駆体ゾル貯留用容器を前記一方の端面側に配置した前記多孔質基材を、前記一方の端面が下方となり且つ前記多孔質基材のセルの延びる方向が鉛直方向となるように配置した状態から、前記セルの延びる方向上の1点を回転中心として、前記多孔質基材の前記一方の端面と前記他方の端面との天地が反転するように180°回転させて、前記前駆体ゾル貯留用容器に貯留された前記前駆体ゾルを、前記液排出口全域から前記多孔質基材の前記一方の端面に向けて自由落下させることにより、前記セラミック膜前駆体を形成するセラミック膜複合体の製造方法であって、
前記前駆体ゾル貯留用容器内に貯留した前記前駆体ゾルに対する慣性力と向心力とが釣り合うような状態で、前記多孔質基材と、前記一方の端面側に配置した前記前駆体ゾル貯蔵用容器を180°回転させ、回転後に、前記多孔質基材を保持することで、前記前駆体ゾル貯留用容器の底面に押し付けられていた前記前駆体ゾルを、前記多孔質基材の前記一方の端面に向けて自由落下させる、セラミック膜複合体の製造方法
【請求項2】
前記回転中心から、前記前駆体ゾル貯留用容器に溜まった液面までの長さをa(m)とした場合に、前記多孔質基材を前記天地が反転するように180°回転させる際の前記前駆体ゾル液面部位の速度が√(9.8a)m/秒以上である請求項に記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体ゾル貯留用容器に貯留される前記前駆体ゾルの量が、前記多孔質基材の前記一方の端面の面積をScmとした場合に、2SmL以上である請求項1又は2に記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質基材の前記一方の端面における外径が50mm以上である請求項1〜のいずれか一項に記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体ゾルの粘度が、1.0〜20mPa・sである請求項1〜のいずれか一項に記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【請求項6】
前記セラミック膜が、シリカ膜である請求項1〜のいずれか一項に記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【請求項7】
前記シリカ膜が、p−トリル基を含有するシリカ膜である請求項に記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック膜複合体の製造方法に関する。更に詳しくは、セラミック膜成形用の前駆体ゾルの量が少なくとも、多孔質基材のセルの表面に良好にセラミック膜を形成することが可能なセラミック膜複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数種の物質が混じり合っている流体の中から特定の種類の物質のみを分離又は濃縮する際には分離膜を用いることがある。
【0003】
分離膜は、無数の細孔を有した構造によってつくられている。そして、分離膜の細孔は、特定の種類の物質を通過させやすい性質を持つ。そのため、分離膜の細孔内を通過しやすい物質と分離膜の細孔内を通過しにくい物質とが混じり合った流体を分離膜の一方の表面上に供給すると、細孔内を通過しやすい物質は細孔内を通過して分離膜のもう一方の表面上まで来る(分離膜を透過する)ことができる。一方で、細孔内を通過しにくい物質は分離膜を透過することが難しいため、分離膜の一方の表面上にそのまま留まりがちとなる。従って、複数種の物質が混じり合った流体に対して分離膜を透過させるという操作を加えることにより、複数種の物質の中から特定の種類の物質を分離又は濃縮することが可能になる。以下、分離又は濃縮対象となる「複数種の物質が混じり合った流体」を、「被分離液体」ということがある。
【0004】
セラミック膜は、多孔質基材上に配置されて用いられることがある。このような、多孔質基材とセラミック膜とからなる複合体をセラミック膜複合体ということがある。多孔質基材は、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが形成された筒状のものを挙げることができる。セラミック膜複合体を形成する方法としては、例えば、図17のような方法を挙げることができる。図17に示すように、広口ロート等の筒状部材124の下端に多孔質基材110を固定し、容器120内のセラミック膜成形用の前駆体ゾル121を、多孔質基材110の上部から流し込み、多孔質基材110のセル112内を通過させる(例えば、特許文献1参照)。図17は、従来のセラミック膜複合体の製造方法の一例を示す模式図である。
【0005】
セラミック膜としては、シリカ膜、チタニア膜、ジルコニア膜等がある。例えば、シリカ膜は、アルコキシシランなどのシリカ化合物を加水分解及び重縮合させて製造することができる多孔質膜である。そして、シリカ膜の細孔は、水、二酸化炭素、プロピレンなどの分子径が小さい物質を通過させやすい性質を有している。そのため、シリカ膜は、バイオマスから得られる水とエタノールとの混合液体から水を分離する場合や、燃焼排気ガスから二酸化炭素を分離する場合などに使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/050812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のセラミック膜複合体の製造方法においては、使用する前駆体ゾルの量を非常に多く必要とするという問題があった。即ち、図17のような製造方法において、多孔質基材110に形成された全てのセル112の表面に、良好にセラミック膜を形成するためには、大量の前駆体ゾルを多孔質基材110に流し込まなければならなかった。
【0008】
また、従来のセラミック膜複合体の製造方法においては、使用する前駆体ゾルの量が少ないと、多孔質基材110のセル112の表面の一部に、セラミック膜が形成されないことがあるという問題もあった。特に、基材径が大きいと多孔質基材110の外周側のセル112の表面には、セラミック膜が形成され難い。このようにセルの表面の一部にセラミック膜が形成されていないセラミック膜複合体は、セラミック膜が形成されていない部位を、被分離液体が分離されずに通過してしまうため、分離性能が著しく低下してしまう。
【0009】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものである。本発明は、セラミック膜成形用の前駆体ゾルの量が少なくとも、多孔質基材のセルの表面に良好にセラミック膜を形成することが可能なセラミック膜複合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下のセラミック膜複合体の製造方法が提供される。
【0011】
[1] 流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが形成された筒状の多孔質基材の前記セルの表面に、セラミック膜成形用の前駆体ゾルを塗布して、セラミック膜前駆体を形成するセラミック膜前駆体作製工程と、前記セラミック膜前駆体を熱処理して、前記多孔質基材の前記セルの表面にセラミック膜を形成する熱処理工程と、を備え、前記セラミック膜前駆体作製工程が、前記多孔質基材の前記一方の端面における前記セルが形成されている領域よりも開口部の大きさが大きな液排出口を有する前駆体ゾル貯留用容器を、前記多孔質基材の前記一方の端面側に配設し、前記前駆体ゾルが貯留された前記前駆体ゾル貯留用容器を前記一方の端面側に配置した前記多孔質基材を、前記一方の端面が下方となり且つ前記多孔質基材のセルの延びる方向が鉛直方向となるように配置した状態から、前記セルの延びる方向上の1点を回転中心として、前記多孔質基材の前記一方の端面と前記他方の端面との天地が反転するように180°回転させて、前記前駆体ゾル貯留用容器に貯留された前記前駆体ゾルを、前記液排出口全域から前記多孔質基材の前記一方の端面に向けて自由落下させることにより、前記セラミック膜前駆体を形成するセラミック膜複合体の製造方法であって、前記前駆体ゾル貯留用容器内に貯留した前記前駆体ゾルに対する慣性力と向心力とが釣り合うような状態で、前記多孔質基材と、前記一方の端面側に配置した前記前駆体ゾル貯蔵用容器を180°回転させ、回転後に、前記多孔質基材を保持することで、前記前駆体ゾル貯留用容器の底面に押し付けられていた前記前駆体ゾルを、前記多孔質基材の前記一方の端面に向けて自由落下させる、セラミック膜複合体の製造方法
【0013】
] 前記回転中心から、前記前駆体ゾル貯留用容器に溜まった液面までの長さをa(m)とした場合に、前記多孔質基材を前記天地が反転するように180°回転させる際の前記前駆体ゾル液面部位の速度が√(9.8a)m/秒以上である前記[]に記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【0014】
] 前記前駆体ゾル貯留用容器に貯留される前記前駆体ゾルの量が、前記多孔質基材の前記一方の端面の面積をScmとした場合に、2SmL以上である前記[1]又は[2]に記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【0015】
] 前記多孔質基材の前記一方の端面における外径が50mm以上である前記[1]〜[]のいずれかに記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【0016】
] 前記前駆体ゾルの粘度が、1.0〜20mPa・sである前記[1]〜[]のいずれかに記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【0017】
] 前記セラミック膜が、シリカ膜である前記[1]〜[]のいずれかに記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【0018】
] 前記シリカ膜が、p−トリル基を含有するシリカ膜である前記[]に記載のセラミック膜複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセラミック膜複合体の製造方法は、以下のような、セラミック膜前駆体作製工程を備えたものである。即ち、まず、多孔質基材の一方の端面におけるセルが形成されている領域よりも開口部の大きさが大きな液排出口を有する前駆体ゾル貯留用容器を、多孔質基材の一方の端面側に配設する。その後、前駆体ゾル貯留用容器を配設した多孔質基材を、一方の端面が上方となり且つ多孔質基材のセルの延びる方向が鉛直方向となるように配置する。そして、その状態にて、前駆体ゾル貯留用容器に貯留された前駆体ゾルを、前駆体ゾル貯留用容器の液排出口全域から多孔質基材の一方の端面に向けて自由落下させることにより、セラミック膜前駆体を形成する。
【0020】
このように構成することによって、多孔質基材の一方の端面全域に対して、均等に前駆体ゾルを流し込むことができる。この際、多孔質基材の一方の端面上に、一時的に前駆体ゾルが滞留し、その後、前駆体ゾルが各セル内を通過しながら、他方の端面側まで移動する。これにより、多孔質基材の全てのセルの表面に、均等にセラミック膜前駆体を形成することができる。従って、本発明のセラミック膜複合体の製造方法によれば、セラミック膜成形用の前駆体ゾルの量が少なくとも、多孔質基材の全てのセルの表面に良好にセラミック膜を形成することができる。
【0021】
本発明のセラミック膜複合体の製造方法においては、前駆体ゾルを、前駆体ゾル貯留用容器の液排出口全域から多孔質基材の一方の端面に向けて自由落下させる方法が、以下の方法である。まず、前駆体ゾルが貯留された前駆体ゾル貯留用容器を一方の端面側に配置した多孔質基材を、一方の端面が下方となり且つ多孔質基材のセルの延びる方向が鉛直方向となるように配置する。この状態から、セルの延びる方向上の1点を回転中心として、多孔質基材の一方の端面と他方の端面との天地が反転するように180°回転させる。このように構成することによって、より簡便な方法によって、前駆体ゾルを、前駆体ゾル貯留用容器の液排出口から多孔質基材の一方の端面に向けて自由落下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のセラミック膜複合体の製造方法の一の実施形態を説明するための模式図である。
図2】本発明のセラミック膜複合体の製造方法の一の実施形態におけるセラミック膜前駆体作製工程において、セラミック膜前駆体を形成する過程を模式的に示す斜視図である。
図3A】セラミック膜前駆体作製工程を説明するための概略断面図である。
図3B】セラミック膜前駆体作製工程を説明するための概略断面図であり、図3Aの次の操作を示す。
図3C】セラミック膜前駆体作製工程を説明するための概略断面図であり、図3Bの次の操作を示す。
図3D】セラミック膜前駆体作製工程を説明するための概略断面図であり、図3Cの次の操作を示す。
図4】セルの真空度の測定方法を説明するための模式図である。
図5図4における、1個のセルを拡大して示す拡大模式図である。
図6】実施例1によって製造されたシリカ膜複合体の一方の端面を撮像した写真である。
図7】実施例1によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図8】比較例1によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図9】実施例2によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図10】比較例2によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図11】実施例3によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図12】比較例3によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図13】実施例4によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図14】比較例4によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図15】実施例5によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図16】比較例5によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。
図17】従来のセラミック膜複合体の製造方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0024】
(1)セラミック膜複合体の製造方法:
本発明のセラミック膜複合体の製造方法の一の実施形態は、図1に示すように、セラミック膜前駆体作製工程Aと、熱処理工程Bとを備えたものである。図1は、本発明のセラミック膜複合体の製造方法の一の実施形態を説明するための模式図である。セラミック膜前駆体作製工程Aは、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2が形成された筒状の多孔質基材10のセル2の表面に、セラミック膜成形用の前駆体ゾルを塗布して、セラミック膜前駆体25を形成する工程である。熱処理工程Bは、セラミック膜前駆体25を熱処理して、多孔質基材10のセル2の表面にセラミック膜26を形成する工程である。熱処理工程Bにおいては、セル2の表面にセラミック膜前駆体25が形成された多孔質基材10を、セラミック膜前駆体25とともに加熱して、セラミック膜26を形成することが好ましい。このように構成することによって、一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2が形成された筒状の多孔質基材10と、多孔質基材10のセル2の表面に配設されたセラミック膜26と、を備えたセラミック膜複合体100を製造することができる。
【0025】
本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法におけるセラミック膜前駆体作製工程Aは、図2に示すようにして行われる。図2は、本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法におけるセラミック膜前駆体作製工程において、セラミック膜前駆体を形成する過程を模式的に示す斜視図である。図2に示すように、セラミック膜前駆体作製工程Aにおいては、まず、多孔質基材10の一方の端面11におけるセル2が形成されている領域よりも開口部の大きさが大きな液排出口20aを有する前駆体ゾル貯留用容器20を、多孔質基材10の一方の端面11側に配設する。その後、前駆体ゾル貯留用容器20を配設した多孔質基材10を、一方の端面11が上方となり且つ多孔質基材10のセルの延びる方向Lが鉛直方向となるように配置する。そして、その状態にて、前駆体ゾル貯留用容器20に貯留された前駆体ゾル21を、前駆体ゾル貯留用容器20の液排出口20a全域から多孔質基材10の一方の端面11に向けて自由落下させることにより、セラミック膜前駆体25を形成する。この時、多孔質基材10の一方の端面11及び他方の端面12は、ガラスなどでシールされ、セル2の表面以外には、前駆体ゾル21が付着しないようになっている。
【0026】
このように構成することによって、多孔質基材10の一方の端面11全域に対して、均等に前駆体ゾル21を流し込むことができる。即ち、上述したような液排出口20aを有する前駆体ゾル貯留用容器20に貯留された前駆体ゾル21を、液排出口20a全域から自由落下によって、多孔質基材10の一方の端面11に向けて流し込むため、前駆体ゾル21の流れにむらが生じ難い。また、この際、多孔質基材10の一方の端面11上に、一時的に前駆体ゾル21が滞留し、その後、前駆体ゾル21が各セル2内を通過しながら、他方の端面12側まで移動する。これにより、多孔質基材10の全てのセル2の表面に、均等にセラミック膜前駆体25を形成することができる。従って、本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法によれば、セラミック膜成形用の前駆体ゾル21の量が少なくとも、多孔質基材10のセル2の表面に良好にセラミック膜を形成することができる。尚、前駆体ゾル貯留用容器20は、均等に前駆体ゾルを落下できるならば、筒状になっていてもよい。
【0027】
図2においては、多孔質基材10の外周径と同じ径の液排出口20aを有する前駆体ゾル貯留用容器20を用いている。このような多孔質基材10の外周径と同じ径の液排出口20aを有する前駆体ゾル貯留用容器20を用いることより、前駆体ゾル21の流れにむらがより生じ難くなる。
【0028】
本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法に用いられる多孔質基材10は、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2が形成された、レンコン状あるいはハニカム状の基材であることが好ましい。このようなレンコン状あるいはハニカム状の基材を、「モノリス基材」ということがある。
【0029】
「多孔質基材10の一方の端面11におけるセル2が形成されている領域」とは、多孔質基材10の一方の端面11に開口する全てのセル2を含み、且つ、最も外周に位置する各セルの周縁上の点を結んで形成される領域のことをいう。以下、「多孔質基材10の一方の端面11におけるセル2が形成されている領域」のことを「セル形成領域」ということがある。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法に用いられる前駆体ゾル貯留用容器20は、液排出口20aの大きさが、上記セル形成領域の大きさよりも大きくなるように構成されている。このように構成することによって、前駆体ゾル貯留用容器20から前駆体ゾル21を自由落下させた際に、一方の端面11に開口した全てのセル2内に、均等に前駆体ゾル21を流入させることができる。なお、前駆体ゾル貯留用容器20は、液排出口20aの大きさが、多孔質基材10の一方の端面11における外周と同じ大きさか、又は、多孔質基材10の一方の端面11における外周よりも大きい大きさであることが好ましい。その場合、多孔質基材10と前駆体ゾル貯留用容器20の接続には、フッ素樹脂製のVリングシールを使用してもよい。液排出口20aの大きさを上記大きさにすることにより、多孔質基材10の一方の端面11への前駆体ゾル貯留用容器20の配置が容易になる。また、一方の端面11に開口した全てのセル2内に前駆体ゾル21を均等に流入させ易くなる。
【0030】
セラミック膜成形用の「前駆体ゾル」とは、この前駆体ゾルを膜状に製膜して、その膜状の前駆体ゾルを熱処理することにより、セラミック膜を形成可能なゾルのことを意味する。また、「セラミック膜前駆体」とは、前駆体ゾルを膜状に製膜したものであり、セラミック膜の熱処理前の状態のもののことを意味する。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法に用いられる前駆体ゾルについては、従来のセラミック膜複合体の製造方法に用いられる前駆体ゾルと同様に構成されたものを好適に用いることができる。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法によって作製されるセラミック膜としては、例えば、シリカ膜、チタニア膜、ジルコニア膜等を挙げることができ、それぞれ有機官能基を含んでもよい。これらのセラミック膜は、セラミック膜の一方の表面から他方の表面に通じる複数の細孔が形成されたものであり、複数種の物質の中から特定の種類の物質を分離又は濃縮することが可能な分離膜として機能する膜である。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法においては、作製するセラミック膜の種類に応じて、使用する前駆体ゾルの種類を適宜選択することができる。例えば、シリカ膜を作製する際には、シリカ膜成形用の前駆体ゾルを用いて、セラミック膜前駆体作製工程を行う。
【0031】
熱処理工程Bの熱処理条件については、セラミック膜前駆体25を加熱することによりセラミック膜26を形成することが可能なものであれば特に制限はない。熱処理工程Bの熱処理条件については、セラミック膜前駆体作製工程Aに用いられた前駆体ゾルの種類に応じて適宜決定することができる。
【0032】
以下、本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法を、工程毎に更に詳細に説明する。
【0033】
(1−1)セラミック膜前駆体作製工程A:
セラミック膜前駆体作製工程Aは、これまでに説明したように、セル形成領域よりも開口部の大きさが大きな液排出口20aを有する前駆体ゾル貯留用容器20を用いて行われる。前駆体ゾル貯留用容器20を、多孔質基材10の一方の端面11側に配設する際には、液排出口20aが、多孔質基材10の一方の端面11のセル形成領域をカバーするようにすることが好ましい。これにより、多孔質基材10の一方の端面11に向けて自由落下した前駆体ゾル21の着地位置が、少なくともセル形成領域を含むこととなり、一方の端面11に開口した全てのセル2内に、均等に前駆体ゾル21を流入させることができる。
【0034】
前駆体ゾル21を、前駆体ゾル貯留用容器20の液排出口20a全域から多孔質基材10の一方の端面11に向けて自由落下させる際には、液排出口20a全域から、極力同じタイミングで前駆体ゾル21を自由落下(即ち、排出)させることが好ましい。例えば、液排出口20aの一部分から先に前駆体ゾル21を排出させると、液排出口20aの他の部分から前駆体ゾル21を排出させる前に、前駆体ゾル21が全て排出されてしまうことがある。また、仮に、液排出口20a全域から前駆体ゾル21を自由落下させたとしても、排出されるタイミングがずれると、多孔質基材10の一方の端面11上に一時的に前駆体ゾル21が溜まり難くなることがある。このようなことから、本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法においては、セラミック膜前駆体作製工程Aが、図3A図3Dに示すような方法によって行われることが好ましい。図3A図3Dは、セラミック膜前駆体作製工程を説明するための概略断面図である。
【0035】
図3Aに示すように、前駆体ゾル21が貯留された前駆体ゾル貯留用容器20を一方の端面11側に配置した多孔質基材10を、一方の端面11が下方となり且つ多孔質基材10のセル2の延びる方向Lが鉛直方向となるように配置する。多孔質基材10は、一方の端面11から他方の端面12に延びる複数のセル2が形成された円筒状のものである。
【0036】
図3A図3Dに示す前駆体ゾル貯留用容器20は、多孔質基材10の一方の端面11の周縁の大きさと同じ大きさの液排出口20aを有する有底円筒状のものである。このような前駆体ゾル貯留用容器20の液排出口20aが、多孔質基材10の一方の端面11側の端部が嵌め合わされて、多孔質基材10と前駆体ゾル貯留用容器20とが接続されている。多孔質基材10と前駆体ゾル貯留用容器20との接続方法については特に制限はない。多孔質基材10の一方の端面11の周縁と、液排出口20aとが液密の状態で固定されていることが好ましい。このように構成することによって、前駆体ゾル貯留用容器20の液排出口20aから前駆体ゾル21を排出した際において、多孔質基材10の一方の端面11の周縁からの、前駆体ゾル21の漏れ出しを有効に防止することができる。
【0037】
図3Aにおいては、多孔質基材10の他方の端面12側に、前駆体ゾル回収用容器28を配設している。この前駆体ゾル回収用容器28は、多孔質基材10の他方の端面12におけるセル2が形成されている領域よりも開口部の大きさが大きな液回収口28aを有することが好ましい。前駆体ゾル回収用容器28は、前駆体ゾル貯留用容器20内に貯留した前駆体ゾル21を、多孔質基材10のセル2の内部を流通させた後に、余剰分の前駆体ゾル21を回収するための容器である。前駆体ゾル回収用容器28は、前駆体ゾル貯留用容器20と同様に構成されたものであることが好ましい。また、前駆体ゾル回収用容器28と多孔質基材10との接続方法についても特に制限はなく、多孔質基材10と前駆体ゾル貯留用容器20との接続方法と同様の方法を用いることができる。前駆体ゾル回収用容器28は、必ずしも必要ではなく、バケツに余剰ゾルを受けてもよい。
【0038】
次に、図3Aに示すような、多孔質基材10の一方の端面11が下方となる状態から、セルの延びる方向L上の1点を回転中心として、多孔質基材10の一方の端面11と他方の端面12との天地が反転するように180°回転させる。即ち、多孔質基材10を、一方の端面11が上方となり且つ多孔質基材10のセル2の延びる方向Lが鉛直方向となるように、図3Aに示す状態の多孔質基材10を、図3Bに示す状態まで180°回転させる。
【0039】
この際、前駆体ゾル貯留用容器20内の前駆体ゾル21には、上記回転運動によって慣性力が働くこととなる。そして、前駆体ゾル21は、前駆体ゾル貯留用容器20の底面からの向心力を受けている。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法においては、上述した慣性力と向心力とが釣り合うような速度で、多孔質基材10を180°回転させることが好ましい。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法においては、多孔質基材10を180°回転させる際に、図3Bに示すような一方の端面11が上方となる状態(即ち、回転の終了の状態)まで、前駆体ゾル21が前駆体ゾル貯留用容器20の底面に押し付けられることとなる
【0040】
図3Bに示すような状態で多孔質基材10を保持すると、図3Cに示すように、前駆体ゾル貯留用容器20の底面に押し付けられていた前駆体ゾル21が、多孔質基材10の一方の端面11に向けて自由落下する。これまでに説明したような、多孔質基材10を180°回転させることを、「天地反転」ということがある。天地反転における回転中心の位置は、前駆体ゾル21における慣性力と向心力とが釣り合うような回転が可能な位置であれば、特に制限はない。
【0041】
図3Dに示すように、多孔質基材10の一方の端面11に向けて自由落下した前駆体ゾル21は、多孔質基材10のセル2の内部を通過しながら、多孔質基材10の他方の端面12に向けて移動する。この際、前駆体ゾル21がセル2の表面に付着して、セラミック膜前駆体が形成される。余剰の前駆体ゾル21は、他方の端面12におけるセル2の開口部から流出し、前駆体ゾル回収用容器28内に回収される。このように構成することによって、極めて簡便な方法によって、セラミック膜前駆体を形成することができる。
【0042】
このような天地反転によるセラミック膜前駆体作製工程Aにおいては、多孔質基材の天地が反転するように180°回転させる際の前駆体ゾル液面部位の速度が、以下のような速度であることが好ましい。「180°回転させる際の前駆体ゾル液面部位の速度」とは、多孔質基材の天地が反転するように180°回転させる際において、「前駆体ゾル貯留用容器に溜まった前駆体ゾルの液面の位置」にて測定される「接線速度」のことをいう。ここで、「前駆体ゾル貯留用容器に溜まった前駆体ゾルの液面の位置」とは、天地反転における回転中心から、前駆体ゾル貯留用容器に溜まった前駆体ゾルの液面までの長さをa(m)とした場合に、回転中心から長さa(m)離れた位置のことをいう。従って、「180°回転させる際の前駆体ゾル液面部位の速度」は、回転中心を「点O」とし、前駆体ゾルの液面の位置を「点A」とした場合、「動径OAの点Aにおける接線速度」となる。
【0043】
天地反転によるセラミック膜前駆体作製工程Aにおいては、上記前駆体ゾル液面部位の速度が、天地反転における回転中心から、前駆体ゾル貯留用容器に溜まった前駆体ゾルの液面までの長さをa(m)とした場合に、√(9.8a)m/秒以上であることが好ましい。このように構成することにより、慣性力と向心力とが釣り合った状態にて、天地反転を良好に行うことができる。なお、天地反転時における前駆体ゾル液面部位の速度が、上述した「√(9.8a)m/秒」よりも多少遅くとも、前駆体ゾルを、液排出口全域から多孔質基材の一方の端面に向けて自由落下させることが可能な場合もある。例えば、前駆体ゾルの物性等を考慮して、前駆体ゾルにおける慣性力と向心力とが釣り合うような回転速度を適宜選択することができる。
【0044】
本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法におけるセラミック膜前駆体作製工程Aは、上述した多孔質基材10の一方の端面11と他方の端面12との天地が反転するように180°回転させる方法を採用している。前駆体ゾル貯留用容器に貯留された前駆体ゾルを、液排出口の全域から多孔質基材の一方の端面全域に向けて自由落下させることにより、セラミック膜前駆体を形成することが可能な他の方法として、例えば、図示は省略するが、前駆体ゾル貯留用容器の液排出口に、開閉機構を設ける方法を挙げることができる。開閉機構を閉にした状態の前駆体ゾル貯留用容器を配設した多孔質基材を、一方の端面が上方となり且つ多孔質基材のセルの延びる方向が鉛直方向となるように配置し、その後、開閉機構を開にして、液排出口全域から前駆体ゾルを自由落下させることができる。上記開閉機構としては、前駆体ゾル貯留用容器の液排出口を塞ぐように板状部材を配置し、この板状部材を引き抜くことにより、液排出口の開閉を行うように構成されたものを挙げることができる。板状部材の引き抜きを素早く行うことにより、前駆体ゾル貯留用容器の液排出口全域から、同時に前駆体ゾルを自由落下させることができる。
【0045】
また、図3Aに示すような前駆体ゾル貯留用容器20の底部近辺に孔を開けて塞いでおき、反転させて前駆体ゾル21が多孔質基材10上端に溜まった時(例えば、図3Cを参照)に、当該孔を開放し、空気抜きとするのも、好ましい態様である。上述した前駆体ゾル貯留用容器20の孔が、空気抜弁となる。このように構成することによって、上記孔から、前駆体ゾル21が自由落下する際の負圧時の空気吸込みと、前駆体ゾル回収用容器28から前駆体ゾル貯留用容器20に流入した空気の排出とを、良好に行うことができる。前駆体ゾル貯留用容器20の底部近辺とは、前駆体ゾル貯留用容器20の底面、及びこの底面近傍の側面のことをいう。
【0046】
前駆体ゾル貯留用容器に貯留される前駆体ゾルの量が、多孔質基材の一方の端面の面積をScmとした場合に、2SmL以上であることが好ましい。上記した「多孔質基材の一方の端面の面積」とは、多孔質基材の一方の端面の周縁によって囲われた面積(cm)のことを意味する。例えば、多孔質基材の一方の端面に自由落下した前駆体ゾルが、多孔質基材の一方の端面からセルの内部に流入せずに、瞬間的に一方の端面上に留まったと仮定した場合の、前駆体ゾルの液面の高さが、2cm以上のゾル量があることが好ましい。上述した量の前駆体ゾルを用いることにより、多孔質基材の全てのセルの表面により良好にセラミック膜を形成することができる。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法においては、前駆体ゾルの量が2SmL以上であれば、多孔質基材の全てのセルの表面により良好にセラミック膜を形成することができる。このため、前駆体ゾルの使用量を、従来の製造方法に比して低減することができる。
【0047】
セラミック膜前駆体を作製するための前駆体ゾルとしては、シリカ膜成形用のゾル、チタニア膜成形用のゾル、及びジルコニア膜成形用のゾル等を用いることができる。シリカ膜成形用のゾルとしては、テトラエトキシシラン、アリール基及びアルキル基の少なくとも一方を含有するシリカ化合物をアルコキシドとしたシリカ膜成形用のゾルを挙げることができる。シリカ化合物としては、アルコキシシランを用いることができる。アリール基を含有するアルコキシシランとしては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、p−トリルトリメトキシシラン、o−トリルトリメトキシシラン、m−トリルトリメトキシシラン、p−キシリルトリメトキシシラン、o−キシリルメトキシシラン、m−キシリルトリメトキシシランなどを用いることができる。アルキル基を含有するアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシランを挙げることができる。チタニア膜成形用のゾルとしては、チタンテトライソプロポキシドをアルコキシドとしたチタニア膜成形用のゾルを挙げることができる。ジルコニア膜成形用のゾルとしては、ジルコニウムテトラエトキシドをアルコキシドとしたジルコニア膜成形用のゾルを挙げることができる。上述した「アリール基及びアルキル基の少なくとも一方を含有するシリカ化合物をアルコキシドとしたシリカ膜成形用のゾル」を用いることにより、芳香族化合物を選択的に分離する性能やアルコールを選択的に分離する性能を有するセラミック膜複合体が得られる。
【0048】
特に、上記シリカ膜成形用のゾルによって得られるシリカ膜が、p−トリル基を含有するシリカ膜であることが好ましい。このような、p−トリル基を含有するシリカ膜は、アルコールを選択的に分離する性能を有する分離膜として好適に用いることができる。
【0049】
このような前駆体ゾル(シリカ膜成形用のゾル)の作製方法としては、以下のような方法を挙げることができる。まず、トリメトキシ(p−トリル)シランとエタノールを混合して4℃で攪拌する。次に、トリメトキシ(p−トリル)シランとエタノールが十分に混ざり合った後に、加水分解のため硝酸水溶液を少量ずつ添加する。所定量の硝酸水溶液を添加した後、その混合液を攪拌する。例えば、混合液を4℃にした状態で1時間攪拌し、その後、混合液を50℃まで昇温して、更に3時間攪拌する。その後、混合液中のシリカゾルの濃度がSiO換算で2.0質量%となるようにエタノールを加える。このようにして、前駆体ゾルを作製することができる。
【0050】
前駆体ゾルの粘度が、室温20℃において、1.0〜20mPa・sであることが好ましく、1.1〜10mPa・sであることが更に好ましく、1.2〜4.1mPa・sであることが特に好ましい。前駆体ゾルの粘度が、上記数値範囲であると、多孔質基材に前駆体ゾルが過剰に浸透せず、また、セル内を前駆体ゾルが流下し易くなる。特に、前駆体ゾルの粘度が、1.0mPa・s未満であると、前駆体ゾルが、多孔質基材に多く含まれることがある。また、前駆体ゾルの粘度が、20mPa・sを超えると、セル内を前駆体ゾルが流下しにくくなることがある。前駆体ゾルの粘度は、円錐状回転型の粘度計によって測定した値である。
【0051】
本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法に用いられる多孔質基材としては、従来公知のセラミック膜複合体の製造方法に用いられる多孔質基材と同様に構成されたものを用いることができる。多孔質基材の形状としては、セルの延びる方向に垂直な断面の形状が円形、楕円形又は多角形であることが好ましい。多孔質基材の材質としては、強度や化学的安定性の観点から、アルミナ、シリカ、コージェライト、ムライト、チタニア、ジルコニア、炭化珪素等のセラミックス材料からなるものが好ましい。多孔質基材の気孔率は、多孔質基材の強度と透過性の観点から25〜55%程度とすることが好ましい。また、多孔質基材の平均細孔径は、0.005〜5μm程度とすることが好ましい。
【0052】
多孔質基材の一方の端面における外径の大きさについては特に制限はない。多孔質基材の一方の端面における外径が、50〜300mmであることが好ましく、50〜200mmであることが更に好ましい。一方の端面における外径が大きすぎると、セラミック膜複合体の製造が困難になることがある。例えば、一方の端面における外径が300mmを超えると、セラミック膜複合体の製造が困難になることがある。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法は、多孔質基材の一方の端面における外径が50mm以上である場合に、特に有効な製造方法であるといえる。例えば、多孔質基材が円筒状であり、多孔質基材の一方の端面の直径が50mm以上である場合に特に有効である。従来のセラミック膜複合体の製造方法においては、多孔質基材の一方の端面の直径が50mm以上である場合に、その多孔質基材の全てのセルの表面の全域にセラミック膜を形成するためには、非常に多くの量の前駆体ゾルを使用する必要があった。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法においては、多孔質基材の一方の端面における外径が50mm以上であっても、多孔質基材の全てのセルの表面の全域にセラミック膜を良好に形成することができる。
【0053】
「多孔質基材の一方の端面における外径」とは、多孔質基材の一方の端面の形状が円である場合には、その円の直径(外径)を意味するものとする。また、「多孔質基材の一方の端面における外径」とは、多孔質基材の一方の端面の形状が円でない場合には、その多孔質基材の一方の端面の面積と同じ面積における円の直径(外径)を意味するものとする。
【0054】
多孔質基材のセルの延びる方向の長さについては特に制限はない。多孔質基材のセルの延びる方向の長さは、20〜2000mmであることが好ましく、30〜1500mmであることが更に好ましく、40〜1000mmであることが特に好ましい。セルの延びる方向の長さが20mm未満ではセラミック膜の膜面積が小さくなることがある。セルの延びる方向の長さが2000mmを超えると、多孔質基材の製造、取り扱いが困難となることがある。
【0055】
多孔質基材に形成されるセルの数についても特に制限はない。セルの数については、多孔質基材の外径の大きさに応じて適宜決定することができる。また、セルの数については、体積当たりの膜面積と強度を考慮して適宜決定することもできる。セルの数は、例えば、10〜10000個であることが好ましく、20〜5000個であることが更に好ましく、50〜3000個であることが特に好ましい。1個のセルの開口部の相当直径についても特に制限はない。例えば、セルの開口部の相当直径は、0.5〜30mmであることが好ましく、1〜10mmであることが好ましく、1.5〜5mmであることが特に好ましい。「セルの開口部の相当直径」とは、セルの開口部の形状が円である場合には、その円の直径(内径)を意味するものとする。また、「セルの開口部の相当直径」とは、セルの開口部の形状が円でない場合には、開口部の面積と同じ面積の円の直径(内径)を意味するものとする。
【0056】
このようにして製膜されたセラミック膜前駆体は、熱処理工程Bを行うことにより、セラミック膜となる。熱処理工程Bを行う前に、セラミック膜前駆体を乾燥することが好ましい。セラミック膜前駆体の乾燥方法としては、セル内に風を直接送り込む通風乾燥が好ましい。
【0057】
(1−2)熱処理工程B:
熱処理工程Bは、セラミック膜前駆体作製工程Aによって形成されたセラミック膜前駆体を熱処理して、多孔質基材のセルの表面にセラミック膜を形成する工程である。即ち、熱処理工程Bにより、セラミック膜前駆体が熱処理されることにより、セラミック膜となる。このようにして、本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法によれば、多孔質基材と、その多孔質基材のセルの表面に配設されたセラミック膜と、を備えたセラミック膜複合体を製造することができる。
【0058】
熱処理工程Bの条件については特に制限はなく、従来公知のセラミック膜複合体の製造方法における熱処理工程と同様の方法によって行うことができる。熱処理の温度については、セラミック膜前駆体を形成するための前駆体ゾルの種類に応じて適宜決定することができる。例えば、上述したシリカ膜成形用のゾルを前駆体ゾルとして用いた場合には、熱処理の温度は、100〜800℃であることが好ましく、200〜700℃であることが更に好ましく、300〜600℃であることが特に好ましい。また、熱処理の時間は、0.01〜100時間であることが好ましく、0.05〜20時間であることが更に好ましく、0.1〜10時間であることが特に好ましい。このような条件によって熱処理工程Bを行うことにより、高性能のシリカ膜を良好に形成することができる。本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法にて作製される「シリカ膜」は、「乾燥したセラミック膜前駆体(即ち、シリカ膜前駆体)の総質量に対する、熱処理工程B後に得られるシリカ膜の総質量の比率が、38質量%以上、85質量%以下であるもの」であることが芳香族やアルコールを分離するには好ましい。
【0059】
熱処理工程Bは、セラミック膜前駆体作製工程Aにおいて行われるセラミック膜前駆体の乾燥から連続的に行われることが好ましい。また、セラミック膜前駆体作製工程A及び熱処理工程Bを複数回繰り返して行ってもよい。即ち、熱処理工程Bによって、多孔質基材のセルの表面にセラミック膜を形成した後、再度、セラミック膜前駆体作製工程Aを行う。これにより、熱処理工程Bによって得られたセラミック膜の表面に、セラミック膜前駆体が更に形成される。その後、セラミック膜の表面に形成されたセラミック膜前駆体を、再度熱処理して、二層以上に構成されたセラミック膜を形成してもよい。このように構成することによって、セラミック膜複合体におけるセラミック膜の膜厚を調節することができる。セラミック膜前駆体作製工程A及び熱処理工程Bを3回以上繰り返して行ってもよい。
【0060】
(1−3)本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法におけるその他の工程:
本実施形態のセラミック膜複合体の製造方法は、これまでに説明したセラミック膜前駆体作製工程A及び熱処理工程B以外のその他の工程を更に備えたものであってもよい。即ち、従来公知のセラミック膜複合体の製造方法において行われる、セラミック膜前駆体作製工程A及び熱処理工程B以外のその他の工程を必要に応じて適宜行うことができる。その他の工程としては、パーベーパレーション試験を実施して、膜性能の初期状態を変更する、前処理工程等を挙げることができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
実施例1においては、セラミック膜がシリカ膜であるシリカ膜複合体を製造した。シリカ膜複合体を作製する多孔質基材として、一方の端面の直径が90mmの円筒状の多孔質基材を用意した。多孔質基材のセルの延びる方向の長さは、100mmであった。多孔質基材には、一方の端面から他方の端面まで延びる618個のセルが形成されている。セルの直径は、1.6mmであった。なお、多孔質基材のセルの延びる方向に垂直な断面における、セルの形状は円形であった。「セルの直径」とは、多孔質基材のセルの延びる方向に垂直な断面における、多孔質基材に穿孔された円形の空隙部分(セル)の直径(すなわち、開口部の直径)のことである。多孔質基材の一方の端面におけるセルの総開口面積は、1243mmであった。表1に、「多孔質基材の一方の端面の直径(mm)」、「多孔質基材のセルの延びる方向の長さ(mm)」、「セルの数(個)」、「セルの直径(mm)」、及び「セルの総開口面積(mm)」を示す。
【0063】
また、多孔質基材のセルの表面の総面積は、0.311mであった。このため、実施例1のシリカ膜複合体の製造方法によって作製されるシリカ膜の面積は、0.311mとなる。
【0064】
次に、実施例1のシリカ膜複合体の製造方法に用いられる前駆体ゾルを以下の方法により作製した。まず、トリメトキシ(p−トリル)シランとエタノールを混合し、混合液の温度を4℃とした状態で十分に攪拌した。トリメトキシ(p−トリル)シランとエタノールが十分混合した後、加水分解のため硝酸水溶液を少量ずつ添加した。所定量の硝酸水溶液を添加した後に、混合液を4℃にした状態で、更に1時間攪拌した。次に、1時間攪拌した混合液を、50℃まで昇温して、更に3時間攪拌した。
【0065】
その後、混合液中のシリカゾルの濃度が、SiO換算で2.0質量%となるようにエタノールを加えた。得られた混合物を、前駆体ゾルとした。
【0066】
得られた前駆体ゾルを用いて、図3A図3Dに示すような、天地反転によるセラミック膜前駆体作製工程Aにより、多孔質基材10のセル2の表面に、セラミック膜前駆体としてシリカ膜前駆体を形成した。具体的には、得られた前駆体ゾルを、460ml量りとり、図3Aに示すような前駆体ゾル貯留用容器20内に貯留した。その後、多孔質基材10の一方の端面11が下方となる状態から、セルの延びる方向L上の1点を回転中心として、多孔質基材10の一方の端面11と他方の端面12との天地が反転するように180°回転させた。この際、前駆体ゾル貯留用容器20内に貯留した前駆体ゾル21に対する慣性力と向心力とが釣り合うような速度で、多孔質基材10を180°回転させた。即ち、図3Bに示すような、多孔質基材10の一方の端面11が上方となる状態まで、前駆体ゾル21が前駆体ゾル貯留用容器20の底面に押し付けられるような速度で天地反転を行った。具体的には、前駆体ゾル貯留用容器の前駆体ゾル液面部位の速度が0.99m/秒で、一方の端面11と他方の端面12との天地が反転するように多孔質基材10を180°回転させた。その後、図3Cに示すように、前駆体ゾル貯留用容器20の底面に押し付けられていた前駆体ゾル21が、多孔質基材10の一方の端面11に向けて自由落下した。この際、自由落下した前駆体ゾル21が、多孔質基材10の一方の端面11からセル2の内部に流入せずに、瞬間的に一方の端面11上に留まったと仮定した場合の、前駆体ゾル21の液面の高さを、「筒内ゾル高さ」とする。筒内ゾル高さは、7.2cmであった。表1に、「前駆体ゾルの使用量(mL)」、及び「筒内ゾル高さ(cm)」を示す。後述する実施例5に用いられる多孔質基材のセルの総開口面積(mm)に対する、各実施例及び比較例に用いられる多孔質基材のセルの総開口面積(mm)の比率を、「開口面積比」とする。表1に、実施例1に用いられる多孔質基材の「開口面積比」を示す。
【0067】
また、実際に、上述した天地反転を行った際に、自由落下した前駆体ゾルが、多孔質基材の一方の端面上に均等に溜まっているか否かを目視にて判定した。一方の端面上に均等に前駆体ゾルが溜まっている場合を、「A」とした。一方の端面上に前駆体ゾルが溜まっているが、液面が均等ではない場合を、「B」とした。表1の「反転後の堆積結果」の欄に、上記の判定結果を示す。
【0068】
その後、前駆体ゾル貯留用容器及び前駆体ゾル回収用容器を多孔質基材から取り外し、多孔質基材のセルの表面に形成されたシリカ膜前駆体を通風乾燥させた。通風乾燥は、多孔質基材の一方の端面に風を当てて、多孔質基材のセル内に空気を流通させることによって行った。その風速は10m/sであった。
【0069】
その後、シリカ膜前駆体が形成された多孔質基材を、400℃で1時間熱処理する熱処理工程Bを行った。実施例1においては、この熱処理工程Bを終えた多孔質基材を用いて、再度、これまでに説明したセラミック膜前駆体作製工程Aと同様の方法によってセラミック膜前駆体作製工程Aを行い、更に、上記と同様の方法で熱処理工程Bを行った。実施例1においては、合計3回ずつ、セラミック膜前駆体作製工程A及び熱処理工程Bを行って、シリカ膜複合体を製造した。
【0070】
【表1】
【0071】
得られたシリカ膜複合体について、以下の方法により、セルの真空度の測定を行った。セルの真空度の測定は、多孔質基材のセルの表面にシリカ膜が良好に形成されているか否かの評価を行うためのものである。セルの真空度の測定は、図4及び図5に示すように、1個のセルごとに行った。図4は、セルの真空度の測定方法を説明するための模式図である。図5は、図4における、1個のセルを拡大して示す拡大模式図である。
【0072】
図4及び図5に示すように、多孔質基材の一方の端面11及び他方の端面12のセル2の開口部に、栓部材40を配置する。栓部材40は、一方の端面11及び他方の端面12のセル2の開口部を気密状態に栓をするものとする。例えば、栓部材40としては、シリコン製の栓を用いることができる。セル2の両端に配設されたそれぞれの栓部材40に、針44を貫通させる。図5に示す針44は、先端が尖った中空円筒状のものである。なお、栓部材40に先に針44を貫通させ、そのセル2の開口部に栓部材40を配置してもよい。多孔質基材の一方の端面11側の栓部材40を貫通した針44は、配管43に接続され、更に、その配管43が真空ポンプ41に接続されている。多孔質基材の他方の端面12側の栓部材40を貫通した針44は、配管43に接続され、更に、その配管43が圧力計42に接続されている。
【0073】
真空ポンプ41を始動させて、配管43及びセル2内を真空引きする。真空引きした状態の圧力を、圧力計42によって測定する。多孔質基材10のセル2の表面全域にセラミック膜が形成されている場合には、−90kPa程度の真空状態を維持することができる。一方、多孔質基材10のセル2の表面の一部にセラミック膜が形成されていない場合には、セラミック膜が形成されていない箇所から空気が流入して、真空状態を維持することができない。
【0074】
実施例1によって製造されたシリカ膜複合体においては、セルの延びる方向に垂直な断面において、当該断面の中心を通過するように延びる一の方向に、セルが34個形成されている。実施例1によって製造されたシリカ膜複合体におけるセルの真空度の測定は、34個のセルのうち、最外周のセルと、この最外周のセルの隣のセルから数えて3の倍数個のセルについて、合計12個のセルについて行った。図6は、実施例1によって製造されたシリカ膜複合体の一方の端面を撮像した写真である。図6の写真において、1〜12に示される数字が示す箇所が、セルの真空度の測定箇所である。また、図7は、実施例1によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図7においては、横軸が、セル位置を示し、縦軸が、真空度(kPa)を示す。「セル位置」は、最外周のセルを1とした場合に、最外周のセルから数えた測定対象のセルの個数のことを意味する。「真空度(kPa)」とは、ゲージ圧を示す。
【0075】
セルの真空度の測定においては、全てのセルにおける真空度が−90kPa以下の場合には、測定結果を「A」とする。少なくとも1個のセルにおける真空度が−80〜−90kPaであり、他のセルの真空度が−90kPa以下の場合には、測定結果を「B」とする。少なくとも1個のセルにおける真空度が−80kPaを超える場合には、測定結果を「C」とする。測定結果が「A」の場合を合格とする。
【0076】
(実施例2〜5)
多孔質基材の一方の端面の直径(mm)、セルの数(個)、セルの直径(mm)、及び前駆体ゾルの使用量(mL)を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法によってシリカ膜複合体を製造した。実施例1と同様の方法により、得られたシリカ膜複合体のセルの真空度の測定を行った。結果を表1に示す。なお、実施例2〜5にて得られた各シリカ膜複合体については、セルの延びる方向に垂直な断面における、当該断面の中心を通過する一の方向において、以下の箇所にてセルの真空度の測定を行った。実施例2にて得られたシリカ膜複合体においては、最外周のセルと、この最外周のセルの隣のセルから数えて3の倍数個のセルについて、合計8個のセルについてセルの真空度の測定を行った。実施例3においては、最外周のセルと、この最外周のセルの隣のセルから数えて3の倍数個のセルについて、合計6個のセルについてセルの真空度の測定を行った。実施例4においては、最外周のセルと、この最外周のセルの隣のセルから数えて2の倍数個のセルについて、合計5個のセルについてセルの真空度の測定を行った。実施例5においては、上記一の方向の7個の全てセルについてセルの真空度の測定を行った。
【0077】
また、実施例2〜5においても、多孔質基材の天地反転を行った際に、自由落下した前駆体ゾルが、多孔質基材の一方の端面上に均等に溜まっているか否かを目視にて判定した。判定基準は、実施例1の場合と同じである。表1の「反転後の堆積結果」の欄に、判定結果を示す。
【0078】
(比較例1〜5)
比較例1〜5においては、図3A図3Dに示すような、天地反転によるセラミック膜前駆体作製工程Aを行わず、図17に示すような方法によってシリカ膜前駆体を形成した。即ち、比較例1〜5においては、図17に示すように、容器120に貯留した前駆体ゾル121を、多孔質基材110の上部から流し込み、多孔質基材110のセル112内を通過させることによって行った。また、比較例1〜5における、「多孔質基材の一方の端面の直径(mm)」、「多孔質基材のセルの延びる方向の長さ(mm)」、「セルの数(個)」、「セルの直径(mm)」、及び「セルの総開口面積(mm)」、及び「シリカ膜の面積(m)」を表2に示す。また、「開口面積比」、及び「前駆体ゾルの使用量(mL)」を表2に示す。比較例1〜5にて得られたシリカ膜複合体のセルの真空度の測定を行った。結果を表2に示す。なお、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4、及び実施例5と比較例5のそれぞれにおいて、各セルの真空度の測定方法は同じである。
【0079】
【表2】
【0080】
また、図8は、比較例1によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図9は、実施例2によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図10は、比較例2によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図11は、実施例3によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図12は、比較例3によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図13は、実施例4によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図14は、比較例4によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図15は、実施例5によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図16は、比較例5によって製造されたシリカ膜複合体の、セルの真空度の測定結果を示すグラフである。図8図16においては、横軸が、セル位置を示し、縦軸が、真空度(kPa)を示す。
【0081】
(結果1)
表1及び表2に示すように、実施例1〜5のシリカ膜複合体の製造方法においては、セルの真空度の測定において、全て良好な結果を得ることができた。また、実施例1〜5のシリカ膜複合体の製造方法においては、反転後の堆積結果も全て良好なものであった。一方、比較例1〜3のシリカ膜複合体の製造方法においては、セルの真空度の測定において、セルの真空度を維持することができず、セルの表面全域にシリカ膜を形成することができなった。即ち、従来のシリカ膜複合体の製造方法のような、前駆体ゾルを、多孔質基材の上部から流し込む方法では、前駆体ゾルの流れ込むセルにムラが生じやすく、セルの表面全域にシリカ膜を形成するためには、より多くの量の前駆体ゾルが必要となる。本発明のセラミック膜複合体の製造方法によれば、シリカ膜成形用の前駆体ゾルの量が少なくとも、多孔質基材の全てのセルの表面に良好にシリカ膜を形成できることが分かった。
【0082】
比較例4及び5の製造方法においては、セルの表面全域にシリカ膜を形成することができた。但し、実施例1〜3及び比較例1〜3の結果を考慮すると、実施例4及び5の製造方法において、更に前駆体ゾルの使用量を少なくしても、セルの表面全域にシリカ膜を形成することができる可能性がある。実施例1〜5においては、多孔質基材の一方の端面の直径が最も小さい30mmである実施例5の前駆体ゾルの使用量を基準として、実施例1〜4における各前駆体ゾルの使用量を、開口面積比によって決定した。実施例1〜5においては、セルの真空度の測定において、全て良好な結果を得ることができたため、更に、前駆体ゾルの使用量を低減できる余地があるといえる。一方で、比較例1〜5の結果を考慮すると、比較例4及び5においては、前駆体ゾルの使用量を更に低減すると、セルの表面全域にシリカ膜を形成できないことが考えられる。即ち、比較例4及び5では、これ以上の使用量の低減は望めない。従って、比較例4、5の製造方法においては、セルの表面全域に良好にシリカ膜を形成するためには、実施例4及び5と比較して、過剰な量の前駆体ゾルを用いなければならないこととなる。
【0083】
(実施例6〜11)
実施例6〜11においては、多孔質基材の一方の端面の直径(mm)、及びセルの数(個)が、表3及び表4に示すような多孔質基材を用い、実施例1と同様の方法によって、シリカ膜複合体を製造した。実施例6〜11においては、前駆体ゾルの使用量(mL)を、表3及び表4に示すように変更した。
【0084】
実施例6〜8における、「多孔質基材の一方の端面の直径(mm)」、「多孔質基材のセルの延びる方向の長さ(mm)」、「セルの数(個)」、「セルの直径(mm)」、及び「セルの総開口面積(mm)」、及び「シリカ膜の面積(m)」を、表3に示す。また、実施例6〜8における、「前駆体ゾルの使用量(mL)」及び「筒内ゾル高さ」を表3に示す。実施例9〜11における、「多孔質基材の一方の端面の直径(mm)」、「多孔質基材のセルの延びる方向の長さ(mm)」、「セルの数(個)」、「セルの直径(mm)」、及び「セルの総開口面積(mm)」、及び「シリカ膜の面積(m)」を、表4に示す。また、実施例9〜11における、「前駆体ゾルの使用量(mL)」及び「筒内ゾル高さ」を表4に示す。
【0085】
また、実施例6〜11においても、多孔質基材の天地反転を行った際に、自由落下した前駆体ゾルが、多孔質基材の一方の端面上に均等に溜まっているか否かを目視にて判定した。判定基準は、実施例1の場合と同じである。表3及び表4の「反転後の堆積結果」の欄に、判定結果を示す。
【0086】
また、実施例9〜11については、以下の方法で、E10ガソリンのパーベーパレーション試験、及びベンゼン/シクロヘキサンのパーベーパレーション試験を行った。表4の「エタノール濃度(体積%)」及び「エタノール透過量(kg/m・h)」の欄に、E10ガソリンのパーベーパレーション試験の結果を示す。表4の、「ベンゼン濃度(質量%)」及び「ベンゼン透過量(kg/m・h)」の欄に、ベンゼン/シクロヘキサンのパーベーパレーション試験の結果を示す。
【0087】
(E10ガソリンのパーベーパレーション試験)
実施例9〜11のシリカ膜複合体(セラミック膜複合体)のセル内に、温度70℃のE10ガソリンを流通させ、多孔質基材の側面から、−75kPa(ゲージ圧)の真空度で減圧する。そして、多孔質基材の側面からの透過蒸気を、液体窒素にて冷却したトラップにて捕集した。捕集した透過蒸気の液化物の質量と、透過蒸気の液化物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果から、透過蒸気のエタノール濃度(体積%)、エタノール透過量(kg/m・h)を求めた。「E10ガソリン」とは、エタノールを10%混ぜたガソリンのことである。
【0088】
(ベンゼン/シクロヘキサンのパーベーパレーション試験)
実施例9〜11のシリカ膜複合体(セラミック膜複合体)のセル内に、温度50℃のベンゼン/シクロヘキサンの混合液体[ベンゼン:シクロヘキサン=50:50(質量比)]を流通させ、多孔質基材の側面から、−95kPa(ゲージ圧)の真空度で減圧する。そして、多孔質基材の側面からの透過蒸気を、液体窒素にて冷却したトラップにて捕集した。捕集した透過蒸気の液化物の質量と、透過蒸気の液化物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果から、透過蒸気のベンゼン濃度(質量%)、ベンゼン透過量(kg/m・h)を求めた。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
(結果2)
表3及び表4に示すように、筒内ゾル高さが2cm以上の実施例7、8、10及び11においては、反転後の堆積結果がAであった。即ち、多孔質基材の一方の端面上に均等に前駆体ゾルが溜まっていることが確認できた。実施例6及び9においては、前駆体ゾルの使用量が、実施例7、8、10及び11と比較して少なかったため、前駆体ゾルの液面が均等になるまでには至らなかった。但し、実施例6及び9においても、多孔質基材の一方の端面全域に、前駆体ゾルを自由落下させることは可能であった。本発明のセラミック膜複合体の製造方法においては、多孔質基材の一方の端面の面積をScmとした場合に、前駆体ゾルの使用量が2SmL以上である場合に、より良好な製膜を行うことが可能であることが分かった。E10ガソリンのパーベーパレーション試験の結果から分かるように、実施例9〜11のシリカ膜複合体は、エタノールを良好に分離又は濃縮することが可能なものであった。特に、前駆体ゾルの使用量が2SmL以上となる実施例10及び11のシリカ膜複合体は、透過蒸気のエタノール濃度(体積%)が高く、より良好に分離又は濃縮することが可能なものであった。また、ベンゼン/シクロヘキサンのパーベーパレーション試験の結果から分かるように、実施例9〜11のシリカ膜複合体は、ベンゼンも良好に分離又は濃縮することが可能なものであった。
【0092】
(実施例12〜14)
実施例12〜14においては、多孔質基材の一方の端面の直径(mm)、及びセルの数(個)が、表5に示すような多孔質基材を用い、表5に示すような「反転速度(m/秒)」で天地反転を行った以外は、実施例1と同様の方法でシリカ膜複合体を製造した。実施例12〜14における、「多孔質基材の一方の端面の直径(mm)」、「多孔質基材のセルの延びる方向の長さ(mm)」、「セルの数(個)」、「セルの直径(mm)」、及び「セルの総開口面積(mm)」、及び「シリカ膜の面積(m)」を、表5に示す。また、実施例12〜14における、「前駆体ゾルの使用量(mL)」、及び「筒内ゾル高さ(cm)」を表5に示す。実施例12〜14においては、多孔質基材の一方の端面の面積をScmとした場合の、前駆体ゾルの使用量は、2SmLである。
【0093】
なお、「反転速度(m/秒)」は、一方の端面と他方の端面との天地が反転するように多孔質基材を180°回転させた際の、前駆体ゾル貯留用容器の前駆体ゾル液面部位の速度(m/秒)のことである。
【0094】
実施例12〜14においても、多孔質基材の天地反転を行った際に、自由落下した前駆体ゾルが、多孔質基材の一方の端面上に均等に溜まっているか否かを目視にて判定した。判定基準は、実施例1の場合と同じである。表5の「反転後の堆積結果」の欄に、判定結果を示す。
【0095】
【表5】
【0096】
(結果3)
表5に示すように、実施例12及び13においては、反転後の堆積結果がAであった。即ち、多孔質基材の一方の端面上に均等に前駆体ゾルが溜まっていることが確認できた。実施例14に示すように反転速度が遅い場合には、自由落下した前駆体ゾルの液面が均等になるには至らなかった。
【0097】
(実施例15〜18)
実施例15〜18においては、多孔質基材の一方の端面の直径(mm)、及びセルの数(個)が、表6に示すような多孔質基材を用い、実施例1と同様の方法でシリカ膜複合体を製造した。なお、実施例15〜18においては、表6に示すような「ゾル濃度(質量%)」及び「粘度(mPa・s)」の前駆体ゾルを用いて、セラミック膜前駆体作製工程Aを行った。実施例15〜18における、「多孔質基材の一方の端面の直径(mm)」、「多孔質基材のセルの延びる方向の長さ(mm)」、「セルの数(個)」、「セルの直径(mm)」、及び「セルの総開口面積(mm)」、及び「シリカ膜の面積(m)」を、表6に示す。また、実施例15〜18における、「前駆体ゾルの使用量(mL)」、及び「筒内ゾル高さ(cm)」を、表6に示す。実施例15〜18においては、多孔質基材の一方の端面の面積をScmとした場合の、前駆体ゾルの使用量は、2SmLである。
【0098】
なお、「ゾル濃度(質量%)」とは、前駆体ゾルの総質量に対する、前駆体ゾル中のシリカゾルのSiO換算の質量の比率のことである。また、「粘度(mPa・s)」は、円錐状回転型の粘度計によって測定した値である。
【0099】
実施例15〜18においても、多孔質基材の天地反転を行った際に、自由落下した前駆体ゾルが、多孔質基材の一方の端面上に均等に溜まっているか否かを目視にて判定した。判定基準は、実施例1の場合と同じである。表6の「反転後の堆積結果」の欄に、判定結果を示す。
【0100】
【表6】
【0101】
(結果4)
表6に示すように、実施例15〜18においては、反転後の堆積結果がAであった。即ち、前駆体ゾルの粘度が1.0〜20mPa・sの場合には、多孔質基材の一方の端面上に均等に前駆体ゾルが溜まっていることが確認できた。
【0102】
(実施例19〜22)
実施例19〜22においては、多孔質基材の一方の端面の直径(mm)、及びセルの数(個)が、表7に示すような多孔質基材を用い、表7に示すような前駆体ゾルを使用した以外は、実施例1と同様の方法でセラミック膜複合体を製造した。表7の「ゾル種類」の欄に、実施例19〜22にて使用した前駆体ゾルの種類を示す。
【0103】
実施例19の「シリカ」とは、テトラエトキシシランをアルコキシドとしたシリカ膜成形用のゾルのことである。実施例20の「チタニア」とは、チタンテトライソプロポキシドをアルコキシドとしたチタニア膜成形用のゾルのことである。実施例21の「ジルコニア」とは、ジルコニウムテトラエトキシドをアルコキシドとしたジルコニア膜成形用のゾルのことである。実施例22の「p−トリル基含有シリカ」とは、実施例1に使用した前駆体ゾルと同じ種類の前駆体ゾルのことである。
【0104】
実施例19〜22における、「多孔質基材の一方の端面の直径(mm)」、「多孔質基材のセルの延びる方向の長さ(mm)」、「セルの数(個)」、「セルの直径(mm)」、及び「セルの総開口面積(mm)」、及び「セラミック膜の面積(m)」を、表7に示す。また、実施例19〜22における、「開口面積比」、及び「前駆体ゾルの使用量(mL)」、及び「筒内ゾル高さ(cm)」を、表7に示す。
【0105】
実施例19〜22においては、得られた各セラミック膜複合体について、実施例1と同様の方法で、セルの真空度の測定を行った。表7の「セルの真空度の測定結果」の欄に、測定結果を示す。
【0106】
【表7】
【0107】
(結果5)
表7に示すように、実施例19〜22にて使用したいずれの前駆体ゾルであっても、良好にセラミック膜を形成することができた。即ち、本発明のセラミック膜複合体の製造方法は、シリカ膜、チタニア膜、及びジルコニア膜等の各種のセラミック膜を備えたセラミック膜複合体を製造する方法として好適に用いることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、複数種の物質が混じり合っている流体の中から特定の種類の物質のみを分離又は濃縮するためのセラミック膜複合体を製造する方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0109】
2:セル、10:多孔質基材、11:一方の端面、12:他方の端面、20:前駆体ゾル貯留用容器、20a:液排出口、21:前駆体ゾル、25:セラミック膜前駆体、26:セラミック膜、28:前駆体ゾル回収用容器、28a:液回収口、40:栓部材、41:真空ポンプ、42:圧力計、43:配管、44:針、100:セラミック膜複合体、110:多孔質基材、112:セル、120:容器、121:前駆体ゾル、124:筒状部材、O:回転中心。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図6