【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様では、本発明は、患者の眼の代替の眼内レンズの手術後の位置を予測する方法を提供し、該方法は、
(i)患者の手術前の眼の中に存在する水晶体の位置を求めるステップと、
(ii)患者の手術前の眼の前記水晶体の厚さを求めるステップと、
(iii)患者の手術前の眼の前記水晶体の位置に対する前記眼内レンズの手術後の位置を、患者の手術前の眼の前記水晶体の厚さに占める割合として予測するステップと、を含み、
前記割合は、前記眼内レンズの種類によって求められる単一の数値定数(C)により定義される。
【0014】
以下に更に詳細に説明するように、以下に続く例において、本発明は、手術前に、患者の眼の代替のIOLの手術後の位置を予測する、より正確な方法を提供する。
【0015】
本発明は、IOLが当該IOL自らを、当該IOLを空の水晶体嚢に挿入したときに手術後の眼の中の明確な位置に落ち着かせるという本願発明者の知見に基づいている。当該位置は、患者の手術前の眼の水晶体の厚さに占める比率として表すことができる。従って、IOLの手術後の位置は、手術前の眼の特定の明確な解剖学的及び物理的特性に関連している。特に、患者の手術前の眼の水晶体の位置及び厚さに関連している。従って、本願発明者の知見に照らしてみると、手術前の患者の眼の特定の物理的パラメータ(特に、水晶体の位置及び厚さ)の測定値を用いて、挿入後のIOLが当該患者の眼の中で占めることになる特定の手術後の位置を予測することができる。
【0016】
以下に続く例において説明されるように、本願発明者の知見は、眼の手術を受けて実際のIOLが挿入されている個体を手術前及び手術後の段階で詳細に解析することにより得られたが、この場合、IOLの位置に影響する可能性のある種々の物理的パラメータを測定した。該当するデータを統計的に解析すると、これらのパラメータが関連しており、かつこれらのパラメータによって、極めて簡単な数式を立てて、測定パラメータ群を互いの関数として表すことができるという状況が明らかになった。当該解析から、挿入後のIOLの手術後の位置は、当該数式を手術前の眼から得られる物理的パラメータ群と一緒に用いて正確に予測することができることが判明した。
【0017】
一旦、IOLの手術後の位置が予測されると、手術中に挿入されるIOLの最も適切な光学特性(レンズ屈折力及び他の光学特性のような)の正確な計算(及び予測)を行うことができる。このような計算及び予測は、眼、及び眼の中の光の屈折をモデル化することにより行われる。眼及び挿入IOLの詳細かつ正確なモデルを提供する方法では、眼の種々の測定可能な物理的パラメータ、及び眼の複数の境界面及び表面の光学特性及び物理特性を正確に解釈する必要がある。このような方法は、本明細書において記載されるいわゆる「thick lens(厚肉レンズ)」近軸光線追跡法及び正確な光線追跡法の両方を含み、この技術分野では公知でもある(例えば、国際公開第WO2010/028654号に説明されているように)。
【0018】
従って、本発明は、これまでのシステム及び方法とは、以下の点で異なっている。
(1)本発明では、手術後のIOL位置の予測は、先行技術において表される光学方程式とは無関係に行われ、当該光学方程式を用いるのではなく、IOLの物理的に明らかな手術後の真の位置に基づいて行われる(好適には、手術後の前房深度測定値を用いる)のであり、仮想的な手術後の位置(仮想的な術後レンズ固定位置又は「ELP」のような)を利用するのではない。
(2)本発明では、IOLの手術後の位置の予測は、手術前の患者の水晶体の位置及び厚さの正確な測定値に基づいて行うことができる。
(3)本発明では、IOLの位置の物理的予測値を、現実に即した光線追跡モデルに用いることにより、眼の光学系を、測定データ及び予測データに基づいて正確に表すことができる。このようにして、挿入されるIOLの最も適切な光学特性を求めることができる。
【0019】
ステップ(i)における水晶体の位置は、多くの手法により、手術前の眼から得られる1つ以上の測定値に基づいて求めることができる。好適には、患者の手術前の眼の水晶体の眼軸方向位置を求め、眼軸方向位置を求めるステップは、(例えば)部分的干渉法(partial interferometry)を用いて正確に行うことができ、この部分的干渉法は、レーザを用いて行われる(例えば、Haag−Streit company,スイスが提供するLenstar LS900を用いる)。
【0020】
患者の手術前の眼の水晶体の厚さは、多くの手法により、手術前の眼から得られる1つ以上の測定値に基づいて求めることができる。例えば、水晶体の厚さは、眼の中の当該水晶体の前面と後面の相対的位置を、例えば超音波、レーザ干渉法、又はレーザ生体計測法を用いて測定することにより求めることができる。
【0021】
「患者の手術前の眼」とは、眼の生来の生体水晶体を取り除く前の眼を指す。当該表現はこの技術分野では多くの場合、「有水晶体」眼のような眼を指す。
【0022】
「患者の手術後の眼」とは、生来の生体眼水晶体を取り除いた後の、そしてIOLを挿入した後の眼を指す。当該表現はこの技術分野では多くの場合、「偽水晶体」眼のような眼を指す。
【0023】
「水晶体」とは、眼の中にある生来の生体水晶体を指す。
【0024】
公知のことであるが、水晶体は厚さが均一ではなく、楕円形又は両凸形状を有する。「水晶体の厚さ」とは、水晶体が弛緩状態のときの水晶体の前面から後面までの眼軸方向距離(視線に沿った距離)を指す。弛緩状態は、眼の焦点が遠距離に合っているときの非調節状態である。しかしながら、当該状態は、患者の年齢とともにさほど重要な意味を持たなくなる、というのは、調節能力が、年齢を重ねるにつれて徐々に失われるからであり、例えば、45歳以上の年齢の人では、調節能力が非常に小さくなり、水晶体の厚さに影響を与えることができない。
【0025】
「眼内レンズ」又は「IOL」とは、眼の水晶体嚢に挿入される人工レンズを指す。IOLは通常、プラスチック側方突条(ハプティックスと呼ばれる)でレンズを水晶体嚢内の所定の位置に保持する構成のプラスチックレンズを含む。IOLは、非可撓性材料(PMMAのような)又は可撓性材料(シリコーン又はアクリルのような)により形成することができる。IOLは、これらのIOLの光学特性(これらのIOLの球面屈折度数及び円柱屈折度数、非球面性、及び他の高次の収差)に関して変化し、そしてIOLは、固定単焦点レンズ(視力に合わせた)、多焦点レンズ(遠距離及び近距離の多焦点視力を可能にする)、又は度数調整レンズ(ある程度の視力調節を可能にする)とすることができる。
【0026】
本発明の重要な態様は、「C」と表記される単一の数値定数である。
【0027】
本発明は、広範に適用することができ、そして人間(全ての人種及び国籍者からなる)、及び他の哺乳動物(馬、牛、豚、羊、犬、猫、及び兎を含む農業用又は経済価値のある哺乳動物のような)を含む範囲の異なる患者の種類に用いることができる。眼の寸法及び光学特性は、異なる動物種によって、人種によって、そして国籍及び人種の異なる人間によって変化することを理解できるであろう。従って、数値定数(C)は、IOLの種類によって求められるのみならず、患者の種類、及びIOLを眼内に挿入するために用いられる手法によっても求められる。
【0028】
好適には、数値定数(C)は、手術を受けた1つ以上の個体の眼の眼内レンズの手術後の位置と、眼の手術を受けた1つ以上の個体の手術前の眼の水晶体の位置及び厚さの関係を定義する。
【0029】
更に好適には、当該数値定数(C)を、該当する種類のIOLが眼内に同じ挿入術を用いて挿入されている、眼の手術を受けた2つ以上の個体から得られるデータを用いて計算する。
【0030】
当該数値定数(C)は、眼の手術を受けた適切な個体から得られるデータを用いて、水晶体再建術を受けようとしている特定の患者の種類に応じて計算される必要があることを理解できるであろう。上に説明したように、眼の寸法及び光学特性は、異なる動物種によって、種によって、そして人種の異なる人間によって変化する。例えば、人間の場合、アジア人種の眼は、前眼部及び後眼部の眼球に占める割合が白色人種と比較すると異なっている。すなわち、アジア人種の眼は、白色人種の眼と比較すると前眼部の長さが相対的に短く、そして及び後眼部の長さが相対的に長い。
【0031】
これらの差を考慮に入れると、眼の手術を受けた適切な個体から得られるデータを、数値定数(C)を計算するときに用いる必要がある。例えば、患者が犬である場合、数値定数(C)を計算するために用いられ、かつ眼の手術を受けた個体も、犬(好ましくは、同一種の犬)である必要がある。患者が人間である場合、数値定数(C)を計算するために用いられ、かつ眼の手術を受けた個体は、同じ人種であることが好ましい。この技術分野の当業者は、眼の寸法、及び光学特性に関連する差に注意を払うことになり、そして眼の手術を受けた適切な個体を選択して、数値定数(C)を計算することができることになる。
【0032】
以下に続く例から明らかになるように、データは、眼の手術を受けた極めて少ない数の患者から取得するだけで、数値定数Cを正確に計算することができる。好適には、データの取得先となり、かつ眼の手術を受けた多数の個体とは、2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10又は20又は30又は40又は50又は60又は70又は80又は90又は100又は200であるか、或いはそれ以上の数の眼の手術を受けた個体である。
【0033】
好都合なことに、数値定数(C)は、水晶体の厚さが、眼の手術を受けた2つ以上の個体の手術前の眼に占める割合を定義することができる。
【0034】
1つの実施形態では、本発明は、該当する種類のIOLを、眼の水晶体嚢への挿入に適合させる方法を提供する。このようなIOLは、この技術分野の当業者には公知となっている。
【0035】
IOLを製造する会社は、良く知られており、これらの会社として、Alcon Laboratories(アルコン研究所):(このアルコン研究所は、なかでも、Acrysof及びRestorという商品名のアクリル製の一体型折り畳み式IOLを製造している)、Rayner Intraocular Lenses(レイナー眼内レンズ株式会社)(レイナー眼内レンズ株式会社は、なかでも、Superflex及びT−flexという商品名のある範囲の種類の挿入可能な折り畳み式のレンズを製造している)、Abott Medical Optics(アボットメディカルオプティクス社)(アボットメディカルオプティクス社は、Tecnis(登録商標)Aspheric IOL,Tecnis(登録商標)Multifocal IOL,ReZoom(登録商標)Multifocal IOLのようなアクリル製の一体型折り畳み式IOLを製造している)、Carl Zeiss Meditec(カールツァイスメディテック社)(カールツァイスメディテック社は、Acri.Lisa seriesに属するある範囲の種類の単焦点IOL、多焦点IOL、及びトーリックIOLを製造している)、Bausch & Lomb(ボシュロム社)、Corneal(株式会社コーニアル)、Hoya(ホヤ株式会社)、Topcon(トプコン株式会社)を挙げることができる。
【0036】
好適には、IOLは眼の水晶体嚢内に挿入される。良く知られているように、このような手術を行う標準的な手法では、水晶体嚢の前嚢部分を、いわゆる「嚢切開」と呼ばれる手技により切開し、この嚢切開によって、水晶体核を吸引し、かつIOLを挿入するための円形切開部を確保することができる。水晶体嚢は、異なる手技によって(断裂により、切除により、焼灼により、レーザにより)切開することができるが、IOLは、必ず水晶体嚢内に設置されることが好ましい。水晶体核は多くの場合、「超音波乳化吸引術」を用いて取り除かれ、この超音波乳化吸引術では、超音波を利用して、水晶体核を破砕し、そして微小な創口を通って吸引する。別の構成として、水晶体核を手作業で破砕するか、又はフェムト秒レーザを用いて破砕することもできる。一旦、水晶体核が取り除かれると、IOLを前嚢切開部から挿入し、そして空の水晶体嚢内に設置する。これは、水晶体再建術を施すために世界中で現在認可されている方法である。
【0037】
手術後の眼の中のIOLの位置(従って、数値定数C)は、特にハプティックスの直径、形状、及び機械的特性が、水晶体嚢が手術後に徐々に収縮する結果としてIOLが前方又は後方に押される過程に影響を及ぼし得るので、挿入されるIOLの幾何学形状によって影響される可能性があることを理解できるであろう。しかしながら、以下に続く例から明らかになるように、2つの異なるIOL種類を用いて得られるC値のばらつきは極めて小さい。従って、本発明の方法は、眼の水晶体嚢内に挿入されるように適合させ、かつ眼の水晶体嚢内に挿入される任意のIOLを用いて実行することができる。
【0038】
本発明の方法は、水晶体嚢内への挿入状態を含まない挿入方法又はIOL種類には用いられない。このような挿入方法又はIOL種類は、水晶体嚢が完全なままの状態ではない、又は水晶体嚢が残っていない場合に用いることができる。
【0039】
以下に続く例で説明されるように、好適な実施形態では、数値定数(C)は、眼の手術を受けた2つ以上の個体から得られるデータに基づき、以下の数式:
C=(IOL
measured−ACD
pre)/LT
を用いて計算され、
式中、
IOL
measuredは、眼の手術を受けた個体の眼の眼内レンズの手術後の測定位置であり、この測定位置は、例えば眼の手術を受けた個体の眼の前房深度により定義することがきる。好適な実施形態では、IOL
measuredは、眼内レンズの中心の測定位置であり、この測定位置は、眼の手術を受けた個体の眼の手術後の測定前房深度とIOL厚さの半分を合算することにより算出することができる。
ACD
preは、眼の手術を受けた個体の眼の角膜表面を基準にした水晶体の前面の手術前の位置であり、当該位置は、例えば眼の手術を受けた個体の眼の手術前の前房深度を測定することにより求めることができ、
LTは、眼の手術を受けた個体の眼の水晶体の手術前の厚さである。
【0040】
このようにして、数値定数(C)は、1つの方法によって計算することができ、前記方法は、眼を手術する前の2つ以上の個体の眼の水晶体の位置及び厚さを測定するステップと、手術後の2つ以上の個体(すなわち、眼の手術を受けた個体)の眼のIOLの位置を測定するステップと、数値定数(C)を、上に記載した数式(すなわち、C=(IOL
measured−ACD
pre)/LT)を用いて計算するステップと、を含む。
【0041】
好適には、眼を手術する前の2つ以上の個体の眼の水晶体の位置を測定するステップは、手術前の眼の前房深度(すなわち、手術前のACD)を測定することにより行われ、そして眼の手術を受けた個体の眼の手術後の眼内レンズの位置を測定するステップは、眼の手術後の前房深度(すなわち、手術後のACD)を測定することにより行われる。このような測定を行う方法は、この技術分野では公知であり、本明細書において記載されている。
【0042】
上に説明したように、手術前のACDは、眼の角膜表面から水晶体の前面までの距離の測定値である。水晶体の位置は、他の手法により、定数(C)の計算を他の方法でも可能とする眼の他の測定値に基づいて求めることができることを理解できるであろう。例えば、水晶体の位置は、眼の角膜表面から水晶体の後面までの距離(すなわち、手術前のACD)を測定することにより求めることができる。別の構成として、水晶体の位置は、網膜面から水晶体の前面又は後面までの距離を測定することにより求めることができる。1つの例として、水晶体の位置を、網膜面から水晶体の後面までの距離を測定することにより求める場合、数値定数(C)は、以下の数式:
C=(LP
ant−IOL
post)/LT
を用いて計算され、
式中、
LP
antは、手術前の網膜から眼の水晶体位置の前面までの測定距離であり、
IOL
postは、網膜から眼内レンズの中心までの測定距離であり、
LTは、手術前の眼の水晶体の手術前の厚さである。
【0043】
上に説明したように、好適には、数値定数(C)は、数式:C=(IOL
measured−ACD
pre)/LTを用いて計算される。
【0044】
更に好ましくは、数値定数(C)は、眼の手術を受けた2つ以上の個体について、上の手法、及び好適な数式(すなわち、C=(IOL
measured−ACD
pre)/LT)を用いて計算した結果から得られる平均(すなわち、相加平均)値である。
【0045】
数値定数(C)は、0.0〜1.0とすることができる(百分率で表す場合、0%〜100%である)。これらの限界値は、IOL自体が水晶体前嚢又は水晶体後嚢それぞれに、手術後に副作用で空の水晶体嚢の収縮を起こすことなく固定されるようにIOLが無限大の厚さを持つ極端な状況を表している。当該状況は、起こりそうもない状況であるが、本発明の方法は、当該方法が、眼の解剖学的構造に対するIOLの関係をそのような状況でも正しく記述することができているので、そのような状況でも効果を発揮する。
【0046】
従って、数値定数(C)は、0.1又は0.2又は0.3又は0.4又は0.5又は0.6又は0.7又は0.8又は0.9又は1.0であるか、或いはこれらの値に近似する値であることが好ましい(百分率で表す場合、10%又は20%又は30%又は40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%又は100%である)。
【0047】
詳細には、数値定数(C)は、0.3〜0.6、例えば0.3又は0.4又は0.5又は0.6であることが好ましい。更に好ましくは、数値定数(C)は、0.4であるか、又は約0.4である(百分率で表す場合、40%であるか、又は約40%である)。例えば、以下に続く例に示すように、数値定数(C)は0.387(すなわち、38.7%)とすることができる。
【0048】
IOL設計が新規開発の結果として変更される場合、及び/又は眼内レンズを挿入する術法が変更される場合、当該変更により、手術後の眼の中のIOLの術後の平均位置が変わる可能性があることを理解できるであろう。これらの例では、眼の手術を受けた多数の個体の手術結果を分析して、平均眼内レンズ位置の統計的に信頼性のある推定値を保有する必要がある。
【0049】
これらの例では、数値定数(C)を継続的に調整して、眼内レンズ設計及び/又は術法の全ての変更を、上の好適な数式(すなわち、C=(IOL
measured−ACD
pre)/LT)を用いて表す必要がある。眼の手術を受けた個体の数が十分である場合、「C」の調整後の値を十分高い精度で求めることにより、新規の眼内レンズ設計及び/又は新しい術法を見越して用いることができる。
【0050】
好適には、本発明は、1つの方法を提供し、この方法では、ステップ(i)において、患者の前記手術前の眼の前房深度を測定する。
【0051】
「Anterior Chamber Depth」又は「ACD」とは、生来の水晶体又は人工の眼内レンズの何れの場合にも、角膜表面から水晶体の前面までの距離を指す。本明細書において使用されるように、「ACD
pre」という用語が、本明細書において定義される手術前の眼の前房深度を指しているのに対し、「ACD
post」という用語は、本明細書において定義される手術後の眼の前房深度を指している。ACDを測定する方法は、この技術分野では公知であり、そして、レーザ干渉法、超音波Aスキャン、超音波Bスキャン、X線スキャン、CTスキャン、MRスキャンを含む。
【0052】
好適な実施形態では、患者の手術前の眼の前房深度を測定するステップは多くの場合、超音波を用いて行われる。超音波で測定する項目は、超音波が角膜表面から、光線が反射される水晶体の前面にまで伝播するために要する通過時間である。眼軸長を測定する場合(以下に説明する)と同じように、この方法には幾つかの不具合があり、これらの不具合として、角膜に凹凸が測定中にできる可能性があること、及び通過時間を距離に変換する際に仮定される超音波速度の不確定性、を挙げることができる。
【0053】
別の実施形態では、患者の手術前の眼の前房深度を測定するステップにおいて、可視表面の奥行き計測手法(visible depth measurement)、光コヒーレンストモグラフィー(光断層撮影法)、干渉法、部分的干渉法、低コヒーレンス干渉法、Scheimpflug imaging(シャインプルーフ撮像)、レーザ干渉法、レーザ生体計測法からなる、又は構成される群から選択される光学的手法を使用する。
【0054】
光学的手法は、細隙灯(眼の生体顕微鏡検査を行うために広く用いられるツール)により観察される前房深度の可視表面の奥行き計測手法、及び干渉法(Haag−Streit LS900 Lenstar(C))又は眼の前眼部のシャインプルーフ撮像(製造業者の例:Oculus Inc,ドイツ製のPentacam(C)、Ziemer Inc,スイス製のGalilei(C)、CSO,イタリア製のSirius(C))を用いる更に新しい計測手法を含む。これらの方法は、眼に触れる必要がなく、そして距離測定の光学的原理を用いるので、超音波よりも信頼性が高いとみなすことができる。
【0055】
本発明の第1の態様の方法のステップ(ii)では、患者の手術前の眼の水晶体の厚さを求める必要があり、そしてこのような操作を行う幾つかの方法がこの技術分野では知られている。
【0056】
1つの実施形態では、水晶体の厚さを求めるステップにおいて、超音波を用いる。水晶体の厚さを、超音波を用いて求める方法は、この技術分野の当業者には良く知られている。当該方法を用いて測定されるのは、超音波が水晶体の前面から水晶体の後面までに伝播する通過時間である。当該方法は、考慮する必要がある幾つかの制約及び不具合を有している。例えば、白内障水晶体は等質的音響媒質ではない可能性があり、そして水晶体混濁に起因して水晶体の内部にエコーが発生すると、水晶体の後嚢からの信号がぼやける可能性がある。別の不確定性は、通過時間を距離に変換するために使用される仮定超音波速度に関連している。
【0057】
別の実施形態では、患者の手術前の眼の水晶体の厚さをステップ(ii)において、レーザ干渉法又はレーザ生体計測法を用いて求める。
【0058】
近年、レーザ干渉法を用いて、水晶体の厚さを求めている(例えば、Haag−Streit LS900 Lenstar(C)を用いて)。当該手法は、超音波よりもずっと正確であるように思われ、そして水晶体核が非等質であることに起因する誤差を生じる傾向はさほどではないように思われる。
【0059】
眼内レンズの手術後の位置を予測するステップ(iii)では、数式:
IOL
predicted=ACD
pre+CxLT
を用いることが特に好ましく、
式中、
IOL
predictedは、患者の眼の前記眼内レンズの手術後の予測位置であり、
ACD
preは、患者の眼の手術前の前房深度であり、
Cは、上に説明した数値定数であり、
LTは、患者の手術前の眼の水晶体の厚さである。
【0060】
従って、本発明の第1の態様の方法の特に好適な実施形態は:患者の眼の代替のIOLの手術後の位置を予測する方法を含み、該方法は、
(i)患者の手術前の眼の中に存在する水晶体の位置を求めるステップと、
(ii)患者の手術前の眼の前記水晶体の厚さを求めるステップと、
(iii)前記IOLの手術後の位置を、数式:
IOL
predicted=ACD
pre+CxLT
を用いて予測し、
式中、
IOL
predictedは、患者の眼のIOLの手術後の予測位置であり、
ACD
preは、患者の眼の手術前の前房深度であり、
Cは、上に説明した数値定数であり、
LTは、患者の手術前の眼の水晶体の厚さである。
【0061】
IOL
measuredは、眼内レンズの中心の位置であることが好ましい。
【0062】
第2の態様では、本発明は、患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な代替のIOLを選択する方法を提供し、該方法は、
(a)患者の眼の代替のIOLの手術後の位置を、本発明の第1の態様による方法を用いて予測するステップと、
(b)患者の手術後の眼の光学特性を、既知の度数及び幾何学形状を持つIOLが、ステップ(a)で予測した通りに設置されている状態で予測するステップと、
(c)患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な度数及び幾何学形状を持つIOLを選択するステップと、を含む。
【0063】
勿論、眼を手術して得られる所望の結果は、患者に対して、収差のない光学系を実現することであり、この光学系によって、ぼけを最小限に抑えた最良の焦点合わせ状態が得られることである。
【0064】
この技術分野では公知であるが、IOLによって矯正することができる「eye defects(眼の異常)」 の大部分では、眼鏡に使用される球面矯正及び円柱矯正と直接関連するIOLの球面屈折度数及び円柱屈折度数を選択することになる。多焦点IOLの場合、近視に必要な追加の度数を表す度数を更に「追加する」ことになる(「近距離用度数の追加矯正」)。
【0065】
眼にこれらの基本的な屈折異常がある場合は、最良の視力を与えるために必要な球面眼鏡及び円柱眼鏡による矯正で治療を行う。この診療内容は、眼鏡技師、検眼士、又は眼科医によって行われる日常的な診療内容である。視力とは、知覚できる最高視認解像度を指す、すなわち「最小文字を識別できる度合い」を指す。物理光学系では、これは、光学計測器を特徴付ける「点広がり関数」又は「変調伝達関数」と相関する。理想的には、1つの点は、1つの点として撮像される必要があるが、多くの場合、これは事実とは異なり、従ってピーク信号の周りに特定の広がりを生じることになる。
【0066】
この技術分野では公知であるが、残留する光学的な 「eye defects(眼の異常)」は、「高次の収差」と表記され、“高次の収差”として例えば:コマ収差、チルト収差、Petzval(ペッツバル)像面歪曲収差、ゆがみ収差、及び色収差を挙げることができる。物理光学系に関する教科書(Born & Wolf;“Principles of Optics”,6
th edition,Pergamon Press,New York,1980;及び、Bennetts & Rabbetts;Clinical Visual Optics,Butterworth,Londonのような)に記載されているように、多くの理論モデルを利用して、光学収差を表すことができ、これらの理論モデルとして、波面解析技術、,Zernike polynomials(ゼルニケ多項式、 及びFourier transformation(フーリエ変換を挙げることができる。ゼルニケ多項式は、非常に多くの係数を用いて、光学系全体の個々の「異常」を特徴付ける。
【0067】
角膜の光学収差異常は、角膜形状解析(corneal topography)又は角膜断層撮影のような計測法により測定することができる。眼の光学的異常は概して、臨床機器により、波面収差測定法を用いて測定することができ、この波面収差測定法では、高次の収差の全てに対応する番号を、ゼルニケ多項式モデル又は他のモデルに従って付与する。水晶体の光学的異常は、角膜の異常を眼全体の異常から減算することにより測定することができる。このようにして、眼の中のIOLの収差を測定することができる。
【0068】
一旦、所望の光学特性が患者について特定されると、適切な眼内レンズを選択することができる。眼内レンズは、ある範囲の特性を持つことができることを理解できるであろう。ほとんどの製造業者は、IOLを、IOLの「屈折度数」を表すラベルを付けて製造している。ANSIIの規定によれば、このラベルは、IOLの中心部分の厚さ、屈折率、及び曲率を表している。
【0069】
上に説明したように、IOLによって矯正することができる眼の異常の大部分では、眼鏡に使用される球面矯正及び円柱矯正と直接関連するIOLの球面屈折度数及び円柱屈折度数を選択することになる。多焦点IOLの場合、近視に必要な追加の度数を表す度数を更に「追加する」ことになる(「近距離用度数の追加矯正」)。
【0070】
しかしながら、光学特性は、IOLの近軸領域の単なる屈折度数以上のものを含んでいる。この10年間、人間の眼に見られる球面収差を補正したIOLも製造されている。更に詳細には、これは、この技術分野で公知のゼルニケ多項式のZ(4)項に関連している。補正量は、多くの場合、マイクロメートル(μm)で表され−例えば、所定の瞳孔サイズに対応する波面補正量を表す0.21μmである。しかしながら、非球面の収差補正量は異なる。幾つかのIOLが、生来の水晶体の球面収差の全てを補正しようとするために製造されてきたのに対し、他のIOLは、球面収差の一部しか補正しようとしていない。眼の「波面解析」を行って、眼の光学系に関するゼルニケ多項式による解析を行う測定装置は、この技術分野で公知である。
【0071】
従って、本発明の第2の態様の方法の特に好適な実施形態は、患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な代替のIOLを選択する方法を含み、該方法は、
(a)患者の眼の代替のIOLの手術後の位置を1つの手法により予測するステップであって、前記手法が、
(i)患者の手術前の眼の中に存在する水晶体の位置を求めるステップと、
(ii)患者の手術前の眼の中の前記水晶体の厚さを求めるステップと、
(iii)前記IOLの手術後の位置を、数式:
IOL
predicted=ACD
pre+CxLT
を用いて予測し、
式中、
IOL
predictedは、患者の眼のIOLの手術後の予測位置であり、
ACD
preは、患者の眼の手術前の前房深度であり、
Cは、上に説明した数値定数であり、
LTは、患者の手術前の眼の水晶体の厚さである、前記予測するステップと、
(b)患者の手術後の眼の光学特性を、既知の度数及び幾何学形状を持つIOLが、ステップ(a)で予測した通りに設置されている状態で予測するステップと、
(c)患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な度数及び幾何学形状を持つIOLを選択するステップと、を含む。
【0072】
本発明の第2の態様の方法のステップ(b)では、患者の手術後の眼の光学特性を、既知の度数及び幾何学形状を持つIOLが、ステップ(a)で予測した通りに設置されている状態で予測する。
【0073】
好適には、患者の手術後の眼の光学モデルを予測する前記ステップでは、患者の手術後の眼の光学モデルを構築する。光学モデル化手法は、この技術分野では公知であり、そしてこの光学モデル化手法では通常、患者の眼のモデルを当該眼の光学特性及び寸法(これらの光学特性及び寸法は、手術の前に取得しておくと都合が良い)に基づいて構築する。このようなモデルを構築し、そして解析する非常に多くの手法は、以下に更に詳細に説明するように、この技術分野で公知である。
【0074】
好適な実施形態では、患者の手術後の眼の光学モデルでは、患者の手術前の眼の角膜の曲率を測定し(例えば、本明細書において説明される角膜曲率測定法、角膜形状解析、又は角膜断層撮影により)、そして患者の手術前の眼の眼軸長を測定する(例えば、本明細書において説明される超音波又はレーザ生体計測法により)。
【0075】
一旦、患者の眼のモデルが構築されると、当該眼の中の光の屈折を解析することができ、そして既知の度数及び幾何学形状を持つ眼内レンズが当該眼の中に設置された場合の光学特性の予測を行うことができる。このようなモデル化及び予測によって、必要な球面屈折度数及び円柱屈折度数、及び患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な他の光学特性を持つ眼内レンズを選択することができる。
【0076】
上に説明したように、光が眼内媒質内を通過すると、光は多数の境界面で、スネルの法則のような物理の屈折の法則に従って屈折する。しかしながら、物理の法則を生体構造に正しく適用するためには、臨床測定値が、物理寸法を正確に表していることが重要であり、そして更に、像の知覚が、網膜への像の形成に密接に関連していることが重要である。
【0077】
本発明の方法に用いる(本発明の第2の態様の方法のステップ(b)及び(c)に用いられるような)患者の眼のモデルは、以下の表面及び/又は境界面、角膜前面、角膜後面、生体水晶体の水晶体前面、生体水晶体の水晶体後面、IOL前面、IOL後面、網膜のうちの少なくとも1つを含む。
【0078】
眼軸長
公知のことであるが、眼の正確なモデルの重要パラメータは、眼の眼軸長である。眼軸長は、高精度で測定される必要がある。眼軸長の僅か1mmの誤差が、平均的な眼の眼鏡平面内の2.5Dの誤差に変換されてしまう。
【0079】
眼軸長を測定する超音波法及び部分的干渉法のような種々の臨床検査法が存在する。
【0080】
眼軸長は、従来、超音波によっていわゆる「Aスキャン」を用いて測定されてきた。実際に測定されるのは、超音波が眼内媒質内を伝播し、そして眼球の内部の境境界面で反射されるときの超音波の通過時間である。異なる眼球部位(角膜、前房、水晶体、及び硝子体)における超音波の速度が既知であると仮定すると、角膜から眼の後方に存在する音波反射膜までの距離を計算することができる。
【0081】
公知のことであるが、眼軸長を超音波で測定する際に多数の不確定性が生じる。第1に、超音波の速度の全てが、異なる眼内媒質に対応して正確である必要があり、これは、臨床現場で見られる白内障密度のばらつきを考えると、必ずしも当てはまらない。第2に、多くの超音波法では、角膜を平坦化する手法を用いて、超音波を眼に当てるようにし、そしてこれにより、角膜の凹みが測定中にできてしまい、読み取ることができる長さが短くなってしまう。第3に、超音波で、眼の後面に存在する反射膜(恐らく、硝子体腔と網膜の神経繊維層との境界を構成する内部境界膜)までの距離を測定するが、この距離は、眼の網膜の光感受性受容器の位置までの距離と同じではない。
【0082】
超音波測定の本質的な誤差が、測定点と網膜の有効焦点面(=光受容器)の位置との差に起因して生じることから、多くの眼内レンズ度数計算式に、「網膜の厚さ」と呼ばれ、通常約0.25mmである補正項を導入せざるを得なくなっている。
【0083】
近年、部分的干渉法(「PCI」と表記される)(Drexlerら 1988)を用いるレーザ生体計測法の導入によって、眼軸長を測定することができる精度が大幅に向上している。PCI法は、Carl Zeiss Meditecr(C),Jena,ドイツ(Jena市のカールツァイスメディテック社)が製造するIOLMaster(C) instrumentとして市販されている。
【0084】
光の波長は、音の波長よりもずっと短いので、物理的解像度を大幅に高めることができる。良好な超音波測定が行われる場合の代表的な精度値は、±0.1mm以内であると言われており、PCI法を用いる場合の精度は、それよりも約10倍良い(すなわち、±0.01mm以内)と言われており、そして当該精度は、観察者に依存しない(Connors,IIIら 2002;Findlら 2003;Haigis,2001;Kissら 2002;Packerら 2002;Vogelら 2001)。更に、網膜色素上皮が、光学測定の終点となることから、PCI法による測定を、光学的により正確にしている(そして、超音波による測定よりも長くなる)。
【0085】
しかしながら、超音波を用いる測定が、仮定超音波速度に依存するのと丁度同じように、光学的生体計測法は、有水晶体眼の一連の仮定屈折率に依存する。Zeiss(ツァイス)社製IOLMaster(C)が用いる屈折率は、Haigis(Haigis,2001)により、外挿データに部分的に基づいて推定された。しかしながら、以下に示すように、有水晶体眼の屈折率校正は、一貫した読み取り値が手術前の読み取り値と手術後の読み取り値との間で得られるように調整を必要とする(Olsen及びThorwest,2005a)。
【0086】
ツァイス社製IOLMaster(C)の眼軸長読み取り値を正確に解釈するためには、当該測定装置の出力読み取り値が、眼の真の光路長ではない。すなわち、当該読み取り値が真の眼軸長ではないことを認識する必要がある。超音波を用いて長年使用されてきた多数のA定数及び他の数式定数を変更しないために、市販のツァイス社製IOLMaster(C)から得られる読み取り値を、浸漬超音波と比較して、以下の数式(Haigisら 2001;Haigis,2001)に従って校正した。
AxZeiss=(OPL/1.3549−1.3033)/0.9571
式中、
AxZeissは、ツァイス社製測定装置の出力読み取り値であり、
OPLは、PCIによって測定される光路長である。
従って、
OPL=(AxZeiss*0.9571+1.3033)*1.3549が成り立つ。
有水晶体眼の屈折率が1.3547であると仮定する(Haigis,2001)と:
Axtrue=(AxZeiss*0.9571+1.3033)*1.3549/1.3574が成り立つ。
Olsen(Olsen及びThorwest,2005b)によれば、有水晶体眼の屈折率を1.3547とすることは、最良の選択ではない可能性がある。もっと良好な値から、一貫した手術前の読み取り値及び手術後の読み取り値が得られるようにするためには、1.3616のような、より大きい屈折率を用いる必要がある。従って、ツァイス社製測定装置の読み取り値から得られる真の眼軸長は、以下の通りに計算することができる:
Axtrue=(AxZeiss*0.9571+1.3033)*1.3549/1.3616
【0087】
この変換式は、本発明の方法に使用されることが好ましい。(しかしながら、レーザ生体計測法に関する経験を多く積んでいるので、屈折率校正値は調整することができる。)
【0088】
好適には、眼の眼軸長は、干渉法により、好ましくは、低コヒーレンス干渉測定装置又は部分的干渉測定装置(Carl Zeiss MeditecIOLMaster又はHaag−Streit LS900 Lenstarのような)により測定される。
【0089】
角膜の光学特性
角膜の前面の曲率半径は、角膜曲率測定法により、及び/又は角膜断層撮影により測定されることが好ましい。更に、角膜の後面の曲率半径は、角膜の前面の曲率半径と一定の比率の半径を持つと仮定される。角膜の後面の曲率半径は、角膜の前面の曲率半径の0.84倍であると仮定されることが好ましい。
【0090】
眼の正確なモデルは、角膜表面の非球面係数が更に明らかになる場合にのみ実現する。角膜後面の非球面係数は、前面に対して直線的に変化すると仮定されることが好ましく、そして角膜後面及び角膜前面の非球面係数は、患者の年齢に依存すると仮定されることが好ましい。2006年に発表されたDubbelmanらの論文によれば、角膜前面の非球面係数は、(0.76+(患者の年齢)×0.003)であると仮定されることが好ましく、そして角膜後面の非球面係数は、(0.76+(角膜前面の非球面係数)×0.325−(患者の年齢)×0.0072)であると仮定されることが好ましい。
【0091】
球面収差は、角膜及び非球面IOLを含む多くのレンズの現象であり、この現象では、周辺光線の屈折が働く強さが中心光線とは異なって、周辺光線と中心光線とで焦点距離が異なってくる。人間の眼は、特定量の正の球面収差を持ち、これが原因で、瞳孔が大きくなる薄明視(薄明り)状態で多くの人間が体験する「夜間近視」が起きる。
【0092】
球面収差は、いわゆるStiles−Crawford effect(スタイルズ−クロフォード効果)によってある程度補正され、このStiles−Crawford効果によって、網膜感度は、光線が網膜に到達する際の角度によって変化する。Stiles−Crawford効果から、網膜感度は、瞳孔中心から入射する光線に対して最大となり、そして瞳孔周辺から入射する光線に対して低下すると予測される。Stiles−Crawford効果の結果は、Stiles−Crawford効果によって、瞳孔が大きくなるときの球面収差の影響を補正し易くなるということである(Olsen,1993)。
【0093】
好適には、IOL度数は球面収差に関して、好ましくはStiles−Crawford効果I=I
0exp(−C*Y
2)によって補正され、式中、Cは数値定数であり、そしてYは、瞳孔の中心からの距離である。Cは、Yがミリメートル(mm)単位で測定される場合に0.108であることが好ましい。
【0094】
角膜の屈折力は普通、角膜の前面の曲率を、「keratometer(角膜曲率計)」と呼ばれる測定装置で測定することにより得られる。実際に測定されるのは、眼の前面の反射面により構成される凸面鏡の倍率である。この倍率は、角膜の中心部分が球面であると仮定して、曲率半径に変換される。角膜曲率計から、角膜の屈折「度数」が得られる場合、当該屈折度数は、角膜を単一の屈折力面を持つ「thin lens(薄肉レンズ)」であると仮定することにより得られ、
式中、
F=ディオプトリで表される表面の屈折力、
r=メートルで表される曲率半径、
n
1=第1媒質(空気)の屈折率、
n
2=第2媒質(角膜)の屈折率である。
【0095】
臨床用角膜曲率計の従来の校正では、眼の表面である角膜を1つの表面として見た場合の角膜の屈折率が1.3375であると仮定し、この屈折率は次の方程式:
D=337.5/r
で与えられ、
式中、
D=ディオプトリで表される角膜の屈折力、
r=メートルで表される曲率半径である。
【0096】
Olsenによる(1986a)の論文に記載されているように、1.3375の屈折率校正値は、更に生理学的な「厚肉レンズ」理論によれば正確ではなく、この理論では、角膜屈折力は、角膜モデルによって異なるが、平均的な症例において約0.75Dだけ小さいと予測される。普通の角膜曲率計読み取り値のこの「固有の誤差」は、物理的観点から重要であるが、その理由は、補正されない場合、この誤差によって、後続の全ての計算に誤差が生じ、そして最終的に、この誤差を、眼内レンズ度数計算式に影響が出る最後の段階で補正する必要があるからである。
【0097】
別の問題は、角膜曲率半径の形状ばらつきに関わるものであり、このばらつきは、正常な角膜に見られるだけでなく、特に過去に屈折矯正手術(屈折異常を前面の曲率を変えることにより矯正する目的で行われるPRK,LASIK,LASEK,及び他のレーザ焼灼術)を受けた角膜に見られる。このようなLASIK後の角膜では、前面の形状は、球面とはかけ離れており、そして角膜表面全体の多数の箇所の曲率を測定する角膜形状解析を用いて評価される必要がある。
【0098】
角膜を「厚肉レンズ」として扱うためには、角膜の厚さ、及び後面の曲率を更に考慮に入れる必要がある。ほとんどの角膜モデルでは、後面曲率は、標準的な角膜形状を仮定したときの前面曲率と一定の比率の曲率を持つと仮定される。多年に亘って、後面の標準的な形状、従って曲率半径は、Gullstrand(Gullstrand,1924)により提案された曲率半径であると仮定されてきた。しかしながら、最近になってやっと、更に最新の研究から、角膜の両方の表面の曲率に関する詳細情報のみならず、これらの表面の非球面係数(Dunneら 1992;Dubbelmanら 2002;Dubbelmanら 2006)に関する詳細情報が得られるようになった。これらの所見から、角膜の光学系、従って眼球光学系全体を表す更に現実に近いモデルを構築する条件が整った。
【0099】
角膜の屈折率は、1.376の一定値であると仮定され、そして角膜の厚さは、0.5mの一定値であると仮定される。前面曲率は、従来の角膜曲率計を用いて、及び/又は角膜形状解析により測定されると仮定される。ディオプトリ値ではなく、曲率半径値を用いて、角膜曲率計による屈折率の問題に起因する混同を避ける。
【0100】
角膜の後面曲率が直接的に測定されない場合、角膜の後面は普通、前面と一定の比率の曲率を持つと仮定される。Dubbelman(Dubbelmanら 2002)が記述するモデルによれば、この比率は、
R
2=0.84*R
1
の関係で表され、
式中、
R
2=角膜の後面の曲率半径、
R
1=角膜の前面の曲率半径である。
【0101】
Dubbelman(Dubbelmanら 2002)による論文によれば更に、これらの角膜表面の非球面係数は次の方程式に従って患者の年齢に依存していると仮定される:
K
a=0.76+0.003*Age
K
p=0.76+0.325*K
a−0.0072*Age
式中、
K
a=角膜の前面の非球面係数、
K
p=角膜の後面の非球面係数、
Age=年で表される患者の年齢である。
【0102】
本明細書において用いられ、かつ角膜の後面中心曲率が前面曲率の84%であると予測するDubbelmanモデルは、Olsenがオリジナルの「厚肉レンズ」式に用いた前のGullstrand比率6.8/7.7(88.3%)とはかなり異なっている。仮に非球面係数を持たないとすると、これは、角膜の屈折力が、前に仮定した値よりも小さくなることを意味する。しかしながら、角膜の非球面係数を更に考慮に入れる場合(正確な光線追跡法により)、角膜の術後屈折力は、Gullstrand比率によって予測される値よりもかなり大きくなることが分かっている(Olsen,2007)。
【0103】
手術前及び手術後の眼の前房深度、及び生来の生体水晶体及び人工レンズの厚さを測定する方法が上に説明されている。
【0104】
眼内レンズの特性
眼内レンズを挿入した結果として得られる光学的な特性を予測するために、眼内レンズの度数及び幾何学形状を知ることが重要となる。眼内レンズ製造業者は通常、眼内レンズの屈折率及び厚さ、及び眼内レンズの前面及び後面の曲率に関するデータを提供し、そして度数及び幾何学形状は、これらのデータに基づいて計算されることが好ましい。
【0105】
以下に続く例において分析される眼内レンズに関する物理的記述は、眼内レンズの屈折率、厚さ、及び眼内レンズの前面及び後面の曲率に関する製造業者からのデータに基づいている。表面曲率は、挿入レンズの度数に従って変化するので、物理データを表にした値を、分類される度数の関数として用いる必要があった。
【0106】
規定(ANSI規格)によれば、眼内レンズについて分類される度数とは、レンズの近軸曲率、レンズの厚さ、及び屈折率を指す。球面眼内レンズの場合、曲率は領域全体に亘って一定である。非球面眼内レンズの場合、曲率は非球面係数によって異なり、そしてレンズの中心部分から周辺部分に向かって変化する。
【0107】
光線追跡解析の結果を分析することにより眼の光学特性を評価するために、少なくとも1つの点広がり関数を眼の網膜の位置、及び/又は最良の焦点位置について算出し、そして分析することが好ましい。
【0108】
一例として、上に説明した方法及び測定装置を用いて可能となるモデル化の例を
図3及び4に示す。
【0109】
図3は、有水晶体眼に対して光を走査する例を示しており、この光の走査は、Haag−Streit Lenstar生体計測計を用いて行われ、これにより、水晶体の厚さ(図の指差し)を含む有水晶体眼の種々のパラメータを求める際の当該生体計測計の精度が高いことを示している。普通、一連の測定値が採取されると、各測定値は、中心の角膜の厚さ(図の「CCT」)、前房深度(図の「AD」)、水晶体の厚さ(図の「LT」)、及び合計眼軸長(図の「AL」)の眼内寸法(図の左から右に向かって)を示している。図の下側に示されるのは、個々の読み取り値の間のばらつきである。干渉法を用いているので、標準偏差は、概して非常に小さく、測定が高精度で行われたことを示している。
【0110】
図4は、手術後1日が経過した時点における、
図3に示す同じ眼に対して手術後に光を走査した例を示している。生来の水晶体は、水晶体嚢内に設置される眼内レンズに置き換えられている。眼内レンズの位置は多くの場合、容易に検出され、そして測定することができる(図の指差し)。
【0111】
適切なIOLを選択して患者の眼内に挿入するために、当該眼の実物に近い光学モデルが必要であることを理解できるであろう。
【0112】
好適には、本発明の第2の態様は、患者の手術後の眼の光学モデルを構築する方法を提供し、前記方法では、患者の眼のうちの手術前の方の眼の1つ以上の特性を測定し、これらの特性は、角膜の光学系、角膜曲率半径、眼球の長さ、眼軸長、前房深度、水晶体の厚さからなる群から選択される。
【0113】
最も好適には、眼の眼軸長、及び眼の角膜の前面の曲率を測定する。これらのデータは、この技術分野で公知のIOL度数計算式に入力するために使用される。
【0114】
幾つかの症例では、別の解析を行って、角膜形状を分析する必要があることを理解できるであろう。例えば、患者がLASIK手術を水晶体再建術の前に受ける場合、この患者の角膜前面が変化し、これにより、角膜屈折力を前面データにのみ基づいて計算する標準モデルが成り立たなくなる。これらの例では、角膜の後面曲率も測定する必要があり、この測定は、高精細に撮影する最新の手法を用いて行うことができる。
【0115】
好適には、本発明の第2の態様の方法のステップ(b)では更に、患者の手術後の眼の光学モデルの光学特性を解析する。
【0116】
多年に亘って、「Olsen Formula(オルセン式)」が用いられ、このOlsen式は、いわゆる近軸光線追跡であるガウス光学系に基づく公知の理論を利用するいわゆる「厚肉レンズ」 IOL度数計算式であった。「厚肉レンズ」モデルを用いる利点は、高次の収差がないと仮定したときに複数距離を測定することができるので、このモデルによって、複数距離を使用することができることである。当該モデルは、術後眼内レンズ平面(effective lens planes:ELP)を、同じではないが、測定平面に近い想像上の平面に縮小結像させる構成の「薄肉レンズ」モデルとは異なる。
【0117】
近年、正確な光線追跡を用いる更に高機能のモデルについて記述され(国際公開第WO2010/028654号に記載される)、そして当該モデルは、当該モデルが、出来る限り少ない仮定を用い、かつ当該モデルによって光学理論を物理界から人間の眼に適用することが可能になるという利点を有する。当該手法を用いて、高次の収差(球面収差のような)、及び「厚肉レンズ」モデルでは処理しない他の特性を解析することができる。
【0118】
特に好適な実施形態では、患者の手術後の眼の光学モデルの光学特性を解析するステップにおいて、正確な光線追跡解析を用いる。このような手法は、本明細書において説明され、この技術分野では公知である(例えば、国際公開第WO2010/028654号に説明されているように)。
【0119】
別の実施形態では、患者の手術後の眼の光学モデルの光学特性を解析するステップにおいて、近軸光線追跡解析を用いる。このような手法は、本明細書において説明され、この技術分野では公知である(例えば、国際公開第WO2010/028654号に説明されているように)。
【0120】
光線追跡は、この技術分野では、眼の光学特性をシミュレーションする方法として公知であり、この方法は、スネルの屈折法則:
Sinθ
1/Sinθ
2=n
2/n
1
に基づいており、
式中、
θ
1=第1媒質に入射する光の入射角、
θ
2=第2媒質中で屈折する光の角度、
n
1=第1媒質の屈折率、
n
2=第2媒質の屈折率である。
【0121】
要約すると、所定の光学系の各表面の曲率が判明することにより、多数の光線を「発射して」、当該系を通過させることにより像をシミュレーションし、そして像平面におけるこれらの光線の分布を観察することができる。本発明の目的のために、光線追跡解析を用いる場合、個々の表面の回転対称性を仮定し、そしてこれらの光線が、入射開口領域全体に均等に分散されると仮定する。光線追跡法に関連する数学は、光工学に基づいて良く知られるところとなっており、そして楕円形及び円錐断面の表現を含む(Baker,1943)。光線追跡を実施することができる過程を表す実例を、以下に続く例において説明する。
【0122】
本発明により可能になる手術後のIOL位置の予測の向上とは、適切な光学特性を持つ、IOLを適用することができない患者を見分けることができることを意味していることを理解できるであろう。これらの症例では、このような患者は、IOLが個人専用に設計され、かつこれらの患者の眼に適する光学特性を持つように形成されることを必要とする。
【0123】
従って、第3の態様では、本発明は、患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な代替の眼内レンズを設計する方法を提供し、該方法は、
(a1)患者の眼の代替の眼内レンズの手術後の位置を、本発明の第1の態様による方法を用いて予測するステップと、
(b1)患者の手術後の眼の光学特性を、既知の度数及び幾何学形状を持つ眼内レンズが、ステップ(a)で予測した通りに設置されている状態で予測するステップと、
(c1)患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な度数及び幾何学形状を持つ眼内レンズを設計するステップと、
(d1)任意に、ステップ(c1)で設計される前記眼内レンズを製造するステップと、を含む。
【0124】
従って、本発明の第3の態様の方法の特に好適な実施形態は、患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な代替の眼内レンズを設計する方法を含み、該方法は、
(a1)患者の眼の代替の眼内レンズの手術後の位置を1つの手法を用いて予測するステップであって、前記手法が、
(i)患者の手術前の眼の中に存在する水晶体の位置を求めるステップと、
(ii)患者の手術前の眼の前記水晶体の厚さを求めるステップと、
(iii)前記IOLの手術後の位置を、数式:
IOL
predicted=ACD
pre+CxLT
を用いて予測するステップと、含み、
式中、
IOL
predictedは、患者の眼の眼内レンズの手術後の予測位置であり、
ACD
preは、患者の眼の手術前の前房深度であり;Cは、上に説明した数値定数であり、
LTは、患者の手術前の眼の水晶体の厚さである、前記予測するステップと、
(b1)患者の手術後の眼の光学特性を、既知の度数及び幾何学形状を持つ眼内レンズが、ステップ(a1)で予測した通りに設置されている状態で予測するステップと、
(c1)患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な度数及び幾何学形状を持つ眼内レンズを設計するステップと、
(d1)任意に、ステップ(c1)で設計される前記眼内レンズを製造するステップと、を含む。
【0125】
好適には、本発明の第3の態様の方法のステップ(b1)は、本発明の第2の態様に関連して上に説明した通りに行われる。
【0126】
従って、好適には、ステップ(b1)では、患者の手術後の眼の光学モデルを構築する。光学モデル化手法は、この技術分野では知られており、そしてこの光学モデル化手法では通常、患者の眼のモデルを、当該眼の光学特性及び寸法(これらの光学特性及び寸法は手術前に採取することができると都合が良い)の測定値に基づいて構築する。一旦、患者の眼のモデルが構築されると、当該眼の中の光の屈折を解析することができ、そして既知の度数及び幾何学形状を持つ眼内レンズが当該眼の中に設置されると、光学特性についての予測を行うことができる。このようなモデル化及び予測によって、患者の手術後の眼の所望の光学特性を維持するために必要な度数及び幾何学形状を持つ眼内レンズを選択することができる。
【0127】
好適には、患者の手術後の眼の光学モデルを構築するステップでは、患者の眼のうちの手術前の方の眼の1つ以上の特性を測定し、これらの特性は、角膜光学系、角膜曲率半径、眼球の長さ、眼軸長、前房深度、水晶体の厚さからなる群から選択される。
【0128】
適宜、ステップ(b1)では更に、患者の手術後の眼の光学モデルの光学特性を解析する。好適には、このような解析では、正確な光線追跡解析又は近軸光線追跡解析を用いる。このような手法は、本発明の第2の態様に関連して上に説明されている。
【0129】
IOLを設計し、そして製造する方法は、この技術分野の当業者には公知であり、そして例えば、Born & Wolf (“Principles of Optics”,6
th edition,Pergamon Press,New York,1980)及びBennett & Rabbetts (Clinical Visual Optics,Butterworth,London)による論文に説明されている。
【0130】
IOLは、長年に亘って眼に適合することが立証されてきた材料により製造され、そして現在の光学性能製造規格に従って形成される(特定の許容誤差に収まるように)。度数に関する許容誤差については、ANSII規格がある。この産業では、IOLの光学特性は多くの場合、背面焦点距離及びいわゆる点広がり関数、又はいわゆる変調伝達関数(MTF)を測定するための「optical bench(光学ベンチ)」で求めることができる。光工学では、広く使用されているソフトウェアプログラムはZEMAX(ゼマックス)であり、このZEMAXは、物理情報が与えられると、詳細な光学解析を任意の光学構造(眼を含む)に対して実行することができる。
【0131】
好適には、ステップ(c1)で設計されるIOL、及び/又はステップ(d1)で製造されるIOLは、患者の眼の水晶体嚢内への挿入に適合させる。このようなIOLの特徴、及び水晶体嚢内への挿入を行う方法は、上に説明され、この技術分野で知られている。
【0132】
第4の態様では、本発明は、代替の眼内レンズを患者の眼内に挿入する方法を提供し、該方法は、
(a2)患者の眼の代替の眼内レンズの手術後の位置を、本発明の第1の態様による方法を用いて予測するステップと、
(b2)任意に、存在する水晶体を患者の手術前の眼から取り除くステップと、
(c2)眼内レンズを提供するステップと、
(d2)前記眼内レンズを患者の眼内に挿入するステップと、を含む。
【0133】
従って、本発明の第4の態様の方法の特に好適な実施形態は、代替の眼内レンズを患者の眼内に挿入する方法を含み、該方法は、
(a2)患者の眼の代替の眼内レンズの手術後の位置を1つの手法を用いて予測するステップであって、前記手法が、
(i)患者の手術前の眼の中に存在する水晶体の位置を求めるステップと、
(ii)患者の手術前の眼の前記水晶体の厚さを求めるステップと、
(iii)前記IOLの手術後の位置を、数式:
IOL
predicted=ACD
pre+CxLT
を用いて予測するステップと、含み、
式中、
IOL
predictedは、患者の眼の眼内レンズの手術後の予測位置であり、
ACD
preは、患者の眼の手術前の前房深度であり、
Cは、上に説明した数値定数であり、
LTは、患者の手術前の眼の水晶体の厚さである、前記予測するステップと、
(b2)任意に、水晶体を患者の手術前の眼から取り除くステップと、
(c2)眼内レンズを提供するステップと、
(d2)前記眼内レンズを患者の眼内に挿入するステップと、を含む。
【0134】
水晶体を患者の手術前の眼から取り除くステップ(b2)は、水晶体が存在していない(例えば、疾病又は疾患により損傷している、又は破砕されていることにより)場合には不要となることを理解できるであろう。
【0135】
1つの実施形態では、本発明の第4の態様の方法のステップ(c2)において提供される眼内レンズは、本発明の第2の態様による方法を用いて選択される。
【0136】
別の実施形態では、本発明の第4の態様の方法のステップ(c2)において提供される眼内レンズは、本発明の第3の態様による方法を用いて設計され、そして任意に、製造される。
【0137】
好適には、ステップ(c2)において提供されるIOLは、患者の眼の水晶体嚢内への挿入に適合させる。好適には、ステップ(d2)では、眼内レンズを患者の眼の水晶体嚢内に挿入する。眼内レンズを患者の眼内に挿入するために適する方法は、この技術分野では公知であり、そして本明細書において説明されている。
【0138】
本発明の方法は、IOLを、眼の疾患及び/又は疾病を患っている患者の眼内に挿入するときに用いることができ、そしてIOLの当該挿入によって、当該疾病又は疾患を治療する、及び/又は防止する、及び/又は軽減することができることを理解できるであろう。
【0139】
従って、第5の態様では、本発明は、患者の眼の疾病又は疾患を治療する、及び/又は防止する、及び/又は軽減する方法を提供し、該方法は、
(a3)患者の眼の代替の眼内レンズの手術後の位置を、本発明の第1の態様による方法を用いて予測するステップと、
(b3)任意に、存在する水晶体を患者の手術前の眼から取り除くステップと、
(c3)眼内レンズを提供するステップと、
(d3)前記眼内レンズを患者の眼内に挿入するステップと、
を含む。
【0140】
水晶体を患者の手術前の眼から取り除くステップ(b3)は、水晶体が存在しない(例えば、疾病又は疾患により損傷している、又は破砕されていることにより)場合には不要となることを理解できるであろう。
【0141】
従って、本発明の第5の態様の方法の特に好適な実施形態は、患者の眼の疾病又は疾患を治療する、及び/又は防止する、及び/又は軽減する方法を含み、該方法は、
(a3)患者の眼の代替の眼内レンズの手術後の位置を1つの手法を用いて予測するステップであって、前記手法が、
(i)患者の手術前の眼の中に存在する水晶体の位置を求めるステップと、
(ii)患者の手術前の眼の前記水晶体の厚さを求めるステップと、
(iii)前記IOLの手術後の位置を、数式:
IOL
predicted=ACD
pre+CxLT
を用いて予測するステップと、含み、
式中、
IOL
predictedは、患者の眼の眼内レンズの手術後の予測位置であり、
ACD
preは、患者の眼の手術前の前房深度であり、
Cは、上に説明した数値定数であり、
LTは、患者の手術前の眼の水晶体の厚さである、前記予測するステップと、
(b3)任意に、前記水晶体を患者の手術前の眼から取り除くステップと、
(c3)眼内レンズを提供するステップと、
(d3)前記眼内レンズを患者の眼内に挿入するステップと、を含む。
【0142】
水晶体を患者の手術前の眼から取り除くステップ(b3)は、水晶体が存在しない(例えば、疾病又は疾患により損傷している、又は破砕されていることにより)場合には不要となることが理解できるであろう。
【0143】
1つの実施形態では、本発明の第5の態様の方法のステップ(c3)において提供される眼内レンズは、本発明の第2の態様による方法を用いて選択される。
【0144】
別の実施形態では、本発明の第5の態様の方法のステップ(c3)において提供される眼内レンズは、本発明の第3の態様による方法を用いて設計され、そして任意に、製造される。
【0145】
好適には、ステップ(c3)において提供されるIOLは、患者の眼の水晶体嚢内への挿入に適合させる。好適には、ステップ(d3)では、眼内レンズを患者の眼の水晶体嚢内に挿入する。眼内レンズを患者の眼内に挿入するために適する方法は、この技術分野では公知であり、本明細書において説明されている。
【0146】
好適には、患者の眼の疾病又は疾患は、近視(すなわち、近眼)、遠視(すなわち、遠眼)、老眼、乱視、屈折異常、白内障、混濁、水晶体黄変(すなわち、水晶体の濁り)からなる群から選択される。このような疾病及び疾患は公知であり、この技術分野の当業者であれば、このような疾病及び疾患を特定する方法を認識しているであろう。
【0147】
好適には、本発明の第1の態様及び/又は本発明の第2の態様、及び/又は本発明の第3の態様、及び/又は本発明の第4の態様、及び/又は本発明の第5の態様の方法における患者は、哺乳動物、例えば人間である、又は、馬、牛、豚、羊、犬、猫、兎からなる群から選択される哺乳動物のような農業用哺乳動物、又は経済価値のある哺乳動物である。好適な実施形態では、患者は人間である。
【0148】
第6の態様では、本発明は、コンピュータに指示して、本発明の第1の態様及び/又は本発明の第2の態様、及び/又は本発明の第3の態様、及び/又は本発明の第4の態様、及び/又は本発明の第5の態様による方法を実行させるコンピュータプログラムを提供する。
【0149】
従って、本発明は、先行技術における問題を解決することができ、そして患者の眼の眼内レンズの手術後の位置を予測する方法を改善することができる。上に説明したように、本発明は、本発明が、仮想的な手術後の位置ではなく、眼内レンズの物理的に明らかな手術後の真の位置を利用する予測方法を提供するので極めて有利である。
【0150】
眼内レンズの位置を手術前に予測する、及び/又は眼内レンズ度数を計算するために用いられ、かつ本発明が考案される前に用いられていた方法について以下に説明する。
【0151】
先行技術による方法
何れの眼内レンズ度数計算式の目的も、水晶体再建術により眼内レンズを挿入した結果として得られる光学的な特性を制御することにある。
【0152】
多数の数式を記載して、眼内レンズ度数を計算することにより、当該眼内レンズ度数を白内障手術に用いてきた(参考として、以下のOlsenによる2007年の論文の「Early formulas」の章を参照されたい)。これらの数式のほとんどは、以下の方法により導出されている。すなわち、眼の光学系の簡単な「薄肉レンズ」モデル、大母集団の患者が最終的な屈折力特性について解析された症例、及び個々の症例における術後眼内レンズ平面(ELP)について逆方向に解く数式に基づいて導出されている。
【0153】
ELPは、仮想距離とみなすことができ、この仮想距離から、測定データセットを含む特定の数式に使用される場合、観察された屈折力特性が得られる。多数の症例の平均をとることにより、所定の眼内レンズ種類に対応する母集団の平均値を表す平均ELP(又は、SRK手法におけるA定数)が導出される。
【0154】
現在利用可能な数式の全てが、眼の光学系を表す非常に簡易化されたモデルを用いているので、これらの数式は、多数の補正項を観察データに基づいて遡及的に計算して、これらの補正項の効果を正確に取り入れる必要がある。これらの「fudge(補正)」係数の例として、「A定数」(SRK式)、「手術係数」(Holladay)、又は「術後ELP又はACD」(Hoffer式又はBinkhorst式)を挙げることができる。「補正」手順によって確実に、特定の数式を用いる予測が、平均的な症例において正確になる。しかしながら、当該手順によって確実に、予測が個々の症例において正確になる訳ではない。
【0155】
上記数式のほとんどは、手術前に測定される重要な入力パラメータを2つしか用いていない。
(1)角膜の前面曲率の測定値にほぼ近い値である角膜の角膜曲率測定値(K−reading:K値)
(2)眼球の長さ−超音波又はレーザ干渉法によって測定される眼軸長として知られる。
【0156】
これらの2つの変数に基づいて、当該数式に、術後眼内レンズ固定位置(ELP)を表す数学モデルを取り入れる。しかしながら、K値、及び眼軸長を個々のELPに変換する正確な操作は、数式で表現されており、そして数式ごとに異なっている。
【0157】
従来のIOL度数計算式
人工レンズの初めての挿入は、Harold Ridleyによって1949年に行われた。しかしながら、1970年代になってやっと、人工レンズの挿入が日常的な臨床実践となり、そして当該時点以後、挿入される眼内レンズの屈折度数を計算する幾つかの方法について記載されてきた。
【0158】
第1の方法では、「薄肉レンズ)の光学的−物理的理論から判明する光学方程式を用いた。これらの方法は、以下の仮定に基づく簡易式であった。
(1)角膜は「薄肉レンズ)であり、この薄肉レンズの屈折力は測定することができる。
(2)眼内レンズも、既知の術後度数を持つ「薄肉レンズ)である。
(3)眼内レンズの位置は、固定されていると仮定する;。
(4)眼の表面(角膜)から眼の後面(網膜)までの距離は、臨床方法により測定することができる距離である。
【0159】
かなりのばらつきを伴って、これらの初期の「薄肉レンズ)眼内レンズ度数計算式の公式は、次式の通りに表すことができる(Olsen,2007)。
式中、
K=ディオプトリで表される角膜の屈折力、
d=角膜から眼内レンズのレンズ平面までの距離(前房深度(「ACD」)と表記される場合があるが、より正確には、 「ACD」の厳密な意味が、水晶体の前面までの距離であり、そしてこの位置が、「薄肉レンズ)手法には現われないので、術後眼内レンズ平面(「ELP」)と表記される)、
n
1=房水(ACD)の屈折率、
Ax=眼の眼軸長(角膜表面から網膜までの距離)、
n
2=眼内レンズの後方の(硝子体腔の)媒質の屈折率、
P0=正視(裸眼視力)が手術後に得られるために必要なディオプトリで表される眼内レンズの度数である。
【0160】
「薄肉レンズ)式の例として:Colenbrander式(Colenbrander,1973),Fyodorov式(Fyodorovら 1975);Binkhorst式(Binkhorst,1975;Binkhorst,1979);Gernet式(Gernet,1990);Hoffer式(Hoffer,1993a;Hoffer,2000);Holladay式(Holladayら 1988)を挙げることができる。
【0161】
しかしながら、上記「薄肉レンズ)眼内レンズ度数計算方程式の簡易公式の中には、幾つかの未知項が含まれ、これらの未知項を求めて未知項の効果を臨床実践に取り入れる必要がある。これらの未知項のうちの幾つかの未知項は、使用すべき屈折率、角膜屈折力を正確に計算するための計算式、眼軸長測定値の精度、距離測定値を、光学的に意味を持つ距離に変換する計算式、及び高次の収差を取り除く計算式を含む。しかしながら、最も重要な未知項は、数式で仮定される固定値ではなく、大きな個体間のばらつきの影響を受ける「d」(ELP)の厳密値である。従って、数式の効果を全ての症例において取り入れる場合、個々のELPが、各症例において予測される必要がある。
【0162】
未知項の数が極めて多いので、これらの利用可能な数式の全ては、補正項及び個人係数を用いて、数式を調整して現実の臨床生活に合わせる必要がある。
【0163】
実験式
しかしながら、初期の理論式の導入後直ぐの時点で、臨床試験から、これらの数式の精度が、いわゆる「実験式」の精度よりも劣っていることが判明した。後出の実験式は、統計的(多重線形回帰)手法を用いて、臨床測定値と正視(視力矯正用の眼鏡を必要としない眼を特徴付けるために使用される用語)に必要な眼内レンズの屈折度数との間の線形関係を表している。
【0164】
回帰手法の最も重要な例が、いわゆるSRK(Sanders−Retzlaff−Kraff)式(Retzlaff,1980;Sandersら 1981;Sandersら 1988;Retzlaffら 1990;Sandersら 1990)であり、これらのSRK式は、角膜屈折力の手術前の測定値(「K値」)を用いた非常に多くの症例に関する統計的解析、超音波(「Aスキャン))により求めた眼の眼軸長、実際の挿入眼内レンズ度数、及び観察屈折力(眼鏡矯正)に基づいて表されている。
【0165】
元のSRK I式は、次式で表される単純線形回帰方程式(Retzlaff,1980)であった:
P
0=A−0.9K−2.5Ax
式中、
P
0=裸眼視力(「正視」)の挿入眼内レンズの度数、
K=角膜測定器のディオプトリ値(屈折率1.3375を用いる)、
Ax=超音波により測定される眼の眼軸長、
A=眼内レンズの種類、及び手術法によって異なる「A定数」である。
【0166】
「A定数」の考え方は、この定数が、眼内レンズ種類、手術法及び測定法、及び眼内への設置位置の差を含む系の全ての屈折誤差を吸収することができる「ブラックボックス」定数として作用するということであった。体系的な屈折誤差を無くすために、「A定数」を、術者固有の術法に従って「個人化する」ことが推奨されてきた。
【0167】
元のSRK I式、及び後続のバージョン(SRK II式、SRK/T式)の成功は、当該数式が経験データに基づいて表されているので、当該数式の効果を、体系的な誤差を生じることなく平均的な症例に取り入れるように数式を作成することができたという事実に起因していた。しかしながら、当該数式は、統計的解析に基づいて表されているので、予測値は、遠視及び近視のような異常がある眼、すなわち角膜が急勾配又は平坦になっている眼、及び屈折異常の眼ではより小さい値となることが判明している(Olsen,1987c;Olsen,1987b;Olsenら 1990b;Olsenら 1991)。更に、当該数式は、測定法を含む経験データに純粋に依存していたので、当該数式は、手術法又は測定法に差(及び、場合によっては改善)が見られる異なる臨床環境において、まず第1に眼軸長の測定において使用するのが容易ではなかった。
【0168】
更に、種々の「薄肉レンズ」の眼内レンズ度数計算式に使われる数学表現から分かるように、ELPの推定は、K値及び眼軸長にのみ基づいて行われ、そしてユーザが見ただけでは容易には理解することができない数式で表されている。
【0169】
初期の理論式
初期の理論式の時点では、手術後の挿入眼内レンズの実際の位置についてほとんど分かっていなかった。
【0170】
例えば、Binkhorst I式(Binkhorst,1979)は、ELPの固定値を用いて、挿入眼内レンズの術後位置を各症例において予測した。今日、ELP(又は、ACD)が固定値ではなく、眼の寸法によって異なるという証拠が蓄積されている。これらの寸法要素の中でもとりわけ、手術前の眼球の長さ(Ax)、手術前の前房深度(ACDpre)、水晶体の厚さ、及び角膜曲率半径を挙げることができる。
【0171】
図5は、手術前の眼の眼球部位(「有水晶体眼」−上側部分)及び手術後の眼の眼球部位(「偽有水晶体眼」−下側部分)を示しており、これらの眼球部位には、挿入眼内レンズの位置の予測に用いられる重要な変数、すなわち 「Ax」=眼軸長、「ACDpre」=手術前のACD、「LT」=水晶体の厚さ、「CR」=角膜の前面曲率半径、「H」=角膜高さ、「ACDpost」=手術後の前房深度が示されている。
【0172】
球面収差及びStiles−Crawford correction(スタイルズ−クロフォード補正
これまでの節では、眼の光学系を複合レンズ系として記載し、そして全ての光線が、網膜に写る像に対して同じ重要度を持つと仮定してきた。しかしながら、必ずしもそのようである必要はない。いわゆるStiles−Crawford効果 (Stiles&Crawford,1933)により、網膜感度は、光線が網膜に到達する角度によって異なる。Stiles−Crawford効果から、網膜感度は、瞳孔中心から入射する光線に対して最大になり、そして瞳孔周辺から入射する光線に対して低下すると予測される。これらの効果は以下の数式により表される。
I=I
0exp(−0.108*Y
2)
式中、
Y=mmで表される瞳孔の中心からの距離である。
【0173】
図6は、Stiles−Crawford効果を示し、網膜感度を中心軸(この図のx軸であるが、光線追跡方式ではy軸となる)からの距離の関数として示している。
【0174】
Stiles−Crawford効果が知覚像に与える影響は、Stiles−Crawford効果によって、瞳孔が大きくなるときの球面収差の影響が補正され易くなることである(Olsen,1993)。球面収差は、角膜及び非球面IOLを含む多くのレンズの現象であり、この現象では、周辺光線がより大きく屈折し、そして周辺光線が中心光線よりもより短い焦点距離で集光する。人間の眼の球面収差は、現実の球面収差であり、そしてこの球面収差のために「夜間近視」になり、この「夜間近視」を多くの人が、瞳孔が大きくなる薄明視(薄暗がり)状態で体験する。
【0175】
球面収差は、光学系が、「薄肉レンズ」又は「厚肉レンズ」に従って表現される場合には考慮されないが、光線追跡を用いて容易に明らかにすることができる。光線追跡の別の利点は、Stiles−Crawford効果を、各光線にStiles−Crawford関数に従った重みを付けることにより考慮することもできることである。
【0176】
最新の開発
挿入眼内レンズに関する任意の光学方程式の最も重要な構成要素群のうちの1つの構成要素は、手術後の挿入眼内レンズの位置の個々の予測値である。
【0177】
Olsen式(Olsen,1987a;Olsen,1987c;Olsenら 1990b;Olsenら 1991;Olsen及びCorydon,1993;Olsen及びGimbel,1993;Olsen,2004)を除いて、眼内レンズ度数計算式を用いる現在の方法の全ては、手術後の眼内レンズの位置の仮想モデルを用い、この仮想モデルでは、眼内レンズの位置は、物理的に測定可能な距離としてではなく、「薄肉レンズ」計算を行うと仮定した場合の角膜表面から眼内レンズの術後レンズ平面までの距離として定義される「術後眼内レンズ固定位置(ELP)」として表される。
【0178】
多年に亘って、Olsen式は、「厚肉レンズ」手法を用いる唯一の数式であり、これは、角膜及び眼内レンズを、有限厚さを持ち、かつ主平面を正確に補正した「厚肉レンズ」のように扱っていたことを意味している。Olsen(Olsen,1987a)が最初に提唱した「厚肉レンズ」計算の考え方は、眼内レンズの位置を物理的に測定可能な距離として定義することであり、これは最終的に、臨床法によって正しいことを確認することができた。眼内レンズ度数計算式の多くの改善は、手術後の前房深度(「ACDpost」と表記される)を予測するアルゴリズムの改善に関わるものである(Olsen,1986b;Holladayら 1988;Olsenら 1990a;Olsenら 1992;Hotter,1993b;Olsenら 1995;Haigis,2004;Olsen,2006)。
【0179】
しかしながら、「厚肉レンズ」モデルは、眼の眼内レンズの位置をより現実に近い形で表現する「薄肉レンズ」モデルよりも優れているのではあるが、「厚肉レンズ」モデルは依然として、光学系の表面を球面と仮定している。角膜又は眼内レンズは何れも、必ずしも球面ではないので、より良好なモデルは、正確な光線追跡に基づいており、この光線追跡は、光線追跡の効果を何れの表面形状にも取り入れることができるように行うことができる。
【0180】
本明細書において、明らかにこれまでに公開されている文書を列挙している、又は説明していることを、当該文書が最先端技術の一部であるという、又は広く一般的に知られているという認識として必ずしも解釈すべきではない。
【0181】
次に、本発明の特定の態様を具体的に提供する好適かつ非限定的な例について、以下の図を参照して説明する。