特許第6038912号(P6038912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6038912シロリムスを制御放出するためのシロリムスコーティングされたカテーテルバルーンを有するバルーンカテーテル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6038912
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】シロリムスを制御放出するためのシロリムスコーティングされたカテーテルバルーンを有するバルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/00 20060101AFI20161128BHJP
   A61F 2/958 20130101ALI20161128BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20161128BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20161128BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20161128BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   A61L29/00 Z
   A61F2/958
   A61M25/10
   A61L29/00 W
   A61L31/00 Z
   A61K31/436
   A61P9/10
【請求項の数】10
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2014-519507(P2014-519507)
(86)(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公表番号】特表2014-526916(P2014-526916A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】EP2012063301
(87)【国際公開番号】WO2013007653
(87)【国際公開日】20130117
【審査請求日】2015年2月10日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2011/003564
(32)【優先日】2011年7月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513195411
【氏名又は名称】カーディオノブーム エスぺー. ゼット. オー. オー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】オーロウスキ ミカエル
【審査官】 金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−511215(JP,A)
【文献】 特表2010−516307(JP,A)
【文献】 特表2009−541007(JP,A)
【文献】 特表2005−525411(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/046641(WO,A1)
【文献】 特表2007−506775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61M 3/00− 9/00
A61M25/00−99/00
A61F 2/82− 2/97
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのオメガ脂肪酸、およびセラック、およびシロリムスによりコーティングされ、前記少なくとも1つのオメガ脂肪酸が、オメガ‐3脂肪酸、またはオメガ‐6脂肪酸、またはオメガ‐7脂肪酸、またはオメガ‐9脂肪酸である、カテーテルバルーン。
【請求項2】
前記少なくとも1つのオメガ‐3脂肪酸は、エイコサペンタエン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサヘキサエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ステアリドン酸、ヘンエイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、テトラコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、およびα‐リノレン酸、ならびに上述の脂肪酸の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のカテーテルバルーン。
【請求項3】
前記少なくとも1つのオメガ‐6脂肪酸は、リノール酸、ガンマ‐リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ‐ガンマ‐リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸、ドコサペンタエン酸、アドレン酸、テトラコサテトラエン酸、テトラコサペンタエン酸、およびカレンド酸、ならびに上述の脂肪酸の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のカテーテルバルーン。
【請求項4】
前記少なくとも1つのオメガ‐7脂肪酸は、5−ドデセン酸、7−テトラデセン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、15−ドコセン酸、および17−テトラコセン酸からなる群から選択される、請求項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項5】
前記少なくとも1つのオメガ‐9脂肪酸は、オレイン酸、エライジン酸、エイコセン酸、ミード酸、エルカ酸、およびネルボン酸からなる群から選択される、請求項1に記載のカテーテルバルーン。
【請求項6】
前記コーティングはさらにトップコートを含む、請求項1からのいずれか1項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項7】
前記トップコートは、ポリアクリル酸、およびポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなどのポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリエチレンアミン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリカーボウレタン、ポリビニルケトン、ポリビニルハロゲン化物、ポリビニリデンハロゲン化物、ポリビニルエーテル、ポリビニルアロメート、ポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ポリオキシメチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリオレフィンエラストマー、ポリイソブチレン、EPDMゴム、フルオロシリコーン、カルボキシメチルキトサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリバレレート、カルボキシメチルセルロース、セルロース、レーヨン、レーヨントリアセテート、セルロースナイトレート、セルロースアセテート、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースブチレート、セルロースアセテート‐ブチレート、エチルビニルアセテート共重合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エポキシ樹脂、ABS樹脂、EPDMゴム、シリコーンプレポリマー、ポリシロキサンなどのシリコーン、ポリビニルハロゲンおよび共重合体、セルロースエーテル、セルローストリアセテート、キトサン、キトサン誘導体、天然ポリマー、アマニ油などの重合性油、ならびに、それらの共重合体および/または混合物からなる群から選択される、請求項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項8】
前記トップコートは、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなる群から選択される、請求項またはに記載のカテーテルバルーン。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載のカテーテルバルーンを含むバルーンカテーテル。
【請求項10】
再狭窄を防止または低減するのに適した、請求項に記載のバルーンカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスからなる、またはそれらを含むコーティングを有するバルーンカテーテルのカテーテルバルーンに関する。任意選択的には、そうしたコーティングカテーテルバルーンにステントが圧着される。
【0002】
アテローム性動脈硬化症は、血管壁の進行性変化を伴う動脈の慢性進行性変性を特徴とする。健康な動脈は弾力があり、滑らかな内表面を持つのに対し、病的な動脈は硬化して弾力がなく、肥厚し狭小化して見える。アテローム性動脈硬化症は、コラーゲンおよびプロテオグリカンの蓄積だけでなく、結合組織の増殖、コレステロールおよび脂肪酸の細胞内および細胞外沈着、石灰化も引き起こす。この動脈の狭小化、またはさらには閉塞は、狭窄と呼ばれる。もっとも影響を受ける領域は、血管分枝などの血液の定常層流が妨げられる部位である。
【0003】
アテローム性動脈硬化症の一般的で重要な発現は、冠動脈性心疾患(CHD)である。冠動脈血流が制限されるために、追加の血栓形成による動脈分岐部の部分閉塞または完全閉塞の危険性が存在する。狭窄したまたは閉塞した冠動脈のために血液が減少し、その結果、心筋の酸素供給が減少するため、心筋の正常機能がその際危険にさらされる。
【0004】
心臓に血液を供給する1つ以上の冠動脈が完全にまたは決定的に閉塞すれば、心筋梗塞が起こる。心筋はもはや十分な血液および酸素を供給されず、細胞死へとつながるプロセスを開始する。
【0005】
バルーンカテーテルを使用した冠動脈の拡張、および必要に応じてそれに続くステントの留置は、狭窄の治療の選択肢の1つである。一方で、バルーン拡張術が重要な手法として確立されている。打ち延ばしできる脂肪物質の沈着物により引き起こされた冠血管の狭窄は、バルーン拡張術により治療され得るため、多くの症例でバイパス手術が不要である。
【0006】
かなり進行したアテローム性動脈硬化症によって血管壁がすでに深刻に傷ついているために、バルーン拡張術のみでは十分な成功が見込めなければ、ステントを付加的に使用してもよい。ステントは、血管壁のバルーン除去後も永久に残る。時間を経て、血管壁の細胞がステント周りに育ち、そのため、ステントは動脈壁内で支持体となる。バルーン拡張術およびステント留置術は、しばしば同時に用いられる。2007年には、ドイツで約300,000件の冠動脈インターベンションが行われた[van Buuren and Horstkotte. 24. Kardiologe. 2009;3:512‐518]。
【0007】
ステント留置がもたらすこれらの利益にも関わらず、ステント留置は明らかな不利益をももたらす。3バール以上ほどの低い圧力でさえも血管内皮の完全な破壊を引き起こすため、ステント拡張術は、機械的損傷、および表皮剥脱と呼ばれる血管内皮の剥離だけでなく、血管内膜と中膜との間の出血(解離)を続いて伴う血管内膜の断裂を引き起こす可能性がある。このため、ステント留置術は外傷性の手法であり、多因子プロセスにおいて、反応性の複雑な細胞メカニズムにより開始され拡張される、再狭小化した、または再狭窄した血管管腔、いわゆるステント内再狭窄へと至る[Kornowski R, Hong MK, Tio FO, Bramwell O, Wu H, Leon MB. ステント内再狭窄:炎症反応および動脈損傷の新生内膜過形成への寄与(In−stent restenosis:contributions of inflammatory responses and arterial injury to neointimal hyperplasia). J Am Coll Cardiol. 1998;31:224‐30]。
【0008】
ステント内再狭窄の発生は、炎症、肉芽形成、再造形という3つの不可欠の段階に分けられる[Schillinger M, Minar E. 経皮的血管形成術後の再狭窄:血管炎症の役割(Restenosis after percutaneous angioplasty:the role of vascular inflammation). Vasc Health Risk Manag. 2005;1:73‐8]。第1段階でステントによって引き起こされた内皮剥離の数分後に、血流に暴露された損傷血管壁に血小板の沈着が起こり、セグメント化された核を有する顆粒球および他の炎症細胞が、種々の増殖因子の放出を伴いながら、移入する。第2段階では、中膜に位置する増殖力が増した刺激平滑筋細胞のおよそ30%が中膜の領域から内膜へ遊走し、そこで刺激平滑筋細胞は表現型を収縮型から分泌型に変化させ、管腔においていくつかのマトリクスタンパク質を分泌する。そのため、平滑筋細胞の遊走および増殖の程度は、主として初期の炎症程度に依存する。さらに、第2段階において、ステントの内皮化(再内皮化)の開始が記録されるであろう。再内皮化が遅延すれば、血管管腔に表現型が変化した平滑筋細胞の蓄積が起こる。このプロセスは内膜過形成の増加と関連があると思われる[Grewe PH, Deneke T, Machraoui A, Barmeyer J, Muller KM. 冠動脈ステント留置に対する急性および慢性組織応答:ヒト試料の病理所見(Acute and chronic tissue response to coronary stent implantation:pathologic findings in human specimen). J Am Coll Cardiol. 2000;35:157−63. Schwartz RS, Huber KC, Murphy JG, Edwards WD, Camrud AR, Vliestra RE, Holmes DR. 再狭窄、および冠動脈損傷に対する比例型新生内膜反応:ブタモデルの結果(Restenosis and the proportional neointimal response to coronary artery injury: results in a porcine model). J Am Coll Cardiol. 1992;19:267−74]。
【0009】
再狭窄の誘発を防ぐために、抗増殖剤の使用が適切である。この場合、細胞増殖阻害薬の全身投与は可能ではない。なぜなら、一方で心臓に投与される有効全身濃度は有害であり、他方で耐容性良好な全身濃度は心臓において有効ではないだろうからである[Kolodgie FD, John M, Khurana C, Farb A, Wilson PS,Acampado E, Desai N, Soon−Shiong P, Virmani R. 新規全身性ナノ粒子パクリタキセルの使用に伴うステント内新生内膜増殖の持続的低減(Sustained reduction of in‐stent neointimal growth with the use of a novel systemic nanoparticle paclitaxel). Circulation. 2002;106:1195−8]。
【0010】
コーティングカテーテルバルーンはすでにWO 2005/089855 A1により知られている。国際特許出願 WO 2004/028582 A1には、特に折畳み部内で薬剤と造影剤との混合物によりコーティングされた多重バルーンが開示されている。カテーテルバルーンをスプレーコーティングする方法は、WO 2004/006976 A1に記載されている。
【0011】
脂肪酸は、トリアシルグリセリンの形で化学エネルギーを得るための燃焼性物質として使用されて貯蔵され得るか、ホスホグリセリドやスフィンゴリピドなどの膜構成化合物の形で細胞の形成と存続とを確実にする、水、酵素、および炭水化物以外の重要な生体分子である、水に溶解しない油性または脂肪性の物質である。
【0012】
EP 0 404 683 B1には、血液と接触している医療表面上の脂肪酸の利用について記載されている。脂肪酸、特にリノール酸は、血液適合性の改善のために、使用される親水性ポリマーに共有結合している。言及された使用例は、人工臓器、透析装置、血液フィルタ、およびカテーテルである。
【0013】
WO 03 039 612 Aもまた、心血管系に及ぼす不飽和脂肪酸の既知の抗血栓効果および抗増殖効果に関しており、オリーブ油、ヒマワリ油、パーム油、および魚油、特にタラ肝油のような購入可能な油によるステントのコーティングについて、初めて記載している。使用される液体油は抗血栓性コーティングとして利用される。
【0014】
本発明の目的は、拡張術中にシロリムスを制御放出するためのマトリクスを提供することである。したがって、本発明の目的は、再狭窄の治療および予防において高度に効率的なシロリムス溶出カテーテルバルーンを提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、再狭窄の低減に関する治療効果を達成することができるように、効果的に血管壁に運ばれ得るが拡張中のバルーンから容易に離脱するコーティングを作成するような方法で、シロリムスをカテーテルバルーンに塗布することである。
【0016】
驚くべきことに、ある天然起源の脂肪酸、油、および脂肪、特に遊離脂肪酸、より好ましくは遊離不飽和脂肪酸が十分強力にカテーテルバルーンの表面に付着し、そのためバルーンカテーテルが患者の血管または他の体腔に挿入される際に生物学的コーティングの大半が表面に留まることがわかっている。カテーテルバルーンが患者の血管の治療部位に配置される際、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪もまた、コーティングに含まれるシロリムスとともに、治療される組織内に直接運ばれる。これは、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸の親油性の吸着効果により引き起こされる。少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪の自然の結合力および細胞取り込みは、血管の治療サイトへの放出の間にシロリムス浸透に予期せぬ効果を引き起こす。シロリムスと、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪との混合物(以下、脂肪酸‐薬剤複合体と呼ぶ)の使用は、脂肪酸‐薬剤複合体の自然吸収により治療組織へのシロリムスの浸透を大いに改善する。脂肪酸‐薬剤複合体の生物学的結合力は多くの組織型にとって大変高いため、脂肪酸‐薬剤複合体はカテーテルバルーンの表面から容易に離脱して治療組織に運ばれる。脂肪酸‐薬剤複合体は、化学的に不変のまま残る。さらに、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸を含むコーティングをバルーン表面から離脱するための追加の生化学的または生理的反応が不要である。バルーンカテーテルの拡張と同時に、バルーン表面の脂肪酸‐薬剤複合体が血管壁に接触するため、脂肪酸‐薬剤複合体は血管拡張中に血管壁に運ばれる。治療部位へのこの直接の伝達は、シロリムスの全身効果を制限するが、望ましい局所効果を達成する。
【0017】
驚くべきことに、実験データはさらに、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ3および6脂肪酸の使用により、カテーテルバルーンの拡張および任意のステント留置が誘発するかもしれない炎症の確率が低減することを示している。オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの特定の脂肪酸、油、または脂肪は患者の体に十分許容されるだけでなく、それ自体に生理的および治療的効果を持つことが知られている。オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などのそうした脂肪酸、油、または脂肪は、圧力下でカテーテルバルーンが治療される組織と接触することで起きる、一般に生じる炎症を軽減する。活性薬剤と、そうした脂肪酸、油、または脂肪、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸との混合物は、炎症の発生を効果的に低減する。これは、次に、治療される組織へのシロリムスの細胞取り込みの予期せぬ改善につながる。バルーン拡張術にシロリムスコーティングが血管壁に塗り付けられるため、脂肪酸‐薬剤複合体はさらにシロリムスの細胞取り込みを強化する。
【0018】
本発明は、遊離不飽和脂肪酸、好ましくは遊離オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスによるコーティングを有するカテーテルバルーンに関する。さらに、本発明は、本発明によりコーティングされたそうしたカテーテルバルーンを有するバルーンカテーテルに関する。
【0019】
いかなる従来のカテーテルバルーン、二股バルーン、血管形成バルーン、弁形成バルーン、および折りたたみ式バルーンまたは特殊なカテーテルバルーンが本発明のカテーテルバルーンとして使用されてもよい。「カテーテルバルーン」、すなわち「従来のカテーテルバルーン」という用語は、拡張術によりステントを留置するのに通常使われる拡張式カテーテルバルーンをも指す。さらに、自己拡張型ステントに適し、ステントの早期拡張を防ぐためのステント上の取り外し可能なラッパー(wrapper)を持つ、ステント留置用非拡張型カテーテルバルーンをも指す。
【0020】
二股バルーンとは、脈管、特に血管の分岐点の治療用のカテーテルバルーンを指す。そのようなバルーンは2本の腕部を有してもよく、もしくは、血管の分岐点の治療のため、すなわち血管の分岐点または血管の分岐点の直近に1つまたは2つのステントを留置するために、同時にまたは連続して使用される2つの結合した、または2つの別々のバルーンからなってもよい。
【0021】
折りたたみ式バルーンとは、例えばEP 1189553 B1、EP 0519063 B1、WO 03/059430 A1、およびWO 94/23787 A1に記載されるように、圧縮状態のバルーンに、バルーンを拡張させる際に少なくとも部分的に開く「折り目」を有するバルーンを指す。
【0022】
特殊なバルーンとは、特に、拡張中または加圧時に液体および溶液を通すことのできる孔、特に微小孔を有するバルーンを指す。微小孔を有するそうしたバルーンは、EP 383 429 Aに開示されている。さらに、特殊なバルーンという用語は、WO 02/043796 A2に記載されるような、マイクロニードルを有する特別にデザインされた表面を持つバルーン、またはWO 03/026718 A1に記載されるような、担体物質を有するまたは有さない活性薬剤を埋め込むための、マイクロ未加工表面またはナノ未加工表面を持つカテーテルバルーンを指す。
【0023】
弁形成バルーンは病的に狭窄した心臓弁を拡張するために使用され、カテーテルに取り付けられたバルーンは狭窄部に押しつけられ、続いて拡張される。
バルーンまたはカテーテルバルーンという用語は、基本的には、通常カテーテルと共に使用される、すべての膨張可能な、および再圧縮可能な、ならびに一時的に膨張可能な医療機器を指す。カテーテルバルーンは、現在流通している材料、特に以下に記載のポリマー、特に例えばPA12のようなポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリエーテルからなることができる。
【0024】
本発明によるコーティングバルーン、またはそのようなバルーンを有するバルーンカテーテルは、再狭窄を防止する、または低減するのに適している。それゆえ、本発明によるコーティングバルーンの使用は狭窄血管の一次治療に限定されず、再狭窄(例えば、ステント内再狭窄)の発生、および再発性再閉塞を首尾よく治療または防止するのにも特に有用である。
【0025】
本発明によるコーティングバルーンは、ステントなしで、または圧着ステントと共に使用することができる。ステントも同様に、例えば医療用ステンレス鋼、チタン、クロム、バナジウム、タングステン、モリブデン、金、ニチノール、マグネシウム、鉄、上述の金属の合金のような一般的な材料、ならびに、例えばキトサン、ヘパラン、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリグリセリド、ポリ乳酸、および上述の材料の共重合体などの高分子材料からなってもよい。
【0026】
本発明は、シロリムス、およびオメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪でコーティングされたカテーテルバルーンに関する。好ましくは、本発明によるコーティングカテーテルバルーンは、付属ステントなしで使用されるが、圧着ステントを伴っての使用も可能である。圧着ステントが使用されるのであれば、ステントは露出していても、同様にコーティングされていてもよく、ステントはカテーテルバルーンのコーティングとは異なったコーティングおよび異なった活性薬剤を有してもよい。
【0027】
本明細書で使用される「コーティング」という用語は、カテーテルバルーンの表面のコーティングだけでなく、バルーン材料の上、間、または折畳み部、空洞、孔、マイクロニードル、またはその他の満たすことのできる空間の充填物またはコーティングをも含むものとする。
【0028】
バルーンカルーテルのバルーン表面のコーティングに適した物質は、以下に詳述する、特に油、脂肪、および脂肪酸を含む。
少なくとも1つの油は、オリーブ油、大麻油、トウモロコシ油、クルミ油、キャノーラ油、大豆油、ヒマワリ油、ケシ油、ベニバナ油、小麦胚芽油、ブドウ種子油、月見草油、ボラージ油、ブラッククミン油、チーア、藻油、魚油、タラ肝油、および/または上述の油類の混合物を含む、またはそれらからなる群から選択されることが好ましい。特に適するのは、純粋な不飽和化合物の混合物である。
【0029】
純粋な合成脂肪酸、または天然脂肪酸を使用することがより好ましい一方で、本発明によるカテーテルバルーンコーティングに、共有結合脂肪酸を含有する脂肪酸エステル、脂肪酸塩、脂質、またはグリセリドを使用することは好ましくない。発明者は、遊離脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸だけが再狭窄予防および再狭窄治療の発明効果を達成できる一方で、脂肪酸の塩、エステル、およびアミドはそのような効果的な再狭窄の治療または予防を達成できないことを発見した。その結果、脂肪酸のカルボキシル基をアミン、アルコール、または酸ハロゲン化物などの他の物質と共有結合的に反応させて得られた脂肪酸エステル、および脂肪酸塩、または他の化合物は、本発明によるコーティングには使用せず、かつ使用しないものとする。さらに、脂肪酸の還元により得られる脂肪アルデヒドおよび脂肪アルコールもまた、本発明に適さない。したがって、発明者は、遊離脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸の使用が発明効果を得るためには不可欠であることを発見した。
【0030】
本明細書で使用される「脂肪酸」という用語は、一般式がR−COOHである化合物を指し、Rは、好ましくは2重および/または3重結合を含み、より好ましくは1から5個の二重結合を含む脂肪酸の炭素鎖である。炭素鎖Rは、好ましくは9から29個の、より好ましくは11から27個の、さらに好ましくは13から25個の、さらに好ましくは15から23個の、最も好ましくは17から21個の炭素原子を含む。好ましくは、これらの炭素原子は線状非分岐鎖を形成する。
【0031】
好ましくは、不飽和脂肪酸は、オメガ‐3、オメガ‐6、オメガ‐7、およびオメガ‐9脂肪酸を含む群から選択される。オメガ‐3、オメガ‐6、およびオメガ‐9脂肪酸がより好ましく、オメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸がより好ましく、オメガ‐3脂肪酸が最も好ましい。
【0032】
オメガ‐3脂肪酸(ω‐3脂肪酸、またはn‐3脂肪酸とも呼ばれる)はメチル末端から3番目の炭素に位置する最後の2重結合を有する必須多価不飽和脂肪酸の種類である。類似のオメガ‐6脂肪酸は、メチル基から6番目の炭素に位置する最初の2重結合を有する必須多価不飽和脂肪酸の種類である。
【0033】
以下の表1から表4は、本発明で使用されることが好ましいオメガ脂肪酸の一覧である。
【0034】
【表1】
【0035】
さらに好ましいオメガ‐3脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(EPA C20:5)、エイコサトリエン酸(ETE C20:3)、エイコサテトラエン酸(ETA C20:4)、ドコサヘキサエン酸(DHA C22:6)、ヘキサデカトリエン酸(HTA C16:3)、ステアリドン酸(SDA C18:4)、ヘンエイコサペンタエン酸(HPA C21:5)、ドコサペンタエン酸(DPA C22:5)、テトラコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、およびα‐リノレン酸(ALA C18:3)、ならびに上述の脂肪酸の混合物からなる、またはそれらを含む群から選択される。これらの混合物は、特に純粋な不飽和化合物の混合物を含む。特に好ましいのは、オメガ‐3脂肪酸α‐リノレン酸(ALA C18:3)である(表1参照)。
【0036】
【表2】
【0037】
さらに好ましいオメガ‐6脂肪酸は、リノ−ル酸(LA C18:2)、ガンマ‐リノレン酸(GLA C18:3)、エイコサジエン酸(C20:2)、ジホモ‐ガンマ‐リノレン酸(DGLA 20:3)、アラキドン酸(AA C20:4)、ドコサジエン酸(C22:2)、ドコサペンタエン酸(C22:5)、テトラコサテトラエン酸(24:4)、およびカレンド酸(18:3)、ならびに上述の脂肪酸の混合物からなる、またはそれらを含む群から選択される(表2参照)。
【0038】
【表3】
【0039】
さらに好ましいオメガ‐7脂肪酸は、5‐ドデセン酸、7‐テトラデセン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、15‐ドコセン酸、および17‐テトラコセン酸からなる群から選択される。
【0040】
【表4】
【0041】
さらに好ましいオメガ‐9脂肪酸は、オレイン酸、エライジン酸、エイコセン酸、ミード酸、エルカ酸、およびネルボン酸からなる群から選択される。
魚油およびタラ肝油は、α‐リノレン酸(ALA C18:3)をほとんど含有せず、エイコサペンタエン酸(EPA C20:5)およびドコサヘキサエン酸(DHA C22:6)を主として含有する。オメガ‐3脂肪酸は魚油だけでなく、植物油中にも見つけることができる。オメガ‐6脂肪酸などのさらなる不飽和脂肪酸は、草本由来の油類にも存在し、一部では動物性脂肪中よりもより高い割合を占める。ゆえに、必須脂肪酸の含有量がそのように高いアマニ油、クルミ油、フラックスオイル、月見草油などの種々の植物油は、特に高品質で貴重な食用油として薦められる。特に、アマニ油はオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸の貴重な供給源であり、数十年にわたって高品質食用油として知られている。
【0042】
以下の表5に、本発明で使用されることが好ましい種々の油類の脂肪酸成分の一覧を示す。
【0043】
【表5】
【0044】
本発明により使用可能なさらなる不飽和脂肪酸は、以下の表6から表8より選択することができる。
【0045】
【表6】
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
本発明において、好ましくは不飽和脂肪酸、より好ましくは多価不飽和脂肪酸、さらに好ましくはオメガ‐3、オメガ‐6、オメガ‐7、またはオメガ‐9脂肪酸、一層好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸、最も好ましくはオメガ‐3脂肪酸が使用される。
【0049】
最も好ましいオメガ‐3脂肪酸の中では、以下の種類が好ましい:α‐リノレン酸(ALA)、ステアドリン酸(SDA)、エイコサトリエン酸(ETE)、エイコサテトラエン酸(ETA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、およびドコサヘキサエン酸(DHA)。
【0050】
好ましいオメガ‐6脂肪酸の中では、以下の種類が好ましい:リノール酸(LA)、ガンマ‐リノレン酸(GLA)、エイコサジエン酸、ジホモ‐ガンマ‐リノレン酸(DGLA)、アラキドン酸(AA)、ドコサジエン酸、アドレン酸、およびドコサペンタエン酸。
【0051】
オメガ‐7脂肪酸の中では、以下の種類が好ましい:バクセン酸、およびパウリン酸。
オメガ‐9脂肪酸の中では、以下の種類が好ましい:オレイン酸、エライジン酸、エイコセン酸、およびミード酸。
【0052】
本発明によれば、バルーンカテーテルのバルーン表面は、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、好ましくは少なくとも38重量パーセントの量の不飽和脂肪酸を含有する少なくとも1つの脂肪酸でコーティングされることが好ましい。本発明によるコーティングで使用される少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、好ましくは少なくとも1つの脂肪酸は、少なくとも52重量パーセント、好ましくは59重量パーセント、さらに好ましくは68重量パーセント、最も好ましくは76重量パーセントの量の不飽和脂肪酸を含んでいればさらに好ましい。
【0053】
バルーン表面の、少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸、または脂肪を含む生体適合性コーティングは、バルーンカテーテルの必要な血液適合性を示すと同時にシロリムスに適した担体である。本発明によれば、バルーン表面へコーティングを塗布するために、シロリムスは少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪において、特に少なくとも1つの遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸において、分解、懸濁化、乳化または分散される。オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪を、シロリムスなどの親油性のより低い活性薬剤と組み合わせて使用することは、その際コーティング全体の親油性が増すために、特に有益である。このように、親水性の、または親油性のより低い活性薬剤もまた、本来親油性である動脈壁が拡張する間に十分な程度に付着し、続いて組織に浸透することが保証され得る。親油性のバルーンコーティングはまた、比較的親水性の活性薬剤であるシロリムスを、カテーテル挿入の間、血流による早期放出から保護する。シロリムスを含有する、少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪の親油性コーティングは、少なくとも一部は血管壁に運ばれ、そこからシロリムスが細胞へ、および細胞中へ送達され得る貯蔵所を形成することができる。
【0054】
このように、親油性コーティングは少なくとも2つの問題を解決する。すなわち、一方ではシロリムスがカテーテルバルーンを挿入する間の早期離脱から保護され、他方では拡張後にシロリムスのマトリクスが血管壁に形成され、そこからシロリムスを一定期間細胞へ送達することができ、前記親油性マトリクスが生理学的に適合性を持ち、かつ好ましくは有害な代謝物を形成することなく自然手段により分解され得る。重度の石灰化狭窄の治療のために、親油性マトリクスはまた、炎症プロセスの軽減、および少なくとも1つの活性薬剤の拡張された狭窄部の内深くへの輸送に役立ち、それゆえシロリムスの送達を改善する。
【0055】
シロリムスは、本発明に関して、活性薬剤として使用される。シロリムスは単独で使用されてもよいし、同様のまたは異なる濃度を有する他の抗増殖、抗遊走、抗血管新生、抗再狭窄、細胞増殖阻害、または細胞傷害活性物質と組み合わせて使用されてもよい。これら活性薬剤は、オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪において、分解、乳化、懸濁化、または分散され得るため、1層のみがバルーン表面に存在する。シロリムス、および任意選択的にさらなる活性薬剤のそうした含有は、マトリクスからの活性薬剤の短期間の制御放出が、血管拡張術の間にバルーンの拡張により起こることを確実にする。さらに、シロリムス、またはシロリムスと少なくとも1つのさらなる活性薬剤とを組み合わせたものが少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸によりカテーテルバルーンをコーティングした後の表面に塗布され、それが次に、任意選択的にさらなる活性薬剤と組み合わせられたシロリムスを吸収するであろう可能性がある。しかしながら、シロリムスはバルーンコーティングにおいて唯一の活性薬剤として使用されることが好ましく、下記に記載するような他の活性薬剤と組み合わせることは好ましくない。
【0056】
本発明の可能な実施形態において、シロリムスと組み合わせて使用される少なくとも1つのさらなる活性薬剤は、以下のものからなる、またはそれらを含む群から選択される:バイオリムスA9、ミオリムス、ノボリムス、ピメクロリムス、タクロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、エベロリムス、リダフォロリムス、ソマトスタチン、ロキシスロマイシン、ドナイマイシン(dunaimycin)、アスコマイシン、バフィロマイシン、エリスロマイシン、ミデカマイシン、ジョサマイシン、コンカナマイシン、クラリスロマイシン、トロレアンドマイシン、フォリマイシン、セリバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、エトポシド、テニポシド、ニムスチン、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、4‐ヒドロキシシクロホスファミド、エストラムスチン、メルファラン、イホスファミド、トロホスファミド、クロラムブシル、ベンダムスチン、ダカルバジン、ブスルファン、プロカルバジン、トレオスルファン、テモゾロミド、チオテパ、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン、イダルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、ダクチノマイシン、メトトレキサート、フルダラビン、フルダラビン‐5’ ‐リン酸二水素エステル(fludarabine‐5’‐dihydrogenphosphate)、クラドリビン、メルカプトプリン、チオグアニン、シタラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、カペシタビン、ドセタキセル、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、アムサクリン、イリノテカン、トポテカン、ヒドロキシカルバミド、ミルテホシン、ペントスタチン、アルデスロイキン、トレチノイン、アスパラギナーゼ、ぺガスパルガーゼ、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、ホルメスタン、アミノグルテチミド、アドリアマイシン、アジスロマイシン、スピラマイシン、セファランチン、smc増殖阻害剤‐2w(smc proliferation inhibitor‐2w)、エポチロンAおよびB、ミトキサントロン、アザチオプリン、ミコフェノレートモフェチル、c‐myc‐アンチセンス、b‐myc‐アンチセンス、ベツリン酸、カンプトテシン、PI‐88(硫酸化オリゴ糖)、メラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)、活性化プロテインC、IL-1β阻害剤、チモシンα‐1、フマル酸およびそのエステル、カルシポトリオール、タカルシトール、ラパコール、β‐ラパコン、ポドフィロトキシン、ベツリン、ポドフィリン酸2-エチルヒドラジド、モルグラモスチム(rhuGM‐CSF)、ペグインターフェロンα-2b、レノグラスチム(r‐HuG‐CSF)、フィルグラスチム、マクロゴール、ダカルバジン、バシリキシマブ、ダクリズマブ、セレクチン(サイトカイン拮抗薬)、CETP阻害剤、カドヘリン、サイトカイニン阻害剤(cytokinin inhibitors)、COX-2阻害剤、NFkB、アンギオペプチン、シプロフロキサシン、カンプトテシン、フルロブラスチン(fluroblastin)、筋細胞増殖を抑制するモノクローナル抗体、bFGF拮抗薬(bFGF antagonists)、プロブコール、プロスタグランジン、1,11‐ジメトキシカンチン‐6‐オン(1,11-dimethoxycanthin‐6‐one)、1-ヒドロキシ‐11‐メトキシカンチン‐6‐オン(1‐hydroxy‐11‐methoxycanthin‐6‐one)、スコポレチン、コルヒチン、NO供与体、ペンタエリスリトールテトラナイトレート、シンドノエイミン(syndnoeimines)、S‐ニトロソ誘導体(S‐nitrosoderivatives)、タモキシフェン、スタウロスポリン、β‐エストラジオール、α‐エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、ホスフェストロール、メドロキシプロゲステロン、エストラジオールシピオネート、安息香酸エストラジオール、トラニラスト、癌治療に適用されるカメバカウリンおよび他のテルペノイド、ベラパミル、チロシンキナーゼ阻害剤(チルホスチン)、サイクロスポリンA、パクリタキセルおよびその誘導体、6‐α‐ヒドロキシ‐パクリタセル(6‐α‐hydroxy‐paclitaxel)、バッカチン、タキソテール、合成的に製造された、および天然源から得られた亜酸化炭素の大環状オリゴマー(MCS)およびその誘導体、モフェブタゾン、アセメタシン、ジクロフェナク、ロナゾラク、ダプソン、o‐カルバモイルフェノキシ酢酸、リドカイン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、リン酸クロロキン、ペニシラミン、タムスタチン、アバスチン、ヒドロキシクロロキン、オーラノフィン、金チオリンゴ酸ナトリウム、オキサセプロール、セレコキシブ、β‐シトステリン、アデメチオニン、ミルテカイン、ポリドカノール、ノニバミド、レボメントール、ベンゾカイン、アエスシン、エリプチシン、D‐24851(カルビオケム)、コルセミド、サイトカラシンA‐E、インダノシン(indanocine)、ノコダゾール、S100タンパク質、バシトラシン、ビトロネクチン受容体拮抗薬、アゼラスチン、グアニジルシクラ―ゼ刺激剤(guanydyl cyclase stimulator)、金属タンパク質分解酵素(metal proteinase)‐1および‐2の組織阻害剤、遊離核酸、ウィルス伝達物質に組み込まれた核酸、DNAおよびRNA断片、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤‐1、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤‐2、アンチセンスオリゴヌクレオチド、VEGF阻害剤、IGF‐1、抗生物質、セファドロキシル、セファゾリン、セファクロル、セフォタキシム、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ペニシリン、ジクロキサシリン、オキサシリン、スルホンアミド、メトロニダゾール、抗血栓薬、アルガトロバン、アスピリン、アブシキシマブ、合成抗トロンビン薬、ビバリルジン、クマジン、エノキサパリン、脱硫酸化およびN‐再アセチル化ヘパリン(desulphated and N‐reacetylated heparin)、組織プラスミノーゲン活性化因子、GpIIb/IIIa血小板膜受容体、第Xa因子インヒビター抗体、ヘパリン、ヒルジン、r‐ヒルジン、PPACK、プロタミン、2‐メチルチアゾリジン‐2,4‐ジカルボン酸のナトリウム塩、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ワルファリン、ウロキナーゼ、血管拡張剤、ジピラミドール、トラピジル、ニトロプルシド、PDGF拮抗薬、トリアゾロピリミジンおよびセラミン、ACE阻害剤、カプトプリル、シラザプリル、リシノプリル、エナラプリル、ロサルタン、チオプロテアーゼ阻害剤、プロスタサイクリン、バピプロスト、α,β,およびγインターフェロン、ヒスタミン拮抗薬、セロトニン遮断薬、アポトーシス阻害剤、アポトーシス制御因子、ハロフジノン、ニフェジピン、トコフェロール、ビタミンB1、B2、B6およびB12、葉酸、トラニラスト、モルシドミン、茶ポリフェノール、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、ボスウェリン酸およびその誘導体、レフルノミド、アナキンラ、エタネルセプト、スルファサラジン、エトポシド、ジクロキサシリン、テトラサイクリン、トリアムシノロン、ムタマイシン、プロカインアミド、レチノイン酸、キニジン、ジソピラミド、フレカイニド、プロパフェノン、ソタロール、アミドロン(amidorone)、天然および合成的に製造されたステロイド、イノトジオール、マキロシド(maquiroside)A、ガラキノシド、マンソニン、ストレブロシド、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、非ステロイド物質、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、フェニルブタゾン、抗ウィルス剤、アシクロビル、ガンシクロビル、ジドブジン、抗真菌剤、クロトリマゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、テルビナフィン、抗原虫剤、クロロキン、メフロキン、キニン、天然テルペノイド、ヒポカエスクリン(hippocaesculin)、バリングトゲノール‐C21‐アンゲレート(barringtogenol‐C21‐angelate)、14‐デヒドロアグロスチスタチン(14‐dehydroagrostistachin)、アグロスケリン(agroskerin)、アグロスチスタチン(agrostistachin)、17‐ヒドロキシアグロスチスタチン(17−hydroxyagrostistachin)、オバトジオリド、4,7‐オキシシクロアニソメル酸(4,7‐oxycycloanisomelic acid)、バッカリノイドB1、B2、B3、およびB7、ツベイモシド、ブルセアノールA、B、およびC、ブルセアンチノシドC、ヤダンジオシドNおよびP、イソデオキシエレファントピン、トメンファントピン(tomenphantopin)AおよびB、コロナリンA、B,C、およびD、ウルソール酸、ヒプタチック酸(hyptatic acid)A、ゼオリン、イソ‐イリドジャーマナル(iso‐iridogermanal)、マイテンフォリオール(maytenfoliol)、エフサンチン(effusantin)A,エクスシサニンAおよびB、ロンギカウリンB、スクルポネアチンC、カメバウニン(kamebaunin)、ロイカメニン(leukamenin)AおよびB、13,18‐デヒドロ‐6‐α‐セネシオイロキシカパリン(13,18‐dehydro‐6‐α‐senecioyloxychaparrin)、タキサマイリンAおよびB、レジェニロール(regenilol)、トリプトリド、さらにシマリン、アポシマリン(apocymarin)、アリストロキア酸、アノプテリン、ヒドロキシアノプテリン(hydroxyanopterin)、アネモニン、プロトアネモニン、ベルベリン、塩化ケリブリン(cheliburin chloride)、シクトキシン(cictoxin)、シノコクリン、ボムブレスタチン(bombrestatin)AおよびB、クドライソフラボン(cudraisoflavone)A、クルクミン、ジヒドロニチジン、塩化ニチジン(nitidine chloride)、12‐β‐ヒドロキシプレグナジエン‐3,20‐ジオン(12‐β‐hydroxypregnadiene‐3,20‐dione)、ビロボール、ギンコール(ginkgol)、ギンコール酸、ヘレナリン、インジシン、インジシン‐N‐オキシド、ラシオカルピン、イノトジオール、グリコシド(glycoside)1a、ポドフィロトキシン、ジュスチシジンAおよびB、ラレアチン(larreatin)、マロテリン(malloterin)、マロトクロマノール、イソブチリルマロトクロマノール、マキロシド(maquiroside)A、マルカンチンA、メイタンシン、リコリジシン(lycoridicin)、マルゲチン(margetine)、パンクラチスタチン、リリオデニン、オキソウシンスニン、アリストラクタム‐AII、ビスパルセノリジン(bisparthenolidine)、ペリプロコシド(periplocoside)A、ガラキノシド、ウルソール酸、デオキシプソロスペルミン(deoxypsorospermin)、サイコルビン(psychorubin)、リシンA、サンギナリン、マヌー小麦酸(manwu wheat acid)、メチルソルビフォリン(methylsorbifolin)、スファセリアクロメン(sphatheliachromen)、スチゾフィリン、マンソニン、ストレブロシド、アカゲリン、ジヒドロウサンバレンシン(dihydrousambarensine)、ヒドロキシウサンバリン(hydroxyusambarine)、ストリクノペンタミン、ストリクノフィリン、ウサンバリン、ウサンバレンシン、

ベルベリン、リリオデニン、オキソウシンスニン、ダフノレチン、ラリシレシノール、メトキシラリシレシノール(methoxylariciresinol)、シリンガレシノール、ウンベリフェロン、アフロモソン(afromoson)、アセチルビスミオンB、デスアセチルビスミオン(desacetylvismione)A、ビスミオンA、ビスミオンB、および硫黄含有アミノ酸、ならびに、上述の活性薬剤の塩および/または混合物。
【0057】
再狭窄予防目的に非常に好都合な活性薬剤は、親水性マクロライド系抗生物質のラパマイシン(別名シロリムス)である。この活性薬剤は、免疫抑制剤として移植医療において特に使用され、他の免疫抑制活性薬剤とは異なり、シロリムスは腫瘍形成をも抑制する。移植後は患者にとって腫瘍形成のリスクが増すことから、サイクロスポリンAなどの他の免疫抑制剤は、知られているように腫瘍形成を促進さえする可能性があるために、シロリムスの投与が有益である。
【0058】
シロリムスの作用のメカニズムは、詳細にはまだ知られていないが、282kDのホスファチジルイノシトール‐3‐キナーゼであるタンパク質mTOR(ラパマイシンの哺乳類標的)との複合体形成に特に起因する。mTORは、免疫抑制効果に加えて、一連のサイトカインを介したシグナル伝達経路に関与しており、特に細胞分裂に必要なシグナル経路に関与しているため、mTORは消炎性、抗増殖性、および抗真菌性特性さえも有する。
【0059】
【化1】
【0060】
国際純正応用化学連合(IUPAC)名:
[3S‐[3R[E(1S,3S,4S)],4S,5R,8S,9E,12R,14R,15S,16R,18S,19S,26aR]]‐5,6,8,11,12,13,14,15,16,17,18,19,24,25,26,26a‐ヘキサデカヒドロ‐5,19‐ジヒドロキシ‐3‐[2‐(4‐ヒドロキシ‐3‐メトキシシクロヘキシル)‐1‐メチルエテニル]‐14,16‐ジメトキシ‐4,10,12,18‐テトラメチル‐8‐(2‐プロペニル)‐15,19‐エポキシ‐3H‐ピリド[2,1‐c][1,4]‐オキサアザシクロトリコシン‐1,7,20,21(4H,23H)‐テトロン一水和物(tetron monohydrate)。
【0061】
増殖は、G1後期にリボソームタンパク質合成を停止することにより中断される。他の抗増殖性活性薬剤と比較して、シロリムスの作用のメカニズムは、パクリタキセルのように特殊であると指摘することができるが、パクリタキセルは強い疎水性である。さらに、上述した免疫抑制および消炎効果は有益以上のものである。なぜなら、ステント留置術後の早期制御(premature control)時の炎症反応および総免疫反応の程度もさらなる成功を決定づけるからである。
【0062】
したがって、シロリムスは狭窄および再狭窄に対する使用に必要な条件のすべてを備えている。活性薬剤は必然的に、血管形成術、および最終的にはステント留置術後の最初の決定的な数週間に有効でなければならないため、インプラント上または内でのシロリムスの限られた保存寿命を、さらなる利点としてパクリタキセルと比較して述べるべきである。結果として、健全な治癒プロセスの完了に重要な内皮細胞層が完全に病変部位、および任意選択的にはステントを覆って成長し、それを血管壁内に一体化することができる。
【0063】
シロリムス自体は、再狭窄の最適な予防を保証するものではない。シロリムス溶出カテーテルバルーン全体が必要条件を満たさなければならない。投薬の決定に加え、短時間の拡張の間のシロリムス溶出が効果的でなければならない。シロリムス溶出およびシロリムス溶出速度は、シロリムスの物理的および化学的特性だけに依存するのではなく、使用されるマトリクスの特性、およびマトリクスとシロリムスとの相互作用にも依存する。
【0064】
シロリムスは、カテーテルバルーンの表面に、好ましくはバルーン表面の0.1-50μg/mmの、より好ましくはバルーン表面の1.0-15.0μg/mmの、さらに好ましくはバルーン表面の2.0-8.0mg/cmの、特に好ましくはバルーン表面の2.5-6.0mg/cmの薬理学的活動濃度で塗布される。第2の活性物質が、コーティングの同じ層、またはバルーンコーティングの異なる層に同様の濃度で塗布されてもよい。オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪の融点は、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪が血管への挿入後に溶融状態であるために、37℃以下であることが好ましい。
【0065】
少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪は、10℃より高い、好ましくは15℃より高い、さらに好ましくは20℃より高い、特に好ましくは30℃より高い融点を有するとさらに好ましい。前記少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、特に18‐22個のC原子を有する遊離脂肪酸は、室温、特に20℃において、液体状態であるともっとも好ましい。
【0066】
1つ以上の付加的アジュバントを、担体または第2のマトリクス物質として、本発明によるカテーテルバルーンの表面に塗布することも可能である。例えば、造影剤または造影剤類似体、界面活性薬剤、乳化剤、好ましくはポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤、ならびに、糖、およびアルブミンなどのタンパク質、または樹脂、特にダンマル、マスチック、ロジン、またはセラックなどの、コーティング特性を向上させてシロリムスの血管への取り込みを増加させる生体適合性有機物質がある。
【0067】
カテーテルバルーンのシロリムスコーティングのためのマトリクスとして特に好ましいのは、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪と、セラックとを組み合わせたもの、特に不飽和脂肪酸、一層好ましくは上述の18‐22個のC原子を有する遊離脂肪酸と、セラックとの組み合わせたものである。
【0068】
このため、1つの好ましい実施形態は、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、特に少なくとも1つの遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸、シロリムス、および加えて少なくとも1つのさらなる添加剤でコーティングされたバルーンカテーテルのカテーテルバルーンである。少なくとも1つの添加剤はセラックであることが特に好ましい。このため、1つの好ましい実施形態は、遊離オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸、シロリムス、およびセラックでコーティングされたバルーンカテーテルのカテーテルバルーンである。1つのさらなる好ましい実施形態は、α‐リノレン酸(ALA C18:3)、シロリムスおよびセラックでコーティングされたバルーンカテーテルのカテーテルバルーンである。これにより、カテーテルバルーンから容易にかつ迅速に離脱し、効率的に血管壁に運ぶことのできるコーティングが作られる。
【0069】
セラックはラックを分泌する多種の昆虫の腺分泌物から作られる天然樹脂である。ラックカイガラムシは、Metatachardia、Laccifer、Tachordiellaなどのような、半翅目カイガラムシ上科に属するが、LacciferidaeおよびTachardinidaeの2つの科に属するものがラック分泌においてより際立っている。商業的に養殖された1つはKerria laccaであり、Laccifer lacca Ker、Tachardia lacca、およびCarteria laccaといった異名でも知られている。Kerria laccaはインドカイガラムシであり、Butea frondos Rosch、Acacia arabica Willd、Ficus religiosa Linnなどの、東インド諸島の多くの木々の枝に寄生する。セラックは、唯一の動物由来で商業的に使用されている天然樹脂であり、他のすべての天然樹脂とは全く異なる。近年、環境および化学原料の毒性に関する新たな意識が各地で顕著になるにつれ、セラックまたはセラック変性樹脂は、その興味深く独特な特性のために重要性を増している。折れた枝はスティックラックとして売られ、木部と赤い色素(ラック染料)を取り除くために粉砕して水で洗浄した後に、シードラックが得られる。シードラックを精製することで、セラックとして知られるより均質な製品が得られる。
【0070】
セラック原料は、70‐80%の樹脂、4‐8%の染料、6‐7%の硬質かつ高光沢仕上げワックス、3%の水、9%までの植物性および動物性不純物、ならびに芳香物質からなる。セラック樹脂は、脂肪族(60%)、セスキテルペノイド酸(32%)、およびそれらのエステルの複雑な混合物である。セスキテルペノイド酸はジャラル酸およびラッシジャラル酸(構造式IおよびII)であり、脂肪族酸はアロイリチン酸(III)およびブトール酸である。
【0071】
樹脂分子の化学的記載の可能性としては、どの場合においても、ジャラル酸またはラッシジャラル酸およびアロイリチン酸の4つの分子がエステル結合により交互に結合されている構造モデルである。
【0072】
【化2】
【0073】
昆虫が寄生する宿主木の性質により一部の成分の量は異なるが、その化学組成はほぼ一定である。アルカリ加水分解下のカニッツァーロ型の不均化により、シェロール酸(IV)および誘導体化合物がこれらの酸から合成されるであろう。精製セラックは2つの主要な成分からなる。これらの成分は9,10,16‐トリヒドロキシパルミチン酸(アロイリチン酸)CAS[53‐387‐9]およびシェロール酸(IV)である。
【0074】
【化3】
【0075】
セラック、変性セラック樹脂、およびセラック共重合体を尿素、メラミン、ホルムアルデヒド、イソシアニドと架橋結合させるために、他の天然または合成樹脂による変性、もしくは種々のモノマーとの共重合が可能であり、重合、ヒドロキシル化、遊離(extrication)などのような他の化学プロセスが可能である。
【0076】
以下は商業用等級セラックである:
‐シードラック ‐脱脂セラック
‐手製セラック ‐脱脂漂白セラック
‐機械製セラック ‐アロイリチン酸
セラックの主要な特性:
‐セラックは硬質天然樹脂である、
‐セラックは溶媒への良好な耐性を有する、
‐セラックは炭化水素を主成分とする、
‐セラックは無毒性である、
‐セラックは熱可塑性である、
‐セラックは生理学的に無害である、
‐セラックは食品産業において様々な適用を承認されている、
‐セラックは紫外線抵抗性ではない、
‐セラックは低級アルコールに溶解する、
‐セラックは優れた誘電特性、高い誘電耐力、低い誘電率、良好な耐トラッキング性などを有する、
‐セラックは低い融点(65‐85℃)を有する、
‐セラックはアルカリ性水溶液において水溶性である、
‐コーティングは紫外線照射下でもその電気的特性を変化させない、
‐セラックは優れた膜形成特性を有する、
‐セラックは低い熱伝導性及び低い膨張係数を有し、平滑で高光沢な膜および表面を形成する、
‐セラックコーティングは多くのコーティングへの接着性に優れ、研磨することができる。
【0077】
樹脂分子の化学的記載の可能性としては、どの場合においても、ジャラル酸またはラッシジャラル酸およびアロイリチン酸の4つの分子がエステル結合により交互に結合されている構造モデルである。
【0078】
本願の1つの実施形態は、さらなる添加剤、特にセラックが、ベースコートまたはトップコートとしてカテーテルバルーンの表面に塗布されてもよいカテーテルバルーンに関する。それにより、添加剤の層とシロリムス含有層との間に中間相が存在してもよい。この中間層は、グラジエントを形成する両隣接層の混合を特徴とする。これは、下側層が終わり上側層が始まるところにはっきりした切れ目がなく、一方の層が他方の層へ拡散する領域があることを意味する。
【0079】
シロリムス、少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪と、セラックとを組み合わせたものでコーティングしたカテーテルバルーンに加え、オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪と、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性薬剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤とを組み合わせたものでコーティングしたカテーテルバルーンも可能である。
【0080】
このため、1つの好ましい実施形態は、オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、シロリムス、および付加的にさらなる添加剤として少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性薬剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤でコーティングされたバルーンカテーテルのカテーテルバルーンである。さらなる1つの可能な実施形態は、少なくとも1つの脂肪酸、特に少なくとも1つの遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪、シロリムス、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性薬剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤、およびセラックを含むコーティングを有するカテーテルバルーンである。
【0081】
少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤は、以下のものからなる、またはそれらを含む群から選択されることが好ましい:ポリエトキシル化アルコール、ポリエトキシル化オイル、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリエトキシル化グリセロール(polyethoxylated glycerol)、ポリエトキシル化脂肪酸エステル、ポリエトキシル化フェノール(polyethoxylated phenols)、ポリエトキシル化アミン、ポリエトキシル化脂肪アルコール。これら界面活性薬剤または乳化剤のうち、ポリエトキシル化ヒマシ油がより好ましい。さらに好ましいのは、より高飽和の脂肪アルコールをエチレンオキシドと反応させて作製される化合物であり、特に好ましいのは、ヒマシ油をエチレンオキシドと1:35の割合で反応させて作られる化合物である。これは、エチレンオキシド35モルをヒマシ油1モルと反応させて調製されることを意味する。したがって、1つの好ましい実施形態は、オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、シロリムス、およびポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされたバルーンカテーテルのカテーテルバルーンである。
【0082】
本発明はさらに、少なくとも1つの脂肪酸、特に少なくとも1つの遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスによるコーティングを含むカテーテルバルーンに関し、コーティングはトップコートを含む。トップコートは、シロリムスコーティングを早期溶解および機械的損傷から保護するために塗布される。したがって、トップコートはコーティングを「ウォッシュオフ」効果から保護し、活性薬剤を作用部位で直ちに放出できるよう保持するため有益である。トップコートの好ましい成分は、ポリアクリル酸、およびポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなどのポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリエチレンアミン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリカーボウレタン(polycarbourethanes)、ポリビニルケトン、ポリビニルハロゲン化物(polyvinyl halogenides)、ポリビニリデンハロゲン化物(polyvinyliden halogenides)、ポリビニルエーテル、ポリビニルアロメート(polyvinyl aromates)、ポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン(polyvinyl pyrollidones)、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ポリオキシメチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリオレフィンエラストマー、ポリイソブチレン、EPDMゴム、フルオロシリコーン、カルボキシメチルキトサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリバレレート(polyvalerates)、カルボキシメチルセルロース、セルロース、レーヨン、レーヨントリアセテート(rayontriacetates)、セルロースナイトレート、セルロースアセテート、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースブチレート、セルロースアセテート‐ブチレート、エチルビニルアセテート共重合体(ethylvinyl acetate copolymers)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エポキシ樹脂、ABS樹脂、EPDMゴム、シリコーンプレポリマー(silicon prepolymers)、ポリシロキサンなどのシリコーン、ポリビニルハロゲンおよび共重合体、セルロースエーテル、セルローストリアセテート、キトサン、キトサン誘導体、天然ポリマー、アマニ油などの重合性油、ならびに、それらの共重合体および/または混合物である。より好ましいのは、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体であり、特に好ましいのは、好ましくは40,000ダルトンから50,000ダルトンの範囲内の平均分子量を有する、75%のポリビニルアルコール単位および25%のポリエチレングリコール単位からなるポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートである。
【0083】
したがって、1つの好ましい実施形態は、少なくとも1つの脂肪酸、特に少なくとも1つの遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸、油または脂肪、シロリムス、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性薬剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤、およびトップコートでコーティングされたバルーンカテーテルのカテーテルバルーンである。好ましくは、少なくとも1つの脂肪酸、油または脂肪、シロリムス、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性薬剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤でコーティングされたバルーンカテーテルは、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体、またはセラック、またはそれらの混合物のトップコートを有する。
【0084】
本明細書で使用される「ベースコート」という用語は、カテーテルバルーンの表面に直接接しているカテーテルバルーンのコーティング層を指す。この層は、主にシロリムス含有層の固着性を増加させるプライマーコートとしてカテーテルバルーン材料を直接覆う最初の層である。本明細書で使用される「最上層」または「トップコート」という用語は、少なくとも1つのシロリムス含有層を覆ういかなる活性薬剤をも含まないバルーンコーティング層を指す。
【0085】
本明細書で使用される「未コーティング」という用語は、いかなるコーティングも有さない平滑な、または構造化された、または粗面化された表面を有するカテーテルバルーンを指す。すなわち、バルーン表面は薬理活性薬剤、特にシロリムス、およびシロリムスを含有するコーティングを含まない。
【0086】
好ましいのは、シロリムスと、少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪との比率が、90重量%のシロリムス対10重量%の少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪から、10重量%のシロリムス対90重量%の少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪までのコーティングを有するカテーテルバルーンである。特に好ましいのは、シロリムスと、少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪との比率が、75重量%のシロリムス対25重量%の少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪から、25重量%のシロリムス対75重量%の少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪までのシロリムス含有層を有するカテーテルバルーンである。より一層好ましいのは、シロリムスと、少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪との比率が、70重量%のシロリムス対30重量%の少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪から、60重量%のシロリムス対40重量%の少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪までのシロリムス含有層を有するカテーテルバルーンである。
【0087】
セラック、およびポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤のようなさらなる添加剤または担体物質が、使用される少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪に対して350重量%まで、使用される脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪に対して好ましくは200重量%まで、より好ましくは1000%までの重量比で加えられてもよい。
【0088】
少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、ならびにセラックおよびポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤のような可能なさらなる添加剤に対する活性薬剤のモル比が、90%の活性薬剤対10%のマトリクス物質から、10%の活性薬剤対90%のマトリクス物質までであるコーティングを有するカテーテルバルーンもまた好ましい。1:5から5:1までの混合物がさらに好ましく、1:2から2:1までがより一層好ましい。
【0089】
少なくとも1つの不飽和脂肪酸、特に、オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離不飽和脂肪酸の使用が、油または脂肪の使用よりも好ましい。このため、本明細書で示す範囲および数値のすべて、ならびに本明細書で開示する実施形態のすべては、特に遊離脂肪酸に関するものであり、第一にそのように解釈されるべきである。
【0090】
したがって、本発明の特に好ましい実施形態は、少なくとも1つの遊離脂肪酸、任意選択的にはセラックまたはベースコートとしてのセラック、および任意選択的にはポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤、および任意選択的にはトップコート、好ましくはポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートを伴うシロリムスのコーティングに関する。
【0091】
オメガ脂肪酸として、特にオメガ‐3、オメガ‐6、およびオメガ‐9脂肪酸が好ましく、特に好ましいのは、α‐リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸(SDA)、エイコサトリエン酸(ETE)、エイコサテトラエン酸(ETA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、リノール酸(LA)、ガンマ‐リノレン酸(GLA)、エイコサジエン酸、ジホモ‐ガンマ‐リノレン酸(DGLA)、アラキドン酸(AA)、オレイン酸、エイコセン酸、およびミード酸である。
【0092】
本発明のさらなる1つの特に好ましい実施形態は、少なくとも1つの遊離不飽和脂肪酸、セラック、およびポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤、およびポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートを伴うシロリムスのコーティングに関する。
【0093】
本発明の1つの好ましい実施形態はまた、少なくとも1つの遊離不飽和脂肪酸、セラックおよびポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートを伴うシロリムスのコーティングに関する。
【0094】
本発明の特に好ましい実施形態は、少なくとも1つの遊離オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3、‐6、‐7、または‐9脂肪酸、特に好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸、任意選択的にはセラック、またはベースコートとしてのセラック、および任意選択的にはポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤、および任意選択的にはトップコート、好ましくはポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートを伴うシロリムスのコーティングに関する。
【0095】
本発明の1つの好ましい実施形態はまた、少なくとも1つの遊離不飽和脂肪酸、一層好ましくは18‐22個のC原子を有する遊離脂肪酸、セラック、任意選択的にはポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤、およびポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートを伴うシロリムスのコーティングに関する。
【0096】
本発明の1つの実施形態は、少なくとも1つの遊離不飽和脂肪酸、および好ましくはポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートと共にシロリムスでコーティングされたカテーテルバルーンである。本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1つの遊離オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸、ならびに少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性薬剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤を伴うシロリムスを含むコーティングを有する。任意選択的には、トップコート、好ましくはポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートも塗布される。
【0097】
α‐リノレン酸、セラック、およびポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤、および任意選択的にはポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートを伴うシロリムスを含むコーティングを有するカテーテルバルーンもまた好ましい。
【0098】
本発明の特に好ましい実施形態は、α‐リノレン酸に包埋されたシロリムスを含むコーティングを有するカテーテルバルーンであり、任意選択的にはポリエトキシル化界面活性薬剤またはポリエトキシル化乳化剤、ベースコートとしてのセラック、およびポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートを伴う。
【0099】
本明細書で開示される実施形態のすべてに関して、遊離脂肪酸の使用、すなわちプロトン化した脂肪酸の使用が好ましく、脂肪酸塩(脱プロトン化)、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、または他のいかなる脂肪酸誘導体の使用も好ましくない。さらに、これら遊離脂肪酸が1から5の間の2重結合を含むか、または有し、かつ、10から30個の炭素原子、より好ましくは12から28個の、より一層好ましくは14から26個の、より一層好ましくは16から24個の、最も好ましくは18から22個の炭素原子を含むか、または有することが好ましい。好ましくは、これら炭素原子は直線非分岐炭素鎖を形成する。好ましくは、脂肪酸の2重結合はZ形態を有する。
【0100】
本発明によれば、少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスでコーティングされたカテーテルバルーンが、好ましくは無菌状態下で、以下の方法のうちの1つにより製造されてもよい。まず、少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスは溶媒と混合される。任意選択的には、セラックおよび少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性薬剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤のようなさらなる添加剤もまた、前記コーティング溶液に溶解されてもよい。溶媒はアセトン、エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド、テラヒドロフラン、クロロホルム、塩化メチレン、エチルアセテート、水、および/または上述の溶媒の混合物を含む、またはそれらからなる群から選択される。溶媒または混合溶媒中の、少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくは遊離オメガ‐3、‐6、‐7、または‐9脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスは、ディッピング法(浸漬法)、スプレー法(噴霧法)、ブラシ法(刷毛塗り法)、またはピペット法のようないかなる一般的な方法によりカテーテルバルーンの表面に塗布されてもよい。次に、溶媒または混合溶媒は、室温での蒸発、または炉内での乾燥によって除去されねばならず、コーティングされたバルーンカテーテルは折りたたまれてもよい。
【0101】
本発明によるカテーテルバルーンのコーティングの1つの製造方法は、以下の工程が含まれていることを特徴とする:
a)オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスと、溶媒とを混合すること、
b)ディッピング法、スプレー法、スプレッド法、またはピペット法により、溶媒中のオメガ脂肪酸、特に特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスの混合物を堆積させること、および、
c)コーティングを乾燥すること。
【0102】
本発明は、以下の工程が特徴である、本発明によるカテーテルバルーンのコーティングの製造方法をさらに含む:
a)オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、シロリムス、および、セラックまたはポリエトキシル化ヒマシ油のような少なくとも1つの添加物と、溶媒とを混合すること、
b)ディッピング法、スプレー法、スプレッド法、またはピペット法により、溶媒中のオメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、シロリムス、および、セラックまたはポリエトキシル化ヒマシ油のような少なくとも1つの添加剤の混合物を堆積させること、および、
c)コーティングを乾燥すること。
【0103】
以下の工程d)が上述の方法の次に行われてもよい。
d)カテーテルバルーンを折りたたむこと。
工程d)は、カテーテルバルーンが拡張状態、または部分拡張状態でコーティングされるのであれば、特に重要である。
【0104】
さらなる工程e)が、上述の方法の工程d)または工程c)の次に行われてもよい。
e)コーティングされた、または未コーティングのステントを、折りたたまれたカテーテルバルーンへ圧着すること。
【0105】
別の好ましい実施形態においては、まずセラックのコーティングがカテーテルバルーンに塗布され、続いてこのベースコートまたは第1層上に、シロリムスが第2層またはさらなるコーティングとして塗布される。これにより、セラックでコーティングされたカテーテルバルーンは、オメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスの溶液に浸漬され、またはオメガ脂肪酸、特にオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスを含む溶液が、セラックのコーティングの上にスプレーまたはピペットされる。まず、少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪を、任意選択的にセラック、および/または1つのポリエトキシル化界面活性薬剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤と組み合わせてコーティングし、第2の工程で、シロリムスをバルーンに塗布することも可能である。少なくとも1つの脂肪酸、油、または脂肪、および任意選択的にはセラック、および/または1つのポリエトキシル化界面活性薬剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤の層は、シロリムス含有コーティング溶液を少なくとも一部は吸収する。
【0106】
カテーテルバルーンは、コーティングプロセスの間、折りたたまれた、部分的に折りたたまれていない、または完全に広がった状態とすることが可能である。それにより、カテーテルバルーンに圧着されたステントの表面だけでなく、カテーテルバルーンの表面全体、カテーテルバルーンの折畳み部のみ、もしくはバルーン表面の、またはバルーン表面上の他の特殊な構造体を、完全にまたは部分的に少なくとも1つの脂肪酸、特に遊離不飽和脂肪酸、より好ましくはオメガ‐3およびオメガ‐6脂肪酸などの遊離オメガ脂肪酸、油、または脂肪、およびシロリムスでコーティングすることが可能である。
【0107】
さらなる工程の間、ステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよく、ステントは未コーティングであることも、もしくは少なくとも1つの活性薬剤、活性薬剤とマトリクス物質とを組み合わせたもの、またはマトリクス物質の混合物でコーティングされることも可能である。ステントは再狭窄の低減または予防に適している。ステントにコーティングされてもよい少なくとも1つの活性薬剤は、抗炎症、細胞増殖阻害、細胞障害、抗増殖、抗微小管、抗血管新生、抗再狭窄、抗真菌、抗悪性腫瘍、抗遊走(antimigrative)、非血液凝固、または抗血栓物質とすることができ、カテーテルバルーン上の第2の活性薬剤として、上述の群から選択することができる。
【0108】
任意選択的には、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされた圧着されたステントを伴う本発明によるカテーテルバルーンは、カテーテルバルーン、および任意選択的にはステントに塗布されたコーティングが十分な潤滑性を持ち、追加の潤滑剤の必要がないことをさらなる特徴とする。
【0109】
本発明によるカテーテルバルーンは、血管形成術、および任意選択的にはステント留置術後の急性血栓症の問題、および新生内膜過形成の問題を共に解決する。加えて、本発明によるカテーテルバルーンは、単層システムとしてであれ、多層システムとしてであれ、そのコーティングのために、シロリムスの短期間の放出に特によく適している。シロリムスを短期間に必要量放出するこの性能のために、本発明によりコーティングされたカテーテルバルーンは、炎症および再狭窄のリスクを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0110】
図1】壁内パクリタキセルおよびシロリムス濃度中央値[μg/g]を示す図である。
図2】ブタにおけるバルーン血管形成術後のカテーテルバルーンのパクリタキセルおよびシロリムス残存(実施例16)‐総負荷投与量の平均残存パーセントを示す図である。
図3】実施例17のバルーンの拡張後1時間のシロリムス平均組織濃度[ng/mg]を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0111】
[実施例]
実施例1:シロリムスおよびα‐リノレン酸によるコーティング
シロリムスを、約10体積%の水を含有するジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解する。α‐リノレン酸およびセラックをこの溶液に加え、カテーテルバルーンをスプレー法(例えば、ハーダー&ステンベック(Harder & Steenbeck)社製エボリューション(EVOLUTION)スプレーピストル)を用いて数回この溶液でコーティングし、コーティング後に乾燥させる。
【0112】
実施例2:カテーテルバルーンの折畳み部のみのコーティング
α‐リノレン酸、ポリエトキシル化ヒマシ油(2:1)、およびシロリムスの混合物をエタノールおよび水に溶かしたものを調製し、ピペットに充填してピペットで多重折畳みバルーンの折り目の下に噴出させる。乾燥後、折畳み部の隙間に粉末状コーティングが生じ、粉末状コーティングはバルーン拡張時に容易に離脱する。
【0113】
実施例3:セラックおよびα‐リノレン酸(1:3)によるカテーテルバルーンのコーティング
α‐リノレン酸およびセラック(3:1)の混合物をエタノールおよび水に溶かしたものを調製し、ピペットに充填してピペットでカテーテルバルーンの表面全体に噴出させる。その後、カテーテルをバルーン24時間室温で乾燥させた。
【0114】
実施例4:シロリムスおよびステアリドン酸によるカテーテルバルーンのコーティング
血管拡張術に使用されてもよい、拡張式カテーテルバルーンを有する一般的なバルーンカテーテルは、アセトンおよびエタノールを用いて超音波槽内で15分間脱脂され、アセトンおよびエタノールが蒸発するまで乾燥炉内で100℃で乾燥される。続いて、カテーテルバルーンは脱塩水を用いて12時間洗浄される。シロリムス10mgを1mLのステアリドン酸(ケイマンケミカル(Cayman Chemical)社)のエタノール溶液に溶解する。混合物は、エアブラシスプレーピストルで5.8cmの距離から、回転する18mmLVMバルーンカテーテルにスプレーされる。その後、コーティングされたバルーンは30℃で24時間乾燥された。任意選択的には、コーティングされたカテーテルバルーンは折りたたまれてよく、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされたステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよい。
【0115】
実施例5:コーティングされたバルーンへの、無菌状態を用いたディッピング法によるシロリムスの提供
実施例3によりコーティングされたカテーテルバルーンは、エタノール1mlにシロリムス300μgの溶液に浸漬され、膨潤された。コーティングの膨潤プロセスの完了後、カテーテルバルーンは溶液から引き出され、120分間室温で風乾され、折りたたまれた。任意選択的には、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされたステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよい。
【0116】
実施例6:アマニ油、シロリムス、およびパクリタキセルによるカテーテルバルーンの生体適合性コーティング
血管拡張術に使用されてもよい、拡張式カテーテルバルーンを有する一般的なバルーンカテーテルは、アセトンおよびエタノールを用いて超音波槽内で15分間脱脂され、アセトンおよびエタノールが蒸発するまで乾燥炉内で100℃で乾燥される。続いて、バルーンカテーテルは脱塩水を用いて14時間洗浄された。アマニ油、シロリムス、およびパクリタキセル (80:10:10重量パーセント)を混合し、混合された堆積を計測後、クロロホルムに1:1の混合比で溶解する。その後、混合物は連続的に回転するバルーンカテーテルのバルーン表面にスプレーされる。穏やかな気流でクロロホルムを蒸発させた後、バルーンカテーテルは80℃で乾燥される。任意選択的には、コーティングされたカテーテルバルーンは折りたたまれてもよく、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされたステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよい。
【0117】
実施例7:0.25重量パーセントのアマニ油を有するエタノールアマニ油スプレー溶液によるカテーテルバルーンの生体適合性コーティング
血管拡張術に使用されてもよい、拡張式カテーテルバルーンを有する一般的なバルーンカテーテルは、アセトンおよびエタノールを用いて超音波槽内で15分間脱脂され、乾燥炉内で100℃で乾燥される。続いて、バルーンカテーテルは脱塩水を用いて14時間洗浄された。アマニ油、シロリムス、およびエタノールのスプレー溶液を調製し、自軸の周りを回転するバルーンカテーテルのバルーン表面に、スプレーピストルで連続的にスプレーする。コーティングされたバルーンを有するバルーンカテーテルは70℃で13時間乾燥される。平均コーティング質量は0.20mg±0.04mgである。任意選択的には、コーティングされたカテーテルバルーンは折りたたまれてもよく、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされたステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよい。
【0118】
実施例8:ガンマ‐リノレン酸、ポリエトキシル化ステアリン酸、およびシロリムスのエタノールスプレー溶液によるカテーテルバルーンの生体適合性コーティング
実施例6で既に記載のとおりカテーテルバルーンを洗浄した後、0.25%のガンマ‐リノレン酸および0.1%のポリエトキシル化ステアリン酸を含有するエタノールスプレー溶液を調製する。続いて、シロリムスをこのエタノール溶液に溶解する。エタノール溶液は、血管拡張術に適した回転するバルーンカテーテルのバルーン表面に、スプレーピストルで連続的にスプレーされる。次に、バルーンカテーテルは70℃で15時間乾燥される。平均コーティング質量は0.3mg±0.06mgである。任意選択的には、コーティングされたカテーテルバルーンは折りたたまれてもよく、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされたステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよい。
【0119】
実施例9:トップコートを付加した2層システムにおける、シロリムス、α‐リノレン酸、およびセラックによるカテーテルバルーンのコーティング
バルーンカテーテルのバルーンは、実施例6に記載のとおり洗浄される。洗浄後、DMSOに溶解した0.25重量%のシロリムス、α‐リノレン酸、およびセラックの第1層は、回転するバルーンカテーテルのバルーン表面に、連続的にスプレーされる。この層は室温で4.5時間乾燥される。続いて、0.1%のポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含むエタノール溶液の第2層がこの第1層上にスプレーされる。コーティングされたバルーンを有するバルーンカテーテルは50℃で24時間以上乾燥される。平均コーティング質量は0.25mg±0.02mgであると測定される。任意選択的には、コーティングされたカテーテルバルーンは折りたたまれてもよく、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされたステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよい。
【0120】
実施例10:ベースコートを付加した2層システムにおける、シロリムス、α‐リノレン酸、およびセラックによるカテーテルバルーンのコーティング
バルーンカテーテルのバルーンは、実施例6に記載のとおり洗浄される。バルーンの洗浄後、エタノールに溶解した0.3重量%のセラックの第1層は、バルーンカテーテルのバルーン表面にスプレーされる。この層は室温で12.5時間以上乾燥される。続いて、0.25重量%のシロリムス、α‐リノレン酸、およびセラックを含むDMSO溶液の第2層がセラックのベースコート上にスプレーされる。30℃で20時間以上乾燥した後、コーティング質量は0.42mg±0.07mgであると測定される。任意選択的には、コーティングされたカテーテルバルーンは折りたたまれてもよく、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされたステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよい。
【0121】
実施例11:アマニ油およびα‐リノレン酸によるカテーテルバルーンのコーティング
血管拡張術に使用されてもよい、拡張式カテーテルバルーンを有する一般的なバルーンカテーテルは、アセトンおよびエタノールを用いて超音波槽内で15分間脱脂され、アセトンおよびエタノールが蒸発するまで乾燥炉内で100℃で乾燥される。次に、エタノールに溶解した0.20重量%のアマニ油、および0.5重量%のα‐リノレン酸の混合物が調製される。この混合物は、回転するバルーンカテーテルのバルーン表面に連続的にスプレーされる。乾燥工程は70℃で14時間以上行われる。平均コーティング質量は0.3mg±0.04mgである。任意選択的には、コーティングされたカテーテルバルーンは折りたたまれてもよく、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされたステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよい。
【0122】
実施例12:プタの冠動脈における血管形成術およびステント留置術後のシロリムスによる再狭窄抑制の実験
血管拡張術に適したバルーンカテーテルのバルーン表面は表9に記載のとおりコーティングされた。乾燥後、一般的な、未コーティングの金属製ステントが各バルーンカテーテルに圧着された。ステントを伴うバルーンカテーテルは滅菌され保護カバーに梱包され、常温で使用されるまで保管された。
【0123】
組織過形成により引き起こされた再狭窄を刺激するために、50頭のブタの冠血管(LAD(左冠動脈前下行枝))およびLCx(左冠動脈回旋枝))がバルーンカテーテルを使って引き伸ばされた。使用動物はヨークシャー種のメスおよび去勢されたオスのブタであった。実験開始時の動物の体重は24から35kgの範囲で、動物の年齢はおよそ12から15週であった。群の大きさは各5頭であった。
【0124】
バルーン拡張術を用いたLADおよびLCxの血管拡張は、1.2対1から1.3対1までの範囲のバルーン/動脈比で30秒間行われ、1度繰り返された。その後、圧着されたステントが血管壁に挿入され、ステントは各動物のLADおよびLCxに留置された。バルーン拡張術には、本発明によりコーティングされたバルーンが使用された。表9に使用コーティングおよびコーティング法の概要を示す。
【0125】
【表9】
【0126】
28日後に動物のLADおよびLCxで血管造影が行われた。狭窄度は、ステント領域の管腔径の、ステント留置直後の管腔径に対する減少のパーセントを示す。数値は平均値±標準偏差として表される。未コーティングのバルーンを有するバルーンカルーテルで治療された群1と比べた差は、P値<0.05で有意と認められた。結果を表10に示す。
【0127】
【表10】
【0128】
実施例13:治療された組織領域における28日後の炎症程度の測定
血管造影後、実施例12の動物を安楽死させ、組織診断のために冠動脈組織試料を採取した。炎症程度を以下の分類を用いて評価した。
【0129】
0 中膜または内膜は炎症を示さない、または少量の炎症性の細胞がまれに点在
1 中膜または内膜の血管領域の25%未満の弱い浸潤または中程度の炎症性病変
2 中膜または内膜の血管領域の25%から50%の間の中程度の浸潤または著しい炎症性病変
3 中膜または内膜の血管領域の50%を超える強い浸潤または著しい炎症性病変
4 動脈のすべての層における肉芽腫性炎症反応
28日後の炎症程度の測定結果を表11に示す。数値は平均値±標準偏差を表す。未コーティングのバルーンを有するバルーンカルーテルで治療された群1との差は、P値<0.05で有意と認められた。調べたコーティングはすべて、28日後に炎症程度の著しい増加を示さなかった。
【0130】
【表11】
【0131】
実施例14:ピペット法を用いたオレイン酸およびシロリムスによる折りたたみ式バルーンのコーティング
血管拡張術に使用されてもよい、拡張式の折りたたみ式バルーンを有する一般的なバルーンカテーテルは、アセトンおよびエタノールを用いて超音波槽内で15分間脱脂され、アセトンおよびエタノールが蒸発するまで乾燥炉内で100℃で乾燥される。続いて、折りたたみ式バルーンは脱塩素水を用いて12時間以上洗浄される。85重量%のオレイン酸と15重量%のシロリムスとの混合物を作製し、得られた混合物に同じ体積のエタノールを加える。折りたたみ式バルーンは回転可能な軸に水平につながれ、そのため充たされるべき折畳み部が常に上側になる。こうして各折畳み部が、ニードルシリンジが拡大されたものであるテフロンカニューレにより、折畳み部の始まりから終わりまで少しずつコーティング溶液で充たされる。続いて、コーティングされたバルーンカテーテルは、溶媒が完全に蒸発するまで一晩室温で乾燥される。次に、コーティングされた、または未コーティングのステントが、必要であれば圧着されてもよい。
【0132】
実施例15:ピペット法を用いたオレイン酸/セラック、およびシロリムスによる折りたたみ式バルーンのコーティング
バルーンカテーテルの折りたたみ式バルーンを、実施例13に記載のとおり洗浄し、コーティングする。しかし、コーティング溶液は40重量%のオレイン酸、40重量%のセラック、および20重量%シロリムスを用いて作製される。得られた混合物に同じ体積のエタノールを加える。
【0133】
実施例16:プタ冠動脈の過拡張モデルにおける、シロリムス溶出親水性コーティングバルーンの薬物動態学的評価
1‐材料および方法
体重35−42kgの8頭のポーランド飼育ブタが実験に含まれ、実験では24のシロリムスおよびパクリタキセル溶出バルーン(上記参照)が使用された。ポーランドのアメリカ心臓研究センター(Center for Cardiovascular Research of American Heart of Poland)において処置が行われた。地域の生命倫理委員会の適切な承認を得た。各動物の3本の冠動脈(LAD、LCx、RCA(右冠動脈))が、1:1:1の割合で試験群または参照群に無作為に割り当てられた。すべての動物は、処置の3日前に開始され最終処置まで続けられる、経口アセチルサリチル酸(325mg)およびクロピドグレル(初回量300mg、およびその後に75mg)からなる二重抗血小板療法を受けた。プロポフォールによる麻酔導入後、動物は挿管され、人工呼吸で維持された。外科的水準の麻酔の維持のために、プロポフォールの継続投与が開始された。続いて、経皮的セルディンガー法を用いて、動脈シースが左または右大腿動脈に挿入された。ヘパリンの初期ボーラス投与(〜400U/kg)が行われ、活性化凝固時間(ACT)が、少なくとも300秒のACT時間を維持するように30分ごとに計測された。冠動脈内ニトログリセリン投与(200μg)後に冠血管造影が行われた。対象部位の選択は、解剖の目視評価および定量的冠動脈造影(QCA)解析に基づき行われた。これらの部位は、ステントコーティングと動脈壁との均一な相互作用を確実にするために、10%より大きいテーパーを有する側枝およびセグメントを避けて選定された。次に、バルーンを1.2:1(許容範囲1.15:1から1.25:1)のバルーン対動脈比を達成するのに十分な圧力まで一定速度で膨張させた。
【0134】
動物は所定の時点で安楽死された。実験用血管の損傷を防ぐために用心して、安楽死後できるだけ素早く心臓を採取した。心臓は異常所見を調べられ、動物識別番号、プロトコール番号、採取日を表示された。心臓は血液が取り除かれるまで通常の生理食塩水で洗い流され、次に10%の中性緩衝ホルマリン(NBF)により80−100mmHgに固定した圧力で灌流された。異常組織の試料を採取し、10%のNBFで浸漬固定を行った。実験用血管セグメントにはすべて、動物識別番号、プロトコール番号、組織型、および採取日が表示された。細胞はすべて容器に収められ、ドライアイスで−68℃に凍結され、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)試験場に送られた。各動物の心臓は、それぞれ別個の容器に収められた。
【0135】
シロリムスおよびパクリタキセル溶出バルーンカテーテルの特性
以下のコーティングを有する3つの実験用カテーテルが評価された:
1. 試験群1: 3.0μg/mmシロリムス+シェロール酸++0.5μg/mmα‐リノレン酸でコーティングされたバルーン
2. 試験群2: 3.0μg/mmシロリムス+シェロール酸でコーティングされたバルーン
3. 参照群: =3.0μg/mmパクリタキセル+3.0μg/mmセラックでコーティングされたバルーン
使用されたバルーンはすべて直径が3.0または3.5mm、長さが20mmであった。
【0136】
定量的冠動脈造影
オフラインのメディス(MEDIS)社のソフトウェア、QAngioX7.2を使用して、盲検化された状態で技師により定量的冠動脈造影(QCA)解析が行われ、血管造影図がダイコム(DICOM)フォーマットで記録された。バルーン配置部位を評価するために、2つの対側投影図が選ばれた。
【0137】
HPLC分析(付録1)
血漿、LAD、LCx、およびRCAのパクリタキセルまたはシロリムス濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定した(ドイツ・ベルリン、AnaKat Institut fur Biotechnologie GmbH社、試料の出所について盲検下で分析)。簡潔に言えば、解凍後、組織を大気温度下で秤量し、重さに応じて、異なる体積のエタノールを試料に加えた(組織を完全に覆うのに十分なエタノール)。試料は次に、超音波で40分間処理された。およそ200mlの試料が遠心分離された。検量線が50と5000ng/mlの間の範囲で作成された。検量線のための試料は、1000mg/mlの濃度の原液を希釈して調製された。すべての試料のアリコート(組織および検量線からの試料)をオートサンプラー用バイアル瓶に移し、同体積の0.1%のギ酸を加えた。ODSハイパーシル(ODS Hypersil)(アメリカ・マサチューセッツ州・ウォルトハム、サーモエレクトロンコーポレーション(ThermoElectron Corporation)社、サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)のカラムを通った、高速液体クロマトグラフィーシステムの流速は0.2ml/min、粒子径は5m、孔径は120Åであった。アイソクラティック移動相は、ギ酸(0.1%)を含有する70%のメタノールからなった。質量分析法の多重反応モニタリングモードで、パクリタキセルの854から105AMUへの変化が検出された。パクリタキセル/シロリムス組織濃度はμg/gで表された。
【0138】
フォローアップ
動物は、表12に従い、1時間、1日、3日、および7日を予定された(各期間につきブタ2頭ずつ)。
【0139】
【表12】
【0140】
統計解析
結果は平均±標準偏差(SD)で表される。変数の正規分布はコルモゴロフ・スミルノフ検定で確認された。等分散性はレーベン検定で確認された。血管造影およびHPLC解析データは分散分析(ANOVA)試験を使用して解析された。非対称な分布、または不均一な分散の場合には、ノンパラメトリックなクラスカルウォリス(Kruskal‐Wallis)検定およびマンホイットニー(Mann‐Whitney)のU検定が使用された。p値<0.05が統計的に有意であると認められた。統計解析はスタットソフト(StatSoft)社のソフトウェア、Statistica7.0を用いて行われた。
【0141】
結果
術前処置
1晩の絶食の後、動物に体重に基づいた混合剤を麻酔前投薬した。これらの活性薬剤は以下を含む:アトロピン(1mg/20kg sc(皮下注射))、ケタミン(1ml/10kg im(筋肉内注射))、およびキシラジン(1ml/10kg im)。注射は、資格を有する動物技師が首または後四半部筋肉の筋肉内に(im)おこなわれた。動物は準備室に移され、そこで心耳辺縁静脈で静脈路が確保され、静脈内液(乳酸化リンゲル、または0.9%の生理食塩水)が処置を通じて投与された。抗不整脈薬がこれらIV(静脈内)液(リドカイン200mg/リットル、メトプロロール5mg/リットル)に加えられた。(プロポフォールのボーラス投与で)動物が適切な麻酔水準に達した後、動物は適切なサイズの気管内チューブを挿管され、チューブは所定の場所にくくりつけ、漏出を防ぐためにカフを膨らませた。動物は次にカテーテル実験室へ移され、実験台の上に配置され、麻酔および人工呼吸装置につながれた。
【0142】
処置
表12に示すように、8つの試験群1用(3.5mmを5つ、3.0mmを3つ)、8つの試験群2用(3.5mmを3つ、3.0mmを5つ)、および8つの参照群用の、合計24のバルーンが使用された。それら各々が提供前に検品された。構造異常の兆候は認められなかった。コーティングは目に見えなかった。バルーンは選択された動脈セグメント内に大腿動脈アクセスにより容易に導入され、1.2:1のバルーン/動脈比を保証するためのQCAライブガイダンス後に所要セグメントに首尾よく配置された。テストされたバルーンはすべて60秒間膨らまされた。1つのケースで過拡張により解離、限定的出血が起こった。このためテスト部位の近位へのステント留置が必要となった。
【0143】
ベースラインの血管およびバルーン使用の特性:
試験群間において、各期間内においてだけでなく全体においても、ベースライン参照血管径、最小管腔径、バルーン径、およびステント対動脈比などのベースラインのQCA結果に差はなかった(表13)。平均過拡張は、110‐120%であり、群間で再現性があった。テストされたバルーンはすべて、3分±20秒間循環内にとどめられた。
【0144】
【表13】
【0145】
パクリタキセル濃度分析およびフォローアップ
全フォローアップ期間内に、死亡も主要有害事象や心臓の事象も認められなかった。動物はすべて、安楽死まで良好な全身状態にあった。参照群(参照バルーン)の送達されたパクリタキセルの濃度は1−12μg/gの範囲内であり、7日間に渡り着実に減少した(図1)。
【0146】
両試験群のバルーンは1−15μg/gの範囲でシロリムスを送達した。1時間のフォローアップでは、試験群の各バルーンは10−20μg/gの量のシロリムスを送達した。試験群1の1日のフォローアップでは、血管内に見られたシロリムス濃度は、140μg/gを上回った。その一方で、同じフォローアップに用意された第2のバルーンは、シロリムスを血管壁に送達しなかった。最終的な観察では、シロリムス濃度は両試験群において1−1.5μg/gの範囲であった(図1)。記録された差異はどれも統計的に有意ではなかった。
【0147】
活性薬剤の残存はパクリタキセル溶出バルーンにおいて著しく高かった。
【0148】
【表14】
【0149】
【表15】
【0150】
【表16】
【0151】
【表17】
【0152】
結論
テストされたバルーンはすべて容易に導入され、実験部位に配置された。送達や回収の問題は起こらなかった。膨張時のバルーン径は所定の径に達した。処置後にもフォローアップ時にも有害事象は認められなかった。死体解剖時に、実験部位内に心筋梗塞または炎症の肉眼で見える兆候は認められなかった。観察が非常に短期間であったことと、実験の設計により、実験用バルーンカテーテルの安全性がエンドポイントではなかったことに留意しなければならない。
【0153】
ベースラインの実験血管特性は、群間で参照径および最小管腔径に関して類似していた。最も重要なことに、1.1−1.2:1のステント対動脈比は、試験群間で類似した過拡張を引き起こした。その一方で、各タイムポイントにおける群ごとのテスト用バルーンの数が非常に少なかったため(n=2)、数値的に再現性のある過拡張の達成は難しかった。膨張はすべて60秒間おこなわれ、すべてのバルーンが同じ時間循環内にとどめられた。これまでの実験に基づき、この過拡張および膨張時間は活性薬剤送達にとっての適切かつ再現可能な状態を確実にもたらさなければならない(1、2)。
【0154】
参照群が送達したパクリタキセルの濃度は、1−10μg/g以内であった。この結果は、より高いパクリタキセル組織濃度を達成した、現在臨床的に使用可能なパクリタキセル溶出バルーンに匹敵するものではない(2、3)。テスト用シロリムスバルーンは両方とも、1.5−20μg/gの範囲内で血管壁にシロリムスを送達した。1時間後、すべての血管でシロリムスが10−20μg/g見られ、血管壁へのシロリムスの良好な送達性を証明した。試験群1の1つのテスト用バルーンで、シロリムスの血管濃度は24時間で142μg/gという驚くべき結果を達成した。この場合の過拡張は大きかったものの(1.24:1)、同じ膨張圧および過拡張で使用された試験群1の第2のバルーンは、血管へシロリムスを送達しなかった。このタイムポイントでの試験群1と2との間の高い数値的差異(63対8μg/g)にもかかわらず、結果は統計的差異に達しなかった。試験群1の7日のフォローアップでは、濃度は1.27μg/g以内であり、四部位範囲が非常に小さく、ゆえに非常に再現性がある。
【0155】
この実験はシロリムスの血管壁への送達性を証明した最初のものであり(1)、ゆえに非常に有望である。一連の乏しく公開がまれな報告においては、バルーンから送達された非親油性物質としてのシロリムスは有意の濃度に達しなかった。新生内膜抑制に必要なシロリムス溶出バルーン血管形成術後の、治療上のまたは細胞障害性のシロリムス濃度が不明であるため、再狭窄のブタモデルにおける安全性および有効性を証明するためには長期の組織効果の調査が必須である。
【0156】
実施例16の参照文献:
1. Gray WA. Granada JF. 血管再狭窄予防のための薬剤コーティングバルーン(Drug−coated balloons for the prevention of vascular restenosis). Circulation;121:2672−80.
2. Posa A. Hemetsberger R. Petnehazy O. et al. ブタ冠動脈におけるパクリタキセル溶出バルーンによる局所薬剤送達の達成(Attainment of local drug delivery with paclitaxel−eluting balloon in porcine coronary arteries). Coron artery Dis 2008;19:243−7.
3. Scheller B. Speck U. Schmitt A. Bohm M. Nickenig G. パクリタキセルの造影剤への添加が冠動脈ステント留置術後の再狭窄を防止する(Addition of paclitaxel to contrast media prevents restenosis after coronary stent implantation). J Am Coll Cardiol 2003;42:1415−20.
実施例17:健康なウサギモデルにおけるシロリムス溶出バルーンの活性薬剤伝達の原理証明実験
シロリムス(3μg/mm)、セラック(3μg/mm)、およびα‐リノレン酸(1.5μg/mm)の混合物でコーティングされたシロリムス溶出バルーン(3.0×20mm)(本実施例でDEBと呼ぶ)は、バルーンの膨張の間の動脈組織へのシロリムスの効果的な伝達に関して評価された。
【0157】
この実験はミュンヘン工科大学の付属クリニックである「Deutsches Herzzentrum Munchen」で行われた。地域の生命倫理委員会の適切な承認を得た。組織中のシロリムス含有量のHPLC−MS法に基づく解析が米国コロラド大学のic42研究所(ic42 Laboratory)において行われた。
【0158】
実験設計:
合計4つのシロリムス溶出バルーンが2匹の健康なニュージーランド白ウサギに使用された。このために、動物はプロポフォールで麻酔され、手術の間の無痛がフェンタニルの反復したボーラス投与により保証された。動物は挿管され、人工呼吸され、常時バイタルサイン(パルスオキシメトリーおよびカプノグラフィー)を管理された。500IUのヘパリンおよび40mgのアスピリンの静脈内投与で抗凝血を達成した。動脈アクセスは総頸動脈を切開して行われた。スワンガンツカテーテルを蛍光透視ガイダンス下で大動脈弓を超えて腹部大動脈の総腸骨動脈の分岐のすぐ手前へ進め、最初の血管造影が行われた。次にガイドワイヤーが外腸骨動脈に配置された。動脈損傷を誘発し、健康な動脈の血管壁内へのシロリムスの取り込みを促進するために、外腸骨動脈の中央部内で、一回のバルーン膨張[3,0x10mmサイズのバルーン(Biotronik SE & Co. KG社製エレクト(Elect))を通常圧(7atm)で30秒間保持]によるワイヤー誘導バルーン損傷(POBA(バルーン拡張術))が行われた。その後、シロリムス溶出バルーンは誘発損傷の全長を覆って配置された。シロリムス溶出バルーンを公称圧(6atm)で60秒間膨張させた。処置の5分後に最終血管造影が行われ、動物は1時間の実験終了まで麻酔下に置かれた。実験終了のために、動物にペントバルビタールを静脈内過量投与して安楽死させた。安楽死に続き、腹部を切り開き、腹部大動脈および後大静脈を露出し、動脈シースでアクセスした。続いて、血液が取り除かれるまで動脈シースを介して血管を500mlのヘパリン化リンゲル液で洗い流した。処置された外腸骨動脈は次に、注意深く切り離され、体外培養され、液体窒素でスナップ凍結された。続いて、処置された腸骨動脈(n=4)は、ドライアイスを使用して分析試験場へ輸送されるまで−70℃で保管された。試験場で、体外培養された処置血管は秤量され、均質化され、無希釈ホモジネートのシロリムス含有量が計測された。常時、バッチ試料が明確に識別され、同日に同抽出法を用いて処理された。無希釈試料はすべて、検出範囲を超えるシロリムス含有量を示し、1:10および1:20に希釈された後に繰り返し計測された。
【0159】
【表18】
【0160】
結果:
シロリムス溶出バルーンの配置後に動物は毒性の兆候を示さず、膨張後の血管造影は開存血管を示し、血管壁解離の兆候を示さなかった。肉眼で見て、血管の体外培養時にも血管損傷または解離の兆候はなかった。HPLCに基づく結果は、血管壁へのシロリムスの著しい取り込みがあり、その結果、平均濃度が35.00±33.37ng/mgであったことを示している。シロリムス組織濃度は8から82ng/mgの範囲であった。
【0161】
【表19】
【0162】
結論:
本実験はシロリムス溶出バルーン使用1時間後のシロリムスの組織濃度を調べることを目的とした。本実験で適用したシロリムス溶出バルーンは処置動脈内で著しいシロリムス濃度を示す結果となった。我々の知る限りでは、これが組織1mg当り最大82ngのシロリムスの動脈壁組織濃度を達成することのできる最初のシロリムス溶出バルーンである。これに関し、適用されたセラックおよびオメガ脂肪酸の担体製剤は、シロリムスを動脈組織へ送達するための、期待の持てる新しいコーティング技術である。
図1
図2
図3