(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6038933
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】粘膜炎の治療および/または予防のためのメラトニンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4045 20060101AFI20161128BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20161128BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20161128BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20161128BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20161128BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20161128BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20161128BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20161128BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
A61K31/4045
A61P1/00
A61P29/00
A61P1/02
A61P1/04
A61K47/34
A61K47/38
A61K47/36
A61K9/06
【請求項の数】17
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-536301(P2014-536301)
(86)(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公表番号】特表2014-530844(P2014-530844A)
(43)【公表日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】ES2012070728
(87)【国際公開番号】WO2013057354
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年4月27日
(31)【優先権主張番号】P201101158
(32)【優先日】2011年10月19日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】508254576
【氏名又は名称】ウニベルシダト デ グラナダ
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100176083
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 祐子
(72)【発明者】
【氏名】ジャーメイン、エスカメス、ロサ
(72)【発明者】
【氏名】ダリオ、アクーニャ、カストロビエホ
【審査官】
星 功介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第97/006779(WO,A1)
【文献】
米国特許第05939084(US,A)
【文献】
Radiatsionnaya Biologiya, Radioekologiya (2004), 44(1), 68-71
【文献】
Lancet Oncol 2006; 7: 175.83
【文献】
International Journal of Antimicrobial Agents, 16 (2000) 161-163
【文献】
Ind J Biotech, 2004, 3: 369-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】
(式中、
「n」は1〜4の整数であり、
R
1およびR
3は、同一または異なる、直鎖状または分岐状の(C
1−C
4)アルキル基であり、かつ
R
2は、水素、直鎖状または分岐状の(C
1−C
4)アルキル基、−C(=O)O−Ra基または−C(=O)−N(H)−Ra基であり、式中、Raは、直鎖状または分岐状の(C
1−C
4)アルキル基である)
の化合物またはその
塩もしくは溶媒和物を含んでなる局所投与のための医薬ゲル組成物であって、
前記化合物が、粘膜炎の治療および/または予防のため、2.5〜5%(w/v)の濃度であ
り、
かつ
前記ゲル組成物が、粘膜の表面への局所投与のための組成物である、組成物。
【請求項2】
R1およびR3は、同一または異なる、(C1−C2)アルキル基である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
R1およびR3がメチル基である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
nが1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
R2が水素である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
化合物がメラトニンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
化合物の濃度が3%(w/v)である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
粘膜炎が放射線療法および/または化学療法によって引き起こされる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
粘膜炎が口腔、咽頭、食道、胃または腸粘膜炎である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
粘膜炎が口腔粘膜炎である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
粘膜炎がヒト粘膜炎である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
組成物が、少なくとも1種類の薬学上許容可能な賦形剤またはアジュバントをさらに含んでなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
組成物が、ゲル化剤を含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ゲル化剤が、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、セルロースおよびグアーガムを含んでなるリストから選択される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
組成物が、少なくとも1種類の防腐剤をさらに含んでなる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
組成物が、酸化防止剤をさらに含んでなる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
組成物が、薬学上許容可能なキャリアをさらに含んでなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラトニン(N−アセチル−5−メトキシトリプタミン)またはその誘導体を2.5%〜5%重量/容量(w/v)の濃度で含んでなる組成物の粘膜炎を治療および/または予防するための医薬組成物の調製のための使用に関する。粘膜炎は、放射線療法および/または化学療法によって起こりやすい。従って、本発明は、医学の分野に含まれる可能性がある。
【0002】
技術の状態
放射線療法もしくは化学療法、または両者の結合による悪性腫瘍の治療はますます効果的になっては来ているが、短期および長期副作用を伴っている。これらの副作用には、口腔粘膜の機能および健全に関する傷害がある。結果としては、重篤な潰瘍形成(粘膜炎)および口の真菌による重複感染(カンジダ症、鵞口瘡)が挙げられる。この疾患によって誘発されるこれらの合併症とその治療は、嚥下の際の苦痛、嚥下困難、栄養失調、化学療法による投薬での遅延、放射線療法計画における中断、腫瘍学的治療の有効性の喪失、長期間にわたる入院日数、費用の嵩み、および幾人かの患者では、潜在的に致命的な感染症(敗血症)を伴う。
【0003】
粘膜炎は、口から肛門までの全消化管を冒す炎症性反応であり、化学療法および/または放射線療法および骨髄移植の主要な有害効果の一つである。粘膜炎は、コルチコイド、免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロスポリンA)、口内乾燥症誘発薬、抗不安剤、抗鬱剤、抗ヒスタミン剤、交感神経刺激剤、抗パーキンソン病薬、抗精神病剤、歯肉治療剤、ヒダントインまたは広範囲抗生物質のような化学薬剤によっても引き起こされる可能性がある。
【0004】
電離放射線によって誘発される口腔粘膜炎(または口内炎)(放射線誘発口腔粘膜炎)や化学療法剤によって誘発される口腔粘膜炎(または口内炎)は、現在、癌患者の治療における主要な問題の一つである。化学療法および/または放射線療法を受けている患者の40%および骨髄移植患者の76%までは、口部に問題を示し、最もよく見られる口部の問題は、粘膜炎、局所感染症、痛みおよび出血である。頭部および頸部癌患者の97%はある程度の粘膜炎を示し、長期間の分割放射線療法を受けた患者の100%も粘膜炎を示す(Trotti A et al. Radiotherapy and Oncology 2003,66:253-262)。電離放射線によって引き起こされる損傷は、直接的および間接的機構によるものである。直接的効果はデオキシリボ核酸(DNA)における放射線の突然変異誘発作用によるものであり、間接的機構(このような機構の約70%)は水分子に対する放射線の効果によりフリーラジカルの形成を引き起こすものである(Trotti A et al. Radiotherapy and Oncology 2003,66:253-262)。
【0005】
世界保健機構(WHO)によれば、粘膜炎は、総体的症状に基づいて様々な等級に分類される。等級0:正常;等級1:全身性紅斑、粘膜はピンク色で痛みがなく、唾液は十分であり、声は正常;等級2:紅斑、余り広範囲でない潰瘍、固形物を飲み込むことはできる;等級3:紅斑、水腫または広範囲の潰瘍、患者は痛みを伴ってしか液体を飲み込むことができず、話しは困難である;等級4:極めて広範囲の潰瘍、歯肉からの出血、感染症、唾液なし、極めて強烈な痛み、経腸または非経口的サポート。
【0006】
粘膜炎は、粘膜下組織で起こって上皮へと進行する一連の生物学的事象の結果として起こり、種々の病因を有する粘膜炎に共通している。放射線療法および化学療法では、第一相で、反応性酸素種(ROS)とDNAの損傷が増加することが報告されている。核因子κ−B(NF−κB)のような転写因子が活性化される。インターロイキン−1(IL−1)および腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症誘発性サイトカインの産生が増加し、アポトーシスや細胞損傷を引き起こす。この炎症性反応は、粘膜に損傷を生じ、その結果潰瘍を発症する。これらの細胞は微生物によってコロニー形成し、総ての組織損傷の原因であるサイトカインを更に産生するマクロファージが活性化される。この全プロセスにおいて、炎症プロセスおよび細胞損傷の増加に寄与するフリーラジカルが大幅に増加する。第二相では、放射線療法および/または化学療法が上皮細胞の複製を阻害し、細胞再生を減少させる。第三相では、微生物のコロニー形成と潰瘍化表面が増加し続け、全身感染症の発症が促進される(Volpato LE et al. Mol Cancer Ther 2007,6:3122-3130)。粘膜炎は、既知の抗炎症剤による治療に応答しない炎症性症状である。粘膜炎は、インフラマソーム経路のような炎症性プロセスの残りとは異なる生化学的機構が介在する可能性があるプロセスである(Escames G, et al. Hum Genet, July 2011, DOI 10.1007/s00439-011-1057)。現在のところ、粘膜炎を完全に逆転させまたは粘膜炎の発生を完全に防止する治療法はない。
【0007】
今日まで、粘膜炎の治療および予防のため多種多様な治療法が用いられてきたが、完全な粘膜炎の逆転させる結果を示すことはなかったのであり、例えば、アシクロビル、ベンジダミン、β−カロテン、リン酸カルシウムを用いる治療、アロプリノール、アロエベラ、クロルヘキシジン、カモミール、エトポシド、フォリン酸、グルタミン、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、ナイスタチン、ミソニダゾール、ポビドン、ピロカルピン、ヘマトトキシフィリン、プレドニゾンまたはスクラルファートを用いるすすぎが報告されている(Worthington HV et al. Cochrane Database Syst Rev. October 2007,17;(4) DOI: 10.1002/14651858.CD000978.pub3; Clarkson JE et al., Cochrane Database Syst Rev. August 2010,4;(8)), DOI: 10.1002/14651858.CD001973.pub4.)。
【0008】
従って、粘膜炎、特に放射線療法および/または化学療法を受けている患者での粘膜炎を完全に逆転させかつ予防することができる手段が必要である。
【発明の概要】
【0009】
発明の説明
本発明は、粘膜炎の治療および/または予防のための医薬組成物を調製するための2.5〜5%(w/v)の濃度でメラトニンまたはその誘導体を含んでなる組成物の使用を記載する。
【0010】
放射線療法または化学療法によって引き起こされる損傷から口腔粘膜を保護するインビボでの結果が示される。本発明の組成物は、口腔粘膜並びに胃腸粘膜の保護に有用である。本発明は、本発明の組成物で記載されているより低濃度では粘膜炎を完全に元に戻させることができず、一方、3%(w/v)以上の濃度は、電離放射線によって引き起こされる粘膜炎を治療し、完全に元に戻させることができることを明らかにする。様々な投与経路の結果が示され、局所経路は、口腔粘膜炎に対して最善の保護を提供する経路である。
【0011】
記載されていることに基づけば、本発明は、粘膜炎の治療および/または予防のための医薬組成物を調製するための2.5〜5%(w/v)の濃度でメラトニンまたはその誘導体を含んでなる組成物の使用に関する。これ以後、それは、「本発明の組成物」と呼ぶことにする。
【0012】
「2.5〜5%(w/v)の濃度」とは、最終組成物100ml中にメラトニンまたはその誘導体2.5〜5gを含んでなる組成物と理解される。「w/v」という略号は、重量/容量または質量/容量(m/v)を表す。
【0013】
好ましい実施態様は、メラトニンまたはその誘導体の濃度が3%(w/v)である場合の使用に関する。従って、前記の好ましい組成物は、組成物の総容量100ml中にメラトニンまたはその誘導体3gを含んでなる組成物を表す。これ以後、この組成物は、「本発明の好ましい組成物」と呼ぶことにする。
【0014】
粘膜炎の治療および/または予防のための医薬組成物の調製に有用な一般式Iに含まれる任意の化合物並びに薬学上許容可能なその塩、溶媒和物またはプロドラッグは、「メラトニンまたはその誘導体」と理解される。
【0015】
一般式Iの化合物は、
【化1】
(式中、
「n」は、1〜4の整数であり、
R
1およびR
3は、同一または異なる直鎖状または分岐状の(C
1−C
4)アルキル基であり、および
R
2は、水素、直鎖状または分岐状のC
1−C
4アルキル、−C(=O)O−Ra基または−C(=O)−N(H)−Ra基であって、Raが直鎖状または分岐状のC
1−C
4アルキル基であるものである)
を表す。
【0016】
本発明において、「アルキル」という用語は、1〜4個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の脂肪族鎖、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、第三ブチル、第二ブチル、n−ペンチルなどを表す。アルキル基は、好ましくは1〜2個の炭素原子を有する。より好ましくは、それはメチル基である。
【0017】
本発明の好ましい実施態様では、R
1およびR
3はメチル基である。より好ましくは、nは1であり、さらにより好ましくは、R
2は水素である。
【0018】
「メラトニン」という用語は、N−アセチル−5−メトキシ−トリプタミンを表し、文献ではメラトニン(melatonin)、メラトニン(melatonine)、メラトール、メルビン(melovine)、サーカディン(circadin)、レグリン(regulin)、アセタミド、N−アセチル−メトキシ−トリプタミン、5−メトキシ−N−アセチルトリプタミン、N−[2−(5−メトキシ−1H−インドール−3−イル)エチル]アセタミドまたはN−[2−(5−メトキシインドール−3−イル)エチル]アセタミドとも呼ばれ、または一般式(I)化合物においてR
1およびR
3がメチル基であるときには、nは1であり、R
2は水素である。メラトニンのCAS登録番号は、73−31−4である。
【0019】
メラトニンは、ヒトなどの動物において松果体(上生体)によって、および例えば、胃腸管、網膜、リンパ球および骨髄細胞のような他の器官によって生理学的に産生される内在性神経ホルモンである。
【0020】
メラトニンは、ヒトなどの動物においてセロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン、5−HT)から産生され、セロトニンはまたアミノ酸トリプトファンに由来する。従って、本発明は、メラトニン前駆体(5−HT、トリプトファンまたはN−アセチルセロトニンまたはNASのような中間代謝物)のいずれかを、粘膜炎の治療および/または予防のための医薬組成物を調製するための本発明に記載の濃度で人体においてメラトニンに転換されるのに十分な濃度で含んでなる組成物の使用にも関する。
【0021】
従って、本発明は、当業者に知られている化学的方法によって、例えば、水または有機溶媒中またはこれらの混合物中における酸との反応によって産生することができるメラトニンまたはその誘導体の薬学上許容可能な塩にも関する。エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルを、有機溶媒として用いることができる。酸付加塩の例としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩のような無機酸付加塩、および例えば、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩およびp−トルエンスルホン酸塩のような有機酸付加塩が挙げられる。
【0022】
本明細書で用いられる「プロドラッグ」という用語は、化学的誘導、例えば、付加的化学基の置換または付加を受け、溶解度またはバイオアベイラビリティーのようなその物理化学的特性のいずれかを変更する化学化合物を表すが、元の分子の技術的特徴を変更しない。プロドラッグは、例えば、エステル、エーテルまたはアミド誘導体であることができる。バイオアベイラビリティーは、特定の生物学的区画におけるその利用可能性を表す。
【0023】
本発明によれば、「溶媒和物」という用語は、非共有結合によって結合した別の分子、例えば、極性溶媒を有するメラトニンの誘導体であると理解されなければならない。このような溶媒和物の例としては、水和物およびアルコラート、例えば、メタノラートが挙げられる。
【0024】
塩、溶媒和物およびプロドラッグは、当該技術水準で知られている手段によって調製することができる。薬学上許容可能でない塩、溶媒和物またはプロドラッグも、薬学上許容可能な塩、溶媒和物またはプロドラッグの調製に用いることができるので、本発明の範囲内にある。
【0025】
本発明の組成物または本発明の好ましい組成物は、本発明の組成物に記載したのと同等の濃度でメラトニンと同等の生物学的機能を有するものを含んでなる組成物を表すこともできる。
【0026】
本明細書で用いられる「同等の生物学的機能を有するもの」または「生物学的に同等な変異体」という用語は、記載された分子に関して僅かの変化しか示すことができず、前記分子に対して任意の技術的効果の追加に寄与する前記変化のない記載された分子と同じ機能を有する分子を表す。従って、本発明は、同じ機能を有しかつメラトニンに対して任意の技術的効果の追加に寄与する変化のない僅かな変化を示すメラトニン変異体に関する。
【0027】
「同等の濃度」とは、本発明の組成物によって本発明に記載されているのと同じ効果を生じるメラトニンの同等な生物学的機能を有するものに必要な濃度と理解される。
【0028】
メラトニンは、植物でも生産される。例えば、藻類、食用植物、穀類、果実、種子、根、茎、葉および薬草には、メラトニンの存在が記載されている(Paredes SD et al. J Exp Bot 20089,60(1):57-69)。メラトニンは、例えば、ココア、ブドウ、トマト、茶、緑茶、藻類、穀類およびオリーブに含まれていることが記載されている。本発明の組成物のメラトニンの供給源は、植物供給源であることができる。植物供給源からのメラトニン(植物メラトニンとしても知られている)は、そのような目的に当業者に知られている任意の方法によって得ることができる。
【0029】
本発明の組成物に用いられるメラトニンの供給源は、合成的なものであることもできる。メラトニンは、そのような目的に当業者に知られている手法によって化学的に合成することができる。
【0030】
「医薬組成物」または「医薬品」という用語は、ヒトまたは動物の疾患を予防し、診断し、緩和し、治療しまたは治すために用いられる任意の物質を表す。本発明に関しては、それは、粘膜炎を治療しおよび/または予防することができる組成物を表す。
【0031】
本発明において、「治療しおよび/または予防する」とは、治療的および予防的処置または予防的手段の両方を表す。治療を行うことができる状況としては、既に変化を伴った状況並びに変化が防止されている状況が挙げられる。「変化」とは、本明細書に記載されているように、本発明の組成物を用いる治療から利益を得る任意の状態である。
【0032】
本明細書で用いられる「粘膜炎」という用語は、主として胃腸管の粘膜、すなわち、口腔、咽頭、食道、胃および腸粘膜の炎症を生じる疾患を表し、粘膜の健全と機能に衝撃を与え、そこに潰瘍形成と感染症を生じる可能性があることを特徴とする。粘膜炎は、様々な病因、中でも放射線療法治療、化学療法治療、骨髄移植または薬剤を用いる治療によって引き起こされる可能性がある。
【0033】
好ましい実施態様は、粘膜炎が放射線療法および/または化学療法によって引き起こされる場合における使用に関する。
【0034】
放射線療法は、例えばγ線およびα粒子を両方とも包含するx線または放射能のような、物質をイオン化することができる電離放射線の使用に基づく治療と理解される。本発明は、癌治療に用いられかつ粘膜炎を生じる当業者に知られている任意の治療を包含する電離放射線を用いる治療に関する。
【0035】
化学療法は、腫瘍成長阻害を引き起こしかつ粘膜炎を生じる当業者に知られている任意の治療を包含する薬剤の投与に基づく治療と理解される。例えば、化学薬剤は、メトトレキサート、プロカルバジン、チオグアニン、メルカプトプリン、シタラビン、フルオロウラシル、フロクスウリジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ミトラマイシン、ブレオマイシン、アスパラギナーゼまたはイリノテカンを表すことができる。
【0036】
もう一つの好ましい実施態様は、粘膜炎が口腔、咽頭、食道、胃または腸粘膜炎である場合の使用に関する。もう一つの好ましい実施態様は、粘膜炎が口腔粘膜炎である場合の使用に関する。
【0037】
もう一つの好ましい実施態様は、粘膜炎がヒトで起こる場合の使用に関する。
【0038】
もう一つの好ましい実施態様は、組成物が少なくとも1種類の薬学上許容可能な賦形剤またはアジュバントをさらに含んでなる場合の使用に関する。
【0039】
「賦形剤」という用語は、本発明の医薬組成物または医薬品の吸収を補助し、前記医薬組成物を安定化し、またはその組成物にコンシステンシーを与えまたはそれをさらに味をよくする風味を提供する意味においてその調製で補助する物質を表す。従って、賦形剤は、例えば、澱粉、砂糖またはセルロースのような成分を一緒に保持する機能、甘み付けの機能、色素として作用する機能、医薬品を例えば、空気および/または湿気から隔離するような医薬品を保護する機能、例えば、第二リン酸カルシウムのような丸薬、カプセルまたは任意の他の提示形態の充填剤としての機能、成分の溶解および腸におけるその吸収を促進する崩壊機能を有することができ、この段落に記載されていない他の種類の賦形剤を除外しない。例えば、シナモン、レモン、オレンジ、マンダリンまたはバニラエッセンスのようなエッセンスを添加して、本発明の組成物が心地よい風味を有するようにすることができる。
【0040】
「アジュバント」という用語は、薬剤物質の応答を高める任意の物質を表す。本発明において、前記用語は、本発明の組成物の効果を高める任意の物質を表し、それは、当業者に知られている任意のアジュバントを表すことができる。
【0041】
「薬学上許容可能な」という用語は、化合物を投与する生物を損傷しないようにすることができかつ評価される問題の化合物を表す。
【0042】
もう一つの好ましい実施態様は、組成物がゲル化剤をさらに含んでなる場合の使用に関する。ゲル化剤は、好ましくはポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、セルロースおよびグアーガムを含んでなるリストから選択される。それは、好ましくはポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマーを表す。本明細書に記載されていることに基づけば、もう一つの好ましい実施態様は、組成物がゲル(または「ヒドロゲル」とも呼ばれる)である場合の使用に関する。
【0043】
「ゲル化剤」という用語は、ゲル、すなわち、ゲル化剤によって形成される三次元ネットワークを形成し、一般に液相を含む物質を表す。用いることができるゲル化剤は、当業者に知られており医薬組成物を調製するためのものであることができる。例えば、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー以外に、ポロキサマーコポリマー(またはポロキサマー)、例えば、プルロニック(Pluronic)
(商標)F127(CAS登録番号9003−11−6)またはプルロニック
(商標)F127NFなどのプルロニック
(商標)と呼ばれる薬剤を用いることができる。
【0044】
もう一つの好ましい実施態様は、組成物が少なくとも1種類の防腐剤をさらに含んでなる場合の使用に関する。
【0045】
防腐剤は、微生物汚染を抑制することにより医薬品の特性を保持する物質として理解され、防腐剤は、イオン性または非イオン性防腐剤であることができる。用いられる防腐剤は、毒性がなく、化学的に安定であり、メラトニンと適合性である。当該技術水準において知られている防腐剤は、防腐剤として用いることができ、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、アスコルビン酸、ソルビン酸カリウム、メチルパラベン、エチルパラベンまたはブチルパラベンを用いることができる。「微生物」とは、本発明の組成物において成長し、増殖することができる任意の細胞、例えば、細菌、真菌および酵母として理解される。
【0046】
もう一つの好ましい実施態様は、組成物が酸化防止剤をさらに含んでなる場合の使用に関する。
【0047】
「酸化防止剤」という用語は、酸化を遅らせまたは防止することができる物質を表す。当該技術水準で知られている酸化防止剤は、酸化防止剤として用いることができ、例えば、トコフェロール、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、酒石酸、ブチルヒドロキシアニソール、クエン酸、ビタミンAまたはビタミンEを用いることができる。
【0048】
もう一つの好ましい実施態様は、組成物が少なくとももう一つの薬剤物質をさらに含んでなる場合の使用に関する。
【0049】
本明細書で用いられる「薬剤物質」、「活性物質」、「医薬活性物質」、「活性成分」または「医薬活性成分」という用語は、疾患の診断、治癒、緩和、治療または予防に対して薬理活性または別の異なる効果を潜在的に提供してもよく、またはヒトまたは他の動物の身体の構造または機能に影響を及ぼしてもよい任意の成分を表す。例えば、アロプリノールを用いることができる。
【0050】
もう一つの好ましい実施態様は、組成物が薬学上許容可能なキャリアをさらに含んでなる場合の使用に関する。
【0051】
「薬学上許容可能なキャリア」または薬理学上許容可能なキャリアは、医薬剤形の調製に用いられる薬学分野で知られている物質または物質の組合せを表し、固形物、液体、溶媒または界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。キャリアは不活性物質でありあるいは本発明の化合物のいずれかと同様の作用を有することができる。キャリアの機能は、本発明の発現生成物並びに他の化合物の結合を促進し、より良好な投薬および投与を可能にし、医薬組成物にコンシステンシーと形態を与えることである。提示形態が液体であるときには、キャリアは希釈剤である。本発明で用いることができる薬学上許容可能なキャリアは、当業者に知られているもの、例えば、リソソーム、ミリカプセル、マイクロカプセル、ナノカプセル、スポンジ、ミリスフェア、マイクロスフェア、ナノスフェア、ミリ粒子、マイクロ粒子およびナノ粒子であることができる。
【0052】
本発明の医薬組成物は、当該技術水準で知られている様々な形態で投与する目的で処方することができる。このような処方物は、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトに局所、口腔、非経口、腹腔内、静脈内、皮内、病巣内、動脈内、筋肉内、鼻内または皮下経路などこれらに限定されない様々な経路を通して投与することができる。
【0053】
本明細書の記載に基づき、もう一つの好ましい実施態様は、組成物が局所、口腔、腹腔内、皮内または皮下投与に好適な投薬形態である場合の使用に関する。さらにより好ましい実施態様は、組成物が局所投与に好適な投薬形態である場合の使用に関する。
【0054】
本発明における「局所投与」という用語は、組成物を粘膜の表面に投与することを表す。投与は、消化管の任意の部分の粘膜、好ましくは口腔粘膜で行うことができる。本発明の組成物の投与は、数分間の口腔すすぎにより口腔粘膜に含浸させることにより行うことができ、次いで全胃腸粘膜に含浸させかつ接触させるために摂取することができる。
【0055】
局所投与の場合には、本発明の組成物で用いることができる処方物としては、下記のもの:水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、乳液、ローション、ゲル、ポマード、香油、フォーム、ボディオイル、石鹸、バー、ペンシル、吸入器、クリーム、塗布剤、軟膏、血清およびムースを挙げることができる。組成物は、ヒドロゲル、ワイプ、パッチおよびフェイスマスクからなる群から選択される固形支持体に組込むこともできる。
【0056】
治療上有効量を得るための用量は、例えば、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトの年齢、体重、性別または耐性などの様々な要因によって変化する。本明細書で用いられる意味においては、「治療上有効量」という表現は、所望な効果を生じる組成物の薬学上有効量を表し、通常はとりわけ前記医薬組成物および求める治療効果の典型的特徴によって決定される。
【0057】
本発明の好ましい実施態様は、投与される一日用量が37.5mg〜75mgである場合の使用に関する。さらにより好ましい実施態様は、投与される一日用量が45mgである場合の使用に関する。さらにより好ましい実施態様は、15mgの投薬計画の用量を1日3回投与する場合の使用に関する。
【0058】
本明細書の記載および特許請求の範囲において、「含んでなる」という用語およびその変異形は、他の技術的特徴、付加物、成分または段階を除外しようとするものではない。当業者にとって、本発明の他の目的、利点および特徴は、一部は記載からおよび一部は本発明の実施から推定される。下記の実施例および図面は、実例として提供され、本発明を制限しようとするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】ラット舌ホモジネートにおける酸化的ストレスレベル。対照ラット、放射線照射ラットおよび口腔で局所経路によって1%、3%または5%(w/v)メラトニンゲルを投与した放射線照射ラットにおける脂質過酸化(LPO)インデックスの結果を示す。対照群(C);放射線照射群(IR);1%、3%または5%メラトニンゲルを投与した放射線照射群(IR+メラトニン)。MDA、マロニルジアルデヒド;4−HDA、ヒドロキシアルケナール;Cに関して
**p<0.01および
***p<0.001;IRに関して
###p<0.001。
【
図2】ラット舌ミトコンドリアにおける酸化的ストレスレベル。対照ラット、放射線照射ラットおよび口腔で局所経路によって1%、3%または5%(w/v)メラトニンゲルを投与した放射線照射ラットにおける脂質過酸化(LPO)インデックスの結果を示す。対照群(C);放射線照射群(IR);1%、3%または5%メラトニンゲルを投与した放射線照射群(IR+メラトニン)。MDA、マロニルジアルデヒド;4−HDA、ヒドロキシアルケナール;Cに関して
**p<0.01および
***p<0.001;IRに関して
###p<0.001。
【
図3】ラット舌におけるグルタチオンレベル。対照ラット、放射線照射ラットおよび口腔で局所経路によって1%、3%または5%(w/v)メラトニンゲルを投与した放射線照射ラットにおけるグルタチオンレベルの結果を示す。A,還元グルタチオンレベル(GSH);B,酸化体(GSSG);C,総グルタチオン(G
T);D,対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、および1%、3%および5%メラトニンを投与したラット(IR+メラトニン)の舌ミトコンドリアにおける(GSSG/GSH)比。Cに関して
***p<0.001;IRに関して
###p<0.001。
【
図4】ラット舌ミトコンドリアにおけるグルタチオンペルオキシダーゼおよびグルタチオンレダクターゼの活性。A,グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx);およびB,グルタチオンレダクターゼ(GRd)の対照ラット、放射線照射ラットおよび1%、3%または5%メラトニンゲルを投与した放射線照射ラットにおける活性の結果を示す。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、および口腔で局所経路によって1%、3%または5%(w/v)メラトニンゲルを投与した放射線照射ラット。Cに関して
**p<0.01および
***p<0.001;IRに関して
###p<0.001。
【
図5】本発明の組成物を投与した後のラット舌の肉眼的外観。対照ラット、放射線照射ラット、および口腔で局所経路によって1%、3%または5%(w/v)メラトニンゲルを投与した放射線照射ラットの舌の肉眼的観察結果を示す。対照ラット、放射線照射ラット(IR)、および1%、3%および5%メラトニンゲルを投与した放射線照射ラット(それぞれ、IR+1%MT;IR+3%MTおよびIR+5%MT)。
【
図6】ラット舌におけるグルタチオンレベルに関する局所投与と腹腔内投与の比較。対照ラット、放射線照射ラットおよび局所経路による3%(w/v)メラトニンまたは腹腔内(i.p.)経路による3%(w/v)メラトニンを投与した放射線照射ラットにおけるグルタチオンレベルの結果を示す。ラット舌ミトコンドリアにおけるA,還元グルタチオンレベル(GSH);B,酸化グルタチオンレベル(GSSG);C,総グルタチオンレベル(G
T);およびD,GSSG/GSH比。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、3%メラトニンゲルを投与したラット(IR+3%)、およびi.p.経路によりメラトニンを投与したラット(IR+IP)。Cに関して
***p<0.001;IRに関して
##p<0.01および
###p<0.001。
【
図7】口腔で局所経路によってメラトニンゲルを投与したおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットのラット舌におけるGPxの活性および発現。A,GPx活性;B,GPxのウェスタンブロットデンシトメトリー分析。C,対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、口腔での局所経路によって3%(w/v)メラトニンゲルを投与した(IR+3%)およびi.p.経路によって3%(w/v)メラトニンを投与した(IR+IP)ラットの舌ミトコンドリアにおけるGPxのウェスタンブロット画像。Cに関して
**p<0.01および
***p<0.05;IRに関して
##p<0.01および
###p<0.001。
【
図8】口腔で局所経路によってメラトニンゲルおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットのラット舌におけるGRdの活性および発現。A,GRd活性;B,GRdのウェスタンブロットデンシトメトリー分析およびC,対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、口腔での局所経路によって3%(w/v)メラトニンゲルを投与した(IR+3%)およびi.p.経路によって3%(w/v)メラトニンを投与した(IR+IP)ラットの舌ミトコンドリアにおけるGPdのウェスタンブロット画像。Cに関して
***p<0.001;IRに関して
#p<0.05および
###p<0.001。
【
図9】口腔で局所経路によってメラトニンゲルおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットの舌ミトコンドリアにおけるミトコンドリア呼吸鎖複合体CI、CII、CIIIおよびCIVの活性。A,複合体I;B,複合体II;C,複合体III;D,複合体IV。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、口腔で局所経路によって3%(w/v)メラトニンゲルを投与した(IR+3%)およびi.p.経路によって3%(w/v)メラトニンを投与した(IR+IP)ラット。Cに関して
*p<0.05、
**p<0.01および
***p<0.001;IRに関して
#p<0.05および
###p<0.001。
【
図10】3%メラトニンゲルおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットにおけるウェスタンブロット法による舌のミトコンドリア呼吸鎖複合体CI、CIII、CIVおよびCVの発現。A,複合体I、B,複合体III、C,複合体IV、D,複合体Vに対応するウェスタンブロットバンドデンシトメトリー。E.複合体I、III、IVおよびVに対応するウェスタンブロット画像。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、口腔で局所経路によって3%(w/v)メラトニンゲルを投与した(IR+3%)およびi.p.経路によって3%(w/v)メラトニンを投与した(IR+IP)ラット。Cに関して
*p<0.05、
**p<0.01、および
***p<0.001;IRに関して
#p<0.05および
###p<0.001。
【
図11】口腔で局所経路によってメラトニンゲルを投与したおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットのラット舌ミトコンドリアにおけるメラトニンレベル。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、口腔で局所経路によって3%(w/v)メラトニンゲルを投与した放射線照射ラット(IR+3% aMT)およびi.p.経路によって3%(w/v)メラトニンを投与した放射線照射ラット(IR+IP)。Cに関して
***p<0.001;IRに関して
###p<0.001。
【
図12】本発明の組成物を腹腔内経路によって投与した後のラット舌の肉眼的外観。腹腔内経路によって3%(w/v)メラトニンを投与した放射線照射ラットのラット舌の肉眼的結果を示す。
【
図13】口腔で局所経路によってメラトニンゲルを投与したおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットのラット舌ホモジネートにおけるウェスタンブロット法によるPGC−1α、NRF1およびTFAMの発現。A,PGC−1α、B,NRF1、C,TFAMに対応するウェスタンブロットバンドデンシトメトリー;D,PGC−1α、NRF1およびTFAMに対応するウェスタンブロット画像。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、3%メラトニンゲルを投与した(+3% aMT)およびメラトニンをi.p.経路によって投与した(+IP aMT)ラット。Cに関して
*p<0.05、
**p<0.01および
***p<0.001;IRに関して
###p<0.001。
【
図14】口腔で局所経路によってメラトニンゲルを投与したおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットのラット舌におけるウェスタンブロット法によるNFκBの発現。A,サイトゾルのNFκBに対応するウェスタンブロットバンドデンシトメトリー;B,核のNFκB;C,サイトゾルのNFκBおよび核のNFκBに対応するウェスタンブロット画像。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、3%メラトニンゲルを投与した(+3% aMT)およびメラトニンをi.p.経路によって投与した(+IP aMT)ラット。Cに関して
***p<0.001および
**p<0.01;IRに関して
##p<0.01。
【
図15】口腔で局所経路によってメラトニンゲルを投与したおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットのラット舌ホモジネートにおけるウェスタンブロット法によるNLRP3、ASCおよびカスパーゼ1の発現。A,NLRP3、B,ASC、C,カスパーゼ1(casp.1)に対応するウェスタンブロットバンドデンシトメトリー;D,NLRP3、ASCおよびカスパーゼ1に対応するウェスタンブロット画像。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、3%メラトニンゲルを投与した(+3% aMT)およびi.p.経路によってメラトニンを投与した(+IP aMT)ラット。Cに関して
***p<0.001;IRに関して
#p<0.05。
【
図16】口腔で局所経路によってメラトニンゲルを投与したおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットのラット舌ホモジネートでのウェスタンブロット法によるIL−1およびTNF−αの発現。A,IL−1、B,TNF−αに対応するウェスタンブロットバンドデンシトメトリー;C,IL−1およびTNF−αに対応するウェスタンブロット画像。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、3%メラトニンゲルを投与した(+3% aMT)およびメラトニンをi.p.経路によって投与した(+IP aMT)ラット。Cに関して
**p<0.01および
*p<0.05;IRに関して
##p<0.01および
#p<0.05。
【
図17】口腔で局所経路によってメラトニンゲルを投与したおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与した放射線照射ラットのラット舌ホモジネートにおけるウェスタンブロット法によるP53、BaxおよびBcl2の発現。A,P53、B,Bax、C,Bcl2に対応するウェスタンブロットバンドデンシトメトリー;D,Bax/Bcl2比;E,P53、BaxおよびBcl2に対応するウェスタンブロット画像。対照ラット(C)、放射線照射ラット(IR)、3%メラトニンゲルを投与した(+3% aMT)およびメラトニンをi.p.経路によって投与した(+IP aMT)ラット。Cに関して
***p<0.001、
**p<0.01および
*p<0.05;IRに関して
###p<0.001および
##p<0.01。
【0060】
発明の実施態様の例
この特許資料で提供される下記の具体例は、本発明の性質を例示するのに役立つ。これらの例は、説明の目的のためにのみ含まれるのであり、本明細書で主張される発明に対する制限と解釈してはならない。従って、下記の例は、その出願の分野を制限することなく発明を説明する。
【0061】
本発明を、本発明者らによって行われる試験によって説明し、粘膜炎におけるメラトニンゲルの有用性を明らかに示し、様々な濃度での結果を示す。
【0062】
A.材料および方法
本発明の組成物を、実験で用いる動物に様々な投与経路によって投与し、ヒト患者による実験も行った。
【0063】
口腔での局所投与のため、用いた組成物は、1%、3%または5%メラトニン(それぞれ、組成物の最終容積100ml中メラトニン1、3または5g)を含んでなり、20%ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマーをゲル化物質として用いたヒドロゲル(ゲル)であった。プルロニック
(商標)F127(ポロキサマー)を、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマーとして用いた。0.3%安息香酸ナトリウムを、防腐剤として用いた。0.5%スイートオレンジエッセンスを用いた。用いた総ての成分は、FAGON IBERICA,S.A.U.から得た。照合番号:メラトニン、33457−27;プルロニック
(商標)F127、33353−SP;安息香酸ナトリウム、31360−12;オレンジエッセンス、30620−08。メラトニンの化学構造を、下記に示す。
【化2】
【0064】
実験に用いた動物は、体重が280gのラットであり、グラナダ大学の生物医学研究センターの実験放射線装置で制御条件下にて電離放射線に暴露した。動物を、50グレイ(Gy)の完全露出に暴露した。毎日使用した照射線量は、100.75cGy/分、210キロボルト(kV)および12ミリアンペア(mA)で投与した10Gyであり、動物は線源から40cm離して置いた。
【0065】
様々な処方物を、下記のようにして動物に投与した。局所投与は、放射線照射前に、もう一つは後に口腔に投与し、連続投与は8時間毎に21日間行った。動物を、メラトニンを投与しなかった放射線照射動物で最高等級の粘膜炎が観察された放射線照射開始から21日後に屠殺した。実験に用いた動物で用いた処方物は、下記の通りであった:1%、3%または5%メラトニンを含むプルロニックF−127ゲル(それぞれ、1、3または5gのメラトニン/100mlゲル)、毎回500μlの容量を1日3回口腔に局所投与し、総量を1.5ml/日とした。口腔での局所投与は、動物が口腔に投与したゲルを摂取することを意味する。
【0066】
実験は、動物に3%(w/v)ヒドロゲルで用いたのと同じメラトニン濃度を腹腔内経路によって投与することによっても行い、血漿メラトニンが粘膜炎を減少させることができるかまたは前記分子を局所経路によって投与する必要があるかを検討した。非経口経路には、溶液の総容積に対して測定した70%v/v(容積/容積)の等張生理食塩水と30%v/vのプロピレングリコールとを含んでなる等張溶液を用いた。メラトニン45mgの1日用量を、21日間注射した。放射線照射開始から21日後に口腔で局所経路によって投与されるメラトニンゲルを投与した動物と同様に、動物を屠殺した。
【0067】
放射線療法を受けた頭部および頸部の癌患者における3%(w/v)メラトニン組成物の保護機能も評価した。検討は、二重盲験(3%(w/v)メラトニンゲルを投与した5名の患者およびメラトニンを含まないゲルを投与した5名の患者)であった。患者に、前記ゲル500マイクロリットルで口腔すすぎを1日3回行い、すなわち、患者は、総量が45mg/日のメラトニンを15mg、1日3回の投薬計画に分配して投与された。患者は、メラトニンを含むゲルを口腔に2分間保持した後、ゲルが胃腸粘膜全体に含浸するように摂取した。2週間評価は、口内炎の客観的等級を決定するための計画通院で行った(WHOによるRTOG(腫瘍放射線治療グループ)客観的毒性尺度):等級0〜4。
【0068】
B.評価パラメーター
B.1.酸化的損傷のマーカー
−細胞膜および細胞内膜(LPO)の酸化の評価
遊離酸素ラジカルが細胞損傷を生じることができる極めて重要な機構は、細胞およびミトコンドリア膜両方の脂質過酸化による。脂質過酸化は、ポリ不飽和脂肪酸に対するフリーラジカルの作用によって起こる。細胞膜構造におけるこれらの変化は、その物理化学特性を変化させ、透過性を増加させかつ機能を漸進的に喪失することにより、結果として細胞死へと至る可能性がある。膜の脂質過酸化度の測定は、常に酸化的ストレスインジケーターとして極めて重要なパラメーターであると考えられてきた。脂質過酸化(LPO)インデックスは、試料に含まれるマロニルジアルデヒドと4−ヒドロキシアルケナール(MDA+4−HDA)を定量することによって提供され、これらはポリ不飽和脂肪酸と関連エステルから誘導される過酸化物の分解による重要な生成物である。マロニルジアルデヒドと4−ヒドロキシアルケナールの濃度並びにヒドロペルオキシドの濃度は、脂質過酸化に対する好適なインデックスを提供する。
【0069】
B.2.酸化防止剤防御の評価
細胞の酸化防止剤系には、生理学的条件で細胞中のフリーラジカルの解毒に関与する酵素の群があり、これらの酵素は本質的に
−グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx):この酵素は、補助因子として還元グルタチオンを用い、過酸化水素(H
2O
2)を除去する。
−グルタチオンレダクターゼ(GRd):この酵素は、グルタチオンペルオキシダーゼ活性によって生成した酸化型グルタチオンを還元型グルタチオンに再変換する。
【0070】
酸化型グルタチオンを還元型グルタチオンで割ることによって商として得られる比(GSSG/GSH)も、酸化還元状態の評価に重要な比である。
【0071】
B.3.ミトコンドリア活性のマーカーの評価
フリーラジカルの産生増加に伴うミトコンドリア機能不全は、細胞死の原因である。従って、呼吸鎖輸送複合体(I、II、IIIおよびIV)の活性および複合体の発現の測定は、ミトコンドリア損傷の程度を知る上で基本的なことである。
【0072】
B.4.ミトコンドリアおよび酸化的ストレス:インフラマソーム活性化:
活性酸素種(ROS)の生成は、放射線照射によって損傷したミトコンドリアで増加し、ミトコンドリア成分の酸化的変化とミトコンドリア膜透過性遷移孔(MTP)の開口を引き起こす。ミトコンドリア膜透過性は、アポトーシスまたは壊死で終了するプログラム細胞死経路の活性化における不可逆点を表す(Schroder K, et al. Cell. 2010; 140:821-832; LatzE, Curr. Opin. Immunol, 2010; 22: 28-33. Epub 2010)。
【0073】
最近の研究は、ミトコンドリアが先天性免疫応答をも調節することを示している(Kastner DL, et al. Eur J Immunol. 2010;40:611-615)。ミトコンドリアに生じるフリーラジカルは、細胞炎症機構、具体的にはNLRP3(NOD様受容体ファミリー、ピリンドメイン含有3)のようないわゆるインフラマソームの活性化の原因である(Zhou R, et al. Nature 2011;469:221-226)。NLRP3は、免疫メッセンジャーIL−1βの産生および炎症に介在するタンパク質複合体である。
【0074】
ストレスの増加の結果として細胞損傷を引き起こす病原体または分子など多種多様の要因が、先天性免疫応答を活性化することができる。NLRP3が活性化されると、それは、NLRP3、アダプター分子ASC(カスパーゼ動因ドメインを含むアポトーシス関連シミ様タンパク質)並びにプロカスパーゼ−1からなるマルチタンパク質複合体を形成する。細胞ストレス状況では、NLRP3はASCタンパク質とカスパーゼ−1を活性化するプロカスパーゼ1を動員し、炎症誘発性サイトカインの活性化などの一連の細胞内反応を引き起こす。
【0075】
B.5.炎症応答およびNF−κB
核因子κB(NF−κB)経路は、炎症応答にも関与している。インフラマソームとの差は、NF−κB経路が、膜上でトール様受容体(TLR)を介して活性化され、一方インフラマソームはサイトゾル性NOD様受容体(ヌクレオチドオリゴマー化ドメイン様受容体)(NLR)を介して活性化されることである。
【0076】
NLR.NF−κBおよびNLRP3は、一緒に働いてIL−1βのような炎症誘発性サイトカインを活性化する。平行して、このサイトカインはミトコンドリア損傷を誘発し、ROS産生を増加させ、ROSはミトコンドリアDNA(mtDNA)およびMTP開口における損傷を誘発し、アポトーシスを引き起こす。
【0077】
さらに、NF−κBは、シクロオキシゲナーゼ2(COX−2)、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)および血管接着分子(VCAM−1)のような炎症応答に関わる多種多様な遺伝子の発現を活性化する。従って、放射線照射は、アポトーシスに寄与し、従って、粘膜炎の開始に寄与する炎症誘発性分子の増加を引き起こす。
【0078】
B.6.アポトーシスの機構:
アポトーシスを調節するタンパク質は、Bcl2(B細胞リンパ腫2)のような抗アポトーシス性タンパク質およびBaxのようなアポトーシス促進性タンパク質に分類される。従って、Bax/Bcl2比は、アポトーシスのレベルを直接反映するので、極めて重要な比である。タンパク質p53は、DNA修復酵素を活性化して、検出される損傷を治療する。DNAの損傷が修復不能である場合には、異常DNAを含む細胞の増殖を防止するために、アポトーシスに入ることは防御の最終機構である。p53は、BAXのようなアポトーシス促進性遺伝子の発現を活性化する。
【0079】
従って、ミトコンドリアROSの産生増加、mtDNAの損傷およびMTP開口の結果は、炎症プロセスの保持を伴うので、インフラマソームを標的とする治療は、放射線療法によって誘発される粘膜炎で起こるような抗炎症剤に応答しない炎症性疾患における新たな治療法を用いるための経路であることができる。
【実施例】
【0080】
C.実施例1:ラット舌で得られた結果
C.1− 口腔で局所経路による1%、3%および5%(w/v)ゲル中のメラトニンの使用
放射線によって引き起こされる酸化的ストレスは、細胞膜の損傷を引き起こし、これは、膜脂質の酸化の増加が対照に対して50%を上回ることによって表される(
図1、p<0.001)。この損傷は、放射線がこれらの組織を傷つけて粘膜炎を引き起こすことを示している。3%メラトニンは放射線療法の影響を完全に逆転させるが、1%メラトニンはLPOレベルを部分的に逆転させるだけである。3%を上回るメラトニン濃度、例えば5%のようなメラトニン濃度を用いるときには、酸化的ストレスの中和において3%濃度と同じ効果を有する(
図1)。
【0081】
放射線照射はまた、ミトコンドリアをひどく損傷し、これはミトコンドリア膜におけるLPOの増加によって反映される(
図2)。このミトコンドリア損傷は、細胞死を引き起こす(Acuna-Castroviejo et al. Curr Top Med Chem 2010,11(2):221-240)。放射線照射ラットにメラトニンを投与すると、メラトニンの強力な酸化防止効果が3%で投与するときに観察され、ミトコンドリアにおける放射線療法の影響を完全に逆転する(p<0.001)。これらの効果を発揮することができる現在存在する分子は知られていない。しかしながら、1%メラトニンを投与するときには、それはミトコンドリアにおける放射線照射によって引き起こされる酸化的損傷を中和する効果は実質的にない。5%メラトニン濃度を用いるときには、それは、ミトコンドリアの酸化的ストレスの中和において3%濃度と同じ効果を有する。
【0082】
放射線照射は、GSHレベルの極めて有意な減少も引き起こすが(p<0.001)(
図3A)、同時にGSSGレベル(p<0.001)は舌ミトコンドリアで増加し(
図3B)、総グルタチオン(GSH+GSSG)の増加を引き起こす(
図3C)。これらの変化は、ミトコンドリアの酸化的ストレスのかなりの増加を反映しており、放射線照射によって引き起こされる有害効果を反映している。細胞内の、およびこの場合にはミトコンドリア内の酸化的ストレスの最良のインデックスであるGSS/GSH比の増加(p<0.001)(
図3D)は、このような放射線照射の有害効果を支持している。一方、1%メラトニンの投与では、GSHレベルを増加させることはできず(
図3A)かつGSSGレベルを減少させることはできず(
図3B)、またGSSG/GSH比を正常化することもできず(
図3D)、従って、酸化的ストレスを中和することはできない。5%メラトニン濃度を用いると、ミトコンドリアの酸化的ストレスの中和において3%濃度と同じ効果を有することが観察され、いずれの場合にも放射線照射の効果を完全に逆転する。
【0083】
グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の活性を測定すると(
図4A)、産生した過酸化物の増加に対する応答として放射線照射によって引き起こされる活性の増加が観察される。3%メラトニンゲルの投与は、放射線照射の効果を部分的に中和する。5%メラトニンは、3%濃度と同じ効果を有するが、1%濃度は効果を持たない。
【0084】
グルタチオンレダクターゼ(GRd)の活性を測定すると(
図4B)、5%メラトニンは3%濃度と同じ効果を有するが、1%濃度は効果を持たないことが同様に観察される。ミトコンドリアGRdは、酸化的ストレスによって容易に阻害される酵素であり、結果としてその活性は放射線照射によって有意に減少し(
図4B、p<0.001)、組成物の効果は3%および5%のいずれのメラトニンの投与によっても中和される(p<0.001)。
【0085】
メラトニンのこれらの作用の重要性は、前記の生化学的変化に加えて、ミトコンドリアの酸化的ストレスの減少が粘膜炎の完全な防止を引き起こし、他の種類の病変は治療を受けたラットでは見られないという事実に基づいている(
図5)。1%メラトニンゲルが投与された動物の画像は、前記濃度では効果が見られなかったので含まれていない。
【0086】
従って、粘膜炎の治療のための最少有効用量は、1日3回投与されるゲルにおける3%メラトニン濃度に相当し(それぞれの投与に500μl)、メラトニンの1日用量は45mgとなる。
【0087】
C.2− 3%(w/v)メラトニンゲルの投与と非経口経路による同じメラトニン濃度の投与との比較
粘膜炎を逆転させるための最も好適な投与経路を決定するために、口腔で局所経路による3%メラトニンゲルの投与と腹腔内経路(i.p.)によるメラトニンの投与を、同一用量(1日45mg)で比較した。
【0088】
ゲルと共に投与したメラトニンと非経口経路によるメラトニンの投与との効果は、幾つかの重要な局面において異なっており、例えば、GSH回復およびGSSG減少におけるi.p.投与の効力が低めであり、GSSG/GSH比は高めを維持しており、ゲルを投与した後よりもミトコンドリア内の酸化的ストレスが高くなることを示している(
図6)。
図6では、3%ゲルおよび腹腔内経路によってメラトニンを投与したラットのラット舌におけるグルタチオンレベルを比較している。
【0089】
ミトコンドリアグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)に関して(
図7)、これらの結果は、放射線照射により産生した過酸化物の増加に対する応答として、酵素の活性(
図7A)および発現(
図7Bおよび7C)の増加を示している。タンパク質発現の検討は、ウェスタンブロット法によって行い(7C)、タンパク質の量の増加はこれらのウェスタンブロット法のデンシトメトリー分析で観察され(
図7B)、前記酵素の発現が放射線照射により増加することを示している。メラトニンの局所投与および腹腔内投与は、いずれも放射線照射の効果を部分的に中和する。
【0090】
ミトコンドリアグルタチオンレダクターゼ(GRd)は、完全に異なる経路をたどる(
図8)。それは酸化的ストレスによって容易に阻害される酵素であり、結果として、その活性(
図8A)および発現(
図8Bおよび8C)は、放射線照射により有意に減少する。タンパク質発現の検討は、ウェスタンブロット法によって行い(8C)、放射線照射によるタンパク質の量の減少はこれらのウェスタンブロット法のデンシトメトリー分析で観察され(
図8B)、前記酵素の発現が阻害されることを示している。GRdの活性および発現を回復するためのメラトニンゲルの有意な効果が観察されるが、メラトニンの腹腔内投与は酵素を回復させることはできない。GRdが阻害されたままであれば、ミトコンドリアは酸化的損傷を中和することができず、細胞死を促進する。
【0091】
放射線照射は、ミトコンドリアの電子伝達系複合体であって、基本的に複合体I、IIおよびIVの阻害を引き起こす(
図9A、9Bおよび9D)。複合体IIIでは、有意な変化は観察されない(
図9C)。呼吸鎖複合体が損傷すると、一層多くのフリーラジカルが生成し、呼吸鎖効率が減少し、ATPの産生は一層少なく、アポトーシス因子が活性化され、アポトーシスが増加する。メラトニンゲルは、複合体の活性回復に非経口投与より効率的であり、対照値を上回って活性を増加させる(
図9)。
【0092】
活性と共に起こるように、放射線照射は呼吸鎖複合体の発現も阻害し、複合体I、III、IVおよびVの発現の阻害は極めて重要である(
図10A、10B、10C、10Dおよび10E)。ウェスタンブロット法による検討は、複合体I、III、IVおよびVのタンパク質の量の減少を示し、これらの複合体の合成における放射線照射による減少を示している。メラトニンゲルは、複合体の発現回復において非経口投与よりも遥かに効率的である。非経口投与では、複合体VまたはATP合成に関与する酵素であるATPシンターゼの発現を完全に回復することができないこともさらに観察することができる(
図10D)。複合体Vが阻害されると、ATP合成はなく、従って、細胞はアポトーシスまたは壊死によって死滅するので、このデータは極めて関連性が高い(Escames G, et al. Hum Genet, July, 2011, DOI 10.1007/s00439-011-1057)。3%ゲル組成物は、示された結果によれば、呼吸鎖複合体の発現の再活性化において非経口経路より有意に良好である。
【0093】
放射線照射は、舌における内在性メラトニンレベルを抑制することが分かった。前記レベルは、口腔で局所経路による本発明の組成物投与により回復し、局所的酸化防止作用を促進する。しかしながら、このようなレベルは、舌ではメラトニンの非経口投与によっては回復しない(
図11)。これらの結果は、局所投与がメラトニンの非経口投与より一層有効である理由を説明している。
【0094】
投与経路によるメラトニンの作用に関するこれらの効率の差は、肉眼的病変の分析により明らかに観察される(
図5および12)。実際に、メラトニンの非経口投与では、放射線照射後の舌の病変を回復することはできないが、口腔での局所投与では、舌の形態学的外観を完全に正常化する。
【0095】
C.3− インフラマソーム活性化、炎症応答およびアポトーシスの機構についてのデータ
PGC1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1−α)、NRF1(核呼吸因子1)およびTFAM(転写因子A、ミトコンドリア)を測定することによってミトコンドリアバイオジェネシスを測定すると、放射線照射がPGC1αを阻害したが、ミトコンドリア損傷を埋め合わせるためのNRF1およびTFAMの増加はないことが観察された(
図13)。
【0096】
放射線照射はNFκBの活性化を増加させ、核およびサイトゾルの両方におけるレベルを増加させ(
図14Aおよび
図14B)、またインフラマソーム経路が活性化されて、NLRP3、ASCおよびカスパーゼ−1を増加させる(
図15)ことが見出されている。NFκB経路およびインフラマソーム経路の活性化の結果として、炎症誘発性サイトカインIL−1およびTNF−αが増加する(
図16Aおよび16B)。
【0097】
ミトコンドリア損傷は、アポトーシス促進性タンパク質p53(
図17A)およびBax(
図17B)の増加並びにBcl2のような抗アポトーシス性タンパク質の減少(
図17C)により、アポトーシスの増加をも伴う。従って、Bax/Bcl2比およびp53が増加し(
図17D)、アポトーシスの有意な増加を示している。
【0098】
ミトコンドリア損傷、インフラマソーム活性化および放射線によって誘発される粘膜炎の直接的関係が明らかにされたのは、これが最初である。
【0099】
次いで、3%メラトニンゲルの投与は酸化的ストレスを中和し、酸化防止酵素の活性および発現を増加させ、ミトコンドリア機能を増加させ、フリーラジカルの産生を減少させてNFκB(
図14Aおよび14B)およびインフラマソーム(
図15)の活性を減少させる。
【0100】
従って、3%メラトニンゲルは、有意にアポトーシスを阻害し(
図17D)、p53およびBaxのようなアポトーシス誘導タンパク質を減少させ(
図17Aおよび17B)、Bcl2のような抗アポトーシス性タンパク質の発現を増加させる(
図17C)。
【0101】
さらに、3%メラトニンゲルは、ミトコンドリアバイオジェネシスを増加させ、放射線照射によって阻害されるPGC1αを増加させる。
【0102】
これは総て、細胞生存の増加を引き起こす。さらに、メラトニンレベルは口腔での局所経路によるゲルの投与によって回復し、局所的酸化防止作用を促進する。
【0103】
しかしながら、これらのレベルは、舌ではメラトニンの非経口投与によって回復しない。これらの結果は、局所投与がメラトニンの非経口投与より一層効率的であることを説明している。
【0104】
組織学も、肉眼的病変を示している。ヘマトキシリン・エオシン染色を用いて、検討を行った組織における組織学的病変の存在を決定した。マッソン・ゴールドナーのトリクローム染色(TRI)は、赤色に染色される筋肉組織を緑色に染色される結合組織から区別することができた。
【0105】
治療を行っていない対照動物では、舌の組織学的構造に変化は見られない。粘膜の多重層化された角化上皮は、背面帯では糸状乳頭の存在がまた腹面帯ではその非存在が保たれている。結合組織の小さな層と幾つかの管によって形成される粘膜固有層および粘膜下組織は、粘膜の下にある。次いで、様々な方向に向き、束の間に少量の結合組織を有する筋肉の層が見出される。この結合組織がほとんどないことはTRI染色によって明らかに示されており、緑色染色の存在は、舌筋肉間では少ない。
【0106】
放射線照射動物では、筋肉繊維の間でそれらを分離している結合組織の増加がある(繊維症)。血管鬱血および管の数の有意な増加(脈管形成)も見られる。対照動物で観察されたのとは異なり、この場合には緑色染色された繊維症が一層多く見られる。これは、特に繊維が横方向に切断された筋肉層で観察される。
【0107】
メラトニンを投与した動物では、放射線照射動物の舌で観察したものと比較して、舌の繊維症および筋肉繊維間の脈管形成の減少が観察される。この繊維状結合組織の減少は、TRI法によって最も良好に示され、それは緑色に染色され、赤色に染色される筋肉繊維と完全に識別されるからである。両治療間の差に関しては、3%メラトニンゲルは、非経口投与より良好に作用し、繊維症がずっと少ないからである。
【0108】
放射線照射のこれら総ての効果は、電子顕微鏡法によって観察することができるミトコンドリア損傷を生じる。放射線照射動物では、フリーラジカルおよび炎症応答の増加を引き起こすミトコンドリア空胞形成並びに内容物が失われた壊れたミトコンドリアを観察することができる。
【0109】
ゲルを投与した動物では、壊れたミトコンドリアは観察されず、空胞は消失する。しかしながら、壊れたミトコンドリアは、未治療動物と同様にメラトニンを非経口経路で投与したラットで観察される。
【0110】
従って、メラトニンは放射線療法を施した胃腸粘膜を保護し、前記の放射線によって引き起こされた病変、例えば粘膜炎を予防し、前記病変を治癒することができ、局所経路による投与が非経口投与より効率的であることを、初めて明らかにした。メラトニンのこれらの作用の重要性は、ミトコンドリア損傷の減少に基づいており、これが粘膜炎を完全に予防し、治療を受けたラットには肉眼的レベルまたは微視的レベルにおいて病変は全く観察されない。
【0111】
D−実施例2:ヒトで得られた結果:
3%メラトニンゲルを投与された患者は、放射線療法に一層よく耐え、オピオイドの投与を必要としなかった。これらの患者は経鼻胃管を必要とせず、入院はせず、治療を中断する必要はなかった。メラトニンを投与されない患者は総て強オピオイドを必要とし、彼らは総て最高等級の放射線皮膚炎を引き起こした。幾人かは、入院し、治療を中断しなければならなかった。
【0112】
E−本発明の実施例の結論:
1%メラトニンを含んでなる医薬組成物は、放射線療法によって引き起こされる粘膜炎を逆転させない。しかしながら、3%メラトニンを含んでなる医薬組成物は、5%メラトニンを含んでなる組成物によって起こるのと同様に、放射線療法によって引き起こされる粘膜炎を完全に逆転させる。これらの結果は、放射線療法によって引き起こされる粘膜炎の副作用の治療における3%〜5%メラトニンを含んでなる組成物の有用性を明らかにしている。
【0113】
本明細書に示される結果は、粘膜炎にはミトコンドリア損傷があり、従って、この治療の成功は、粘膜に含浸して、ミトコンドリア損傷を逆転させるメラトニンゲルの口腔投与に基づいていることを明らかにしている。任意の他の種類のメラトニン投与は、恐らくは、メラトニンが速やかに吸収され、半減期が非常に短く(30分間)、口腔および胃腸管のいずれにおいても粘膜では十分な治療レベルに達しないという事実により、粘膜炎に明らかな効果を持たない。しかしながら、プルロニックF−127および3%以上の濃度のメラトニンゲルを含んでなる本発明の組成物は、粘膜に含浸して、有効な局所濃度に達し、メラトニンがミトコンドリアに入り、胃腸管全体にその効果を発揮することができる。
【0114】
従って、放射線療法期間中に放射線によって引き起こされるひどい損傷から皮膚および粘膜を保護するのに好適な用量のメラトニンを含む口腔で局所投与用のこれらの医薬処方物は、臨床上極めて重要である。メラトニンの非経口投与は全く利益がないが、粘膜炎の治療および/または予防のための口腔での局所投与については、長期間の非経口投与はこれらの患者にとって心理的に苦痛であるが、ゲルの局所投与は遥かに快適であるという付加価値を有することが見出された。
【0115】
ミトコンドリアは細胞生存に重要な役割を果たしており、ミトコンドリア機能不全は、粘膜炎の生理病理学にかなり関与していることが、本明細書において初めて明らかにされた(結果参照)。ミトコンドリア機能不全は、粘膜炎の悪化と相関している。粘膜炎に罹っているラットの舌ミトコンドリアでは、生体エネルギー論的機能不全に加えて、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)が増加し、グルタチオンレダクターゼ(GRd)が減少し、酸化型グルタチオン(GSSG)/還元型グルタチオン(GSH)(GSSG/GSH)比が増加することが初めて見出された。後者は、細胞内およびミトコンドリア内の酸化的ストレスの正確なマーカーである。
【0116】
本発明は、本発明の組成物に含まれる濃度のメラトニンが粘膜炎におけるミトコンドリア酸化的ストレスを完全に減少させ、ミトコンドリア酸化防止酵素、主としてGRdの活性を増加させることを明らかにしている。同時に、粘膜炎では阻害されている呼吸鎖複合体の活性および発現が増加する。本発明の組成物は、低濃度の組成物では有していない酸化防止および抗炎症効果を有する。3〜5%(最終組成物100ml中メラトニン3〜5g)のメラトニンの局所および口腔投与により、電離放射線によって損傷を受けた粘膜の細胞機能の損傷が防止される。
【0117】
さらに、メラトニンゲルによる口腔での局所投与は、非経口投与より粘膜炎に効率的であり、好適な処方物において、口腔への投与は、口腔(および拡大すれば、胃腸管)で一層長時間より高いメラトニンレベルが保持されるという事実による可能性があり、これにより局所的酸化防止および抗炎症作用および基本的にミトコンドリア内部の作用が促進され、組織損傷、従って粘膜炎の開始が防止される。従って、口腔での3%〜5%メラトニンの局所投与により、これらの病状における強力な防御組織が提供される。本発明の組成物は、放射線療法を受けた胃腸粘膜を保護し、前記放射線によって引き起こされる粘膜炎のような病変を予防し、前記病変を治療できることが明らかになった。得られた結果は、化学療法に外挿することができる。