【実施例1】
【0010】
本発明の実施例1について
図1、2を用いて説明する。
【0011】
図1は、本実施例における流体機械の一例である、流体を圧縮する往復動圧縮機の全体構造を示す図である。往復動圧縮機は、シリンダ6内をピストン9が往復動することにより空気等の気体(流体)を吸引し圧縮して吐出するものである。
図1に示すように、往復動圧縮機は、ピストン9を収納するクランクケース7を有しており、クランクケース7は、内部がクランク室8とされている。クランク軸14はクランクケース7に回転可能に支持されている。
【0012】
クランク軸14は、偏心して設けられた偏心軸15を有しており、偏心軸15の反対に位置する部位に、バランスウェイト16が設けられている。クランク軸14は、クランクケース7の外側に突出する連結軸部に駆動源が接続され回転駆動される。
【0013】
クランクケース7の上部には、内周面がクランク軸14と直交する方向に円筒状のシリンダ6が、クランク軸14と直交する方向に軸線を配して取り付けられている。このシリンダ6は、その内周面が軸方向のほぼ全体にわたって一定径をなしており、クランク室8に開口している。また、シリンダ6内のクランクケース7とは反対側には、弁座板5およびシリンダヘッド本体からなるシリンダヘッド4が搭載されている。
【0014】
シリンダヘッド本体には、外部に連通する吸込室17と、吐出室18とが画成されており、吸入室17側には吸入弁21などの音が外部に直接聞こえないようにするためのケース1とケース1内部に設置された粉塵吸入防止のためのフィルタ2が配管3を介して吸入室17と連通している。また、吸入室17側の弁座板5には、吸込室17をシリンダ6内の圧縮室23に連通させる吸入穴19(ポート部)と、吐出室18を圧縮室23に連通させる吐出穴20(ポート部)とが形成されている。また、弁座板5には、リード弁としての吸入弁21および吐出弁22が取り付けられ、これら吸入弁21および吐出弁22は、基端側(一端)がネジ等を介して弁座板5に固定された固定端25となり、先端側(他端)は自由端(開放端26)となってピストン9の往復動に伴って、吸入穴19、吐出穴20上を開閉する。なお、吐出弁22よりも十分剛性が高い弁受け24が固定端に吐出弁22とともに固定され、弁受け24によって吐出弁22の開き量が抑制される。
【0015】
クランク軸14の偏心軸15には、連接棒12が軸受を介して回転可能に連結されている。連接棒12はその一端側にあって軸受を介してクランク軸12に回転可能に連結される略円環状の大端部13と、この大端部13からシリンダ6内へと伸長するロッド部と、その他端側にある、大端部13よりも小径の略円環状の小端部11とを有する一体成形品である。円環状の大端部13の中心軸線と円環状の小端部11の中心軸線とは平行をなしており、これらの中心軸線は、ロッド部の中心軸線と直交している。
【0016】
連接棒12の小端部11には、円筒状のピストンピン10が同軸で回転可能に挿入されており、このピストンピン10を介してピストン9が回動可能に連結されている。つまり、ピストン9には、径方向に貫通する二カ所のピン穴が形成されており、一方のピン穴、連接棒12の小端部11、他方のピン穴にピストンピンが挿入されることで、ピストン9が連接棒12に連結される。ピストン9は、シリンダ6内にその軸線方向に沿って往復摺動可能となるように挿嵌されている。言い換えれば、連接棒12は、ピストン9をシリンダ6内で往復動させるべく、一端側がピストン9に連結され、他端側がクランク軸14に連結されている。ピストン9は、シリンダ6と弁座板5との間に上記した圧縮室23を画成する。
【0017】
連接棒12は、大端部13がクランク軸14の偏心軸15によって偏心運動させられることによって、ピストン9をシリンダ6内で摺動させながら往復動させることになり、その際に、ピストン9に連結された小端部11がシリンダ6の中心軸線上を直線運動するのに対して、大端部13が偏心運動することから、全体として、クランク軸14の中心軸線に直交し且つシリンダ6の中心軸線に直交する方向に揺動する。このクランク軸14の中心軸線に直交し且つシリンダ6の中心軸線に直交する方向(
図1の左右方向)を揺動方向とする。他方、連接棒12は、クランク軸14の軸線方向には揺動しない。このクランク軸14の軸線方向を非揺動方向とする。
【0018】
ここで、連接棒12の揺動について説明すると、
図1に示すように連接棒12を揺動方向と直交するクランク軸14の軸線方向に沿って見た場合に、下死点では全体が揺動方向の中央に位置しており、この状態からクランク軸14が圧縮行程を行うべく
図1に示す反時計回りの方向に回転して連接棒12を上昇させると、上死点と下死点との間の中間まで大端部13が揺動方向の片側(
図1の右側)に移動しながら上昇し、上死点と下死点との間の中央(例えば3時の位置)で最も揺動方向の片側(
図1の右側)に位置する。
【0019】
続いて、上死点に向かうにしたがって大端部13は揺動方向の中央に戻ることになり、上死点では大端部13が揺動方向の中央に位置することで連接棒12の全体が揺動方向の中央に位置することになって圧縮行程が終了する。
【0020】
ピストン9が上死点にある状態からクランク軸14が吸込行程を行うべく回転すると連接棒12を下降させることになり、上死点と下死点との中間まで、大端部13が揺動方向の逆の片側(
図1の左側)に移動しながら下降し、上死点と下死点との間の中央(例えば9時の位置)で最も揺動方向の逆の片側(
図1の左側)に位置する。
【0021】
続いて、下死点に向かうにしたがって大端部13は揺動方向の中央に戻ることになり、下死点では大端部13が揺動方向の中央に位置することで連接棒12の全体が揺動方向(左右方向)の中央に位置することになって吸込行程が終了する。
【0022】
なお、ここでは、小端部11が直線運動し、揺動運動しないものについて例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、小端部11が揺動運動するものであってもよい。
【0023】
本実施例における往復動圧縮機の吸入弁21、吐出弁22の動作について説明する。吸込行程では、ピストン9が上死点から下死点に向かって下降し、吸入弁21が開き、吐出弁22は閉じる。これにより、外部から吸込んだ空気が吸入室17を介して圧縮室23に流入する。続いて、圧縮行程では、ピストン9が下死点から上死点に向かって上昇し、吸入弁21が閉じ、吐出弁22は開く。これにより、圧縮室23内の空気が圧縮され、吐出室18に流入する。
【0024】
本実施例における弁受け24の形状について比較構造と比較しつつ説明する。比較構造1、2における弁受け24の形状を
図2、3に示し、本実施例における弁受けの形状を
図4に示す。また、比較構造1、2、本実施例における弁受け24の測定点30における変位とピストン9の位相との関係を
図5、6、7にそれぞれ示す。ここで、ピストン9の位相とは、クランク軸14の回転角に対応した位相で、下死点を0、上死点をπとしたものである。
【0025】
図2に比較構造1における弁受け24の形状を示す。比較構造1において、弁受け24は、固定端25から開放端26に向けて弁座板5から遠ざかるように傾斜している。比較構造1の弁受け24の形状における吐出弁22の動作について説明する。まず、圧縮行程では、吐出弁22は開き始めに吐出室18と圧縮室23の圧力差で開弁するが、開弁と同時に圧縮された空気が吐出穴20から流出し、この流出した空気によって動圧が発生し、吐出弁22を閉じようとする力も発生する。これにより吐出弁22に掛かる力が上死点に近づくにつれて変わり、ピストン9が上死点に近づいて、圧縮室23から流出する空気量が少なくなってくると差圧による力が大きくなる。ここで、
図6に示すように、吐出穴20中心に対応する吐出弁22の位置(測定点30)の変位はピストン9が上死点に近づく直前で最大となる。それに伴い、ピストン9が上死点に近づく直前で弁座板5と吐出弁22の距離が大きくるため、吐出弁22が閉じるまでに時間が掛かり、閉じ遅れが発生し圧縮機の性能が低下する。
【0026】
図3に比較構造2における弁受けの形状を示す。比較構造2では、屈曲部27を設け、弁受け24の開放端26側が弁座板5側に近づくように弁受け24を傾斜させている。これにより、弁受け24の開放端26の変位を比較構造1よりも小さく抑制し、吐出弁22の閉じ遅れを抑制することができる。また、吐出穴20の直上に屈曲部27を設け、かつ屈曲部27の位置が弁受け24と弁座板5との距離を最大にして吐出穴20直上の空間を大きくした。これにより、弁受け24の開放端26と弁座板5の隙間が狭くなることで、吐出し抵抗が大きくなるのを抑制し、性能を維持することができる。
【0027】
しかし、吐出穴20の位置は吐出弁22に力が一番掛かる位置であり、空気が噴出すことによる流体力の影響を受けやすい。そのため、弁受け24の開放端26と固定端25を支点として
図7に示すように振動が発生する。吐出弁22が振動することで吐出弁22と弁受け24の開放端26の接触部が摩耗したり、吐出弁22の動きが不安定になり性能・信頼性の低下といった問題が発生する。
【0028】
ここで、
図4を用いて本実施例における弁受け24の構成について説明する。弁受け24は吐出弁22の固定端側にある固定端25で弁座板5に吐出弁22とともに固定される。本実施例では、吐出穴20と固定端25の間に屈曲部27を設け、屈曲部27において、吐出弁22と弁受け24とが最も離間するようにした。また、吐出弁22の開放端の弁受け24の開放端26側は特に吐出穴20上(吐出穴20上と対向する位置)において、屈曲部27部から弁座板5(吐出穴20)に近づくように傾斜させ、開放端側傾斜面28を構成する。また、開放端側傾斜面28は平面で構成した。
【0029】
屈曲部27を吐出穴20と固定端25の間に設けることで、吐出穴20直上の空間を小さくすることができ、吐出弁22の開放端26側の変位量が大きくなり過ぎないようにすることができる。吐出弁22の開放端26側の変位量が抑制されることで、閉じ遅れを防止し、性能低下を防止することができる。また、吐出弁22の変形は
図5に示すような形状となり、吐出弁22の変位は
図8に示すようになる。吐出弁22は平面で構成されている開放端側傾斜面28にある開放端側接触面31aに加えて、屈曲部27と固定端25との間にある固定端側傾斜面29においても固定端側接触面31bにおいて接触するように構成される。これにより、吐出弁22が弁受け24と2箇所で面接触することができ、吐出弁22の振動を抑制することができる。
【0030】
図9に比較構造1、2と本実施例における圧縮機の性能を示す。ここで、圧縮機の性能とは、圧縮機の単位時間当たりの吐出し量(L/min)を示す。
図9に示すとおり、本実施例における屈曲部27を吐出穴20と固定端25の間に設け、開放端側傾斜面28を直線とする構成が比較構造1、2と比較して吐出し性能が高いことがわかる。
【0031】
以上より、本実施例によれば、屈曲部27を吐出弁22の吐出穴20と固定端25との間に設け、吐出穴20上で開放端26側が弁座板5(吐出穴20)に近づくように傾斜させることにより、吐出弁の閉じ遅れを抑制しつつ、吐出弁の振動を低減させ、さらに騒音も低減させることができる。