(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電圧記憶部は、脱調検出に必要な前記両端母線間の電圧位相差角が所定の2つの領域それぞれに滞在する時間に基づき前記一定時間を設定したことを特徴とする請求項1に記載の脱調検出リレー。
前記電圧記憶部は、前記閾値を前記両端母線間の電圧位相差角の算出限界値以上であり、前記電圧位相差角の変化速度が検出不能となる前記両端母線の電圧より高い値に設定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の脱調検出リレー。
短絡距離リレーのモー要素やリアクタンス要素を利用して脱調検出して脱調時の不要な遮断を回避する機能を併用し、前記電圧記憶部による前記入力電圧の大きさと位相を記憶することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の脱調検出リレー。
前記短絡距離リレーとして44Sリレーを用い、インピーダンスローカスの変化が事故時に比して脱調時に遅いことに基づき、前記インピーダンスローカスが前記44Sリレーの44SOM、44SOMRおよび44SOMLの動作範囲内かつ44SX1あるいは44SM、44SMRおよび44SMLの動作範囲外となっている時間が一定値以上の場合に、前記44Sリレーをロックすることを特徴とする請求項6に記載の脱調検出リレー。
あらかじめ加速側および減速側母線を定めておき、加速側母線に設置された前記脱調検出リレーの入力電圧を所定の閾値と比較し、前記入力電圧が前記閾値まで低下した場合、電圧低下検出情報を相手端に送信したうえで、相手端減速側母線において自端リレー入力電圧と入力電流の位相差が180°に開いたことを検出することで脱調検出することを特徴とする請求項1、8、9のいずれか一つに記載の脱調検出リレー。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる脱調検出リレーの好適な実施の形態を詳細に説明する。はじめに、脱調検出リレー(56Vリレー)で生じる脱調の検出が不可能となる現象について説明しておく。
【0027】
(モデル系統を用いた脱調検出が不可能な現象のシミュレーション)
図1は、脱調の検出が不可能な現象をシミュレーションするための模擬系統を示す図である。図中で各変電所間を接続する線は、2回線送電線および2重母線である。
【0028】
はじめに、
図1に示すモデル(模擬)系統100でのシミュレーション例を用いて、56Vリレーで生じる脱調の検出が不可能となる現象について説明しておく。このシミュレーションでは、需給バランスを調整することにより、A変電所からD変電所およびH変電所方向(系統の左側から右側)に流れる潮流を変えた2つのケース(ケース1:AB線のB変電所母線近傍に電気的中心が侵入するケース、ケース2:BC線およびBF線のB変電所母線近傍に電気的中心が侵入するケース)についてY法(一般財団法人 電力中央研究所の開発した電力系統動特性安定度解析プログラム)によるシミュレーションを行った。なお、A,D,H変電所以外に接続された発電機群については記載を省略した。
【0029】
そして、EF線を1回線停止した系統条件のもと、E変電所片母線3相地絡事故を発生(時間0.0sec)させ、70msec後に同母線保護リレーにより事故除去(EF線ルート断、AE線1回線遮断)すると、ケース1では電気的中心(脱調ローカス点)がAB線のB変電所近傍に侵入し、ケース2では電気的中心がBC線およびBF線のB変電所近傍に侵入した。このように、ケース1,2ともに系統間脱調が発生することが確認された。
【0030】
図2は、
図1に示すケース1における電圧・位相差角の変化を示す図表である。横軸は時間[sec]である。
図2の(a)はケース1のA変電所およびB変電所の母線電圧値(縦軸は電圧[pu])、(b)は電圧位相(縦軸は電圧位相[deg])、(c)はAB線の電圧位相差角(A変電所母線電圧位相角とB変電所母線電圧位相角の差)(縦軸は相差角[deg])を示している。
【0031】
図2の(a)に示すように、時間1.39secでB変電所の電圧値が0pu付近まで低下しており、B変電所母線近傍に電気的中心が侵入していることが分かる。また、(b)に示すように、B変電所の電圧値が0pu付近まで低下したタイミングで、B変電所の電圧位相が急峻に変化し、これにより、(c)に示すAB線の電圧位相差角も急峻に変化している。
【0032】
図3、
図4は、
図1に示すケース2における電圧・位相差角の変化を示す図表である。
図3の(a)はケース2のB変電所およびC変電所の母線電圧値、(b)は電圧位相、(c)はBC線の電圧位相差角を示している。また、
図4の(a)はB変電所およびF変電所の母線電圧値、(b)は電圧位相、(c)はBF線の電圧位相差角を示している。
【0033】
ケース2でも同様に、
図3、
図4の(a)に示すように、時間1.34secでB変電所の電圧値が0pu付近まで低下しており、B変電所母線近傍に電気的中心が侵入していることが分かる。また、(b)に示すように、B変電所の電圧値が0pu付近まで低下したタイミングで、B変電所の電圧位相が急峻に変化し、これにより、(c)に示すように、BC線およびBF線の電圧位相差角も急峻な変化をしている。なお、2回目の電圧低下時には、電気的中心がAB線のB変電所近傍に移動しているため、BC線およびBF線の電圧位相差角が領域I、IIを通過しない。このように母線近傍に電気的中心が侵入するケースでは、侵入する線路が時間とともに変化する場合もある。
【0034】
以上から、56Vリレー設置母線近傍に電気的中心が侵入した場合には、当該母線の56Vリレーへの入力電圧がほぼ0puとなる。また、そのタイミングで当該母線間の電圧位相差角が急峻に変化する。これらにより、現行(従来の)56Vリレーの性能上、脱調の検出が困難となる。
【0035】
具体的には、ケース1では、
図2に示した時間1.39sec(時期t1)において(a)に示すB変電所の母線電圧が0.007puまで低下し、(c)に示すAB線の電圧位相差角は領域Iを110msecで通過した後、領域IIを2msecで通過する。この場合、56Vリレーの入力電圧が下限値より小さく、かつ、領域IIの滞在時間が2msecと短く、要求される滞在時間を満たさないため脱調を検出できない。
【0036】
また、ケース2では、
図3,
図4に示した時間1.34sec(時期t2)において(a)に示すB変電所の母線電圧が0.002puまで低下し、(c)に示すBC線の電圧位相差角は領域Iを8msecで通過した後、領域IIを17msecで通過し、BF線の電圧位相差角は領域Iを5msecで通過した後、領域IIを17msecで通過する。これらの場合、56Vリレーの入力電圧が下限値より小さく、かつ、領域I、IIの滞在時間がいずれも要求される滞在時間を満たさないため脱調を検出できない。
【0037】
(等価2機系統モデルによる検証)
図5は、脱調の検出が不可能な現象を検証するための等価2機系統モデルを示す図である。上述した例では、
図1に示した模擬系統100を用いたシミュレーションにより、56Vリレー設置母線近傍に電気的中心が侵入した場合、脱調検出が困難となるケースがあることを説明した。
【0038】
ここでは、
図5に示す加速および減速する双方の発電機群を2機の発電機501,502に集約した等価2機系統モデル500を用いて、脱調の検出が不可能な現象について検証する。なお、この等価2機系統モデル500では、母線A、Bに56Vリレーが設置されているものとする。また、簡単のため、線路インピーダンスの抵抗分は考慮しない。
【0039】
図5において、電流Iと母線Aの電圧V
Aは下記式(1)で表される。
【数1】
このとき、sin
2δ+cos
2δ=1という関係を利用すれば、V
Aの実部と虚部の間には、下記式(2)の関係が成り立つ。
【数2】
【0040】
V
1とV
2を一定とすれば、上記式は円の方程式を表しているので、V
2に対するV
1の位相δを変化させたときのV
Aの軌跡は、(aV
2,0)を中心とする半径(1−a)V
1の円の軌跡となる。
【0041】
図6は、
図5に示す発電電圧が一定で位相を変化させたときの母線Aの電圧の軌跡を示す図表である。V
1=V
2=1.0puで一定とし、V
1の位相δを変化させたときのV
Aの軌跡を示す。この軌跡は、系統間脱調時に減速側にある基準母線(無限大母線)から各地点の電圧変化を眺めたものと同じである。V
1=V
2としているため、電気的中心はa=0.5の地点であり、
図6を見ると、V
1とV
2の電圧位相差角が180°開いた時点でa=0.5の地点のV
Aは0となることが分かる。
【0042】
つぎに、
図5の等価2機系統モデル500を用いて、56Vリレー設置母線A、Bと電気的中心の位置関係が脱調検出に与える影響について検証する。
【0043】
図7は、
図5に示す各ケース別のパラメータによる位相変化に対する母線の電圧位相差角の変化を説明する図表である。
図7の(a)は、ケースA〜C別の母線A、Bの位置を表すパラメータa、bを示す図表、
図7の(b)は、母線A、Bの位置に応じたV
1の位相δに対する母線A、Bの電圧位相差角を示す図表である。
図7(a)の各ケースA〜C別のパラメータa、bによる位相δの変化に対する母線A、Bの電圧位相差角の変化が
図7(b)に示されている。
【0044】
このように、電気的中心が56Vリレー設置母線に近いほど、領域I(90°〜180°)と領域II(180°〜270°)における56Vリレー設置母線間の電圧位相差角の変化速度が速く、滞在時間が短いことが分かる。
【0045】
実際の電力系統では、発電機母線の電圧値が一定でないことなどの影響により、
図6に示す各地点の電圧軌跡は円の軌跡から逸脱することにはなるが、電気的中心に近い地点ほど、その電圧軌跡が原点付近を通過して、56Vリレーへの入力電圧が小さくなることに変わりはない。また、電圧軌跡が
図7(b)の原点付近を通過(電気的中心近傍に56Vリレーが設置された状態)すると、56Vリレーへの入力電圧が小さくなるとともに電圧位相角が急峻に変化することになるため、
図7(b)のケースC(α=0.45、β=0.55)のように56Vリレー設置母線間の電圧位相差角も急峻に変化する。このように、脱調時の56Vリレーの入力電圧低下と電圧位相差角の急峻な変化には相関関係があり、電気的中心の近傍に設置された56Vリレーにおいては脱調検出が困難となる。
【0046】
(実施の形態1)
図8は、本発明の実施の形態1にかかる脱調検出リレーの構成を示す図である。この
図8を用いて本発明の脱調検出リレーの実施の形態1について説明する。
図8の(a)は、上述した
図43に対応する構成図であり、
図43同様に、両端に電源(発電機群)801,802を有し送電線803で接続された等価2機系統モデル800において、送電線803上のA変電所、B変電所にそれぞれ本発明の脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810を設置する。この設置構成については
図43と変わりはない。
【0047】
実施の形態1にかかる脱調検出リレー810は、内部に入力電圧を保持する電圧メモリ811を有する。電圧メモリ811は、脱調検出リレー810への入力電圧が所定閾値まで低下した時点から一定時間の間、入力された電圧の大きさ(上記母線A,Bの電圧V
A,V
B)と位相を記憶する。なお、記憶する電圧の大きさと位相は正相電圧としてもよい。この一定時間は、上述した電圧位相差角の領域I、領域IIへの滞在時間を十分に確保できる時間とする。例えば、検出対象となる系統間脱調周期約1secの1/2の500msecとする方法がある。領域I、IIは電圧位相差角が90°〜270°の範囲に相当するため、脱調周期の1/2(=(270°−90°)/360°)程度の時間を電圧メモリ811で電圧保持すれば検出可能である。
【0048】
このような電圧メモリ811を設けることで、脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810の入力電圧低下時には、一定時間の間、電圧メモリ811に記憶された電圧の大きさと位相を用いて電圧位相判定を行うことが可能となり、56Vリレー設置母線間の急峻な電圧位相差角変化を緩和できるようになる。なお、脱調を判定する領域として、ここでは2つの領域それぞれに滞在する時間による判定について述べるが、1つの領域や3つの領域など様々な領域による判定についても同様である。
【0049】
(動作概要)
図9は、本発明の実施の形態1にかかる脱調検出リレーの動作概要を説明する電圧位相ベクトル図である。
【0050】
1.はじめに、事故発生による事故除去後、脱調現象に進展したとき(電気的中心が
図8のB変電所近傍のケース)、
図9(a)に示すように電圧位相が変化しはじめる。
【0051】
2.この後、
図9(b)に示すように、B変電所近傍の脱調検出リレー810では入力される電圧V
Bが低下する。この際、脱調検出リレー810は、電圧V
B所定閾値以下となったときの電圧V
Bを電圧メモリ811によって保持する。これにより、B変電所近傍の脱調検出リレー810は、入力電圧V
Bが低い期間中(電圧V
Bが位相判定できない)場合でも、両端母線電圧位相角を認識でき、急峻な位相変化(
図2(c)等参照)を抑制できるようになる。
【0052】
3.この後、
図9(c)に示すように、A変電所の電圧V
Aと電圧メモリした電圧V
B(電圧メモリ811の値)の位相差が180°以上となったときに、脱調検出リレー810は脱調と判定でき、この脱調検出リレー810の脱調検出に基づいて適切な系統分離(電気的中心が入る系統の遮断)を行えるようになる。
【0053】
(動作説明)
つぎに、本発明の脱調検出リレーの動作説明を行う。
(1)リレー設定(整定)値について
実施の形態1にかかる脱調検出リレー810では、電圧メモリを開始する電圧閾値と電圧メモリ時間を設定する必要がある。電圧メモリ開始電圧の閾値については、現行(従来の)56Vリレーの電圧位相差角算出限界値(0.1pu程度)以上であるとともに、電圧位相差角の変化速度が現行56Vリレーで検出不能となる母線電圧より高い値とする必要がある。これらを考慮し、電圧メモリ開始電圧の閾値は、例えば、0.12puとする。
【0054】
電圧メモリ時間については、電圧位相差角の領域I、領域IIへの滞在時間を十分に確保できる時間とする必要がある。検出対象の系統間脱調周期(脱調による電圧振動周期)約1secの半分程度を目安に500msecとする(詳細は後述する)。なお、現行56Vリレーの脱調検出可能な各領域所要滞在時間については、領域Iを55msec(または領域II)、領域II(または領域I)を40msecとする(現行56Vリレーの性能を想定)。
【0055】
(2)電気的中心が減速側の母線近傍に侵入する場合(ケース1)
図10は、
図1のケース1に対してAB線に脱調検出リレーを適用した結果を示す図表である。
図10の左側は従来の脱調検出リレー(電圧メモリなし)であり、
図10の右側は、実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810を示す図である。これらの図において、(a)はケース1のA変電所およびB変電所の母線電圧値(縦軸は電圧[pu])、(b)は電圧位相(縦軸は電圧位相[deg])、(c)はAB線の電圧位相差角(A変電所母線電圧位相角とB変電所母線電圧位相角の差)(縦軸は相差角[deg])を示している。
【0056】
このケース1において、B変電所の母線電圧が1.34secの時点で電圧メモリ閾値以下に低下するため、脱調検出リレー810は、500msecの間電圧メモリする(
図10(a),(b)参照)。一方、
図10の左側に記載した従来の56Vリレーの場合には、
図2同様に、仮に電圧位相差角を算出可能とすると入力電圧をそのまま使用するため、AB線の電圧位相差角は領域I滞在時間110msec、領域II滞在時間2msecとなり、領域IIへの滞在の検出が不能となる。
【0057】
これに対し、実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810の場合には、
図10(c)に示すように、領域I滞在時間250msec、領域II滞在時間250msecとなり、領域I、II双方とも滞在したことを検出できるため、脱調検出が可能となる。つまり、AB線では電圧位相角変化が小さい減速側のB変電所を電圧メモリし、電圧位相角変化の大きい加速側のA変電所の電圧を利用してAB線の電圧位相差角を判定することとなる。
【0058】
なお、電圧メモリをかけた分、演算上の送電線電圧位相差角の開く速度が実際よりも遅くなるため、現行56Vリレーでは送電線電圧位相差角が180°となった40msec後に検出可能と仮定した場合、ケース1では電圧メモリ型56Vリレーの動作はそれよりも135msec遅れることとなる。しかし、脱調による2回目の電圧低下を迎える前には系統分離が完了している。また、このケースにおいて脱調検出に必要なメモリ時間は220msec((1)の各領域所要滞在時間の条件下)であり、1.54secの時点で動作する。
【0059】
図11は、ケース1に対して、BC線に脱調検出リレーを適用した結果を示す図表である。
図11の左側は従来の脱調検出リレー(電圧メモリなし)であり、
図11の右側は、実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810を示す図である。
【0060】
図10に示したAB線と同様に、BC線に設ける脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810についても、B変電所の電圧をメモリするが(
図11(a)、(b))、BC線では加速側のB変電所は電圧位相角変化が大きく、減速側のC変電所は電圧位相角変化が小さいことからBC線の電圧位相差角が領域IIに侵入しないため(
図11(c))、不要動作することはない。
【0061】
図12は、ケース1に対して、BF線に脱調検出リレーを適用した結果を示す図表である。
図12の左側は従来の脱調検出リレー(電圧メモリなし)であり、
図12の右側は、実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810を示す図である。
【0062】
図10に示したAB線と同様に、BF線に設ける脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810についても、B変電所の電圧をメモリするが(
図12(a)、(b))、BF線では加速側のB変電所の電圧位相角変化が大きく、減速側のF変電所は電圧位相角変化が小さいことからBF線の電圧位相差角が領域IIに侵入しないため(
図12(c))、不要動作することはない。
【0063】
(3)電気的中心が加速側の母線近傍に侵入する場合(ケース2)
図13は、
図1のケース2に対してBC線に脱調検出リレーを適用した結果を示す図表である。
図14は、
図1のケース2に対してBF線に脱調検出リレーを適用した結果を示す図表である。
図15は、
図1のケース2に対してAB線に脱調検出リレーを適用した結果を示す図表である。これらの図の左側は従来の脱調検出リレー(電圧メモリなし)であり、図の右側は、実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810を示す図である。
【0064】
これら
図13〜
図15の結果から、電気的中心が侵入したBF線およびBC線の電圧位相差角が180°以上開かず、電気的中心が侵入していないAB線の電圧位相角が180°以上開いていることが分かる。
【0065】
上述したケース1の場合には、脱調の減速側母線を電圧メモリしているため、加速側母線の電圧位相角変化が大きく、加速に従って電気的中心が侵入したAB線の電圧位相差角は開いていくことから電圧メモリ型56Vリレーは動作する。
【0066】
一方、ケース2の場合は、加速側母線を電圧メモリしているため、電圧位相角変化の大きい加速側母線の電圧位相角が固定されて、減速側の電圧位相角は加速と減速を繰り返しながら徐々に減速方向に変化していくことから、電気的中心が侵入したBF線およびBC線の電圧位相差角が電圧メモリ時間内に180°を超えることはないため、電圧メモリ型56Vリレーは動作しない。
【0067】
しかし、AB線(BF線・BC線の一つ加速側の送電線)では、B変電所の電圧位相角が固定されていることから、加速側のA変電所の電圧位相角変化に従って、電圧位相差角が開いていくため、電圧メモリ型56Vリレーが動作する。また、このケース2において、AB線での脱調検出に必要な電圧メモリ時間は195msecであり、1.52secの時点で動作する。
【0068】
以上の結果から、電気的中心が減速側の母線近傍に侵入した場合は、電気的中心が侵入した線路の脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810が動作して該当する線路を開放できるが、加速側の母線近傍に侵入した場合には、電気的中心が侵入した線路ではなく、電圧メモリされた母線と加速側母線を接続する線路により系統分離されることとなる。よって、リレー設置母線付近に電気的中心が侵入した場合にも、脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810により、電圧メモリした母線から引き出された送電線のいずれかで脱調を検出し、その線路を遮断して系統分離することが可能である。
【0069】
(電圧メモリ開始電圧の閾値とメモリ時間の設定)
(1)電圧メモリ開始電圧の閾値の設定
電圧メモリ開始電圧の閾値である電圧メモリ開始電圧の閾値が高すぎると、不要な母線において電圧メモリされることが懸念される。例えば、極短距離送電線に実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810を適用し、電圧メモリ開始電圧閾値を必要以上に高い値とした場合を考える。この場合、同送電線に電気的中心が侵入した際には、両端の母線電圧が電圧メモリ開始電圧の閾値を下回って電圧メモリされる可能性が高く、その際には当該送電線で脱調検出が不能となる。ただし、一つ加速側の送電線で脱調分離することは可能である。
【0070】
逆に閾値が低すぎると、送電線の電圧位相角の変化速度が速い脱調を検出できない可能性がある。電圧メモリ開始電圧の閾値について、これら2点に留意する必要があるが、定量的にこの値を定めることは難しいため、想定する事故ケースについてケーススタディを行い、上記2点を回避するよう設定する必要がある。
【0071】
(2)電圧メモリ時間の設定
電圧メモリ時間を必要以上に長く設定すると、短絡事故等の瞬時電圧低下発生時点で電圧メモリされた場合に、その後、電圧メモリ解除前に脱調現象へ移行すれば、短絡事故時にメモリされた母線電圧位相角と相手端電圧位相角を比較した電圧位相差角が動作領域を通過し、不要遮断するおそれがある。
【0072】
逆に、電圧メモリ時間が短すぎると、領域I、IIの滞在時間が確保できず、脱調検出できない可能性がある。領域I、IIは電圧位相差角が90°〜270°の範囲に相当するので、脱調周期の1/2(=(270°−90°)/360°)程度の時間(ただし、56Vリレーの脱調検出可能な各領域所要滞在時間より長いことが条件)を電圧メモリできれば検出可能である。よって、想定する事故ケースについてケーススタディを行い、その脱調周期を基に電圧メモリ時間を設定する方法が考えられる。
【0073】
(事故時の電圧低下による不要遮断有無の確認)
上述した動作説明では、脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810の設置母線の近傍に電気的中心が侵入した場合に、脱調検出リレー810による脱調検出の可否について検討したが、この脱調現象の起因となるE変電所片母線3相地絡事故時には(
図1参照)、E変電所の母線電圧が低下するため、AE線に脱調検出リレー810を適用していた場合、E変電所でも電圧メモリされることとなる。これにより、AE線が不要遮断されることがないか確認した。検討条件は、上記の動作説明のケース1(
図10等)と同様とした。
【0074】
図16〜
図18は、それぞれ事故時の電圧低下による不要遮断有無の確認の結果を示す図表である。
図16は、電圧、相差角の変化(メモリなし)を示す図表、
図17は、電圧、相差角の変化(メモリ500msec)を示す図表、
図18は、電圧、相差角の変化(メモリ1400msec)を示す図表である。
【0075】
これら
図16〜
図18に示すように、電圧メモリ時間が500msec(
図17)であれば、演算上のAE線の電圧位相差角が領域I、IIに侵入しないため、脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810は動作しない。ただし、電圧メモリ時間を1400msec以上とすると(
図18)、領域I、IIに侵入し滞在時間も確保されるため、脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810が動作して不要遮断となる。なお、この回避策は以下に説明する。このため、特に脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810を複数線路に採用する場合には、電圧メモリ時間は必要最小限の設定としておくことが望ましい。
【0076】
(距離リレーの脱調ロック機能を活用した脱調判定の改良)
上述した事故時の電圧低下による不要遮断有無の確認では、脱調現象の起因となる事故による電圧低下の際に、電圧メモリ時間の設定値が長すぎると、不要遮断となる可能性があることを確認した。
【0077】
つぎに、短絡距離リレー方式(以下、44Sリレーと称す)の機能の一つであり、脱調時に44Sリレーの不要な遮断を回避する機能(ここでは、リアクタンス要素とモー要素を組み合わせた保護範囲が最も狭く、かつ最速遮断する第一段領域)として脱調時の遮断をロックする(以下、脱調ロック)機能が動作し、かつ、母線電圧が閾値以下となった場合のみ電圧メモリをかけるロジックとすることで、脱調による電圧低下時のみに電圧メモリをかけ、上記不要遮断が行えることについて説明する。
【0078】
44Sリレーによる脱調時の不要遮断ロック機能とは、脱調による電力動揺によって44Sリレーが不要動作し、健全送電線を遮断して致命的な系統の不安定化を防止するための機能である。
【0079】
図19は、脱調時ローカスと脱調ロック領域の一例を説明する図である。44Sリレーの脱調時の不要遮断ロック機能として、ここでは第一段領域のみ不要遮断ロックする機能について説明する。脱調時の44Sリレーに入力される電圧や電流変化によって、
図19に示すように、インピーダンスローカス(脱調ローカス)が44Sリレーの動作特性範囲内を通過した場合(図中矢印)の不要動作を防止するためのもので、通常の系統間脱調によるインピーダンスローカスの変化が事故時のものに比べて遅いことを利用し、インピーダンスローカスが44SOM、44SOMRおよび44SOMLの動作範囲内かつ44SX1あるいは44SM、44SMRおよび44SMLの動作範囲外の領域に一定時間以上滞在した場合に、44Sリレーをロックする。
【0080】
図20は、44Sリレーの脱調ロック機能のロジックシーケンスの一例を示す図である。脱調検出リレーである56Vリレーと併用する44Sリレー2001の44SM、44SMR、44SMLの出力はAND(&)条件を介して脱調ロックタイマ(56T)2002に入力される。また、44SOM、44SOMRおよび44SOMLの出力は、AND(&)条件を介して脱調ロックタイマ(56T)2002および脱調ロック解除用タイマ(500msec)2003に入力される。脱調ロックタイマ(56T)2002の出力は、FF(フリップフロップ回路)2004のS端子に接続されて、脱調ロック解除用タイマ(500msec)2003の出力はFFのR端子に接続される。
【0081】
FF2004は、脱調時の脱調ローカスの移動スピードが遅いこと(ここでは40msec以上)を検出するためのものであり、脱調ロック解除用タイマ(ここでは500msec)2003は、脱調ロック機能を解除するためのものである。
【0082】
図21は、B変電所AB線の44Sリレーの設定範囲とインピーダンスローカスを示す図表である。横軸はインピーダンスReZ(Ω)、縦軸はインピーダンスImZ(Ω)である。
図21(b)は、(a)の部分拡大図である。インピーダンスローカス変化について、1.事故前、2.事故直後、3.事故除去直後、4.56Tカウント開始、5.56Tカウントアップ、6.脱調ロック解除用タイマカウント開始、7.脱調ロック解除用タイマカウントリセット、の時間経過順に説明する。
【0083】
電圧メモリをかけるべきB変電所AB線の44Sリレー2001は、
図21(b)に示すように、インピーダンスローカスが1.02secの時点で44SOML、44SOM(44SOMRは事故前より動作状態を継続中)の動作範囲に入ってくることで、44S第一段領域の脱調ロックタイマ(56T)2002のカウントが開始され、40msec後の1.06secに 44Sリレー2001の第一段領域が脱調ロックとなる。
【0084】
その後、1.53secの時点で44SOMが復帰することで、脱調ロック解除用タイマ(500msec)2003がカウントを開始するが、450msec後の1.98secの時点で再び44SOML、44SOM(44SOMRも再び動作状態中)の動作範囲に入ってくることで、脱調ロック解除用タイマ2003が復帰するため、脱調ロックが継続状態となる。
【0085】
図22は、脱調ロックと電圧メモリのタイミングを示す図表である。横軸は時刻、縦軸は電圧である。上記のように、1.06sec時点では既に脱調ロックしていることから、
図22に示すB変電所の母線電圧が電圧メモリ閾値の0.12puを下回る1.35sec時点は脱調ロックの継続時間帯となっており、44Sリレー2001の第一段領域の脱調ロック機能を利用すれば、脱調時のみを対象として電圧メモリ機能を活用することが可能となる。
【0086】
図23は、E変電所AE線44Sとインピーダンスローカスを示す図表である。44Sリレー2001の第一段領域の脱調ロック機能を利用した電圧メモリ型56Vリレーの応動について、事故発生時に電圧が電圧メモリ閾値を下回るE変電所AE線の44Sリレーにより確認した。
図23に示すとおり、44Sリレー2001でのインピーダンスローカスは、2.事故発生時に脱調ロック動作範囲内となるものの、事故発生時の高速な変化のため44Sリレー2001の第一段領域の脱調ロック機能は動作せず、その後、脱調ローカスは脱調ロック判定領域外を通過するため、脱調ロックとはならないため、電圧メモリされない。
【0087】
以上のことから、44Sリレーの脱調ロック時のみ電圧メモリをかけることにより、事故発生時と脱調時の電圧低下を区別することができる。また、44SOM、44SOMR、44SOMLの設定値によっては脱調ロックのかかるタイミングが変化するものの、通常の44Sリレーの設定値であれば、脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810設置母線の電圧が極小となる。つまり、脱調ローカスが原点(0Ω)近傍を通過する前には、脱調ロック領域を通過し、脱調ロック機能が動作している可能性が高い。よって、44Sリレーの脱調ロック時のみ電圧メモリをかけるという対策は有効となる。また、本機能を56Vリレーによる脱調分離のためのフェイルセイフリレーとする方法もある。
【0088】
以上説明したように、脱調分離を担う現行56Vリレーの設置母線近傍に脱調の電気的中心が侵入すると、同リレー入力電圧の大きさが電圧位相差角を高い精度で算出可能な限界値を下回ることで動作不能となる場合や、リレー設置母線間の電圧位相差角の変化速度が急峻となることで脱調検出が困難となることについて、模擬系統のシミュレーションおよび等価2機系統モデルにより確認した。
【0089】
そして、現行56Vリレーで脱調検出が不可能となるケースに対して、実施の形態1による脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810を用いた結果、脱調の検出が可能となり、系統分離できるようになった。なお、リレー設置母線が電気的中心より減速側にある場合には、電気的中心が侵入した線路で系統分離するが、リレー設置母線が電気的中心より加速側にある場合には、電気的中心が侵入した線路より一つ加速側の線路で脱調を検出し、系統分離する。ただしこの場合であっても、系統分離のための線路遮断は必要最小限であることを確認できた。
【0090】
さらに、電圧メモリ型56Vリレーによる事故時の電圧低下に伴う不要遮断について、電圧メモリ時間が適切であれば、不要遮断しないことが確認できた。また、不要遮断のリスクを回避するための対策として、56Vリレーに44Sリレーの脱調ロック機能を併用することも有効である。
【0091】
以上のように、実施の形態1による脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810によれば、現行56Vリレーの欠点を補完することができ、電気的中心がリレー設置母線近傍に侵入する系統間脱調においても脱調判定ができ、不必要な線路遮断を回避して系統の電気的中心近傍の線路で系統分離できる。
【0092】
(実施の形態2:電圧・電流位相差方式脱調検出リレー)
実施の形態1では、脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810を用いて、現行56Vリレーで検出が不可能なケースに対しても脱調検出が可能となることを確認できた。リレー設置母線が電気的中心より加速側にある場合には、脱調を検出することはできるが、電気的中心が侵入した線路より一つ加速側の線路で系統分離することになるため、一つ加速側の線路にリレーが設置されていない場合(例えば、
図1のCJ線のように、一つ加速側の線路が変圧器の場合)には、脱調を検出することができない。
【0093】
実施の形態2では、実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810の脱調検出の機能向上について説明する。実施の形態2では、送電線保護リレー入力要素である電流を利用することによって、脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810の機能補完について説明する。
【0094】
脱調時の送電線電流は、基本的に加速側母線から減速側母線に向かう通過電流になるとともに、脱調の周期に応じた周期変動となり、電圧をリレー入力要素とした場合と同様にリレー入力電流低下に起因した脱調検出が不能となる懸念がある。よって、送電線保護リレーに入力された、母線電圧とその母線から引き出された送電線電流双方を利用し、その位相差を用いた機能補完方法について説明する。
【0095】
(動作原理)
ある母線の電圧とその母線から引き出された送電線電流の位相差を用いた脱調検出方法は、非特許文献1(佐藤正弘著、「送電線の電圧・電流を用いた脱調検出方法」、電学論B、123巻6号(2003年)、pp.697〜703)、および特許文献3(特許第4766434号公報)に開示されている。
【0096】
図24は、本発明の実施の形態2にかかる等価2機系統モデルを示す図である。
図24に示す等価2機系統モデル2400において、簡単化のため、線路インピーダンスの抵抗分は無視し、母線A、Bに電圧・電流位相差方式の脱調検出リレーが設置されているものとする。
【0097】
図24中の電流Iと電圧V
A、V
Bは下記式(3)で表される。
【数3】
母線A、Bの電圧と電流の異同差をα
1 (=θ
A−φ),α
2 (=θ
B−φ)とすると、上記式(3)から、
δ=0°のとき |α
1|=90°,|α
2|=90°
0°<δ<180°のとき |α
1|<90°,|α
2|<90°
δ=180°のとき |α
1|=90°,|α
2|=90°
180°<δ<360°のとき |α
1|>90°,|α
2|>90°
となる。
【0098】
図25は、本発明の実施の形態2による電圧ベクトル軌跡を示す図表、
図26は、本発明の実施の形態2による電流ベクトル軌跡を示す図表、
図27〜
図29は、本発明の実施の形態2による電圧・電流位相の変化を示す図表である。これらの図では、V
A=V
B=1.0puとし、V
1の位相δを変化させたときのI、V
A、V
Bの変化を示している。
【0099】
上記非特許文献1では、上記の関係から、母線A、Bの電圧位相差角が180°+360°×n(n=0,1,2,…)以上360°×(n+1)(n=0,1,2,…)以下のとき(56Vリレーが脱調と判定するとき)、母線A、Bともに電圧と電流の位相差の絶対値が90°以上となることを利用して脱調検出する方法を提案している。
【0100】
送電線の電圧位相差角が360°×n(n=0,1,2,…)のときにも、上記式(3)のとおり電圧と電流の位相差の絶対値が90°を通過する。このため、送電線の電圧位相差角が180°+360°×n(n=0,1,2,…)の場合と、360°×n(n=0,1,2,…)の場合を判別し、確実に脱調を検出する必要がある。この脱調検出の詳細は、非特許文献1に開示されている。この方式は自端の電圧・電流情報のみで脱調検出できる利点を有する。
【0101】
(動作説明)
実施の形態1での動作説明のケース2と同様の検討条件において、非特許文献1で提案された方式を適用した場合に、脱調検出が可能であるか検証する。
【0102】
図30〜
図33は、
図1に示した各変電所での母線電圧・電流位相差を示す図である。
図30はB変電所のBC線、
図31はC変電所のBC線、
図32はB変電所のBF線、
図33はF変電所のBF線、のそれぞれの電圧・電流位相差を示している。
【0103】
いずれの母線から引き出される送電線でも、電圧位相差角が180°に開くのとほぼ同時に電圧・電流位相差の絶対値が90°となることが分かる(
図30〜
図33の(b)、(c))。また、B変電所の母線近傍に電気的中心が侵入して、該当送電線の電圧位相差角が180°に開くタイミングでB変電所の母線電圧位相が急峻に変化するため、B変電所BC線およびBF線の電圧・電流位相差も急峻に変化することが分かる(
図30、
図32の(b))。一方、C変電所およびF変電所側は、電気的中心から離れているため、B変電所に比べて緩やかに変化している(
図31、
図33の(b))。
【0104】
電圧・電流位相差方式による脱調検出は、このケースのB変電所のように電圧が小さすぎると、現行56Vリレーと同様に電圧・電流位相差の演算ができなくなる。このため、相手端(このケースではB変電所)の電圧が閾値以下に低下したときのみ自端(C変電所およびF変電所)において電圧・電流位相差による脱調検出を行う方法が考えられる。ただし、B変電所の電圧が閾値以下に低下した情報をC変電所とF変電所に伝送する必要がある。
【0105】
本方式をAB線にも適用し、上記方法で脱調検出を行った場合には、B変電所の電圧が閾値以下に低下しているため、A変電所AB線についても、電圧・電流位相差により脱調の判定が行われることとなる。
【0106】
図34,
図35は、本発明の実施の形態2による各変電所での電圧・電流位相差方式による脱調検出を適用した場合の母線電圧・電流位相差を示す図表である。
図34は
図1に記載のA変電所のAB線、
図35はB変電所のAB線のそれぞれの電圧・電流位相差を示している。
【0107】
上記動作説明で説明した等価2機系統モデルによる動作原理から分かるように、発電機間の相差角が180°開いたタイミングで、任意の母線において電圧・電流位相差が90°開くことになる。このため、
図34においても、A変電所の電圧・電流位相差による脱調検出リレーが動作することになる。よって、BF線、BC線およびAB線が遮断される。
【0108】
以上から、電圧・電流位相差による脱調検出は、自端のみで脱調検出が可能であり、現行56Vリレーと同じタイミング(送電線の電圧位相差角が180°開くタイミング)で脱調検出することができるという利点を有する。ただし、56Vリレーのように電気的中心で系統分離するといった選択性がないため、複数箇所に設置した場合には不要遮断することが懸念される。
【0109】
このため、電圧・電流位相差方式を利用して脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810の機能を補充する場合には、当該送電線の両端母線について、あらかじめ加速側および減速側母線を定めておき、加速側母線に設置された脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810による電圧低下検出情報を受信したうえで、減速側母線にて電圧・電流位相差方式の脱調検出リレーを動作させることが有効となる。
【0110】
(実施の形態3:電圧位相角変化速度メモリ型56Vリレー)
実施の形態2で説明した電圧メモリ型56Vリレー方式では脱調の加速側母線が電圧メモリされた場合、電圧位相角変化の少ない減速側母線電圧とメモリされた母線電圧との電圧位相差角の拡大が遅いため、脱調検出が困難になることを説明した。
【0111】
その対応策として、実施の形態3では、電圧メモリ型56Vリレーの入力電圧が電圧メモリ開始電圧まで低下した場合の電圧および電圧位相角をメモリするにあたり、電圧位相角変化速度も合わせてメモリ(電圧位相角変化速度メモリ型56Vリレー方式)することで、上記現象を改善する。
【0112】
(動作原理)
実施の形態1で検討した電圧メモリ型56Vリレー方式では、電気的中心が加速側のリレー設置母線の付近に侵入したときには、加速側の電圧をメモリするため、当該送電線の電圧位相差角の演算値が電圧メモリ時間内に180°以上開かないことを確認した。
【0113】
電圧位相角変化速度メモリ型56Vリレー方式は、リレー設置母線電圧が設定した閾値より低下した場合に、母線電圧位相角に加え、その直前の母線電圧位相角の変化速度をメモリし、当該母線電圧はその変化速度を維持したまま電圧位相角を変化させ、相手端の母線電圧との電圧位相差角を演算する。その電圧位相差角が動作領域(領域I:電圧位相差角90°〜180°、領域II:電圧位相差角180°〜270°)に一定時間滞在しながら通過したことを確認できれば脱調検出する方式である。
【0114】
(動作説明)
検討条件は、実施の形態1にかかるケース2と同様とする。変化速度を固定する電圧閾値は脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810と同様に、0.12puとするが、メモリ時間については500msecでは電圧位相差角の開きが遅く、脱調検出が困難であることが確認されたため700msとした。
【0115】
図36,
図37は、実施の形態3による各変電所での電圧位相角変化速度メモリ型方式による脱調検出を適用した場合の電圧・相差角変化を示す図表である。
図36は、
図1に記載のB・C変電所の電圧・相差角を示し、
図37は、B・F変電所の電圧・相差角を示す。
【0116】
本来、BC線の電圧位相差角の変化速度は事故除去後から加速度的に増加し、180°付近で急峻に変化するが、この急峻な変化が起きるよりも前の段階で変化速度を固定するため、固定後は電圧位相差角が等速で変化することとなり、
図36(c)に示すように、実際の変化速度よりも遅くなる。BC線電圧位相差角180°付近におけるB変電所の実際の電圧位相変化速度:108°/5msecであり、電圧位相変化のメモリ速度:0.75°/5msecである。しかしながら、領域I、IIの滞在時間を確保できることから、脱調の検出が可能である。
【0117】
つぎに、脱調検出に必要な時間について、実施の形態1で説明した脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810と比較する。電圧メモリ型56Vリレーでは、BC線での脱調検出が不可能であるが、AB線で脱調検出を行う。このとき、電圧位相角の急峻な変化を伴うB変電所の母線電圧がメモリされるが、相手端のA変電所が脱調の加速側であり、その電圧位相角がメモリされていないため、AB線の電圧位相差角(B変電所母線電圧メモリ後の演算値)の変化速度は次第に増加していく。
【0118】
一方、実施の形態3による電圧位相角変化速度メモリ型56Vリレー方式では、BC線で脱調を検出するが、前述のように、B変電所の母線電圧変化速度がそれ程速くない時点でメモリされるため、BC線の電圧位相差角変化速度もそれ程増加しないため、実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810と比較して脱調検出時間が遅延する。
【0119】
電圧メモリ型56Vリレー方式の脱調検出に必要なメモリ時間は実施の形態1にかかる動作説明(3)で示したとおり195msecだが、実施の形態3にかかる電圧位相変化速度メモリ型56Vリレー方式の脱調検出に必要なメモリ時間は560msecとなる。脱調検出時間遅延への対策としては、上述のように電圧位相角変化速度をメモリ直前の値で固定して等速変化させるのではなく、事故除去後からメモリ開始までの電圧位相角の加速度的な変化を曲線近似することにより、等速変化よりも実際の変化により近づける方法が有効である。
【0120】
また、実施の形態3にかかる方式では、電圧閾値の設定値によりメモリされた電圧位相の変化速度が異なることにより、メモリの所要時間が変化するため、メモリ時間の設定については適切な値の設定に工夫が必要となる。なお、実施の形態3にかかる方式では、極短距離送電線に電気的中心が侵入し、両端母線電圧低下のため他方式では脱調検出が困難となるような場合にも、電圧位相変化速度のメモリによって時間の経過とともに確実に電圧位相差角差が増加することから脱調検出が可能となる。
【0121】
また、上述した各実施の形態に記載した電圧メモリ型脱調分離リレーに、電圧・電流位相差方式脱調検出リレーを付加した構成としてもよい。この場合、あらかじめ加速側および減速側母線を定めておき、加速側母線に設置された前記脱調検出リレーの入力電圧を所定の閾値と比較し、前記入力電圧が前記閾値まで低下した場合、電圧低下検出情報を相手端に送信したうえで、相手端減速側母線において自端リレー入力電圧と入力電流の位相差が180°に開いたことを検出することで脱調検出できる。
【0122】
(実施の形態4:脱調現象中の各種リレーの応動)
つぎに、実施の形態4では、本節では電気的中心が侵入した線路の各種リレーの応動について確認する。現行56Vリレーでの脱調検出が不可能なケースに対して、各種リレーの応動によっては実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810で脱調検出できないことが懸念される。このため、実施の形態4では電気的中心が侵入した線路の各種リレーの応動について確認する。検討条件は 実施の形態1にかかる動作説明(1)のケース1と同様とする。
【0123】
(1)距離リレー(44Sリレー)
44Sリレーについては、脱調ロック判定領域内でのインピーダンスローカスの変化速度が速い場合など、脱調ロック機能が動作しない場合には不要動作する可能性があるため、Y法の計算結果から下記式(4)のインピーダンスZを算出し、動作判定する。
【数4】
【0124】
図38は、本発明の実施の形態4にかかるA変電所AB線の44Sリレーの応動を示す図表である。
図38(b)は、(a)の部分拡大図である。インピーダンスローカスは、1.事故前、2.事故直後、3.事故除去直後、4.56Tカウント開始、5.56Tカウントアップの時間経過順に変化する。
【0125】
インピーダンスローカスが4.56Tカウント開始(0.96sec)の時点で44SOMRの動作範囲に入ってくることで、脱調ロックタイマ(56T)のカウントが開始され、40ms後の1.00secに5.56Tカウントアップで44SX1脱調ロックがかかる。
【0126】
また、上述した、距離リレーの脱調ロック機能を活用した脱調判定の改良の欄で説明したように、B変電所AB線の44Sリレーについても動作しない。このため、実施の形態1にかかる脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810が動作する前に、44SリレーによってAB線が遮断されることはない。
【0127】
(2)電流差動リレー(87リレー)
系統間脱調時の送電線に流れる電流は基本的に加速側母線から減速側母線に向かう通過電流となるため87リレーは動作することはないと考えられるが、Y法の計算結果から下記式(5)に示す動作量および抑制量を算出のうえ、その確認をする。
【数5】
【0128】
図39は、本発明の実施の形態4にかかるAB線87リレー動作判定状態を示す図表である。
図39の電流値は、事故発生から2.0sec間を表示している。この
図39に示すように、AB線の電流は通過電流であるため、一般的な動作領域にかからず、87リレーは動作しない。
【0129】
(3)多段式過電流リレー(51Mリレー)
図40は、本発明の実施の形態4にかかる51Mリレーの特性図である。多段式過電流リレーである51Mリレーは、脱調時の電流変動に対応した現行56Vリレーによる脱調分離のためのフェイルセイフリレーである。
図40に示すように、51Mリレーは、整定値を段階的に増加させた多段Inの過電流リレーで構成され、各段の入力電流が整定値を超過した場合に動作する。
【0130】
51Mリレーの第n段の整定値In(n=1,2,…,7)は、In=2×1.6
n-1[A]とする。また、各段の整定値の超過時間が2秒より短い場合には超過している時間だけ動作し、2秒を超過した場合には2秒間だけ動作し、各段の整定値の80%となったときに復帰する仕様を一例として説明する。
【0131】
Y法の計算結果から ReIa、ImIaを算出し、51Mリレー入力値に換算した結果により動作判定する。その結果を
図41,
図42に示す。
図41、
図42は、本発明の実施の形態4にかかる各変電所の母線51Mリレー動作判定状態を示す図表である。いずれの図においても、電流値は、事故発生から2.0sec間を表示している。
【0132】
図41に示すA変電所と、
図42に示すB変電所のAB線の51Mリレーは、事故除去後に1段整定値を超過し、0.26secで2段整定値を超過する。2段整定値の80%となる1.65msecまで動作を継続する。このケースでは、実施の形態1での脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810は1.56secに動作するため、現行56Vリレーと同様に、51Mリレーを脱調検出リレー(電圧メモリ型56Vリレー)810のフェイルセイフリレーとして適用することが可能なことを示している。
【0133】
以上説明したように、各実施の形態の脱調検出リレーによれば、電気的中心がリレー設置母線近傍に侵入する系統間脱調においても脱調判定できる。また、不必要な線路遮断を回避して系統の電気的中心近傍の線路で系統分離できる。
【0134】
また、現行の脱調検出リレーに電圧メモリを付加するだけの簡単な構成で脱調判定できる。
脱調検出リレー(810)は、送電線(803)の両端母線(A、B)の電圧の電圧位相差に基づき、設置区間での脱調を検出する。この脱調検出リレー(810)は、入力電圧を所定の閾値と比較し、入力電圧が閾値まで低下した場合、低下した時点から一定時間の間、入力電圧の大きさと位相を記憶する電圧メモリ(811)を有し、入力電圧の大きさと電圧位相差に基づき脱調を検出し、入力電圧が閾値まで低下した場合には、一定時間の間、電圧メモリ(811)から出力される入力電圧の大きさと電圧位相差に基づいて脱調を検出する。