(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベースマシーンの前方に設けられたリーダの起立した前面側にラックギヤが形成され、 作業用ロッドを回転させる作業装置の後面側に上下方向に多段のピニオンギヤが形成され、
前記各ピニオンギヤに対応してそのピニオンギヤを回転させる各油圧モータが設けられ、
前記各油圧モータへ作動油を供給可能な同一の駆動源である油圧ポンプが設けられ、
前記各油圧モータに対応してその油圧モータの回転を規制する各ネガブレーキが設けられ、
前記ラックギヤに前記各ピニオンギヤが噛合した状態で、前記油圧ポンプと前記各ネガブレーキとの間に形成される各ブレーキ流路に作動油を供給することで前記各ネガブレーキによる回転規制を解除し、且つ前記油圧ポンプと前記各油圧モータとの間に形成される各上昇側流路又は各下降側流路に作動油を供給することで前記各油圧モータを回転駆動して、前記作業装置を前記リーダに対して昇降させる杭打機において、
前記多段のピニオンギヤに対応する各ブレーキ流路のうち、最下段のピニオンギヤに対応するブレーキ流路以外のブレーキ流路にのみ、作業員の操作によって作動油の流れを規制可能な流れ規制手段が設けられていることを特徴とする杭打機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した多段のピニオンギヤ161,162が設けられたラックピニオン式では、以下の問題点があった。即ち、大型化された杭打機を輸送する際には、オーガ130が走行の邪魔になるため、オーガ130をリーダから取り外す必要がある。従来、オーガ130をリーダから取り外す場合には、オーガ130をクレーンのワイヤで吊り上げた状態で、油圧ポンプから各油圧モータ171,172へ作動油を供給して、オーガ130が上昇するように上段ピニオンギヤ161及び下段ピニオンギヤ162を回転させていた。
【0008】
ここで、オーガ130が上昇するにつれて、先ず上段ピニオンギヤ161がラックギヤ122から外れると、上段ピニオンギヤ161に作用していたラックギヤ122による負荷が無くなる。これにより、油圧ポンプから負荷が無くなった上段ピニオンギヤ161に対応した上段油圧モータ171にのみ作動油が供給され、同一の油圧ポンプから下段ピニオンギヤ162に対応した油圧モータ172に作動油が供給されなくなる。この結果、上段油圧モータ171が空回りし、下段油圧モータ172は回転しないため、オーガ130を上昇させることができない事態が生じていた。
【0009】
そこで、従来では、上段ピニオンギヤ161がラックギヤ122から外れた後に、下段ピニオンギヤ162に作用する負荷が無くなるように、クレーン操縦者が、クレーンのワイヤでオーガ130を吊り上げる力とオーガ130の重力とを釣り合わせる繊細なクレーン操作を行っていた。つまり、上述したクレーン操作により、上段ピニオンギヤ161と下段ピニオンギヤ162に作用する負荷を同じにすることで、油圧ポンプから下段油圧モータ172へ作動油を供給して、オーガ130が上昇するように対応していた。
【0010】
しかし、上述した繊細なクレーン操作は、不慣れなクレーン操縦者が容易に行えるものではなく、実際には、上段ピニオンギヤ161がラックギヤ122から外れた後に僅かにオーガ130を引き上げるようにクレーン操作を行っていた。このため、下段ピニオンギヤ162とラックギヤ122には、無理な荷重が作用して、故障するおそれがあった。こうして、上段ピニオンギヤ161がラックギヤ122から外れた後に、オーガ130が上昇するように下段ピニオンギヤ162を回転させることが難しく、オーガ130をリーダから容易に取り外すことができないという問題点があった。
【0011】
そこで、本発明は上記した課題を解決するためになされたものであり、ラックピニオン式で上下方向に多段のピニオンギヤが設けられている作業装置をリーダに対して容易に取り外すことができる杭打機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る杭打機は、ベースマシーンの前方に設けられたリーダの起立した前面側にラックギヤが形成され、作業用ロッドを回転させる作業装置の後面側に上下方向に多段のピニオンギヤが形成され、前記各ピニオンギヤに対応してそのピニオンギヤを回転させる各油圧モータが設けられ、前記各油圧モータへ作動油を供給可能な同一の駆動源である油圧ポンプが設けられ、前記各油圧モータに対応してその油圧モータの回転を規制する各ネガブレーキが設けられ、前記ラックギヤに前記各ピニオンギヤが噛合した状態で、前記油圧ポンプと前記各ネガブレーキとの間に形成される各ブレーキ流路に作動油を供給することで前記各ネガブレーキによる回転規制を解除し、且つ前記油圧ポンプと前記各油圧モータとの間に形成される各上昇側流路又は各下降側流路に作動油を供給することで前記各油圧モータを回転駆動して、前記作業装置を前記リーダに対して昇降させるものであって、前記多段のピニオンギヤに対応する各ブレーキ流路のうち、最下段のピニオンギヤに対応するブレーキ流路以外のブレーキ流路に
のみ、作業員の操作によって作動油の流れを規制可能な流れ規制手段が設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る杭打機によれば、作業装置をリーダから取り外す際に、各油圧モータ及び各ピニオンギヤを作業装置が上昇するように回転させる。そして、最上段のピニオンギヤがラックギヤから外れたときに、流れ規制手段によって、最上段のピニオンギヤに対応するブレーキ流路で作動油の流れを規制する。これにより、最上段のピニオンギヤでラックギヤによる負荷が無くなっても、作動油を最上段以外の油圧モータに流し込むことができ、作業装置をリーダに対して上昇させることができる。
【0014】
続いて、最上段より1段下のピニオンギヤがラックギヤから外れたときに、流れ規制手段によって、最上段より1段下のピニオンギヤに対応するブレーキ流路で作動油の流れを規制する。これにより、最上段より1段下のピニオンギヤでラックギヤによる負荷が無くなっても、作動油を最上段より2段以下の油圧モータに流し込むことができ、作業装置をリーダに対して上昇させることができる。その後、最下段のピニオンギヤがラックギヤから外れるまで、同様の作業を繰り返す。こうして、上下方向に多段のピニオンギヤが設けられている作業装置であっても、各油圧モータを回転駆動させることができて、作業装置をリーダから容易に取り外すことができる。
【0015】
また、本発明に係る杭打機において、前記流れ規制手段は、前記最下段のピニオンギヤに対応するブレーキ流路以外のブレーキ流路に設けられた電磁開閉弁であり、前記作業装置の停止及び昇降を切り換える昇降レバーに、前記電磁開閉弁の開閉動作を切り換える切換部が設けられていることが好ましい。
【0016】
この場合には、杭打機の運転作業員が、昇降レバーを操作して作業装置を上昇させているときに、その昇降レバーに設けられた切換部で電磁開閉弁を閉じることができる。従って、杭打機の運転作業員は移動することなく、ワンタッチ操作で電磁開閉弁を閉じることができ、より簡単な操作で作業装置の取り外し作業を行うことができる。
【0017】
また、本発明に係る杭打機において、前記各上昇側流路を流れる作動油の油圧を検出する油圧センサが設けられていて、前記油圧センサが検出した油圧値が所定値より小さい場合に、前記ピニオンギヤが前記ラックギヤから外れたことを知らせる警報手段が設けられていても良い。
【0018】
この場合には、警報手段によって、ピニオンギヤがラックギヤから外れたかを的確に知ることができ、流れ規制手段で作動油の流れを規制するためのタイミングを的確に知ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の杭打機によれば、ラックピニオン式で上下方向に多段のピニオンギヤが設けられている作業装置をリーダに対して容易に取り外すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る杭打機の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の杭打機1を示した図である。
図1に示すように、杭打機1は、ベースマシーン10と、このベースマシーン10の前方(
図1の左側)に設けられたリーダ20と、このリーダ20に対して上下方向に移動(昇降)可能に取付けられたオーガ30(作業装置)とを備える。そして、杭打機1は、オーガ30によって作業用ロッドとしての鋼管杭(図示省略)を回転させつつ地盤に埋設できるように構成されている。
【0022】
ベースマシーン10は、クローラによって走行可能な下部走行体11と、この下部走行体11の上に配置されている上部旋回体12とを備えている。上部旋回体12は、旋回装置(図示省略)によって下部走行体11に対して旋回可能であり、オーガ30の駆動源になるパワーユニットや運転室を有している。ここで、
図2は、
図1に示したリーダ20の拡大図である。
【0023】
リーダ20は、オーガ30を支持するものであり、
図2に示すように、上下方向に延びている。このリーダ20は、後方側(
図2の右側)に形成されたブラケット21を介して上部旋回体12に組付けられていて(
図1参照)、シリンダ13及びブラケット14を介して延長リーダ15に組付いている。つまり、リーダ20は、上側で延長リーダ15が起立することで、長尺仕様に切り換わるようになっている。ここで、
図3は、
図2に示したリーダ20を左側から見た側面図である。
【0024】
図3に示すように、リーダ20の起立した前面側には、上下方向に延びるラックギヤ22が形成されている。ラックギヤ22は、左右両側に歯を有していて、後述するオーガ30に設けられた各ピニオンギヤに噛合するものである。このラックギヤ22から左右両側に離れた位置には、上下方向に延びるガイドパイプ23が設けられている。各ガイドパイプ23は、後述するオーガ30に設けられたガイドギブ51が上下方向に摺動できるように組付けるものである。ここで、
図4は、
図1に示したオーガ30の拡大図である。
【0025】
オーガ30は、鋼管杭を回転させると共にリーダ20に対して昇降するものであり、
図4に示すように、前方側(
図4の左側)に配置された回転駆動装置40と後方側に配置された昇降駆動装置50とが一体的になって構成されたものである。回転駆動装置40は、減速機を内蔵した回転用ギヤケース41の中に鋼管杭を取付けて、回転モータ42の回転駆動によって鋼管杭を回転させるようになっている。ここで、
図5は、
図4に示したオーガ30を右側から見た側面図である。
【0026】
昇降駆動装置50は、
図4及び
図5に示すように、後面側に上下方向に延びる左右一対のガイドギブ51を有している。一対のガイドギブ51は、リーダ20の各ガイドパイプ23を挟み込むことで、リーダ20に対して上下方向に摺動可能になっている。また、昇降駆動装置50は、後面側に上下方向に3段で左右一対のピニオンギヤを有している。これら合計6個のピニオンギヤは、リーダ20に形成されたラックギヤ22に左右両側から挟み込むように噛合している。ここで、上段に設けられた一対のピニオンギヤを上段ピニオンギヤ61L,61Rと呼び、中段に設けられた一対のピニオンギヤを中段ピニオンギヤ62L,62Rと呼び、下段に設けられた一対のピニオンギヤを下段ピニオンギヤ63L,63Rと呼ぶことにする。なお、以下において、これら各ピニオンギヤ61L,61R,62L,62R,63L,63Rを意味する場合には、単に「各ピニオンギヤ」と呼ぶことにする。
【0027】
また、昇降駆動装置50は、
図4に示すように、各ピニオンギヤに対応した油圧モータを有している。即ち、上段ピニオンギヤ61L,61Rを回転させる上段油圧モータ71L,71Rが設けられ、中段ピニオンギヤ62L,62Rを回転させる中段油圧モータ72L,72Rが設けられ、下段ピニオンギヤ63L,63Rを回転させる下段油圧モータ73L,73Rが設けられている。なお、以下において、これら各油圧モータ71L,71R,72L,72R,73L,73Rを意味する場合には、単に「各油圧モータ」と呼ぶことにする。こうして、各油圧モータが各ピニオンギヤを回転させることで、昇降駆動装置50(オーガ30)がリーダ20に対して昇降できるようになっている。
【0028】
そして、このオーガ30では、各油圧モータが多段(上段、中段、下段)の各ピニオンギヤを回転させるため、ピニオンギヤ全体で回転する力が大きくなる。この結果、仮に1段のピニオンギヤに対応して油圧モータが設けられている場合に比べて、オーガ30を昇降させる力を大きくすることができる。即ち、従来では、油圧モータの容量を上げたり、油圧モータを駆動させる作動油の供給圧力を上げることで、オーガ30を昇降させる力を大きくする方法がある。しかし、この従来の方法では、ラックの歯やピニオンギヤの歯で強度不足になるおそれがあった。これに対して、このオーガ30では、1つずつのピニオンギヤ及び油圧モータを比較的小さく構成しつつ多段に設けることで、ラックの歯やピニオンギヤの歯で強度不足が生じることなく、昇降する力を大きくすることができる。
【0029】
次に、各油圧モータを回転駆動させる油圧回路について、
図6を参照しながら説明する。各油圧モータは、
図6に示すように、同一の駆動源である油圧ポンプ74から作動油が送り込まれるようになっている。油圧ポンプ74は、ベースマシーン10に設けられていて、油圧ホース(図示省略)を介して各油圧モータに接続されている。また、油圧ポンプ74は、タンク75から作動油を吸入及びタンク75へ作動油を排出できるようになっている。
【0030】
そして、油圧ポンプ74と各油圧モータとの間には、オーガ30が上昇するように各油圧モータを回転させる上昇側流路81が形成されると共に、オーガ30が下降するように各油圧モータを回転させる下降側流路82が形成されている。上昇側流路81は、油圧ポンプ74から各油圧モータに向かう途中で3方向に分岐していて、作動油が上段油圧モータ71L,71Rに向かう第1上昇側流路81aと、中段油圧モータ72L,72Rに向かう第2上昇側流路81bと、下段油圧モータ73L,73Rに向かう第3上昇側流路81cとが形成されている。同様に、下降側流路82は、油圧ポンプ74から各油圧モータに向かう途中で3方向に分岐していて、作動油が上段油圧モータ71L,71Rに向かう第1下降側流路82aと、中段油圧モータ72L,72Rに向かう第2下降側流路82bと、下段油圧モータ73L,73Rに向かう第3下降側流路82cとが形成されている。
【0031】
また、油圧ポンプ74の直ぐ下流側には、作動油の流れを切り換えるための電磁切換弁76が設けられている。この電磁切換弁76は、3つの状態に切り換えることができるようになっていて、油圧ポンプ74から吐出される作動油を上昇側流路81及び下降側流路82へ流さない「中立状態」と、油圧ポンプ74から吐出される作動油を上昇側流路81へ流す「上昇状態」と、油圧ポンプ74から吐出される作動油を下降側流路82へ流す「下降状態」とに切り換えることができる。
【0032】
また、この油圧回路には、各油圧モータに対応してその油圧モータの回転を規制する各ネガブレーキが設けられている。即ち、上段油圧モータ71L,71Rの回転を規制する上段ネガブレーキ91L,91Rと、中段油圧モータ72L,72Rの回転を規制する中段ネガブレーキ92L,92Rと、下段油圧モータ73L,73Rの回転を規制する下段ネガブレーキ93L,93Rとが設けられている。なお、以下において、これら各ネガブレーキ91L,91R,92L,92R,93L,93Rを意味する場合には、単に「各ネガブレーキ」と呼ぶことにする。
【0033】
各ネガブレーキは、通常時(上述した「中立状態」)に各油圧モータの回転を規制することで、各ピニオンギヤの回転を規制しながら、各ピニオンギヤとラックギヤ22とが噛合した状態を維持している。この結果、通常時にオーガ30がその上下方向の位置を止めて、落下しないようになっている。具体的に、各ネガブレーキは、スプリングの付勢力によって各油圧モータの回転を規制していて、シリンダに作動油が供給されると、スプリングの付勢力を減少させて各油圧モータの回転規制を解除する。
【0034】
この油圧回路には、上昇側流路81と下降側流路82とを連結する連結流路83にシャトル弁77が設けられ、このシャトル弁77と各ネガブレーキのシリンダとの間にブレーキ流路84が形成されている。シャトル弁77は、上昇側流路81を流れる作動油の油圧と下降側流路82を流れる作動油の油圧のうち、油圧が高い方の作動油を流すものである。ブレーキ流路84は、シャトル弁77から各ネガブレーキのシリンダに向かう途中で3方向に分岐していて、作動油が上段ネガブレーキ91L,91Rに向かう上段ブレーキ流路84aと、中段ネガブレーキ92L,92Rに向かう中段ブレーキ流路84bと、下段ネガブレーキ93L,93Rに向かう下段ブレーキ流路84cとが形成されている。
【0035】
次に、各ピニオンギヤがラックギヤ22に噛合しているときに、電磁切換弁76が「中立状態」であるときの油圧回路の状態と、電磁切換弁76が「上昇状態」であるときの油圧回路の状態と、電磁切換弁76が「下降状態」であるときの油圧回路の状態とについて説明する。電磁切換弁76の各状態は、
図7に示す昇降レバー78を操作することによって、切り換わるようになっている。この昇降レバー78は、上部旋回体12の運転室の中に設けられていて、杭打機1の運転作業員によって操作される。
【0036】
図7に示すように、運転作業員が昇降レバー78を中立位置(実線で示した位置)に操作すると、
図6に示すように、電磁切換弁76が「中立状態」になる。これにより、作動油が油圧ポンプ74から上昇側流路81及び下降側流路82を通って流れずに、各油圧モータの上昇側ポート及び下降側ポートに向かって流れない。更に、作動油がシャトル弁77を通って各ブレーキ流路84に流れ込まないため、各ネガブレーキが作動する。この結果、「中立状態」では、各油圧モータ及び各ピニオンギヤが回転しなくて、オーガ30はその上下方向の位置で止まる。
【0037】
一方、運転作業員が昇降レバー78を中立位置から後方側(
図7の右側)へ押して上昇位置に操作すると、
図8に示すように、電磁切換弁76が「上昇状態」になる。これにより、作動油が油圧ポンプ74から上昇側流路81を通って流れ、各油圧モータの上昇側ポートに流れ込む。更に、作動油が上昇側流路81からシャトル弁77を通って各ブレーキ流路84に流れ、各ネガブレーキのシリンダに流れ込むことで、各ネガブレーキによる各油圧モータの回転規制が解除される。この結果、作動油が油圧ポンプ74から上昇側流路81と各油圧モータと下降側流路82を通って循環し、各油圧モータ及び各ピニオンギヤが回転して、オーガ30がリーダ20に対して上昇する。
【0038】
これに対して、運転作業員が昇降レバー78を中立位置から前方側(
図7の左側)へ押して下降位置に操作すると、
図9に示すように、電磁切換弁76が「下降状態」になる。これにより、作動油が油圧ポンプ74から下降側流路82を通って流れ、各油圧モータの下降側ポートに流れ込む。更に、作動油が下降側流路82からシャトル弁77を通って各ブレーキ流路84に流れ、各ネガブレーキのシリンダに流れ込むことで、各ネガブレーキによる各油圧モータの回転規制が解除される。この結果、作動油が油圧ポンプ74から下降側流路82と各油圧モータと上昇側流路81を通って循環し、各油圧モータ及び各ピニオンギヤが回転して、オーガ30がリーダ20に対して下降する。
【0039】
ところで、上述したような多段(上段、中段、下段)のピニオンギヤが設けられたオーガ30をリーダ20に対して上昇させる場合、以下の問題点があった。即ち、小型の杭打機を輸送する際には、オーガをリーダに装着したまま走行できるが、大型化された杭打機1を輸送する際には、オーガ30が走行の邪魔になるため、オーガ30をリーダ20から取り外す必要がある。従来、オーガ30をリーダ20から取り外す場合、オーガ30をクレーン(図示省略)のワイヤで吊り上げた状態で、上述したように、油圧ポンプ74から各油圧モータへ作動油を供給して、オーガ30が上昇するように各ピニオンギヤを回転させていた。
【0040】
ここで、オーガ30が上昇するにつれて、
図10に示すように、先ず上段ピニオンギヤ61L,61Rがラックギヤ22から外れると、上段ピニオンギヤ61L,61Rに作用していたラックギヤ22による負荷が無くなる。これにより、
図11に示すように、作動油が油圧ポンプ74から第1上昇側流路81aを通って上段油圧モータ71L,71Rのみに供給され、作動油が油圧ポンプ74から第2上昇側流路81bと第3上昇側流路81cを通らず中段油圧モータ72L,72Rと下段油圧モータ73L,73Rに供給されなくなる。この結果、上段油圧モータ71L,71R及び上段ピニオンギヤ61L,61Rが空回りし、中段油圧モータ72L,72R及び中段ピニオンギヤ62L,62Rと、下段油圧モータ73L,73R及び下段ピニオンギヤ63L,63Rが回転しないため、オーガ30を上昇させることができない事態が生じていた。
【0041】
そこで、従来では、上段ピニオンギヤ61L,61Rがラックギヤ22から外れた後に、中段ピニオンギヤ62L,62Rと下段ピニオンギヤ63L,63Rに作用する負荷が無くなるように、クレーン操縦者が、クレーンのワイヤでオーガ30を吊り上げる力とオーガ30の重力とを釣り合わせる繊細なクレーン操作を行っていた。つまり、上述したクレーン操作により、上段ピニオンギヤ61L,61Rと中段ピニオンギヤ62L,62Rと下段ピニオンギヤ63L,63Rとに作用する負荷を同じにすることで、油圧ポンプ74から中段油圧モータ72L,72Rと下段油圧モータ73L,73Rへ作動油を供給して、オーガ30が上昇するように対応していた。
【0042】
しかしながら、上述した繊細なクレーン操作は、素人のクレーン操縦者が容易に行えるものではなく、実際には、上段ピニオンギヤ61L,61Rがラックギヤ22から外れた後に僅かにオーガ30を引き上げるようにクレーン操作を行っていた。このため、中段ピニオンギヤ62L,62Rと下段ピニオンギヤ63L,63Rには、無理な荷重が作用して、故障するおそれがあった。そして、上段ピニオンギヤ61L,61Rと中段ピニオンギヤ62L,62Rがラックギヤ22から外れたとしても、今度は下段ピニオンギヤ63L,63Rのみに負荷が残り、再びクレーン操作を微調整してオーガ30を引き上げる必要がある。こうして、多段のピニオンギヤが設けられたオーガで、特にピニオンギヤの段数が多いオーガをリーダから容易に取り外すことができないという問題点があった。
【0043】
そこで、本実施形態の杭打機1では、従来の構造を用いつつ簡易な構成の変更で上記した問題点を解決できるようになっている。なお、多段のピニオンギヤが設けられているオーガ30は本出願人が提案しているもの以外で存在しないため、上述した問題点(課題)は、本出願人以外で生じ得ないものである。以下において、
図6を参照しながら本実施形態の特徴を説明する。
【0044】
図6に示すように、上段ブレーキ流路84aと中段ブレーキ流路84bと下段ブレーキ流路84cのうち、下段ブレーキ流路84c以外のブレーキ流路84、即ち上段ブレーキ流路84aと中段ブレーキ流路84bには、それぞれ上段開閉コック85aと中段開閉コック85b(流れ規制手段)が設けられている。これら上段開閉コック85aと中段開閉コック85bは、作業員の操作によって開閉可能であり、閉じることによって作動油の流れを規制できるようになっている。なお、
図6では、上段開閉コック85aと中段開閉コック85bが開いている状態として、破線でされている。
【0045】
こうして、
図6、
図8、
図9に示すように、上段、中段、下段の全てのピニオンギヤがラックギヤ22に噛合している場合には、上段開閉コック85aと中段開閉コック85bを開けて、作動油が上段ブレーキ流路84aと中段ブレーキ流路84bを流れることができる状態にしておく。これにより、オーガ30を上昇させる場合には、
図8に示すように、作動油が上段ブレーキ流路84aと中段ブレーキ流路84bを流れて、各ネガブレーキによる各油圧モータの回転規制を解除できる。同様に、オーガ30を下降させる場合にも、
図9に示すように、作動油が上段ブレーキ流路84aと中段ブレーキ流路84bを流れて、各ネガブレーキによる各油圧モータの回転規制を解除できる。
【0046】
そして、オーガ30を上昇させてオーガ30をリーダ20から取り外す場合には、上段開閉コック85aと中段開閉コック85bを以下のように操作する。先ず、
図12に示すように、上段ピニオンギヤ61L,61Rがラックギヤ22から外れた後に、上段開閉コック85aを閉じて、中段開閉コック85bを開けたままにしておく。これにより、
図12に示すように、作動油が上段ブレーキ流路84aを通れずに上段ネガブレーキ91L,91Rのシリンダへ流れることができなくて、上段ネガブレーキ91L,91Rによる上段油圧モータ71L,71Rの回転規制が解除されない。
【0047】
こうして、上段ピニオンギヤ61L,61Rでラックギヤ22による負荷が無くなっても、作動油が上段油圧モータ71L,71Rにのみ流れ込むことが無くなり、作動油を第2上昇側流路81b及び第3上昇側流路81cを通して中段油圧モータ72L,72R及び下段油圧モータ73L,73Rへ流し込むことができる。この結果、中段油圧モータ72L,72R及び中段ピニオンギヤ62L,62Rと、下段油圧モータ73L,73R及び下段ピニオンギヤ63L,63Rを回転させて、オーガ30をリーダ20に対して上昇させることができる。
【0048】
続いて、
図13に示すように、中段ピニオンギヤ62L,62Rがラックギヤ22から外れた後に、中段開閉コック85bを閉じる。なお、このときには、上段開閉コック85aは閉じられたままである。これにより、作動油が中段ブレーキ流路84bを通れずに中段ネガブレーキ92L,92Rのシリンダへ流れることができなくて、中段ネガブレーキ92L,92Rによる中段油圧モータ72L,72Rの回転規制が解除されない。
【0049】
こうして、中段ピニオンギヤ62L,62Rでラックギヤ22による負荷が無くなっても、作動油が上段油圧モータ71L,71R及び中段油圧モータ72L,72Rにのみ流れ込むことが無くなり、作動油を第3上昇側流路81cを通して下段油圧モータ73L,73Rへ流し込むことができる。この結果、下段油圧モータ73L,73R及び下段ピニオンギヤ63L,63Rを回転させて、オーガ30をリーダ20に対して上昇させることができる。その後、下段ピニオンギヤ63L,63Rがラックギヤ22から外れることで、オーガ30をリーダ20から取り外すことができる。
【0050】
ここで、上述した上段開閉コック85a及び中段開閉コック85bの操作は、オーガ30をリーダ20から取り外す場合だけでなく、オーガ30をリーダ20に取付ける場合に行っても良い。このため、以下に簡単に説明しておく。オーガ30をリーダ20に取付ける場合、先ず、オーガ30をクレーンのワイヤで吊り上げて、電磁切換弁76を「中立状態」にして、上方から下段ピニオンギヤ63L,63Rをラック22に噛合させる。
【0051】
次に、電磁切換弁76を「下降状態」に切り換えて、上段開閉コック85a及び中段開閉コック85bを閉じる。これにより、下段ピニオンギヤ63L,63Rにのみラックギヤ22による負荷が作用しても、上段ネガブレーキ91L,91R及び中段ネガブレーキ92L,92Rが作動するため、作動油を第3下降側流路82cを通って下段油圧モータ73L,73Rへ流し込むことができる。この結果、下段油圧モータ73L,73R及び下段ピニオンギヤ63L,63Rを回転させて、オーガ30をリーダ20に対して下降させることができる。
【0052】
続いて、中段ピニオンギヤ62L,62Rがラックギヤ22に噛合した後に、中段開閉コック85bを開ける。なお、このときには、上段開閉コック85aは閉じたままである。これにより、下段ピニオンギヤ63L,63R及び中段ピニオンギヤ62L,62Rにラックギヤ22による負荷が作用しても、上段ネガブレーキ91L,91Rが作動するため、作動油を第3下降側流路82c及び第2下降側流路82bを通って下段油圧モータ73L,73R及び中段油圧モータ72L,72Rへ流し込むことができる。この結果、下段油圧モータ73L,73R及び下段ピニオンギヤ63L,63Rと、中段油圧モータ72L,72R及び中段ピニオンギヤ62L,62Rを回転させて、オーガ30をリーダ20に対して下降させることができる。
【0053】
こうして、上段ピニオンギヤ61L,61Rがラックギヤ22に噛合することで、オーガ30をリーダ20に取付けることができる。なお、オーガ30をリーダ20に取付ける従来の方法として、下段ピニオンギヤ63L,63Rがラック22に噛合した後、オーガ30の重力を利用してラック22に噛合する各ピニオンギヤを回転させて、オーガ30を降下させる方法がある。これに対して、本実施形態では、各油圧モータの回転駆動力を利用してラック22に噛合する各ピニオンギヤを回転させて、オーガ30を降下させるため、オーガ30の重力を利用する場合に比べて、各ピニオンギヤ及びラック22の歯に無理な荷重が作用しない。従って、各ピニオンギヤ及びラック22の歯を破損し難くすることができる。
【0054】
本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態によれば、オーガ30をリーダ20から取り外す際に、各油圧モータ及び各ピニオンギヤをオーガ30が上昇するように回転させる。そして、上段ピニオンギヤ61L,61Rがラックギヤ22から外れたときに、
図12に示すように、上段開閉コック85aを閉じる。これにより、上段ピニオンギヤ61L,61Rでラックギヤ22による負荷が無くなっても、上述したように、作動油を中段油圧モータ72L,72R及び下段油圧モータ73L,73Rへ流し込むことができ、オーガ30をリーダ20に対して上昇させることができる。
【0055】
続いて、中段ピニオンギヤ62L,62Rがラックギヤ22から外れたときに、
図13に示すように、中段開閉コック85bを閉じる。これにより、中段ピニオンギヤ62L,62Rでラックギヤ22による負荷が無くなっても、上述したように、作動油を下段油圧モータ73L,73Rへ流し込むことができ、オーガ30をリーダ20に対して上昇させることができる。こうして、オーガ30をリーダから20から取り外す際に、クレーン操縦者が、クレーンのワイヤでオーガ30を吊り上げる力とオーガ30の重力とが釣り合うように繊細なクレーン操作を行う必要がなく、各油圧モータの回転駆動力を利用してラックギヤ22に噛合する各ピニオンギヤを回転させることができる。
【0056】
従って、中段ピニオンギヤ62L,62Rと下段ピニオンギヤ63L,63Rには、無理な荷重が作用して、故障することを防止できる。特に、素人のクレーン操縦者がワイヤでオーガ30を吊り上げていても、上述したように、上段開閉コック85aと中段開閉コック85bを閉じるだけで、オーガ30を的確に上昇させることができる。こうして、上下方向に多段(上段、中段、下段)のピニオンギヤが設けられているオーガ30をリーダ20から容易に取り外すことができる。
【0057】
次に、変形実施形態について、
図14及び
図15を参照しながら説明する。上述した実施形態においては、
図6に示すように、上段ブレーキ流路84aと中段ブレーキ流路84bに、直接的に手動操作によって作動油の流れを規制する上段開閉コック85aと中段開閉コック85bが設けられているが、変形実施形態においては、
図14に示すように、制御信号(電気信号)によって作動油の流れを規制する上段電磁開閉弁86aと中段電磁開閉弁86bが設けられている。
【0058】
上段電磁開閉弁86aと中段電磁開閉弁86bは、作動油の流れを許容する「開状態」又は作動油の流れを規制する「閉状態」に切り換えることができるようになっていて、通常時には「開状態」になっている。そして、
図15に示すように、昇降レバー78には、上段切換ボタン78aと中段切換ボタン78bが設けられている。上段切換ボタン78aを押すと制御装置100(
図14参照)が上段電磁開閉弁86aに制御信号を送り、上段電磁開閉弁86aが「閉状態」に切り換わり、中段切換ボタン78bを押すと制御装置100が中段電磁開閉弁86bに制御信号を送り、中段電磁開閉弁86bが「閉状態」に切り換わるようになっている。上段切換ボタン78a及び中段切換ボタン78bが、本発明の「切換部」に相当するが、切換部の構成はボタン以外に、例えばレバーであっても良く適宜変更可能である。
【0059】
また、
図14に示すように、上昇側流路81には、流れる作動油の油圧を検出する油圧センサ94が設けられている。なお、上述したように上昇側流路81は第1上昇側流路81aと第2上昇側流路81bと第3上昇側流路81cとに分岐しているため、どの流路であっても流れる作動油の油圧は同一である。このため、油圧センサ94は、第1上昇側流路81a、第2上昇側流路81b、第3上昇側流路81c、これら各流路に分岐する前の上流側の部分のうち、何れかの部分に一つ設けられていれば良い。こうして、油圧センサ94は、常に上昇側流路81の油圧値を検出していて、検出した油圧値を制御装置100に出力している。
【0060】
制御装置100は、入力する上昇側流路81の油圧値が予め設定された所定値より小さい場合に、昇降レバー78の近辺に設けられた警報ランプ95(
図15参照)に制御信号(電気信号)を出力して、警報ランプ95を点灯させるようになっている。即ち、オーガ30が上昇するにつれて上段ピニオンギヤ61L,61Rがラックギヤ22から外れると、上段ピニオンギヤ61L,61Rでラックギヤ22による負荷が無くなるため、上昇側流路81(第1上昇側流路81a)の油圧値が急に大きく下降する。このとき、制御装置100が警報ランプ95を点灯させるため、昇降レバー78を操作する運転作業員は、ピニオンギヤがラックギヤ22から外れたことを認識することができる。
【0061】
同様に、オーガ30が上昇するにつれて中段ピニオンギヤ62L,62Rがラックギヤ22から外れると、中段ピニオンギヤ62L,62Rでラックギヤ22による負荷が無くなるため、上昇側流路81(第2上昇側流路81b)の油圧値が急に大きく下降する。このとき、制御装置100が警報ランプ95を点灯させるため、昇降レバー78を操作する運転作業員は、ピニオンギヤがラックギヤ22から外れたことを認識することができる。なお、警報ランプ95が、本発明の「警報手段」に相当するが、警報手段の構成は視覚で確認できるものに以外に、例えば警告音で確認できるものであっても良く適宜変更可能である。変形実施形態のその他の構成は、上述した実施形態の構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0062】
変形実施形態の作用効果について説明する。
変形実施形態によれば、杭打機1の運転作業員が、昇降レバー78を操作してオーガ30を上昇させているときに、その昇降レバー78に設けられた上段切換ボタン78a又は中段切換ボタン78bを押して、対応する上段電磁開閉弁86a又は中段電磁開閉弁86bを閉じることができる。従って、杭打機1の運転作業員は移動することなく、ワンタッチ操作で上段電磁開閉弁86a又は中段電磁開閉弁86bを閉じることができ、より簡単な操作でオーガ30の取り外し作業を行うことができる。更に、警報ランプ95が点灯することによって、ピニオンギヤがラックギヤ22から外れたかを的確に知ることができ、作動油の流れを規制するタイミングを的確に知ることができる。変形実施形態のその他の作用効果は、上述した実施形態の作用効果と同様であるため、その説明を省略する。
【0063】
以上、本発明に係る杭打機の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、本実施形態及び変形実施形態の杭打機1では、上下方向に3段(上段、中段、下段)のピニオンギヤ及び油圧モータが設けられているが、上下方向に2段のピニオンギヤ及び油圧モータが設けられていても良く、上下方向に4段以上のピニオンギヤ及び油圧モータが設けられていても良い。