(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の塗布フィルムの基材フィルムは、ポリエステルからなるものである。かかるポリエステルとは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸のようなジカルボン酸またはそのエステルとエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのようなグリコールとを溶融重縮合させて製造されるポリエステルである。
【0015】
これらの酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルは、通常行われている方法を任意に使用して製造することができる。例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとの間でエステル交換反応をさせるか、あるいは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接エステル化させるかして、実質的に芳香族ジカルボン酸のビスグリコールエステル、またはその低重合体を形成させ、次いでこれを減圧下、加熱して重縮合させる方法が採用される。その目的に応じ、脂肪族ジカルボン酸を共重合しても構わない。
【0016】
本発明のポリエステルとしては、代表的には、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられるが、その他に上記の酸成分やグリコール成分を共重合したポリエステルであってもよく、必要に応じて他の成分や添加剤を含有していてもよい。
【0017】
本発明におけるポリエステルフィルムには、フィルムの走行性を確保したり、キズが入ることを防いだりする等の目的で粒子を含有させることができる。
【0018】
粒子の粒径や含有量は、フィルムの用途や目的に応じて選択されるが、含有させる場合の粒子量については、ポリエステルに対し、通常0.0003〜1.0重量%、好ましくは0.0005〜0.5重量%の範囲である。含有粒子量が1.0重量%を超える場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。少ない場合には粒子による効果が十分でない場合がある。
【0019】
粒子がない場合、あるいは少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり、良好なフィルムとなるが、すべり性が不十分となるなど取り扱いが難しくなる場合があるため、ナーリングや塗布層中に粒子を入れる等の工夫が必要になることがある。
【0020】
粒子を含有させる場合の平均粒径に関しては、通常は0.01〜5μmの範囲である。平均粒径が5μmを超えるとフィルムの表面粗度が粗くなりすぎたり、粒子がフィルム表面から脱落しやすくなったりする傾向がある。平均粒径が0.01μm未満では、粒子による効果が十分でない場合がある。
【0021】
含有させる場合の粒子としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子、さらに、ポリエステル製造工程時の析出粒子等を用いることができる。
【0022】
またその他に、適宜、各種安定剤、潤滑剤、導電剤等をフィルム中に加えることもできる。
【0023】
本発明のフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、まず溶融押出によって得られたシートを、ロール延伸法により、70〜145℃で2〜6倍に延伸して、一軸延伸ポリエステルフィルムを得、次いで、テンター内で先の延伸方向とは直角方向に80〜160℃で2〜6倍に延伸し、さらに、150〜250℃で1〜600秒間熱処理(熱固定)を行うことでフィルムが得られる。さらにこの際、熱処理のゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に0.1〜20%弛緩する方法が好ましい。
【0024】
本発明におけるポリエステルフィルムは、単層または多層構造のいずれであっても良い。多層構造の場合は、表層と内層、あるいは両表層を目的に応じ異なるポリエステルとすることができる。
【0025】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚さは特に制限されないが、生産効率の点から500μm以下が好ましい。
【0026】
本発明におけるポリエステルフィルムの透明度は特に制限されないが、透明性が必要とされる場合、本発明の塗布層が透明である特長を生かし、フィルム全体のヘーズとして1.8%以下が好ましく、1.2%以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
本発明におけるポリエステルフィルムの全光線透過率は特に制限されないが、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。
【0028】
本発明における導電フィルムとは、具体的には塗布面の表面抵抗率が低いフィルムのことである。フィルムの表面抵抗率が低いほど導電性が良好であるといえる。本発明における導電フィルムの表面抵抗率は、通常10000Ω未満であり、好ましくは2000Ω未満、さらに好ましくは1000Ω未満である。
【0029】
次に、本発明において用いる化合物(A)、(B)、および(C)について説明する。
【0030】
化合物(A)は、チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物に、他の陰イオン化合物によりドーピングされた重合体、またはチオフェンまたはチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体である。これらの物質は、優れた導電性を示し好適である。化合物(A)としては、たとえば下記式(1)もしくは(2)の化合物を、ポリ陰イオンの存在下で重合して得られるものを例示できる。
【0032】
上記式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素または炭素数が1〜20の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基などを表す。
【0034】
上記式(2)中、nは1〜4の整数を表す。
【0035】
重合時に使用するポリ陰イオンとしては、例えばポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸などが例示される。かかる重合体の製造方法としては、例えば特開平7−90060号公報に示されるような方法が採用できる。
【0036】
本発明において、好ましい様態として、上記式(2)の化合物においてnが2であり、ポリ陰イオンとしてポリスチレンスルホン酸を用いたものが挙げられる。
【0037】
またこれらのポリ陰イオンが酸性である場合、一部または全てが中和されていてもよい。中和に用いる塩基としてはアンモニア、有機アミン類、アルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0038】
本発明において、化合物(A)は、導電率の高い物が好ましい。具体的には、化合物(A)に必要に応じ助剤としてジメチルスルホキシドを乾燥前重量に対して5重量%加えて十分乾燥した時の導電率が200S/cm以上、好ましくは300S/cm以上、さらに好ましくは500S/cm以上である。
【0039】
化合物(B)は、分子量が200以上600以下かつ水酸基等量が40以下であるポリヒドロキシ化合物から選ばれる1種以上の化合物である。分子量がこれよりも小さいとヘーズが高くなり易く好ましくない。分子量がこれよりも大きいと導電性が低くなる事が多く好ましくない。また水酸基等量がこれよりも大きいと導電性が低くなる事が多く好ましくない。
【0040】
化合物(B)としては、二糖類、三糖類に対応する糖アルコール、単糖類または二糖類とポリヒドロキシ化合物の縮合物等が例示される。この中で二糖類に対応する糖アルコールが好ましく、マルチトール、ラクチトール、イソマルツロース還元物が特に好ましい。
【0041】
化合物(C)は、ポリウレタン樹脂(c1)、ポリエステル樹脂(c2)の群から選ばれる1種以上の化合物。
【0042】
本発明におけるポリウレタン樹脂(c1)とはウレタン結合を分子内に有する高分子化合物で、水分散性または水溶性のものが好ましい。本発明では単独でも2種以上を併用しても良い。
【0043】
水分散性または水溶性を付与させるために、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホニル基、リン酸基、エーテル基等の親水性基をウレタン樹脂に導入することが一般的であり好ましい。前記の親水性基の中でも、塗膜物性及び密着性の点からカルボン酸基またはスルホン酸基が特に好ましい。
【0044】
本発明で用いる塗布層の構成成分であるウレタン樹脂を作成する方法の一つに、水酸基とイソシアネートとの反応によるものがある。原料として用いられる水酸基としては、ポリオールが好適に用いられ、例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネート系ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても、複数種用いても良い。
【0045】
ポリエーテルポリオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0046】
ポリエステルポリオール類としては、多価カルボン酸(マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)またはそれらの酸無水物と多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジメタノールベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等)の反応から得られるものが挙げられる。
【0047】
ポリカーボネート系ポリオール類としては、多価アルコール類とジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等とから、脱アルコール反応によって得られるポリカーボネートジオール、例えば、ポリ(1,6−ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
【0048】
これらの中でもポリエステルポリオールが好ましく、芳香環を有するポリエステルポリオールがさらに好ましい。
【0049】
ウレタン樹脂を得るために使用されるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。これらの中でも芳香環を有するジイソシアネートが好ましい。
【0050】
ウレタン樹脂を合成する際に鎖延長剤を使用しても良く、鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、一般的には、水酸基またはアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
【0051】
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール、キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類を挙げることができる。
【0052】
アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2−ブチル−2−エチル−1,5−ペンタンジアミン、1 ,8−オクタンジアミン、1 ,9−ノナンジアミン、1 ,10−デカンジアミン等の脂肪族ジアミン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1 ,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。
【0053】
また、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等を用いて、ウレタン骨格にカルボキシル基を導入し、後に塩基性化合物で中和してウレタンを親水化する手法も好ましく用いられる。
【0054】
本発明におけるポリエステル樹脂(c2)とは、主な構成成分として例えば、下記のような多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物からなるものが挙げられる。すなわち、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸および、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩およびそれらのエステル形成性誘導体などを用いることができ、多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオ−ル、2−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、p−キシリレングリコ−ル、ビスフェノールA−エチレングリコ−ル付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、ポリテトラメチレングリコ−ル、ポリテトラメチレンオキシドグリコ−ル、ジメチロ−ルプロピオン酸、グリセリン、トリメチロ−ルプロパン、ジメチロ−ルエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロ−ルプロピオン酸カリウムなどを用いることができる。これらの化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステル樹脂を合成すればよい。
【0055】
これらの中で多価カルボン酸の一部としてスルホイソフタル酸を共重合して、ポリエステル骨格にスルホン酸基を導入し、中和してアイオノマーとして親水化した物が好ましく用いられる。多価カルボン酸全体に対し1〜10モル%程度共重合するのが好ましい。
【0056】
本発明によって設けられた導電性塗布層中の化合物(A)の重量は、乾燥後で通常3〜300mg/m
2、好ましくは5〜200mg/m
2、さらに好ましくは10〜100mg/m
2である。化合物(A)の量がこれより少ないと、導電性が不十分となることが多い。またこれより多いとコストが増大し、着色が強くなる傾向がある。また延伸する場合に透明性の低下等の問題を起こすことがある。
【0057】
塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として化合物(A)の比率は、重量比率で通常2〜40%、好ましくは3〜30%、より好ましくは5〜20%、さらに好ましくは10〜15%である。化合物(A)の比率がこれより高いと、塗膜の強度、透明性または導電性能が不十分となることがある。化合物(A)の比率がこれより低いと、導電性能が不十分となったり、所望の導電性能を付与するための塗膜が極めて厚くなったりする。塗膜が極めて厚くなった場合、外観・透明性の悪化や、フィルムのブロッキング、ライン速度低下によるコストアップを招きやすい傾向がある。
【0058】
塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、化合物(B)の比率は通常10〜95%、好ましくは30〜92%、より好ましくは40〜88%、さらに好ましくは50〜83%である。この範囲を外れると、導電性能や塗膜の耐水性や透明性が悪化することがある。
【0059】
塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、化合物(C)の比率は重量比率で通常3〜40%、好ましくは5〜35%、より好ましくは7〜30%、さらに好ましくは10〜25%である。この範囲を外れると、導電性能や塗膜の耐水性、耐溶剤性や透明性が悪化することがある。
【0060】
本発明で使用する塗布液中には、フィルムへの塗布性を改良するため、界面活性剤を含むことができる。この界面活性剤としては、特にその構造中に(ポリ)アルキレンオキサイドや(ポリ)グリセリン、これらの誘導体を含むノニオン系ものを使用すると、得られる塗布層の導電性を阻害せず好ましい。さらに疎水性部分にフルオロアルキル基を有する物がより好ましい。
【0061】
本発明で使用する塗布液中には、必要に応じて、架橋反応性化合物を含んでいてもよい。架橋反応性化合物は主に、他の樹脂や化合物に含まれる官能基との架橋反応や、自己架橋によって、塗布層の凝集性、表面硬度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐水性を改良することができる。使用することのできる架橋反応性化合物としては、メラミン系、ベンゾグアナミン系、尿素系などのアミノ樹脂や、イソシアネート系、オキサゾリン系、エポキシ系、グリオキサール系などが好適に用いられる。他のポリマー骨格に反応性基を持たせた、ポリマー型架橋反応性化合物も含まれる。
【0062】
さらに必要に応じて、(C)以外のバインダー樹脂の1種もしくは2種以上を併用することができる。かかるバインダー樹脂としては、例えば、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アミド樹脂等が挙げられる。これらは、それぞれの骨格構造が共重合等により実質的に複合構造を有していてもよい。複合構造を持つバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂グラフトポリエステル、アクリル樹脂グラフトポリウレタン、ビニル樹脂グラフトポリエステル、ビニル樹脂グラフトポリウレタン等が挙げられる。これらの樹脂を含有することで、得られる塗布層の強度や基材フィルムへの密着が向上することがある。
【0063】
本発明で使用する塗布液は、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、離型剤、有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいが、必要に応じて二種以上を併用してもよい。また、これら添加剤としては、その構造中に、(ポリ)アルキレンオキサイドや(ポリ)グリセリン、これらの誘導体を含むものを使用すると、得られる塗布層の導電性を阻害せず、より好ましい。
【0064】
本発明における塗布液は、取扱い上、作業環境上、また塗布液組成物の安定性の面から、水溶液または水分散液であることが望ましいが、水を主たる媒体としており、本発明の要旨を越えない範囲であれば、有機溶剤を含有していてもよい。塗布液の有機溶剤含有量は10%以下が好ましく、さらに好ましくは5%以下である。
【0065】
次に、本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理するインラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。より好ましくはインラインコーティングにより形成されるものである。
【0066】
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻上前のフィルムの何れかにコーティングする。
【0067】
以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と塗布層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもできる。また、延伸前にフィルム上に塗布層を設けることにより、塗布層を基材フィルムと共に延伸することができ、それにより塗布層を基材フィルムに強固に密着させることができる。
【0068】
さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦および横方向に拘束することができ、熱固定工程において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、塗布層の造膜性が向上し、塗布層と基材フィルムをより強固に密着させることができ、さらには、塗布層自身も強固なものとすることができ、耐湿熱性等の性能を向上させることができる。
【0069】
本発明において塗布後の塗膜の乾燥は、前記インラインコーティングを用いない場合でも150℃以上の温度にすることが望ましい。150℃未満では乾燥に時間がかかり生産性を悪くしたり、塗膜自身または密着の強度が低下したりする恐れがある。
【0070】
本発明の塗布層を形成する方法としては、例えば、グラビアコート、リバースロールコート、ダイコート、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、カーテンコート、ナイフコート、トランスファロールコート、スクイズコート、含浸コート、キスコート、スプレーコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗布方式を用いることができる。
【0071】
なお、塗布剤のフィルムへの塗布性、接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
【0072】
導電性塗布層の塗布量は、最終的な被膜としてみた際に、通常0.01〜3g/m
2、好ましくは0.03〜1g/m
2、さらに好ましくは0.05〜0.5g/m
2である。塗布量が0.01g/m
2未満の場合は導電性能や塗膜の耐水性、耐溶剤性において十分な性能が得られない恐れがあり、3g/m
2を超える塗布層は、外観・透明性の悪化や、フィルムのブロッキング、ライン速度低下によるコストアップを招きやすい。なお、塗布量は、塗布した時間あたりの液重量(乾燥前)、塗布液不揮発分濃度、塗布幅、延伸倍率、ライン速度等から計算で求めた。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法やサンプルの処理方法は下記のとおりである。
【0074】
(1)塗布層の透明性(塗布層によるヘーズ上昇、塗布層による全光線透過率の変化)
JIS−K7136に準じて、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−2000によりフィルムのヘーズ、全光線透過率を測定した。塗布層を設けていないフィルムと塗布層を設けたフィルムのヘーズの差により塗布層を設けることによるヘーズの上昇を求め、塗布層の透明性とした。かかるヘーズの上昇が小さいほど、塗布層の透明性が優れるといえる。本方法においてヘーズの差が0.5%以下であれば透明性に優れ、0.3%以下であれば特に優れているといえる。一方、0.5%を超える場合は塗布層の透明性がやや劣り(△)、1.0%を超える場合は特に劣る(×)といえ、透明用途への適用が難しくなる。
【0075】
同様にして塗布層を設けていないフィルムと塗布層を設けたフィルムの全光線透過率の差を計算し、塗布層を設けることによる全光線透過率の変化を求めた。全光線透過率の低下が大きい場合は、塗布層の透明性が劣るといえる。全光線透過率の低下は導電剤の吸収による影響が大きく、導電性の高いフィルムでは大きくなるが、本方法において全光線透過率の低下が、表面抵抗率1000Ω未満のフィルムでは、5%以下であれば透明性に優れ、2%以下であれば特に優れているといえる。また表面抵抗率1000Ω以上のフィルムでは、1%以下であれば透明性に優れ、0%以下であれば特に優れているといえる。
【0076】
(2)表面抵抗率
下記(2−1)の方法に基づき、フィルム塗布層の表面抵抗率を測定した。(2−1)の方法では、1×10
8Ωより高い表面抵抗率は測定できないため、(2−1)で測定できなかったサンプルについては(2−2)の方法を用いた。
(2−1)三菱化学アナリテック社製低抵抗率計:ロレスタGP MCP−T600に四探針型ESPプローブ(探針間隔:5mm、探針先形状:直径2mmの円筒、探針押し圧:240g/本、RCF値は4.235一定とした)を使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、中央付近の表面抵抗率を測定した。
(2−2)日本ヒューレット・パッカード社製高抵抗測定器:HP4339Bおよび測定電極:HP16008Bを使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、表面抵抗率を測定した。
【0077】
(3)K値
(2)によって測定された表面抵抗率[Ω]の逆数を表面導電率[S]とするとき、表面導電率[S]を[g/cm
2]単位で表された塗布層中の化合物(A)の塗布量(乾燥後)除した数をKとする。Kは化合物(A)の単位量あたりどれ程の導電性を発現したかを表すパラメーターとなる。Kの値が大きければ大きい程、少量の化合物(A)で高い導電性を得た事になり、低コストで着色の少ないフィルムを生産でき好ましい。具体的には100以上が好ましく、200以上がより好ましく400以上が最も好ましい。
【0078】
(4)耐水性
フィルムを40℃の温水に24時間浸漬した後、表面抵抗率を測定し、浸漬前後で比較した。
○:処理後の表面抵抗率の増大が2倍以下。
△:処理後の表面抵抗率の増大が2倍超10倍以下。
×:処理後の表面抵抗率の増大が10倍超。
【0079】
(5)耐溶剤性
太平理化工業社ラビングテスター専用治具(5cm×7cm,押し圧690g/35cm
2)にシート状コットン(旭化成社製ベンコット)を巻き付け、そこに溶剤を2ml染みこませて、導電性塗布層の表面を5往復(15cm長の範囲)拭いてサンプルを調整した。風乾後、擦った箇所の表面抵抗率を測定し、処理前後で比較した。
○:処理後の表面抵抗率の増大が2倍以下。
△:処理後の表面抵抗率の増大が2倍超10倍以下。
×:処理後の表面抵抗率の増大が10倍超。
溶剤としては、エタノールおよび酢酸エチルで評価した。
【0080】
実施例、比較例中で使用したポリエステル基材の原料は次のとおりである。
(ポリエステル1):実質的に粒子を含有しない、極限粘度0.64のポリエチレンテレフタレート
【0081】
(ポリエステル2):平均粒径2.4μmの非晶質シリカを0.2重量%含有する、極限粘度0.65のポリエチレンテレフタレート
【0082】
また、塗布組成物としては以下を用いた。
(A1):ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸からなる導電剤(PEDOT/PSS)水分散物、ヘレウス社製 Clevios PH1000(導電率924S/cm、不揮発分濃度1.2%(メーカー測定値))を濃アンモニア水で中和してpH=9としたもの
【0083】
(B1):マルチトール(分子量344、水酸基等量38)
(B2):ラクチトール(分子量344、水酸基等量38)
(B3):イソマルツロース還元物(立体異性体混合物、商品名:パラチニット、分子量344、水酸基等量38)
(H1):ソルビトール(分子量182、水酸基等量30)
(H2):ポリグリセリン、数平均分子量310(水酸基等量52)
(H3):ショ糖(分子量342、水酸基等量43)
(H4):ジグリセリン(分子量166、水酸基等量42)
(H5):ポリエチレンオキサイド、数平均分子量400(水酸基等量200)
(H6):ペンタエリトリトール(分子量136、水酸基等量34)
【0084】
(C11):テレフタル酸282重量部、イソフタル酸282重量部、エチレングリコール62重量部、およびネオペンチルグリコール250重量部を成分とするポリエステルポリオールを(C11a)としたとき、(C11a)876重量部、トリレンジイソシアネート244重量部、エチレングリコール81重量部、およびジメチロールプロピオン酸67重量部を構成成分としたポリエステルポリウレタンをアンモニアで中和して水分散させた物(不揮発分濃度20%、25℃での粘度50mPa・s)
【0085】
(C21):テレフタル酸/イソフタル酸/スルホイソフタル酸/エチレングリコール/ネオペンチレングリコールがモル比で49/49/2/50/50である、スルホン酸基導入水分散ポリエステル樹脂
【0086】
(C22):テレフタル酸/イソフタル酸/スルホイソフタル酸/エチレングリコール/ジエチレングリコール/トリエチレングリコールがモル比で61/32/7/44/43/13である、スルホン酸基導入水分散ポリエステル樹脂
【0087】
(D1):下記式に示す、側鎖にポリエチレンオキサイドを有する構造のノニオン性界面活性剤
【0088】
【化3】
【0089】
上記式中のm、nはエチレンオキサイドの付加モル数を示す整数であり、ここではm+nの平均が10となるものを用いた。
【0090】
(D2):疎水性基に分岐パーフルオロアルケニル基、親水性基にポリエチレンオキサイド鎖(平均鎖長12単位)を有する構造のフッ素系ノニオン性界面活性剤。
【0091】
参考例1:
ポリエステル1、ポリエステル2をそれぞれ92%、8%の割合で混合した混合原料を外層の原料とし、ポリエステル1のみを中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(外層/中間層/外層=1:10:1の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸フィルムを得た。このフィルムを85℃の加熱ロール群を通過させながら長手方向に3.7倍延伸し、一軸配向フィルムとした。この一軸配向フィルムをテンター延伸機に導き、100℃で幅方向に4.3倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施し、フィルム厚みが50μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このフィルムヘーズ値は0.7%、全光線透過率は88%であった。
【0092】
参考例2:
参考例1と同様にして一軸配向フィルムを得た。この一軸配向フィルムをテンター延伸機に導き、100℃で幅方向に3.5倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施し、フィルム厚みが62μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このフィルムヘーズ値は0.8%、全光線透過率は88%であった。
【0093】
参考例3:
参考例1と同様にして一軸配向フィルムを得た。この一軸配向フィルムをテンター延伸機に導き、100℃で幅方向に2.7倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施し、フィルム厚みが79μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このフィルムヘーズ値は0.8%、全光線透過率は88%であった。
【0094】
実施例1:
上記参考例1と同様の工程の中で、長手方向への延伸後の一軸配向フィルムの片面に下記表1に示すとおりの塗布組成物を塗布した。次いでこのフィルムをテンター延伸機に導き、その熱を利用して塗布組成物の乾燥を行い、以降は比較例1と同様にし、フィルム厚みが50μmの基材フィルムの上に0.27g/m
2の量の導電性塗布層を積層した塗布フィルムを得た。このフィルムの特性を、表2に示す。なお、塗布層透明性、全光線透過率変化を評価する際、塗布層を設けていないフィルムの値としては、参考例1のフィルムヘーズ0.7%、全光線透過率88%を用いた。
【0095】
実施例2、4、5、9、10:
実施例1と同様の工程において、塗布液を表1に示すように変更し、表1に示した量の導電性塗布層を積層した塗布フィルムを得た。このフィルムの特性を、表2に示す。
【0096】
実施例3:
上記参考例2と同様の工程の中で、長手方向への延伸後の一軸配向フィルムの片面に下記表1に示すとおりの塗布組成物を塗布した。次いでこのフィルムをテンター延伸機に導き、その熱を利用して塗布組成物の乾燥を行い、以降は参考例2と同様にし、フィルム厚みが62μmの基材フィルムの上に0.37g/m
2の量の導電性塗布層を積層した塗布フィルムを得た。このフィルムの特性を、表2に示す。なお、塗布層透明性、全光線透過率変化を評価する際、塗布層を設けていないフィルムの値としては、参考例2のフィルムヘーズ0.8%、全光線透過率88%を用いた。
【0097】
実施例6、8:
実施例3と同様の工程において、塗布液を表1に示すように変更し、表1に示した量の導電性塗布層を積層した塗布フィルムを得た。このフィルムの特性を、表2に示す。
【0098】
実施例7:
上記参考例3と同様の工程の中で、長手方向への延伸後の一軸配向フィルムの片面に下記表1に示すとおりの塗布組成物を塗布した。次いでこのフィルムをテンター延伸機に導き、その熱を利用して塗布組成物の乾燥を行い、以降は参考例2と同様にし、フィルム厚みが79μmの基材フィルムの上に0.63g/m
2の量の導電性塗布層を積層した塗布フィルムを得た。このフィルムの特性を、表2に示す。なお、塗布層透明性、全光線透過率変化を評価する際、塗布層を設けていないフィルムの値としては、参考例3のフィルムヘーズ0.8%、全光線透過率88%を用いた。
【0099】
比較例1〜6:
実施例1と同様の工程において、塗布液を表1に示すように変更し、フィルム厚みが50μmの基材フィルムの上に表1に示した量の導電性塗布層を積層した塗布フィルムを得た。このフィルムの特性を、表2に示す。
【0100】
比較例1、2によって得られたフィルムは比較的高い導電性が得られたが、透明性が劣った。比較例3〜6は、低い導電性しか得られなかった。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
耐水性、耐溶剤性の評価結果を表3に示す。本発明により得られたフィルムは耐水性、耐溶剤性に優れていた。
【0104】
【表3】
【0105】
参考例4:
不揮発分重量比でA1(ただし未中和)/D1=95/5の混合物にA1原液重量(有り姿)に対して5%相当のジメチルスルホキシド添加し塗布液とした。この塗布液を厚さ50μmの透明二軸延伸PETフィルム(三菱樹脂製ダイアホイルO100−50)にA1とD1の不揮発分の合計が52mg/m
2になるように塗布し、140℃で30秒間乾燥した。得られた塗膜は透明で外観も良かったが、基材との密着が不良で簡単に塗膜が脱落した。得られたフィルムの表面抵抗率は350Ωで、これより計算したK値は580であった。
【0106】
本発明によって得られたフィルムは、導電性塗布膜が延伸を受けていても透明性に優れ、なおかつ導電剤本来の性能(参考例4におけるK値)に近い導電性、すなわち少ない導電剤(化合物(A))量で優れた導電性能を示し、経済性にも優れる。