(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039186
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】壁高欄の型枠
(51)【国際特許分類】
E01D 19/10 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
E01D19/10
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-16492(P2012-16492)
(22)【出願日】2012年1月30日
(65)【公開番号】特開2013-155519(P2013-155519A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2015年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】512024657
【氏名又は名称】株式会社亀田組
(74)【代理人】
【識別番号】100095647
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】亀田 勝
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
実開平04−134518(JP,U)
【文献】
実開昭58−128256(JP,U)
【文献】
特開2011−026918(JP,A)
【文献】
特開平07−197647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/10
E04G 9/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のせき板部と、該せき板部の両側縁から裏面に向かって突設した左右の側板部と、前記せき板部の裏面に設けたリブとを備え、前記せき板部の上下縁それぞれに該せき板部に沿って幕板を取り付け可能な幕板取付部を有し、前記側板部は上下端部それぞれがせき板部の上下に突出すると共に、該突出端部の前記側板部間に水平板部を設けて、前記せき板部の上下それぞれに開放面部を構成し、この開放面部を前記幕板取付部として幕板を取り付け可能とした壁高欄の型枠。
【請求項2】
せき板部は、垂直な立ち上がり面から表面側に傾斜する傾斜面が連続する請求項1記載の壁高欄の型枠。
【請求項3】
せき板部はステンレス製である請求項1または2記載の壁高欄の型枠。
【請求項4】
リブは、側板部と同形状の縦リブと、水平板部と同形状の横リブからなる請求項1、2または3記載の壁高欄の型枠。
【請求項5】
リブは金属製部材をせき板部の裏面に溶接してなる請求項1〜4のうち何れか一項記載の壁高欄の型枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、橋梁の床版に壁高欄を構築する際に用いる型枠の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路橋や高架橋などの橋梁には車両等が橋梁外に飛び出すのを防止するために防護柵が設置される。特に高速自動車道や自動車専用道路などでは、国の設置基準に従い、コンクリート製の壁型防護柵、つまり壁高欄が設置される。壁高欄は先に完成させた床版に型枠を建て込み、コンクリートを場所打ちして、養生後に型枠を撤去するという工程を経て構築される。
【0003】
そのような壁高欄の型枠として、従来、せき板に合板(通称、コンパネ)を使用し、裏面に桟木を釘打ちするなどして剛性を持たせたものが慣用されている。
【0004】
このほか、せき板としてセメントプレキャスト板を用い、このせき板をそのまま壁高欄の一部として残存させる埋設型枠なども提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−36234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術のうち、合板の型枠は、木の乾燥収縮により貼り合わせ部に隙間が生じ、ノロ(モルタルペースト)漏れが生じやすい。また、コンクリート打設時にかかる水平圧力に耐え得るように、数多くの桟木やセパレータを設置する必要があり、施工と解体に手間がかかる。
【0007】
さらに、合板型枠は強度の問題等から数回しか使用できず、産業廃棄物(型枠)の廃棄処理や、原料である木材の過剰消費によって、地球環境に及ぼす影響も懸念されている。
【0008】
なお、特許文献1のものは埋設型枠であるため、本発明と直接関係するものではない。
【0009】
本発明は上述した合板型枠が有する課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、施工性、仕上がり、耐久性の面で合板型枠よりも優れた型枠を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために本発明では、金属製のせき板部と、該せき板部の両側縁から裏面に向かって突設した左右の側板部と、前記せき板部の裏面に設けたリブとを備え、前記側板部は前記せき板部の上下縁それぞれから突出して、当該突出する上下それぞれの側板部間に前記せき板部に沿って幕板を取り付け可能とした。
【0011】
このように本発明では、型枠の主たる形成面が合板よりも強度が高い金属板によって構成され、また、リブによって剛性を確保している。その建て込み方法は、合板型枠による施工法を踏襲するが、天端レベル出しを行った後、型枠の下部に生じた隙間は幕板によって閉塞することができる。幕板は、合板やプラ板など、切断等によって上下幅を調整できるものが便宜である。同様に、型枠の上部にも幕板の取付部を有するが、壁高欄の設置条件によっては、高さの低い壁高欄とすることができるため、このような場合は、型枠の上部幕板は省略することができる。そして、側板部の上下端それぞれに桟木が固定可能な水平板部を設け、この水平板部に固定した桟木に対して幕板を取り付けるようにすれば、幕板を確実に型枠に固定することができる。
【0012】
金属板の具体的な素材はステンレスであることが好ましい。耐食性に優れ、防錆処理の必要がないからである。一方、リブは剛性の面から金属製であることが好ましく、溶接によってせき板部に固着することができる。なお、リブは、縦リブと横リブとから構成することがせき板部の剛性を高めることができるが、特に、側板部と同形状の縦リブと、水平板部と同形状の横リブから構成することで、せき板部全面の強度を均一とすることができる。
【0013】
ところで、壁高欄は地覆といわれる基礎に壁本体を設けたものであり、地覆と壁本体の間には段差がある。このような壁高欄を合板型枠によって構築する場合、最初に地覆を完成させ、その上に壁本体を構築するか、一度に両者を構築するには、複数の合板を前記段差に応じた角度でつなぎ合わせなければならない。そこで、本発明では、せき板部は、垂直な立ち上がり部から表面側に傾斜する傾斜部が連続するという手段を用いる。このような角度付きのせき板部を得るには、例えば、一枚の金属板を曲げ加工するほか、二枚以上の金属板を角度を付けて溶接し、こうしたせき板部によって、一度のコンクリート打設で地覆と壁本体とを同時に構築することができる。
【0014】
なお、壁高欄の具体的形状としては、直壁型、単スロープ型、フロリダ型が知られているが、これら何れの形状であっても、上述した手段により対応することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の型枠は、せき板が金属板であるため、合板のように乾燥収縮がなく、ノロ流出の原因となる隙間や変形が減少し、仕上がりが良好となる。また、合板型枠よりも剛性が高いため、セパレータの設置数を少なくすることができ、その手間と材料費が節減できる。さらに、天端レベル出しなどの微調整は幕板により行うことができるうえ、幕板を除く型枠本体自体はほぼ半永久的に使用できるため、産業廃棄物の削減にも寄与する。
【0016】
また金属板としてステンレス板を用いることで、防錆のための塗装処理の手間も省略でき、塗膜が壁高欄表面に色移りすることもない。また、普通鋼よりも強度が高いため、せき板部を薄く成型でき、軽量化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る型枠の本体斜視図(表面側)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。
図1・2は型枠の本体10となる本発明全体を示した斜視図であり、金属板を壁高欄の壁面形状に成型したせき板部1の裏面に縦リブ2と横リブ3を複数設けたものである。せき板部1の金属板は、型枠の軽量化と耐食性を考慮して、ステンレス板を予定しているが、それ以外の金属板であってもよい。ただし、ステンレス板以外の金属板を採用する場合は、防錆処理等の必要な耐食処理を施す。リブ2・3も金属からなり、せき板部1に対して溶接により一体化している。
【0019】
具体的な構造としては、せき板部1の上下にはリブ2・3が露出する開放面部4・5が形成されており、ここに後述する幕板を取り付ける。また、この実施形態では、壁高欄として、壁本体の車道側壁面が末広がりの斜面であり、また壁本体と地覆の間(地覆の上面)も斜面であるフロリダ型を構築するための型枠を例示しており、そのため、せき板部1の形状も、壁本体に対応した第一傾斜面部1a、地覆の上面に対応した第二傾斜面部1b、地覆の側面に対応した立ち上がり垂直面部1cの三面構成としている。
【0020】
一方、せき板部1の裏面に突設した縦リブ2のうち、せき板部1の左右両側に設けた縦リブ2a・2bは、型枠同士を左右に連結する際に密に突き合わせる側板部として機能し、上下複数箇所にボルト孔2cを設けている。この両側の縦リブ2a・2bを含め、他の縦リブ2の上下2カ所には、後述する支保工(ターンバックル)の端部を取り付けるためのボルト孔2dも設けている。
【0021】
さらに、横リブ3のうち、縦リブ2のせき板部1からの突出端部に設けられ、縦リブ2上側の開放面部4を構成する最上段および二段目の横リブ3a・3bと、下側の開放面部5を構成する最下段の横リブ3cにはボルト孔3dを設け、これらリブ上に、後述する幕板を釘打ち等するための桟木をボルト止め可能としている。
【0022】
次に、上記構成の本体10を用いた壁高欄の施工方法を説明する。
図3は、本発明の型枠を建て込んだ状態を示したもので、先に完成している床版20の側端に、上下一対のターンバックル30・31を支保工として型枠を設置している。ターンバックル30・31は、床版20に固定した固定金具40に一端を止め、他端は型枠本体10の縦リブ2に設けたボルト孔2dに固定している。下側のターンバックル30で型枠本体10の大まかな位置を固定し、上側のターンバックル31で型枠本体10の角度を固定している。ターンバックル30・31は中間の雌ねじ棒を回転させることで長さ調整ができるため、チェーンやパイプサポートよりも型枠の固定が容易且つ確実に行える。
【0023】
その際、型枠本体10は、
図3下方の一点鎖線で囲った部分を拡大した
図4に示すように、適宜スペーサ50上に載置して、水平出しや天端部のレベル出しを行っている。そして、型枠本体10の下側開放面部5に合板などの木製の幕板60を面一の状態で取り付けている。木製幕板60を取り付けるには、型枠本体10の最下段の横リブ3c上に桟木70をボルト止めしておき、この桟木70に対して釘打ち等する。このように本発明の型枠は、下部構造が木製幕板60によって構成されるため、型枠本体10の建て込み時に、設置しようとする道路のカーブの曲率やバンク角に応じて天端レベルを微調整する必要がある場合などは、切断等によって上下幅の調整が容易であり、しかも、せき板部1と床版20との間を密封してノロ漏れを防止することができる。
【0024】
また、型枠本体10の上側開放面部4にも木製の幕板61を本体10と面一の状態で取り付けるが、この場合も同様に、型枠本体10の最上段および二段目の横リブ3a・3bそれぞれに桟木71・72をボルト固定しておき、これら桟木71・72に対して上側幕板61を釘打ち等により取り付けることができる。このようにして取り付けられた上側幕板61には、コンクリート打設の天端部に位置して面木80を取り付けることができる。
【0025】
なお、この型枠本体10と対となる外側型枠90は、従来と同じ合板型枠を従来工法により設置できる他、両型枠をセパレータ91で接続することも従来工法と同じである。ただし、外側型枠90についても本発明の型枠を採用することができることはもちろんである。
【0026】
このように、壁高欄の内側型枠について本発明の型枠を使用することで、特に見栄えが重要視される車道側壁面の仕上がりを良好にすることができる。また、せき板部1としてステンレス板を用いることで、防錆処理が不要となり、塗膜が壁高欄に剥がれ移る恐れもないことから、見栄えの良い壁高欄を構築することができる。また、ステンレス板をせき板部1に用いることで、防錆のための塗装やメッキをしなくても済み、しかも、普通鋼よりも高強度のため薄く成型できることから、いわゆる三六寸法(900×1800)のもので50kg程度に軽量化され、重機によらずとも人手で運搬・設置することも可能となる。さらに、保管時や輸送時には、
図5に示すように、上下にほぼ水平に積み重ねることができ、場所をとらない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
上述した実施形態では、橋梁の両側に設ける壁高欄について説明したが、同じ形状の本発明型枠を用いて橋梁の中央に分離帯を構築することもできる。
【符号の説明】
【0028】
10 型枠本体
1 せき板部
2 縦リブ
3 横リブ
4 上側の開放面部
5 下側の開放面部
60 下側の木製幕板
61 上側の木製幕板