特許第6039209号(P6039209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6039209粉末及び球状粒子結合体とそれらの製造方法、粉末及び球状粒子結合体の混合粉末、その混合粉末を含む磁性ペースト、並びにその磁性ペーストを用いたインダクタ及び磁心材料
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  • 特許6039209-粉末及び球状粒子結合体とそれらの製造方法、粉末及び球状粒子結合体の混合粉末、その混合粉末を含む磁性ペースト、並びにその磁性ペーストを用いたインダクタ及び磁心材料 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039209
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】粉末及び球状粒子結合体とそれらの製造方法、粉末及び球状粒子結合体の混合粉末、その混合粉末を含む磁性ペースト、並びにその磁性ペーストを用いたインダクタ及び磁心材料
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20161128BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20161128BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20161128BHJP
   C22C 45/04 20060101ALI20161128BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20161128BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20161128BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20161128BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B22F9/24 A
   B22F1/00 J
   B22F9/24 C
   B22F1/00 W
   C22C45/02 A
   C22C45/04 B
   H01F1/14 C
   H01F1/30
   H01F1/26
   H01F17/04 F
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-72072(P2012-72072)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-204067(P2013-204067A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 公益社団法人日本磁気学会 第35回日本磁気学会学術講演会概要集2011 平成23年9月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】NECトーキン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】島田 寛
(72)【発明者】
【氏名】山口 正洋
(72)【発明者】
【氏名】近藤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 栄吉
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−058058(JP,A)
【文献】 特開平05−308011(JP,A)
【文献】 特開昭56−076509(JP,A)
【文献】 特開2004−346423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00〜9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe元素を含有する第1金属塩と、Co元素を含有する第2金属塩と、錯化剤とを含む原料液に対して、pH調整剤を加えて、所定のpHを有するように調整された中間液を生成するpH調整工程と、
前記中間液を撹拌しながら当該中間液に対してジメチルアミンボランとNaBHを含むB系還元剤を滴下することにより、アモルファス合金からなり軟磁性を有する粉末を得る還元工程と
を備える粉末の製造方法であって、
前記pH調整工程における前記所定のpHは、8.5〜11.0である
製造方法。
【請求項2】
Fe元素を含有する第1金属塩と、Co元素を含有する第2金属塩と、錯化剤とを含む原料液に対して、pH調整剤を加えて、所定のpHを有するように調整された中間液を生成するpH調整工程と、
前記中間液を撹拌しながら、永久磁石又は電磁石を用いて7.9kA/m以上395kA/m以下の磁場を印加しつつ、当該中間液に対してジメチルアミンボランとNaBHを含むB系還元剤を滴下することにより、アモルファス合金からなり軟磁性を有する球状粒子が棒状に結合されてなる球状粒子結合体を得る還元工程と
を備える球状粒子結合体の製造方法であって、
前記pH調整工程における前記所定のpHは、8.5〜11.0である
製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の製造方法であって、
前記原料液は、P系還元剤を更に含むものである
製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の製造方法であって、
前記P系還元剤は、次亜リン酸ナトリウムからなる
製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の製造方法であって、
前記所定のpHは、9.2〜9.8である
製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の製造方法であって、
前記原料液は、析出核形成剤を含まない
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス合金からなり軟磁性を有する粉末及び球状粒子結合体とそれらの製造方法に関する。また、本発明は、それら粉末及び球状粒子結合体の混合粉末、その混合粉末を含む磁性ペースト、並びにその磁性ペーストを用いたインダクタ及び磁心材料に関する。
【背景技術】
【0002】
アモルファス合金からなり軟磁性を有する粒径の小さい粉末は、渦電流の発生を低減できることから、高周波領域で使用される様々な磁気デバイスに利用される。かかる粉末に加えて、より良い磁気特性を得るため、特許文献1のように、粒径の小さい粉末を棒状に結合してなる球状粒子結合体について提案しているものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−184765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、更に優れた軟磁性を有する粒径の小さい粉末及びそれを棒状に結合してなる球状粒子結合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、研究の結果、還元剤としてジメチルアミンボランとNaBH4の両方を用いることにより、軟磁性を有するCo−Fe−B(−P)アモルファス合金からなる微粒子及び球状粒子結合体を得ることができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものであり、具体的には以下に掲げる手段を提供する。
【0006】
即ち、本発明は、第1の製造方法として、
Fe元素を含有する第1金属塩と、Co元素を含有する第2金属塩と、錯化剤とを含む原料液に対して、pH調整剤を加えて、所定のpHを有するように調整された中間液を生成するpH調整工程と、
前記中間液を撹拌しながら当該中間液に対してジメチルアミンボランとNaBHを含むB系還元剤を滴下することにより、アモルファス合金からなり軟磁性を有する粉末を得る還元工程と
を備える粉末の製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、第2の製造方法として、
Fe元素を含有する第1金属塩と、Co元素を含有する第2金属塩と、錯化剤とを含む原料液に対して、pH調整剤を加えて、所定のpHを有するように調整された中間液を生成するpH調整工程と、
前記中間液を撹拌しながら、永久磁石又は電磁石を用いて7.9kA/m以上395kA/m以下の磁場を印加しつつ、当該中間液に対してジメチルアミンボランとNaBHを含むB系還元剤を滴下することにより、アモルファス合金からなり軟磁性を有する球状粒子が棒状に結合されてなる球状粒子結合体を得る還元工程と
を備える球状粒子結合体の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、第3の製造方法として、第1又は第2の製造方法であって、
前記原料液は、P系還元剤を更に含むものである
製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、第4の製造方法として、第3の製造方法であって、
前記P系還元剤は、次亜リン酸ナトリウムからなる
製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、第5の製造方法として、第1乃至第4のいずれかに記載の製造方法であって、
前記pH調整工程における前記所定のpHは、8.5〜11.0である
製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、第6の製造方法として、第5の製造方法であって、
前記所定のpHは、9.2〜9.8である
製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、第7の製造方法として、第1乃至第6のいずれかに記載の製造方法であって、
前記原料液は、析出核形成剤を含まない
製造方法を提供する。
【0013】
更に、本発明は、第1の粉末として、
組成式(Fe1−xCo100−a−b(ここで、0<x<1、15≦a≦36at%、0≦b≦3at%)で示される組成を有するアモルファス合金からなり、且つ、0.05μm以上3.0μm以下の平均粒径を有すると共に軟磁性を有する粉末を提供する。
【0014】
また、本発明は第2の粉末として、第1の粉末であって、
0.5≦x≦0.95を満たす粉末を提供する。
を備える球状粒子結合体の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は第3の粉末として、第1又は第2の粉末であって、
0.05μm以上1.0μm以下の平均粒径を有する粉末を提供する。
【0016】
また、本発明は第4の粉末として、第1乃至第3のいずれかの粉末であって、
16≦a+b≦22at%を満たす粉末を提供する。
【0017】
また、本発明は球状粒子結合体として、
第1乃至第5のいずれかの粉末を一次粒子とし、前記一次粒子が棒状に結合されてなる球状粒子結合体であって短軸径が0.05μm以上2.0μm以下であり且つ長軸径が0.3μm以上20.0μm以下の球状粒子結合体を提供する。
【0018】
また、本発明は、第1の混合粉末として、上述した球状粒子結合体と、0.1μm以下の平均粒径を有する強磁性微粒子とからなる混合粉末を提供する。
【0019】
また、本発明は、第2の混合粉末として、第1の混合粉末であって、
前記強磁性微粒子は、前記球状粒子結合体を構成する前記一次粒子の平均粒径の1/10以下の平均粒径を有している
混合粉末を提供する。
【0020】
また、本発明は、第3の混合粉末として、第1又は第2の混合粉末であって、
前記強磁性微粒子は、3nm以上の平均粒径を有している
混合粉末を提供する。
【0021】
更に、本発明は、第4の混合粉末として、第1乃至第3の混合粉末であって、
前記強磁性微粒子は、NiZnフェライト、MnZnフェライト、又は、Fe,Ni,Coからなる群から選ばれる一種以上の合金のいずれかからなる
混合粉末を提供する。
【0022】
また、本発明は、第1乃至第4のいずれかの混合粉末を溶剤に分散させてなる磁性ペーストであって、
前記混合粉末の充填率が20〜65%であり、粘度が1〜300Pa・sである
磁性ペーストを提供する。
【0023】
また、本発明は、上述した磁性ペーストに対して対称物を浸漬させた状態又は前記磁性ペーストを前記対象物に塗布した状態で磁場を印加しつつ前記磁性ペーストを固化させることにより、前記磁性ペーストに含まれる前記強磁性微粒子を前記球状粒子結合体間に配置させる方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、上述した磁性ペーストに対して巻き線コイルを浸漬させた状態で磁場を印加しつつ前記磁性ペーストを固化してなるインダクタを提供する。
【0025】
また、本発明は、シート状の基板上に形成された平面コイルに対して、上述した磁性ペーストを塗布した状態で前記磁性ペーストを固化してなるインダクタを提供する。
【0026】
また、本発明は、シート状の基板上に対して、上述した磁性ペーストを5μm〜500μmの厚さを有するように塗布した状態で前記磁性ペーストを固化してなる磁性材料を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、還元剤の適切な組み合わせを見つけることができたことから、Co−Fe−B(−P)アモルファス合金からなる粉末及び球状粒子結合体を得ることができる。かかる粉末や球状粒子結合体は、Fe−B−P合金粉末等と比較して優れた軟磁性を有している。
【0028】
特に、本発明によれば、PtClNaのような析出核形成材を用いることなく、粒径の揃った粉末又は球状粒子を(従って、球状粒子結合体も)得ることができる。これにより、中心近傍であってもアモルファス相を主相とするような粉末又は球状粒子を(従って、球状粒子結合体も)得ることができる。かかる粉末又は球状粒子(従って、球状粒子結合体)は、それらのアモルファス相に起因して良好な軟磁性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】熱処理温度と保磁力Hcとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に説明する本発明の実施の形態による粉末は、アモルファス合金からなると共に軟磁性を有するものであり、下記組成式で示される組成を有している。
(Fe1−xCo100−a−b
ここで、0<x<1、15≦a≦36at%、0≦b≦3at%を満たす。
また、上述した粉末の平均粒径は0.05μm以上3.0μm以下である。
かかる粉末はアモルファス相に起因して良好な軟磁気特性を有している。
【0031】
特に、平均粒径が1μm以下であると、1〜10GHzといった高周波領域においても渦電流損失を実質的に無視できる。従って、平均粒径は1μm以下であることが好ましい。一方、平均粒径が0.05μmより小さい場合には超常磁性が無視できなくなってしまうので、平均粒径の下限は0.05μmであることが好ましい。
【0032】
FeとCoに関し、Fe成分が多いと表面の改質が進んでしまうことから、Co成分が少なくとも0.5以上であることが好ましい。即ち、x≧0.5であることが好ましい。なお、a+bを一定とした場合、x=0.4〜0.5では飽和磁化が最大となる。また、Coのみでは結晶粒が析出してしまうため、xは1より小さいことが必要となる。特に、x=0.95のとき、磁歪定数がゼロとなり、保磁力Hcが小さくなる。即ち、x=0.95のとき、粉末は、最も優れた軟磁性を有する。調整のしやすさや良好な軟磁気特性を考慮すると、xは0.5≦x≦0.95を満たすことが好ましい。
【0033】
a+bが22at%より大きいと、結晶化温度が上がることが期待できるが、飽和磁化が低下してしまう。一方、a+bが16at%より小さいと、飽和磁化が上がるが、結晶化温度が低下してしまう。従って、a+bは、16at%以上22at%以下であることが好ましい。
【0034】
Pは、アモルファス相の安定化に寄与する。但し、実使用環境を考慮すると、Pの量、即ちbは、できるだけ少ない方が好ましい。
【0035】
上述した粉末の製造方法は、Fe元素を含有する第1金属塩と、Co元素を含有する第2金属塩と、錯化剤とを含む原料液に対して、pH調整剤を加えて、所定のpHを有するように調整された中間液を生成するpH調整工程と、その中間液を撹拌しながら当該中間液に対してジメチルアミンボランとNaBHを含むB系還元剤を滴下することにより、アモルファス合金からなり軟磁性を有する粉末を得る還元工程とを備えている。
【0036】
詳しくは、pH調整工程において、原料となる金属塩、錯化剤をそれぞれ秤量し、蒸留水と共にビーカー等の耐薬品性容器に投入し、これを撹拌しながら溶解することで原料液を製造する。更に、B系還元剤を秤量し、蒸留水と共に別の耐薬品性容器に投入し、撹拌しながら溶解することで還元剤を製造する。合金の組成にPも含ませたい場合には、原料液に対して、P系還元剤も投入する。ここで、金属塩、錯化剤、分散剤及びP系還元剤の秤量、並びにB系還元剤の秤量は、上述した粉末の組成を考慮して行われる。
【0037】
原料として使用可能な第1金属塩は、Fe元素を含有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、しゅう酸塩、金属錯体などであり、原料として使用可能な第2金属塩は、Co元素を含有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、しゅう酸塩、金属錯体などである。
【0038】
原料として使用可能な錯化剤としては、例えば、塩化アンモニウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸、酢酸ナトリウム、エチレングリコール、アンモニア水、ヒドラジンなどがある。
【0039】
原料として使用可能なP系還元剤としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸カルシウム、亜リン酸などがある。
【0040】
本実施の形態におけるB系還元剤は、ジメチルアミンボランとNaBH(水素化ホウ素ナトリウム)とからなる。ジメチルアミンボランのみを使用すると、Bが十分に合金相に含まれず、アモルファス相ができず、また、還元反応が起き難くなってしまう。逆に、NaBHのみを使用すると、還元反応が速すぎてBの過剰含有が起きてしまうと共に、粒子の凝集が起こってしまう。粒子の凝集が起こってしまうと、アモルファスであっても軟磁性を有しなくなってしまう。従って、B系還元剤は、ジメチルアミンボランとNaBH(水素化ホウ素ナトリウム)との両方を含んでいる必要がある。
【0041】
なお、本実施の形態の製造方法によると、PtClNaなどのような析出核形成剤がなくとも小さな粒径の粒子を得ることができるため、原料液には、析出核形成剤を含ませる必要がない。析出核形成剤を用いることなく粒子を形成することができることから、中心近傍でさえもアモルファス相である粒子を得ることができる。
【0042】
上述したようにして準備された原料液を耐薬品性容器内で撹拌しながらpH調整剤を投入することで、原料液を還元反応の開始に最適なpHに調整する。このpHの調整された原料液を以下においては中間液という。
【0043】
ここで、所定のpHとは、例えば、還元工程における還元反応の開始に最適なpHである。後の還元工程においては、pHが11.0より高いと還元反応が遅くなり合金が析出しなくなってしまい、pHが8.5より低いと還元反応が速くなりすぎて軟磁性が劣化してしまう。従って、所定のpHは、8.5〜11.0であることが好ましい。特に、pHが9.2〜9.8であると、最適な還元反応を生じさせることができる。
【0044】
pH調整剤として使用可能な物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などがある。
【0045】
還元工程においては、中間液を撹拌しながら、その中に用意しておいたB系還元剤を滴下する。この還元工程によれば、中間液に滴下したB系還元剤の作用により、pH調整後液中に存在する金属イオン(CoイオンとFeイオン)が還元され、同時にBイオン(原料液にP系還元剤が含まれている場合にはPイオンも)が還元されることによって、これらの元素が析出する。その結果、Co元素、Fe元素、B元素(原料液によってはP元素も)を主たる構成元素とするアモルファス合金からなると共に軟磁性を有する粉末が生成される。
【0046】
更に、この還元工程において、磁場を印加しつつ、中間液にB系還元剤を滴下すると、上述したようにして析出した粉末(球状粒子)が印加されている磁場の作用によって引き寄せられ、磁場方向に配列しながら互いに結着し、球状粒子が棒状に結合されてなる球状粒子結合体が形成される。
【0047】
詳しくは、本実施の形態による球状粒子結合体の製造方法は、Fe元素を含有する第1金属塩と、Co元素を含有する第2金属塩と、錯化剤とを含む原料液に対して、pH調整剤を加えて、所定のpHを有するように調整された中間液を生成するpH調整工程と、その中間液を撹拌しながら、永久磁石又は電磁石を用いて7.9kA/M以上395kA/m以下の磁場を印加しつつ、当該中間液に対してジメチルアミンボランとNaBHを含むB系還元剤を滴下することにより、アモルファス合金からなり軟磁性を有する球状粒子が棒状に結合されてなる球状粒子結合体を得る還元工程とを備えている。
【0048】
この製造方法によれば、上述した球状粒子結合体であって、短軸径が0.05μm以上2.0μm以下であり且つ長軸径が0.3μm以上20.0μm以下の球状粒子結合体を得ることができる。かかる球状粒子結合体は、アモルファス相からなり、軟磁性を有している。
【0049】
このようにして製造された粉末や球状粒子結合体は、特許文献1のように、結合材と共に圧粉磁心や磁性シートを製造するために用いられてもよい。圧粉磁心の製造に用いられる結合材としては熱硬化性樹脂が効果的であり、その樹脂の種類は圧粉磁心の用途や必要な耐熱性によって適宜選択することができる。圧粉磁心製造に好適な結合材としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、キシレン樹脂などがある。一方、磁性シートの製造に好適な結合材としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルプチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロール系樹脂、ニトリル−ブタジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂、若しくは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂等がある。
【0050】
更に、上述した粉末や球状粒子結合体は、磁性ペースト又は磁性塗料(以下、単に「磁性ペースト」という)の形態をとることもできる。特に、球状粒子結合体は、0.1μm以下の平均粒径を有する強磁性微粒子と混合することで、混合粉末とし、それを溶剤に分散させて磁性ペーストを構成することとしてもよい。特に、磁性ペーストにおける混合粉末の充填率を20〜65%とし、溶剤の粘度を1〜300Pa・sとすると、球状粒子結合体と強磁性微粒子とが溶剤内で移動しやすいことから、磁場を印加しつつ磁性ペーストを固化させた際に、球状粒子結合体の隙間に強磁性微粒子を埋め込むことができ、固化した磁性ペーストの透磁率の向上を図ることができる。
【0051】
詳しくは、磁場を印加すると、溶剤内において、球状粒子結合体が磁場に応じて配向されることになるが、この際、磁場が棒状の球状粒子結合体を飽和させる程度に強いと、球状粒子結合体同士の隙間には非常に強い磁場が局所的に発生することから、強磁性微粒子はそれらの隙間に集まってくる。即ち、配向された球状粒子結合体同士の隙間に強磁性微粒子が埋め込まれる。
【0052】
かかる配向と埋め込みとを適切に行うためには、溶剤の粘度が重要な要素の一つとなる。粘度が300Pa・sより高いと、強磁性微粒子が磁場中で動かなくなり配列しにくくなってしまう。一方、粘度が1Pa・sよりも低いと、強磁性微粒子が磁場に引き付けられて端部に凝集してしまい、球状粒子結合体同士の隙間に適切に埋め込むことができなくなってしまう。従って、溶剤の粘度は、1〜300Pa・sであることが好ましい。
【0053】
溶剤としては、例えば、エポキシ樹脂のような有機溶媒であってもよいし、半田クリームのようなものであってもよい。特に、有機溶媒を溶剤として用いる場合には、溶剤の粘度は、1〜30Pa・sであることが好ましい。
【0054】
更に、配向された球状粒子結合体同士の隙間に強磁性微粒子を適切に埋め込むためには、強磁性微粒子は、球状粒子結合体を構成する一次粒子の平均粒径の1/10以下の平均粒径を有していることが好ましい。但し、強磁性微粒子が3nmより小さいと、超常磁性がおきてしまうおそれがあるので、強磁性微粒子は、3nm以上の平均粒径を有していることが好ましい。強磁性微粒子として使用可能な材料は、例えば、NiZnフェライト、MnZnフェライト、又は、Fe,Ni,Coからなる群から選ばれる一種以上の軟磁性合金などがある。
【0055】
かかる磁性ペーストには、様々な利用方法がある。
【0056】
例えば、デジタル機器の高周波回路においてはインダクタの矮小化が重要である。そのため、金属薄膜、フェライト薄膜、精密加工フェライトなどが試みられているが、生産性、再現性、加工精度、透磁率などの点で十分な性能に達していない。これに対して、上述した磁性ペーストは、形状の自由度、使用量の制御のし易さ、高周波透磁率、絶縁性、閉磁路形成などの点で優れており、実用性が高い。例えば、巻き線コイルのような対象物を磁性ペーストに浸漬させた状態又はシート状の基板のような対象物上に磁性ペーストを塗布した状態で、磁場を印加しつつ、磁性ペーストを固化させることにより、磁性ペーストに含まれる強磁性微粒子を球状粒子結合体間に配置させ、高い透磁率を有する磁性材料を構成することができる。具体的には、巻き線コイルを磁性ペーストに浸漬させた状態で磁性ペーストを固化させることにより巻き線型のインダクタを構成することが可能である。また、上述した磁性ペーストは、スクリーン印刷などの技術を利用することができることから、平面型のインダクタにも適用可能である。
【0057】
更に、デジタル化、高周波化に伴って、電磁ノイズ吸収体のスケールダウンが要求されている。例えば、従来、粉末を樹脂に埋め込んだシート状の電磁ノイズ吸収体が実用化されているが、上述した磁性ペーストは厚さと形状とが自由であり、一種類の磁性ペーストで様々な形状、サイズに対応できる利点があり、シート状材料では不可能なスケールダウンも容易である。例えば、シート状の基板のような対象物上に上述した磁性ペーストを5μm〜500μmの厚さを有するように塗布した状態で、その磁性ペーストを固化させることも可能である。
【実施例】
【0058】
硫酸鉄と硫酸コバルトとを5対95となるように秤量し、更に、錯化剤として塩化アンモニウムとクエン酸とを夫々5重量%含む水溶液(原料液)を作成した。
【0059】
この原料液を室温において撹拌機により回転数:160〜300rpmで撹拌しながら、pH調整剤として30%水酸化ナトリウム水溶液を滴下することで、pH=9.5となるように調整し、中間液を得た。
【0060】
次いで、反応浴(ビーカー)のそこに永久磁石を配置して反応浴内に最大で276.5kA/m(3.5kOe)の磁場を印加しつつ、撹拌機により回転数:150rpmで撹拌しているpH調整後液に対して、滴下装置を用いて滴下速度:200ml/hrでジメチルアミンボランとNaBHからなるB系還元液の滴下を行った。
【0061】
還元反応の終了後、析出物を水で洗浄し、更に、薄い酸で沈殿物(付着物)を溶解除去した後、不活性雰囲気中で乾燥させた。
【0062】
このようにして得られた析出物は、直径0.2〜0.4μmの一次粒子が長さ2〜15μmの棒状に結合されてなる球状粒子結合体であり、(Co95Fe8416で示される組成を有するアモルファス合金からなり、軟磁性を有するものであった。また、比透磁率は60であり、保磁力Hcは1.83kA/m(23Oe)であった。
【0063】
更に、Co−Bや、Fe−B−P、(Co50Fe50)B及び(Co90Fe10)Bも作成し、それらを熱処理した際の保磁力Hcの温度依存性を測定した。ここで、Co−Bや結晶相を有するものである。また、測定にあたっては、各温度で30分ずつ真空中で熱処理を行った。測定結果を図1に示す。
【0064】
図1を参照すると、(Co95Fe)Bは最も低い保磁力Hcを示し、結晶化温度付近まで安定した軟磁性を有していることが理解される。
図1