(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モノアゾ顔料及び樹脂を含有してなり、かつ、熱エネルギーの作用により記録ヘッドから吐出されるインクジェット記録方式に用いられるインクジェット用のインクであって、
前記モノアゾ顔料が、粒子表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合している自己分散顔料であり、かつ、その表面電荷量が5.9×10-2mmol/g以上9.8×10-2mmol/g以下であり、
前記樹脂の酸価が、100mgKOH/g以上160mgKOH/g以下であり、
前記インク中の、前記樹脂の含有量(質量%)が、前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上0.25倍以下であることを特徴とするインク。
前記インク中の前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.5質量%以上10.0質量%以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインク。
前記モノアゾ顔料の種類が、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー74、及び、C.I.ピグメントレッド269から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインク。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。なお、本発明における表面張力などの各種の物性は、いずれも25℃における値である。また、モノアゾ顔料のことを単に顔料と記載することがある。
【0011】
先ず、本発明に至った経緯を説明する。本発明者らは、以下の2種類のインクを調製し、検討を行った。1つ目のインクは、樹脂分散剤により分散させたモノアゾ顔料(以下、樹脂分散顔料と記載することがある)を含有するインクである。また、2つ目のインクは、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基を結合させ、前記アニオン性基の作用により分散させたモノアゾ顔料(以下、自己分散顔料と記載することがある)を含有するインクである。そして、調製したこれら2種類のインクを、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録方式に用い、各インクの吐出安定性の評価を行った。その結果、樹脂分散顔料よりも自己分散顔料の方が、記録ヘッドのインク流路における凝集物の発生量が少なく、吐出安定性が良好であることが判明した。
【0012】
本発明者らは、以下のような理由によってこのような違いが生じていると推測している。樹脂分散顔料を含有するインクの場合、モノアゾ顔料が熱により分解することなどにより、顔料の分散状態が不安定となって、凝集する。そして、生成した凝集物に対しては、本来分散に寄与するはずの樹脂分散剤が十分な作用を発揮しないために、分散性を失った状態でインク流路に堆積すると考えられる。一方、自己分散顔料を含有するインクの場合は、熱によりモノアゾ顔料が分解したとしても、熱に対し安定なアニオン性基が凝集物の表面に存在しているために、凝集物の分散性がある程度保たれる。その結果、凝集物の再分散性が、樹脂分散顔料を用いた場合よりも自己分散顔料を用いた場合のほうが良好であり、吐出安定性が相対的に高くなったと考えられる。
【0013】
しかし、従来から自己分散型の顔料として広く用いられているカーボンブラックに比べて、モノアゾ顔料などの有機顔料は、自己分散型とする場合に顔料粒子の表面に結合させるアニオン性基の量を多くするのが難しい。したがって、熱に弱いモノアゾ顔料を使用する場合、樹脂分散顔料よりは凝集物が発生しづらいものの、自己分散顔料を用いても、高いレベルの吐出安定性が得られる程度にまで凝集物の発生を抑制することはできていないことがわかった。
【0014】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するために、自己分散型のモノアゾ顔料を含有するインクに、前記特許文献1や2に記載の凝集を抑制するための物質を添加し、その吐出安定性の評価を行った。その結果、前記物質の含有量を多くすれば凝集物の発生が抑制され、インクの吐出安定性が向上することがわかった。しかし、前記物質の含有量を、凝集物の発生を抑制することができるだけの量とした場合、インクの表面張力は低くなり(およそ36mN/m未満)、画像の発色性が低下することもわかった。また、凝集を抑制するための物質として選択したものによっては、インクが記録媒体に付与された後の顔料の凝集をも抑制するため、このような理由によっても画像の発色性が低下することがわかった。
【0015】
そこで、本発明者らは、自己分散型のモノアゾ顔料の持つ発色性を失うことなく、熱エネルギーを利用した記録ヘッドからの吐出安定性を満足させるインクに必要な条件を見出すべく検討を進めた。その結果、インクが下記の第1及び第2の条件を満たすことで、前記目的の達成が可能となるという知見を得て本発明に至った。すなわち、第1の条件は、インクを構成するモノアゾ顔料及び樹脂として、下記の規定を満足するものを用いることである。具体的には、モノアゾ顔料として、その表面電荷量が5.9×10
-2mmol/g以上9.8×10
-2mmol/g以下である自己分散顔料を用い、樹脂として、酸価が100mgKOH/g以上160mgKOH/g以下のものを用いる。また、第2の条件は、インク中の前記樹脂の含有量(質量%)を、前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上0.25倍以下の範囲に調整することである。インクを構成する、自己分散型のモノアゾ顔料の表面電荷量と、添加する樹脂の酸価、さらに、モノアゾ顔料と樹脂の含有量の質量比率を満たすことで、前記課題が解決される理由を、本発明者らは以下のように推測している。なお、以下の説明における樹脂は、酸価を与える酸性基などに代表される官能基を含む親水性ユニットと、疎水性ユニットとを有するものを想定している。
【0016】
先ず、本発明者らは、自己分散型のモノアゾ顔料を含有するインクに、さらに樹脂を添加することで、インク中では、以下のような2つの作用が働くと推測した。1つ目は、樹脂を構成するスチレンなどに由来する疎水性ユニットが、顔料粒子の表面の隙間、すなわちアニオン性基などが結合していない部分に吸着することで、吐出安定性が高まるという作用である。2つ目は、インクが記録媒体に付与され、水などの液体成分が蒸発した際に、酸性基を有する樹脂が存在しているため、電解質濃度が急激に上昇し、顔料の凝集が促進されることで発色性が向上するという作用である。
【0017】
そこで、本発明者らは、前記推測に基づいて以下の検討を行った。検討にあたり、先ず、表面電荷量が相対的に低い自己分散型のモノアゾ顔料、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及び水を含有するインク1、並びにインク1に酸価の低い樹脂を加えたインク2を準備した。さらに、表面電荷量が相対的に高い自己分散型のモノアゾ顔料、水溶性有機溶剤、界面活性剤、水、及び酸価の高い樹脂を含有するインク3を準備した。次に、準備した各インクを用いて、それぞれ画像を記録した。その結果、画像の発色性が最も優れていたのはインク3であり、次いで、インク2、インク1の順になるという結果が得られた。次に、これらのインクをそれぞれ、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録装置(商品名:PIXUS Pro9500;キヤノン製)に搭載して、A4サイズの記録媒体300枚に、19cm×26cmのベタ画像を記録した。そして、300枚目の記録後に、記録ヘッドをインクジェット記録装置から取り外して、インク流路を光学顕微鏡で観察した。
【0018】
この結果、インク2は正常に吐出ができ、インク流路も問題がなかったものの、インク1及び3は、吐出安定性が低下し、インク流路に顔料の凝集物が生じていた。そこでさらに、本発明者らは、インク2及びインク3中の金属イオン濃度と、顔料粒子の表面に吸着している樹脂の量をそれぞれ測定した。その結果、インク中の金属イオン濃度はインク3の方が相対的に高く、顔料粒子の表面への樹脂の吸着量はインク2の方が相対的に高かった。
【0019】
本発明者らは、インク中の金属イオン濃度と顔料粒子の表面への樹脂の吸着量が、画像の発色性やインクの吐出安定性に影響を与えた理由を以下のように推測している。樹脂をインクに溶解させるためには、樹脂の酸性基をアルカリ金属の水酸化物などの中和剤で中和する。インク3のように酸価が高い樹脂を含有するインクは、この中和剤によってインク中の電解質濃度が高くなるため、上述の作用により画像の発色性は向上する。しかし、樹脂の酸価が高い分、疎水性ユニットが相対的に少なく、顔料粒子の表面への樹脂の吸着は生じづらい。したがって、顔料の分散状態を安定に保つことで凝集を抑制する作用や、生成した凝集物を十分に分散させる作用が発揮されず、インク流路に凝集物が堆積したと推測している。
【0020】
一方、インク2のように酸価が低い樹脂を含有するインクも、酸価が高い樹脂を含有するインクほどではないものの、樹脂を含有しない場合に比べればインク中の電解質濃度が高くなるため、画像の発色性はわずかではあるが向上する。しかし、酸価が高い樹脂を含有するインクとは異なり、酸価が低い樹脂は疎水性ユニットが相対的に多いため、顔料粒子の表面への樹脂の吸着が生じやすい。このように吸着した樹脂によって、顔料の分散状態を安定に保つことで凝集を抑制する作用や、生成した凝集物を十分に分散させる作用が生じやすい。このため、凝集物の堆積を抑制することが可能となったと推測している。
【0021】
本発明者らは、先に述べた第1の条件(モノアゾ顔料の表面電荷量、樹脂の酸価)に関し、さらに詳細な検討を進め、以下の知見を得た。先ず、本発明においては、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合しているアニオン性基の量を表す指標として、顔料1g当たりのアニオン性基の量を表す表面電荷量を採用している。この値の測定方法については後述する。そして、モノアゾ顔料の表面電荷量が低いほど、顔料粒子の表面の隙間は多くなり、顔料粒子の表面への樹脂の吸着量が増加するため、顔料の分散状態を安定に保つことで凝集を抑制する作用や、生成した凝集物を十分に分散させる作用は生じやすくなる。しかし、モノアゾ顔料の表面電荷量が極端に低くなりすぎると、顔料の持つアニオン性基による凝集物の再分散性が低くなるため、顔料粒子の表面への樹脂の吸着量が増加したとしても、凝集物の堆積を抑制することができない。このような理由から、モノアゾ顔料の表面電荷量は5.9×10
-2mmol/g以上であることを要す。一方、モノアゾ顔料の表面電荷量が高くなりすぎると、顔料粒子の表面の隙間が少なくなり、酸価が低い樹脂を添加しても、顔料粒子の表面への樹脂の吸着が起きにくくなる。このため、生成した凝集物を十分に分散させる作用が発揮されず、凝集物の堆積を抑制することができない。このような理由から、モノアゾ顔料の表面電荷量は9.8×10
-2mmol/g以下であることを要す。
【0022】
前記の各作用の影響の程度は、添加する樹脂の酸価にも依存する。先ず、樹脂の酸価が低いほど、顔料粒子の表面への樹脂の吸着量は多くなる傾向にある。しかし、酸価が低くなるほど樹脂の疎水性は高くなるため、樹脂の酸価が低すぎると、顔料粒子の表面に吸着するよりも、インク中で樹脂が凝集しやすくなり、顔料粒子の表面には樹脂がほとんど吸着しなくなる。このような理由から、樹脂の酸価は100mgKOH/g以上であることを要す。一方、酸価が高くなるほど樹脂の親水性が高くなるため、樹脂の酸価が高すぎると、顔料粒子の表面へ吸着するよりも、インク中で樹脂が遊離した状態として存在しやすくなり、顔料粒子の表面へ吸着する樹脂が少なくなる。このような理由から、樹脂の酸価は160mgKOH/g以下であることを要す。つまり、酸価が100mgKOH/g未満の樹脂や、160mgKOH/g超の樹脂では、いずれの場合も、添加したとしても凝集物の堆積を有効に抑制することはできない。
【0023】
さらに、前記の各作用の影響の程度は、インク中における、モノアゾ顔料と樹脂との比率にも依存する(上述の第2の条件)。すなわち、インク中の樹脂の含有量が、モノアゾ顔料の含有量に対して多くなると、インク中の電解質濃度が高まり、画像の発色性向上には有利な方向となる。一方で、この場合は顔料粒子の表面に吸着する樹脂が増加するため、顔料の分散状態はより安定に保たれやすくなり、凝集物の堆積を抑制するのには有利となる。しかし、実際には後者の作用が支配的となり、顔料の分散安定性が高くなりすぎるために、記録媒体にインクが付与された際の電解質濃度の上昇による顔料の凝集も促進されづらくなり、画像の発色性は低下する。このような理由から、インク中の樹脂の含有量は、モノアゾ顔料の含有量に対する質量比率で0.25倍以下であることを要す。一方、インク中の樹脂の含有量が、モノアゾ顔料の含有量に対して少なくなると、顔料粒子の表面に吸着する樹脂も少なくなり、凝集物を十分に分散させるのに必要な樹脂量に足りなくなる。このため、凝集物の堆積が抑制されず、インクの吐出安定性が低下する。このような理由から、インク中の樹脂の含有量は、モノアゾ顔料の含有量に対する質量比率で0.05倍以上であることを要す。
【0024】
先に挙げた特許文献1や2に記載された発明においては、凝集抑制物質によって、顔料の凝集物の分散性を高めることで凝集物の堆積を抑制している。一方、本発明では、適度な表面電荷量のモノアゾ顔料と適度な酸価を有する樹脂をごく限られた質量比率でインクに含有させることにより、凝集物の分散性を高めるだけでなく、顔料の凝集自体も抑制する。この両者が相まって、凝集物の堆積が抑制され、吐出特性を高いレベルで満足することができるのである。
【0025】
<インク>
以下、本発明のインクを構成する成分について説明する。
(顔料)
本発明のインクを構成する色材は、粒子表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合している、自己分散型のモノアゾ顔料である。モノアゾ顔料の粒子表面と、官能基(アニオン性基が直接結合している場合はアニオン性基、アニオン性基が他の原子団を介して結合している場合は他の原子団及びアニオン性基)とは、共有結合により結合している。
【0026】
本発明で用いることができるモノアゾ顔料の種類は特に限定されず、公知のものをいずれも用いることができる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー:1、2、3、5、6、49、65、73、74、75、97、98、111、116、130、61、62:1、133、168、169など、C.I.ピグメントオレンジ:1など、C.I.ピグメントレッド269などが挙げられる。また、本発明においては、より高い画像の発色性が得られるため、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー74、及び、C.I.ピグメントレッド269から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。さらに、これらの顔料の中でも、C.I.ピグメントイエロー74を用いることが特に好ましい。
【0027】
インク中の前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.5質量%以上10.0質量%以下、さらには4.0質量%以上6.0質量%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明のインクに使用するモノアゾ顔料は、その表面電荷量が5.9×10
-2mmol/g以上9.8×10
-2mmol/g以下であることを要す。つまり、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が化学的に結合してなり、表面電荷量として示される単位質量当たりの前記アニオン性基の量が5.9×10
-2mmol/g以上9.8×10
-2mmol/g以下であることを要す。本発明のインクには、後述するように、酸価が100mgKOH/g以上160mgKOH/g以下である樹脂を含有させる。しかし、本発明においては、この樹脂に、自己分散型のモノアゾ顔料やその凝集物の分散を補助する作用を期待しているのであって、前記樹脂の作用のみによって顔料を分散させることを期待しているのではない。すなわち、本発明でいう「自己分散」とは、樹脂などの高分子化合物や、界面活性能を有する化合物などが顔料粒子の表面に物理的に吸着し、基本的に、これらのもつ分散作用のみによって顔料を分散させるものではないことを意味している。つまり、顔料粒子の表面に樹脂分散剤を吸着させることではじめて顔料の分散を達成している所謂樹脂分散顔料とは異なり、本発明において使用する自己分散型のモノアゾ顔料は、前記特定の樹脂を用いなくとも分散させることができるものである。
【0029】
本発明において、モノアゾ顔料の表面電荷量はコロイド滴定により求める。この方法は、従来のアニオン性基のカウンターイオンの定量によりアニオン性基量を求める方法よりも簡単であり、精度も高く、直接的にアニオン性基量を測定することができるというメリットがある。後述する実施例においては、流動電位滴定ユニット(PCD−500)を搭載した電位差自動滴定装置(商品名:AT−510;京都電子工業製)を用い、電位差を利用したコロイド滴定により、顔料分散液中の顔料の表面電荷量を測定した。この際、滴定試薬としてメチルグリコールキトサンを用いた。なお、インクから適切な方法により抽出した顔料を用いて表面電荷量の測定を行うことも勿論可能である。
【0030】
顔料粒子の表面に、直接又は他の原子団を介して化学的に結合しているアニオン性基としては、例えば、−COOM、−SO
3M、−PO
3HM、−PO
3M
2(式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。)などが挙げられる。本発明においては、前記アニオン性基が1価のアニオン性基であることが好ましく、さらには−COOMや−SO
3Mであることがより好ましい。また、前記他の原子団(−R−)としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基、アミド基、スルホン基
、カルボニル基、エステル基、エーテル基が挙げられる。また、これらの基を組み合わせた基などが挙げられる。Mで表されるアルカリ金属としては、例えば、Li、Na、Kなどが挙げられる。アニオン性基が塩を形成している場合、インク中における塩の形態は、その一部が解離した状態、又は全てが解離した状態のいずれの形態であってもよい。本発明においては、顔料粒子の表面に結合している官能基(アニオン性基が直接結合している場合はアニオン性基、アニオン性基が他の原子団を介して結合している場合は他の原子団及びアニオン性基)の分子量が1,000以下であることが好ましい。
【0031】
本発明では、上記で挙げたものの他に、表面酸化により得られた自己分散型のモノアゾ顔料であっても、表面電荷量が5.9×10
-2mmol/g以上9.8×10
-2mmol/g以下であれば、用いることができる。このようなモノアゾ顔料としては、次亜塩素酸ソーダによる酸化処理、水中オゾン処理、オゾン処理を施した後に酸化剤により湿式酸化し、顔料粒子の表面を改質するなどの方法によって得られるものなどが挙げられる。本発明においては、本発明の効果が得られる範囲で、上記に加えて、他の分散方式の顔料(樹脂分散顔料、マイクロカプセル顔料、樹脂結合型自己分散顔料など)をさらに併用してもよい。
【0032】
(樹脂)
本発明のインクには、前記モノアゾ顔料に加えて、酸価が100mgKOH/g以上160mgKOH/g以下である樹脂を含有させることを要す。先に述べた通り、この樹脂は前記自己分散型のモノアゾ顔料やその凝集物の分散を補助する作用を期待して使用するものである。本発明において使用する樹脂は、水溶性であることが好ましい。本発明において「樹脂が水溶性であること」とは、前記樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、その粒子径を測定しうる粒子を形成しないものであることを意味する。このような条件を満たす樹脂を、本発明においては水溶性樹脂として記載する。
【0033】
本発明において、前記特定の範囲の酸価をもつ樹脂のインク中の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上3.0質量%以下、さらには1.0質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。さらに、本発明では、インク中の前記樹脂の含有量が、前記モノアゾ顔料の含有量に対する質量比率が、0.05倍以上0.25倍以下となるように調整する必要がある。なお、この場合の樹脂及びモノアゾ顔料の含有量は、インク全質量を基準とした値である。
【0034】
本発明で好適に用いられる具体的な樹脂としては、以下に挙げるような親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして少なくとも有する水溶性樹脂が好ましい。なお、以下の記載における(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを示すものとする。
【0035】
重合により親水性ユニットとなる、親水性基を有する単量体としては、下記のものが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシ基を有する酸性単量体、(メタ)アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有する酸性単量体、これらの酸性単量体の無水物や塩などのアニオン性単量体;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシ基を有する単量体;メトキシ(モノ、ジ、トリ、ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートなどのエチレンオキサイド基を有する単量体などである。なお、アニオン性単量体の塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。本発明で用いる樹脂は酸価を有するため、樹脂の親水性ユニットには、先に挙げたようなアニオン性単量体に由来するユニットが含まれる。なお、樹脂は、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)の水酸化物やアンモニア水などの中和剤により中和されることで水溶性となるものが好ましい。
【0036】
また、重合により疎水性ユニットとなる、疎水性基を有する単量体としては、下記のものが挙げられる。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する単量体、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(n−、iso−、t−)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの脂肪族基を有する単量体などである。顔料粒子の表面への吸着性をより高めることができるため、樹脂の疎水性ユニットが、三次元的にコンパクトな構造であり、かつ、疎水性が高い単量体であるスチレンに由来するユニットを含むことが好ましい。
【0037】
本発明で使用する樹脂の形態は限定されず、ランダム、ブロック、グラフトなどが挙げられる。顔料粒子の表面への吸着性を高めるためにはブロック共重合体が有利である。また、本発明のインクに使用する樹脂は、その重量平均分子量が1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下、特には3,000以上9,000以下のものであることが好ましい。
【0038】
(水性媒体)
本発明のインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を水性媒体として含有させることが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。特に、本発明のインクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクとすることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、従来、例えば、インクジェット用のインクに一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレン基の炭素数が1〜4程度のアルキレングリコール類、平均分子量200〜2,000程度のポリエチレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類など、25℃で液体のものが挙げられる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0039】
本発明においては、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、30.0質量%以下であることが好ましく、さらには16.5質量%以下であることが特に好ましい。本発明者らは検討の結果、水溶性有機溶剤の含有量が前記範囲内にあることで、インク流路への凝集物の発生をより高いレベルで抑制できることを確認した。水溶性有機溶剤の含有量が30.0質量%超であると、前記範囲の表面電荷量を有する顔料粒子の表面には、樹脂が吸着するだけでなく、水溶性有機溶剤も溶媒和しやすくなり、樹脂により凝集物を十分に分散させる作用がやや発揮されづらくなる。また、水溶性有機溶剤の含有量が16.5質量%超であると、水溶性有機溶剤と樹脂の疎水性ユニットとの親和性が急激に高まる結果、顔料粒子の表面への樹脂の吸着性は相対的に低くなり、樹脂により凝集物を十分に分散させる作用がやや発揮されづらくなる。一方、水溶性有機溶剤の含有量は5.0質量%以上であることが好ましく、5.0質量%未満であると、耐固着性などのインクジェット特性がやや低下する場合がある。
【0040】
また、本発明のインクには、上記で挙げた水溶性有機溶剤の中でも、2−ピロリドンやN−メチル−2−ピロリドンなどの含窒素化合物を含有させることが特に好ましい。含窒素化合物は、インク中の樹脂の会合状態を緩和させる作用があるため、樹脂を構成する各ユニットのうち、疎水性ユニットも自由度が高くなり、顔料粒子の表面への樹脂の吸着性を高めることができる。その結果、凝集物の堆積を効果的に抑制することができる。
【0041】
(浸透剤)
本発明は、自己分散型のモノアゾ顔料を含有するインクによって記録される画像の発色性を向上し、かつ、インクの吐出安定性を高いレベルで確保することを目的とする。画像の発色性を高めるためには、インクの表面張力が高いほうが有利であり、目安として、表面張力が36mN/m以上であることが好ましい。一方、あまり表面張力が高すぎると、画像の定着性などが低下しやすくなる場合があるため、インクの表面張力は40mN/m以下であることが好ましい。インクの表面張力の調整は、浸透剤として作用する物質、具体的には、界面活性剤や、1,2−アルカンジオール及びグリコールエーテルなどの水溶性有機溶剤を用いて行うことが好ましい。
【0042】
本発明のインクに好適な界面活性剤としては、下記のようなアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール類、アセチレングリコール類、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物類などが挙げられる。これらの中でも特に、アセチレンアルコール類、アセチレングリコール類、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物類は、普通紙などの記録媒体へのインクの浸透性の制御に優れた効果を発揮するために好適に用いることができる。インクに界面活性剤を含有させる場合には、グリフィン法によるHLB値が13.0以上である界面活性剤を用いることが好ましい。HLB値が低いことは界面活性剤の疎水性が高いことを意味し、このような界面活性剤は顔料粒子の表面に吸着しやすい。したがって、ある程度HLB値が高く、顔料粒子の表面への樹脂の吸着を阻害しない界面活性剤を用いれば、樹脂により凝集物を十分に分散させる作用を損なうことがないためである。なお、グリフィン法によるHLB値は「20×(界面活性剤の親水性基の式量/界面活性剤の分子量)」により求められる。
【0043】
インク中の樹脂の含有量にも依存し得るが、インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.0質量%以上0.40質量%未満であることが好ましい。特には、0.0質量%以上0.20質量%以下であることが好ましい。すなわち、好適な表面張力をインクに持たせることができれば、インクには界面活性剤を含有させなくてもよく、界面活性剤を含有させる場合には、その含有量を0.40質量%未満、さらには0.20質量%以下とすることが好ましいことを意味する。
【0044】
一方で、インク中における界面活性剤は、先にも述べた通り、顔料粒子の表面への樹脂の吸着を阻害する作用を生じ得る。したがって、本発明においては、インクの表面張力の調整には、界面活性剤を使用するよりも、アルカンジオールやグリコールエーテルなどを使用する方がより好ましい。ここで、1,2−アルカンジオールやグリコールエーテルは、先に従来技術として挙げた特許文献1及び2に記載されている通り、凝集物の発生を抑制する効果があることは知られている。したがって、これらの化合物を使用することによっても凝集物の発生を抑制することが可能となる。しかし、本発明で求めるレベルの発色性を達成するためには、インクの表面張力が低くなりすぎないようにすることが好ましく、このため、表面張力が36mN/m以上であることを満足できるように、これらの化合物の含有量を決定することが好ましい。具体的には、インク中の1,2−アルカンジオールやグリコールエーテルなどの含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.0質量%以上1.0質量%未満であることが好ましい。すなわち、好適な表面張力をインクに持たせることができれば、インクにはこれらの化合物を含有させなくてもよく、これらの化合物を含有させる場合には、その含有量を1.0質量%未満とすることが好ましいことを意味する。
【0045】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記成分以外にも必要に応じて、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、尿素、エチレン尿素などの常温で固体の有機化合物を含有させてもよい。また、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤などの種々の添加剤をインクに含有させてもよい。
【0046】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを有し、前記インク収容部に、上記で説明した本発明のインクが収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。又は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0047】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドにより上記で説明した本発明のインクを吐出して、記録媒体に画像を記録する方法である。本発明においては、インクを吐出する方式として、インクに熱エネルギーを付与する方式を利用するインクジェット記録方法を採用する。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【実施例】
【0048】
次に、実施例、比較例及び参考例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、文中、「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。また、各種の物性は、25℃において測定した値である。
【0049】
<水溶性樹脂の準備>
先ず、表1の上段に示す各単量体(単位:部)を用いて、常法により共重合させ、水溶性の樹脂1〜9をそれぞれ合成した。得られた各樹脂をそれぞれに用い、下記のようにして、各樹脂水溶液を調製した。具体的には、10.0%の水酸化ナトリウム水溶液を用い、樹脂中の全ての酸性基を中和し、さらに、イオン交換水を加えて、樹脂(固形分)の含有量が10.0%である樹脂水溶液1〜9を得た。表1の下段に樹脂の特性を示す。
【0050】
【0051】
<顔料分散液の調製>
(モノアゾ顔料の表面電荷量)
先ず、モノアゾ顔料の表面電荷量を測定する方法を説明する。顔料分散液中の自己分散顔料の表面電荷量は、流動電位滴定ユニット(PCD−500)を搭載した電位差自動滴定装置AT−510(京都電子工業製)を用い、滴定試薬としてメチルグリコールキトサンを用いた電位差滴定により測定した。
【0052】
(顔料分散液1)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で1.0gのp−アミノ安息香酸を加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに1.2gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、比表面積が65.5m
2/gのC.I.ピグメントイエロー74(モノアゾ顔料)6gを撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、顔料粒子の表面に−C
6H
3−(COONa)
2基が結合している顔料Aを調製した。得られた顔料Aに水を加えて、顔料の含有量が10.0%となるように分散して顔料分散液1を調製した。顔料分散液1中の顔料1の表面電荷量は5.9×10
-2mmol/gであった。
【0053】
(顔料分散液2、3、6、7)
p−アミノ安息香酸及び亜硝酸ナトリウムの使用量を変更した以外は、顔料分散液1と同様の手順により、顔料2、3、6、7の含有量が10.0%である顔料分散液2、3、6、7をそれぞれ調製した。各顔料分散液中の顔料の表面電荷量はそれぞれ、顔料2が7.9×10
-2mmol/g、顔料3が9.8×10
-2mmol/g、顔料6が5.2×10
-2mmol/g、顔料7が10.5×10
-2mmol/gであった。
【0054】
(顔料分散液4)
C.I.ピグメントイエロー74をC.I.ピグメントイエロー1(モノアゾ顔料)に変更した以外は、顔料分散液1と同様の手順により、顔料の含有量が10.0%である顔料分散液4を調製した。顔料分散液4中の顔料4の表面電荷量は7.9×10
-2mmol/gであった。
【0055】
(顔料分散液5)
C.I.ピグメントイエロー74をC.I.ピグメントレッド269(モノアゾ顔料)に変更した以外は、顔料分散液1と同様の手順により、顔料の含有量が10.0%である顔料分散液5を調製した。顔料分散液5中の顔料5の表面電荷量は7.9×10
-2mmol/gであった。
【0056】
(顔料分散液8)
特許文献2の記載を参考に、以下の方法で樹脂結合型自己分散顔料を調製した。C.I.ピグメントイエロー74(モノアゾ顔料)500g、アミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン(APSES)45g、及び蒸留水900gを反応器に仕込んだ。そして、55℃、回転数300rpmで20分間撹拌した。この混合物に、25%の亜硝酸ナトリウム水溶液40gを15分間かけて添加し、さらに蒸留水50gを加えた。そして、60℃で2時間反応させた。反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分の含有量が15.0%となるように調整した。この後、遠心分離により不純物を除去し、分散液Aを得た。この分散液A中には、APSESが結合した顔料が含まれていた。
【0057】
次に、この分散液A中の顔料に結合した基のモル数を求めるために、以下の操作を行った。ナトリウムイオン電極(商品名:1512A−10C;堀場製作所製)を用いて、分散液中のナトリウムイオン濃度を測定し、顔料の固形分あたりのモル数に換算した。次に、室温で、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)溶液に、固形分の含有量が15.0%である分散液Aを強力に撹拌しながら1時間かけて滴下した。このときのPEHA溶液中のPEHA濃度は、上記で測定したナトリウムイオンのモル数の2〜3倍量とし、溶液量は分散液Aと同量とした。この混合物を48時間撹拌した後、不純物を除去し、分散液Bを得た。この分散液B中には、粒子表面にAPSESを介してPEHAが結合した顔料が含まれ、固形分の含有量が10.0%であった。
【0058】
水溶性樹脂であるスチレン−アクリル酸共重合体(重量平均分子量9,000、酸価140mgKOH/g、分散度Mw/Mn1.5)を溶解させた水溶液に、上記で得られた固形分の含有量が10.0%である分散液Bの500gを撹拌しながら滴下した。この際に用いた前記水溶液は、前記スチレン−アクリル酸共重合体95gに1,800gの蒸留水を加え、樹脂を中和するのに必要な水酸化ナトリウムを加え、撹拌により溶解させて調製したものである。そして、上記の混合物をパイレックス(登録商標)蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱し、液体成分を蒸発させ、その後乾燥物を室温に冷却した。次に、水酸化ナトリウムでpHを9.0に調整した蒸留水中に、この乾燥物を添加し、分散機を用いて分散させた。さらに撹拌下で1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液体のpHを10〜11に調整した。この後、脱塩、不純物と粗大粒子を除去し、さらに、遠心分離処理を行って顔料に結合していない樹脂を除去し、顔料分の含有量が10.0%、樹脂分の含有量が2.0%である顔料分散液8を調製した。顔料分散液8中の顔料8の重量平均粒子径は130nmであり、顔料分散液8のpHは10.1であった。なお、顔料8は粒子表面に結合している樹脂によって分散されているものであり、自己分散顔料ではない。
【0059】
(顔料分散液9)
比表面積が65.5m
2/gのC.I.ピグメントイエロー74(モノアゾ顔料)10.0部、酸価と当量の水酸化カリウムで中和した樹脂3(固形分)の10.0%水溶液20.0部、及びイオン交換水50.0部を混合した。次に、この混合物をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズ150部を充填して、水冷しながら、12時間分散させた。その後、遠心分離処理を行って粗大粒子を除去した後、水を加えて、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が2.0%となるように分散して顔料分散液9を調製した。顔料分散液9中の顔料9の重量平均粒子径は120nmであった。なお、顔料9は顔料粒子の表面に吸着している樹脂によって分散されているものであり、自己分散顔料ではない。
【0060】
(顔料分散液10)
C.I.ピグメントイエロー74をC.I.ピグメントイエロー1(モノアゾ顔料)に変更した以外は、顔料分散液9と同様の手順により、顔料の含有量が10.0%である顔料分散液10を調製した。顔料分散液10中の顔料10の重量平均粒子径は130nmであった。なお、顔料10は顔料粒子の表面に吸着している樹脂によって分散されているものであり、自己分散顔料ではない。
【0061】
(顔料分散液11)
C.I.ピグメントイエロー74をC.I.ピグメントレッド269(モノアゾ顔料)に変更した以外は、顔料分散液9と同様の手順により、顔料の含有量が10.0%である顔料分散液11を調製した。顔料分散液11中の顔料11の重量平均粒子径は120nmであった。なお、顔料11は顔料粒子の表面に吸着している樹脂によって分散されているものであり、自己分散顔料ではない。
【0062】
(顔料分散液12)
スルホン酸基により分散されている自己分散型のC.I.ピグメントイエロー74(モノアゾ顔料)を含有する、市販の顔料分散体(商品名:Cab−O−Jet270Y;キャボット製)を顔料分散液12として用いた。顔料分散液12中の顔料の含有量は10.0%であり、顔料12の表面電荷量は13.1×10
-2mmol/gであった。
【0063】
<インクの調製>
表2の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、実施例、比較例及び参考例の各インクを調製した。なお、アセチレノールE100(商品名)は川研ファインケミカル製の界面活性剤であり、グリフィン法によるHLB値は13.3である。表2の下段に、自動表面張力計(商品名:CBVP−Z型;協和界面科学製)を用いて、白金プレート法により測定した各インクの表面張力[mN/m]、樹脂の含有量[%]及び顔料の含有量[%]、樹脂の含有量/顔料の含有量の値[倍]も示した。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
<評価>
上記で得られた各インクを、それぞれインクカートリッジに充填し、熱エネルギーの作用によりインクを吐出させる記録ヘッドを搭載するインクジェット記録装置(商品名:PIXUS Pro9500;キヤノン製)に搭載した。この記録装置は解像度が600dpi×600dpiであり、1/600inch×1/600inchの単位領域に1滴あたり3.5pLのインク滴を6滴付与する条件で、各評価に用いるベタ画像を記録した。この際のプリンタドライバの設定は、用紙の種類:普通紙、印刷品質:標準、色調整:自動とし、記録媒体としては普通紙(商品名:PB PAPER GF−500;キヤノン製)を用いた。
【0069】
(発色性の評価)
上記の条件で、それぞれのインクで5cm×5cmのベタ画像を記録した。得られた画像を温度23℃、相対湿度55%で24時間乾燥させた後、分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件でベタ画像の光学濃度を測定し、画像の発色性の評価を行った。発色性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表3に示す。本発明においては、下記の評価基準でAを許容できるレベル、B及びCを許容できないレベルとした。
A:光学濃度が基準値より0.05以上高かった。
B:光学濃度が基準値より高かったが、基準値を上回る程度は0.05未満であった。
C:基準値(同種の顔料を含有する参考例のインクを使用した画像)、又は、基準値と同等以下であった。
【0070】
(吐出安定性の評価)
上記の条件で、A4サイズの記録媒体に19cm×26cmのベタ画像を300枚分記録した。その後、インクジェット記録装置から記録ヘッドを取り外し、インク流路の内部を光学顕微鏡で観察した。吐出安定性はインク流路に生じた堆積物により低下するので、析出物の発生の状態により吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表3に示す。本発明においては、下記の評価基準でA及びBを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。
A:堆積物がほとんど生じていなかった。
B:堆積物がわずかに生じていた。
C:堆積物がインク流路の全体にわたって生じていた。
【0071】