【実施例1】
【0014】
まず、画像形成装置の概略構成について簡単に説明した後、本実施例の帯電装置(コロナ帯電器)について詳しく説明する。
【0015】
§1.{画像形成装置の概略について}
以下に、プリンタ100の画像形成に関わる部位(画像形成部)について簡単に説明する。
【0016】
■(装置全体の概略構成について)
図1の(a)は画像形成装置としてのプリンタ100の概略構成を説明するための図である。画像形成装置としてのプリンタ100は第1から第4のステーションS(Bk〜Y)を備え、それぞれの感光ドラム上に異なるトナーで画像を形成する。
図1の(b)は画像形成部としてのステーションを拡大した詳細図である。各ステーションは、感光ドラム上に形成された静電像を現像するトナーの種類(分光特性)を除き略同一であるため、第1のステーション(Bk)を代表して説明する。
【0017】
画像形成部としてのステーションS(Bk)は像担持体としての感光ドラム1と、感光ドラム1を帯電する帯電装置としてのコロナ帯電器2を備える。感光ドラム1はコロナ帯電器2により帯電された後、レーザースキャナ3からの露光Lにより感光ドラム上に静電像が形成される。感光ドラム1上(像担持体上)に形成された静電像は現像装置4に収容されるブラックトナーによりトナー像へ現像される。感光ドラム1上に現像されたトナー像は転写部材としての転写ローラ5により中間転写体としての中間転写ベルトITBへと転写される。中間転写ベルトへと転写されずに感光ドラム1上に付着した転写残トナーはクリーニングブレードを備える清掃装置6により清掃除去される。なお、被帯電体としての感光ドラム1上(感光体上)にトナー像を形成するために関与するコロナ帯電器、現像器などを画像形成部と呼ぶ。なお、コロナ帯電器2(帯電装置)については後に詳述する。
【0018】
このように、各ステーションが備える感光ドラム1から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の順に転写されたトナー像は中間転写ベルト上に重ねられる。そして、重ねられたトナー像は2次転写部STにおいてカセットCから搬送された記録材へ転写される。2次転写部STにおいて記録材へと転写されずに中間転写ベルト上に残留したトナーは不図示のベルトクリーナにより清掃される。
【0019】
記録材上に転写されたトナー像はトナーと接触してトナーを加熱溶融させて記録材へ加熱定着する定着装置Fにより記録材へと定着され、画像が定着された記録材は機外へと排出される。以上が装置全体の概略構成である。
【0020】
§2.{コロナ帯電器の概略構成について}
以下にコロナ帯電器2の概略構成について説明した後、シャッタの開閉動作について簡単に説明する。
【0021】
図2はコロナ帯電器2の感光体側からの概略斜視図、
図3は本実施例のコロナ帯電器の側面図である。コロナ帯電器2はグリッド206を備える共に、コロナ帯電器の感光体側(被帯電体側)の開口を遮蔽可能なシート状のシャッタ210を備える。
【0022】
コロナ帯電器2は、前ブロック201、奥ブロック202、シールド203、204を備える。また、前ブロック201と奥ブロック202の間に放電ワイヤ205は張架され、高圧電源Pにより帯電バイアスが印加されると、放電して被帯電体としての感光体1を帯電する。
【0023】
■(放電ワイヤについて)
本実施例の放電電極としての放電ワイヤ205は直径が50μmのタングステンワイヤを用いた。なお、放電ワイヤとして、ステンレススチール、ニッケル、モリブデン、タングステンなどを用いてもよいが、金属の中で非常に安定性の高いタングステンを用いるのが好ましい。なお、シールドの内側に張架される放電ワイヤは円断面形状でもコノギリ歯のような形状であっても良い。以下に各構成について詳しく説明する。
【0024】
また、放電ワイヤの直径が小さすぎると放電によるイオンの衝突で切断、断裂してしまう。逆に、放電ワイヤの直径が大きすぎると安定したコロナ放電を得るために、放電ワイヤ205に印加する電圧が高くなってしまう。印加電圧が高くなると、オゾンが発生しやすくなるため好ましくない。そのため、放電ワイヤの直径を40μm〜100μmにすることが好ましい。また、放電ワイヤは清掃パッド216wにより清掃される。
【0025】
■(エッチンググリッドについて)
続いて、コロナ帯電器の開口長手方向に張架された制御電極としてのエッチンググリッド(以下、グリッド)について簡単に説明する。以下、特に説明がない場合でもグリッドとは、メッシュ状にグリッドを貫通する複数の開孔が形成されたものを指す。
【0026】
本実施例のコロナ帯電器2はシールド203、204により形成される開口のうち感光体と対向する側の開口に制御電極としての平板形状のグリッド206を備える。このグリッド206は放電ワイヤ205と感光体1の間に配置され、帯電バイアスが印加されることにより感光体へ向けて流れる電流量を制御する。
【0027】
ここで、本実施例では制御電極としてのグリッド206は、薄い金属平板(薄板状)にエッチング処理を施したいわゆるエッチンググリッドを用いている。なお、薄板とは厚みが1mm以下の板形状のものを指す。エッチンググリッドは、
図5に示すように、グリッド長手方向の両端部に梁部があり、梁部の間に斜めに小窓(開口部)が配列された形状である。以下に、表1はグリッドの各寸法について列記した表である。
【0028】
【表1】
【0029】
図5はグリッドの外形を説明するための図である。グリッドの一部を拡大して俯瞰した図であり、グリッド206のメッシュの形状を以下に説明する。
【0030】
グリッドの短手方向中央部はメッシュ形状になっており基線に対して(3)で設定した斜め45±1°に、(2)で示した幅0.071±0.03mmで(1)で示される開口幅0.312±0.03mmの間隔で形成されている。
【0031】
また、メッシュ部の間には(5)で示される6.9±0.1mm毎にグリッド206の撓みを抑制するために(4)で示される0.1±0.03mmの梁が長手方向に配設されている。上記のような貫通孔の幅を1.0mm以下を含む形状パターンをエッチング処理する事により、感光体1の帯電電位をより均一にすることができる。貫通孔部に対するメッシュ部の面積比が高いほど、帯電電位を均一にしやすい。板状のグリッドは放電ワイヤ205と感光ドラム1との間に配置されている。感光ドラム1とグリッド206の距離は近いほうが、感光ドラム1の帯電電位を均一にする効果が高い。本実施例では、感光ドラム1とグリッドの最近接距離は、1.5±0.5mmとした。
【0032】
この平板状のグリッド206は前ブロック201と奥ブロック202にそれぞれ配置された張架部207、209によって張架されている。前ブロック201に配置されている張架部207のつまみ208を操作することでグリッド206の支持が外れ、容易に着脱可能となっている(
図3参照)。さらに、グリッド206は張架部209付近で平板の一部に曲げ形状が与えられており、多少の伸縮性を備える。そのため、グリッドがコロナ帯電器に張架された状態でも、外力を受けるとある程度に移動することができる。なお、本実施例においてグリッドの基材はオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、以下SUSと記載)からなる厚さ約0.03mmの薄板上の板金にエッチング加工によって多数の貫通孔が形成されたものを使用した。なお、本実施例の平板状のグリッドについては
図5に示した通りのメッシュ状のものでもよいが、この形状に限定する趣旨ではない。たとえば、例えば特開2005−338797に見られるハニカム構造形状の平板状のグリッドにであってもよい。このエッチンググリッドに対して施した耐腐食性などの向上を目的として施したコーティングについては後に詳述する。
【0033】
なお、エッチンググリッドを用いて感光体を帯電する場合、グリッドの貫通孔が1mm以下とすることで、グリッドに印加した電圧に感光体電位を精度よく収束させることができる。具体的には、エッチングにより形成されたグリッドの面積に対する貫通孔の面積の比率が95%以下であれば感光体の表面電位を良好に制御できる。
【0034】
■(清掃ブラシについて)
以下に、グリッドを清掃する清掃部材としての清掃ブラシ216gについて簡単に説明する。本実施例ではグリッドの放電ワイヤ側の面を長手方向に移動して清掃する清掃ブラシを備える。このブラシはシャッタを開閉させる駆動源であるモータM2からの駆動力を受けてグリッド長手方向に移動する。
【0035】
清掃ブラシ216gは板状グリッドに対して所定の侵入量を保ちながら、移動してグリッドを清掃する。清掃ブラシを保持するホルダーはABS樹脂を用いた。
【0036】
また、清掃ブラシ216gの毛体は、アクリル系ブラシを難燃化処理し、基布に織り込んだものを使用した。具体的には、清掃ブラシは、太さが9デシテックスのアクリル製のパイルを70000本/インチの密度で織り込んだものを用いており、清掃時に板状グリッドに0.3〜1.0mmの侵入量になるような長さとした。なお、清掃ブラシの毛体は、ナイロン(登録商標)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)等を用いてもよい。同様に、清掃部材をブラシに限るものではなく、フェルト、スポンジのようなパット(弾性体)や、アルミナ、炭化珪素などの研磨剤を塗布したシートを使用しても良い。
【0037】
■(帯電シャッタについて)
続いて、
図3を用いて帯電シャッタ(以下、シャッタ)とシャッタを巻取り収納する構成について説明する。コロナ帯電器2は、シールドの感光体に対向する開口(幅約360mm)のうち少なくとも感光体上に画像が形成される部分の全域(幅約300mm)を遮蔽するシート状のシャッタ210を備える。シャッタ210はグリッド206と感光体1の間の隙間を移動してシールドの開口部を開閉する。本実施例の画像形成装置はシャッタ開状態において、グリッド206と感光体1の最近接部の距離は約1.0mmと狭い。そのため、感光体とシャッタが接触したとしても感光体を傷つけないように、シャッタ210には柔らかい可撓性のシート形状の不織布を用いた。また、シャッタの短手方向の幅はコロナ帯電器の短手方向の幅よりも広い。ここで、本実施例のシャッタ210はレーヨン繊維を含み、厚みが100μmのものを用いた。なお、シャッタはシート状であれば、ナイロン繊維を編んだものや、ウレタンやポリエステルを用いたフィルムを用いてもよい。
【0038】
シャッタ210は、コロナ帯電器2の長手方向の端部においてシャッタを巻き取る巻取り機構211によりロール状に巻き取られて収納される。この巻取り機構211はシャッタ端部を固定したローラと、ローラを付勢するねじりコイルばねを備える。シャッタ210はコイルバネによりシャッタを巻き取る方向(開口開き方向)に付勢され、これによりシャッタの長手中央が垂れにくくなる。
【0039】
さらに、シャッタ210にコロナ帯電器長手方向のテンション(張力)を加えることで、シャッタ210とコロナ帯電器2との隙間からコロナ生成物が外側に漏れにくい状態を維持することができる。
【0040】
巻取り機構211は、巻取り機構211を保持する保持ケース214ととともに前ブロック201に保持されている。保持ケース214のシャッタ引出部近傍には、シャッタ210がグリッド206のエッジや張架部207とそのつまみ208などと当接しないようにするためガイド(案内)するガイドコロ215が配置されている。
【0041】
また、シャッタ210の長手方向の他端は板ばね212に固定されている。板ばね212はシャッタを保持し閉方向に牽引すると共に、シート状のシャッタをアーチ形状に規制することでシートにコシを与えている。具体的には、シャッタの短手方向の中央部を放電ワイヤ側に向けて凸形状となるように板ばね212で規制している。
【0042】
さらに、シャッタ210の先端近傍を保持する牽引部材兼規制部材としての板ばね212は移動部材としてのキャリッジ213に接続されている。板ばね212は厚さ0.10mmの金属材料を用い、薄いながらもシャッタを牽引するに耐える強度を得ている。
【0043】
キャリッジ213がコロナ帯電器の上方に設けられたスクリュ217からの駆動を受けて、奥側(開口閉方向)に移動すると、シャッタ210は巻取り機構211から引き出される。また、キャリッジ213が手前側(開口開方向)に移動すると、シャッタ210は巻取り機構211により巻き取られて保持ケース214に収納される。シート状のシャッタをコロナ帯電器と感光体の間の狭い隙間を通すため、耐久や寸法公差等によりシャッタはグリッドへ意図せず接触してしまう場合がある。
【0044】
■(シャッタの開閉制御について)
続いて、コロナ帯電器2のシャッタの開閉制御について簡単に説明する。
図4の(a)は制御回路を模式的に示したブロック図、
図4の(b)は制御内容を説明するためのフローチャートである。
【0045】
図4の(a)に示すように、制御手段としての制御回路(コントローラ)Cは、内部に保持されたプログラムに従い、駆動源としてのモータM2、高圧電源P、ドラムモータM1を制御する。また、ポジションセンサPSはフラグの有無を制御回路に通知する。
【0046】
画像形成信号を受け、制御回路CはポジションセンサPSの出力に基づき、シャッタが閉じた状態である場合、モータM2を駆動して開口を開くようにシャッタを移動させる(S101)。続いて、シャッタを退避させた状態(開口開)で、ドラムモータM1を駆動して感光体1を回転させる(S102)。
【0047】
また感光体を帯電するために、制御回路Cは高圧電源Sから放電電極及びグリッドに対して帯電バイアスを印加するように制御する(S103)。
【0048】
コロナ帯電器2によって帯電された感光体1に、他の画像形成部が作用させて、シート上に画像が形成される(S104)。画像形成終了後、制御回路Cはコロナ帯電器への帯電バイアスの印加を停止させ(S105)、続いて感光体の回転を停止させる(S106)。
【0049】
感光体回転停止後、制御回路CはモータM2を逆回転させてシャッタで開口を閉じる動作を実行させる(S107)。なお、画像形成直後にシャッタ210の閉動作を行っても、画像形成終了から所定の時間経過後に閉動作を実行してもよい。
【0050】
なお、本実施例ではシャッタを移動させるモータM2で清掃ブラシを長手方向に移動させる。そのため、シャッタの開閉動作に伴いグリッドは清掃されるため、グリッドに付着する粉塵やトナー、外添材や、放電生成物などによる帯電不良、帯電不均一性の発生を抑え、長期間に渡って高品質な画像を得ることができる。
【0051】
§3.{グリッドのコートに関する詳しい説明}
以下に、本実施例の平板形状のグリッド206に施した表面処理について詳しく説明する。
図6はエッチンググリッドの基材および保護層について説明するための図である。以下に、グリッドの基材、保護層を形成する材料と成膜方法について説明する。
【0052】
■(グリッドの基材について)
図6に示すように、エッチンググリッド206の図中上面を放電電極側と呼び、図中下面を感光体側と呼ぶ。本実施例のグリッドの基材はSUSを用いた。基層206bとして、他のオーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、あるいは、フェライト系ステンレス鋼等を使用しても良い。
【0053】
前述の通り、コロナ放電により生成される放電生成物は酸化剤として作用する。そのため、グリッドにSUSなどの比較的高い耐腐食性を備える材質を用いたとしても放電生成物により絶縁性の金属酸化物が発生してしまう。SUSの表面にはCr酸化物を主成分とした不動態膜が形成される。この不動態膜が金属素地を外界から遮断することでSUSは比較的高い耐食性を発揮する。なお、この不動態膜は自己補修するため、長期に渡り耐腐食性を発揮することが知られている。
【0054】
しかし、コロナ帯電器のグリッド電極としてSUSを用いる場合には、極めて過酷な環境(高濃度のオゾン、NOx環境)にさらされる。とりわけ、高湿環境下ではSUSの自己補修が間に合わず、発銹等の腐食損傷が生じてしまう。これは、酸化性物質(オゾン、NOx等)により破壊された不働態膜中のCr等の金属原子が不動態膜として自己補修する前に酸化性物質と反応し錆が生じると考えられている。より具体的には、空気中の水に溶けたオゾンの一部が分解してフリーラジカル(OH)が形成され、オゾンの間接酸化反応によりSUSが酸化すると考えられている。
【0055】
そのため、コロナ帯電器のグリッドとしてSUSを用いる場合には、錆の発生を抑制するために、グリッド基材の表面に金等の防錆効果のある保護膜(めっき)を形成することが望まれていた(特開2007−256397号公報等を参照)。
【0056】
■(保護層を形成する材質について)
本実施例において、グリッドの基材206b(SUS)はテトラヘデラルアモルファスカーボン(Tetrahedral Amorphous Carbon:以下、ta−Cと称す)でコートする。ここで、ta−Cとは、ダイヤモンドライクカーボン(diamond‐like carbon:以下、DLC)に分類される放電生成物に対して化学的に不活性度が高い材料である。
【0057】
DLCの構造は通常水素を若干含有したダイヤモンド結合(または、sp3結合)とグラファイト結合(または、sp2結合)とが混在した非晶質(アモルファス)構造をとる。
図7はta−Cの構造を説明するための模式図である。白丸(図中○)が炭素原子を、線(図中−)が結合状態を示す。ta−Cはミクロ的には四面体結晶構造を有し、マクロ的にみると非晶質構造を持つ化学種(アモルファス)である。
【0058】
ta−Cは、sp3結合とsp2結合が混在した構造であり、組成として硬度に感度を持つsp3結合(ダイヤモンド構造)と、摺動性に感度を持つsp2結合(グラファイト構造)の両方を備える。そのため、結合の割合に応じて、耐摩擦性や磨耗特性などが変化する。なお、sp3混成軌道のみ炭素原子が結晶化すると、
図8の(a)に示すようにダイヤモンド構造となる。同様に、sp2混成軌道のみの炭素原子であれば、
図8の(b)のようにグラファイト(黒鉛)構造となる。
【0059】
このような構造を備えるta−Cは他の材質に比べ、常温では空気、水等に対して不活性、耐腐食性、低摩耗性、自己潤滑性、高硬度、表面平滑性に優れている。また、ta−Cは化学的吸着及び酸化反応等が起きにくい特性を有し、磨耗や傷の発生による部分的機能劣化に対しても有効な部材である。
【0060】
グリッドの表面に形成された保護層(ta−C層)は、帯電性能を阻害せずに高い腐食効果を得る機能が最大限に発揮できるよう体積抵抗率、膜厚、および、表面の平滑性を最適化する必要がある。そのため、体積抵抗率は中抵抗と帯電部材に適した体積抵抗率となるように材料特性を調整することが好ましい。そのため、保護層(ta−C層)の体積抵抗率は10
7〜10
10Ω・cm程度であればよい。本実施例は、より好ましい10
8〜10
9Ω・cm程度の体積抵抗率となるように保護層(ta−C層)を形成した。また、本実施例ではta−C層をsp3結合とsp2結合の割合が7:3となる成膜条件を選出した。
【0061】
■(保護層の形成方法について)
本実施例において、グリッドの基材206b(SUS)に対して、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc Technology)法を用いてta−C層を形成した。ta−CはCrよりも耐腐食性等の面で優れた特性を備えるコート材料であるが、成膜(コーティング)方法が限られている。具体的に、グリッド電極をDLCでコートするためには、いわゆる蒸着(スパッタ)で成膜するのが一般的である。
【0062】
蒸着による成膜はめっき液に基材を浸ける「液浸めっき」などと異なり、グリッドの両面に略同一の保護層を形成するのが難しい。これは、グリッドを低圧の保護膜形成室(チャンバー)内に保持し、保護層を形成する材料を一方向から吹きつけるためである。そのため、1度の蒸着処理でグリッドの両面に略同一厚みの皮膜を形成するのは困難である。なお、略同一の厚みとは膜厚の10%、本例では±5μm程度の差を指す。
【0063】
なお、保護層を形成することを、ライニング(lining)、フェイシング(facing)、コーティング(coating)などと呼ぶ場合があるが、本実施例ではこれらを総括して表面処理と呼ぶ。
【0064】
FCVA法によりSUS基材にta−C層を形成する際には、黒鉛をバキュームアーク放電により炭素プラズマを発生させ、そこからイオン化した炭素を抽出して、SUS基材上に堆積させる。なお、FCVA法の他に、PVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などで成膜してもよい。当然、保護膜を形成する材料に応じて適切な処理方法を選択すればよく、上記処理方法に限るものではない。
【0065】
■(グリッドへの保護膜形成について)
FCVA法等の蒸着による保護層の成膜には指向性を備える。つまり、保護材を吹き付ける面とその反対側の面では保護膜の成長速度が異なる。ここで、エッチング処理した薄板形状のエッチンググリッドであれば、メッシュ部分を炭素(プラズマ)が通過して裏面へと回り込み易い。
【0066】
そのため、片面から成膜してもグリッドの裏面側にも十分な厚みの保護膜を形成することができる。当然、両面から成膜するわけではないので、表面側の保護層は裏面側の保護層よりも厚くなりやすい。なお、蒸着によりグリッドの両面の保護層の厚みを同一しようとすれば、グリッドの両面から成膜すればよい。しかし、片面から成膜する場合に比べてコストが高くなる。しかし、膜厚と成膜時間は比例関係にあるため、膜厚を厚くしようとすれば成膜に要する時間が長くなる。当然、成膜時間が長くなると成膜工程のタクトタイムの低下を招き、コストアップを招くため好ましくない。
【0067】
そのため、ta−C層の膜厚は板状グリッドのエッチングにより形成したメッシュのエッジ部分(薄板の端面)で成膜不良が発生しない膜厚まで成長させることが望ましい。これは、エッジ部分において成膜不良が発生すると画像形成時においてエッジ部分に腐食電流が集中するためである。なお、保護層の厚みを0.02μm未満で形成しようとする場合、エッジ部分近傍で成膜不良が発生する可能性がある。そのため、グリッドに形成する保護膜の厚みは0.02μm以上とすることが好ましい。80,50
■(保護層の表面性について)
続いて、保護層(ta−C層)を形成した後のグリッドの表面性について説明する。ta−C層の表面の粗さが粗くなると、グリッドの表面に形成されたta−C層の表面積を増やす方向になる。ta−C層の表面積が大きくなると、ta−C層の表面に放電生成物、あるいは、エアロゾルや飛散してきたトナーや外添材等が付着する可能性が高くなる。
【0068】
ta−C層の表面に吸着された放電生成物、あるいは、エアロゾルや飛散してきたトナーや外添材等の付着や腐食に伴う画像不良を招く恐れがある。そのため、ta−C層の表面を平滑化することが好ましい。
【0069】
また本実施例のグリッドは、グリッドを清掃する清掃部材としての清掃ブラシが接触する。清掃ブラシの接触による保護層の摩耗を抑制するためには、保護層の表面が平滑である事がより好ましい。板状のグリッドの表層材質として、様々な材質が適用可能であるが、ta−C層は、上述のように対摩耗性にも優れており、清掃部材など接触摩擦が生じる構成におけるグリッドの保護層の材質として好ましい。なお、SUS上に被膜されたta−C層の平滑性は下地となるSUSの表面の粗さが反映されやすい。
【0070】
ta−C層表面をJIS−B0601:2001に定義される算術平均高さRaが2.0μm以下にすることが望ましい。また、成膜コストは高くなるがta−C層表面が1.0μm以下であれば、外添剤の付着を抑制することができる。本実施例ではグリッドのta−C層表面を0.07μm〜0.05μmとなるように成膜した。なお、上述の平滑性をta−C層が持つためには、SUS表面をJIS−B0601:2001に定義される算術平均高さRaが1.5μm以下とした。本実施例の保護層を成膜する前のSUS表面は0.5μm〜0.3μmのものを用いた。
【0071】
■(ta−C層の成膜条件について)
以下に、エッチンググリッドへの保護層(ta−C層)を形成の条件について詳しく説明する。ta−C層(保護層)の成膜温度は0℃以上350℃以下が好ましく、40℃以上220℃以下がより好ましい。また、成膜速度は1.5nm/secに設定し、グリッドの放電ワイヤ側の膜厚0.05μm、シャッタ側の面(感光ドラム面側)の膜厚をワイヤ側の膜厚よりも厚い0.06μmとした。ここで、ベース材料の色と、保護層の色に差があれば光学濃度を測定することで膜厚の厚差を検知しても良い。具体的には、SUSは金属光沢を備える銀白色であり、それに対してta−Cは膜厚に応じて、赤茶色〜青紫色(群青色)〜青みがかった銀色と色が変わる。そのため、成膜厚みを色味、濃度差で検知してもよい。当然、保護材が無色透明の場合や正確に層厚を測定したい場合は、グリッド断面を電子顕微鏡で観察すればよい。
【0072】
なお、保護材としてアモルファスカーボン(ta−C)を用いる場合、保護膜中のカーボンはsp3構造とsp2構造が一定割合で存在する。発明者の検討により、sp2構造よりsp3構造を多く含む方が、対腐食性、対摩耗性に優れる事が判明した。
【0073】
これはsp2構造が多いとグラファイト平面層間にミクロ孔充填が発生しやすく、他化学種(本実施例ではオゾン、放電生成物、遊離基)を吸着、充填しやすい状態になる。腐食自身は両者の組成において遜色がないが他因子(もらい錆等)による腐食の影響が組成比に影響したと推察している。これに対し、sp3構造の組成を多くすることによりナノ細密構造となり、結晶構造の割合を高めることが上記の他因子による弊害を抑制したと推察される。
【0074】
そこで、本実施例のta−C層のsp3構造及びsp2構造の組成割合に関しては、ta−C層のsp3構造及びsp2構造の組成割合がsp3:sp2=6:4以上の割合でsp3構造を多く含む事が好ましいことが検討により判明した。また、より好ましくは、sp3:sp2=7:3以上の割合でsp3構造を含む事が好ましいことが発明者らの検討により判明した。本実施例では、sp3構造及びsp2構造の組成割合が7:3となる成膜条件を選出し、本実施例のグリッドの表層成膜に用いた。なお、保護層中の炭素のsp3構造とsp2構造の割合はラマン顕微鏡(例えば、ナノフォトン社製RAMAN−11)などを用いて検出することができる。より具体的には、光源として単色光であるレーザー光をta−C層に照射して、発生したラマン散乱光を分光器や干渉計で検出してスペクトル分布を得る。取得したスペクトルのピークに基づき、sp3とsp2構造の割合を算定することができる。
【0075】
また、組成割合を変更する成膜条件に関しては、FCVA法の他に、特開2005−15325に記載されているレーザーアブレーション法、表面科学Vol.24,No.7,pp.411−416に記載されている高周波マグネトロンスパッタリング法を用いてもよい。これにより、基板温度、パルス電圧、アシストガス流量、雰囲気内ガス種及びアニール処理温度を設定することにより様々な組成割合の保護層を成膜することができる。
【0076】
また、成膜の際は、板状のグリッドの放電ワイヤと感光ドラムの其々の面に対して成膜して成膜の厚みを調整してもよいし、片面側からの成膜時に、もう一方の面に成膜材(ta−C)が回り込むような成膜方法により成膜してもよい。尚、放電ワイヤや感光体に対向する面のみでなく、放電ワイヤ、あるいは、像担持体と対向する面と直交するグリッドの側面に対してもta−C層が設けられるよう成膜を行っている。これにより、放電生成物やエアロゾル等の付着と、付着に起因する弊害を抑制する事ができる。本実施例では、放電ワイヤ、あるいは、像担持体と対向する面と直交するグリッドの側面に、ta−C層を0.02μm以上形成するように成膜した。
【0077】
本実施例では、成膜した表面上の粗さを、JIS−B0601:2001に定義される算術平均高さRaが2.0μm以下になるようta−C層を成膜した。ta−C層を板状のグリッド表層に成膜することで耐腐食性に加えて、耐摩耗性や耐付着性を良好にすることができる。これにより、グリッドの腐食に加えて、摩耗、異物の付着に起因する画像不良の発生を長期にわたって抑制できる。なお、表層の材質はta−Cである事がより好ましいが、それ以外の材質を用いてもよい。
【0078】
■(シャッタとグリッドの膜厚の関係について)
本実施例のコロナ帯電器2は開口を遮蔽するシャッタを備える。シャッタ210はグリッドと感光ドラム1との間に入り込み、放電生成物が感光ドラムに付着するのを抑制する。ここで、グリッド206と感光ドラム1との距離は約1.5mmであるため、その隙間を動くシート状のシャッタはグリッド206と接触する可能性がある。また、シャッタ210はグリッドと接触するように配置した方が、帯電器から放電生成物が外に漏れる量を低減できるため好ましい。
【0079】
ここで、開口をシャッタで閉じると、シャッタのグリッド側の面に放電生成物が付着する。そのため、放電生成物が付着したシャッタがグリッドに付着すると、シャッタからグリッドへ放電生成物が付着するため、グリッド表面は放電生成物の影響を受ける。
【0080】
そこで、本実施例では、前述のようにグリッドのta−C表層膜厚を放電ワイヤと対向する側の面の膜厚を0.05μm、感光体(シャッタ)と対向する側の面の膜厚を0.06μmとした。これにより、放電生成物、飛散トナー、外添材等のシャッタに付着した異物がグリッドのシャッタ側の面に与える影響(主に腐食)を、長期間にわたって抑制する事ができる。
【0081】
§4.{グリッドの耐久評価}
上述のように構成した画像形成装置を用いて行った評価試験の結果について以下に述べる。
図9は上記構成の装置を用いて画像を出力した際の試験結果を示す図表である。以下に詳しく説明する。
【0082】
■(試験条件と評価基準について)
以下の試験は、キヤノン製のカラー複写機imagePRESS C1にグリッド、清掃ブラシ、シャッタを備えるコロナ帯電器を装着して試験した。ここで、グリッドは放電ワイヤと対向する面の膜厚20〜80nm、感光ドラムと対向する面の膜厚20〜100nmの範囲のta−C層を成膜したグリッドを付け替え評価した。
【0083】
試験工程(条件)は、高温高湿環境(温度30℃、湿度90%)下で12時間、放電ワイヤに総電流1000μA、グリッド電圧を−800Vを印加する放電工程と、シャッタを閉じて12時間放置する放置工程を累計480時間繰り返した。なお、放電工程において、1時間毎に清掃ブラシでグリッドを清掃する清掃動作を実施した。
【0084】
このような試験環境下で、96時間毎にグリッドを評価した。具体的には、ta−C層の汚染レベルを、出力される画像、光学顕微鏡による表面観測、表面粗さなどで評価した。
【0085】
■(試験結果について)
上記のコロナ放電試験を行った帯電器にて、ハーフトーン画像等を出力し、画像と板状のグリッドとの評価を行った。ta−C層の膜厚は、放電ワイヤと対向する面の膜厚20〜50nm、感光ドラムと対向する面の膜厚20〜100nmの範囲の表層性膜を10μm刻みで作成し試験を行った。
【0086】
画像の評価は、初期画像と比較し斑の発生による濃度のムラについて行い、板状のグリッドは、腐食の程度を、以下の評価基準で行った。なお、画像評価基準におけるDはハーフトーン画像における濃度を示し、出力された画像の感光体長手方向に沿った濃度斑の最大最小の差をΔDとして表す。
図9中の記号(○、△、×)は以下の通りである。
【0087】
[画像評価基準]
○濃度ムラ等無し、ΔD≦0.05
△軽微にムラ有り、0.05≦ΔD≦0.2
×ムラ有り、0.2≦ΔD
グリッド表層の汚染は、異物付着、表層の摩耗、放電生成物による腐食によって生じる。ここで、グリッドの汚染レベルは放電ワイヤ側の面と、シャッタがある感光ドラム側の面の異物の付着を以下のように評価した。
【0088】
[汚染レベル評価基準]
◎:ほとんど付着物無し、軽微の付着
○:局所的な異物付着
△:全面に軽微な異物付着
×:全面に付着
図9に示すように、放電ワイヤ側は40nm以上、かつ感光ドラム側は50nm以上のta−C成膜があると、画像評価を含む汚染レベルがともに良好となる。さらに、望ましくは、放電ワイヤ側は50nm以上、かつ感光ドラム側は60nm以上がより耐久性が良好であるという結果であった。
【0089】
グリッドを交換する時に、放電ワイヤ側の面と感光ドラム側の面の汚染が同時にNGになる事が好ましい。なぜなら、グリッドのどちらかの面の汚染レベルがOKのまま、交換することは、グリッドの表層成膜を不必要に厚くしていることを示している。
【0090】
なお、保護層の膜厚が厚すぎる場合、基層(SUS)と保護層(ta−C層)の剥離やボンディングを招き易くなる。同様に、成膜処理に要する時間が長くなると同時に、成膜材料(保護)を必要以上に消費する。そのため、グリッドへ保護層を設けるために要するコストが高くなる。具体的には、保護層としてta−C層を形成する場合、膜厚が170nm以上になると成膜が難しくなる。そのため、成膜材料と成膜時間を抑えるためにも、成膜厚は170nm以下にすることが好ましい。
【0091】
■(保護層の膜厚差について)
上記試験結果(
図9)から、汚染レベルを△以上に保つには、ta−C層の成膜厚は放電ワイヤ側の面は20nmより厚く、感光ドラム側の面は、30nmより厚い事が必要である。これは、グリッドの感光ドラム側はシャッタに付着した放電生成物による腐食も加わるため、必要となる保護層の厚みが厚くなると考えられる。つまり、グリッドの放電ワイヤ側の面は20nm以上170nm以下、感光ドラム側の面は30nm以上170nm以下であれば良い。
【0092】
そのため、発明者はグリッドの放電ワイヤ面と感光ドラム面の保護層の厚みの比について検討した。その結果、放電ワイヤ側の保護層の厚みを感光体側の保護層の厚みよりも少なくとも1.1倍以上とすることで、感光体側の保護層を放電ワイヤ側の保護層より早く汚染許容範囲外となることはないと判明した。
【0093】
環境条件の変動(主に、放電ワイヤに流れる電流値の変動)を加味した場合、グリッドの感光体側の保護層の厚みを放電ワイヤ側の保護層の厚みの1.1倍〜1.8倍の範囲(より好ましくは、1.1倍〜1.6倍)にある事がより好ましい。上述の範囲では、放電ワイヤ側の面と感光体側の面の汚染レベルが、略同等程度に汚染していく。そのため、保護膜の厚みを上記範囲に収まるように成膜することで、成膜時間を抑えることができる。
【0094】
なお、基材や保護層の材質にもよるが、保護層(表層)が摩耗し残りの膜厚が所定値以下(薄く)となると、薄くなった部分から腐食や異物の付着が始まる。そして、腐食や異物の付着により帯電ムラが生じ、結果として出力される画像に濃度ムラが生じてしまう。
【0095】
そのため、グリッドの基材、グリッドをコートする材料、シャッタの材質、シャッタの動作回数等を加味して、保護層の膜厚を決定していくことが好ましい。
【0096】
本実施例の構成では試験結果を加味し、グリッドの放電ワイヤ側のta−C層を膜厚0.05μm、感光体側のta−C層の膜厚を0.06μmとした。これにより、シャッタにより画像流れの発生を抑制しつつも、長期間に渡り帯電ムラの発生を低コストで抑制することができた。