特許第6039250号(P6039250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039250
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20161128BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20161128BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20161128BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20161128BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   A61K8/73
   A61K8/37
   A61K8/06
   A61K8/891
   A61Q19/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-131675(P2012-131675)
(22)【出願日】2012年6月11日
(65)【公開番号】特開2013-256449(P2013-256449A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】石松 孝之
(72)【発明者】
【氏名】大村 孝之
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−342451(JP,A)
【文献】 特開2010−222349(JP,A)
【文献】 特開2004−091415(JP,A)
【文献】 特開平08−245357(JP,A)
【文献】 特開2010−168302(JP,A)
【文献】 特開2009−203200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)寒天粉砕ゲルを寒天固形分に換算して0.01〜5質量%、
(b)下記式:
【化1】
(式中、Aは炭素数7〜20のアルキル基)で表されるネオペンタン酸のエステル誘導体を0.1〜7質量%、及び
(c)25℃における動粘度が100cs以下である直鎖状シリコーン油を0.1〜15質量%
含有する乳化化粧料。
【請求項2】
(b)ネオペンタン酸のエステル誘導体がネオペンタン酸イソデシルである、請求項1記載の乳化化粧料。
【請求項3】
(c)直鎖状シリコーン油が25℃における動粘度が100cs以下のジメチルシリコーンオイルである、請求項1又は2に記載の乳化化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化化粧料に関し、より詳しくは、べたつきがなく、保湿効果に優れるのみならず、塗布時の肌馴染みや浸透感に優れたスキンケア化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚角質層の水分量は、皮膚の健康維持や外界からの様々な刺激からの防御機能に密接に関係し、皮膚の老化防止、うるおい、滑らかさの維持などに大きな役割を果たしている(非特許文献1)。この角質層の水分は、通常、天然保湿因子(NMF)と皮脂膜によってコントロールされているが、老化や外界からの刺激によって容易にその機能が低下することから、保湿化粧料によって保湿成分を補い皮膚の水分を正常に保つことが重要である。
【0003】
従来から用いられている保湿化粧料の多くには、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、グリセリン等の水溶性多価アルコールが保湿剤として配合されている。しかしながら、これらの水溶性多価アルコールを配合した保湿化粧料は、保湿効果は発揮するもののべたつき感のある重い感触になるという欠点があった(特許文献1、段落0002参照)。
【0004】
一方、化粧品に汎用される増粘剤としてキサンタンガム、カラギナン、グアーガム、ローカストビーンガム等の増粘多糖類が知られている。しかしながら、これらの増粘多糖類はべたつきを生じる傾向があることから、保湿化粧料に配合すると使用性をさらに低下させてしまうことがある。
【0005】
近年、べたつきの無さ等の使用性、長期安定性(離水のなさ)に優れた増粘剤として、寒天粉砕ゲルが提案されている。特許文献2には、寒天等のゲル化能を有する親水性化合物を、水または水性成分に溶解した後、放置冷却してゲルを形成し、次いで当該ゲルを粉砕して得られた平均粒径0.1〜1000μmのミクロゲル状としたものを増粘剤として用いることが提案されている。このようにして得られる増粘剤は、従来化粧料に用いられてきた増粘多糖類あるいは合成高分子増粘剤と異なり、分子レベルの絡み合いにより増粘効果を発揮するものではなく、ゲルを粉砕したミクロゲル同士の摩擦により増粘効果を発揮するため、べたつきを生じにくく、さっぱりとした使用感を実現することができるとされている。
【0006】
これまでに、この寒天粉砕ゲルを用いた種々の化粧料が開発されており(例えば特許文献3及び4)、保湿化粧料に応用することも提案されている(特許文献5)。特許文献5には、保湿効果を有するスキンケア乳化化粧料において、板状粉末、保湿剤、IOBが0.1〜0.5である油分、及び寒天粉砕ゲルを組み合わせて、保湿効果(しっとり感)を長時間維持し、べたつきを抑え、なおかつツヤ実感を向上することが提案されている。特に、べたつきの無い化粧料を得るには板状粉末を配合する必要があり、さらに、板状粉末によって生じ得るかさつきがIOBが0.1〜0.5である油分による保湿効果によって相殺されると考えられている。
【0007】
しかしながら、寒天粉砕ゲルを含む乳化化粧料に粉末成分を配合すると、べたつきの無さにおいては非常に優れるものの、肌に塗布する際の馴染みが悪くなったり、かさつきやきしみ感を生じたりする場合がある。
【0008】
かくして、保湿効果に優れ、べたつきがないことに加え、肌への浸透感が良く、きしみ感を与えることのない乳化化粧料が依然として望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−131520号公報
【特許文献2】特開2001−342451号公報
【特許文献3】特開2009−203200号公報
【特許文献4】特開2001−342125号公報
【特許文献5】特開2010−168302号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「化粧品成分用語事典2008」、鈴木一成著、2008年、中央書院発行、第71頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、特に肌馴染みや保湿効果に優れた乳化化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、寒天粉砕ゲルを含む乳化化粧料に、ネオペンタン酸のエステル誘導体と直鎖状低分子量シリコーン油とを所定量配合することにより、べたつきが抑えられることに加え、しっとり感と肌馴染みの良さを同時に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。特筆すべきは、ネオペンタン酸のエステル誘導体と直鎖状低分子量シリコーン油とを組み合わせて用いることにより、他のエステル油や環状シロキサン油では得られない優れた肌馴染みの良さ、すなわち肌に対する浸透感を実現できることである。
【0013】
すなわち本発明は、
(a)寒天粉砕ゲルを寒天固形分に換算して0.01〜5質量%、
(b)ネオペンタン酸のエステル誘導体を0.1〜7質量%、及び
(c)直鎖状低分子量シリコーン油を0.1〜15質量%
含有する乳化化粧料を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る乳化化粧料によれば、寒天粉砕ゲルの配合により化粧料を肌に塗布する際にべたつきを生じにくく、さっぱりとした使用感を有すると同時に、ネオペンタン酸のエステル誘導体と直鎖状低分子量シリコーン油の配合により肌への親和性としっとりとした感触を同時に改善することができる。しかも、べたつき抑制のために粉末成分の配合を必要としないことから、粉末特有のきしみ感を生じることもない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の乳化化粧料は、(a)寒天粉砕ゲル、(b)ネオペンタン酸のエステル誘導体、及び(c)直鎖状低分子量シリコーン油を所定量含有することを特徴とする。以下、本発明について詳述する。
【0016】
<(a)寒天粉砕ゲル>
寒天粉砕ゲルは、寒天を水又は水性溶媒に溶解した後、放置冷却して固化させて形成したゲルを粉砕して得られるものである。このようにして製造される寒天粉砕ゲルは、各種製剤に配合してもべたつき感、きしみ感がなく、他の薬剤成分や塩類を高配合しても粘度低下をきたすことなく、長期にわたって安定な増粘剤として知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0017】
寒天粉砕ゲルに使用する寒天としては、ゲル化力の高いアガロースを主成分とするものであれば、天然物ないし市販品等のいずれも制限なく適用することができる。市販されている寒天としては、例えば、伊那寒天PS−84、Z−10、AX−30、AX−100、AX−200、T−1、S−5、M−7(伊那食品工業社製)等を好適に用いることができる。また、前記寒天として精製アガロースを使用してもよい。また、水性溶媒としては、化粧料、医薬品分野において用いられ得る水性成分であれば特に限定されるものでなく、例えば1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類や、エタノール、プロパノール等の低級アルコールのほか、一般に化粧料の水相成分として配合される成分を含有することができる。
【0018】
本発明における寒天粉砕ゲルの配合量は、寒天固形分に換算して0.01〜5質量%、好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。配合量が0.01質量%未満であると、増粘効果が十分でなくなる場合があり、5質量%を越えて配合しても効果の更なる向上は得られない。
【0019】
<(b)ネオペンタン酸のエステル誘導体>
ネオペンタン酸のエステル誘導体は、下記式:
【化1】
(式中、Aはアルキル基:好ましくは炭素数7〜20のアルキル基)
で表されるものを用いることができる。
ネオペンタン酸のエステル誘導体の具体例としては、ネオペンタン酸イソデシル、ネオペンタン酸イソステアリル、ネオペンタン酸オクチルドデシル等が挙げられる。なかでも、肌馴染みの改善効果に優れることから、ネオペンタン酸イソデシルが好ましい。
市販品としては、例えば、高級アルコール工業株式会社より商品名「ネオライト100P」、「ネオライト180P」として販売されているものを用いることができる。
【0020】
ネオペンタン酸のエステル誘導体の添加量は、乳化化粧料全量に対して、0.1〜7質量%が好ましく、0.5〜7質量%がより好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。0.1質量%以上であれば、肌馴染みの良さを十分に改善することができる。一方、7質量%より多く配合すると、却ってべたつきを生じる傾向がある。
【0021】
<(c)直鎖状低分子量シリコーン油>
直鎖状低分子量シリコーン油は、25℃における動粘度が100cs以下、より好ましくは50cs以下のジメチルシリコーンオイルが好ましく使用される。
【0022】
市販品としては、例えば、TSF451−5A、TSF451−10A、TSF451−20A、TSF451−100A(以上、モメンティブ社製)、SH200 C Fluid 5cs、SH200 C Fluid 6cs、SH200 C Fluid 10cs、SH200 C Fluid 20cs、SH200 C Fluid 30cs、SH200 C Fluid 50cs、SH200 C Fluid 100cs(以上、東レダウコーニング社製)、KF−96L−0.65cs、KF−96L−1cs、KF−96L−1.5cs、KF−96L−2cs、KF−96L−5cs、KF−96A−6cs、KF−96−10cs KF−96−20cs KF−96−30cs KF−96−50cs、KF−96−100cs(以上、信越化学工業社製)などが挙げられ、これらから適宜選択される1種又は2種以上を配合するのが好ましい。
【0023】
直鎖状低分子量シリコーン油の添加量は、乳化化粧料全量に対して、0.1〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がさらに好ましい。0.1質量%未満であると、肌馴染みの良さやしっとりした感触が不十分となり、15質量%より多く配合すると却って肌馴染みの良さやしっとりした感触を損なう傾向がある。
【0024】
本発明にかかる乳化化粧料は、本発明の効果を損なわない範囲内で、化粧料や医薬部外品の分野で通常配合されている各種成分、例えば、界面活性剤、乳化剤、粉末成分、固体油脂、保湿剤、増粘剤、金属イオン封鎖剤、色素、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、防腐剤、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0025】
特に、十分な保湿効果を付与するために、従来から化粧品に用いられている保湿剤を配合することが好ましい。保湿剤としては、具体的には、グリセリン(例えば、ダイナマイトグリセリン)、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール等の多価アルコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等のムコ多糖類、アミノ酸、ピロリドンカルボン酸(PCA)、乳酸等の天然保湿因子(NMF)又はその類似物、細胞間脂質又はその類似物、植物抽出物、可溶性コラーゲン、エラスチン、ケラチン等のタンパク質分解物、キチン、キトサン、酵母抽出物、海藻エキスなどを挙げることができる。
【0026】
本発明にかかる乳化化粧料は、水中油型または油中水型のいずれかの乳化物の形態で提供することが可能であり、従来から使用されている方法に準じて製造することができる。例えば、(b)ネオペンタン酸のエステル誘導体及び(c)直鎖状低分子量シリコーン油を含む油相成分を混合し、(a)寒天粉砕ゲルを含む水相成分を混合し、水相及び油相を混合してホモミキサー等で乳化することにより製造することができる。
【0027】
本発明にかかる乳化化粧料の使用用途は、特に限定されるものではないが、特に、顔または身体用の乳液、クリーム、化粧水等、種々の製品に応用することが可能である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。配合量については特に断りのない限り質量%を示す。
【0029】
下記の表1に示す処方にて乳化化粧料(試料)を調製し、10名の専門パネルにより、各試料を頬に塗布し、塗布の際の肌に対する馴染みの良さ、塗布後のしっとり感及びべたつきの無さについて、それぞれ下記の評価基準により評価した。結果を表1に併せて示す。
○: 専門パネル10名中8〜10名が良いと評価した
○△:専門パネル10名中5〜7名が良いと評価した
△: 専門パネル10名中2〜4名が良いと評価した
×: 専門パネル10名中0〜1名が良いと評価した
【0030】
【表1】
*1:ネオライト100P(高級アルコール工業株式会社製)
*2:エキセコールD−5(信越化学工業株式会社製)
*3:KF−96L−1.5cs(信越化学工業株式会社製)
*4:KF−96L−2cs(信越化学工業株式会社製)
*5:KF−96L−20cs(信越化学工業株式会社製)
【0031】
表1に示されるように、(a)寒天粉砕ゲル及びシクロメチコンを含有する場合であっても、(b)ネオペンタン酸のエステル誘導体及び(c)直鎖状低分子量シリコーン油を含有しない場合は、しっとり感が不十分で、肌馴染みも悪かった(比較例1)。また、このようなシクロメチコンを含有する乳化組成物に、(b)ネオペンタン酸イソデシルを配合しても、しっとり感に殆ど変化はなく、肌馴染みの良さが僅かに改善されただけであった(比較例4)。また、シクロメチコンを(c)直鎖状低分子量シリコーン油に変更しただけでは、しっとり感は改善したものの、肌馴染みの良さが不十分であった(比較例2及び3)。
【0032】
これに対し、(b)ネオペンタン酸イソデシルと(c)直鎖状低分子量シリコーン油とを配合することにより、(a)寒天粉砕ゲルによるべたつきの無さを維持しつつ、しっとり感と肌馴染みの良さの両方を同時に改善することができた(実施例1)。これらの改善効果は、(b)ネオペンタン酸イソデシルと(c)直鎖状低分子量シリコーン油の配合量を所定の範囲で変更しても維持されたが(実施例2〜5)、(c)直鎖状低分子量シリコーン油が多すぎると、しっとり感と馴染みの良さの両方で却って悪くなることが確認された(比較例5)。
【0033】
また、比較例3は、実施例1に比べて、ネオペンタン酸イソデシルを含まない代わりにテトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチルを多く含むものであるが、肌馴染みは不十分であった。このことから、(b)ネオペンタン酸のエステル誘導体とは異なるエステル油を(c)直鎖状低分子量シリコーン油と共に用いても、十分な肌馴染みの良さを達成することはできず、しっとり感と肌馴染みの良さの両方を同時に改善するには、(b)ネオペンタン酸のエステル誘導体を選択し、これを(c)直鎖状低分子量シリコーン油と共に配合する必要があることが確認された。