特許第6039262号(P6039262)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039262
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   B41J2/14 609
   B41J2/14 301
   B41J2/14 611
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-140699(P2012-140699)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-4710(P2014-4710A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】田村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】根津 祐志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 昭男
【審査官】 清水 督史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−098345(JP,A)
【文献】 特開平05−254132(JP,A)
【文献】 特開2002−103614(JP,A)
【文献】 特開2007−168319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の溝と前記第1の溝に並列する第2の溝とを複数備えた第1のプレートと、前記第1のプレートと交互に積層されて前記第1の溝及び前記第2の溝を閉蓋する平板状の第2のプレートと、前記第1のプレートの前記第1の溝及び前記第2の溝がある面とは逆側の面と前記第2のプレートとの間に介在し、前記第1のプレートと前記第2のプレートとの間に複数の空隙を形成するスペーサー層と、を有し、
前記第1のプレート及び前記第2のプレートは圧電体から形成され、前記第1のプレートの前記第1の溝及び前記第2の溝は前記第2のプレートに閉蓋されることによってそれぞれ液体を貯留するための圧力室と開口部を形成し、前記圧力室の四方の壁面と、前記開口部の前記第2の溝側の壁面と、前記第1のプレートの前記スペーサー層側の面と、前記第2のプレートの前記スペーサー層側の面と、に電極が設けられ、前記第1のプレートに隣接する2つの前記スペーサー層のうち少なくとも1つは、前記第1のプレートの前記第1の溝から、前記第1のプレートと前記第2のプレートとの積層方向に平行な方向に変位した位置に前記空隙を有する、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記積層方向に隣接する前記第1のプレートの前記第1の溝は前記積層方向において少なくとも一部が互いに重なるように配置されており、隣接する前記第1のプレートの間にある前記スペーサー層は隣接する前記第1の溝の間に前記空隙を有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記スペーサー層が前記第1のプレート及び前記第2のプレートよりもヤング率の低い材料から形成されている、請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記スペーサー層を形成する材料の音響インピーダンスが前記第1のプレート及び前記第2のプレートを形成する材料の音響インピーダンスと異なる、請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を駆動して液体を吐出する液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を駆動して液体を吐出するインクジェットヘッドとしては、いくつかの形態が知られている。第1の形態は液体が充てんされる圧力室の一つの壁面を振動板として該振動板を圧電素子により変形させて液体を加圧して吐出するものである。第2の形態としては、厚み方向に分極した圧電素子の板に溝と電極を形成し、その溝を圧力室として、圧電素子の分極方向と直交する方向の電界を印加して変形させるいわゆるシェアモードにより液体を加圧して吐出するものがある。この形態の場合には、圧力室を囲む4面の壁の内、2面を駆動するものが一般的である。第3の形態として、圧力室を円筒状の圧電素子で取り囲み該圧電素子を収縮させることにより液体を加圧して吐出するものがある。
【0003】
前記第1の形態では変形する壁が1面だけであるので、変位量を確保することが難しく、大きな吐出力を得ることに限界があった。第2の形態では変形する壁が2面であるが、一般に圧電素子のシェアモードの変形は厚み方向の変形等に比べて変位量が小さいため、大きな吐出力を得ることが難しい。前記第3の形態は、圧力室の全周が変形するのみならず、圧電素子の分極方向に電界を印加して変形させるので、大きな吐出力を得ることができる。
【0004】
一方、インクジェットヘッドでは高速度で高解像度の画像記録などを実現するため、多数のノズルを高密度で形成することが望まれる。
【0005】
そこで、圧電素子の板に多数の溝を形成し、積層することで穴を多数形成し、孔の周りに切り込みを入れることで多数の中空の柱状の構造をマトリックス状に形成し、これをノズルとして用いるインクジェットヘッドが提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−168319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示された構造では個々のノズルが薄肉で中空の柱状となり、柱状のノズルを長くすると強度が低くなり、短くすると変位する壁の面積が不足して大きな吐出力を得ることができないという欠点がある。ノズルの壁を厚くすれば強度が確保されるが、ノズルを高密度で配置することができないばかりでなく、圧電素子に印加される電界強度が弱くなるため、大きな吐出力を得ることができない。したがってノズルの壁の厚みの最適値に対する許容値は著しく小さい。しかし板に溝を加工するときの精度、板の張り合わせ位置精度、孔の周りに切り込みを入れる精度、のすべてがノズルの壁の厚みに精度に影響する。その結果、極めて高精度で困難な加工工程を多く必要とするという課題を有する。
【0008】
本発明では、容易に製造できる構造で、インクジェットノズルの圧力室を2次元的に高密度で配置することができる液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
液体吐出ヘッドは、第1の溝と前記第1の溝に並列する第2の溝とを複数備えた第1のプレートと、前記第1のプレートと交互に積層されて前記第1の溝及び前記第2の溝を閉蓋する平板状の第2のプレートと、前記第1のプレートの前記第1の溝及び前記第2の溝がある面とは逆側の面と前記第2のプレートとの間に介在し、前記第1のプレートと前記第2のプレートとの間に複数の空隙を形成するスペーサー層と、を有し、前記第1のプレート及び前記第2のプレートは圧電体から形成され、前記第1のプレートの前記第1の溝及び前記第2の溝は前記第2のプレートに閉蓋されることによってそれぞれ液体を貯留するための圧力室と開口部を形成し、前記圧力室の四方の壁面と、前記開口部の前記第2の溝側の壁面と、前記第1のプレートの前記スペーサー層側の面と、前記第2のプレートの前記スペーサー層側の面と、に電極が設けられ、前記第1のプレートに隣接する2つの前記スペーサー層のうち少なくとも1つは、前記第1のプレートの前記第1の溝から、前記第1のプレートと前記第2のプレートとの積層方向に平行な方向に変位した位置に前記空隙を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液体吐出ヘッドは、比較的容易に製造できる構造でありながら、インクジェットノズルの圧力室を2次元的に高密度で配置することができる。圧力室の壁面を、液体の流れる方向を取り囲む全周にわたって駆動することが可能であるので、大きな吐出力を得ることが可能である。それにより高い粘度の液体を吐出すること、液滴の体積を高精度に制御することなどが可能となる。第1のプレートの圧力室は開口部と交互に配置され、また圧力室の積層方向上方及び下方のうち少なくとも一方には空隙が配置されているので、振動の伝搬に伴うクロストークが小さくなるという効果を有する。
【0011】
本発明では、容易に製造できる構造で、インクジェットノズルの圧力室を2次元的に高密度で配置することができる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの主要部の拡大図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの全体構成を示す斜視図と側面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの主要部の分解斜視図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係るスペーサーの斜視図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの主要部の拡大図である。
図6】本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの主要部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0014】
図1は本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの主要部の拡大図である。図1図2に示す本発明の液体吐出ヘッドの全体構成図のうち、ヘッドブロック103の一部を拡大して示したものである。
【0015】
図2は本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの全体構成を示す斜視図と側面図である。構成をわかりやすくするため分解した状態を図示している。(a)は斜視図、(b)は側面図である。101はオリフィスプレートでシリコンやポリイミドなど作られている。102はオリフィスプレート101にあいている液体が噴出するノズル孔である。103はヘッドブロックで内部に液体が貯留されている圧力室などが作られている。104はシリコン基板で作られている後方絞り板で圧力室の圧力を共通液室側に逃がさないようにするための絞り孔105と駆動回路が形成されている。106は共通液室で液体供給部108より共通液室内に液体107が供給される。109は圧電素子の共通電極を引き出すFPCなどの共通電極配線ケーブルである。110は後方絞り板上に形成されている駆動回路に駆動電圧信号や制御信号を伝達するFPCなどの信号配線ケーブルである。
【0016】
図1に示すように、ヘッドブロック103は溝を形成した圧電体よりなる第1のプレート10と平板状の圧電体よりなる第2のプレート20とスペーサー層32が繰り返し積層された構造になっている。各層は第1のプレート10の溝が形成されている面と逆側の面と第2のプレート20の間にスペーサー層32が介在するように配列される。第1のプレート10の溝は第1の溝11と第2の溝12が交互に形成されている。第1のプレート10に第2のプレート20が積層することによって、第1の溝11と第2の溝12は閉蓋され、それぞれ圧力室41と開口部42を形成する。圧力室41の四方の壁面と開口部42の第2の溝側の三方の壁面には電極(図示せず)が形成されている。スペーサー層32は空隙31を介して並ぶ複数のスペーサー30から構成されている。
【0017】
図3に第1のプレート10と第2のプレート20とスペーサー層32を積層方向に関して分解した状態で図示している。第1のプレート10の圧力室となる第1の溝11の内部と第2の溝12の内部には各々ハッチングをして図示した。第1の溝11の内壁には溝部駆動電極13が、第2の溝12の内壁には溝部共通電極14が設けられている。また、第1のプレートのスペーサー層側の面には裏面共通電極15が設けられている。第1のプレート10は圧電体セラミックでできており、ほぼ溝部駆動電極13と溝部共通電極14及び裏面共通電極15を結ぶ方向に分極されている。第1の溝11及び第2の溝12の底部の厚みは、1例として、90μm程度である。また、第1の溝11と第2の溝12の間の壁の厚みは90μm程度である。
【0018】
第2のプレート20には第2プレート駆動電極21と第2プレート共通電極22が設けられている。第2のプレート20も第1のプレート10と同様に圧電体セラミックでできており、第2プレート駆動電極21と第2プレート共通電極22を結ぶ方向又は厚み方向に一様に分極されている。第2のプレート20の厚みは90μm程度である。
【0019】
スペーサー30は、積層方向に沿って互いに最も近くに位置する2枚の第1のプレート10の第1の溝11に挟まれる位置を避けて櫛歯状に設けられている。すなわち、第1のプレート10に隣接する2つのスペーサー層32のうち両方が、第1のプレート10の第1の溝11から積層方向に平行な方向に変位した位置に空隙31を有する。第1の溝11を取り囲む壁面は、駆動に伴って変形する。その振動が他の圧力室に伝搬して内蔵されている液体を振動させることによりいわゆるクロストークを生じ、吐出性能の安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。それに対して隣接する第1のプレートの第1の溝11の間の位置に空隙31を設けているので、振動の伝搬を防ぐことができる。尚、図4に一例を示すように、スペーサー30の形状は大部分が溝11の間の位置を避けていれば、一部が溝11の間となる位置にあっても支障はない。そのような位置にある面積が比較的小さければ振動の伝搬は小さく、性能への悪影響は無視しうる。殊に、ヘッドブロック103の端部においてスペーサー30が横方向につながった形状とすると、ヘッドブロック端面に不必要な孔などが無い形状となり、吐出液が侵入するなどの弊害を防ぐことができるという利点がある。
【0020】
スペーサー30は、エポキシ樹脂等の反応硬化型樹脂を用いることにより、第2のプレート10と第1のプレート20の間を固定する接着剤を兼ねることもできる。スペーサー30の厚みは、第1のプレート10と第2のプレート20が接触しない程度の厚みが有ればよい。第1のプレート10及び第2のプレート20を駆動することによる変形量は一般的には各々数10nm程度であるから、数100nm程度以上の厚みが有ればよい。スペーサー30の材質としては、前述のエポキシ樹脂等の反応硬化型樹脂の他、各種樹脂、ゴム、金属箔等に接着剤層を設けたもの等を用いることができる。また、反応硬化型樹脂等を所定の厚みとするために、該樹脂に所定の大きさの粒子などを入れたものを用いることも有効である。また、接着可能な感光性フィルムを用いて、露光、現像をして形成すれば高精度で制作することができる。
【0021】
スペーサー30の材質としてヤング率が第1のプレート10及び第2のプレート20のヤング率よりも低いものを用いると、スペーサー30が僅かに変形することにより駆動に伴う変形が伝わりにくく、クロストークを防止するうえで有効である。
【0022】
スペーサー30の材質として音響インピーダンスを考慮することも有効である。すなわち、音響インピーダンスが第1のプレート10及び第2のプレート20と異なる材質を用いることにより高周波振動が伝わり難くなり、クロストークをさらに確実に防止することができる。音響インピーダンスは材質の音速と密度との積で表される物理量である。スペーサー30の音響インピーダンスは第1のプレート10及び第2のプレート20より高くても低くても高周波振動を伝えにくく、10倍程度以上の違いがあると殊に有効である。スペーサー30の厚みは厚いほど変形や振動を伝えにくくなるが、過度に厚くするとインクジェットヘッドの大きさが大きくなるという問題が有り、おおむね100nm以上100μm以下が好適である。
【0023】
図1における寸法の一例として横方向(以下x方向と記す)に並んだ第1の溝11のピッチを423μm、すなわち600dpiの画像の画素ピッチの10倍としている。縦方向(以下y方向と記す)に隣接する第1のプレート10の第1の溝11はx方向に42.3μm、すなわち600dpiの画像の画素ピッチだけずらして配置している。このようにして第1のプレート10を10層積層し、各々の第1の溝11に対応するノズル孔を設ければ、インクジェットヘッドのx方向のノズルピッチを600dpiとすることができる。
【0024】
本実施形態のヘッドブロック103を製造するには、一例として以下の工程で製造することができる。
【0025】
第2のプレート20の素材として、予め厚さ方向に分極したPZT基板を用意する。このPZT基板の片面にメッキ及びフォトリソグラフィーにより第2プレート駆動電極21を形成する。次に、剥離可能な接着層を設けた治具基板に第2プレート駆動電極21側の面を接着する。この状態で、PZT基板を研磨し、所定の厚み、例えば90μmとする。次に、メッキにより第2プレート共通電極22を設ける。次にその表面にスペーサー30の形状に従って熱硬化型接着剤を印刷する。これをヘッドブロック103の上端となる厚いセラミック基板に接着した後、前述の治具基板を剥離する。
【0026】
別の方法として、予め厚さ方向に分極したPZT基板に代えて分極処理をしていないPZT基板を用いて、電極を形成した後に分極をしても良い。すなわち第2プレート駆動電極21及び第2プレート共通電極22を設けた後に、加熱すると同時に第2プレート駆動電極21と第2プレート共通電極22の間に高電圧を印加して分極することができる。
【0027】
一方、第1のプレート10の素材として予め所定の厚みに加工したとなるPZT基板を用意し、その片面にメッキにより裏面共通電極15を設ける。剥離可能な接着層を設けた治具基板に該PZT基板を裏面共通電極15側の面で接着する。この状態で超砥粒ホイールを用いて該PZT基板に第1の溝11及び第2の溝12を形成する。次に、メッキ及びフォトリソグラフィーの手法で溝部駆動電極13と溝部共通電極14を形成する。より具体的には、フィルム状レジストを張り付け、露光、現像により第1の溝11及と第2の溝12の間の壁の上部に線状のパターンを形成する。次にメッキのシード層となる導電膜をスパッタにより形成した後、フィルム状レジストを除去する。次に電気メッキを行うことにより、溝部駆動電極13と溝部共通電極14を形成することができる。
【0028】
溝部駆動電極13と溝部共通電極14を形成した後、該PZT基板を分極処理する。加熱と同時に溝部共通電極14及び裏面共通電極15と溝部駆動電極13の間に高電圧を印加することで両電極間の電界の方向に分極することができる。
【0029】
次に、作成された第1のプレート10を前述の第2のプレート20に接着剤を用いて接着し、その後、前述の治具基板を剥離する。
【0030】
前述の第2のプレート20となるPZT基板を用意する工程から、第1のプレート10を第2のプレート20に接着し治具基盤を剥離する工程までを繰り返すことにより、所定の数のプレート及びスペーサー30を積層することができる。これにヘッドブロック103の下端となる厚いセラミック基板を接着する。この積層したPZTのブロックの端面を研磨し、メッキなどの方法により駆動電極及び共通電極と駆動回路を接続するための端子を形成することにより、ヘッドブロック103が完成する。
【0031】
前述の積層したPZTのブロックの大きさをヘッドブロック103の数倍の大きさに作成し切断することにより、多数のヘッドブロックを効率よく作成することもできる。
【0032】
図5は本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの主要部の拡大図である。第1の実施形態と異なる点として、第1の溝11のx方向のピッチは第1の実施形態と同様にインクジェットヘッド全体のノズルピッチの11倍として、y方向に隣接する第1のプレート10の第1の溝11はx方向に画素ピッチの6倍だけずらして配置している。この様にして第1のプレート10を11層積層し、各々の第1の溝11に対応するノズル孔を設ければ、インクジェットヘッドのx方向のノズルピッチを所定の値とすることができる。
【0033】
スペーサー30は、隣接する第1のプレート10の一方の第1の溝11に対応する位置に対応し他方の第2の溝12に対応する位置に、櫛歯状に設けられている。一方の第1のプレート10の第1の溝11に対応する位置は、変形と振動がスペーサー30に伝わり易いのであるが、他方の第1のプレートにおいては第2の溝11の位置であるから問題は無い。さらに、スペーサー30が第1の溝11に対応する位置において、駆動時に厚み方向に変形する圧電体を背面から支持する効果があるので、圧電体が圧力室内部の方向に変形する変形量を大きくし、低い駆動電圧で高い吐出能力を得る効果を生じる。この効果を大きくするためには、スペーサー30として比較的ヤング率の高い材料を用いることが望ましい。また、第1のプレート10及び第2のプレート20の材料に比べて音響インピーダンスが大きいものを用いることが効果的である。第1のプレート10及び第2のプレート20として好適なPZTに比べてヤング率が高く音響インピーダンスの大きい材料としては、SUS(Steel Use Stainless)、タングステンなどの金属材料があげられる。
【0034】
一般に、第1の溝11のx方向のピッチをインクジェットヘッドのノズルピッチのn倍として、第1のプレート10をn層積層して各々の第1の溝11に対応するノズル孔を設けてインクジェットヘッドを構成するとき、以下の条件を満たすと良い。すなわち、y方向に隣接する第1のプレート10の第1の溝11をx方向にインクジェットヘッドのノズルピッチのm倍だけずらす。ここで、nとmは互いに素な自然数で、mは前記条件を満たす数の内nの1/2に最も近い数とする。このようにすると、y方向に隣接する第1の溝11が、一枚の第1のプレート10内の隣接する第1の溝11の中央付近になる。その結果、スペーサー30を隣接する第1のプレート10の一方の第1の溝11に対応する位置に配置すれば他方の第2の溝11に対応する位置となり、クロストークを小さくすることができる。
【0035】
以上に記したように本実施形態ではスペーサー30が第1の溝に対応する位置に有るものの、隣接する第1のプレートの第1の溝の間の位置ではないので、有害な振動の伝搬が無く、良好な吐出特性が得られる。
【0036】
図6は本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの主要部の拡大図である。第2の実施形態同様に、第1の溝11のx方向のピッチはインクジェットヘッド全体のノズルピッチの11倍として、y方向に隣接する第1のプレート10の第1の溝11はx方向に画素ピッチの6倍だけずらして配置している。図示していないが、第1のプレート10を11層積層し、ヘッドブロック103を構成している点も第2の実施形態と同様である。
【0037】
本実施形態が、第1の実施形態及び第2の実施形態と異なる点として、スペーサー30は第1のプレート10と第2のプレート20の間の全域に設けてある。第2の実施形態で示したように、第1のプレート10の第1の溝11の位置が隣接する第1のプレート10の第1の溝11とx方向に関して大きくずれており、第2の溝12の位置に対応するように配置すれば、クロストークを大幅に低減することができる。そこで隣接する第1のプレートの第1の溝をこの例のように配置すれば、スペーサー30は第1のプレート10と第2のプレート20の間の全域に設けることが可能となる。スペーサー30の形状を制御する必要が無いので、製造が容易であるという利点がある。さらに、スペーサー30を全域に設ける場合、外力などによりヘッドブロックの厚み方向の変形、せん断方向の変形等が生じにくいので、第1の実施形態及び第2の実施形態等に比べて柔軟な材料を用いることができる。その結果、駆動に伴う振動、変形が伝わることを防ぐことができ、クロストークを防止することができる。駆動に伴ってスペーサー30にはずり応力が加わる。ずり応力は図4におけるx方向の変形に伴うものだけでなく、図の面に垂直の方向への変形に伴うものもある。そこで、スペーサー30としてゴム系材料などの柔軟で減衰作用の大きい材質を適用すると、不必要な残留振動が減衰しクロストークを防止する効果が大きい。さらに、吐出特性の周波数依存性を小さくできるなどの効果もある。
【0038】
以上に記したように本実施形態ではスペーサー30が全域に設けて有るにもかかわらず、隣接する第1のプレートの第1の溝の位置が異なるだけでなく、ヤング率の低い材質を用いているので有害な振動の伝搬が無く、良好な吐出特性が得られる。
【符号の説明】
【0039】
10 第1のプレート
11 第1の溝
12 第2の溝
20 第2のプレート
30 スペーサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6