(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液体を吐出する複数の吐出口と、各吐出口に連通し、互いに交差する第1の方向と第2の方向に配置され、第1の電極が内壁面に形成された複数の圧力室と、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記複数の圧力室と、前記第1の方向および前記第2の方向に前記複数の圧力室と交互に配置され、第2の電極が内壁面に形成された複数の空気室と、を有し、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧が印加されたときに各圧力室の前記内壁面が変形して液体が各圧力室の開口端から流出する圧電体ブロックと、
前記複数の吐出口が配列されたオリフィスプレートと、
前記圧電体ブロックと前記オリフィスプレートとの間に配置され、各圧力室の前記開口端を各吐出口に個別に連通させる複数の流路が内部を貫通した板状部材と、
を有し、
各圧力室は前記第2の方向で隣接する圧力室に対して中心が前記第1の方向にずれ、
前記中心のずれ量dと、前記圧力室の前記第1の方向における開口幅L4と、前記圧力室と前記第2の方向で対向する前記空気室の前記第1の方向における開口幅L2と、が
L2>L4+d
を満たす、液体吐出ヘッド。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
本発明の実施形態1について説明する。
図1は、実施形態1の液体吐出ヘッドの分解斜視図を示す。
図2は、
図1に示す液体吐出ヘッドの斜視図である。
図1、2に示す液体吐出ヘッド101では、オリフィスプレート304と、板状部材401と、圧電部材からなる圧電体ブロック303と、後方絞りプレート302と、共通液室301とが積層されている。圧電体ブロック303には、側壁が圧電部材形成された複数の圧力室307と、複数の空気室308が設けられている。共通液室301は、後方絞りプレート302を介して圧電体ブロック303の各圧力室307と連通している。圧電体ブロック303から外部への配線は、圧電体ブロック303から第1のフレキシブルケーブル310および第2のフレキシブルケーブル311によって引き出されている。オリフィスプレート304には、加圧されたインク(液体)が吐出する複数の吐出口309が形成されている。各吐出口309は、板状部材401の内部を貫通した流路402を介して各圧力室307と個別に連通している。
【0013】
以下に、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法を説明する。
図3は、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造工程の手順を示すフローチャートである。
【0014】
まず、第1、第2の圧電基板の加工工程(ステップS1)について説明する。
図4は、第1の圧電基板の加工工程の手順を示すフローチャートである。
図5は、第2の圧電基板の加工工程の手順を示すフローチャートである。まず、第1の圧電基板の加工工程について説明する。
【0015】
図4に示すように第1の圧電基板の加工工程は、溝加工工程(ステップS101)と、電極形成工程(ステップS102)と、分極工程(ステップS103)と、チップ分離工程(ステップS104)と、を有する。
【0016】
図6および
図7は、第1の圧電基板の加工工程を説明するための図である。
図6には、5ノズル分の圧力室307および空気室308に対応する第1の溝503および第2の溝504が5セット分記載されている。
図7には、1セット分の第1の溝503および第2の溝504が示されている。
【0017】
(溝加工工程)
溝加工工程(ステップS101)について説明する。
図7(a)は、平板状の第1の圧電基板501を示す。第1の圧電基板501には、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)基板が適用できる。第1の圧電基板501には、第1の露光用アライメント溝514(
図6参照)が超砥粒ホイールによる研削加工によって形成される。第1の露光用アライメント溝514は、第1の圧電基板501の一端からの距離によって位置決めしてもよいし、フォトリソグラフィによって目印となる金属パターンなどを形成して位置決めしてもよい。
【0018】
図7(b)は、第1の圧電基板501に複数の第1の溝503が形成された状態を示す。各第1の溝503は、上述した圧力室307として機能する。
図7(b)に示すように、第1の溝503は、第1の側面804で開口し、第1の側面804に対向する第2の側面805で開口していない。溝加工工程では、チップ分離工程でアライメントの目印としなる第1の接合用アライメント溝513(
図6参照)も形成される。
【0019】
図7(c)は、第1の圧電基板501に複数の第2の溝504が形成された状態を示す。第2の溝504は、第1の溝503と交互に並列している。第2の溝504は、第1の側面804では開口せず、第2の側面805で開口する。第2の溝504は、第1の溝503と平行に延び、上述した空気室308として機能する。
【0020】
(電極形成工程)
電極形成工程(ステップS102)について説明する。
図7(d)は、第1の溝503に第1の電極505が形成され、第2の溝504に第2の電極506が形成された状態を示す。第1の電極505および第2の電極506は、リフトオフによるパターニング、または、レーザーもしくは研磨によるパターニングなどで形成される。
図8は、リフトオフによる電極パターニング方法を説明するための断面図である。
図8(a)〜(d)は、
図7(c)に示す切断線A−Aに沿った断面図である。
図8(e)〜(h)は、
図7(c)に示す切断線B−Bに沿った断面図である。
【0021】
図8(a)は、第1の圧電基板501にフィルムレジスト902が積層された状態を示す。
図8(b)は、露光、現像によりフィルムレジスト902がパターニングされた状態を示す。リフトオフでは、電極パターンを残さない部分にレジストが残るようにフォトリソグラフィでレジストパターンを形成する。
図8(c)は、スパッタリングや蒸着によって電極となる金属層が形成された状態を示す。
図8(d)は、レジストが除去された状態を示す。レジストを除去することでレジスト上部に成膜されていた金属膜がレジストと共に剥離して、最終的に所望の金属膜のパターンが得られる。
【0022】
レーザーまたは研磨による電極パターニング方法について説明する。まず、第1の圧電基板501にスパッタリング、蒸着、または無電解めっきなどで金属膜が成膜される。このとき、第1の側面804および第2の側面805にも金属膜が成膜される。次に、金属膜の不要な部分をレーザーや研磨によって除去することで所望の電極パターンが得られる。第1の電極505、第2の電極506は、第1の側面804、第2の側面805に成膜された金属膜を介して互いに導通している。
【0023】
図7(e)は、第1の圧電基板501の裏面(第1の溝503と第2の溝504が形成された面の反対側の面)に第1の共通配線802と、第2の共通配線803が形成された状態を示す。第1の共通配線802および第2の共通配線803は、金属膜で構成される。第1の共通配線802と、第2の共通配線803は、第1の溝504の配列方向に分断されている。両共通配線のパターニングは、フォトレジストのフォトリソグラフィを利用したリフトオフまたはエッチングといった方法により実現できる。さらに、レーザー、ダイシング、フライス加工などで不要部分を除去する方法によっても両共通配線のパターニングは実現できる。フォトリソグラフィによるリフトオフを用いて第1の共通配線802と第2の共通配線803をパターニングする工程について
図8(e)〜
図8(h)を参照しながら説明する。
【0024】
第1の圧電基板501の裏面全体に第2のレジスト903が成膜される(
図8(e)参照)。続いて、レジスト903がパターニングされる(
図8(f)参照)。その後、パターニングされたレジスト903と圧電基板501の裏面に金属層が成膜される(
図8(g)参照)。最後にレジスト903が除去される(
図8(h)参照)。
【0025】
第1の共通配線802は、第1の側面804を介して第1の電極505および第2の電極506と電気的に接続されている。一方、第2の共通配線パターン803は、第2の側面805を介して第1の電極505および第2の電極506と電気的に接続されている。
【0026】
(分極工程)
分極工程(ステップS103)について説明する。
図7(f)は、分極工程を示す図である。分極工程では、第1の共通配線802と第2の共通配線803との間に高電圧が印加される。このとき第1の電極505は正電位であり、第2の電極506はグランド電位となっている。温度条件は100〜150℃程度であり、電圧条件は1〜2kV/mm程度である。空中放電や沿面放電を防ぐために絶縁性の高いオイル(例えば、絶縁破壊電圧が10kV/mm以上のシリコーンオイル)の中で分極を行うことが望ましい。シリコーンオイルは、分極工程後にキシレン、ベンゼン、トルエンといった炭化水素系溶剤や塩化メチレン、1.1.1-トリクロロエタン、クロロベンゼンといった塩素化炭化水素系溶剤によって除去可能である。
【0027】
分極工程後、エージング処理を行ってもよい。具体的には、分極処理が施された第1の圧電基板501を昇温した状態で一定の時間に保持する。これによって、第1の圧電基板501の圧電特性が安定する。
【0028】
(チップ分離工程)
チップ分離工程(S14)について説明する。
図7(g)は、チップ分離工程を示す図である。チップ分離工程では、第1の圧電基板501が超砥粒ホイール901によって
図7(g)に示すように切断される。切断方法としては、ダイシング、研磨、レーザーアブレーションなどが挙げられる。第1の溝503が圧力室307として機能するためには、溝503の両端が開口する必要がある。この工程では、
図7(g)に示すように第1の圧電基板501を切断することによって、複数の第2の電極506は、互いに電気的に分離された状態となる。さらに、各第2の電極506は、第2の共通配線803と電気的に分離された状態となる。
【0029】
図7(h)に示す工程は、第1の側面804に形成された第1の共通配線802を除去する工程である。除去方法としてはダイシング、研磨、レーザーアブレーションなどが挙げられる。第1の側面804に形成された第1の共通配線802が除去されることによって、複数の第1の電極505は、互いに電気的に分離された状態となる。チップ分離工程では、
図6に示す5セット分の圧電基板が5ノズルごとに切り離される。これにより、第1の圧電基板501は、5個のチップとして切りだされる。
【0030】
上述した第1の圧電基板の加工工程では、空気室308として機能する第2の溝504を第1の側面804で開口しない形状で分極処理することが可能となる。
【0031】
次に第2の圧電基板の加工工程について説明する。
図5に示すように第2の圧電基板の加工工程は、分極工程(ステップS201)と、溝加工工程(ステップS202)と、電極形成工程(ステップS203)と、チップ分離工程(ステップS204)と、を有する。
【0032】
(分極工程)
分極工程(ステップS201)について説明する。第2の圧電基板502には、第1の圧電基板501と同様に、PZT基板が適用できる。第1の圧電基板501の加工工程では、
図7に示すように溝加工工程後に分極工程を行った。一方、第2の圧電基板502の加工工程では、溝加工工程の前に分極工程を行う。分極工程は、平板状の圧電基板の表裏全面にそれぞれ電極を形成し、100〜150℃程度に加熱した状態で、電極間に1〜2kV/mm程度の高電界を所定の時間印加する工程である。分極処理によって、圧電基板の主面に垂直な方向に一様に分極される。分極処理は、第1の圧電基板501と同様に絶縁油中で行ってもよいし、空気中で行ってもよい。分極処理後、表面の電極を除去する。除去はエッチングや研磨によって行う。
【0033】
(溝加工工程)
溝加工工程(ステップS202)について説明する。
図9は、第2の圧電基板502に溝加工を施した状態を示す平面図である。
図9では5ノズル分に対応する空気室308となる溝が5セット配置されているが、以下の工程の説明ではそのうちの1セットのみを図示し説明する。
【0034】
図9に示す第2の露光用アライメント溝516が超砥粒ホイールを用いた研削加工によって形成される。溝加工工程は、この第2の露光用アライメント溝516を基準に加工を行う。第2の露光用アライメント溝516は、基板の端部からの距離によって位置決めしてもよいし、フォトリソグラフィによって目印となる金属パターンなどを形成して位置決めしてもよい。
【0035】
図10は、溝加工工程以降の第2の圧電基板の加工工程を説明するための斜視図である。
図10(a)は、第2の圧電基板502に複数の第3の溝507が形成された状態を示す。第3の溝507は、上述した圧力室307と隣接する空気室308として機能する。本実施形態では研削加工時に超砥粒ホイール901を圧電基板上の途中で引き上げることによって長手方向の一端が開口していない第3の溝507が形成される。
【0036】
(電極形成工程)
図10(b)は、第3の溝507に第4の電極509が形成された状態を示す。第4の電極509は、第2の電極506と極性が同じ電極である。第4の電極509は、第3の溝507の少なくとも底面に形成されていればよく、第3の溝507全面に電極が形成されていてもよい。第4の電極509のパターニングは、リフトオフ、レーザーや研磨でのパターニングなどで形成される。
【0037】
図11は、リフトオフによる電極パターニング方法を示す断面図である。
図11は、
図10(b)に示す切断線A−Aに沿った断面図である。
図11(a)は、第2の圧電基板502にフィルムレジスト903が積層された状態を示す。
図11(b)は、電極パターンを残さない部分にレジストが残るようにフォトリソグラフィによりレジストパターンが形成された状態を示す。
図11(c)は、スパッタリングや蒸着によって電極となる金属層が形成された状態を示す。
図11(d)は、レジストが除去された状態を示す。レジストを除去することでレジスト上部に成膜されていた金属膜がレジストと共に剥離して、最終的に所望の金属膜のパターンが得られる。
【0038】
レーザーまたは研磨による電極パターニング方法は、第1の圧電基板501の加工工程の一つである電極形成工程(ステップS102)で説明した内容と同様である。
【0039】
図10(c)は、第2の圧電基板502上の裏面(第3の溝507が形成された面の反対側の面)に金属膜で構成される第5の電極512が形成された状態を示す。第5の電極512のパターンは、第3の溝507の境界に沿って分断されている。第5の電極512のパターニングは、フォトレジストのフォトリソグラフィを利用したリフトオフまたはエッチングといった方法により実現できる。さらに、レーザー、ダイシング、フライス加工などで不要部分を除去する方法によっても実現することができる。
【0040】
(チップ分離工程)
チップ分離工程(ステップS204)について説明する。
図10(d)は、チップ分離工程を示す図である。チップ分離工程では、第2の圧電基板502の一部が切断される。切断方法としてはダイシング、研磨、レーザーアブレーションなどが挙げられる。本実施形態では、第3の溝507は一方の側面で開口しないように切断される。さらに、第2の圧電基板502は、第1の圧電基板501と同様に5ノズルごとに切り離される。これにより、第2の圧電基板502は5個のチップとして切りだされる。
【0041】
(積層工程)
次に、
図12を用いて積層工程(ステップS2)を説明する。上述した第1、第2の圧電基板の加工工程(ステップS1)により、第1の圧電基板501には第1の溝503と、第2の溝504が形成されている。第1の溝503の内壁面には第1の電極505が形成され、第2の溝504の内壁面には第2の電極506が形成されている。第1の圧電基板501の裏面には第3の電極508が形成されている。一方、第2の圧電基板502には、第3の溝507が形成されていて、第3の溝507の内壁面には第2の電極506と実質的に同じ第4の電極509が形成されている。第2の圧電基板504の裏面には第5の電極512が形成されている。
【0042】
積層工程では、まず、
図12(a)に示すように1枚の第1の圧電基板501と、1枚の第2の圧電基板502が積層されて接合される。接合には、例えばエポキシ系の接着剤が用いられる。このとき、各圧電基板に形成された溝の内部が接着剤で埋まってしまうのを防ぐために接着剤量を適切にコントロールすることが望ましい。接着剤の塗布方法としては、別の平坦な基板上にスピンコートやスクリーン印刷などで薄い均一な接着剤層を形成しておき、これに接着する面を押し付けた後、離すことで、圧電基板上に薄く均一な接着剤層を形成することができる。接着剤塗布後、微小な間隔がある状態で、位置決めを行い、加圧接着する。
【0043】
積層時のアライメントには、チップ化した圧電基板の端面を位置決めピンに突き当てることによって行うこともできるし、さらに位置決め精度を向上させるには、カメラによるアライメントを行ってもよい。カメラによるアライメントに用いる目印としては、チップのエッジ、溝、電極形成時にパターニングしたアライメントマークなどを使用することができる。
【0044】
積層工程では、
図12(a)に示す積層体を一つのユニットとして、複数のユニットが積層されて接合される。複数のユニットの最上層には、基板510が接合される(
図12(b)参照)。一方、最下層には基板511が接合される(
図12(b)参照)。これにより圧電体ブロック303が作製される。基板510、基板511はパターンが形成されていない平板のプレートである。基板510、基板511は圧電基板である必要はない。接合時に加熱を要する場合には、基板510、基板511は、熱膨張率が第1の圧電基板501、第2の圧電基板502と近い材料であることが望ましい。基板510および基板511は、積層された圧電基板全体の反りを矯正する働きを有する。
【0045】
図13は、
図12(b)に示す基板511の別の形態を示す。
図13に示す基板511を用いる場合には、第1の圧電基板501と第2の圧電基板502の積層体の最下層に第2の圧電基板502を配置しない。
図13に示す基板511の内壁面には、特に電極を形成する必要はない。
【0046】
図14は、
図12(b)に示す圧電体ブロック303の断面図である。
図14に示す圧電体ブロック303では、圧力室307(第1の溝503)および空気室308(第2の溝504、第3の溝507)は、互いに交差する2方向に配列されている。以下、この2方向に関し、各圧電基板における溝の配列方向を「第1の方向」と称し、第1の方向に交差する方向を「第2の方向」と称する。本実施形態では、第2の方向は、第1の圧電基板501と第2の圧電基板502の積層方向に該当する。すなわち、本実施形態では第2の方向は第1の方向に直交している。本実施形態の圧電体ブロック303では、空気室308は圧力室307と第1の方向および第2の方向に交互に配列されている。
【0047】
(研磨工程)
研磨工程(ステップS3)について説明する。研磨工程は、圧電体ブロック303の両端面(圧力室307の開口端が存在する面)を研磨により平坦にする工程である。研磨には砥粒を用いる。後の電極形成工程のために表面粗さはRa0.4μm程度が好ましく、また、オリフィスプレート304や後方絞りプレート302を精度よく貼りつけるために各端面の平面度は10μm以内、端面間の平行度は30μm以内とすることが好ましい。
【0048】
(前端面電極形成工程)
前端面電極形成工程(ステップS4)について説明する。前端面電極形成工程は、圧電体ブロック303の前端面(インクが圧力室307の開口端から流出する面)に、各空気室308に設けられた電極に電気的に接続される配線パターンを形成する工程である。
図15は、前端面電極形成工程を説明するための斜視図である。
図15に示す配線817は、圧電体ブロック303の前端面806に形成される。配線817のパターニング方法について
図16を参照しながら説明する。
図16は
図15に示す切断線A−Aに沿った断面図である。まず、
図16(a)に示すように圧電体ブロック303の前端面806に、フィルムレジスト904が積層される。次に、露光、現像により、空気室308および空気室308の周辺が露出する(
図16(b)参照)。このとき、圧力室307および圧力室307の周辺はフィルムレジスト904で覆われている。さらに、
図16(c)に示すように配線817を成膜する。これにより、配線817が第2の電極506および第3の電極508と電気的に接続される。このとき、圧電体ブロック303の上面808(
図15参照)にもマスクを形成して成膜を行うことで、実装配線接続部815が形成される。次に、
図16(d)に示すようにフィルムレジスト904を除去することで、リフトオフが行われ、所望のパターンに配線817が形成される。
図17は、
図15に示す切断線B−Bに沿った断面図である。配線817は、空気室308の内壁面に形成された第2の電極506とは電気的に接続され、圧力室307の内壁面に形成された第1の電極505とは電気的に接続されていない。
【0049】
配線817の構造には、例えば下地層としてのCrと、電極層としてのAuとを成膜した構造が挙げられる。その他、下地層としてのCrにPdを成膜した構造であってもよい。さらに、Pdをシード層としてNiめっきを成膜し、表面のNiをAuに置換めっきした構造であってもよい。
【0050】
(後端面電極形成)
後端面電極形成工程(ステップS5)について説明する。後端面電極形成工程は、圧電体ブロック303の後端面807に各圧力室307に設けられた電極に電気的に接続される配線パターンを形成する工程である。
図18は、後端面電極形成工程を説明するための斜視図である。
図18に示す配線816は、圧電体ブロック303の後端面807上部に形成された実装配線接続部814に電気的に接続されている。後に示す工程により配線816は、実装配線接続部814を通じて第1のフレキシブル基板310に電気的に接続される。配線816のパターニング方法について
図19を参照しながら説明する。
図19は、
図18に示す切断線A−Aに沿った断面図である。まず、
図19(a)に示すように圧電体ブロック303の後端面807に、フィルムレジスト905が積層される。次に、露光、現像により、圧力室307および、圧力室307の周辺が露出する(
図19(b)参照)。さらに、
図19(c)に示すように配線816を成膜する。これにより、配線816が第1の電極505および第5の電極512と電気的に接続される。次に、
図19(d)に示すように、フィルムレジスト905を除去することで、リフトオフが行われ、所望のパターンに配線816が形成される。配線816の構造には、上述した配線817と同様の構造を採用できる。
【0051】
各圧力室307の内壁面に形成された第1の電極505は、1本の配線816と個別に接続される。各配線816に駆動信号を印加することで、各圧力室307の内壁面は独立して変形する。
【0052】
(後方絞りプレート接合工程)
後方絞りプレート接合工程(ステップS6)について説明する。
図20は、本実施形態の液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
図20は、本実施形態の液体吐出ヘッドを後方から見た斜視図である。
図21は、後方絞りプレートの上面図および断面図である。
図21に示すように、後方絞りプレート302には複数の開口809が各圧力室307に対応した位置に設けられている。開口809は、インクが圧力室307から逆流するのを制限するための部材である。本実施形態では、後方絞りプレート302は、シリコン基板で構成されている。開口809は、エッチング加工などで後方絞りプレート302を貫通するように形成されている。開口809の口径は圧力室307の口径よりも小さい。圧電体ブロック303に接合した際に、圧電体ブロック303に形成されている配線のショートを防ぐため、後方絞りプレート302の表面に熱酸化等により絶縁膜を形成しておくことが好ましい。後方絞りプレート302は、例えばエポキシ系の接着剤で圧電体ブロック303に接合される。接合の際、開口809が接着剤で埋まってしまうのを防ぐためには接着剤量を適切にコントロールする必要がある。接着剤の塗布方法としては、別の平坦な基板上にスピンコートやスクリーン印刷などで薄い均一な接着剤層を形成しておき、これに接着する面を押し付けた後、離すことで、圧電基板上に薄く均一な接着剤層を形成することができる。接着剤塗布後、微小な間隔がある状態で、位置決めを行い、加圧接着する。
【0053】
接着剤が開口809へ浸入するのを防ぐために、後方絞りプレート302の開口809の外側に溝811を形成してもよい。
【0054】
後方絞りプレート302を圧電体ブロック303に接合するときには、接合用アライメント溝513(
図6参照)、接合用アライメント溝515(
図9参照)が位置決めの手段として用いられる。
図20に示すように、後方絞りプレート302には、接合用アライメント溝513、515との位置決めを行うためのアライメント孔810が設けられている。
【0055】
後方絞りプレート302は、実装配線接続部814が露出するように圧電体ブロック303の後端面807に接着される。
【0056】
(絶縁処理工程)
絶縁処理工程(ステップS7)について説明する。絶縁処理工程は、圧力室307の内壁面に形成された電極、空気室308の内壁面に形成された電極、及び電極配線の表面に絶縁膜を形成する工程である。電極配線のうち、実装配線接続部814、815には絶縁膜は形成されない。絶縁膜の成膜時、実装配線接続部814、815にはテープなどでマスクが施される。絶縁膜は、例えば、パリレンの薄膜であり、化学気相堆積(CVD)法によって形成される。パリレンの密着性を向上させるため、成膜前に常温で5分程度UVオゾン処理を施すとよい。さらに、密着性を高めるために、UVオゾン処理後にカップリング剤を塗布してもよい。
【0057】
(板状部材接合工程)
板状部材接合工程(ステップS8)について説明する。板状部材接合工程は、
図22に示す板状部材401を圧電体ブロック体303の前端面806に接合する工程である。
図22は、板状部材401の正面図である。板状部材401には、複数の流路402が設けられている。流路402は、圧力室307と吐出口309を個別に連通させるための流路である。本実施形態では、板状部材401は、シリコン基板で構成されている。エッチング加工などで板状部材401に貫通孔を形成することによって流路402が形成される。圧電体ブロック303に接合した際に、圧電体ブロック303に形成されている配線のショートを防ぐため、板状部材401の表面に熱酸化等により絶縁膜を形成しておくことが好ましい。板状部材401は、例えばエポキシ系の接着剤で圧電体ブロック303に接合される。接着の際、流路402が接着剤で埋まってしまうのを防ぐために接着剤量を適切にコントロールする必要がある。接着剤の塗布方法としては、別の平坦な基板上にスピンコートやスクリーン印刷などで薄い均一な接着剤層を形成しておき、これに接着する面を押し付けた後、離すことで、圧電基板上に薄く均一な接着剤層を形成することができる。接着剤塗布後、微小な間隔がある状態で、位置決めを行い、加圧接着する。
【0058】
接着剤が流路402へ浸入するのを防ぐために、流路402の周囲に溝406を形成してもよい(
図22参照)。
【0059】
板状部材401を圧電体ブロック303に接合するときには、接合用アライメント溝513(
図6参照)、接合用アライメント溝515(
図9参照)が位置決めの手段として用いられる。
図22に示すように、板状部材401には、接合用アライメント溝513、515との位置決めを行うためのアライメント孔405が設けられている。
【0060】
(オリフィスプレート接合工程)
オリフィスプレート接合工程(ステップS9)について説明する。オリフィスプレート接合工程は、オリフィスプレート304を板状部材401に接合する工程である。
図23は、オリフィスプレートを示す図である。
図23(a)は、オリフィスプレート304の斜視図を示す。
図23(b)は、オリフィスプレート304に形成された吐出口309の平面図および断面図を示す。
【0061】
オリフィスプレート304には、複数の吐出口309が貫通している。各吐出口309は、板状部材401の流路402を介して各圧力室307と個別に連通している。オリフィスプレート304における、板状部材401との接合面側には、接着剤が吐出口309に浸入しないように、溝812が設けられている(
図23(b)参照)。オリフィスプレート304の作製方法としては、例えば、Niの電鋳加工が挙げられる。さらに、オリフィスプレート304における、板状部材401との接合面と反対側の面に撥インク処理を施してもよい。撥インク材料としては、シラン系、フッ素系の材料が挙げられ、これらの材料が蒸着などでオリフィスプレート304に形成される。
【0062】
本実施形態では、オリフィスプレート304は、例えば接着剤で板状部材401と接合される。接着剤には、例えばエポキシ系の接着剤が挙げられる。接着の際、吐出口309が接着剤で埋まってしまうのを防ぐために接着剤量を適切にコントロールする必要がある。接着剤の塗布方法としては、別の平坦な基板上にスピンコートやスクリーン印刷などで薄い均一な接着剤層を形成しておき、これに接着する面を押し付けた後、離すことで、圧電基板上に薄く均一な接着剤層を形成することができる。接着剤塗布後、微小な間隔がある状態で位置決めを行い、加圧接着する。
【0063】
図23(a)に示すように、オリフィスプレート304には、接合用アライメント溝513、515との位置決めを行うためのアライメント孔813が設けられている。
【0064】
本実施形態では、圧電基板の積層は、
図14に示すように圧力室307の吐出口側の開口部は互いに直交する第1の方向および第2の方向に配列されている。一方、吐出口309は、第1の方向と、第3の方向とに配列されている(
図23(a)参照)。第3の方向は、第2の方向に対して傾いた方向を示す。このように吐出口309を配列することによって、圧力室307のように直交配列する形態に比べて記録密度が高くなる。
【0065】
さらに、互いに隣接する吐出口309からインクを連続して吐出しないようにすることによって、ビーディングが発生しにくくすることができる。ここでいうビーディングとは、先に吐出されたインク滴が記録媒体に吸収される前に、次のインク滴が吐出され、これらのインク滴が混ざり合うことにより、濃度ムラが発生する現象を言う。
【0066】
(配線実装工程)
配線実装工程(ステップS10)について説明する。
図24は、配線実装工程を説明するための斜視図である。
図24に示すように、配線実装工程では、第1のフレキシブル基板310が、圧電体ブロック303の後端面807に圧着され、第2のフレキシブル基板310が圧電体ブロック303の上面808に圧着される。圧着には異方性導電フィルムを用いる。圧着後、各フレキシブル基板と圧電体ブロック303との接合部付近を接着剤で補強する。
【0067】
(共通液室接合工程)
共通液室工程(ステップS11)について説明する。配線実装工程後、インク供給口305(
図1参照)を有する共通液室301(
図1参照)が、後方絞りプレート302に接合される。本実施形態では共通液室301は、ステンレス基板で構成されている。インク供給口305は、機械加工で形成されている。共通液室301は、接着剤で後方絞りプレート302と接合される。
【0068】
最後に、その他の必要な部品をさらに組み立てて、液体吐出ヘッドが完成する。
【0069】
(駆動)
次に圧電体ブロック303の駆動動作について説明する。
図25は、
図12(b)に示す領域Rの拡大図である。
図25(a)に示すように、圧力室307(第1の溝503)は空気室308(第2の溝504、第3の溝507)によって区画され、2次元アレイ状に形成されている。圧力室307は外方向の分極方向601に分極されている。
図21(b)は、電圧が印加された時の圧力室307の様子を示す。圧力室307の内壁面に形成されている第1の電極505と、第5の電極512を正電位とし、空気室308の内壁面に形成されている第2の電極506、第3の電極508、第4の電極509をグランド電位として電極間に電圧を印加する。すると、圧力室307は、
図21(b)に示すように収縮変形する。この収縮変形によって圧力室307内に充填されているインクの圧力が高められる。その結果、圧力室307の開口端から流出する。流出したインクは、流路402を通じて吐出口309より吐出される。一方、第1の電極505、第5の電極512をGND電位、第2の電極506、第3の電極508、第4の電極509を正電位として駆動電圧を印加すると圧力室307は、膨張変形する(不図示)。
【0070】
上述したように本実施形態の液体吐出ヘッドでは、吐出口309の配列形態が、圧力室307の配列形態と一致していない。しかしながら、
図26に示すように板状部材401に形成された流路402によって、圧力室307と吐出口309が互いに連通している。そのため、吐出口309の配列形態が、圧力室307の配列形態と一致していなくてもインクを吐出することが可能となる。
図26は、圧電体ブロック303と、板状部材401と、オリフィスプレート304とが互いに接合した状態を示す断面図である。
図26に示すように、流路402は、空気室308には連通していない。
【0071】
圧力室307と空気室308の間隔P(
図26参照)が狭い場合、
図27に示すような板状部材403を圧電体ブロック303と板状部材401との間に挟み込むことによって、圧力室307と吐出口309のみを連通させることができる。板状部材403では、流路402に連通するように流路404が内部を貫通している。流路404の口径は、流路402よりも小さい。
【0072】
2枚の板状部材401、403を重ねる方法以外にも、ザグリ加工等で流路402の深さを調節して1枚の板状部材で
図27に示す形状と同様の形状を作製してもよい。
【0073】
(実施形態2)
本発明の実施形態2について説明する。以下、上述した実施形態1と異なる点を中心に説明する。
図28は、実施形態2の液体吐出ヘッドの要部の構成を示す断面図である。実施形態1で説明した構成要素と同様の構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0074】
実施形態2の液体吐出ヘッドは、実施形態1の液体吐出ヘッドと同様に、
図3に示すフローチャートの手順に従って製造される。実施形態1の積層工程(ステップS2)では、圧力室307が直交配列されるように第1の圧電基板501と第2の圧電基板502が積層される。一方、本実施形態では、
図28に示すように、各圧力室307の吐出口側の開口部は第2の方向で隣接する圧力室の開口部に対して中心が第1の方向にずれている。
【0075】
上記のように圧力室307が配列されると、実施形態1に比べて板状部材401の流路402が短くなる。そのため、流路402の抵抗を抑えることが可能となる。
【0076】
本実施形態では、互いに隣接する圧力室307の変位を確保するために、第2の圧電基板502の空気室308の第1の方向における開口幅L2を実施形態1よりも広くする必要がある。具体的には、圧力室307の中心のずれ量d
図28参照)と、圧力室307の第1の方向における開口幅L4が下記の式(1)を満たすことが好ましい。
【0077】
L2>L4+d (1)
しかしながら、上述した開口幅L2が広い場合、開口幅L2を有する空気室同士の間隔L1が狭くなる。間隔L1が狭い場合、圧電体ブロック303の剛性を低下させる原因となる。特に、第2の圧電基板502の剛性が低下し、電極形成工程や積層工程で、破損しやすくなるおそれがある。上述したずれ量dが大きくなるにつれて、圧電体ブロック303の剛性の低下は顕著になる。第1の圧電基板501の空気室308の第1の方向における開口幅L3が狭くなるにつれても、圧電体ブロック303の剛性の低下は顕著になる。従って、ずれ量dは小さい方が好ましい。例えば、ずれ量dは、下記の式(2)を満たすことが好ましい。
d<L3−L1(またはL3>L1+d) (2)
上記の式(2)を満たすことによって、圧電体ブロック303の剛性を確保した上で、高密度な記録を実現することができる。