特許第6039281号(P6039281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許60392814−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039281
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/03 20060101AFI20161128BHJP
   C07C 67/56 20060101ALI20161128BHJP
   C07C 67/58 20060101ALI20161128BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20161128BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
   C07C67/03
   C07C67/56
   C07C67/58
   C07C69/54 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-157301(P2012-157301)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-19653(P2014-19653A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】伊東 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁章
(72)【発明者】
【氏名】川上 直彦
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−155263(JP,A)
【文献】 特開2007−254384(JP,A)
【文献】 特開2000−159727(JP,A)
【文献】 特開平9−169698(JP,A)
【文献】 特開2008−231003(JP,A)
【文献】 特開2013−224278(JP,A)
【文献】 特開2013−234144(JP,A)
【文献】 特開2013−256465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/00−69/96
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造する方法であって、エステル交換触媒の存在下で1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させ、得られた反応混合物と水および脂肪族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、反応混合物に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートを水層に抽出させた後、当該水層をイオン交換樹脂と接触させ、当該イオン交換樹脂と接触させた水層と芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートを芳香族炭化水素化合物に抽出させることにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを回収することを特徴とする4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法。
【請求項2】
エステル交換触媒としてジアルキルスズオキシドを用い、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとを当該ジアルキルスズオキシドの存在下でエステル交換反応させることによって得られた4−ヒドロキシブチルアクリレートを含有する反応混合物から当該ジアルキルスズオキシドを回収し、当該回収されたジアルキルスズオキシドを1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際にエステル交換触媒として再利用する請求項1に記載の4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、医療用粘着剤、電子材料用コーティング剤、感光性樹脂組成物などの原料として有用な4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアルキルモノアクリレートを製造する方法として、硫酸、パラトルエンスルホン酸などの触媒を用いてアクリル酸とアルカンジオールとをエステル化反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、前記方法には、未反応のアクリル酸が、医療用粘着剤、電子材料用コーティング剤などの原料として使用するのに支障を生じる量で、生成した4−ヒドロキシブチルアクリレートに残留するという欠点がある。
【0003】
前記方法が有する欠点を解消する方法として、反応触媒としてスタノキサン化合物を用いてアクリル酸誘導体とアルカンジオールとをエステル化反応させることにより、ヒドロキシアルキルモノアクリレートを製造する方法(例えば、特許文献2参照)、反応触媒としてスタノキサン触媒を用いて1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとをエステル交換反応させることにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造する方法(例えば、特許文献3の段落[0020]、特許文献4の段落[0033]−[0034]参照)などが提案されている。しかし、これらの方法によって得られたアクリレートには、アクリル酸などの酸成分が皮膚刺激性を有し、腐食を発生させるおそれがある量で残存するため、当該アクリレートは、医療用粘着剤、電子材料用コーティング剤などの原料に適しているとはいえない。
【0004】
そこで、生成したヒドロキシアルキルアクリレートに含まれている遊離カルボン酸を除去する方法として、反応触媒としてジスタノキサン化合物を用いてアルカンジオールとアクリル酸エステルとをエステル交換反応させ、生成したヒドロキシアルキルアクリレートおよび遊離カルボン酸を含む有機溶液をアルカリ水溶液と接触させる方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、前記方法には、アルカリ水溶液を必要とするため、ヒドロキシアルキルアクリレートが加水分解することから、ヒドロキシアルキルアクリレートの生産性に劣るという欠点がある。
【0005】
したがって、近年、酸によって悪影響を受けやすい医療用粘着剤、電子材料用コーティング剤、感光性樹脂組成物などの原料として好適に使用することができる酸成分の含有率が低い4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許第1518572号明細書
【特許文献2】特開平11−43466号公報
【特許文献3】特開2003−155263号公報
【特許文献4】特開2007−161636号公報
【特許文献5】特開2000−159727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、酸によって悪影響を受けやすい医療用粘着剤、電子材料用コーティング剤、感光性樹脂組成物などの原料として好適に使用することができる酸成分の含有率が低い4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) 1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造する方法であって、エステル交換触媒の存在下で1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させ、得られた反応混合物と水および脂肪族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、反応混合物に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートを水層に抽出させた後、当該水層をイオン交換樹脂と接触させ、当該イオン交換樹脂と接触させた水層と芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートを芳香族炭化水素化合物に抽出させることにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを回収することを特徴とする4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法、および
(2) エステル交換触媒としてジアルキルスズオキシドを用い、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとを当該ジアルキルスズオキシドの存在下でエステル交換反応させることによって得られた4−ヒドロキシブチルアクリレートを含有する反応混合物から当該ジアルキルスズオキシドを回収し、当該回収されたジアルキルスズオキシドを1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際にエステル交換触媒として再利用する前記(1)に記載の4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方
関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸によって悪影響を受けやすい医療用粘着剤、電子材料用コーティング剤、感光性樹脂組成物などの原料として好適に使用することができる酸成分の含有率が低い4−ヒドロキシブチルアクリレートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法は、前記したように、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造する方法であり、エステル交換触媒の存在下で1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させた後、生成した4−ヒドロキシブチルアクリレートを含有する反応混合物から4−ヒドロキシブチルアクリレートを抽出し、回収することを特徴とする。
【0011】
本発明においては、まず、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる。
【0012】
アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチルなどが挙げられ、これらのアクリル酸アルキルエステルは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。アクリル酸アルキルエステルのなかでは、生成する4−ヒドロキシブチルアクリレートと原料のアクリル酸アルキルエステルとを効率よく分離する観点から、アルキル基の炭素数が1〜4であるアクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数が1〜3であるアクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸メチルがさらに好ましい。
【0013】
1,4−ブタンジオール1モルあたりのアクリル酸アルキルエステルの量は、反応速度を高める観点から、好ましくは0.5モル以上であり、未反応のアクリル酸アルキルエステルの量を低減させる観点から、好ましくは5モル以下、より好ましくは3モル以下である。
【0014】
本発明においては、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際に、エステル交換触媒が用いられる。
【0015】
エステル交換触媒としては、例えば、錫化合物、ジチオカルバミン酸金属塩、チタン化合物、タリウム化合物、鉛化合物、クロム化合物、金属アルコラート、水酸化リチウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのエステル交換触媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
エステル交換触媒のなかでは、錫化合物およびジチオカルバミン酸金属塩が好ましく、錫化合物がより好ましい。エステル交換触媒として錫化合物またはジチオカルバミン酸金属塩を用いた場合には、1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造する際に、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を効率よく進行させることができるとともに、アクリル酸、酢酸などの有機酸の使用を必要とせず、酸成分の含有率が低い4−ヒドロキシブチルアクリレートを効率よく製造することができるという優れた効果が奏される。
【0017】
錫化合物としては、例えば、ジアルキルスズオキシド、オクチル酸スズなどのカルボン酸スズ、ジブチルスズジラウレートなどのジアルキルスズジアルキルエステル、モノブチルスズオキサイドなどのモノアルキルスズオキシド、塩化第一錫などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの錫化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
錫化合物のなかでは、ジアルキルスズオキシドが好ましい。エステル交換触媒としてジアルキルスズオキシドを用いた場合には、1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとをエステル交換反応させることによって4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造する際に、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を効率よく進行させることができるとともに、アクリル酸、酢酸などの有機酸の使用を必要とせずに、酸成分の含有率が低い4−ヒドロキシブチルアクリレートを効率よく製造することができるという利点がある。
【0019】
ジアルキルスズオキシドとしては、例えば、ジブチルスズオキシド、ジオクチルスズオキシド、ジラウリルスズオキシドなどのアルキル基の炭素数が4〜18のジアルキルスズオキシドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみ限定されるものではない。これらのジアルキルスズオキシドは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのジアルキルスズオキシドのなかでは、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を促進させる観点から、アルキル基の炭素数が4〜12のジアルキルスズオキシドが好ましく、アルキル基の炭素数が4〜8のジアルキルスズオキシドがより好ましく、ジブチルスズオキシドおよびジオクチルスズオキシドがさらに好ましく、ジオクチルスズオキシドがさらに一層好ましい。
【0020】
ジチオカルバミン酸金属塩としては、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸カリウム、ジブチルジチオカルバミン酸カリウム、メチルエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、メチルブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、メチルエチルジチオカルバミン酸カリウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸カリウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸カリウム、メチルブチルジチオカルバミン酸カリウム、ジフェニルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジトリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジキシリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジナフチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジアントリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェニルジチオカルバミン酸カリウム、ジトリルジチオカルバミン酸カリウム、ジキシリルジチオカルバミン酸カリウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸カリウム、ジナフチルジチオカルバミン酸カリウム、ジアントリルジチオカルバミン酸カリウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸カリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カリウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸カリウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸カリウムなどのジチオカルバミン酸アルカリ金属塩;およびジメチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジエチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジプロピルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジブチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジメチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジエチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジプロピルジチオカルバミン酸カルシウム、ジブチルジチオカルバミン酸カルシウム、メチルエチルジチオカルバミン酸マグネシウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸マグネシウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸マグネシウム、メチルブチルジチオカルバミン酸マグネシウム、メチルエチルジチオカルバミン酸カルシウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸カルシウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸カルシウム、メチルブチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジフェニルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジトリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジキシリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジナフチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジアントリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジフェニルジチオカルバミン酸カルシウム、ジトリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジキシリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸カルシウム、ジナフチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジアントリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジベンジルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カルシウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸カルシウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸カルシウムなどのジチオカルバミン酸アルカリ土類金属塩が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのジチオカルバミン酸金属塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
ジチオカルバミン酸金属塩のなかでは、エステル交換反応後に水洗によって分離させて回収し、再利用することができることから、アルキル基の炭素数が1〜4のジアルキルジチオカルバミン酸塩が好ましく、アルキル基の炭素数が1〜4のジアルキルジチオカルバミン酸アルカリ金属塩がより好ましく、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸カリウムおよびジブチルジチオカルバミン酸カリウムがさらに好ましい。
【0022】
チタン化合物としては、例えば、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラブトキシチタネートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのチタン化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
金属アルコラートとしては、例えば、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、リチウムメチラート、リチウムエチラートなどのアルカリ金属アルコラート;カルシウムメチラート、カルシウムエチラート、マグネシウムメチラート、マグネシウムエチラートなどのアルカリ土類金属アルコラート;アルミニウムメチラート、アルミニウムエチラートなどのアルミニウムアルコラートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの金属アルコラートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
アクリル酸アルキルエステル1モルあたりのエステル交換触媒の量は、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を効率よく進行させる観点から、好ましくは0.00001モル以上、より好ましくは0.0001モル以上であり、好ましくは0.01モル以下、より好ましくは0.005モル以下である。
【0025】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとを反応させる際には、アクリル酸アルキルエステルが重合することを抑制する観点から、重合防止剤の存在下で1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとを反応させることが好ましい。
【0026】
重合防止剤としては、例えば、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどのN−オキシラジカル系化合物;パラメトキシフェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−N,N−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4−tert−ブチルカテコール、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などのフェノール系化合物;メトキノン、ハイドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ベンゾキノンなどのキノン系化合物;塩化第一銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸銅;フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェニル−β−ナフチルアミン,N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミンなどのアミノ化合物;1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒドロキシアミン系化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合禁止剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
アクリル酸アルキルエステル100質量部あたりの重合防止剤の量は、アクリル酸アルキルエステルの重合を抑制する観点から、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上であり、4−ヒドロキシブチルアクリレートの純度を高める観点から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。
【0028】
なお、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際には、有機溶媒を用いることができる。
【0029】
有機溶媒は、エステル交換反応の反応系内で不活性な有機溶媒であることが好ましい。好適な有機溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、テトラヒドロフランなどのエーテル化合物、ジクロロメタン、1,1−ジクロロエタンなどの有機塩素化合物、ニトロベンゼンなどの芳香族ニトロ化合物、トリエチルホスフェートなどの有機リン化合物、ジメチルスルホキシドなどの有機硫黄化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
有機溶媒の量は、特に限定されないが、通常、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとの合計量100質量部あたり5〜200質量部程度であればよい。
【0031】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を行なう際の反応温度は、反応速度を高める観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、生成する4−ヒドロキシブチルアクリレートの重合を防止する観点から、好ましくは150℃以下である。
【0032】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を行なう際の雰囲気は、アクリル酸アルキルエステルの重合を防止する観点から、酸素を含有する雰囲気であることが好ましく、安全性を高める観点から、酸素濃度が5体積%〜大気濃度のガスであることがより好ましい。また、その雰囲気の圧力は、通常、大気圧であればよいが、加圧または減圧であってもよい。例えば、その雰囲気の圧力を減圧させた場合には、還流温度を低下させることができるので、副反応を抑制することができるという利点がある。
【0033】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を行なう際の反応時間は、1,4−ブタンジオールおよびアクリル酸アルキルエステルの量、反応温度などによって異なるので一概には決定することができないことから、通常、エステル交換反応が完了するまでの時間が選択される。1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応の終点は、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどによって確認することができる。
【0034】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応は、例えば、精留塔、流動床、固定床、反応蒸留塔などを用いて行なうことかできるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応は、流通式および回分式のいずれの方式によって行なってもよい。
【0035】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応の進行とともにアルコールが副生する。副生するアルコールは、通常、反応を進行させるために反応系外に除去することが好ましい。副生するアルコールは、例えば、アクリル酸エステルまたは適当な溶媒との共沸混合物として反応系外に除去することができる。
【0036】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとのエステル交換反応を行なった後、生成した反応混合物から、反応に使用した有機溶媒、未反応のアクリル酸エステルおよびアルコールを留去することにより、目的化合物であるヒドロキシブチルアルコールを回収することができる。反応混合物からの未反応のアクリル酸エステルおよびアルコールの除去は、抽出処理によって行なうことができる。
【0037】
より具体的には、生成した4−ヒドロキシブチルアクリレートは、例えば、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることによって得られた反応混合物と水および脂肪族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、4−ヒドロキシブチルアクリレートを水層に抽出させた後、当該水層と芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートを芳香族炭化水素化合物に抽出させることにより、回収することができる。
【0038】
反応混合物と水および脂肪族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合した場合には、反応混合物に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートを水層に抽出させ、副生した1,4−ブタンジオールジアクリレートなどを脂肪族炭化水素化合物層に抽出させることができるので、当該水層を脂肪族炭化水素化合物層と分離することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを含有する水層を回収することができる。
【0039】
脂肪族炭化水素化合物としては、例えば、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、イソヘキサン、イソオクタン、イソデカンなどの炭素数が6〜12の脂肪族炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、本願明細書において、脂肪族炭化水素化合物は、例えば、シクロヘキサンなどの脂環構造を有するものを含む概念のものである。水および脂肪族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒には、本発明の目的を阻害しない範囲内で芳香族炭化水素化合物が含まれていてもよい。
【0040】
前記抽出溶媒において、脂肪族炭化水素化合物および水の量は、反応混合物の量などによって異なるので一概には決定することができないことから、反応混合物に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートを水層に抽出させ、脂肪族炭化水素化合物層と水層とを分離するのに適した量を適宜調整することが好ましい。また、前記抽出操作を行なう際の温度は、特に限定されないが、通常、5〜50℃程度であることが好ましい。
【0041】
なお、反応混合物と水および脂肪族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合し、4−ヒドロキシブチルアクリレートを水層に抽出させた後には、当該水層をイオン交換樹脂と接触させることが好ましい。このように前記水層をイオン交換樹脂と接触させた場合には、酸成分の含有率がより一層低い4−ヒドロキシブチルアクリレートを得ることができる。
【0042】
イオン交換樹脂としては、例えば、四級アンモニウム塩に基づく塩基性基を有するアニオン交換樹脂、リン酸、カルボン酸、スルホン酸など酸に基づく酸基を有する酸性カチオン交換樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。アニオン交換樹脂としては、強塩基性アニオン樹脂、弱塩基性アニオン樹脂、強塩基性カチオン樹脂と強塩基性アニオン樹脂との混合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。酸性イオン交換樹脂としては、例えば、強酸性カチオン樹脂、弱酸性カチオン樹脂、強酸性カチオン樹脂と強塩基性アニオン樹脂との混合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのイオン交換樹脂のなかでは、酸成分の含有率がより一層低い4−ヒドロキシブチルアクリレートを得る観点から、アニオン交換樹脂が好ましい。
【0043】
イオン交換樹脂の量は、その種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、当該イオン交換樹脂と接触させる水層の量の0.0001〜0.1容量倍程度であることが好ましい。
【0044】
次に、4−ヒドロキシブチルアクリレートが抽出された水層と、芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒とを混合することにより、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートを芳香族炭化水素化合物層に抽出させ、当該芳香族炭化水素化合物層を水層と分離することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを含有する芳香族炭化水素化合物層を回収することができる。
【0045】
芳香族炭化水素化合物としては、例えば、ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、芳香族炭化水素化合物を含有する抽出溶媒には、本発明の目的を阻害しない範囲内で脂肪族炭化水素化合物、水などが含まれていてもよい。
【0046】
芳香族炭化水素化合物の量は、前記脂肪族炭化水素化合物層と分離された水層の量などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該水層に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートを芳香族炭化水素化合物層に抽出させ、芳香族炭化水素化合物層と水層とを分離するのに適した量を適宜調整することが好ましい。前記抽出操作を行なう際の温度は、特に限定されないが、通常、5〜50℃程度であることが好ましい。
【0047】
前記芳香族炭化水素化合物層に含まれている4−ヒドロキシブチルアクリレートは、例えば、芳香族炭化水素化合物を蒸発させるなどの方法によって除去することにより、回収することができる。芳香族炭化水素化合物層に含まれている芳香族炭化水素化合物を除去する際の温度は、特に限定されないが、通常、20〜150℃程度であることが好ましい。以上のようにして回収された4−ヒドロキシブチルアクリレートは、必要により、蒸留精製、洗浄などにより、高純度化させてもよい。
【0048】
一方、脂肪族炭化水素化合物層には、副生した1,4−ブタンジオールジアクリレートが含まれているが、当該1,4−ブタンジオールジアクリレート以外にもジアルキルスズオキシドが含まれている。したがって、ジアルキルスズオキシドの有効活用を図る観点から、蒸留、濃縮、洗浄などの方法により、脂肪族炭化水素化合物層からジアルキルスズオキシドを回収してもよい。
【0049】
本発明においては、回収されたジアルキルスズオキシドは、触媒活性があまり失活せずに維持されているので、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際にエステル交換触媒として再利用することができる。したがって、回収されたジアルキルスズオキシドは、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際にエステル交換触媒として再利用し、当該回収されたジアルキルスズオキシドの存在下で1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させることができる。その際、回収されたジアルキルスズオキシドは、触媒活性を維持する観点から、1,4−ブタンジオールとアクリル酸アルキルエステルとをエステル交換反応させる際の反応系内における含水率が1000ppm以下となるように乾燥させた後に、再利用することが好ましい。
【0050】
このように本発明の4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法によれば、回収されたジアルキルスズオキシドは、その触媒活性が失活するまで繰り返して使用することができるので、本発明の4−ヒドロキシブチルアクリレートの製造方法は、工業的生産性に優れている。
【0051】
以上のようにして回収された4−ヒドロキシブチルアクリレートは、必要により、蒸留精製、洗浄などにより、高純度化させてもよい。
【0052】
本発明の製造方法によれば、酸成分であるアクリル酸の含有率が50ppm以下、好ましくは30ppm以下、より好ましくは15ppm以下である4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造することができる。したがって、当該4−ヒドロキシブチルアクリレートは、酸成分であるアクリル酸の含有率が低いので、皮膚刺激性が低く、かぶれや炎症が発生しがたいことから、例えば、パップ剤などの医療用粘着剤、電子材料用コーティング剤、感光性樹脂組成物などの原料として有用である。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
実施例1
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダショウ20段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に1,4−ブタンジオール675g(7.5モル)、アクリル酸メチル430.45g(5.0モル)、シクロヘキサン100gおよび重合防止剤としてフェノチアジン0.72gを仕込んだ後、ジオクチルスズオキシド3.61gをフラスコ内に添加し、酸素ガスを7体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量で吹き込みながら1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で10時間反応させることにより、反応混合物を得た。得られた反応混合物から溶媒を除く成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、4−ヒドロキシブチルアクリレートの含有率は50.9質量%、1,4−ブタンジオールの含有率は37.9質量%、1,4−ブタンジオールジアクリレートの含有率は11.2質量%であった。
【0055】
次に、生成したメタノールとシクロヘキサンとの共沸混合物をデカンター内に入れ、水50mLをデカンター内に連続添加し、分離したメタノール水溶液をデカンターから除去しながらメタノールの留出がほとんどなくなるまで1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で反応させた。1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を88℃に加熱し、シクロヘキサンおよび未反応のアクリル酸メチルを共沸によって留去することにより、反応混合物1088gを得た。
【0056】
第1抽出操作として、脈動型連続抽出塔(直径:25mm、長さ:1.4mの充填塔)の上部から前記で得られた反応混合物1088gを50mL/hrの流量で、純水を29.5mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部からシクロヘキサンを87.8mL/hrの流量で22時間かけて供給し、塔内を30〜35℃に加熱し、連続抽出することにより、副生した1,4−ブタンジオールジアクリレートを含むシクロヘキサン層と、生成した4−ヒドロキシブチルアクリレートおよび未反応の1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。
【0057】
第2抽出操作として、前記で得られた水層1200mLを連続抽出塔の上部から50mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部から抽出溶媒としてトルエンを87.5mL/hrの流量で24時間かけて供給した。塔内を35〜40℃に加熱し、連続抽出することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを含むトルエン層と1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。前記トルエン層に含まれているトルエン以外の成分における1,4−ブタンジオールジアクリレートの含有率をガスクロマトグラフィーによって調べたところ、その含有率は0.11質量%であった。
【0058】
次に、第2抽出操作で得られたトルエン層1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gをフラスコ内に添加し、フラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調整し、減圧度280〜20hPaにて14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを濃縮した。次に得られた濃縮物を薄膜蒸留器で蒸留し、留出液の酸分を測定したところ、留出液におけるアクリル酸の含有率は0.0065質量%(65ppm)であった。
【0059】
実施例2
2L容のガラス製の4口フラスコ内にオールダショウ20段、還流冷却器および気体導入管を取り付け、1,4−ブタンジオール675g、アクリル酸メチル430.45g(5.0モル)、シクロヘキサン100gおよび重合防止剤としてフェノチアジン0.72gを仕込んだ後、ジオクチルスズオキシド3.00gをフラスコ内に添加し、酸素ガスを7体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量で吹き込みながら1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で10時間反応させた。
【0060】
生成したメタノールとシクロヘキサンとの共沸混合物をデカンター内に入れ、水50mLをデカンター内に連続添加し、分離したメタノール水溶液をデカンターから除去しながらメタノールの留出がほとんどなくなるまで1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で反応させた。
【0061】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を減圧下で80℃に加熱し、シクロヘキサンおよび未反応のアクリル酸メチルを留去することにより、反応混合物1080gを得た。
【0062】
次に、第1抽出操作として、脈動型連続抽出塔(直径25mm、長さ1.4mの充填塔)の上部から前記で得られた反応混合物1080gを50mL/hrの流量で、また純水を29.5mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部からシクロヘキサンを87.8mL/hrの流量で22時間かけて供給し、塔内を30〜35℃に加熱し、連続抽出することにより、副生した1,4−ブタンジオールジアクリレートを含むシクロヘキサン層と、生成した4−ヒドロキシブチルアクリレートおよび未反応の1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。
【0063】
第2抽出操作として、前記で得られた水層1200mLを連続抽出塔の上部から50mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部から抽出溶媒としてトルエンを87.5mL/hrの流量で24時間かけて供給した。塔内を35〜40℃に加熱し、連続抽出することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを含むトルエン層と1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。前記トルエン層に含まれているトルエン以外の成分における1,4−ブタンジオールジアクリレートの含有率をガスクロマトグラフィーによって調べたところ、その含有率は0.10質量%であった。
【0064】
次に、第2抽出操作で得られたトルエン層1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gを当該フラスコ内に添加し、このフラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調節し、280〜20hPaの減圧下で14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを濃縮した。
【0065】
次に、第2抽出操作で得られたトルエン層1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gをフラスコ内に添加し、フラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調整し、減圧度280〜20hPaにて14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを濃縮した。次に得られた濃縮物を薄膜蒸留器で蒸留し、留出液の酸分を測定したところ、留出液におけるアクリル酸の含有率は0.0076質量%(76ppm)であった。
【0066】
実施例3
2L容のガラス製の4口フラスコ内にオールダショウ20段、還流冷却器および気体導入管を取り付け、1,4−ブタンジオール675g、アクリル酸メチル430.45g(5.0モル)、シクロヘキサン100gおよび重合防止剤としてフェノチアジン0.72gを仕込んだ後、ジオクチルスズオキシド3.80gをフラスコ内に添加し、酸素ガスを7体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量で吹き込みながら1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で5時間反応させた。
【0067】
生成したメタノールとシクロヘキサンとの共沸混合物をデカンター内に入れ、水50mLをデカンター内に連続添加し、分離したメタノール水溶液をデカンターから除去しながらメタノールの留出がほとんどなくなるまで1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で反応させた。
【0068】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を88℃に加熱し、未反応のアクリル酸メチルをシクロヘキサンとの共沸によって留去することにより、反応混合物1109gを得た。
【0069】
次に、第1抽出操作として、脈動型連続抽出塔(直径25mm、長さ1.4mの充填塔)の上部から前記で得られた反応混合物1109gを50mL/hrの流量で、また純水を29.5mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部からシクロヘキサンを87.8mL/hrの流量で22時間かけて供給し、塔内を30〜35℃に加熱し、連続抽出することにより、副生した1,4−ブタンジオールジアクリレートを含むシクロヘキサン層と、生成した4−ヒドロキシブチルアクリレートおよび未反応の1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。
【0070】
次に、前記で得られた水層を95g/hrの流量で強塩基性アニオン交換樹脂〔オルガノ(株)製、商品名:アンバーライトIRA900JCL〕16gを充填したカラム内に滴下することにより、水層を強塩基性カチオン交換樹脂と接触させた。その後、第2抽出操作として、前記で得られた水層1200mLを連続抽出塔の上部から50mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部から抽出溶媒としてトルエンを87.5mL/hrの流量で24時間かけて供給した。塔内を35〜40℃に加熱し、連続抽出することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを含むトルエン層と1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。前記トルエン層に含まれているトルエン以外の成分における1,4−ブタンジオールジアクリレートの含有率をガスクロマトグラフィーによって調べたところ、その含有率は0.12質量%であった。
【0071】
次に、第2抽出操作で得られたトルエン層1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gを当該フラスコ内に添加し、このフラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調節し、280〜20hPaの減圧下で14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを濃縮した。
【0072】
第2抽出操作で得られたトルエン層1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gをフラスコ内に添加し、フラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調整し、減圧度280〜20hPaにて14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを濃縮した。次に得られた濃縮物を薄膜蒸留器で蒸留し、留出液の酸分を測定したところ、留出液におけるアクリル酸の含有率は0.0013質量%(13ppm)であった。
【0073】
実施例3の結果から、エステル交換触媒としてジオクチルスズオキシドを用い、さらに水層を塩基性イオン交換樹脂と接触させることにより、アクリル酸の含有率が15ppm以下である4−ヒドロキシブチルアクリレートを効率よく製造することができることがわかる。
【0074】
実施例4
実施例1の第2抽出操作で得られた水層を濃縮することにより、1,4−ブタンジオールとジオクチルスズオキシドとの混合物340gを回収した。
【0075】
次に、実施例1で用いられた1,4−ブタンジオールの代わりに、前記で回収された混合物340gを仕込み、さらに実施例1で用いられた1,4−ブタンジオールと同量となるように、新たな1,4−ブタンジオールを仕込んだ。その際、前記混合物にジアルキルスズオキシドが含まれていることから、エステル交換触媒を新たに添加しなかった。
【0076】
その後、実施例1と同様にして1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で10時間反応させた。
【0077】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を減圧下で88℃に加熱し、未反応のアクリル酸メチルを留去することにより、反応混合物1080gを得た。
【0078】
前記で得られた反応混合物から溶媒を除く成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に4−ヒドロキシブチルアクリレートの含有率は50.1質量%、1,4−ブタンジオールの含有率は37.3質量%および1,4−ブタンジオールジアクリレートの含有率は12.2質量%であった。
【0079】
第1抽出操作として、脈動型連続抽出塔(直径:25mm、長さ:1.4mの充填塔)の上部から前記で得られた反応混合物1088gを50mL/hrの流量で、純水を29.5mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部からシクロヘキサンを87.8mL/hrの流量で22時間かけて供給し、塔内を30〜35℃に加熱し、連続抽出することにより、副生した1,4−ブタンジオールジアクリレートを含むシクロヘキサン層と、生成した4−ヒドロキシブチルアクリレートおよび未反応の1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。
【0080】
前記で得られた水層を弱塩基性アニオン交換樹脂〔オルガノ(株)製、商品名:アンバーライトIRA98〕16gを充填したカラム内に前記で得られた水層を95g/hrの流量で滴下することにより、水層を弱塩基性カチオン交換樹脂と接触させた。
【0081】
次に、第2抽出操作として、前記で得られた水層1200mLを連続抽出塔の上部から50mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部から抽出溶媒としてトルエンを87.5mL/hrの流量で24時間かけて供給した。塔内を35〜40℃に加熱し、連続抽出することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを含むトルエン層と1,4−ブタンジオールを含む水層とを得た。前記トルエン層に含まれているトルエン以外の成分における1,4−ブタンジオールジアクリレートの含有率をガスクロマトグラフィーによって調べたところ、その含有率は0.11質量%であった。
【0082】
第2抽出操作で得られたトルエン層1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gを当該フラスコ内に添加し、このフラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調節し、280〜20hPaの減圧下で14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを濃縮した。
【0083】
前記で得られた濃縮物に含まれている成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、当該成分中に4−ヒドロキシブチルアクリレート98.3質量%、1,4−ブタンジオールジアクリレート0.11質量%および1,4−ブタンジオール1.2質量%が含まれていた。次に得られた濃縮物を薄膜蒸留器で蒸留し、留出液の酸分を測定したところ、留出液におけるアクリル酸の含有率は0.0015質量%(15ppm)であった。
【0084】
以上の結果から、エステル交換触媒を再利用し、前記抽出操作を行なった場合であっても、酸性分の含有率が低い4−ヒドロキシブチルアクリレートを効率よく回収することができることがわかる。
【0085】
実施例5
実施例1において、エステル交換触媒としてテトラメチルチタネート(純度:70質量%)6.14g(0.025モル)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作で1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で10時間反応させることにより、反応混合物を得た。得られた反応混合物から溶媒を除く成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、4−ヒドロキシブチルアクリレートの含有率は51.1質量%、1,4−ブタンジオールの含有率は36.5質量%、1,4−ブタンジオールジアクリレートの含有率は12.4質量%であった。
【0086】
次に、第1抽出操作として、脈動型連続抽出塔(直径:25mm、長さ:1.4mの充填塔)の上部から前記で得られた反応混合物1088gを50mL/hrの流量で、純水を29.5mL/hrの流量で供給し、連続抽出塔の下部からシクロヘキサンを87.8mL/hrの流量で供給した。その結果、連続抽出塔の反応混合物が白濁し、不溶物が析出したため、生成した1,4−ブタンジオールジアクリレートを当該反応混合物から分離することができなかった。
【0087】
実施例1〜5の結果から、エステル交換触媒として錫化合物であるジアルキルスズオキシドを用いた場合には(実施例1〜4)、エステル交換触媒としてテトラメチルチタネートを用いた場合と対比して(実施例5)、反応混合物から4−ヒドロキシブチルメタクリレートを容易に単離することができることがわかる。
【0088】
比較例1
実施例1において、触媒であるジオクチルスズオキシドを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作で1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを反応させ、反応開始から3時間経過後にメタノールの生成量を調べたが、メタノールが生成しておらず、反応混合物をガスクロマトグラフィーで分析したが、4−ヒドロキシブチルアクリレートの生成がまったく認められなかった。
【0089】
比較例2
2L容のガラス製の4口フラスコにオールダショウ20段、還流冷却器および空気導入管を取り付け、当該フラスコ内に1,4−ブタンジオール676g(7.5モル)、アクリル酸360.5g(5.0モル)、シクロヘキサン400gおよび重合防止剤としてフェノチアジン0.721gを仕込んだ後、精製された98%硫酸3.6gをフラスコ内に添加し、酸素ガスを7体積%含有する窒素ガスを20mL/minの流量で吹き込みながら1,4−ブタンジオールとアクリル酸とを85℃の温度に加熱し、共沸脱水により生成水を系外に除去し、1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとを85℃の温度で12時間反応させた。
【0090】
1,4−ブタンジオールとアクリル酸メチルとの反応終了後、得られた反応液を10%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、実施例1と同様に第1抽出操作および第2抽出操作を行なうことにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートのトルエン溶液を得た。
【0091】
次に、第2抽出操作で得られた4−ヒドロキシブチルアクリレートのトルエン溶液(トルエン層)1400gを2L容のガラス製の3口フラスコ内に仕込み、重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.008gをフラスコ内に添加し、フラスコ内の底部における温度を74〜85℃に調整し、減圧度280〜20hPaにて14時間トルエンを留去することにより、4−ヒドロキシブチルアクリレートを濃縮した。
【0092】
次に得られた濃縮物を薄膜蒸留器で蒸留し、留出液の酸分を測定したところ、留出液におけるアクリル酸の含有率は0.075質量%(750ppm)であった。
【0093】
比較例2の結果から、アクリル酸メチルの代わりにアクリル酸を用い、エステル交換反応ではなく、エステル化反応によって4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造した場合には、アクリル酸の含有率が50ppmを大幅に超えるため、アクリル酸の含有率が50ppm以下である4−ヒドロキシブチルアクリレートを製造することができないことがわかる。
【0094】
以上の結果から、各実施例の製造方法によって得られた4−ヒドロキシブチルアクリレートは、当該4−ヒドロキシブチルアクリレートにおけるアクリル酸の含有率が50ppm以下であるので、皮膚刺激性が低く、かぶれや炎症が問題となる医療用粘着剤の原料に適しているのみならず、電子材料用コーティング剤、作業環境が重視される紫外線硬化、電子線硬化などによる感光性樹脂組成物などの原料として好適に使用することができることがわかる。