(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039292
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】露光装置及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20161128BHJP
G02B 17/06 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G02B17/06
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-172013(P2012-172013)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-32278(P2014-32278A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】福岡 亮介
(72)【発明者】
【氏名】大阪 昇
【審査官】
佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−215579(JP,A)
【文献】
特開2003−309053(JP,A)
【文献】
特開2009−163133(JP,A)
【文献】
特開平07−218863(JP,A)
【文献】
特開2005−024584(JP,A)
【文献】
特開平07−183204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20 − 7/24 、 9/00 − 9/02 、
H01L21/027、21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原版のパターンを基板上に投影する複数の投影光学系を備え、前記原版および前記基板を走査方向に移動させながら前記原版を照明して前記複数の投影光学系によって複数のパターン像を投影して前記基板を露光する露光装置であって、
前記複数の投影光学系は、前記基板上に第1パターン像を投影する第1の投影光学系と、前記基板上に第2パターン像を投影する第2の投影光学系と、を含み、
前記第1パターン像および前記第2パターン像は、前記原版および前記基板を前記走査方向に移動させながら前記第1パターン像によって露光される前記基板上の領域と前記第2パターン像によって露光される前記基板上の領域とが互いに重なる重なり領域を有するように前記基板上に投影され、
前記重なり領域において、前記第1の投影光学系のテレセントリシティによってベストフォーカス位置からデフォーカスした位置で生じる前記走査方向に対して垂直な方向における前記第1パターン像の位置ずれと、前記第2の投影光学系のテレセントリシティによって前記デフォーカスした位置と同じデフォーカス位置で生じる前記走査方向に対して垂直な方向における前記第2パターン像の位置ずれと、が同じ向きになるように、前記第1投影光学系の光学素子の構成と前記第2の投影光学系の光学素子の構成とが互いに異なる光学設計になっていることを特徴とする露光装置。
【請求項2】
原版のパターンを基板上に投影する複数の投影光学系を備え、前記原版および前記基板を走査方向に移動させながら前記原版を照明して前記複数の投影光学系によって複数のパターン像を投影して前記基板を露光する露光装置であって、
前記複数の投影光学系は、前記基板上に第1パターン像を投影する第1の投影光学系と、前記基板上に第2パターン像を投影する第2の投影光学系と、を含み、
前記第1パターン像および前記第2パターン像は、前記原版および前記基板を前記走査方向に移動させながら前記第1パターン像によって露光される前記基板上の領域と前記第2パターン像によって露光される前記基板上の領域とが互いに重なる重なり領域を有するように前記基板上に投影され、
前記重なり領域において、前記第1の投影光学系の非対称収差によって生じる前記走査方向に対して垂直な方向における前記第1パターン像の位置ずれと、前記第2の投影光学系の非対称収差によって生じる前記走査方向に対して垂直な方向における前記第2パターン像の位置ずれと、が同じ向きになるように、前記第1投影光学系の光学素子の構成と前記第2の投影光学系の光学素子の構成とが互いに異なる光学設計になっていることを特徴とする露光装置。
【請求項3】
前記光学素子の構成は、光学素子間の距離、光学素子の曲率半径、光学素子の厚みの少なくとも1つを含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記第1パターン像と前記第2パターン像の位置ずれは、前記走査方向においても同じ向きであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記基板上において、前記第1の投影光学系による投影領域は、前記第2の投影光学系による投影領域を反転させた形状である、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項6】
前記投影領域の形状が円弧または台形を含むことを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記複数の投影光学系は、それぞれ凸面ミラーと凹面ミラーを備え、前記第1の投影光学系および前記第2の投影光学系は互いに反転して配置されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の露光装置。
【請求項8】
前記非対称収差は歪曲収差を含み、
前記第1の投影光学系は正の歪曲収差を有し、前記第2の投影光学系は負の歪曲収差を有する、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項9】
前記非対称収差は倍率色収差を含み、
前記第1の投影光学系は正の倍率色収差を有し、前記第2の投影光学系は負の倍率色収差を有する、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項10】
前記非対称収差はコマ収差を含み、
前記第1の投影光学系は外向性のコマ収差を有し、前記第2の投影光学系は内向性のコマ収差を有する、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項11】
前記原版を照明する第1の照明光学系および第2の照明光学系と、を有し、
前記第1の照明光学系からの第1の照明光で前記原版を照明して前記第1の投影光学系により前記原版のパターンの像を前記基板上に投影し、
前記第2の照明光学系からの第2の照明光で前記原版を照明して前記第2の投影光学系により前記原版のパターンの像を前記基板上に投影し、
前記第1の照明光学系および第2の照明光学系は、前記照明光学系を構成する光学素子の位置または傾きを調整することで、前記第1パターン像と前記第2パターン像の位置ずれを低減する、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の露光装置を使用して基板を露光する工程と、
該露光された基板を現像する工程と、を有する
ことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
露光装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィ技術を用いて液晶表示デバイスを製造する際に、マスクに形成されたパターンを、投影光学系を介してガラス基板に転写する投影露光装置が使用されている。近年、投影露光装置には、液晶表示デバイスの大型化や低価格化に対応するために、露光面積の拡大が要求されている。
【0003】
露光面積を拡大するための技術として、例えば、複数の投影光学系を用いる、所謂、つなぎ露光方式が提案されている。つなぎ露光方式を利用した投影露光装置として、特許文献1に記載の走査型の投影露光装置が知られている。特許文献1の投影露光装置は、非走査方向に沿って並設された複数の投影光学系を備え、複数の投影光学系が基板上に形成する複数の転写パターンのうち隣り合う転写パターンの端部を互いに重ね合わせることで、全体として露光面積の拡大を図るものである。また特許文献1では、複数の投影光学系を用いて1回目の走査露光を行った後に、基板を非走査方向にステップ移動させて2回目の走査露光を行っている。1回目と2回目の走査露光によって形成される転写パターンの端部を互いに重ね合わせることで、さらに露光面積を拡大させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−163133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
隣接する投影光学系によって形成される転写パターンを重ね合わせた場合、重ね合わせ領域における転写パターンの相対的な位置ずれ量が大きいと、重ね合わせによって得られる転写パターンの転写精度が悪くなってしまう。この転写パターンの位置ずれの要因の一つとして、投影光学系のテレセントリシティまたは非対称収差が挙げられる。
【0006】
通常、投影光学系は、基板に照射する光のテレセントリシティの倒れ角度がほぼ0°、すなわち、主光線が基板に対してほぼ垂直になるように設計される。しかしながら、投影光学系に搭載可能な光学素子の枚数には装置の大きさやコストの制約があるため、設計上充分に補正しきれない残差成分が残存することになる。この残差成分は、基板のデフォーカスに伴う転写パターンの位置ずれを引き起こし、位置ずれの方向は、基板に照射する光のテレセントリシティの倒れ方向によって決まる。隣接する投影光学系を同じ構成にした場合、これらの投影光学系を介して基板に照射する光のテレセントリシティの倒れ方向は、両方とも投影光学系の光軸に向かう方向、もしくは、両方とも投影光学系の光軸から離れる方向となる。このため、重ね合わせ領域において、一方の投影光学系により形成される転写パターンの基板のデフォーカスに伴う位置ずれと、他方の投影光学系により形成される転写パターンのデフォーカスに伴う位置ずれが反対方向に生じてしまう。すなわち、隣り合う転写パターンの相対的な位置ずれ量は、各転写パターンの位置ずれ量の絶対値を足し合わせた量となる。
【0007】
投影光学系の非対称収差(コマ収差、ディストーション、倍率色収差)についても同様のことがいえる。隣接する投影光学系を同じ構成にした場合、両方の投影光学系のコマ収差が外向性、もしくは両方の投影光学系のコマ収差が内向性となる。また、両方の投影光学系の歪曲収差が正(糸巻き型)、もしくは両方の投影光学系の歪曲収差が負(たる型)となる。両方の投影光学系の倍率色収差が正、もしくは両方の投影光学系の倍率色収差が負となる。このため、重ね合わせ領域において、一方の投影光学系により形成される転写パターンの非対称収差による位置ずれと、他方の投影光学系により形成される転写パターンの非対称収差による位置ずれが反対方向に生じてしまう。
【0008】
特許文献1には、1回目と2回目で形成される転写パターンの非走査方向のパターン幅を適宜変更した場合に、1回目と2回目の重ね合わせ領域に対応する投影光学系がその都度変更され、重ね合わせ領域でパターンのむらが発生してしまうことが記載されている。このパターンのむらを低減するために、1回目と2回目の重ね合わせ領域での転写パターンの位置ずれが許容範囲になるように各投影光学系の像面位置、フォーカス位置、倍率を調整している。具体的には、2枚の平行平板ガラスを傾斜させて像面を基板の表面に平行な方向にシフトさせ、楔プリズムを光軸回りに回転させてフォーカス位置を変化させ、平凸レンズ、両凸レンズを光軸に沿う方向に移動させてパターン像の倍率を変化させている。
【0009】
しかしながら、特許文献1では、隣接する投影光学系のテレセントリシティまたは非対称収差について考慮されていない。上述したように、これらの光学特性には設計上取り除くことが困難な残差成分があるため、重ね合わせ領域において、隣り合う転写パターンの位置ずれ量の絶対値が足し合わされた量の相対位置ずれが生じてしまう。この相対的な位置ずれは、装置の性能を満たすために十分小さいものであればよいが、装置の性能向上の要求が高まるにつれて、さらに小さくすることが望まれている。
【0010】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、重ね合わせ領域において、隣接する投影光学系によって形成される転写パターンの相対位置ずれ量を低減し、原版のパターンを精度よく転写することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面
の露光装置は、
原版のパターンを基板上に投影する複数の投影光学系を備え、前記原版および前記基板を走査方向に移動させながら前記原版を照明して前記複数の投影光学系によって複数のパターン像を投影して前記基板を露光する露光装置であって、前記複数の投影光学系は、前記基板上に第1パターン像を投影する第1の投影光学系と、前記基板上に第2パターン像を投影する第2の投影光学系と、を含み、前記第1パターン像および前記第2パターン像は、前記原版および前記基板を前記走査方向に移動させながら前記第1パターン像によって露光される前記基板上の領域と前記第2パターン像によって露光される前記基板上の領域とが互いに重なる重なり領域を有するように前記基板上に投影され、前記重なり領域において、前記第1の投影光学系のテレセントリシティによってベストフォーカス位置からデフォーカスした位置で生じる前記走査方向に対して垂直な方向における前記第1パターン像の位置ずれと、前記第2の投影光学系のテレセントリシティによって前記デフォーカスした位置と同じデフォーカス位置で生じる前記走査方向に対して垂直な方向における前記第2パターン像の位置ずれと、が同じ向きになるように、前記第1投影光学系の光学素子の構成と前記第2の投影光学系の光学素子の構成とが互いに異なる光学設計になっていることを特徴としている。
また、本発明の別の側面としての露光装置は、原版のパターンを基板上に投影する複数の投影光学系を備え、前記原版および前記基板を走査方向に移動させながら前記原版を照明して前記複数の投影光学系によって複数のパターン像を投影して前記基板を露光する露光装置であって、前記複数の投影光学系は、前記基板上に第1パターン像を投影する第1の投影光学系と、前記基板上に第2パターン像を投影する第2の投影光学系と、を含み、前記第1パターン像および前記第2パターン像は、前記原版および前記基板を前記走査方向に移動させながら前記第1パターン像によって露光される前記基板上の領域と前記第2パターン像によって露光される前記基板上の領域とが互いに重なる重なり領域を有するように前記基板上に投影され、前記重なり領域において、前記第1の投影光学系の非対称収差によって生じる前記走査方向に対して垂直な方向における前記第1パターン像の位置ずれと、前記第2の投影光学系の非対称収差によって生じる前記走査方向に対して垂直な方向における前記第2パターン像の位置ずれと、が同じ向きになるように、前記第1投影光学系の光学素子の構成と前記第2の投影光学系の光学素子の構成とが互いに異なる光学設計になっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、重ね合わせ領域において、隣り合う転写パターンの位置ずれの方向を非走査方向または走査方向に関して同じ方向にすることによって、隣り合う転写パターンの相対位置ずれを小さくしている。これにより、重ね合わせ領域において、隣接する投影光学系によって形成される転写パターンの相対位置ずれを低減し、原版のパターンを精度よく転写することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明を適用可能な投影露光装置の概略斜視図。
【
図3】ガラス基板P上の投影領域PA1〜PA5を示す図。
【
図4】投影光学系PL1、PL2を介した光m1、m2の重ね合わせ領域への入射状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明を適用可能な走査型の投影露光装置100の概略斜視図である。投影露光装置100は、マスクM(原版)を保持するマスクステージと、ガラス基板P(基板)を保持する基板ステージと、マスクMを照明する照明光学系(照明手段)LOを備えている。さらに、マスクMに形成されたパターンの投影像をガラス基板上に転写し、潜像としての転写パターンをガラス基板P上に形成する投影光学系POを備えている。ガラス基板P上には感光剤(レジスト)が塗布されており、転写パターンは感光剤中に形成される。以下の説明において、走査に沿う軸をX軸とし、ガラス基板Pの面内(本実施形態においては水平面内)においてX軸と直交する軸をY軸とし、ガラス基板の法線に沿う軸をZ軸とする。
【0015】
投影露光装置100は、マスクMとガラス基板Pとを投影光学系POに対して走査させながらマスクMと投影光学系POを介した光をガラス基板P状に照射し、マスクMに形成されたパターンをガラス基板P上に転写する。投影光学系POは、並設された複数の投影光学系PO1〜PO5から構成される。複数の投影光学系PO1〜PO5がガラス基板P上に形成する複数の転写パターンのうち隣り合う転写パターンの端部を互いに重ね合わせることで、原版に形成されたパターンをガラス基板P上に転写する。
【0016】
光源1からの光は、光ファイバ2を介して照明光学系(照明手段)LOに導かれる。光源1として例えば水銀ランプが用いられる。照明光学系LOは複数の照明光学系LO1〜LO5から構成される。各照明光学系は、コンデンサーレンズ、ハエの目レンズ等を含み、均一な照度分布の光でマスクMを照明するように構成される。さらに各照明光学系は光源1からの光の一部を遮光する遮光板を含み、この遮光板の円弧形状のスリットの作用により、円弧形状(円弧スリット状)の照明領域が形成される。すなわちマスクMを、円弧形状スリットからの円弧形状の照明光が照明するように構成される。本実施形態では、投影光学系としてオフナー光学系を採用しており、円弧形状の照明領域にすることでオフナー光学系において良好な結像性能が得られるようにしている。照明領域および照明光の形状は光学系の構成に合わせて適宜設定すればよく、たとえば、台形形状であってもよい。
【0017】
複数の照明光学系LO1〜LO5からの光は、マスクM上の複数の照明領域MA1〜MA5を照明し、複数の投影光学系PO1〜PO5を介して、ガラス基板P(基板)上に導かれる。複数の投影光学系PO1〜PO5はY軸方向(非走査方向)に沿って並設され、隣接する投影光学系はX軸方向(走査方向)に離れて配置されている。投影光学系PL1、PL3、PL5と投影光学系PO2、PO4とを反転させて配置することによって、投影光学系同士の物理的な干渉を防ぎ、隣り合う転写パターンの端部を互いに重ね合わせることができる。この投影光学系PO1〜PO5の配置に合わせて、マスクM上の照明領域MA1、MA3、MA5の外周形状は、照明領域MA2、MA4の外周形状を反転させた形状にしている。
【0018】
図2は、投影光学系PO1、PO2を示す正面図である。投影光学系PO1は、オフナー光学系をZ軸に沿って2段に並べた構成である。上段のオフナー光学系は、マスクMからの光を凹面ミラー12に導き、凹面ミラー12及び凸面ミラー13を介した光を下段のオフナー光学系に導くミラーユニット11を備える。下段のオフナー光学系は、上段のオフナー光学系からの光を凹面ミラー22に導き、凹面ミラー22及び凸面ミラー23を介した光をガラス基板Pに導くミラーユニット21を備える。さらに投影光学系PO1は、収差を補正するための複数の光学素子を備える。投影光学系PO3、PO5は、投影光学系PO1と同じ光学系であるので、説明を省略する。
【0019】
投影光学系PO2は、オフナー光学系をZ軸に沿って2段に並べた構成である。上段のオフナー光学系は、マスクMからの光を凹面ミラー32に導き、凹面ミラー32及び凸面ミラー33を介した光を下段のオフナー光学系に導くミラーユニット31を備える。下段のオフナー光学系は、上段のオフナー光学系からの光を凹面ミラー42に導き、凹面ミラー42及び凸面ミラー43を介した光をガラス基板Pに導くミラーユニット41を備える。さらに投影光学系PO1は、収差を補正するための複数の光学素子を備える。投影光学系PO4は、投影光学系PO2と同じ光学系であるので、説明を省略する。上段のオフナー光学系で反転させたパターンの投影像を、下段のオフナー光学系で再び反転させるため、マスクMに形成されたパターンをそのままガラス基板P上に転写することができる。
【0020】
図3は、ガラス基板P上の投影領域PA1〜PA5を示す図である。投影領域PA1〜PA5は、投影光学系PO1〜PO5に対応している。基板を走査させることによって、投影領域PA1〜PA5は、ガラス基板1上を矢印方向に移動する。したがって、投影光学系PO1は、図示される2本の破線間の領域に転写パターンを形成し、投影光学系PO2は、2本の一点鎖線間の領域に転写パターンを形成する。重ね合わせ領域OAは、ガラス基板P上において隣り合う転写パターンが重なる領域である。以下の説明において、隣接する投影光学系として投影光学系PO1(第1の投影光学系)とPO2(第2の投影光学系)を説明するが、それ以外の隣接する投影光学系(例えば、投影光学系PO2とPO3)についても同様であるとして説明を省略する。
【0021】
図4(a)、(b)は、投影光学系PO1、PO2を介した光m1、m2の重ね合わせ領域への入射状態を示す模式図である。
図4(a)は、横軸をX軸、縦軸をZ軸としており、
図4(b)は、横軸をY軸、縦軸をZ軸としている。上述のとおり、照明光学系LO1、LO2からの照明光(第1の照明光、第2の照明光)は、マスクMに照射され、投影光学系PL1、PO2を介してガラス基板Pに照射される。
【0022】
投影光学系は、理想的には、ガラス基板Pに照射する光のテレセントリシティの倒れ角度がほぼ0°、すなわち、主光線がガラス基板Pに対してほぼ垂直になるように設計される。しかしながら、装置の大きさやコストの制約があるため倒れ角度を0°にすることは困難であり、光学設計上での残差成分をもってしまう。また、光学設計上の残差成分に対して十分小さいが、製造誤差による残差成分をもっている。そのため、投影光学系PO1を介した光m1と、投影光学系PO2を介した光m2は、ガラス基板Pの法線に対して倒れ角度をもって重ね合わせ領域に照射される。BPはガラス基板Pのベストフォーカス位置であり、DPはベストフォーカス位置から距離dだけ離れたデフォーカス位置である。光m1、m2のXZ平面内での倒れ角度がθ1、θ2である場合、ガラス基板Pが距離dだけデフォーカスすると、転写パターンの位置ずれΔX1、ΔX2が生じる。また、光m1、m2のYZ平面内での倒れ角度がθ3、θ4である場合、ガラス基板Pが距離dだけデフォーカスすると、転写パターンの位置ずれΔY1、ΔY2が生じる。
【0023】
本実施形態において、投影光学系PO1を介してガラス基板Pに照射する光が、投影光学系PO1の光軸から離れる方向に倒れるように、投影光学系PO1が構成されている。さらに、投影光学系PO2を介してガラス基板Pに照射する光が、投影光学系PO2の光軸に向かう方向に倒れるように、投影光学系PO2が構成されている。つまり、投影光学系PO1、PO2のテレセントリシティを互いに異ならせている。具体的には、投影光学系PO1、PO2を構成する光学素子間の距離、光学素子の曲率半径、光学素子の厚みの少なくとも1つを互いに異ならせることによって、投影光学系PO1、PO2のテレセントリシティを互いに異ならせている。これにより、投影光学系PO1、PO2の構成を大幅に変えなくてもよいため、製造コストを抑えることができる。
【0024】
また、重ね合わせ領域において、XZ平面内での光m1、m2の倒れ方向を同じ方向にし、YZ平面内での光m1、m2の倒れ方向を同じ方向にしている。光m1、m2の倒れ方向を同じ方向にすることによって、隣り合う転写パターンの位置ずれが同じ方向
(向き)になり、これらの転写パターンの相対的な位置ずれ量は両者の絶対値の差分となる。したがって、各転写パターンの位置ずれがあったとしても、両者の相対的な位置ずれ量を小さくすることができる。
【0025】
上述の構成に加えて、照明光学系を構成する光学素子の一部の位置または傾きを調整する調整機構を設けてもよい。調整機構を用いてガラス基板Pに照射される光の倒れ角度θ1、θ2の絶対値を小さくすることで、相対的な位置ずれ量をさらに小さくすることができる。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、重ね合わせ領域において、隣接する投影光学系によって形成される転写パターンの相対位置ずれを低減し、原版のパターンを精度よく転写することができる。
【0027】
(第2実施形態)
第1実施形態では、隣接する投影光学系のテレセントリシティに関する光学特性について説明したが、本実施形態では、隣接する投影光学系の非対称収差に関する光学特性について説明をする。露光装置の概略構成は
図1、
図2と同様であるものとして、説明を省略する。以下の説明において、隣接する投影光学系として投影光学系PO1(第1の投影光学系)とPO2(第2の投影光学系)を説明するが、それ以外の隣接する投影光学系(例えば、投影光学系PO2とPO3)についても同様であるとして説明を省略する。
【0028】
本実施形態において、投影光学系PO1は正(糸巻き型)の歪曲収差をもち、投影光学系PO2は負(たる型)の歪曲収差をもつように構成される。つまり、投影光学系PO1、PO2の歪曲収差に関する光学特性を互いに異ならせている。このため、
図3の重ね合わせ領域において、投影光学系PO1の歪曲収差による転写パターンの位置ずれは−Y方向に発生し、投影光学系PO2の歪曲収差による転写パターンの位置ずれは−Y方向に発生する。つまり、これらの転写パターンの相対的な位置ずれ量は両者の絶対値の差分となる。したがって、各転写パターンの位置ずれがあったとしても、両者の相対的な位置ずれ量を小さくすることができる。
【0029】
歪曲収差に代えて、投影光学系PO1、PO2の倍率色収差を互いに異ならせてもよい。この場合、例えば、投影光学系PO1は正の倍率色収差をもち、投影光学系PO2は負の倍率色収差をもつ。また、歪曲収差に代えて、投影光学系PO1、PO2のコマ収差を互いに異ならせてもよい。この場合、例えば、投影光学系PO1は外向性のコマ収差をもち、投影光学系PO2は内向性のコマ収差をもつ。なお、本明細書において、重ね合わせ領域における隣り合う転写パターンの線幅のずれも、転写パターンの位置ずれとしている。
【0030】
投影光学系PO1、PO2の非対
称収差を異ならせるために、本実施形態では、投影光学系PO1、PO2を構成する光学素子間の距離、光学素子の曲率半径、光学素子の厚みの少なくともいずれかを互いに異ならせている。これにより、投影光学系PO1、PO2の構成を大幅に変えなくてもよいため、製造コストを抑えることができる。
【0031】
第1および第2の実施形態では、重ね合わせ領域において、隣り合う投影光学系のテレセントリシティまたは非対称収差によって決まる各転写パターンの位置ずれの方向は、非走査方向および走査方向に関して同じ方向にしている。要求される装置の性能によっては、非走査方向と走査方向のいずれか一方のみを同じ方向にしてもよい。また、投影露光装置は液晶表示デバイスを製造する装置に限られない。例えば、半導体デバイスを製造する装置にも適用可能である。
【0032】
つぎに、本発明の一実施形態のデバイス(半導体デバイス、液晶表示デバイス等)の製造方法について説明する。半導体デバイスは、ウエハに集積回路を作る前工程と、前工程で作られたウエハ上の集積回路チップを製品として完成させる後工程を経ることにより製造される。前工程は、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたウエハを露光する工程と、ウエハを現像する工程を含む。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)を含む。液晶表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラス基板に感光剤を塗布する工程と、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたガラス基板を露光する工程と、ガラス基板を現像する工程を含む。本実施形態のデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。