(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記燃料組成推定手段は、前記第1の空気過剰率目標値と前記第2の空気過剰率目標値との差分の絶対値が所定の閾値以上である場合に、前記燃料の組成の推定を開始する、請求項1に記載のエンジン制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1に示すディーゼルエンジン1は、六本の気筒2を有する車両用のエンジンであり、ECU[Engine Control Unit](エンジン制御装置)20によって制御されている。ディーゼルエンジン1の燃料としては軽油が用いられるが、必ずしも軽油に限られる必要はなく、パラフィン系燃料やGTL[Gas To Liquids]燃料その他の様々な燃料を使用できる。
【0017】
ディーゼルエンジン1の吸気通路3及び排気通路4には、過給機7のコンプレッサー7a及びタービン7bがそれぞれ配置されている。過給機7は、排気エネルギーを利用してタービン7b及びコンプレッサー7aを回転させることで吸気通路3の空気の圧縮を行っている。
【0018】
吸気通路3上には、吸引した空気から埃等を取り除くエアクリーナー5、空気の吸引量(供給量)を検出するためのMAFセンサ[Mass flow sensor]6、コンプレッサー7aの圧縮で昇温した空気を冷却するためのインタークーラ8が配置されている。
【0019】
MAFセンサ6は、吸気通路3を流れる空気の流れを質量流量(g/sec)で検出するセンサである。MAFセンサ6は、空気の質量流量の検出値をECU20に送信する。
【0020】
排気通路4上には、排気中の酸素濃度を検出するO
2センサ(酸素濃度検出手段)9、排気中の粒子状物質を軽減させるDPF[Diesel Particulate Filter]10、排気中の窒素酸化物を浄化するためのSCR[Selective Catalytic Reduction]11が配置されている。
【0021】
O
2センサ9は、DPF10やSCR11における再生処理や燃料噴射の影響を避けるため、DPF10及びSCR11よりも上流側(エンジン側)に設けられている。O
2センサ9は、排気中の酸素濃度の検出値をECU20に送信する。
【0022】
また、ディーゼルエンジン1は、燃料タンク13内の燃料を供給するための燃料ポンプ12と気筒2内に燃料を噴射するインジェクタ(図示せず)を備えている。燃料ポンプ12とインジェクタは、ECU20によってコントロールされており、ポンプへの制御信号とインジェクタ内部に備えられる電磁弁の通電時間により気筒2に供給する燃料の量を体積流量(cm
3/sec)で制御する。
【0023】
また、燃料タンク13には、タンク内の燃料量を検出するための燃料量検出センサ14が設けられている。燃料量検出センサ14は、燃料タンク13内の燃料量の検出値をECU20に送信する。
【0024】
ECU20は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]等からなる電子制御ユニットである。ECU20では、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、CPUで実行することで、各種のエンジン制御が実行される。
【0025】
ECU20は、上述したMAFセンサ6、O
2センサ9、燃料ポンプ12、及び燃料量検出センサ14以外にも、図示しない各種センサと接続されており、エンジン制御に必要な情報を取得する。例えば、ECU20は、ディーゼルエンジン1のエンジン回転数Neを検出する回転数センサや運転者によるアクセル開度Acを検出するアクセルセンサと接続されており、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Acの情報を取得する。
【0026】
図1に示されるように、ECU20は、燃料供給目標値算出部21、空気供給目標値算出部22、空気過剰率目標値算出部(空気過剰率算出手段)23、情報記憶部24、燃料組成推定部(燃料組成推定手段)25を有している。
【0027】
燃料供給目標値算出部21では、ディーゼルエンジン1に対する燃料体積流量目標値Q
fの算出が行われる。燃料供給目標値算出部21は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Acに基づいて、燃料体積流量目標値Q
fを算出する。燃料体積流量目標値Q
fは、燃料の体積流量に関する目標値であり、単位は例えばcm
3/secである。
【0028】
燃料供給目標値算出部21は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Acと燃料体積流量目標値Q
fとを関連付けたマップを記憶しており、このマップを用いたマップ制御によって燃料体積流量目標値Q
fを求める。ECU20は、燃料体積流量目標値Q
fに基づいて燃料ポンプ12及びインジェクタ内部に備えられる電磁弁の通電時間の制御を行う。
【0029】
また、燃料供給目標値算出部21は、予め設定された仮定の燃料密度ρ
f(g/cm
3)を記憶しており、算出した燃料体積流量目標値Q
fに仮定の燃料密度ρ
fを乗じることで、燃料供給目標値G
fを算出する。燃料供給目標値G
fは、燃料の質量流量の目標値であり、単位はg/secである。
【0030】
空気供給目標値算出部22では、空気供給目標値G
Aが算出される。空気供給目標値G
Aは、ディーゼルエンジン1に供給される空気の質量流量に関する目標値であり、単位はg/secである。
【0031】
空気供給目標値算出部22は、MAFセンサ6の検出値、エンジン回転数Ne、燃料体積流量目標値Q
f等に基づいて空気供給目標値G
Aを算出する。ECU20は、空気供給目標値G
Aに基づいて気筒2の吸気バルブを制御する。なお、空気供給目標値算出部22は、車外の気温や気圧等も考慮して空気供給目標値G
Aをより正確に算出してもよい。
【0032】
空気過剰率目標値算出部23では、燃料供給目標値G
f及び空気供給目標値G
Aに基づいて、空気過剰率目標値λが算出される。空気過剰率目標値λは、次の式(1)で表わすことができる。式(1)に示すTAFR[Theoretical Air Fuel Ratio]は理論空燃比である。
λ=(G
A/G
f)/TAFR…(1)
【0033】
情報記憶部24は、空気過剰率目標値算出部23が算出した空気過剰率目標値λを記憶する。また、情報記憶部24は、O
2センサ9による排気中の酸素濃度[O
2]の検出値を取得している。情報記憶部24は、空気過剰率目標値λと当該空気過剰率目標値λに対応する排気中の酸素濃度[O
2]とを関連づけて記憶する。
【0034】
ここで、空気過剰率目標値λに対応する排気中の酸素濃度[O
2]とは、当該空気過剰率目標値λに応じて燃料噴射が制御されたときのディーゼルエンジン1の排気中における酸素濃度[O
2]である。
【0035】
燃料組成推定部25では、情報記憶部24に記憶された空気過剰率目標値λ及び当該空気過剰率目標値λに対応する排気中の酸素濃度[O
2]に基づいて、燃料の組成が推定される。
【0036】
次に、ECU20における燃料組成の推定について
図2を参照して説明する。
図2は、本発明に係る燃料組成の推定を説明するためのフローチャートである。
【0037】
図2に示されるように、ECU20では、ステップS1として運転中のエンジン回転数Neの読込みが行われる。ECU20は、図示しない回転数センサの検出値からエンジン回転数Neを読み込む。ステップS1が開始されたときのエンジンの運転状態を第1の運転状態とする。
【0038】
ステップS2では、第1の運転状態における燃料体積流量目標値Q
f(cm
3/sec)の算出が行われる。燃料供給目標値算出部21は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Acに基づいて、マップから燃料体積流量目標値Q
fを算出する。
【0039】
ステップS3では、仮定の燃料密度ρ
f(g/cm
3)の読込みが行われる。燃料供給目標値算出部21は、予め記憶していた仮定の燃料密度ρ
fを読み込む。
【0040】
ステップS4では、第1の運転状態における燃料供給目標値G
fの算出が行われる。燃料供給目標値算出部21は、算出した燃料体積流量目標値Q
fに仮定の燃料密度ρ
fを乗じることで、燃料供給目標値G
fを算出する。
【0041】
ステップS5では、第1の運転状態における空気供給目標値G
A(g/sec)の算出が行われる。空気供給目標値算出部22は、MAFセンサ6の検出値、エンジン回転数Ne、燃料体積流量目標値Q
f等に基づいて空気供給目標値G
Aを算出する。
【0042】
ステップS6では、第1の運転状態に対応する第1の空気過剰率目標値λtの算出が行われる。空気過剰率目標値算出部23は、燃料供給目標値G
f及び空気供給目標値G
Aと理論空燃比に基づいて、上述した式(1)から第1の運転状態に対応する第1の空気過剰率目標値λtを算出する。情報記憶部24は、算出された第1の空気過剰率目標値λtを記憶する。
【0043】
ステップS7では、第1の運転状態に対応する第1の酸素濃度[O
2]tの読込みが行われる。情報記憶部24は、第1の空気過剰率目標値λtに対応する[O
2]tを読込む。
【0044】
ステップS8では、第1の空気過剰率目標値λtと当該空気過剰率目標値λtに対応する排気中の酸素濃度[O
2]tが記憶される。情報記憶部24は、λt及び[O
2]tを関連づけて記憶する。
【0045】
ステップS9では、再びエンジン回転数Neを読込みが行われる。ステップS9が開始されたときのディーゼルエンジン1の運転状態を第2の運転状態とする。ステップS9は、ステップS8に続けて開始されてもよいが、ステップS8から所定時間が経過後に開始するようにしてもよい。或いは、エンジン運転状態等に基づき所定の判定条件が満たされた場合に開始するようにしてもよい。
【0046】
ステップS10では、第2の運転状態における燃料体積流量目標値Q
f(cm
3/sec)の算出が行われる。続いて、ステップS11では、仮定の燃料密度ρ
f(g/cm
3)の読込みが行われる。そして、ステップS12では、仮定の燃料密度ρ
fを用いた第2の運転状態における燃料供給目標値G
fの算出が行われる。
【0047】
その後、ステップS13では、第2の運転状態における空気供給目標値G
A(g/sec)の算出が行われる。
【0048】
ステップS14では、第2の運転状態に対応する第2の空気過剰率目標値λt+1の算出が行われる。空気過剰率目標値算出部23は、上述した式(1)から第2の運転状態に対応する第2の空気過剰率目標値λt+1を算出する。情報記憶部24は、算出された第2の空気過剰率目標値λt+1を記憶する。
【0049】
ステップS15では、第2の運転状態に対応する第2の酸素濃度[O
2]t+1の読込みが行われる。情報記憶部24は、O
2センサ9の検出値の中から、第2の空気過剰率目標値λt+1に対応する第2の酸素濃度[O
2]t+1を読込む。
【0050】
ステップS16では、第2の空気過剰率目標値λt+1と第2の酸素濃度[O
2]t+1が記憶される。情報記憶部24は、λt+1及び[O
2]t+1を関連づけて記憶する。
【0051】
ステップS17では、第1の空気過剰率目標値λtと第2の空気過剰率目標値λt+1との差分の絶対値が所定の閾値Δλs以上であるか否かが判定される。λtとλt+1とが近すぎると燃料組成の推定の精度が下がるため、所定の閾値Δλsは推定精度を確保できる適切な値に設定される。
【0052】
ステップS17において、第1の空気過剰率目標値λtと第2の空気過剰率目標値λt+1との差分の絶対値が所定の閾値Δλs以上ではないと判定された場合(λt−λt+1<Δλs)、再びステップS9に戻り、処理をやり直す。
【0053】
ステップS17において、第1の空気過剰率目標値λtと第2の空気過剰率目標値λt+1との差分の絶対値が所定の閾値Δλs以上であると判定された場合(λt−λt+1≧Δλs)、ステップS18に移行して燃料組成の推定を開始する。
【0054】
ステップS18では、燃料組成の推定が行われる。燃料組成推定部25は、第1の空気過剰率目標値λt及び第1の酸素濃度[0
2]tと、第2の空気過剰率目標値λt+1及び第2の酸素濃度[0
2]t+1と、に基づいて、ディーゼルエンジン1が使用している燃料の組成を推定する。以下、燃料組成の推定について説明する。
【0055】
燃料の組成をCnHm(n,mは整数)で表わすと、燃料及び空気中の酸素の燃焼反応は下記の式(2)で示される。
CnHm+(n+m/4)O2→nCO2+(m/2)H2O…(2)
【0056】
空気中の酸素濃度は約21%であることから、ディーゼルエンジン1に供給される空気中の酸素について、実際の空気過剰率Λを用いると下記の式(3)で表わされる。
(n+m/4)O
2→(n+m/4)/0.21Λ=α/0.21Λ…(3)
なお、α=(n+m/4)である。
【0057】
この場合、排気中の酸素濃度[O2]は下記の式(4)によって表わされる。
[O
2]=(Λ−1)×α/{(4.76Λ−1)×α+n}=(Λ−1)/(4.76Λ−γ)…(4)
なお、γ=1−n/(n+m/4)=m/(4n+m)である。
【0058】
上記式(4)を空気過剰率Λについて解き、更に第1の運転状態及び第2の運転状態にそれぞれ対応する式(5),(6)を立てる。下記の式(5)は、第1の運転状態における実際の空気過剰率Λtと第1の酸素濃度[O
2]tの関係を示す式である。下記の式(6)は、第2の運転状態における実際の空気過剰率Λt+1と第2の酸素濃度[O
2]t+1を示す式である。
Λt=([O
2]t×γ+1)/(1−4.76[O
2]t)…(5)
Λt+1=([O
2]t+1×γ+1)/(1−4.76[O
2]t+1)…(6)
【0059】
ここで、異なる燃料組成(密度)の燃料を噴射した場合、密度分だけ噴射量が増減することから、空気過剰率目標値λ(見かけの空気過剰率)と実際の空気過剰率Λとの比は一定である。このため、第1の運転状態における実際の空気過剰率Λtと第1の空気過剰率目標値λt、及び、第2の運転状態における実際の空気過剰率Λt+1と第2の空気過剰率目標値λt+1は、下記の式(7),(8)で表わすことができる。なお、βは定数である。
Λt=λt×β…(7)
Λt+1=λt+1×β…(8)
【0060】
以上の式(5)〜(8)から下記の式(9),(10)が導かれる。
λt×β=([O
2]t×γ+1)/(1−4.76[O
2]t)…(9)
λt+1×β=([O
2]t+1×γ+1)/(1−4.76[O
2]t+1)…(10)
【0061】
上記式(9),(10)のうち、λt,λt+1,[O
2]t,[O
2]t+1は既知である。このため、二つの式(9),(10)からβ及びγの値を求めることができる。γ=m/(4n+m)であることから、燃料組成CnHmのCH比が求められる。なお、主要な燃料の分子量などから、燃料組成CnHmの変数n,mの値まで推定してもよい。
【0062】
なお、燃料中のCH比が異なると、低位発熱量が変化することがある。この場合でも、例えばDulongの式において、酸素、硫黄、水分等を無視できるとした場合、低位発熱量Hlは、下記の式(11)で表わされる。なお、a、bは質量分率である。
Hl=33900a+120000b[kJ/kg]…(11)
【0063】
上記式(11)より推定される低位発熱量Hlが、元となる燃料の低位発熱量と異なる場合には、その比分も補正に加える必要がある。例えばGTL燃料では、一般的な軽油と比べて密度は7%程度低いが、発熱量は2%程度高い場合が多いため、全体として5%の噴射増量が必要となることがある。このような補正を考慮することで、より適切な車両制御が行われる。
【0064】
このようにして、燃料組成推定部25は燃料組成CnHmの推定を行う。情報記憶部24は、燃料組成推定部25の推定結果を記憶する。その後、燃料組成推定処理のフローを終了する。
【0065】
なお、燃料組成推定処理の途中に、排気管への燃料噴射やDPF10の温度を上げるためのポスト噴射を行った場合には、処理を停止してステップS1又はステップS9からやり直す。
【0066】
また、ECU20は、エンジン運転停止からエンジン運転開始までの間に燃料タンク13内の燃料量が所定値以上に変動した場合には、燃料補給等により燃料組成が変化したと判断して過去の推定結果を消去し、新たに燃料組成の推定を行う。ECU20は、燃料量センサ14の検出値に基づいて、燃料タンク13内の燃料量が所定値以上に変動したか否かを判定する。なお、燃料量が所定値以上に変動した場合には、燃料補給により燃料量が増加した場合の他、車両を長時間放置したために揮発等により燃料量が減少して燃料組成が変化した場合も含まれる。
【0067】
或いは、ECU20は、エンジンキーがONになる度に、燃料組成の推定を新たにやり直す態様であってもよい。
【0068】
以上説明した本実施形態に係るECU20によれば、燃料組成(密度)の異なる燃料がディーゼルエンジン1に供給される場合であっても、燃料組成を仮定して燃料供給目標値及び空気供給目標値から空気過剰率目標値を算出することにより、当該空気過剰率目標値で燃料を燃焼させて実際に生じた排気中の酸素濃度と当該空気過剰率目標値との関係から実際の燃料組成を推定することができる。従って、このECU20によれば、燃料組成が異なる場合を考慮して燃料組成を推定することにより、適切なトルクを出力するように燃料噴射量を制御することができる。このことは、燃料組成の変動による排気特性の悪化を避けるので、エンジンの環境性能の向上に寄与する。また、燃費向上にも有利である。
【0069】
また、このECU20によれば、MAFセンサ6及びO
2センサ9の検出値に基づいて燃料組成を推定するので、燃料組成を直接計測するための専用のセンサ類を新たに設ける必要もなく、車両の低コスト化に有利である。しかも、このECU20では、燃料組成推定用の特別な機器も必要としないので、従来の車種であっても車両設計をほとんど変えることなく採用することができる。
【0070】
更に、このECU20では、第1の空気過剰率目標値λtと第2の空気過剰率目標値λt+1との差分が小さい場合には燃料組成の推定精度に影響があることから、当該差分の絶対値が所定の閾値Δλs以上である場合に推定を開始することで、燃料組成の推定結果の信頼性を高めることができる。
【0071】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0072】
例えば、本発明が適用されるディーゼルエンジンは、過給機、DPF、SCR等を必ずしも備える必要はなく、エンジン構成は
図1に示すものに限られない。また、燃料組成の推定方法も上述したものに限られるものではない。