(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の製造方法では、全光線透過率が80%以上、かつ面内位相差が10nm以下であるポリイミドフィルムを製造する。本発明の製造方法には、以下の4つの工程が含まれる。
a)テトラカルボン酸成分及びジアミン成分を反応させてなるポリイミド前駆体と溶剤とを含むポリイミド前駆体含有溶液を、支持体上に塗布する工程
b)ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜からなるポリイミド前駆体フィルムを、ポリイミド前駆体のイミド化率が90%以上、かつ溶剤の残存量が1質量%以下となるまで加熱する工程
c)工程b)で得られるフィルムを支持体から剥離する工程
d)工程cで得られるフィルムを、ポリイミドのガラス転移温度以下の温度で加熱して、イミド化率が98%以上であるポリイミドフィルムを得る工程
【0023】
前述のように、従来のポリイミドフィルムの製造方法では、支持体から剥離後のフィルムの端部や周囲を固定して、ガラス転移温度以上に加熱する。しかしこの方法では、フィルムが自重によって垂れ下がり、フィルムに応力がかかる。そのため、フィルムの面内位相差が大きくなる。また、溶剤が多量に残存する状態で、支持体から剥離したフィルムを加熱乾燥させると、溶剤の揮発等によってフィルムが収縮しようとする。しかし、加熱時には、フィルムの端部や周囲が固定されているため、フィルムが収縮できず、フィルムに応力がかかり、面内位相差が非常に大きくなる。
【0024】
これに対し、本願発明では、上記工程b);つまり支持体上で溶剤の乾燥、及びポリイミド前駆体のイミド化を十分に行う。このとき、支持体がポリイミドフィルム前駆体フィルムを面で支えているため、ポリイミド前駆体フィルムが自重によって垂れ下がること等がない。また、支持体上のポリイミド前駆体フィルムは、端部や周囲が固定されていない。そのため、ポリイミド前駆体フィルムが自由に伸縮でき、余分な応力がポリイミド前駆体フィルムにかからない。
【0025】
また、工程b)で溶剤の乾燥、及びポリイミド前駆体のイミド化を十分に行うため、工程d)における再加熱の際に、フィルムが収縮し難い。したがって、フィルムの端部や周囲を固定して、加熱を行っても、フィルムに応力がかからない。また、工程d)における加熱温度が、ポリイミドのガラス転移温度以下であるため、フィルムが自重によってたれ下がらない。このように、本願発明ではポリイミドフィルムに余分な応力をかけることなく製造するため、得られるポリイミドフィルムの面内位相差が十分に小さくなる。
【0026】
本発明のポリイミドフィルムは、例えば
図1に示される装置によって、長尺のポリイミドフィルムとして製造されうる。
図1に示される製造装置は、塗布装置20と、無端ベルト21と、無端ベルト21の移動方向に沿って配置された複数の加熱炉10と、無端ベルト21から剥離されたフィルム1を把持するテンタークリップ2と、テンタークリップ2で把持されたフィルム1を加熱する加熱炉10’とを具備する。製造された長尺のポリイミドフィルムは巻き取られて、ロール体30とされる。
【0027】
1.工程a)について
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させてなるポリイミド前駆体と溶剤とを含むポリイミド前駆体含有溶液を準備する。ポリイミド前駆体含有溶液に含まれるポリイミド前駆体の種類は、特に制限されないが、得られるポリイミドフィルムの全光線透過率を高めるとの観点から、ポリイミド前駆体の主鎖に、脂環族や脂肪族が含まれることが好ましい。このようなポリイミド前駆体を含むポリイミド前駆体含有溶液については、後で詳述する。
【0028】
準備したポリイミド前駆体含有溶液を、支持体上に塗布する。支持体は、表面が平滑で、かつ耐熱性及び耐溶剤性を有するものであれば特に制限はない。支持体を構成する材料の例には、ガラス等の無機材料;ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂材料;ステンレス等の金属材料等が含まれる。支持体の形状は、作製するポリイミドフィルムの形状に合わせて適宜選択する。単葉シート状のポリイミドフィルムを作製する場合、支持体は平板状でありうる。一方、ロール状のポリイミドフィルムを作製する場合、例えば
図1に示されるように、支持体21は無端ベルト状やロール状等でありうる。
【0029】
ポリイミド前駆体含有溶液の支持体への塗布(流延)は、ポリイミド前駆体含有溶液を一定の膜厚で塗布可能な方法であれば、特に制限されない。塗布装置20の例には、ダイコータ、コンマコータ、ロールコータ、グラビアコータ、カーテンコータ、スプレーコータ、リップコータ等が含まれる。
【0030】
ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜の厚み(塗布膜厚)は、所望のポリイミドフィルムの厚みや、ポリイミド前駆体含有溶液中のポリイミド前駆体の濃度に応じて適宜選択される。
【0031】
2.工程b)について
前述の工程a)で支持体上に形成されたポリイミド前駆体含有溶液の塗膜;つまりポリイミド前駆体フィルムを加熱する。工程b)では、i)ポリイミド前駆体フィルムを、150℃以下の温度から徐々に温度を上昇させながら加熱し、さらにii)200℃以上の温度(一定温度)で、一定時間加熱することが好ましい。
【0032】
i)一般的なポリイミド前駆体がイミド化する温度は150〜200℃である。そのため、ポリイミドフィルムの温度を急激に200℃以上まで上昇させると、フィルムから溶剤が揮発する前に、フィルム表面のポリイミド前駆体がポリイミド化する。そして、フィルム内の溶剤が発泡したり、溶剤が外部に放出される際に、フィルム表面に凹凸が生じたりする。したがって、150〜200℃の温度領域では、ポリイミドフィルムの温度を徐々に上昇させることが好ましい。具体的には150〜200℃の温度領域における昇温速度を0.25〜50℃/分とすることが好ましく、より好ましくは1〜40℃/分であり、さらに好ましくは2〜30℃/分である。
【0033】
昇温は、連続的でも段階的(逐次的)でもよいが、連続的とすることが、フィルムの外観不良抑制の面から好ましい。また、上述の全温度範囲において、昇温速度を一定としてもよく、途中で変化させてもよい。
【0034】
単葉状のポリイミド前駆体フィルムを昇温しながら加熱する方法の例には、ポリイミド前駆体フィルムを加熱するためのオーブン内温度を昇温する方法がある。この場合、昇温速度は、オーブンの設定によって調整する。また、長尺状のポリイミド前駆体フィルムを昇温しながら加熱する場合、例えば
図1に示されるように、ポリイミド前駆体1を加熱するための複数加熱炉10を、無端ベルト21の移動方向に沿って配置し;加熱炉10の温度を、加熱炉10ごとに変化させる。例えば、無端ベルト21の移動方向に沿って、それぞれの加熱炉10の温度を高めればよい。この場合、昇温速度は、ポリイミド前駆体フィルム1の搬送速度で調整する。
【0035】
ii)ポリイミド前駆体フィルムを、温度を上昇させながら加熱した後、さらに200℃以上の温度(一定温度)で、一定時間加熱することが好ましい。このときの加熱温度は200℃以上であることが好ましく、より好ましくは、得られるポリイミドのガラス転移温度より5〜30℃高い温度、さらに好ましくは、得られるポリイミドのガラス転移温度より5〜20℃高い温度である。200℃以上の温度で一定時間加熱することで、ポリイミド前駆体を十分にイミド化させることができる。また、得られるポリイミドのガラス転移温度より高い温度で一定時間加熱すると、フィルムが軟化するため、フィルム内部の溶剤を十分に揮発させることができる。上記一定温度での加熱時間は、加熱温度、ポリイミド前駆体フィルムの厚み、ポリイミド前駆体のイミド化率、ポリイミド前駆体フィルム中の溶剤量等に応じて、適宜選択される。通常0.5〜2時間程度である。
【0036】
ポリイミド前駆体フィルムを一定温度で加熱する方法は、特に制限されない。単葉状のポリイミド前駆体フィルムは、一定温度に調整したオーブン等で加熱する方法等でありうる。また、長尺状のポリイミド前駆体フィルムは、一定に温度を保持した加熱炉等で加熱する方法等でありうる。
【0037】
ここで、ポリイミド前駆体フィルムの温度が200℃を超えると、ポリイミドが酸化されやすくなる。ポリイミドが酸化されると、得られるポリイミドフィルムが黄変し、ポリイミドフィルムの全光線透過率が低下する。そこで、200℃を超える温度領域では、(i)加熱雰囲気の酸素濃度を5体積%以下とする、もしくは(ii)加熱雰囲気を減圧することが好ましい。
【0038】
(i)加熱雰囲気の酸素濃度を5体積%以下とすると、ポリイミドの酸化反応を抑制できる。200℃を超える温度領域における酸素濃度は、より好ましくは3体積%以下であり、さらに好ましくは1体積%以下である。酸素濃度を低下させる方法は、特に制限されないが、加熱雰囲気内に不活性ガスを導入する方法等でありうる。雰囲気中の酸素濃度は、市販の酸素濃度計(例えば、ジルコニア式酸素濃度計)により測定される。
【0039】
(ii)また、加熱雰囲気を減圧することでも、ポリイミドの酸化反応を抑制できる。加熱雰囲気を減圧する場合には、雰囲気内の圧力を5kPa以下とすることが好ましく、より好ましくは1kPa以下である。加熱雰囲気を減圧する場合には、減圧オーブン等でポリイミド前駆体フィルムを加熱する。
【0040】
工程b)終了時;つまり加熱終了時のポリイミド前駆体のイミド化率は90%以上であり、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上である。イミド化率が90%を下回ると、後述の工程d)でフィルムが伸縮しやすくなり、面内位相差が低下する傾向にある。イミド化率は、ポリイミド前駆体フィルムのIR吸収スペクトルの測定値から算出できる。具体的には、以下の方法で算出する。
【0041】
ポリイミド前駆体フィルムのIR吸収スペクトルを測定する。そして、1500cm
−1の吸収ピーク高さ(ベンゼン環のC=C伸縮振動によるピーク(基準))に対する、1370cm
−1の吸収ピーク高さ(イミド環のC−N伸縮振動)の比率Aを算出する。一方、同一の組成のポリイミド前駆体含有溶液からなるポリイミド前駆体フィルムを作製し、これを270℃で2時間以上加熱して、完全にイミド化させる。このフィルムについて、IR吸収スペクトルを測定し、同様に1500cm
−1の吸収ピーク高さ(ベンゼン環のC=C伸縮振動によるピーク(基準))に対する、1370cm
−1の吸収ピーク高さ(イミド環のC−N伸縮振動)の比率Bを算出する。そして、比率Bに対する比率Aの値(比率A/比率B)×100(%)を求め、これをイミド化率とする。
【0042】
一方、工程b)終了時に、ポリイミド前駆体フィルムに残存する溶剤の量(残存する溶剤の質量×100/ポリイミド前駆体フィルムの質量)は、1.0質量%以下であり、好ましくは0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下である。溶剤の残存量が1質量%を超えると、後述の工程d)でフィルムが収縮しやすくなり、面内位相差が低下する傾向にある。溶剤の残存量は、加熱終了後のポリイミド前駆体フィルムを電気炉型熱分解炉等で熱分解し、熱分解された成分を、ガスクロマト質量分析装置で分析して特定する。
【0043】
3.工程c)について
工程b)で加熱したフィルムを支持体から剥離する。剥離方法は特に制限されないが、フィルムに応力をかけない方法とする。その例には、フィルムの一旦を把持して、支持体から剥離する方法や、フィルムと支持体との積層体を、蒸留水中に浸漬する方法等がある。
【0044】
4.工程d)について
工程c)で支持体から剥離したフィルムの周囲、または端部を把持して、フィルムの両表面が加熱装置と接触しないように、固定する。フィルムの固定方法は、固定時、及び固定中にフィルムに応力がかからない方法であれば特に制限されない。フィルムが単葉状である場合、クリップ、ピン、テープ等の各種固定手段で、金型に固定する方法等でありうる。また、フィルムが、長尺状である場合には、
図1に示されるように、フィルム1の両端をテンタークリップ2等で把持する方法でありうる。
【0045】
工程d)において、フィルムを加熱する方法は、特に制限されない。例えば、単葉状のフィルムでは、フィルムが加熱装置と接触しないように、フィルムを金型等に固定したままオーブンに入れて加熱する。また、長尺状のフィルムは、例えば
図1に示されるように、フィルム1をテンタークリップ2等で把持したまま加熱炉10’内を移動させて加熱する。いずれの態様においても、
図2に示されるように、フィルム1を、加熱炉10’やオーブンのヒーター3等で両面から加熱することが好ましい。フィルム1内のポリイミド前駆体を十分にイミド化し、かつ溶剤を十分に揮発させるためである。
【0046】
工程d)では、加熱初期から加熱終了まで、一定温度としてもよいが、150℃以下の温度から、所望の温度まで徐々に上昇させた後、当該温度で一定時間保持することが好ましい。前述のように、ポリイミド前駆体は、150〜200℃でイミド化する。工程d)でも、フィルムの温度を、急激に200℃以上まで上昇させると、フィルム内の溶剤によって、フィルム内部に気泡が生じたり、フィルム表面が荒れるおそれがある。そこで、150〜200℃の温度領域における昇温速度を0.25〜50℃/分とすることが好ましく、より好ましくは1〜40℃/分であり、さらに好ましくは2〜30℃/分である。加熱温度の昇温方法は、工程b)と同様でありうる。
【0047】
工程d)では、得られるポリイミドのガラス転移温度以下の温度で、一定時間加熱する。加熱時の最高温度は、ポリイミドのガラス転移温度より5℃〜30℃低い温度であることが好ましく、ポリイミドのガラス転移温度より10〜20℃低い温度で加熱あることがより好ましく、ポリイミドのガラス転移温度より10〜15℃低い温度であることがさらに好ましい。工程d)における最高温度が、ガラス転移温度より高い温度であると、固定されたフィルムの自重によって伸びやすくなり、面内位相差が大きくなる。一方、加熱温度が低すぎると、フィルム中に残存する溶剤を十分に除去することが難しい。上記一定温度での加熱時間は、加熱温度、フィルムの厚み、ポリイミド前駆体のイミド化率、フィルム中の溶剤量等に応じて、適宜選択される。通常0.5〜2時間程度である。
【0048】
なお、工程d)においても、加熱雰囲気が200℃を超えると、ポリイミドが酸化されやすくなる。ポリイミドが酸化されると、フィルムが黄変し、フィルムの全光線透過率が低下する。そこで、工程d)における200℃を超える温度領域でも、(i)加熱雰囲気の酸素濃度を5体積%以下とする、もしくは(ii)加熱雰囲気を減圧することが好ましい。酸素濃度の調整方法や、減圧方法等は、工程b)と同様でありうる。
【0049】
工程d)終了時;つまり加熱終了時のフィルム中のポリイミド前駆体のイミド化率は98%以上であり、より好ましくは99%以上であり、さらに好ましくは100%である。イミド化率が98%を下回ると、ポリイミドフィルム使用時の熱でイミド化が進み、フィルムから水分が放出されるおそれがある。
【0050】
一方、工程d)終了時にポリイミドフィルムに残存する溶剤の量(残存する溶剤の質量×100/ポリイミドフィルムの質量)は、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下であり、検出限界値以下であることがさらに好ましい。溶剤の残存量が1.0質量%を超えると、ポリイミドフィルム使用時の熱によって、ポリイミドフィルムから溶剤が放出されるおそれがある。
【0051】
5.ポリイミド前駆体含有溶液について
工程a)で準備するテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させてなるポリイミド前駆体と溶剤とを含むポリイミド前駆体含有溶液は、特に制限されないが、得られるポリイミドフィルムの全光線透過率を高めるとの観点から、以下のポリイミド前駆体含有溶液(I)〜(III)のいずれかであることが好ましい。
【0052】
5−1.ポリイミド前駆体含有溶液(I)
ポリイミド前駆体含有溶液(I)には、テトラカルボン酸成分(A)と、ジアミン成分(B)とを反応させてなる含まれるポリイミド前駆体と、溶剤とが含まれる。ポリイミド前駆体含有溶液(I)に含まれるポリイミド前駆体の濃度は、5〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。ポリイミド前駆体の濃度が50質量%を超えると、ポリイミド前駆体含有溶液(I)の粘度が過剰に高くなり、支持体への塗布が困難となる場合がある。一方、5質量%未満であると、ポリイミド前駆体含有溶液(I)の粘度が過剰に低く、ポリイミド前駆体フィルムを所望の厚みに塗布できない場合がある。また、溶剤の乾燥に時間がかかり、ポリイミドフィルムの製造効率が悪くなる。
【0053】
5−1−1.テトラカルボン酸成分(A)
ポリイミド前駆体含有溶液(I)に含まれるポリイミド前駆体を構成するテトラカルボン酸成分(A)には、下記一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物が含まれる。テトラカルボン酸成分(A)には、一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物が一種類のみが含まれてもよく、また2種類以上含まれてもよい。
【化11】
一般式(a)中、R
1は、炭素数4〜27である4価の有機基を示す。R
1は、脂肪族基;単環式脂肪族基;縮合多環式脂肪族基;単環式芳香族基;縮合多環式芳香族基;環式脂肪族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基;芳香族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基でありうる。
【0054】
一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、特に芳香族テトラカルボン酸二無水物、または脂環族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましい。
【0055】
一般式(a)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、4,4'-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス[(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,3-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(2,3-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(2,3-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、4,4'-イソフタロイルジフタリックアンハイドライドジアゾジフェニルメタン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸二無水物、ジアゾジフェニルメタン-2,2',3,3'-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-チオキサントンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラキノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-キサントンテトラカルボン酸二無水物などが含まれる。
【0056】
一般式(a)で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物の例には、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸-6-酢酸二無水物、1-メチル-3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物などが含まれる。
【0057】
一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物にベンゼン環等の芳香環が含まれる場合には、芳香環上の水素原子の一部、もしくは全てが、フルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、およびトリフルオロメトキシ基等で置換されていてもよい。また、一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物にベンゼン環等の芳香環が含まれる場合には、目的に応じて、エチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、ニトリロ基、及びイソプロペニル基などから選ばれる架橋点となる基がテトラカルボン酸の構造中に含まれてもよい。特に、一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物には、成形加工性を損なわない範囲内で、ビニレン基、ビニリデン基、およびエチニリデン基などの架橋点となる基が、主鎖骨格中に組み込まれていることが好ましい。
【0058】
テトラカルボン酸成分(A)には、上記一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物以外に、ヘキサカルボン酸三無水物類、オクタカルボン酸四無水物類が含まれてもよい。これらの無水物類が含まれると、得られるポリイミドに、分岐鎖が導入される。これらの無水物類は一種類のみが含まれてもよく、また2種類以上が含まれてもよい。
【0059】
5−1−2.ジアミン成分(B)
ジアミン成分(B)には、下記の一般式(b−1)〜(b−3)で表されるジアミンが含まれる。ジアミン成分(B)には、下記の一般式(b−1)〜(b−3)で表されるジアミンが1種のみ含まれてもよく、また2種以上含まれてもよい。また、ジアミン成分(B)には、一般式(b−1)〜(b−3)で表されるジアミン以外のジアミン(b−4)が含まれていてもよい。
【化12】
【化13】
【化14】
【0060】
一般式(b−1)で表されるシクロヘキサジアミンのシクロヘキサン骨格には、以下の2種類の幾何異性体(シス体/トランス体)がある。トランス体は、下記一般式(Z−1)で示され、シス体は下記一般式(Z−2)で表される。
【化15】
【0061】
一般式(Z−1)におけるシクロヘキサン骨格のシス/トランス比は、50/50〜0/100であることが好ましく、30/70〜0/100であることがより好ましい。トランス体の割合が高くなると、一般的にポリイミド前駆体の分子量が増大しやすい。そのため、膜の強度が高まりやすく、前述の工程c)において、ポリイミド前駆体フィルムを剥離しやすくなる。
【0062】
ポリイミド前駆体に含まれるシクロヘキサン由来のユニットのシス/トランス比は、核磁気共鳴分光法によって測定される。
【0063】
一般式(b−2)で表されるノルボルナンジアミンのアミノメチル基の位置は特に制限されない。例えば、一般式(b−2)で表されるノルボルナンジアミンには、アミノメチル基の位置が異なる構造異性体や、S体、R体を含む光学異性体等が含まれてもよい。これらはどのような割合で含まれてもよい。
【0064】
一般式(b−3)で表される1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの1,4-ビスメチレンシクロヘキサン骨格(X)には、2種類の幾何異性体(シス体/トランス体)がある。トランス体は、下記一般式(X1)で示され、シス体は下記一般式(X2)で表される。
【化16】
【0065】
1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン由来のユニットのシス/トランス比は、40/60〜0/100であることが好ましく、20/80〜0/100であることがより好ましい。一般式(b−3)で表されるジアミンが構成成分に含まれるポリイミドのガラス転移温度は、上記シス/トランス比によって制御され、トランス体(X1)の割合が多くなると、ポリイミドのガラス転移温度が高まる。
【0066】
ポリイミド前駆体に含まれる1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン由来のユニットのシス/トランス比は、核磁気共鳴分光法によって測定される。
【0067】
ジアミン成分(B)には、上述の一般式(b−1)〜(b−3)で表されるジアミン以外の下記一般式で表されるジアミン(b−4)が含まれていてもよい。
【化17】
【0068】
一般式(b−4)において、R’は、炭素数4〜51の2価の基である。R’は、脂肪族基;単環式脂肪族基(但し、1,4−シクロヘキシレン基、下記一般式(X)で表される基、及び下記一般式(Y)で表される基を除く);縮合多環式脂肪族基;単環式芳香族基;縮合多環式芳香族基;環式脂肪族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基;芳香族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基でありうる。
【化18】
【0069】
上記一般式(b−4)で表されるジアミンの例には、ベンゼン環を有するジアミン、芳香族置換基を有するジアミン、スピロビインダン環を有するジアミン、シロキサンジアミン類、エチレングリコールジアミン類、アルキレンジアミン類、脂環族ジアミン類等が含まれる。
【0070】
ベンゼン環を有するジアミンの例には、
<1>p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのベンゼン環を1つ有するジアミン;
<2>3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、3,4'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタンなどのベンゼン環を2つ有するジアミン;
<3>1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジンなどのベンゼン環を3つ有するジアミン;
<4>4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン環を4つ有するジアミン;
<5>1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼンなどのベンゼン環を5つ有するジアミン;
<6>4,4'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4'-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4'-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホンなどのベンゼン環を6つ有するジアミンが含まれる。
【0071】
芳香族置換基を有するジアミンの例には、3,3'-ジアミノ-4,4'-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3'-ジアミノ-4,4'-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3'-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3'-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン等が含まれる。
【0072】
スピロビインダン環を有するジアミンの例には、6,6'-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3',3'-テトラメチル-1,1'-スピロビインダン、6,6'-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3',3'-テトラメチル-1,1'-スピロビインダン等が含まれる。
【0073】
シロキサンジアミン類の例には、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン等が含まれる。
【0074】
エチレングリコールジアミン類の例には、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス(2-アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル等が含まれる。
【0075】
アルキレンジアミンの例には、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等が含まれる。
【0076】
脂環族ジアミン類の例には、シクロブタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ジ(アミノメチル)シクロヘキサン〔1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを除くビス(アミノメチル)シクロヘキサン〕、ジアミノビシクロヘプタン、ジアミノメチルビシクロヘプタン(ノルボルナンジアミンなどのノルボルナンジアミン類を含む)、ジアミノオキシビシクロヘプタン、ジアミノメチルオキシビシクロヘプタン(オキサノルボルナンジアミンを含む)、イソホロンジアミン、ジアミノトリシクロデカン、ジアミノメチルトリシクロデカン、ビス(アミノシクロへキシル)メタン〔またはメチレンビス(シクロヘキシルアミン)〕、ビス(アミノシクロヘキシル)イソプロピリデン等が含まれる。
【0077】
5−1−3.ポリイミド前駆体
ポリイミド前駆体含有溶液(I)に含まれるポリイミド前駆体は、前述のテトラカルボン酸成分(A)と、前述のジアミン成分(B)とが反応してなるものであれば特に制限されないが、ポリイミド前駆体は、上記一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物と一般式(b−1)で表されるジアミンとのポリアミド酸ブロック(下記一般式(G)で表される)と、一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び、一般式(b−2)、(b−3)、または(b−4)のいずれかで表されるジアミンのポリイミドブロック(下記一般式(H)で表される)とが、結合したブロックポリアミド酸イミドが好ましい。
【化19】
一般式(G)及び(H)中、R
6及びR
8はそれぞれ独立に、炭素数4〜27の4価の基を示す。R
6及びR
8はそれぞれ独立に脂肪族基;単環式脂肪族基;縮合多環式脂肪族基;単環式芳香族基;もしくは縮合多環式芳香族基;環式脂肪族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基;芳香族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基でありうる。具体的には、上述の一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物におけるR
1と同様である。
【0078】
また、一般式(H)において、R
7は炭素数4〜51の2価の基を示す。R
7は脂肪族基;単環式脂肪族基(但し、1,4−シクロヘキシレン基を除く);縮合多環式脂肪族基;単環式芳香族基もしくは縮合多環式芳香族基;環式脂肪族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基;芳香族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基でありうる。具体的には、上記一般式(b−4)で表されるジアミンのR’と同様、もしくは下記一般式(X)または(Y)で表される基でありうる。
【化20】
【0079】
一般式(H)におけるR
7は、ノルボルナン類(上記一般式(Y)で表される基)であることが特に好ましい。すなわち、一般式(H)で表されるポリイミドブロックは、上述の一般式(b−2)で表されるジアミンを含むポリイミドのブロックであることが好ましい。
【0080】
式(G)と式(H)におけるmとnは、各ブロックにおける繰返し構造単位の繰返し数を示す。mの平均値とnの平均値はそれぞれ独立して、2〜1000であることが好ましく、5〜500であることがさらに好ましい。
【0081】
mとnの比率は、mの平均値:nの平均値=9:1〜1:9であることが好ましく、mの平均値:nの平均値=8:2〜2:8であることがより好ましい。式(G)で表される繰返し構造単位の繰返し数mの割合が一定以上であると、得られるポリイミドフィルムの熱膨張係数が小さくなる。また、繰返し数mの割合が一定以上であると、得られるポリイミドフィルムの可視光透過率が高まる。一方、シクロヘキサンジアミンは一般的に高価であるため、式(G)で表される繰返し構造単位の繰返し数mの割合を小さくすると、低コスト化が図られる。
【0082】
ポリイミド前駆体でありうるブロックポリアミド酸イミドに含まれる、式(G)で表される繰返し構造単位の総数と、式(H)で表される繰返し構造単位の総数との比は、(G):(H)=9:1〜1:9であることが好ましく、(G):(H)=8:2〜2:8であることがより好ましい。
【0083】
5−1−4.溶剤
ポリイミド前駆体含有溶液(I)に含まれる溶剤は、前述のテトラカルボン酸成分(A)及びジアミン成分(B)を溶解可能な溶剤であれば特に制限されない。例えば、非プロトン性極性溶剤または水溶性アルコール系溶剤等でありうる。
【0084】
非プロトン性極性溶剤の例には、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等;エーテル系化合物である、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどが含まれる。
【0085】
水溶性アルコール系溶剤の例には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジアセトンアルコールなどが含まれる。
【0086】
ポリイミド前駆体含有溶液(I)には、これらの溶剤が1種のみ含まれてもよく、また2種以上含まれてもよい。溶剤にはN,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、もしくはこれらの混合液が含まれることが好ましい。
【0087】
5−1−5.ポリイミド前駆体含有溶液(I)の調製方法
ポリイミド前駆体含有溶液(I)は、前述のテトラカルボン酸成分(A)と、前述のジアミン成分(B)とを、前述の溶剤中で反応させて得られる。溶剤中のジアミン成分(B)のモル数をx、テトラカルボン酸成分(A)のモル数をyとしたとき、y/xは0.9〜1.1であることが好ましく、0.95〜1.05であることがより好ましく、0.97〜1.03であることがさらに好ましく、0.99〜1.01であることが特に好ましい。テトラカルボン酸成分(A)と、ジアミン成分(B)とをこのような比率で重合することにより、ポリイミド前駆体の分子量(重合度)を適度に調整することができる。
【0088】
重合反応の手順に特に制限はない。例えばまず、撹拌機及び窒素導入管を備える容器を用意する。窒素置換した容器内に後述の溶剤を投入し、得られるポリイミド前駆体の固形分濃度が50質量%以下となるようにジアミンを加えて、温度調整して攪拌及び溶解させる。この溶液に、ジアミン成分(B)に対して、モル比率が1となるようにテトラカルボン酸成分(A)を加え、温度を調整して1〜50時間程度攪拌することにより、ポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体含有溶液(I)を得ることができる。
【0089】
ポリイミド前駆体をブロックポリアミド酸イミドとする場合には、例えば、アミン末端のポリアミド酸溶液に、酸無水物末端のポリイミド溶液を加えて、攪拌することによりポリアミド酸イミドを生成させればよい。ポリアミド酸のジアミンユニットには、シクロヘキサン含有ジアミン(前述の一般式(b−1)または(b−3)で表されるジアミン)が含まれることが好ましく;ポリイミドのジアミンユニットには、シクロヘキサン含有ジアミン以外のジアミン(前述の一般式(b−2)または(b−4)で表されるジアミン)が含まれることが好ましい。構造中にシクロヘキサンが含まれるポリイミド((b−1)または(b−3)で表されるジアミン)は、溶剤に溶解しにくいことがあるからである。ポリアミド酸は、前述の方法で製造する。
【0090】
5−2.ポリイミド前駆体含有溶液(II)
ポリイミド前駆体含有溶液(II)には、テトラカルボン酸成分(C)とジアミン成分(D)とを反応させてなるポリイミド前駆体と、溶剤とが含まれる。ポリイミド前駆体含有溶液(II)に含まれるポリイミド前駆体の量は、1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜45質量%である。ポリイミド前駆体の濃度が50質量%を超えると、ポリイミド前駆体含有溶液の粘度が過剰に高くなり、支持体への塗布が困難となる場合がある。一方、1質量%未満であると、ポリイミド前駆体含有溶液の粘度が過剰に低く、ポリイミド前駆体フィルムを所望の厚みに塗布できない場合がある。また、溶剤の乾燥に時間がかかり、ポリイミドフィルムの製造効率が悪くなる。
【0091】
5−2−1.テトラカルボン酸成分(C)
テトラカルボン酸成分(C)には、下記一般式(c−1)で表される脂肪族テトラカルボン酸二無水物、下記一般式(c−2)で表される脂肪族テトラカルボン酸、及び前記一般式(c−2)で表される脂肪族テトラカルボン酸の誘導体からなる群から選ばれる1種以上が含まれる。
【0092】
【化21】
一般式(c−1)中、R
2は炭素数4〜16の4価の脂肪族炭化水素基を示す。
【0093】
【化22】
一般式(c−2)中、R
3は炭素数4〜16の4価の脂肪族炭化水素基を示し、R
11〜R
14は、それぞれ独立に水素または炭素数1〜8の炭化水素基を示す。
【0094】
上記一般式(c−1)で表される脂肪族テトラカルボン酸二無水物の例には、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が含まれる。
【0095】
上記一般式(c−2)で表される脂肪族テトラカルボン酸、およびその誘導体の例には、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸や、これらのアルコールエステル類が含まれる。テトラカルボン酸成分(C)には、これらが1種類のみ含まれてもよく、2種類以上が含まれてもよい。
【0096】
テトラカルボン酸成分(C)には、上記脂肪族テトラカルボン酸二無水物、または脂肪族テトラカルボン酸及びその誘導体以外に、他のテトラカルボン酸やその誘導体が含まれてもよい。他のテトラカルボン酸やその誘導体の例には、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、エチレンテトラカルボン酸、3−カルボキシメチル−1,2,4−シクロペンタントリカルボン酸、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタンや、これらの誘導体が含まれる。テトラカルボン酸成分(C)に含まれる他のテトラカルボン酸成分の割合は、テトラカルボン酸成分(C)の全量に対して50モル%未満であることが好ましい。
【0097】
5−2−2.ジアミン成分(D)
ジアミン成分(D)は、6〜28の炭素原子を含む芳香族ジアミン化合物、または2〜28の炭素原子を含む脂肪族ジアミン化合物でありうる。
ジアミン成分(D)に含まれる芳香族ジアミン化合物の例には、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジトリフルオロメチルビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等が含まれる。
【0098】
ジアミン成分(D)に含まれる脂肪族ジアミン化合物の例には、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、シロキサンジアミン類等が含まれる。ジアミン成分(D)には、ジアミン化合物が1種のみ含まれてもよく、また2種以上含まれてもよい。
【0099】
5−2−3.溶剤
ポリイミド前駆体含有溶液(II)に含まれる溶剤の例には、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、p−クロルフェノール、m−クレゾール、2−クロル−4−ヒドロキシトルエン等が含まれる。ポリイミド前駆体含有溶液(II)には、溶剤が1種のみ含まれてもよく、また2種以上が含まれてもよい。
【0100】
5−2−4.ポリイミド前駆体含有溶液(II)の調製方法
ポリイミド前駆体含有溶液(II)は、前述のテトラカルボン酸成分(C)と、前述のジアミン成分(D)とを、3級アミン化合物の存在下、前述の溶剤中で反応させて得られる。重合方法は、例えば、特開2005−15629号公報に記載の方法と同様でありうる。
【0101】
3級アミン化合物の例には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、イミダゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン等が含まれる。
【0102】
3級アミン化合物の添加量は、前述のテトラカルボン酸成分1モルに対して3級アミン化合物を0.001〜1.0モルであることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.2モルである。
【0103】
5−3.ポリイミド前駆体含有溶液(III)
ポリイミド前駆体含有溶液(III)には、テトラカルボン酸成分(E)と、ジアミン成分(F)とを反応させてなるポリイミド前駆体と、溶剤とが含まれる。ポリイミド前駆体含有溶液(III)に含まれるポリイミド前駆体の量は、1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜35質量%である。ポリイミド前駆体の濃度が50質量%を超えると、ポリイミド前駆体含有溶液の粘度が過剰に高くなり、支持体への塗布が困難となる場合がある。一方、1質量%未満であると、ポリイミド前駆体含有溶液の粘度が過剰に低く、ポリイミド前駆体フィルムを所望の厚みに塗布できない場合がある。また、溶剤の乾燥に時間がかかり、ポリイミドフィルムの製造効率が悪くなる。
【0104】
5−3−1.テトラカルボン酸成分(E)
テトラカルボン酸成分(E)は、特に制限されず、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、または芳香族テトラカルボン酸二無水物でありうる。得られるポリイミドフィルムの全光線透過率の観点から、脂環基が含まれる脂肪族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましい。テトラカルボン酸成分(E)にはテトラカルボン酸二無水物が1種のみ含まれてもよく、また2種以上が含まれてもよい。
【0105】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物の例には、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)オクタ−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、1,3−シクロヘキサンビストリメリテート酸二無水物、1,4−シクロヘキサンビストリメリテート酸二無水物、1,2−シクロヘキサンビストリメリテート酸二無水物等が含まれる。
【0106】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシルフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、オクチルコハク酸二無水物、ドデシルコハク酸二無水物、オクチルマロン酸二無水物、ジメチレンビストリメリテート酸二無水物、トリメチレンビストリメリテート酸二無水物、テトラメチレンビストリメリテート酸二無水物、ペンタメチレンビストリメリテート酸二無水物、ヘキサメチレンビストリメリテート酸二無水物、オクタメチレンビストリメリテート酸二無水物、デカメチレンビストリメリテート酸二無水物、ドデカメチレンビストリメリテート酸二無水物、ヘキサデカメチレンビストリメリテート酸二無水物、メチレン−1,2−ビス(1,3−ジヒドロ−1,3−ジオキソ−5−イソベンゾフラニル)ジエーテル、プロピレン−1,3−ビス(1,3−ジヒドロ−1,3−ジオキソ−5−イソベンゾフラニル)ジエーテル等が含まれる。
【0107】
5−3−2.ジアミン成分(F)
ジアミン成分(F)には、下記一般式(f−1)で表されるフッ素含有ジアミンと、1,4−ジアミノシクロヘキサンが含まれる。
【化23】
一般式(f−1)中、R
4及びR
5はそれぞれ独立に、水素、−(CF
2)
n−CF
3、または−O−(CF
2)
n−CF
3を示し、nはそれぞれ独立に、0か〜7の整数を示す。
【0108】
一般式(f−1)で表されるフッ素含有ジアミンの例には、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−ベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメトキシ)−ベンジジン、2−トリフルオロメチル−ベンジジン、2−トリフルオロメトキシ−ベンジジン、2,2’−ビス(ペンタフルオロエチル)−ベンジジン、2,2’−ビス(ペンタフルオロエトキシ)−ベンジジン、2−ペンタフルオロエチル−ベンジジン、2−ペンタフルオロエトキシ−ベンジジン、2,2’−ビス(ヘプタフルオロプロパン)−ベンジジン、2,2’−ビス(ヘプタフルオロプロキシ)−ベンジジン、2−ヘプタフルオロプロパン−ベンジジン、2−ヘプタフルオロプロキシ−ベンジジン、2−ペンタフルオロエトキシ−ベンジジン、2,2’−ビス(ヘプタデカフルオロオクタン)−ベンジジン、2,2’−ビス(ヘプタデカフルオロオクタキシ)−ベンジジン、2−ヘプタデカフルオロオクタン−ベンジジン、2−ヘプタデカフルオロオクタキシ−ベンジジン等が含まれる。
【0109】
ジアミン成分(F)中に、上記一般式(f−1)で表されるフッ素含有ジアミンは、1種のみ含まれてもよく、また2種以上が含まれてもよい。ジアミン成分(F)中に、上記フッ素含有ジアミンは、5モル%以上含まれることが好ましく、より好ましくは10モル%以上95モル%以下である。
【0110】
一方、ジアミン成分(F)に含まれる1,4−ジアミノシクロヘキサンは、ジアミン成分(F)中に、フッ素含有ジアミンは、30モル%以上含まれることが好ましく、より好ましくは50モル%以上95モル%以下である。ジアミン成分(F)中に1,4−ジアミノシクロヘキサンが含まれると、得られるポリイミドフィルムの全光線透過率が高まり、ガラス転移温度が高まる。
【0111】
ジアミン成分(F)には、上記フッ素含有ジアミン及び1,4−ジアミノシクロヘキサン以外のジアミン化合物が含まれてもよい。他のジアミン化合物の例には、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラエチル−1,4−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,3−フェニレンジアミン、2,5−ジエチル−1,4−フェニレンジアミン、2,5−ジエチル−1,3−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、2,4,6−トリメチル−1,3−フェニレンジアミン、2,4,6−トリエチル−1,3−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ)ヘキサフルオロプロパン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、1
,3−ジ(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等が含まれる。
【0112】
5−3−3.溶剤
ポリイミド前駆体含有溶液(III)に含まれる溶剤の例には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン等が含まれる。ポリイミド前駆体含有溶液(III)には、溶剤が1種のみ含まれてもよく、また2種以上含まれてもよい。
【0113】
5−3−4.ポリイミド前駆体含有溶液(III)の調製方法
ポリイミド前駆体含有溶液(III)は、前述のテトラカルボン酸成分(E)と、前述のジアミン成分(F)とを、前述の溶剤中で反応させて得られる。重合反応は公知の方法とすることができ、例えば特開2002−327056号公報や、特開2002−167433号公報に記載の方法、国際公開第2009/107429号に記載の方法と同様でありうる。
【0114】
6.ポリイミドフィルムについて
前述の方法によって得られるポリイミドフィルムの全光線透過率は、80%以上であり、より好ましくは83%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。全光線透過率が80%以上であれば、透明性が必要とされる用途にポリイミドフィルムを適用できる。全光線透過率は、JIS−K7105に準じて、光源D65にて測定される値である。
【0115】
また、前述の方法によって得られるポリイミドフィルムの面内位相差は、10nm以下であり、好ましくは5nm以下、さらに好ましくは3nm以下である。ポリイミドフィルムの面内位相差が10nm以下であれば、ポリイミドフィルムを、ディスプレイ装置のパネル基板等に適用することができる。面内位相差は、光弾性定数測定装置により25℃、波長550nmの光で測定される値である。具体的には、光弾性定数測定装置でポリイミドフィルムの屈折率を測定し、屈折率が最大となる方向をX軸、このX軸に垂直な方向をY軸とする。そして、X軸方向の屈折率をnx、Y軸方向の屈折率をny、フィルムの厚みをdとしたときに、(nx−ny)×dで表される値を、面内位相差とする。
【0116】
得られるポリイミドフィルムの厚みは特に制限されないが、5〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。このような厚みのポリイミドフィルムとすると、各種ディスプレイ用のパネル基板等として利用可能である。
【0117】
7.ポリイミドフィルムの用途
本発明のポリイミドフィルムは、全光線透過率が高いため、ディスプレイ用のパネル基板に適用すると、装置からの光を効率的に透過させることができる。また、本発明のポリイミドフィルムは、面内位相差が非常に小さい。そのため、ポリイミドフィルムをディスプレイ用のパネル基板に適用すると、装置からの画像を鮮明に表示できる。このようなディスプレイの例には、タッチパネル、液晶表示ディスプレイ、有機ELディスプレイ等が挙げられる。
【0118】
タッチパネルは、一般的に、(i)透明電極(検出電極層)を有する透明基板、(ii)接着層、及び(iii)透明電極(駆動電極層)を有する透明基板からなるパネル体である。本発明のポリイミドフィルムは、検出電極層側の透明基板、及び駆動電極層側の透明基板のいずれにも適用できる。
【0119】
また、液晶表示ディスプレイ装置の液晶セルは、通常、(i)第一の透明板、(ii)透明電極に挟まれた液晶材料、及び(iii)第二の透明板、がこの順に積層された積層構造を有するパネル体である。本発明のポリイミドフィルムは、上記第一の透明板、及び第二の透明板のいずれにに適用可能である。また、液晶ディスプレイ装置における、カラーフィルタ用の基板にも、本発明のポリイミドフィルムは適用可能である。
【0120】
有機ELパネルは、通常、透明基板、アノード透明電極層、有機EL層、カソード反射電極層、対向基板がこの順に積層されたパネルである。本発明のポリイミドフィルムは、上記透明基板、及び対向基板のいずれにも適用できる。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0122】
実施例及び比較例では、ガラス転移温度、全光線透過率、面内位相差、イミド化率、及び溶剤の残存量を以下の方法で測定した。
1)ガラス転移温度(Tg)
実施例及び比較例で得られたポリイミドフィルムについて、島津製作所製TMA−50型にて温度25〜350℃の範囲における試験片伸びの測定を行った。得られた温度−伸び曲線の変曲点の接線の交点を、ガラス転移温度とした。試験片伸びは、昇温速度を5℃/分、単位断面積あたりの荷重を14g/mm
2として測定した。
【0123】
2)全光線透過率
実施例及び比較例で得られたポリイミドフィルムの全光線透過率を、日本電色工業製ヘーズメーターNDH2000を用いてJIS−K−7105に準じて、光源D65で測定した。
【0124】
3)面内位相差(R0)
実施例及び比較例で得られたポリイミドフィルムの面内位相差を、Uniopt社製光弾性定数測定装置PEL−3A−102CのX,Yモードで測定した。測定温度は25℃、測定波長は550nmとした。具体的には、光弾性定数測定装置でポリイミドフィルムの屈折率を測定し、屈折率が最大となる方向をX軸、このX軸に垂直な方向をY軸とし、X軸方向の屈折率nxと、Y軸方向の屈折率nyとを導き出した。そして、フィルムの厚みをdとしたときに、(nx−ny)×dで表される値を、面内位相差とした。
【0125】
4)イミド化率
実施例または比較例で作製したポリイミド前駆体フィルム、及びポリイミドフィルムのイミド化率は、以下のように算出した。なお、IR吸収スペクトルの測定は、FT-IR分光器((FT/IR 300E、日本分光社製)に、多重反射型赤外スペクトル測定装置(ATR PR0410-M 日本分光社製)を取り付けて行った。
【0126】
実施例または比較例で作製したポリイミド前駆体フィルム、及びポリイミドフィルムについて、それぞれIR吸収スペクトルを測定した。そして、それぞれのフィルムについて、1500cm
−1の吸収ピーク高さ(ベンゼン環のC=C伸縮振動によるピーク(基準))に対する、1370cm
−1の吸収ピーク高さ(イミド環のC−N伸縮振動)の比率Aを算出した。一方、各実施例及び比較例で作製したポリイミド前駆体フィルムと同一の組成を有するポリイミド前駆体フィルムを作製し、これを270℃で2時間以上加熱して、完全にイミド化させた。これらのフィルムについて、それぞれ、IR吸収スペクトルを測定し、上記と同様に1500cm
−1の吸収ピーク高さ(ベンゼン環のC=C伸縮振動によるピーク(基準))に対する、1370cm
−1の吸収ピーク高さ(イミド環のC−N伸縮振動)の比率Bを算出した。
そして、対応するフィルムの比率Bに対する比率Aの値(比率A/比率B)×100(%)を求め、これをイミド化率とした。
【0127】
5)溶剤残存量
実施例または比較例で作製したポリイミド前駆体フィルム、及びポリイミドフィルムについて、それぞれ残溶剤量を測定した。測定は、電気炉型熱分解炉(島津製作所製PYR−2A(熱分解温度 320℃))と、ガスクロマト質量分析装置(島津製作所製GC−8A(カラムUniport HP 80/100 KG−02))とを接続し、フィルム中に含まれる溶剤量を特定した。このとき、装置のインジェクタ及びディテクタ温度は200℃、カラム温度は170℃とした。
【0128】
実施例および比較例で用いた化合物の略称は、以下の通りである。
[ジアミン成分]
NBDA:ノルボルナンジアミン
14BAC:1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
[テトラカルボン酸成分]
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
[溶剤]
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0129】
(合成例1)
温度計、攪拌機、及び窒素導入管を備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、PMDA 39.7g(0.180モル)と、DMAc 130gとを加えて攪拌し、PMDAのスラリーを得た。一方、NBDA 27.8g(0.180モル)とDMAc 27.8gとの混合溶液を準備した。この混合溶液を、前記スラリー中に、温度を一定に保持しながら120分間かけて滴下した。その後、混合液を50℃で5時間攪拌し、ポリイミド前駆体含有溶液を得た。
【0130】
(合成例2)
温度計、攪拌機、窒素導入管、及び滴下ロートを備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、14BAC 15.7g(0.110モル)と、DMAc 192gとを加えて撹拌した。この混合液に、粉体状のBPDA 32.4g(0.110モル)を添加した。BPDAの添加後、120℃に保持したオイルバスに反応容器を5分間浴した。BPDAの添加から約3分後に、塩が析出したが、その後、速やかに溶解した。この混合液を室温でさらに18時間攪拌して、ポリイミド前駆体含有溶液を得た。
【0131】
(合成例3)
温度計、攪拌機、窒素導入管、及び滴下ロートを備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、14BAC 14.01g(0.099モル)、NBDA 1.7g(0.011モル)と、DMAc 189gとを加えて撹拌した。この混合液に、粉体状のBPDA 29.1g(0.099モル)及びPMDA 2.4g(0.011モル)を添加した。BPDA及びPMDAの添加後、120℃に保持したオイルバスに反応容器を5分間浴した。BPDA、PMDAの添加から約3分後に、塩が析出したが、その後、速やかに溶解した。この混合液を室温でさらに18時間攪拌して、ポリイミド前駆体含有溶液を得た。
【0132】
(合成例4)
温度計、攪拌機、及び窒素導入管を備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、ODA 10.0g(0.050モル)と、DMAc 119gとを加えて攪拌した。この混合液に、粉体状のPMDA 10.9g(0.050モル)を、温度を一定に保持しながら添加した。その後、混合液を50℃で5時間攪拌し、ポリイミド前駆体含有溶液を得た。
【0133】
(実施例1)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板上にドクターブレードで塗工し、ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜からなるポリイミド前駆体層を形成した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0体積%に制御し、オーブン内の雰囲気を30℃から300℃まで135分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに300℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬させて、ガラス基板からフィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は99%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は、0.5質量%であった。
【0134】
剥離後のフィルムを、ステンレス製の金属枠にカプトンテープで全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0体積%に制御した。オーブン内の雰囲気を30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらにを270℃で1時間保持して、膜厚28μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムはガラス転移温度(Tg)が290℃、全光線透過率が89%、面内位相差(R0)が0.1nm、イミド化率が100%であり、残溶剤量が0.3質量%であった。
【0135】
(実施例2)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板上にドクターブレードで塗工し、ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜からなるポリイミド前駆体層を形成した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、実施例1と同様に、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬させて、ガラス基板からフィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は98%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は、0.1質量%であった。
【0136】
剥離後のフィルムを、ステンレス製の金属枠にカプトンテープで全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0体積%に制御した。イナートオーブン内の雰囲気を30℃から250℃まで110分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに250℃で1時間保持して、膜厚30μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムはガラス転移温度(Tg)が260℃、全光線透過率が90%、面内位相差(R0)が0.3nm、イミド化率が100%であり、残溶剤は検出されなかった。
【0137】
(実施例3)
合成例3で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板上にドクターブレードで塗工し、ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜からなるポリイミド前駆体層を形成した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、実施例1と同様に、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬させて、ガラス基板からフィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は97%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は、0.1質量%であった。
【0138】
剥離後のフィルムを、ステンレス製の金属枠にカプトンテープで全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0体積%に制御した。イナートオーブン内の雰囲気を30℃から250℃まで110分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに250℃で1時間保持して、膜厚29μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムはガラス転移温度(Tg)が266℃、全光線透過率が89%、面内位相差(R0)が0.4nm、イミド化率が100%であり、残溶剤は検出されなかった。
【0139】
(実施例4)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板上にドクターブレードで塗工し、ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜からなるポリイミド前駆体層を形成した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、実施例1と同様に、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬させて、ガラス基板からフィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は98%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は、0.1質量%であった。
【0140】
剥離後のフィルムを、ステンレス製の金属枠にカプトンテープで全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0体積%に制御した。イナートオーブン内の雰囲気を30℃から260℃まで115分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに260℃で1時間保持して、膜厚30μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムはガラス転移温度(Tg)が260℃、全光線透過率が89%、面内位相差(R0)が5.8nm、イミド化率が100%であり、残溶剤は検出されなかった。
【0141】
(実施例5)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板上にドクターブレードで塗工し、ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜からなるポリイミド前駆体層を形成した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を5.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬させて、ガラス基板からフィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は98%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は、0.2質量%であった。
【0142】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープで全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を5.0%に制御した。イナートオーブンを30℃から250℃まで110分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに250℃で1時間保持して、膜厚32μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が261℃、全光線透過率が89%、面内位相差(R0)が0.5nm、イミド化率が100%であり、残溶剤は検出されなかった。
【0143】
(実施例6)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板上にドクターブレードで塗工し、ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜からなるポリイミド前駆体層を形成した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで24分かけて昇温(昇温速度10℃/分)し、さらに270℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬させて、ガラス基板からフィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は95%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は、0.4質量%であった。
【0144】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープを用いて、全周固定した。これをイナートオーブンに入れて、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御した。イナートオーブンを30℃から250℃まで22分かけて昇温(昇温速度10℃/分)し、さらに250℃で1時間保持して、膜厚31μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が260℃、全光線透過率が88%、面内位相差(R0)が0.4nm、イミド化率が100%であり、残溶剤は検出されなかった。
【0145】
(実施例7)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板に固定した宇部興産製のUPILEXフィルム(50S)上にドクターブレードで塗工した(工程a))。そして、ガラス基板、UPILEXフィルム、及びポリイミド前駆体層からなる積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルから、工程b)でイミド化したフィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は98%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は0.2質量%であった。
【0146】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープを用いて、全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御した。イナートオーブンを30℃から250℃まで110分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに250℃で1時間保持して、膜厚28μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が260℃、全光線透過率が87%、面内位相差(R0)が0.8nm、イミド化率が100%であり、残溶剤は検出されなかった。
【0147】
(実施例8)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板に固定したSUS304上にドクターブレードで塗工した(工程a))。そしてガラス基板、SUS板、及びポリイミド前駆体層からなる積層体(サンプル)をイナートオーブン内に入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルから、フィルムのみを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は99%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は、0.1質量%であった。
【0148】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープを用いて、全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御した。イナートオーブンを30℃から250℃まで110分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに250℃で1時間保持して、膜厚30μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が262℃、全光線透過率が85%、面内位相差(R0)が1.2nm、イミド化率が100%であり、残溶剤は検出されなかった。
【0149】
(実施例9)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板上にドクターブレードで塗工し、ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜からなるポリイミド前駆体層を形成した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を20%に制御し、30℃から180℃まで75分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに180℃で2時間保持した。その後、サンプルを減圧オーブンに移し、フルバキュームにて減圧度1kPa以下としてから、昇温を開始した。減圧オーブンを30℃から270℃まで60分かけて昇温(昇温速度4℃/分)し、さらに270℃で1時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬させ、フィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は95%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は、0.7質量%であった。
【0150】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープを用いて、全周固定した。これをイナートオーブンに入れて、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御した。イナートオーブンを30℃から250℃まで110分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに250℃で1時間保持して、膜厚35μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が260℃、全光線透過率が86%、面内位相差(R0)が0.5nm、イミド化率が100%であり、残溶剤は検出されなかった。
【0151】
(比較例1)
合成例3で調製したポリイミド前駆体含有溶液をガラス基板上にドクターブレードで塗工した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から300℃まで135分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに300℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬させ、フィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は95%であり、フィルム中の溶剤量(溶剤の残存量)は、0.8質量%であった。
【0152】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープを用いて、全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御した。イナートオーブンを30℃から300℃まで135分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに300℃で1時間保持して、膜厚33μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は検出されなかった。得られたポリイミドフィルムは、全光線透過率が78%、面内位相差(R0)が0.8nm、イミド化率が98%、残溶剤量が0.5質量%であった。
【0153】
(比較例2)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液をガラス基板上にドクターブレードを用いて塗工した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を10.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらにイナートオーブンを270℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬し、フィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は97%であり、残溶剤量は0.5%であった。
【0154】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープを用いて、全周固定した。これをイナートオーブン内に入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を10.0%に制御した。イナートオーブンを30℃から250℃まで110分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに250℃で1時間保持して、膜厚31μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が259℃、全光線透過率が79%、面内位相差(R0)が0.5nm、イミド化率が100%、残溶剤量が0.5質量%であった。
【0155】
(比較例3)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液をガラス基板上にドクターブレードを用いて塗工した(工程a))。作製したガラス基板及びポリイミド前駆体層からなる積層体を、イナートオーブン内に配置した。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から200℃まで85分かけて昇温(昇温速度2℃/分)した。さらにイナートオーブンを200℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬し、フィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は56%であり、残溶剤量は5.7%であった。
【0156】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープで、全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御した。イナートオーブンを30℃から250℃まで110分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに250℃で1時間保持して、膜厚30μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が258℃、全光線透過率が90%、面内位相差(R0)が80nm、イミド化率が88%、残溶剤量が1.5%であった。
【0157】
(比較例4)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液をガラス基板上にドクターブレードにて塗工した(工程a))。そして、ガラス基板及びポリイミド前駆体層との積層体(サンプル)をイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持した(工程b))。
加熱終了後のサンプルを蒸留水に浸漬し、フィルムを剥離させた(工程c))。得られたフィルムのイミド化率は98%であり、残溶剤量は0.1%であった。
【0158】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープを用いて、全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御した。イナートオーブンを、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で1時間保持して、膜厚30μmのポリイミドフィルムを得た(工程d))。得られたポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が260℃、全光線透過率が88%、面内位相差(R0)が12nm、イミド化率が100%、残溶剤は検出されなかった。
【0159】
【表1】
【0160】
表1に示されるように、工程b)にて、ポリイミド前駆体のイミド化、及び溶剤の乾燥を十分に行い(イミド化率90%以上、溶剤残存量1質量%以下)、さらに工程d)にてガラス転移温度以下で加熱した場合には、得られたポリイミドフィルムの面内位相差が10nm以下であった(実施例1〜9)。ただし、工程d)にて、ポリイミドのガラス転移温度と同温度で加熱した場合(実施例4)には、若干面内位相差が大きくなった。
【0161】
これに対し、工程b)にてポリイミド前駆体のイミド化、及び溶剤の乾燥を十分に行わなかった場合(比較例3)には、面内位相差が非常に大きくなった。比較例3では、工程d)にて、溶剤の乾燥に伴いフィルムが収縮しようとしたものの、フィルムの周囲が固定されていたために収縮できず、フィルムに応力がかかり、面内位相差が悪化したと推察される。
【0162】
また、工程d)にてポリイミドのガラス転移温度以上に加熱した場合(比較例4)にも、面内位相差が大きかった。比較例4では、工程d)にてフィルムに応力がかかったために、面内位相差が悪化したと推察される。
【0163】
また、ポリイミドの主鎖に、脂環族が含まれる場合には、全光線透過率が高かった(実施例1〜9、比較例3、及び4)。これに対し、全芳香族のポリイミドフィルム(比較例1)では、全光線透過率が低かった。また、ポリイミドの主鎖に、脂環族が含まれていたとしても、ポリイミド前駆体の加熱時の酸素濃度が5体積%を超える場合(比較例2)には、全光線透過率が低下した。加熱時に、ポリイミドが酸化されてしまい、ポリイミドフィルムが黄変したと推察される。